== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子は深夜の森を移動している。
木々の葉に隠れ、僅かに照らされる月の灯りを頼りに木々を飛び移る。
次の着地点の枝を慎重に見極め、他の隊員に遅れないように着いて行く。
隊長は、森乃イビキ。
フォーマンセルの班構成でヤオ子は最後尾を走り、他の班員二人はイビキの部下になる。
…
今回の任務では、イビキの指名でヤオ子は班員に組み込まれた。
実戦経験の少ないヤオ子のために、Cランク任務をイビキが綱手に申請してくれたのだ。
その申請してくれた理由は、あのCランク任務にある。
イビキにとってもヤオ子にとっても苦い思い出になった任務から、イビキはヤオ子が気にはなっていた。
しかし、耳に入るのは雑務の話ばかり。
イビキはヤマトの前に実力を見てあげてから、ヤオ子が一人でもしっかりと修行をしているのを確認して、それからヤオ子の近況を少し調べた。
そして、調査の結果、少し同情をした。
ヤオ子よりも後に下忍になった子達は担当上忍の下で、Cランクの任務も多くこなしている。
経験だけは、ヤオ子よりも積んでいた。
その状況をヤオ子に少し訊ねたが、ヤオ子は相変わらずの態度で笑っている。
ヤオ子は自分の役目を理解しているから僻まないのだ。
雑務をする傍らで、忍としての努力の成果が見えるとほっとけなくなる。
少し甘いかとも考えたが、努力をしている者を蔑ろにする方が気に食わない。
”今回の任務は、必ず戦闘になる。”
そう読んだため、イビキはヤオ子を班員に指名することにしたのだった。
第66話 ヤオ子とイビキの初任務
任務は、尋問部隊自らのターゲット捕獲作戦。
逃走中のターゲットを追跡してから捕獲する。
追跡が組み込まれているのは、仲間の有無を確認するためだ。
また、四対一の作戦のため、条件としては、こちらが有利。
しかし、不利が分かっているターゲットがどんな行動に出るかも気をつけなければならない。
窮鼠猫を噛む……。
諺通りの慎重さが要求される。
そのため、経験豊富なイビキを含む班員三人が前衛。
サポート役としてヤオ子が後衛に配置されていた。
…
実は、この任務を受けた時の班員二人の反応は厳しかった。
大事なターゲット捕獲に下忍が入るのをよく思わなかったからである。
「イビキさん。
下忍の子なんて足手まといになりませんか?」
「正直、長期の追跡になった場合、
途中でスタミナが切れたりしたら困ります」
イビキが煙草をふかしながら笑う。
頭の中では、先日の手合わせの光景が蘇る。
「それはないだろうな……」
「どうしてですか?」
イビキは隣に居るヤオ子の頭に手を置いて、自信有り気に答えた。
「多分、コイツは、オレ以上にスタミナがある」
「冗談でしょう?」
「本当だ。
コイツは二年間──ほぼ毎日、体力向上の修行しかしていない」
「あの……。
それはそれで別の不安が……」
「そんな子がサポート出来るんですか?」
「期待はしていないさ。
オレ達だけで何とかするつもりだからな。
着いて来れさえすればいい」
「経験を積ませるだけですか?」
「そうだ」
「なら……問題ないかな?」
ヤオ子は項垂れる。
(期待してないって……。
あたし……。
何のために呼ばれたんだろう……)
こうして任務が始まったのだった。
…
追跡から二時間……。
イビキは、未だにターゲットを捕獲する行動を起こさない。
ヤオ子がイビキに近づき質問する。
「捕獲しないんですか?」
「奴が止まるのを待っている」
「何で?」
「もしかしたら、何かの組織が絡んでいるかもしれない。
その時は、この任務はCランクからBランクに変わる。
そうすれば、お前はそこまでだ」
「そうですか……」
「奴が一人で何処かの宿場町に泊まるようなら、単独と判断する。
恐らく仲間も居ないだろう」
「その宿場町で待ち合わせをしている可能性もあるんじゃないですか?」
「事前調査では、奴が連絡を取り合う時は人目を避ける傾向があることを確認済みだ。
人目のつく宿場町での接触の可能性は低い」
「なるほど」
「そして、向かっている先に宿場町がある。
奴がスピードを落としたら仕掛けるぞ」
「了解です。
