== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
(色んな人に出会って、自分の小ささがよく分かります。
任務で自分より、大きな人や大人を打ち負かして有頂天になります……。
でも、木ノ葉隠れの里に居ると、自分が弱い存在だと打ち負かされます……。
自分が強くなったと勘違いしていました……。
あたしは、尊敬する人や周りの友人に勝てた例がありません。
そう……。
強引な方法であたしに忍術を叩き込んだサスケさんを見返したい一心で努力して力をつけたつもりだったのに、
その差が一向に縮まった気がしません。
理由も何となくだけど、分かります。
この数年で強くなった他の人達に、サスケさんが負けるビジョンが頭に浮かばないからです。
今のあたしでは、周りの皆さんの援護射撃しか出来ないでしょう。
『サスケさんを待つ』『木ノ葉を守る』
子供だったとはいえ、大きく出たもんです。
約束を守る力を未だに手に出来ず、
目標のサスケさんへのワンパンチも果てしなく遠い気がします。
そもそも、人間って何処まで強くなれるんでしょうか?
周りの人間のオーバースペックを見ると落ち込むことしか出来ません。
でも、まあ……。
周りの人間を利用してコバンザメのようにしぶとくしていれば……。
サスケさんとの約束も守れるんじゃないでしょうか?)
第73話 ヤオ子の居場所・日常編
オーバーワーク気味の修行の毎日……。
本日は、疲労のガス抜き三日目。
ヤオ子は里を歩きながら、少しピリピリした空気を感じる。
今、木の葉では暁という組織を追って、かなりの小隊が里の外に出ている。
ナルト達も二小隊で、暁のうちはイタチを追って外出したばかりであり、その時、サスケの臭いを追って追跡したとも……。
「はっきりしない噂が飛び交っていますね。
しかも、キナ臭い……。
暁って何なんだろう?
下忍の知ることじゃないのかな?
・
・
ひょっとして……。
その暁とかいうのが活発に動き出したから、
綱手さんは、あたしの任務を止めたのかな?
・
・
ありえませんね。
それなら、里の中での仕事をさせるはずだし」
下忍のヤオ子には知らされないことも多い。
ナルトが里に居ない理由。
暁の行動内容の詳細。
何も知らないまま、里での時が流れていた。
ただ、自来也が亡くなったことは、それとなく知っていた。
噂が耳に入った。
まだ、葬儀は行なわれていない。
綱手が心の整理がつかずに少し先延ばしになっているのかとも、ヤオ子は考える。
正直、綱手が無理に気丈にしているのは見ていて分かった。
だから、少し時間の掛かることだと思って、今は会いに行っていない。
自来也の葬儀が終わったら、変わらずに馬鹿をやって、いつも通りのグーが飛んで来るのを願っていた。
そして、考えことをして歩くヤオ子の背中を誰かが突っついた。
ヤオ子が振り返ると、そこにはアカデミーに通い始めた、ヤオ子の弟──ヤクトが居た。
「お?
我が弟じゃないですか」
「何? その言い方?
相変わらず馬鹿だね」
「実姉に向かって……。
ヤクトこそ、何の用?」
「もう、何週間も前に頼んだことだよ。
投擲術を見てくれるって話……」
「ああ……。
言ってましたね」
「教えてよ」
「いいですよ」
ヤオ子の返事に、ヤクトが振り返る。
「皆、いいって」
「皆?」
ヤクトの後ろから二人の子供が現れる。
「ボクの友達」
男の子と女の子が軽く頭を下げる。
「一緒に面倒を見ろと?」
「そう」
「…………」
初対面のヤクトの姉に、子供達は少し不安そうにしている。
ヤオ子は頬を少し掻くと答える。
「まあ……。
一人も三人も同じだからいいですよ」
三人は嬉しそうに顔を見合わせ、ヤオ子に顔を向けた。
「何処でやりますか?」
「アカデミー」
「何で?」
「専用の練習場があるから」
「へ~。
そんなのがあるんですか」
ヤオ子の初めて知ったという言葉に、女の子がヤクトに質問する。
「ヤクト君のお姉ちゃんは、
何で、知らないの?」
「うちのお姉ちゃん、アカデミーに通ったことないんだ。
特別召集の時の忍者だから」
「あの?」
女の子の言葉に、ヤオ子は首を傾げる。
「どうしたの?
