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No.13840の一覧
[0] 【ネタ・完結】NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~[熊雑草](2013/09/21 23:12)
[1] 第1話 八百屋のヤオ子[熊雑草](2013/09/21 21:27)
[2] 第2話 ヤオ子のチャクラ錬成[熊雑草](2013/09/21 21:28)
[3] 第3話 ヤオ子の成果発表[熊雑草](2013/09/21 21:28)
[4] 第4話 ヤオ子の投擲修行[熊雑草](2013/09/21 21:29)
[5] 第5話 ヤオ子と第二の師匠[熊雑草](2013/09/21 21:29)
[6] 第6話 ヤオ子の自主修行・豪火球編①[熊雑草](2013/09/21 21:30)
[7] 第7話 ヤオ子の自主修行・豪火球編②[熊雑草](2013/09/21 21:30)
[8] 第8話 ヤオ子の悲劇・サスケの帰還[熊雑草](2013/09/21 21:31)
[9] 第9話 ヤオ子とサスケとサクラと[熊雑草](2013/09/21 21:31)
[10] 第10話 ヤオ子と写輪眼[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[11] 第11話 ヤオ子の自主修行・必殺技編①[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[12] 第12話 ヤオ子の自主修行・必殺技編②[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[13] 第13話 ヤオ子の自主修行・必殺技編③[熊雑草](2013/09/21 21:33)
[14] 第14話 ヤオ子の自主修行・必殺技編④[熊雑草](2013/09/21 21:33)
[15] 第15話 ヤオ子の自主修行・必殺技編⑤[熊雑草](2013/09/21 21:34)
[16] 第16話 ヤオ子とサスケと秘密基地[熊雑草](2013/09/21 21:34)
[17] 第17話 幕間Ⅰ[熊雑草](2013/09/21 21:35)
[18] 第18話 ヤオ子のお見舞い①[熊雑草](2013/09/21 21:35)
[19] 第19話 ヤオ子のお見舞い②[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[20] 第20話 ヤオ子のお見舞い③[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[21] 第21話 ヤオ子の体術修行①[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[22] 第22話 ヤオ子の体術修行②[熊雑草](2013/09/21 21:37)
[23] 第23話 ヤオ子の中忍試験本戦・観戦編[熊雑草](2013/09/21 21:37)
[24] 第24話 ヤオ子の中忍試験本戦・崩壊編[熊雑草](2013/09/21 21:38)
[25] 第25話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅護衛編[熊雑草](2013/09/21 21:38)
[26] 第26話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅壊滅編[熊雑草](2013/09/21 21:39)
[27] 第27話 幕間Ⅱ[熊雑草](2013/09/21 21:39)
[28] 第28話 ヤオ子の新生活①[熊雑草](2013/09/21 21:40)
[29] 第29話 ヤオ子の新生活②[熊雑草](2013/09/21 21:40)
[30] 第30話 ヤオ子の新生活③[熊雑草](2013/09/21 21:41)
[31] 第31話 ヤオ子の下忍試験・筆記試験編[熊雑草](2013/09/21 21:41)
[32] 第32話 ヤオ子の下忍試験・実技試験編[熊雑草](2013/09/21 21:42)
[33] 第33話 ヤオ子の下忍試験・サバイバル試験編[熊雑草](2013/09/21 21:42)
[34] 第34話 ヤオ子の下忍試験・試験結果編[熊雑草](2013/09/21 21:43)
[35] 第35話 ヤオ子とヤマトとその後サスケと[熊雑草](2013/09/21 21:43)
[36] 第36話 ヤオ子の初任務[熊雑草](2013/09/21 21:44)
[37] 第37話 ヤオ子の任務の傾向[熊雑草](2013/09/21 21:44)
[38] 第38話 ヤオ子の任務とへばったサスケ[熊雑草](2013/09/21 21:45)
[39] 第39話 ヤオ子の初Cランク任務①[熊雑草](2013/09/21 21:45)
[40] 第40話 ヤオ子の初Cランク任務②[熊雑草](2013/09/21 21:46)
[41] 第41話 ヤオ子の初Cランク任務③[熊雑草](2013/09/21 21:46)
[42] 第42話 ヤオ子の初Cランク任務④[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[43] 第43話 ヤオ子の初Cランク任務⑤[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[44] 第44話 ヤオ子の憂鬱とサスケの復活[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[45] 第45話 ヤオ子とサスケの別れ道[熊雑草](2013/09/21 21:48)
[46] 第46話 幕間Ⅲ[熊雑草](2013/09/21 21:48)
[47] 第47話 ヤオ子と綱手とシズネと[熊雑草](2013/09/21 21:49)
[48] 第48話 ヤオ子と、ナルトの旅立ち[熊雑草](2013/09/21 21:49)
[49] 第49話 ヤオ子と第七班?①[熊雑草](2013/09/21 21:50)
[50] 第50話 ヤオ子と第七班?②[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[51] 第51話 ヤオ子の秘密[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[52] 第52話 ヤオ子とガイ班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[53] 第53話 ヤオ子と紅班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:52)
[54] 第54話 ヤオ子とネジとテンテンと[熊雑草](2013/09/21 21:52)
[55] 第55話 ヤオ子とアスマ班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:53)
[56] 第56話 ヤオ子と綱手の顔岩[熊雑草](2013/09/21 21:53)
[57] 第57話 ヤオ子とサクラの間違った二次創作[熊雑草](2013/09/21 21:54)
[58] 第58話 ヤオ子とフリーダムな女達[熊雑草](2013/09/21 21:54)
[59] 第59話 ヤオ子と続・フリーダムな女達[熊雑草](2013/09/21 21:55)
[60] 第60話 ヤオ子と母の親子鷹?[熊雑草](2013/09/21 21:55)
[61] 第61話 ヤオ子とヒナタ班[熊雑草](2013/09/21 21:56)
[62] 第62話 ヤオ子と一匹狼①[熊雑草](2013/09/21 21:57)
[63] 第63話 ヤオ子と一匹狼②[熊雑草](2013/09/21 21:57)
[64] 第64話 幕間Ⅳ[熊雑草](2013/09/21 21:59)
[65] 第65話 ヤオ子とヤマトの再会[熊雑草](2013/09/21 22:00)
[66] 第66話 ヤオ子とイビキの初任務[熊雑草](2013/09/21 22:00)
[67] 第67話 ヤオ子の自主修行・予定は未定①[熊雑草](2013/09/21 22:01)
[68] 第68話 ヤオ子の自主修行・予定は未定②[熊雑草](2013/09/21 22:01)
[69] 第69話 ヤオ子の自主修行・予定は未定③[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[70] 第70話 ヤオ子と弔いとそれから……[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[71] 第71話 ヤオ子と犬塚家の人々?[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[72] 第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?[熊雑草](2013/09/21 22:03)
[73] 第73話 ヤオ子の居場所・日常編[熊雑草](2013/09/21 22:04)
[74] 第74話 ヤオ子の居場所・異変編[熊雑草](2013/09/21 22:04)
[75] 第75話 ヤオ子の居場所・避難編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[76] 第76話 ヤオ子の居場所・崩壊編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[77] 第77話 ヤオ子の居場所・救助編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[78] 第78話 ヤオ子の居場所・死守編[熊雑草](2013/09/21 22:06)
