== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
子供達と走るヤオ子に影分身の経験値が還元される。
ヤオ子が走りながら、ヤクト達に経過を伝える。
「巨大百足を倒しました」
「?」
子供達は、ヤオ子のことを不思議な顔で見る。
ヤオ子の報告は、影分身の情報が還元されないヤクト達には分からない。
ヤオ子は補足する。
「影分身の特性です。
術が解けると情報が本体に返るんです」
「ヤクトのねーちゃん、すげェーっ!
あのでかいの倒したんだ!?」
「中忍さんが助けに来てくれました」
「先に言ってよ……」
「そうでしたね」
顔岩へと走る子供達に少し余裕が戻った。
里は、今だ攻撃を受けていたが、一番最初に刻まれた恐怖は解かれたようだった。
第75話 ヤオ子の居場所・避難編
ヤオ子達の後方を新たに出した影分身が警戒する。
ヤオ子達も里の一般人に遅れて顔岩へと急ぐ。
「里が……」
走り続けて光景が変わった。
ヤクトから凄惨な状態の里に思わず言葉が漏れた。
走る先は見慣れた光景ではなく、建物には皹が入り、酷い所は崩壊している。
「一体、どれだけの敵が入ったんだろう?」
「うん。
私…怖い……」
ヤオ子は、不安がるヤクトと女の子を見る。
そして、ヤクトの言った通り敵の人数が気になる。
ヤオ子は自分の予想と気に掛かることを口にする。
「敵は、多くないのかもしれませんね。
第一波の攻撃から、同じ攻撃が来ていません。
きっと、もう木ノ葉の忍者さんと交戦しているのでしょう。
また、前回の木ノ葉崩しと比べて、全然、敵が見えません」
「じゃあ、直ぐに終わるの?」
「分かりません。
ただ、木ノ葉の里に直接攻撃を仕掛けるのですから、個々の戦闘力が高いのかもしれません。
さっき交戦した口寄せ動物は、かなり強かったです」
ちなみに、そのとんでも動物をサクラは怪力で一発KOしている。
「契約している口寄せ動物に隠し玉があるのかもしれません」
「じゃあ、木ノ葉がなくなっちゃうの?」
「そんなに極端に走らないでください。
『まだまだ油断出来ないですよ』と言いたいだけです。
・
・
あたし達は、未熟な忍者の卵と下忍ですからね」
「そうだね」
「忘れてた」
「気を引き締めます」
ヤオ子は、ヤクト達に微笑むと先に進む。
しかし、内心は子供達同様に不安だった。
ヤオ子自身も強がりを言わなければ不安だった。
そして、目のいいヤオ子が先に発見する。
(死体?
でも、おかしい……。
外傷がないのに死んでるなんて……。
・
・
こんなの見せたら、ヤクト達の足が止まる)
ヤオ子は、辺りを見回す。
そこに巨大な石柱が四本出現し、巨大な犬のような動物を雷遁で縛った術を使ったと思われる動物の面を付けた忍が確認できる。
ヤオ子は、ワザと指差す。
「急いでますけど、少し注目しましょう。
暗部の人の術なんて滅多に見れませんから」
「お姉ちゃん……。
そんなことしてる場合?」
「でも、あれだけ大きな口寄せ動物を拘束する術ですよ?
チャクラ量や規模を考えるだけでも、優秀な忍になるための勉強になります。
忍者になった以上、上を目指したくありませんか?」
ヤオ子は話し掛けながら暗部の忍が使った忍術に目を向けさせて、奇妙な死体の側を気づかさずに通り過ぎる。
男の子がヤオ子に話し掛ける。
「ヤクトのねーちゃんの術も凄かったけど。
あんなにでかいの見せられると霞むな……」
「そうですね。
あたしは、あんな凄い忍術を身につけていませんからね」
全員の視線の前で、巨大な豚をモチーフにした岩石が落ちた。
「…………」
全員、言葉を失くす。
「あれ……。
どうやって、躱すの?」
「死ぬって……」
「空中から落ちた……」
「無駄な術に感じるのは、何でだろう?」
「「「え?」」」
ヤオ子の言葉に、ヤクト達に疑問符が浮かぶ。
「H×Hにもあったんですけど……。
ゲンスルーと戦う時に……。
あんなの術に使ってちゃダメです。
チャクラが勿体ない」
「じゃあ、どうするの?」
「巻物で口寄せするんですよ。
そっちの方が楽だし。
チャクラも、あまり使いません」
「「「なるほど」」」
「ただ、回避できないのは確かですね。
あたしの術で粉砕するなら何発も撃たなきゃいけないし、
撃ってるうちに潰されます」
「結局、どっちなの?