『あの?』って?」
「その時の先輩……。
皆、戻って来たって聞いたから」
「ああ……。
そんなこと、言ってましたね」
「凄いね。
エリートなの?」
「いいえ。
ただの器用貧乏です」
「…………」
ヤオ子は子供でも容赦なく意味の分からない答えを返す。
が、他人には意味は分からなくとも、嘘ではない。
器用貧乏であったが故に、数々の雑務を全てこなしてきた。
「器用貧乏……って、関係あるの?」
「ありますね。
結局のところ、雑用ばかりでしたから、器用さが求められます。
本当に忍者をやりたい人には辛いんです」
「そうなんだ」
「はい。
・
・
では、行きましょうか。
案内してください」
アカデミーに向けて、ヤオ子達は歩き出した。
…
アカデミーの練習場……。
ヤオ子は初めて入る場所だった。
「へ~。
こんな所があるんだ」
ヤオ子は弟達が練習している的を見て、次に自分の立っている場所を見る。
(的……近くない?
・
・
サスケさん……。
最初から騙しましたね……。
初めてをあの距離からやらせるって、どんだけドSなんですか……。
・
・
あのヤロー……)
眉間に皺を寄せて、頭を押さえるヤオ子にヤクトが話し掛ける。
「見ててよ!」
「え? ああ……はい。
やってみて」
ヤオ子が的から離れると、三人が手裏剣を持って的に投げつける。
ヤクトは、明後日の方向に。
男の子は、的の下の地面に。
女の子は、スピードなく的に刺さった。
ヤオ子は三人バラバラに問題点を見て、苦笑いを浮かべた。
「はは……。
皆、個性的ですね」
「だから、教えて欲しいんだよ。
この前から言ってるのに、
お姉ちゃん、見つからないんだもん」
「すいませんね」
(ヤクトに秘密基地の場所を言ってなかった……)
頭を掻きながら、ヤオ子はホルスターから手裏剣を三枚取り出す。
それをヤクト達に見せると、座ったまま指を弾くように指の力だけで飛ばす。
手裏剣は、全て的の真ん中に当たった。
「「「凄い……」」」
「コツを掴めば簡単ですよ」
「「「教えて!」」」
「何か必死ですね?
でも、その前に質問です。
・
・
教科書、読みました?」
「「読んでない」」
「一応、読みました」
(さすが、我が弟……我が侭、一直線。
我が家の新たな風を感じます。
そして、友人の男の子……。
二人とも読む気、一切なし。
・
・
友人の女の子だけが希望です)
ヤオ子がヤクト達に話し掛ける。
「教科書ありますか?」
「持ってない」
「必要ない」
「一応、持ってます」
(男子はダメダメですね……)
ヤオ子は女の子から教科書を受け取ると、パラパラとページを捲り、件の手裏剣投擲術のページを開く。
「ここに投げる絵と説明が書いてあります。
この通りにするように努力しなければいけません」
「それは分かるんだけど……」
「読むのだるい……」
「一応、読んだんですけど……」
(男の子二人は完璧に読む気なしですね。
女の子は健気に読んでいるみたいです。
分けて説明しよう……)
ヤオ子が男の子二人を手招きする。
「何で、読まないんですか?」
「読むと分かんなくなっちゃうんだ」
「そう!
全部、一編にやると分からない!」
(そういうことですか……。
うちのお父さんに近いかな?
それとも、体で覚えるタイプ?)