[79] 第79話 ヤオ子がいない①[熊雑草](2013/09/21 22:06)
[80] 第80話 ヤオ子がいない②[熊雑草](2013/09/21 22:07)
[81] 第81話 幕間Ⅴ[熊雑草](2013/09/21 22:07)
[82] 第82話 ヤオ子の自主修行・性質変化編[熊雑草](2013/09/21 22:08)
[83] 第83話 ヤオ子の自主修行・能力向上編[熊雑草](2013/09/21 22:08)
[84] 第84話 ヤオ子の自主修行・血の目覚め編[熊雑草](2013/09/21 22:09)
[85] 第85話 ヤオ子の旅立ち・お供は一匹[熊雑草](2013/09/21 22:10)
[86] 第86話 ヤオ子とタスケの口寄せ契約[熊雑草](2013/09/21 22:09)
[87] 第87話 ヤオ子の復活・出入り禁止になった訳[熊雑草](2013/09/21 22:10)
[88] 第88話 ヤオ子のサスケの足跡調査・天地橋を越えて[熊雑草](2013/09/21 22:11)
[89] 第89話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ①[熊雑草](2013/09/21 22:11)
[90] 第90話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ②[熊雑草](2013/09/21 22:12)
[91] 第91話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ③[熊雑草](2013/09/21 22:12)
[92] 第92話 ヤオ子のサスケの足跡調査・状況整理[熊雑草](2013/09/21 22:13)
[93] 第93話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁①[熊雑草](2013/09/21 22:13)
[94] 第94話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁②[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[95] 第95話 ヤオ子とサスケの新たな目的[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[96] 第96話 ヤオ子と小隊・鷹[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[97] 第97話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・マダラ接触編[熊雑草](2013/09/21 22:15)
[98] 第98話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦編[熊雑草](2013/09/21 22:15)
[99] 第99話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・深夜の会話編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[100] 第100話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦開始編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[101] 第101話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・奪還編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[102] 第102話 ヤオ子とサスケの向かう先①[熊雑草](2013/09/21 22:17)
[103] 第103話 ヤオ子とサスケの向かう先②[熊雑草](2013/09/21 22:17)
[104] 第104話 ヤオ子とサスケの向かう先③[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[105] 第105話 ヤオ子とサスケの向かう先④[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[106] 第106話 ヤオ子の可能性・特殊能力編①[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[107] 第107話 ヤオ子の可能性・特殊能力編②[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[108] 第108話 ヤオ子と砂漠の模擬戦[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[109] 第109話 ヤオ子とイタチの葬儀[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[110] 第110話 ヤオ子とサスケの戦い・修行開始編[熊雑草](2013/09/21 22:20)
[111] 第111話 ヤオ子とサスケの戦い・修行編[熊雑草](2013/09/21 22:20)
[112] 第112話 ヤオ子とサスケの戦い・最後の戦い編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[113] 第113話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・筆記試験編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[114] 第114話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・サバイバルレース編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[115] 第115話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・本戦編[熊雑草](2013/09/21 22:22)
[116] 第116話 ヤオ子の八百屋[熊雑草](2013/09/22 01:07)
[117] あとがき[熊雑草](2010/07/09 23:40)
[118] 番外編・ヤオ子の???[熊雑草](2013/09/21 22:23)
[119] 番外編・サスケとナルトの屋台での会話[熊雑草](2013/09/21 22:23)
[120] 番外編・没ネタ・ヤオ子と秘密兵器[熊雑草](2013/09/21 22:24)
[121] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と①[熊雑草](2013/09/21 22:25)
[122] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と②[熊雑草](2013/09/21 22:26)
[123] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と③[熊雑草](2013/09/21 22:26)
[124] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第1話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[125] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第2話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[126] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第3話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[127] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第4話[熊雑草](2013/09/21 22:28)
[128] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第5話[熊雑草](2013/09/21 22:28)
[129] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第6話[熊雑草](2013/09/21 22:29)
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[13840] 第61話 ヤオ子とヒナタ班
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/21 21:56
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 ナルトが木ノ葉隠れの里に戻るまでの間に、主だったナルトの友人は中忍へと昇格をしている。
 そして、彼等は部隊長との資質も認められた存在になる。