褒めてんの?
貶してんの?」
「どっちですかね~。
少なくとも、あたしだったら習得しません。
さっきの石柱も雷遁で口寄せ動物を縛ってたみたいですけど、
雷遁と土遁の組み合わせが相性としていいか微妙です」
「そうか……。
術の相性で言えば、隣り合ってるね」
「はい。
それに昔から、雷の力は土に弱いって言うのが相場です。
あたしは、未だに性質変化の強弱関係で、
土と雷は逆じゃないかって思う時があります」
「何で?」
「スーパーフェニックスが電気の力を土に封印していました」
「何それ?」
「それに雷が落ちても地面に吸収される例をよく聞きません?」
「それは聞いたことがあるかも……」
「でしょ?
それにイワークとピカチュウじゃ、ピカチュウの方が──」
「お姉ちゃん!
分からない!
時々、変な名前が入ってる!」
「変じゃないですよ。
知らない?」
ヤクト達は分からないと首を振る。
「はて?
そうなるとあたしの拾って来る漫画は、何処で売られてたんだろう?」
「何でもかんでも拾わないでよ。
恥ずかしいな……」
「あはは……。
ごめんね」
ヤオ子は笑って誤魔化すと、辺りをこっそりと確認する。
妙な死体は、もう見当たらない。
ただ、里の壊れ方は、前回の木ノ葉崩しと大きく違う。
木ノ葉崩しの時は、ここまで火薬は使われなかった。
しかも、飛んで来たのはミサイルだ。
ヤオ子は、何処か現実味のないSFの世界にでも迷い込んだ気になる。
だけど、これは現実に起きていることなのだ。
(この壊れ方……。
前回よりも、嫌な感じがします……。
子供達の手前、視線を逸らさせましたが、
倒れている忍者さんの死に方でおかしなものが混ざっていました。
・
・
外傷がないのに動かない……。
口寄せする動物は、兎も角……。
呼び出した敵には、出くわしたくないと言うのが本音です。
あたしじゃ、相手にならない)
ヤオ子が警戒を強める。
そして、口寄せ動物が目に入る。
「また百足だ!」
「どうするの!?
今度は、前に居るよ!」
ヤオ子は、静止を掛ける。
「大丈夫です。
倒し方の分かった敵なんて、ただでかいだけです」
子供たちを残し、ヤオ子は巨大百足に向かう。
辺りを見回し、巨大百足の頭までの高さの建物を探す。
(あの電柱!)
方向を変え、一気に電柱を駆け上がり、てっぺんでクナイを四本指に挟む。
そして、一寸の狂いもない投擲が、巨大百足の二番目の間接に刺さる。
ヤクト達が電柱を見上げた時にはヤオ子の投擲が終わって、ヤオ子は印を結んでいた。
そして、ヤオ子が電柱を蹴った瞬間に、再びヤクト達はヤオ子の姿を見失う。
巨大百足の首で爆発が起こると、ヤオ子は音もなくヤクト達の前に降り立った。
「巨大百足は見つけ次第、駆除します。
気付いたら教えてね♪」
ヤクト達は、呆気に取られたまま頷いた。
男の子がヤクトに話し掛ける。
「お前のねーちゃん……。
本当に下忍なのか?」
「うん……。
本人は、いつも未熟だって言ってる……」
「私達……。
下忍になれるのかな……」
下忍にしては身体能力の高いヤオ子に、忍者の卵達は自分達の将来が不安になった。
…
移動しながらの巨大百足の駆除。
ヤオ子は、あれから二体の巨大百足を葬っている。
そして、それ以外は全力で弟達と逃げている。
「お姉ちゃん。
倒せる敵意外は無視なんだね……」
「当たり前ですよ……。
何が楽しくて、あんな得体の知れない巨大生物を相手にしなければいけないんですか……」
「さっきの術じゃダメなの?」
「あたし達、避難しているんですよ?
