== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
顔岩の避難所へ走りながら、全員が気付く。
「音が止んだ……」
さっきからしていた戦闘による破壊音や爆発音が消えている。
それは、あまりに不気味で異様だった。
ヤクトが上空を指差す。
「人が浮いてる!」
空には短髪のオレンジの髪に赤い雲をモチーフにした外套を着た男が浮いていた。
そして、そこを中心に何かが噴き上がった。
第76話 ヤオ子の居場所・崩壊編
ペイン・天道の神羅天征……。
強力な斥力がペイン・天道を中心に外へ広がる。
里にある建物全てを巻き込み瓦礫と変えて……。
「拙い!」
一瞬の判断。
死に繋がる直感が思考のあらゆる工程を飛ばして行動に移す。
ヤオ子の両手から強力なチャクラ吸着が子供達に伸び、強引に引き寄せると叫ぶ。
「あたしにしっかり捕まって!」
ヤクトがヤオ子の腰に捕まり、男の子は右足へ。
そして、女の子は左足へ。
前から迫り来る衝撃波に対抗するために影分身のヤオ子が前に出て印を結ぶ。
続く、ヤオ子も遅れて印を結ぶ。
「耐えられるんですか!?」
神羅天征の衝撃波とぶつかる前に飛んでくる瓦礫が襲い来る。
影分身のヤオ子が両手に盾も形成せずに両手を合わせて必殺技の相乗効果を引き出す。
全てのチャクラを術に還元して、大爆発のパワーに回して自爆する。
これにより、正面の巨大な瓦礫を粉砕した。
続いて、本体のヤオ子が術を発動する。
自分と子供達に当たる破片を減らすべく、右手、左手と順番に必殺技の爆発を起こす。
(破片は、どうにかなった!?)
そして、神羅天征の直撃が迫る。
両手を突き出したまま、チャクラの盾で直接の接触を防ぐ。
「お姉ちゃん!
浮いてる!」
(力が強過ぎる!
足が浮いて来た!
チャクラ吸着なんかじゃ耐えられない!)
ヤオ子と子供達三人分の体重を楽々と吹き飛ばす力。
この力を緩和するには、まだ足りない。
「左足にしがみ付いて!」
ヤオ子が男の子に叫ぶと、男の子は女の子と一緒にヤオ子の左足にしがみ付いた。
ヤオ子が右足を蹴り上げる。
まだ飛んで来る破片をガイに貰って装備した重りで弾く。
「ガイ先生の重り!
本当に役に立ちます!」
空中で何処までも飛ばされながら、瓦礫を右足で蹴り飛ばし両手のチャクラの盾で子供達を守る。
そして、全てが弾けて視界に光が広がった。
…
子供達が意識を取り戻す。
体はあちこち痛いが、どれも大怪我に繋がる感じはしない。
そして、必死にしがみ付いていた手を放し、視界に広がる里が目に入る。
「こんなことって……」
辺りに見慣れた木ノ葉の里はない。
爆発で抉れた地面が何処までも続くだけだった。
自然と目から涙が零れる。
「何だよ…これ……。
何なんだよ!」
男の子が叫んだ。
そして、男の子が説明を求めようとヤオ子に振り返る。
「!!
ヤクトのねーちゃん!」
全員がヤオ子を見る。
ヤオ子のもたれ掛かる壁に上から血が擦れて下に続いてた。
ヤオ子は呼ばれて、ようやく意識を取り戻した。
「皆……。
大丈夫ですか……?」
「ボク達なんかよりも……。
お姉ちゃん!
怪我してるよ!」
「ああ……。
背中で受け身を取ったから……」
「背中って……」
ヤクトが血の付いた瓦礫を見る。
受け身なんて取れるような平らなものではない。
何より、崩れた瓦礫が柔らかいわけもない。
「ボク達を庇って……」
「ねーちゃん……」
「ヤクト君のお姉ちゃん……」
「何て顔をしているんですか?