 火影の仕事の合間……。
 綱手はある忍の詳細が書かれた報告書を眺め、付き人のシズネに写しを渡して話し掛ける。


 「シズネ。
  コイツをどう思う?」

 「日向ヒナタですね。
  私は、まじめに頑張っている子だと思いますけど」

 「そうだな。
  勤勉な性格から実力をつけて、先日、中忍となった。
  戦力としても貴重だ。
  女でありながら、体術に秀でている。
  これはくノ一の中でも特殊だから、特定の任務を任せることも多くなる。
  更に日向一族特有の白眼もある」

 「未来のくノ一として、期待が持てますね」

 「ああ。
  だが、ヒナタには重大な欠点があると思う」


 綱手は、ここでお茶を啜った。



  第61話 ヤオ子とヒナタ班



 シズネが質問をする。


 「欠点とは、何でしょうか?
  才能や素質、そして、今までの任務結果を見ると、非の打ち所はありませんが?」

 「そう思うか?」

 「ええ。
  組み込まれた部隊でも成果は上げていますし」

 「…………」


 綱手が報告書を置いて質問する。


 「中忍には部隊長としての素質も必要になるのは知っているな?」

 「はい」

 「ヒナタは、率先して部隊を率いるタイプか?」

 「そういえば……」

 「私は、ヒナタがあの性格でどんな部隊に組み込まれても成果を上げているのは、
  紅班の構成によるところが大きいと思っている」

 「どういうことですか?」

 「恐らく三代目が意図して班員を分けたと思うのだが、この班員は性格がバラバラなんだ。
  攻撃的なキバ。
  冷静なシノ。
  内気なヒナタ。
  一見するとバランスが取れるとは思えない」

 (確かにそうかもしれない)

 「だが、紅班は成果をあげた。
  バラバラのようだが、お互い助け合い協力し合ってな。
  そして、その経験があったからこそ、
  ヒナタは別部隊に組み込まれても上手く対応が出来たと考えられる」

 「なるほど。
  三代目は、深い考えですね」

 「ああ。
  常に里の皆を気に掛けていた証拠だ」

 (担任だったうみのイルカも、一役買っていたようだがな)


 綱手は両手を組む。


 「だが、一点だけ経験が積めないものがあった」

 「先ほど言われていた部隊長としての経験ですね?」

 「そうだ。
  性格の複雑な部隊で任務をこなせても、班員を率いる経験は少ないと思われる。
  戦うスタイルが近接タイプとはいえ、
  ヒナタの性格から考えると、一歩引いてキバやシノをサポートしていたのではないか?」

 「その可能性は高いですね」

 「三代目なら、中忍になったばかりのこの時期に、何らかの対策を取ったのではないかと思うのだ。
  そう、猿飛先生なら……。
  ・
  ・
  私も教えを貰った身だからな。
  もし、そうならば意図を汲んであげたいのだ」

 「綱手様……」


 シズネは力強く頷く。


 「私も賛成です。
  我々の手で、何とかヒナタに経験を積まさせてあげましょう」

 「そう言ってくれると助かる」


 そういうことならと、一旦、シズネは席を外し、現在ある任務を纏めたリスト表を別室に取りに行く。
 そこでヒナタが関わった任務の二年分のリストを手に入れると、シズネは綱手の居る部屋に戻ってリストを手渡した。


 「まず、与える任務を選ばないといけませんからね。
  どのような任務にしますか?」

 「そうだな……」


 綱手がリスト表を見て任務を選ぼうとして、ふと思い出す。


 「……と、その前に班員のうち二人は決定済みだ。
  それを判断材料の一つとしなくてはな」

 「決定なんですか?」

 「ああ。
  サクラといのを入れる」

 「サクラといの?
  何故ですか?」

 「いきなり見ず知らずの人間に命令は出し辛いだろう?
  かと言って紅班の班員では、今までと変わらない」

 「なるほど。
  ・
  ・
  では、女の子同士ということで、テンテンでもいいのでは?」

 「それはステップⅡだ。
  別任務で年上対策は行なう」

 「随分と肩入れしますね?」

 「そう言うな。
  誰にだって初めてはある。
  例えとして、お前の修行時代の最初の方を赤裸々に語ってやってもいいんだぞ?」

 「そ、それは止めてください!
  分かりましたから!
  私にも身に覚えがありますから!」


 綱手はシズネの反応を楽しむと話を進める。


 「さて。
  サクラといのを部隊に加える理由だが、もう一つある。
  ヒナタと親しい仲で、私とも関係が深いからだ」

 「二人は綱手様の弟子ですからね」

 「ああ。
  私の意図も汲んでくれるだろう。
  そう言った意味では、ヒナタに対するフォローや助言もしてくれると思う」

 (サクラもいのも信頼されるようになったのね)


 シズネは後輩の成長に微笑むと、次に当然出てくる疑問を口にする。


 「綱手様。
  そうすると、最後の班員はどうするのですか?」

 「実は、そこを悩んでいるのだ」


 シズネが首を傾げる。


 「どうしてですか?
  フォロー役が二人も居れば、十分だと思いますが?」

 「そうではない。
  三人目の班員には不安要素を入れたいのだ」

 「よく……分からないのですが?」


 綱手が指を立てる。


 「いいか?
  サクラやいのでは班員として優秀過ぎるのだ。
  どちらも中忍でありながら、アカデミーの成績では上位だったはずだ。
  つまり、この二人を組み込んでしまったがために、この班では突発的な不安要素が発生しにくいのだ。
  部隊長には緊急事態でも部隊員を導く、リーダーシップが必要だ」