ヤオ子が教科書の絵を指差す。
「じゃあ、この絵の真似は出来ますか?」
「「それだけ?」」
「はい」
男の子がヤクトに目を向ける。
「簡単だよな?」
「うん」
「じゃあ、やってみましょう」
ヤクトと男の子は、絵を暫く見ると練習を再開した。
今度は、女の子を手招きする。
「ちゃんと読んだんでしたね」
「はい」
「的の真ん中まで届かないのかな?」
「はい」
「力一杯投げてますか?」
女の子が首を振る。
「力を入れ過ぎると失敗しちゃう……」
(的を大きく外すのを極度に嫌がってますね……)
ヤオ子は女の子に指を立てて話し掛ける。
「じゃあ、お願いしていいですか?」
「何ですか?」
「的を外してください」
「え?」
女の子は疑問符を浮かべた。
「その代わり、力一杯投げてください」
「でも……。
それじゃあ、練習にならない……」
「そうですね。
じゃあ、一回目は力一杯外して、二回目はじっくり当てましょう。
それを交互に繰り返します」
「?」
「一回目は、力一杯投げる練習です」
「外していいの?」
「思いっきり、お願いします」
女の子は、よく分からない感じで練習を再開した。
そして、一方の男の子達のために、ヤオ子は男の子二人の目に入る位置で教科書を開いて座る。
ヤオ子が居ることで、二人は意識して教科書に目を通すようになり始めた。
~ 十分後 ~
男の子達は、見違えるように的に当たるようになっていた。
(やっぱり……。
まだ脳が大人用に切り替わってないみたいです。
文字で理解するより、絵で理解する方が分かるんでしょうね。
・
・
でも、本当は絵から得られる情報の方が多いんですよね。
それを逆に文字へと置き換えて理解する。
大人になるとそっちの方が分かり易い時もある。
不思議ですよね~。
・
・
あと、ヤクトがお父さんの血を受け継いでなくてよかった……。
絵を見てちゃんと理解してる……。
うちのお父さんに教え込むのは不可能に近い……。
ヤクトは、至って普通の子です。
よくよく考えれば、教科書をスルーするのも普通の男の子らしさなのかな?
・
・
さて、女の子の方も見ないと)
ヤオ子が女の子に近づく。
「上手ですよ」
「本当ですか?」
「はい。
気付いたことはありませんか?」
「何でもいい?」
「何でもいいですよ」
「強く投げた方が……真っ直ぐ飛ぶの」
ヤオ子は女の子の頭を撫でる。
「よく気付きました。
弱く投げると狙ったところより下にずれるでしょ?」
「うん」
「それで狙う方が難しいんです」
「そうなんだ」
「はい。
知らずに難しいことをしていたんですね。
真っ直ぐの方が狙い易いですよ」
女の子が手の手裏剣を見る。
「今度は、強く投げて狙ってみませんか?」
「やってみる!」
女の子は今までと違い、力強く手裏剣を投げる。
すると、手裏剣は的の真ん中近くに当たった。
女の子が振り返ると、ヤオ子は親指を立てる。
「いい感じです。
それがコツです」
女の子が少し嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もう少しやりましょうか」
ヤクト達の練習は続いた。
…
ヤオ子は弟達を見ながら、少し自分を振り返る。
ヤオ子の幼年期は弟達と違い、少し大人びていた。
変態的欲求を満たすため──イチャイチャパラダイスを読むため……。
そのため、初めて読むような難しい表現のある教科書の内容でも、手に取るように分かった。
そして、初めての投擲は読まされた教科書を参考に、サスケに無理やりだった……。
「懐かしいですね……。
今も修行は続いてますけど……」
ヤオ子は弟達を眺めながら思い出に浸っていると、男の人の声がした。
「お前ら、何やってんだ?」
練習場の入り口近くで聞こえた声に、弟達の視線が集まる。
「あ! イルカ先生だ!」
「ん?」
ヤオ子が男の子の声で目を移す。
そこには若い忍の姿があった。
「中忍さんか。
先生やってるんだ……」
ヤオ子は木の葉のベストを見て、そう判断した。
男の子が、うみのイルカに近づく。
「今度の担任がさ!
嫌な奴なんだ!
オレ達をダメな奴だって!」
「三人とも、手裏剣は少し苦手だもんな」
「だから、今度のテストで一発かますんだ!」
「かますって……。
お前らな……」
「ヤクトのねーちゃんに聞いたら、
アイツに教えて貰うより、マシになったんだぞ!」
「ねーちゃん?」
ヤオ子が立ち上がって、イルカに頭を下げる。
「イルカ先生!