戻ります」
ヤオ子がイビキ達の後ろに戻ると、他の班員達は、未だにしっかり着いて来るヤオ子に感心した。
「イビキさんの言った通りかもな」
「ああ。
話し掛ける余裕があるんだから」
班員達は、ヤオ子に目を一瞬移すと再び夜の森での追跡を続けた。
…
宿場町の灯りが見え始めるとターゲットがスピードを緩め、木から町を見下ろして唇の端を吊り上げる。
そのスピードを落としたターゲットに、イビキ達が慎重に間合いを詰めていく。
そして……。
「何だ?」
「音?」
口笛の音が辺りに響き始める。
ターゲットに気付かれたことが分かると、班員二人が前衛でクナイを構える。
そして、二人の前でターゲットの肩が盛り上がっていく。
「筋肉を操作しているのか!?」
ターゲットが木を蹴り上げ、獣のように二人に迫ると一人の喉元に噛み付いた。
肉を引き裂く音と共に班員の一人の首から血飛沫があがり、もう一人の班員がクナイを振りかぶると、ターゲットが腕を一閃する。
その瞬間、上空に班員の両手が舞い上がった。
…
意識が覚醒する。
自分の首は付いている。
自分の腕は付いている。
班員二人が、滝のような汗を流して現実に戻った。
「大丈夫ですか?」
ヤオ子が班員二人にチャクラを送り込みながら質問する。
幻術は、幻術に掛かっている者に他の者がチャクラを送り込み、操作されているチャクラの流れを乱すことで解くことが出来る。
「幻術か……」
「はい。
口笛に気をつけてください。
聴覚を利用するみたいです」
「隊長は?」
「自力で解いていました」
「そうか……。
・
・
助かったよ……」
「サポート要員ですからね」
ヤオ子が班員二人に笑顔を向ける。
「油断していると幻術に掛かりますが、それほど強くないみたいです。
皆さんが幻術に掛かってから、あたしに効果が出るまでにタイムラグがありました。
あたしは皆さんの反応を見てから、意識してチャクラを流すだけで幻術に掛かっていません。
それだけで大丈夫です。
しっかり、チャクラを意識して流してください」
班員二人が頷くと、ヤオ子は再び下がる。
イビキがヤオ子に声を掛ける。
「ヤオ子。
いいサポートだ」
「はい。
ただ……情報と違いますね。
ターゲットが幻術を使うなんて情報はありませんでした」
「そういう時もある……」
今度は、全員が臨戦態勢でターゲットに臨む。
班員二人は自分達がまだクナイを構えていないことに、ここで初めて気付いた。
今度は間違いなくクナイを構える。
しかし、目の前で再び同じことが起きる。
ターゲットの肩が盛り上がっていく。
「まさか!?
また幻術に掛かったのか!?」
班員二人が混乱している。
そして、混乱しているところにターゲットが迫り来る。
さっきと同様に腕が振りあがり、ターゲットの暗器が獣の爪のように見える。
その攻撃をイビキがクナイで受け止めた。
「落ち着け!
相手は本物だ!
それに……」
イビキがターゲットを蹴り飛ばす。
「幻術の中のアイツよりも数段弱い!」
班員達がターゲットを冷静に確認する。
「そうか……。
これがアイツの手なんだ」
「オレ達に幻術を掛けた後に、同じ動作を仕掛けて混乱させる……」
「そういうことだ……。
包囲するぞ!」
イビキと班員二人でターゲットを取り囲むと、ネタがバレたターゲットに焦りが見える。
ターゲットはホルスターから起爆札のついたクナイを取り出した。
「拙い!」
班員の一人が敵に迫る。
クナイと暗器がぶつかり、暗闇に火花が散る。
「起爆させる前に捕獲する!」
イビキと残った班員がターゲットに向かう。
しかし、ターゲットは後退して、起爆札の付いたクナイを投擲しようと着火の姿勢に入っていた。
そこに暗闇から風切り音が響く。
ターゲットの前に切り裂かれた起爆札が風と共に攫われる。
「何だ!?」
クナイの柄には、起爆札が半分しか付いていない。
これでは起爆札は使えない。
そして、ターゲットが風に攫われる起爆札の半分を目で追った一瞬に、イビキの当て身が鳩尾に決まる。
ターゲットは、音を立てて地面に倒れると気を失った。
「捕獲完了だな」
イビキの言葉を聞くと、班員の一人がターゲットを縛り上げる。
そして、ターゲットの肩口に触れると、あることに気付く。
「何だ?