皆、生きてるじゃないですか……」
ヤオ子が膝に手を置き、無理に立ち上がる。
「っ!」
(背中が……。
それにこの濡れた感覚……。
明らかに血……。
・
・
でも、何で、助かったんだろう……。
あの衝撃は死んでもおかしくないのに……)
ヤオ子は子供達に目を向けて気付く。
「あたし達の前に…瓦礫がない……。
どうして……。
盾を形成しただけなのに……」
女の子がヤオ子のミニスカートを引っ張る。
「私、見たよ……。
ヤクト君のお姉ちゃんの盾が変わったの」
「盾が……変わった?」
「うん。
大きく広がった盾が噴水みたいになってた」
「噴水か……。
盾にチャクラを無理に注いだから、
それで飛んで来た瓦礫が盾を滑って反れたんだ……。
・
・
この形態変化……。
先があったんですね……。
・
・
じゃあ、背中が完全に潰れなかったのは……?
思い出した……。
カウンター対策用で修行していた必殺技の応用……。
無意識に背中で盾を形成したんだ……。
・
・
でも……。
盾じゃクッションにならない……。
発生させるならチャクラ吸着だったか……。
いや、無理です……。
・
・
ヒソカのバンジーガムじゃないんだから……」
ヤオ子は、ふらりと眩暈を覚える。
「治療しないと……」
ヤオ子が振り返り、さっきまで寄り掛かっていた瓦礫を見る。
(この出血量……。
もたもたしてたら、失血死ですね)
「お姉ちゃん……」
ヤクトが心配して近づくと、ヤオ子は無理して笑って見せる。
(ここでこの子達を放っといたら、一生負い目に思うでしょうね……。
なら、ここで借りを返させておきましょう……。
言葉もいつも通りに……弱気は伝染します)
ヤオ子は深呼吸をすると、子供達に目を向ける。
「皆……。
今から、治療します。
手伝ってくれますか?」
「うん!」
「オレも!」
「私も!」
ヤオ子は腰の後ろの道具入れから巻物を取り出す。
そして、巻物を広げると印を結び、薬草と治療道具一式を口寄せした。
「これを使います」
子供達が頷く。
ヤオ子は藍色のシャツを脱ぎ、胸と背中を覆っていたサラシを外す。
ヤクトと男の子が目を逸らすのを見ると、ヤオ子は自分の胸に目を移す。
(普段ならエロいネタの一つでもするんですが……。
そんなことをしている余裕もないですね……)
ヤオ子は外したサラシを胸に抱くと、女の子がヤクトと男の子に合図を送る。
無事に変態の仲間入りすることがなくなってホッとするヤクト達。
ヤオ子は質問する。
「背中……どうなってますか?」
「石とか刺さってる……」
「まず、目に見えるものを抜いてください。
その後、口寄せしたペットボトルの水で傷口を洗い流してください」
ヤクトが、そっとヤオ子の背中に刺さる石に触れる。
「っ!」
「大丈夫?」
「い、一気にお願いします。
出血を止めないと死んじゃいます」
ヤクトが決心して石を掴み、ゆっくりと引き抜く。
その尋常ならぬ痛みに、ヤオ子は声を押し殺して我慢する。
一方のヤクトも見ているだけで痛みが伝わりそうで、泣きそうになるが我慢する。
そして、目に見える石は取り除かれた。
「血は、まだ出てますか……?」
「うん……」
「当然か……。
次に口寄せしたペットボトルの水で、傷口を洗い流してください」
「し、しみるよ!?」
「が、我慢します!」
ヤオ子は痛いのを覚悟して歯を食い縛る。
そして、一拍置いて、女の子がゆっくりと水を掛けていく。
「~~~っ!!!」
ただ水で流しただけでも、背中に広がる痛みは声を失わせる。
やがて、血が流されて傷口が露出した。
「こ、細かい石の排除をお願いします!」
ヤオ子は涙目で脂汗を浮かべていた。
そして、子供達がピンセットで目に付いた石や破片を全て取り除いてくれた。
「少し楽になった……」
「血も止まって来たよ」
「そうですか……。
次なんですけど……」
「……やっぱり、これ?」
男の子が液体の消毒薬を見せる。
「はい……」
「じゃあ、いくよ」
男の子が背中に掛けようとすると、ヤオ子は振り返る。
「ストップ!
覚悟を決めさせてください!」
ヤオ子は数回深呼吸を入れ、握っているサラシを更に強く握る。
「お、お願いします」
ヤオ子は歯を食い縛る。
そして、ゆっくりと傷口に消毒液が掛けられた。
「~~~っ!!!
~~~っ!!!
~~~っ!!!」
女の子が脱脂綿で流れ落ちる消毒液を拭き取り、更に届かなかったところへと塗りつける。
「~~~っ!!!
~~~っ!!!
~~~っ!!!