 「そういうことですか。
  つまり、不安要素を入れることで、緊急事態の対策の経験も積ませるのですね」

 「うむ」

 「で、不安要素ですよね?」

 「不安要素だ」

 「…………」


 二人は、眉を顰める。


 「直ぐに思い当たった人物が一人……」

 「奇遇だな。私もだ」

 「ヤオ子か……」
 「ヤオ子ちゃんか……」


 同じ人物の言葉が同時に出ると、二人は悩む。
 綱手は改めてシズネに訊ねる。


 「実際のところなんだが、アイツって任務の失敗はないよな?」

 「ええ、優秀ですよ。
  特にDランク任務で誰も出来ないから、仕方なく回した任務が成功して返って来ますからね」

 「そうなんだよな……。
  ・
  ・
  じゃあ、普段のトラブルって何なんだ?」

 「任務前とか……。
  任務途中とか……。
  任務後で発覚して修正させられるエロ関係?」


 綱手が頭痛そうに、額に手を当てる。


 「それって、どうなんだ?
  ある意味、任務は全部失敗していないか?」

 「そうですよね……。
  ただ、任務の評価をするのは依頼主ですし、依頼主は結果さえ残せば満足でしょうから」

 「そうだな……」

 「ちなみに、この前の顔岩作りは、どのような評価に?」

 「…………」


 綱手は更に頭痛そうに額に置いた手を握る。


 「綱手様?」

 「あれは……黒歴史として封印した」

 「……いいんですか?」

 「……忘れたいから言わないでくれ。
  あれは、私のトラウマだ。
  特に自来也やナルトには絶対に知られたくないものだ」

 「はは……」

 (二人とも食いつきそうですね。
  でも、ヤオ子ちゃんか木ノ葉丸君から漏れそう……)


 綱手は机を拳で叩く。


 「そんなことより、三人目だ!
  誰にするのだ!」

 (半ば強引に進めたような気もしますが……)


 シズネは諦めた感じで答える。


 「ヤオ子ちゃんでいいんじゃないんですか……」

 「いいのか?
  後悔しないな?」

 「後悔しないわけないじゃないですか。
  ただ、適度にトラブルを発生させるスキルなんて、あの子以外に誰が持っているんですか?
  逆に私が知りたいぐらいですよ。
  そんな迷惑千万な能力を保有している忍者なんて」

 「……だな。
  では、三人目はヤオ子に決定だ」


 こうして、短期任務のヒナタ班が結成されることになった。


 …


 翌日の午前中……。
 サクラといのがシズネに呼び出される。
 綱手の説明に二人は快く承諾し、ヒナタのために一肌脱ぐことを約束してくれた。
 そして、ヤオ子の名前が出た瞬間に二人は頭を抱えた。


 「ヤオ子も居るんですか?」

 「そうしないとトラブルは起きない」

 「別に意図的にトラブルなんて起こさなくても……。
  数をこなせば、一回ぐらいトラブルは起きますよ」

 「それもそうだがヤオ子のトラブルなら、最悪、アイツを殴れば収まるだろう?
  それにトラブル発生率は100%に限りなく近い」

 ((そんな理由なんだ……))

 「本当の任務で緊急事態というのも大変だろう。
  リハーサルだと思ってくれ」


 サクラは溜息を吐いて、いのに話し掛ける。


 「まあ、ヒナタのためだから受けますけど」

 「本当に大丈夫かしら?」


 大いなる不安を残して任務が始まろうとしていた。


 …


 午後、事情を知っているサクラといの、そして、何も知らないヒナタとヤオ子が綱手の前に呼び出された。
 この時、全員に任務の内容は伝わっていない。

 綱手が咳払いをすると、サクラ、いの、ヒナタが姿勢を正し、ヤオ子は端から三人に目を向けた。


 「こうやって皆さんが胸を張ると、
  乳の大きさが一目瞭然に比較できますね♪」


 全員がこけた。
 早速、綱手がヤオ子を注意する。


 「ヤオ子!
  第一声がそれか!」

 「?」

 「普通、中忍が全員姿勢を正したら合せるだろう?」


 ヤオ子は頭に手を当てる。


 「ここに全員で呼び出されるのも久しぶりで……。
  それに人に合せるなんて任務中の仕事ぐらいですから、
  あたしには、そんな習慣は元よりありません」


 綱手が額を押さえる。


 「分かったから……。
  もう、黙っててくれるか?
  お前と話すと、火影としての威厳が失われる」

 (多分、ヤオ子と関わる人、全員が威厳を失っているわね……)

 (凄いわね。
  任務前にトラブル発生じゃない。
  でも、ヒナタを隊長に任命してからトラブルを起こして欲しいわよね)

 (ヤオちゃん……。
  何で、火影様に遠慮がないんだろう?)