肩に風船が入っている……」
「これがあの筋肉の正体かよ」
班員達に溜息が漏れる。
そして、イビキ達の近くにヤオ子がゆっくりと近づく。
「任務成功ですね」
「ああ。
助かったよ」
「いえいえ♪」
ヤオ子は笑顔でチョキを出す。
そのヤオ子をイビキは複雑な表情で見ていた。
(この少女……。
修行不足も否めないほど雑務をこなしているはずなのに、相当の腕になっている。
任務を一緒にして改めて分かった。
・
・
幻術の回避……。
分析による退避策の助言……。
暗闇での正確な投擲……。
そして、投擲されたクナイのスピードは、ターゲットに気付かせないほど速い……。
・
・
下忍で収まらないのではないか?
どれだけの努力をして来たのだ?)
ヤオ子はイビキに向けてもチョキを出すと、イビキは我に返って苦笑いを浮かべる。
(それだけ……。
あの任務は、この子の気持ちに変化を与えたのだろう。
・
・
この子の気持ちが少し分からなかった……。
だが、任務の苦い経験を投げ出さず、
それを糧にしたからこそ、成長したに違いない。
そして……。
まだ、実力の底が見えない……)
イビキがヤオ子の左腕に包まれたままの額当てを見る。
(今なら、その額当てをする資格があるかもしれない……)
イビキは任務遂行のため思考を止め、気持ちを切り替える。
そして、全員に命令を出す。
「では、連行する!
木ノ葉に戻るぞ!」
「「「はい!」」」
暗い森の中で声が響くと気配が消えていく。
この任務を堺に、イビキもしっかりとヤオ子を忍として扱ってくれるようになっていった。
…
※※※※※ 番外編 ~IF・その後のイビキの部下達~ ※※※※※
任務が無事に終了し、ターゲットの護送も終わった。
今回は下忍に助けられて、少しカッコ悪かった。
「まさか、下忍に助けられるとはな」
「人数が多かったから油断していたな」
「でも、さすがイビキさんの見込んだ子だ。
的確なサポートだった」
「ああ。
暗闇からの投擲なのに恐ろしいほどの正確さだったよ」
「そして、その前には幻術の解除でサポートもしている」
「…………」
イビキの部下二人が赤くなる。
「「それに美人だったな……」」
ヤオ子は黙っていれば美人と呼ばれる類に含まれる。
「それでかな?
オレ、少しおかしいんだ……」
「おかしい?」
「何と言うか……。
少し……熱っぽい?」
「お前もか?」
「ということは、お前もなのか?」
「…………」
イビキの部下二人に何が起きたのか?
簡単に言えば……。
「「何かムラムラする……」」
何故、ムラムラするのか?
原因は、幻術を解く際にヤオ子にチャクラを送り込まれたことだ。
ヤオ子のチャクラの精神エネルギーには妄想力という危険なエネルギーが使われている。
そのせいで、イビキの部下達はムラムラしっぱなしだった。
決してヤオ子の魅力でメロメロになったわけではない。
そして……。
この日、二人の忍者が色町に消えていった。
…
※※※※※ 番外編 ~ヤオ子の寄り道・実は出会っていた~ ※※※※※
木ノ葉を離れて少し遠出の任務の時、ヤオ子は時間があれば寄り道をする店がある。
薬屋である。
薬草を置いている店には必ずと言っていいぐらいの確率で立ち寄る。
一番の目的は任務先付近で取れる薬草を採取することだが、採取する薬草を手っ取り早く確認出来るのが薬屋だからだ。
間違って採取しないためにもサンプルの確認、もしくは購入は大事なことだった。
あの任務以来、トラウマになっていたことが、今では趣味の一環も兼ねている。
ヤオ子は鼻歌を刻みながら、任務終了後に訪れた小さな薬屋で薬草を手に取って観察していた。
「ふ~ん。
沢山取れるけど、効力の低さからマイナーになった薬草も置いてあるんだ。
このお値段なら、サンプルに買ってもいいかな?」
ヤオ子は薬草図鑑の知識を思い出しながら、次の薬草に手を掛ける。
しかし、手に取った薬草よりも隣が気になり出す。
客と店主の話し声が嫌でも耳に入って来た。
「だから、今は持ち合わせがないのよ……。
財布がちょっと出掛けていてね……」
「困りますよ。
千両も負けれませんよ」
「今、売ってくれれば、今後、贔屓にするわ……」
「そう言われてもダメなものはダメですって」
「そう……」
客に殺気が篭っていく。
店主はまるで気付いていない。
客が行動に移るか移らないかの瞬間、ヤオ子が声を掛けた。
「すいません」
「何……あなた?」
「その薬草、見せてくれません?」
「これ?」
客の手の中の薬草をヤオ子は凝視する。
「やっぱり……。
よく見つけましたね。
あたし、実在する草を初めて見ました」
「あら……。
あなた、この草の値打ちが分かるの?」
「値打ちと言うわけじゃないんですけど、
この草って異常気象の時にしか取れないんですよね?