・
・
あたし、お姉ちゃんだけど……泣いていい?」
子供達が頷くと、ヤオ子は涙を流した。
「次にガーゼを置いて薬草を……。
薬草は口で噛んで吐き出して、ガーゼの上に」
「何の薬草なの?」
「前に猫さんを助けた時に使用した薬草です。
効き目は抜群です。
・
・
口に入れる前に歯磨いてうがいしてね」
注文の多い患者に子供達は素直に従い、歯を磨きうがいをすると薬草を口に含んだ。
「苦い!」
「不味い!」
「キツイ!」
「「「ウリリリイイイィィィ!!!」」」
(ジョジョ化?)
ヤオ子の疑問を無視して、ヤオ子の背中に薬草が乗っかった。
ヤオ子が新しいサラシを巻き直す頃、背中がポカポカしてきた。
「治療完成です。
皆、ありがとう」
「よかった……」
「死なないよな?」
「死にませんよ」
ヤオ子は微笑みながら、藍色のシャツに袖を通す。
「今のは、忍のDランク任務並みでした。
お見事でした」
ヤオ子の評価に、子供達が笑い合う。
「さて。
幸か不幸か顔岩まで飛ばされましたね」
ヤオ子の視線に、皆が顔岩を見上げる。
「ここから別行動です」
「「「え?」」」
ヤオ子は薬草を口寄せする巻物を確認する。
巻物には本来有るべき場所にあった忍字が消え、いくつか空白になっている箇所があった。
(あたし以外にも使ってますね。
サクラさんか?
いのさんか?
・
・
だけど、ストックは、まだまだありますね)
ヤオ子が余った薬草と治療道具を巻物を使って元に戻し、それをヤクトに渡す。
「アカデミーの子に頼んでいいか分かりませんが、
頼まれてくれますか?」
ヤオ子の真っ直ぐな目に、子供達が責任を理解して頷く。
「今から、この巻物の中身を口寄せする印を教えます。
きっと、木ノ葉病院も壊れて薬が足りていないはずです。
まず、顔岩の隠し部屋に行ってください。
そして、そこの医療忍者さんにこの巻物と印を渡してください」
子供達が頷く。
「あたしは人命救助します」
「お姉ちゃんも救助される側でしょ!」
「そうも言っていられません」
ヤオ子が爆発の中心を指差す。
「敵とナルトさんが戦いを始めています」
ヤオ子の指差す方に、子供達が目を凝らす。
「よく見えるね……」
「人が居るのしか分からない……」
「だらしないですね。
あたしは反対側の壁の落書きまで見えますよ?」
「「「ハァ!?」」」
「『伊達監督!』って書いてあります」
「…………」
ヤオ子の覗きで培った変態能力……白眼要らず。
「大丈夫なのかもしれない……」
「心配するほどのことじゃないのかも……」
「人間じゃないからって無理しないでね」
「人間ですよ……」
ヤオ子は気を取り直すと、両手と両足の重りを外す。
怪我をして体力の落ちた今、両手両足の重りは完全な足枷にしかならなかった。
外された重りのうち、右足の重りだけは瓦礫を蹴り砕いてへしゃげていた。
「じゃあ、行動を開始しましょう」
男の子がヤオ子に話し掛ける。
「ねぇ!
あれ、しよう!」
「ん?」
「ホラ!
忍者の隊長が行動起こす時にやる『散!』ってヤツ!」
「いいですね」
「オレ、ヤクトのねーちゃんのノリのいいところが好きだ!」
「ノリが良過ぎる気もするけど……」
ヤオ子が笑顔で手をあげる。
「じゃあ、行きますよ!
・
・
散!」
子供達は顔岩に走って行く。
ヤオ子は、こんな時でも明るい子供達に笑顔を浮かべる。
「えへへ……。
やっぱり、この里の子はいいですね。
皆が居れば、里は復活できる気がします。
・
・
サスケさんとの約束……守れなかったな」
ヤオ子が頭を掻く。
「まあ、後で建て直して誤魔化すか……。
久しぶりに戻って来るんだから、
里の外観が変わっても不思議じゃないし。
・
・
大事なのは、物じゃありません!
人です!
木ノ葉の人!
あたし達が居ることが重要です!
ここがあたしの居場所です!
決して自分に言い聞かせているわけではありません!
言い訳じゃ、ありませんよ!」
「…………」
ヤオ子は、暫し沈黙するとその場を後にした。