 ヤオ子は、やれやれと両手をあげると溜息を吐く。


 「じゃあ、あたしは静かに皆さんの胸を凝視していますね」

 「「「するな!」」」
 「やめなさい!」
 「しないで!」

 「ああ言えばこう言う……。
  じゃあ、どうすれば?」


 いのが苛立ち混じりに答える。


 「息でも止めてれば?」

 「あたしに死ねと?」


 今度は、綱手が苛立ち混じりに注意する。


 「あ~! うるさい!
  私の胸でも何処でも見ていろ!」

 「そうします」


 ヤオ子の視線は、一点に集中した。
 綱手が咳払いをする。


 「ヤオ子は無視して、任務を伝える」


 改めてサクラ、いの、ヒナタが姿勢を正す。


 「任務は、ある村を襲う盗賊達から村の娘達を守ることだ。
  任務としてはCランクだ。
  ・
  ・
  そして、この班の隊長はヒナタに頼もうと思う」

 「私ですか?」

 「ああ。
  頼むぞ」


 ヒナタは緊張し、不安な顔をした。
 早速、サクラとヒナタが声を掛ける。


 「自信を持って。
  私達は隊長としての資質も認められたから、中忍になることが出来たんだから」

 「そうよ。
  今回は、私達も一緒なんだし」

 「二人供……。
  ありがとう。
  頑張ってみるね」


 綱手とシズネが、三人の信頼関係に安堵の表情を浮かべる。


 「では、詳細も伝える。
  この村は、二年ほど前から定期的に襲われているということだ」

 「定期的に……ですか?」

 「そうだ。
  村祭りで行なう巫女役の娘達が攫われそうになっている」


 綱手の胸を見続けていたヤオ子が反応する。


 「どういうことですか?」

 「言い方は悪いが…その……」

 「その先は、いいです」

 「ヤオ子……」

 「…………」


 怒りに満ちた顔で、ヤオ子がダンッ!と踏みしめる。


 「つまり!
  そいつらは、あたしの許可もなく村の美少女達を襲ってたんですね!
  ・
  ・
  が~~~っ!
  あたしがしたくても出来ないことを!
  女の敵がーーーっ!」


 代表してサクラといののグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「「お前も敵だ!」」

 「何で?」


 綱手が溜息交じりに答える。


 「本音が漏れてたぞ……」

 「…………」


 ヤオ子は窓の外へ視線を移す。


 「今日は、いい天気ですね~。
  鳥が気持ち良さそうに飛んでいます」

 「誤魔化しても手遅れだがな」


 ヤオ子の発言に、サクラが不安を口にする。


 「ヤオ子を連れて行って大丈夫ですか?
  盗賊と一緒に襲って来ませんか?」

 「その時は、息の根を止めても構わん」

 「分かりました」

 「ちょっと!」

 「やりすぎだよ……」


 ヤオ子は感動してヒナタに目を向ける。


 「ヒナタさん……。
  あなただけです!」

 「でも、あまり酷いことした時は、気絶して貰うからね」

 「気絶?
  柔拳炸裂?」

 「痛くない方法でね」

 「…………」

 (痛くない柔拳で気絶……。
  柔拳の新技かな?
  それともバキみたいに頚動脈をそっと……。
  ・
  ・
  その最初の犠牲者にはなりたくないですね)


 ヤオ子が無言で視線を逸らすと、綱手が、本日、何度目かの溜息を入れて気を取り直す。


 「何処まで話したか……。
  ・
  ・
  そうだった。
  とりあえず、今までは、寸でのところで誘拐は阻止して来たが、今回は盗賊達も本気らしい。
  村の娘達を保護し、出来ることなら盗賊全員の捕獲を頼む」

 「「「はい」」」

 「あたしは、村の娘だけを丁重に保護します」


 綱手のアイコンタクトで、サクラといののグーが炸裂する。
 師弟の絆はバッチリだ。


 「お前、本当に黙れ!」

 「……黙ります」


 地面に突っ伏すヤオ子を無視して、話は進む。


 「オホン!
  ・
  ・
  話を戻すぞ。
  身代わりになる上で、お前達には村の娘達の代役をして貰う」

 「それって……」

 「まさか……」

 「そうだ。
  巫女の役だ」

 「「やっぱり~!」」


 サクラといのの声が重なった。


 「安心しろ。
  村の娘達も特別な用意をしたりはしていない。
  それに衣装も悪くないぞ」


 綱手が村の巫女の写真をサクラ達に向ける。


 「そうですね」

 「いい記念になるかも」

 「安心しました」

 「だろう?
  少し大変なのが、この中の誰かが村の神に捧げる歌を村人達の前で歌うだけだ」

 「「「え?」」」


 シズネが綱手に耳打ちする。


 「予想通りの反応が返って来ましたね?」

 「ああ。
  だが、身代わりをする以上は避けて通れん」


 サクラといのとヒナタが目を合わす。


 「私は、嫌よ」

 「私だって」

 「私も」

 「さっき見せた絆は、何処にいったんでしょうね?」

 「無理もないな」


 そのお互い譲り合う場の中で、ヤオ子がノソノソと復活する。


 「くくく……。
  何を今更……」

 「「ヤオ子?」」
 「ヤオちゃん?」

 「あんたら、うちのシャンデリアを剥ぎ取ってミラーボールに付け替えたうえに、カラオケの機械を設置しただろうがっ!
  今更、歌を歌いたくないなんて言ってんじゃないですよ!」

 「それとこれとは、話が別でしょ!」

 「そうよ!
  カラオケなんてのは、ノリで歌ってんだから!」

 「そ、そうだよ!」

 「よく言いますよ!
  気持ちよく『Pi───』とか『Pi───』とか、ついでに『Pi───』を熱唱してたクセに!」


 ※いのの声優さんとヒナタの声優さんが歌ったものがあるらしい……。
  『Pi───』の中身はそれです。
  残念ながらサクラの声優さんの情報はよく分かりませんでした。
  特にヒナタの声優さんは歌いまくっているので、
  それに合わせて、このSSではヒナタはカラオケで歌いまくっている、もしくは歌わされまくっている設定になっています。