何で、積極的に関わるんですか?」
「だって、結構、楽に倒してたよ」
「楽じゃないです。
中忍さんと戦って、倒し方を知っているからです。
・
・
それ以外の口寄せ動物には対応策がないんです。
下手に怒らせてこっちに来たら、どうするんですか?」
「う~ん……。
お姉ちゃんが囮になって、ボク達が逃げる?」
ヤオ子は憤慨する。
「却下!
あんた、何、恐ろしいことを言ってんですか!
ドSに目覚めたの!?」
「いや……。
以前、サスケさんがいざとなったらって……」
「あの人、碌なことを教えてないですね……」
「お姉ちゃんは、木から落ちても傷つかない鉄女だから大丈夫だって」
「鉄女!?
何それ!?
聞いたことないですよ!?」
男の子と女の子は、ヤオ子とヤクトの会話を聞いてクスクスと笑っている。
何だかんだで顔岩が近づいて来た。
「もう、話さなくていいです……。
この分じゃ、他にも何を吹き込まれているか……。
あんまり、ゆっくりもしていられないし、急ぎましょう。
・
・
ん?」
「…………」
全員が立ち止まり固まる。
何か居る……。
「これって……」
「いぃぃぃやぁぁぁーーーっ!」
女の子が叫んだ。
「あの大人しい子が……。
まあ、分からなくもないです。
ヤクトも友人の男の子も絶句しています」
そこには綱手の口寄せ動物・蛞蝓のカツユが居た。
分裂して人数分四匹。
普通の蛞蝓に比べて……まあ、分裂しても女の子なら絶叫するぐらいでかい。
しかし、ヤオ子は、気にせずにカツユを掴む。
「お久しぶりです」
「こんにちは」
蛞蝓とコミュニケーションを図る姉。
余り見たくない光景である。
「やっぱりさ……。
ヤクトのねーちゃん、おかしいって……。
蛞蝓掴んで話し掛けてるよ……」
「でも、ボクの聞き間違いかな?
蛞蝓も言葉を返したような……」
「見間違いじゃない……。
私も見た──いや、聞いた……。
しかも、意外と可愛い声だった……」
ヤオ子とカツユの会話は続く。
「この前のお野菜は、どうでしたか?」
「新鮮で美味しかったです」
「そうですか。
良かったです。
実家は八百屋なのに、農家のおじさんに貰い過ぎちゃって。
うちに差し入れするわけにもいかないし、
一人じゃ食べきれないから、カツユさんがお野菜大好きで良かったです」
「いえいえ。
こちらこそ。
今度、お礼しますよ」
子供達が頭を悩ます。
「異文化コミュニケーションも、ここまで来ると何も言えないね」
「ヤクトのねーちゃんなら、
もう、何でも有りなんじゃない?」
「さっきまで尊敬できるところもあったのに……。
その人が巨大蛞蝓を素手で掴んでる……」
ヤオ子は顔を顰めて言い返す。
「失礼ですねぇ。
カツユさんは凄い方なんですよ。
戦闘も出来るし、綱手さんのチャクラを通すことが出来て治癒も出来るんです」
ヤオ子が残り三匹のカツユの分身も抱きかかえる。
「可愛いでしょ?」
「…………」
「何て言えばいいんだ……」
「可愛いのか?」
「何でだろう?
ヤクト君のお姉ちゃんが普通に持ってるから、
段々、違和感がなくなって来た……」
「撫でてみる?」
子供達は顔を見合わせ、恐る恐るカツユを撫でる。
「…………」
「意外と平気だね」
「「うん」」
カツユに対する不信感が取り払われたところで、ヤオ子がカツユに質問する。
「ところで。
何のご用ですか?」
「うっかりしていました。
里に敵が侵入してます」
「遭遇しました。
ただし、口寄せ動物さんです。
顔岩に向かおうとしたので……ご臨終して貰いました」
「助かります。
相手は、暁ですから」
「「「「暁?」」」」
「皆さん、下忍とアカデミーの方でしたね」
「はい」
「じゃあ、詳細を知らなくても仕方ありません」
「知っているのは、アスマさんの時に聞いた噂ぐらいですね。
・
・
強いんですか?」
「はい。
油断できません。
里の忍にも犠牲者が多数出ています」
(……拙いんじゃないかな?)