しかも、異常気象が起きても必ず取れるかどうか分からない」
「若いのによく知っているじゃない……」
「本の知識だけですけどね。
・
・
この草が欲しいんですか?」
「ええ……。
ちょっと、今、財布が出歩いているのよ……」
(お連れさんかな?)
ヤオ子が店主を見る。
「負けてあげたら?」
「ダメダメ。
これは値引きしなくても絶対に売れる薬草なんだから」
ヤオ子は少し考えると、客に話し掛ける。
「お邪魔じゃなかったら、
あたしが交渉しましょうか?」
「得意なの?」
「我に策有りです」
「じゃあ、お願いしようかしら……」
ヤオ子は、にっこりと微笑むと店主に話し掛ける。
「このお客さんは、いくら負けて欲しいと?」
「千両だよ」
「そうですか……。
では」
ヤオ子は店に並ぶ薬草を数種類手に取って、店主の前に置く。
「これだけ買うんで負けてください」
客は、ヤオ子の選んだ薬草を見る。
(随分と使い古された薬草ばかり選ぶわね……)
「これか……」
店主の心が少し傾く。
「いつ売れるか分からない薬草でしょ?
それを千二百両分です」
「う~ん……」
「じゃあ、これも」
ヤオ子は、さっき手に取っていた薬草も上乗せする。
「締めて千四百両分です。
これであの薬草を負けても利益は出ますよね?」
「まいったな……。
オレ以上に値段に詳しいじゃないか。
・
・
仕方ない。
お客さん、負けますよ」
「ありがとう」
ヤオ子は客に振り返ると、笑顔でチョキを出した。
…
客と一緒にヤオ子も薬屋を出る。
向かう先は、暫く一緒のようだった。
客がヤオ子に話し掛ける。
「助かったわ……。
これで秘薬が作れそうだわ……」
「えへへ……。
よかったです」
「ところで……。
あなたは、いいの?
そんな薬草を買って?」
ヤオ子は手に抱える紙袋に目を落とす。
「ああ……。
大丈夫です。
あたし、薬草を採取するサンプルが欲しかったんで」
「そう……。
でも、その薬草を採取するよりも、別の薬草の方がよくないかしら?」
「おっしゃる通りです。
ただ、あたしは未熟者なので、基礎から勉強している最中です。
それにいざって時にこの薬草しかない時は、
この薬草を使うしかないですからね」
「そういうこともあるかもしれないわね……。
・
・
そういえば……。
お礼をしてなかったわ……」
「お礼?
いいですよ。
財布もないんでしょ?」
「借りを作ったままにしておきたくないわ……」
「そう言われても……」
客が不適な笑みを浮かべる。
「何なら、あなたの嫌いな人を一人殺してあげましょうか……」
ヤオ子はキョトンとするが、直に笑い出す。
「冗談好きですね~」
「冗談じゃないわよ……」
客の笑みは、何処か冷たい。
しかし、ヤオ子は気にしていない。
「あたし、別のお願いをしたいな」
「あら……殺しは嫌なの?」
「そんなのは居過ぎて困りますよ。
・
・
出来れば、知識が欲しいです。
その薬草の講義をしてくれませんか?」
今度は、客がキョトンとする。
ヤオ子の危険な香りの冗談もそうだが、中々、薬草の話題をしたがる人間も多くないからだ。
故に、客はおかしな少女に少し好感を抱いた。
「面白そうね……。
財布が来るまでの暇つぶしになりそうだわ……」
こうして、客のヤオ子への薬草の講義が始まった。
…
正直、客はヤオ子には分からないだろうと思いつつ講義をしていた。
しかし、思いの他、いい反応が返ってくる。
そして、質問の内容も悪くない。
久々に知識を分かり合える人間に会った気がした。
「いい知識を持っているわね……。
じゃあ、今度は一緒に考えてくれないかしら?」
「いいですよ」
「私は、この薬草とAという薬草を組み合わせたいの……。
でも、これだと副作用が強過ぎてね……。
もう少し押さえ込みたいのだけど……。
何かいい知恵はないかしら?」
「Aか……」
ヤオ子は落ちている棒を拾い上げると、道の真ん中に件の薬草とAの薬草を記す。
そして、その下に棒で線を引っ張り、別の薬草を書き込む。
それを繰り返して比率を書いていくと、道の1メートルが埋め尽くされた。
「どうですかね?