 「何か途中に変なのが入りましたね?
  兎に角!
  ヒナタさん! あなたが歌いなさい!」

 「えーっ!?」

 「それがいいかもね」

 「そうね」

 「そ、そんな……」


 綱手が溜息を吐く。
 既にヒナタは班員にタジタジになっている。
 そこで、綱手からフォローが入る。


 「ヒナタ。
  嫌なら、隊長命令を使っていいぞ」

 「「「え?」」」


 サクラといのとヤオ子の立場が一気に逆転した。
 ヒナタはオドオドと全員を見たあと、そっと指差す。


 「……じゃあ、ヤオちゃんで」

 「何で、あたしなの!?」

 「このメンバーでそんな命令できるのヤオちゃんしか居ない……から」

 「いや、ヒナタさん。
  班員を庇って、隊長さんが歌ってもいいんですよ?」

 「知らない人達の前でなんて歌えないよ!」

 「…………」


 ヤオ子は頭を掻くと、溜息を吐く。


 「まあ、いいですけど。
  あたしのレパートリーは知ってますよね?」

 「「「「「アニソン……」」」」」

 「神聖な儀式の場で、熱血ロボットアニメの主題歌を歌っても大丈夫ですか?」

 「……歌うな。
  それに歌は決まっている。
  村の神に捧げる歌だ」


 綱手から出た言葉に、ヤオ子が複雑な顔をする。


 「あの……」

 「まだ、文句があるのか?」

 「もう、諦めましたよ。
  ただ……」

 「『ただ』何だ?」

 「変態が神聖な神の歌なんて歌っていいんですかね?」

 (((((ダメかもしれない……)))))


 神聖な儀式に神様も怒りそうだ。
 ……が、綱手は笑って誤魔化しながら答える。


 「む、村の人間も見た目では分からんだろう……」

 「いいんですね?
  歌うのが変態で?」

 「この際、目を瞑る。
  その代わり、村人に正体をバラすな」

 「約束なんて出来ませんよ。
  村の中にあたし好みの子が居るかもしれないし……。
  その時は問答無用で触りに行きます」


 サクラといのとヒナタのグーが炸裂する。


 「絶対に自重しなさい!」

 「木ノ葉の印象に関わるのよ!」

 「村の子に手を出さないで!」

 (やっぱり、人選を間違えたか?)

 (ヒナタには荷が重いかも……。
  敵は盗賊よりも、ヤオ子ちゃんみたい……)


 綱手が締めに入る。


 「兎に角!
  話は、ここまでだ。
  任務の内容は伝えた。
  ヒナタ班は、準備が出来次第、出発するように!」

 「「「はい!」」」

 「……はい」


 こうして、ヒナタ班は盗賊の出るという村に向かうことになった。


 …


 村までは、忍の足で走り続けて一日。
 約束の日にちまでの時間に余裕があるので、夜の移動を避けて二日掛ける。
 そして、村に到着した頃には、既に祭りの準備も終盤に差し掛かり、巫女の歌の催しを期待して村全体が活気付いていた。


 「困ったわね……」

 「ええ……」

 「村の規模が思ったより大きいね……」

 「あと少し大きければ里か町ですね……」

 ((((ここで歌うのか……))))


 村の依頼主に会う前に全員がヤオ子に念を押す。


 「ヤオちゃん!
  いい?
  絶……対に変なことしちゃダメだからね!」

 「失敗は死を意味するわよ?」

 「じゃあ、サクラさんが歌えば?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「嫌よ! 歌う役は隊長命令よ!」

 「ううう……。
  あんまりだ……」

 「絶対に恥をかかせないでよね!」

 「いのさんまで……。
  ・
  ・
  何で、一番幼い子にプレッシャーを掛けるんですか?」

 「あんたに緊張するなんて感情があるの?」

 「ありますよ。
  ストーカー行為は、いつも相手との駆け引きでドキドキです」


 全員のグーが炸裂する。


 「任務じゃ緊張しないのか!」

 「あんた、そんなことしてるの!」

 「真面目にやってよ!」

 (突っ込みが三倍で返ってくる……)


 ヤオ子は頭を擦りながら言葉を返す。


 「少し手加減してよ。
  立場は分かってますから。
  あたし、これでもDランク任務じゃ失敗なしなんですよ?
  巫女に変装して歌を歌うぐらい、しっかりやりますよ」

 「信用していいのかしら?」

 「今更だけど、歌い手代える?」

 「…………」


 ヤオ子に不安が集中する中、ヒナタは少し考えて声を掛ける。


 「ちょっと、いいかな?」

 「?」

 「やっぱり、歌い手はヤオちゃんにして貰おう。
  歌うのに集中した時は、隙が出来ると思うんだ。
  だから、中忍の私達がしっかりと警戒した方がいいと思うの」

 「確かにそうかも」

 「歌うのが嫌で、そっちまで気が回らなかったわね」

 「ダメ忍者どもが」


 サクラといののグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「あんたのせいで冷静な判断力が欠如したんだろーが!」

 「言うに事欠いて『ダメ忍者』とは何よ!
  私達、これでも中忍よ!」

 「だったら、中忍らしくしてくださいよ」

 「「あんたが、そうさせないんだ!」」


 ヒナタ班、依頼主に会う前から崩壊か?
 サクラ、いの vs ヤオ子で戦いでも起きそうな雰囲気だった。


 「ちょっと、落ち着いて!
  兎に角、依頼主に会って話を聞こう? ね?」

 「そ、そうね」

 「ごめん、ヒナタ」

 (綱手師匠の狙い通りかも……。
  ヤオ子のせいで
  ヒナタがしっかりしないといけない立場になってる)