ヤオ子は軽く手を上げる。
「質問です。
上忍の方もやられているんですか?」
「はい」
「…………」
ヤオ子は状況を考えると呟く。
「逃げるしかありませんね……」
「「「え?」」」
「戦わないの?」
「戦えないの!」
「私も、ヤオ子ちゃんに賛成です。
下忍では役に立ちません」
「…………」
役に立たないと言われ、落ち込む子供達にヤオ子が説明する。
「前に聞いたんですけどね。
カツユさんの術って、綱手さんのチャクラを分配するんです。
つまり、あたし達が居なければ、中忍さんや上忍さんに、より多くのチャクラを送れます。
そして、綱手さんを助けることになります。
・
・
これが、今のチームワークです」
「…………」
ヤオ子がカツユを地面に置く。
「カツユさん、説明しに来てくれたんですよね?」
「はい。
それと里に残っている人間の確認です。
里に残っている人間に私を付けてサポートします」
「じゃあ、あたし達は、このまま顔岩へ行きます。
・
・
皆、いいですか?」
「「「うん……」」」
ヤオ子は大きく息を吸う。
「声が小さい!
カツユさんにお礼!」
「「「あ、ありがとうございました!」」」
子供達に無理やり元気を出さすと、ヤオ子はしゃがみ込んでカツユに小声で話す。
「あたしが、このまま子供達を顔岩まで連れて行きます」
「はい」
「カツユさんは、他の忍者さんにより多くのチャクラを」
「ヤオ子ちゃん……。
ありがとう」
「綱手さん……。
無理してるでしょ?」
「多分……」
「このまま真っ直ぐの道に……敵、居ませんよね?」
「大丈夫です」
「なら、平気です。
カツユさん、頑張ってね」
「ヤオ子ちゃんも気をつけて」
カツユが煙と共に姿を消すと、ヤオ子が振り返る。
「行きましょうか?」
「何か惨めだ……」
「走りながら、話しましょう」
ヤオ子達は顔岩へと向かう。
走る速度は、ヤクト達に合わせている。
「ボク達……役立たずの足手まといなんだね」
「あたしも含めてです」
「何か嫌だな……」
「オレも……」
「私も……」
「何で?」
「役立たずだから……」
「暗い……。
・
・
でも、仕方なくないですか?」
「そうなんだけど……」
ヤオ子は、一息つくと口調を変える。
「まあ、今日の敵は、運が良かったと見逃しましょう」
「運?」
「十年後のあたし達なら、フルボッコです」
子供達が吹いた。
「お姉ちゃん……。
大胆だね……」
他の二人が頷く。
「だって、そういうことでしょ?」
「……そうかな?」
「そうです。
十年後のあたしに出会ったなら、捕獲後にイビキさん仕込みの拷問術を駆使します。
相手が美少年か女性なら……セクハラもしちゃうかも♪」
再び、子供達が吹いた。
「だって、そういうことでしょ?」
「「「違うよ!」」」
「そうなの?」
「カッコよく、里を守るの!」
「そのついでにセクハラを──」
「「「するな!」」」
男の子が溜息混じりに言葉を漏らす。
「ダメだな……。
ヤクトのねーちゃんには任せられない」
「本当だよ!」
「私達が守るしかないわ!
敵からもヤクト君のお姉ちゃんからも!」
「いつの間にか、あたしも敵に組み込まれましたね?」
「「「当然!」」」
「はは……。
頼もしいです。
期待していますよ」
顔岩までは、あと少し。
(それにしても……。
随分、離されましたね。
一向に避難した人達の最後尾に追いつかないなんて)
ヤオ子は、木ノ葉の里の民間人も凄いなと思うのであった。