大分、遠回りですけど、かなり副作用を軽減したつもりです」
「なるほど……。
この手があったわね……。
忘れていたわ……」
「木ノ葉のある天才が残した手法です」
「天才?」
「大蛇丸さんって方を知りません?」
「……よく知っているわ。
でも、その手法は木ノ葉に残していないはずだけど?」
「まあ、そうですね。
でも、天才の手法は幾ら隠しても、何処かで利用されますから。
あたしも書庫の整理で偶然目にした配合表を見て、シズネさんに聞いて教えて貰ったんですよ。
・
・
あ、シズネさんというのは薬学に詳しい方です」
(独学なのかしら?
それとも、綱手やシズネが絡んでいるのかしら?
試してみれば分かるわね……)
客がヤオ子の記した配合表に手を加える。
「これを加えれば、副作用を抑えて別の効果も期待できるわ……」
「これ毒草だ……。
でも、確かにあたしの加えたBって薬草で毒は中和できるから有りだ……」
(この毒草を知っている……。
絡んでいるわね……)
綱手とシズネは絡んでいない。
お酒が入るとヤオ子に絡むが……。
「それと……。
これも加えたいわね……」
客が更に書き加える。
「でも、そうするとCの毒素が出ちゃいますよ?」
「そうね……」
客とヤオ子は意見を出し合いながら配合表を組み上げていく。
講義は別の方向に進んでいた。
そして、道は配合表で7メートルほど埋まっていた。
そこに旅人が差し掛かる。
「「通るな!」」
旅人はビクッ!とする。
客とヤオ子から、凄まじい殺気が出ていた。
「それを踏んだら、殺すわよ!」
「それを踏んだら、ぶっ飛ばしますよ!」
客とヤオ子が目を合わす。
「気が合うわね……」
「そうですね……」
「「続けましょう(……)」」
もう講義ではない。
客とヤオ子は憑りつかれたように配合表を作成していく。
道は20メートルに渡ってびっしりだ。
その間の交通規制も酷くなっていく。
ヤオ子は豪火球の術を発動して通行人を威嚇。
客は口から蛇を出して威嚇。
そのせいで交通の便が悪くなり、通行人は仕方なく脇の林を通って迂回していくようになる。
「何だ?」
客の連れが人だかりに首を傾げる。
そして、道にびっしりと書かれた配合表を見て絶句する。
「一体、何をなさっているんだ……」
主人は見たこともない少女と必死になって配合表を書いている。
客の連れは、眼鏡をあげると溜息を吐く。
そして、腰の道具入れから新しい巻物を取り出すと、道に書かれた配合表を写し取っていく。
そんな連れの苦労も知らずに、客は笑みを浮かべる。
「出来たわ……」
「やりましたね」
「長年苦労していた秘薬が三つも完成したわ……。
お礼を言うわ……」
「あたしの方こそ。
こんな配合の秘法があるんですね」
「あなた、見所あるわよ……」
「ありがとうございます」
「今度、私の手伝いをしない?」
「いいですね。
・
・
と、言いたいところですが、まだまだ未熟者です。
あたしの基礎修行が終わったら考えます」
「残念だわ……」
「きっと、また会えますよ。
あたし、薬屋をよく回っていますから、見掛けたら声を掛けてくださいね」
「ええ……。
必ず……。
今度は、別の秘薬を解き明かしましょう……」
「はい」
ヤオ子と客が笑い会う。
連れは、今まで見たことのない光景に少し身震いがした。
客が連れに気付く。
「遅かったじゃない……」
「先ほどから居たんですがね」
「気付かなかったわ……」
「珍しいですね」
連れが巻物を主人に見せる。
「配合表は書き取りましたよ」
「手際がいいわね……」
客がヤオ子に振り返る。
「また会いましょう……」
客と連れが煙になった。
「忍者の方でしたか……。
・
・
口から蛇を出すから、大道芸人かとも思ったんですけど」
道を振り返ると何の痕跡も残っていない。
「秘薬ですからね。
残しておけないですよね。
・
・
しかし、いい勉強になりました。
素晴らしい人でしたね」
ヤオ子は新たな知識を手に入れ、ご満悦で木ノ葉に向けて歩き出す。
この接触が如何に危険か気付かないまま……。
そして、これを最後に客と二度と会うことはなかった。
客は、もう直ぐサスケに狩られてしまうから……。