 (ヤオ子の暴走が激し過ぎて、フォローどころじゃない……。
  私達の方が掻き回されてる感じがする……)


 ヤオ子の暴走の前に、サクラといのは自分達が役に立たないかもと思い始めた。


 …


 ヒナタに続いて、村の依頼主である村長に会いに行く。
 村人達は忍の衣服に身を包んだヒナタ達を珍しそうに眺めたが、直に観光客の類と判断すると祭りの準備を再開した。
 そして、何人かの村人に尋ねて村長の居る、村の奥にある湖へと移動した。


 「すいません」

 「ん?」

 「木ノ葉から依頼を受けに来ました」

 「おお。
  美しいお嬢さん方だ。
  これなら、村の娘達の代役にぴったりですな」

 「あ、ありがとうございます」


 ヒナタは頑張って村長と話をしている。
 村長がヒナタに話し掛ける。


 「あなたが責任者ですか?」

 「そうです」

 「お若いですな」

 「そ、そういう任務だと伺ってますから」

 「そうでしたな」


 村長は笑っている。
 村長ジョークのようだった。


 「あの……早速、任務を始めたいんですけど」

 「ん? 祭りは、明日ですが?」

 「盗賊が出るかもしれないので、
  村の地形と催しの順番なんかを把握しておきたいんです」

 「なるほど。
  その通りですな」

 「あと、巫女の衣装の方も」

 「何故ですか?」

 「武器を隠せる場所があるかどうか──」

 「ダメです」

 「え?」

 「村の神の前に武器を持つなど不謹慎です」

 「そ、そうですか。
  すいません……」

 (謝らなくてもいいんじゃないの?)

 (ヒナタ、頑張れ。
  今のところ、問題ないわよ)

 (内気な女の子が無理して気丈に振舞うのって……いいですね~♪)


 村長が湖の隣に設置された小屋を指差す。


 「とりあえず、あちらに移動しましょう。
  机もありますんで、地図と催しの品目を用意させます」

 「分かりました」


 ヒナタ達は、小屋へと移動した。


 …


 小屋の中で、各々荷物を下ろす。
 ヒナタ、サクラ、いの、ヤオ子の順で座り、お茶も用意された。
 そして、早速、地図を広げて説明が始まる。


 「正直、我々は催しの品目は重要ではないと思っています」

 「どうしてですか?」

 「盗賊達は、祭りの最後に巫女が現れるのを知っているからです」


 サクラが質問する。


 「盗賊は、本当に娘達が目当てなんですか?
  村の金品を狙っているという可能性はないんですか?」

 「ないと思います。
  今まで、二度の襲撃を受けましたが娘達が襲われただけです」

 「よく無事でしたね?」

 「ええ。
  盗賊よりも我々の方が人数が多かったので。
  ・
  ・
  ところが、去年は人数が増えていたのです。
  そして、その傾向が続くなら──」

 「今年は、もっと増えていると?」

 「はい。
  だから、警護をお願いしました」


 今度は、いのから質問が出る。


 「二度、盗賊を追い払ったんですよね?
  どのように?」

 「一回目は、娘達を庇って村人達の奥へ隠しました。
  二回目は、あらかじめ武器を椅子の下に」

 (盗賊相手に戦ったのか……。
  結構、過激な村ねぇ……。
  っていうか、さっき、神聖な巫女が武器を持つなとか言ってなかった?
  ギャラリーは、いいの?)

 「その時、盗賊達は何処から?」


 村長が地図を示す。


 「最後の催しは、湖に特設の踊り場を設けます。
  周りは崖に近い岩場ですが、その湖横の岩場の上から飛び出して来ました」

 「飛び降りて来たんですか?」

 「はい」

 (派手な登場ね……)


 ヒナタが疑問を口にする。


 「今回は、どうなんだろう?
  また岩場からかな?」

 「正面突破してくるかもしれないわよ?
  村の入り口から攻めれば、湖は岩場で囲まれて逃げ場がないんだから」

 「そうだね」


 一方、静かにしているヤオ子は、別のことを考えていた。


 (盗賊さんの現れ方が紅の豚の空賊みたいです)


 考えていたのは『紅の豚』のことだった。
 ヤオ子の頭の中では、その場面での少女が空賊を説得するシーンが流れ始めていた。
 そして、ヤオ子を置いて話は進む。


 「最悪なのは囲まれちゃうことかな?
  村の方達が包囲されちゃったら、私達だけじゃ守り切れない」

 「そうね。
  岩場を背にして一方向だけに集中させたいわね」

 「そして、出来るなら安全なところまで避難して貰うか?」


 ヒナタが村長を見る。


 「避難出来そうな場所はありますか?」

 「いいえ、特には……」

 「では、私達を信じて岩場を背に移動してくれますか?」


 ヒナタは村長を真剣に見つめる。
 これは相手との意識合わせが成立しないと出来ない。
 そして、村人達がヒナタ達に疑いを持って行動すれば、警護する対象領域が増えることになる。

 また、この作戦を取る以上、ヒナタ達は盗賊を殲滅しなければいけないため、リスクも大きい。
 それでも、相手は盗賊で忍者ではない。
 故にCランクの任務。
 これは、自分達が中忍であるという戦闘能力を信じた作戦でもあった。

 村長が答えを出す。


 「分かりました。
  何より、我が村に撤退の意思はありません」

 「「「は?」」」

 「盗賊は、今回で全滅させるのです!」

 「…………」

 (((この村って好戦的だ……)))