見てくれよ!」
「ああ!
分かった!
分かった!」
(挨拶も出来ない……。
大人気ですね。
イルカ先生)
ヤクト達が自慢するようにイルカに練習の成果を見せると、イルカはヤクト達の成長に驚いて見せた。
「本当だ。
皆、的に当たってるじゃないか」
「凄い!?」
「ああ!
凄いぞ!」
イルカが順番に子供達の頭を撫でるとヤオ子に近づく。
「ご面倒をおかけして……」
「いえ。
いつも弟がお世話になってます」
「しかし、驚きました。
いきなり上達して……」
「子供って、そういうもんですから。
ある日、いきなり出来るようになるんですよ」
「そうですか?」
「はは……」
(父親が子供に近いから、
それを少し応用しましたなんて言えないですよね)
ヤオ子は誤魔化し笑いを浮かべると、会話を続けた。
「あ。
あと、敬語じゃなくていいですよ」
「え?」
「あたし、十一です」
「…………」
イルカはヤオ子を上から下まで見て、一拍開けて声を上げた。
「えェ!?」
「老けて見えます?」
「そうじゃなくて……。
背が……。
ナルトなんて、十二の時にこれぐらいで……」
イルカが手で空中を切って見せる。
「母方の家系の遺伝です。
皆、このぐらいの時に成長期が来るみたいなんです」
「そうなんですか……。
・
・
あのヤクトの母親というと……例の?」
「はい、変態です。
そして、あたしが変態の娘です」
「…………」
堂々と言い切るヤオ子に、イルカは反応に困る。
「お、お姉さんは優秀なようで……」
「無理しなくていいですよ。
あたしは、完全に母親の血を受け継いでますから」
「いや、初対面だし……」
「苦労しますよね。
初対面の生徒の姉が変態だって分かってんだから。
先生のリアクションは、尤もです」
(やっぱり半端じゃないな……。
個人面談で母親にも圧倒されたけど、お姉さんも一筋縄にいかない……。
・
・
ヤクトの将来が心配だ……)
イルカは項垂れる。
生徒の前で堂々と肉親を変態だとは言えない。
「先生が疲れるんで、とりあえず猫被りますね。
・
・
ところで……。
ヤクトは楽しそうですか?」
「は?
・
・
変わった質問ですね……。
楽しそうにしてますけど?」
「なら、いいです」
「普通、成績のこととか気にしませんか?」
「成績なんて、どうでもいいです」
(お母さんと同じことを言ってる……)
「いざとなったら、無理やりにでも叩き込めばいいんですから」
(お母さんの方は、そういう前科があるんだっけ……)
父親にしている。
イルカが咳払いをして、気持ちを入れ替える。
「アイツら、楽しそうですね。
まあ、的に当たるようになったんだから、当たり前ですけど。
・
・
よっぽど、悔しかったんでしょうね」
「今度の担任の人は、そんなにキツイんですか?」
「優秀な忍にしたいが故ですよ。
この仕事は、危険ですから。
少しでも力を付けて卒業させてあげたい」
「いい先生ですね……」
「その分、厳しいんですけどね」
「頭が固いのか……。
悪戯の一つでも教えてあげましょうかね?」
「悪戯?」
「実は、おいろけの術というものが──」
「やめてください!」
「ん?」
「その術で、私がどれほど苦労したか!
ナルトのクソガキが、皆の前で……」
(さすが師匠……。
既に実行済みだったとは……)
ヤオ子は、子供達に目を移す。
「じゃあ、やめときます。
ここは、あたしの縄張りじゃないんで」
「お願いします……。
・
・
でも、偶には顔を出してあげてください」
「?」
「きっと、喜びますよ」
イルカがヤオ子に微笑む。
「そうですね。
お許しが出たんなら、深入りしない程度に」
「ええ。
私は、これで戻りますんで」
「ご苦労様でした」
イルカは、最後に子供達に声を掛けると去って行った。
「イルカさん……。
結局、最後まで敬語でしたね。
・
・
背伸びて老けたか?」
ヤオ子は、自分の顔をペタペタと触って確認した。