 兎に角、作戦は決まった。
 ヒナタ達は、前回の盗賊達の行動を考え、この後、岩場の上にブービートラップを仕掛けることにした。
 そして、本日の行動が決定した頃、ヤオ子の頭の中では『紅の豚』の最後のエンドロールが流れていた。


 …


 村長との話し合いの間、静かにしていたヤオ子を誰もが任務に従事してくれていると思っていた。
 しかし、それは大きな間違いで、ヤオ子の頭の中では『紅の豚』が回想され続けていただけだった。
 故にブービートラップを仕掛ける時、理由を聞き返したヤオ子に誰もが失望した。

 こうして祭り前日が終わり、祭り当日を迎えようとしていた。


 …


 祭り当日……。
 村の娘達の代わりにヒナタ達が巫女の衣装に袖を通す。
 しかし……。


 「「「どうやって着るの?」」」


 巫女の衣装は、古代風で見たこともない作りの服になっていた。
 そのため、ヒナタもサクラもいのも衣装の着方が分からなかった。

 そんな中で軽快に衣擦れの音を響かせる人間が居る。
 ヤオ子は、いつものサスケカラーの忍衣装の上から巫女の着物を着付けていた。
 サクラが質問する。


 「ヤオ子。
  何で、普通に着れるの?
  この衣装、着こなすの大変よ?」

 「任務で七五三の衣装を着付ける仕事があって覚えたんですよ」

 「じゃあ、私達の衣装も着付けてくれる?」

 「いいですよ」


 ヤオ子は自分の衣装を着込むと、サクラにテキパキと衣装を着付ける。
 続いて、いの。
 続いて、ヒナタ。
 そして……。


 「ハッ! セクハラし忘れた!」

 「「「するな!」」」


 全員からグーが炸裂した。
 ヒナタも段々とヤオ子に突っ込みを入れるのに躊躇いがなくなって来た。


 「ねぇ、ヒナタさん」

 「何?」

 「武器を持たないのは了解なんですけど。
  靴……どうします?
  こればっかりは、戦闘に支障が出ると思うんですけど?」

 「そうだね。
  ・
  ・
  そうだ。
  ヤオちゃんは影分身を使えたよね?」

 「はい」

 「盗賊が現れたら、出せるだけ出してくれないかな?
  そこで盗賊が驚いて動きが止まったら、私達は靴を履き替えるから」

 「なるほど」

 「私達が戻ったら、ヤオちゃんが履き替えて」

 「分かりました。
  それならホルスターは兎も角、腰の道具入れぐらいは付けれますね」

 「うん。
  だから、道具入れは整理し直そうか?」


 ヒナタが全員に振り返る。


 「そうね」

 「ええ」


 サクラといのも賛成する。
 そして、各々、靴を足袋に履き替え、道具入れと靴を取り易い位置にセットする。


 「後は、待つだけね?」

 「まだだよ」

 「?」

 「髪は下ろさないといけないんだって」

 「「「そうなんだ」」」


 サクラは髪を留めていた額当てを外し、いのはポニーテールの髪を解く。
 ヤオ子は……。


 「ねえねえ♪
  見てください♪」


 ポニーテールを髪が流れるように解く。


 「どうです?
  これで男の子はメロメロです♪」


 ヤオ子が悶えるとヒナタは苦笑いを浮かべ、サクラは呆れた目を向ける。
 一方、いのだけが額を押さえる。


 「私、あんなことをしてたのか……」

 「どうしたの?」

 「いや、ちょっとね……」

 「?」


 恐らく、アスマ班とガイ班の人間しか、中忍試験中のいのの行動を知らない。
 そして、全員、巫女の衣装に着替え終わり、少し雰囲気が変わる。


 「何か落ち着いた気分になるね」

 「いい体験かも?」

 「意外と似合ってるわよね? 私達?」

 「あたしは?」

 「…………」

 「何故、沈黙?」


 サクラが腕を組む。


 「何だろう?
  髪も下ろして見た目も変わったのに、いつも通りのヤオ子だわ」

 「多分、締まりのない顔をしているからよ」

 「いのさん、酷い……」

 「試しに真剣な顔をしてみたら?」

 「やってみます」

 「…………」


 真剣な顔をしてみたらしいが、ヤオ子の雰囲気は変わってない。


 「変化ないわよ」

 「困りましたね。
  これがデフォルトみたいです」

 「じゃあ、営業スマイルでもしたら?」

 「それ得意です」


 ヤオ子の目がスゥッ流し目になり、口元が真っ直ぐに結ばれつつも穏やかな静かな笑みを湛える。
 百万ドルの営業スマイルだった。


 「「「うわ~……」」」


 大化けした。


 「別人ね」

 「何で、営業スマイルの方が凛々しいの?」

 「ヤオちゃん、変だよ……」

 「もう少し、神聖さが欲しいわね」

 「そうですか?
  じゃあ、以前勤めた尼寺の僧の雰囲気を」

 (相変わらず幅広く手掛けているわね)

 (尼寺で何をしたのかしら?)


 目じりをやや落とし、背筋を気持ち伸ばすと、ヤオ子の雰囲気が変わる。
 落ち着いた空気の中に神秘性が漂い始めた。


 「どうですか?」

 「「「誰?」」」

 「変ですか?」

 「申し分ないわ……」

 「よかったです」

 「歌もその状態で歌えば?」

 「そうですね。
  どうせ、任務だし。
  Dランクの営業だと思えばいいですね」

 (つまり、村人を騙して歌うわけね。
  特に何の感情も込めずに……。
  ある意味、プロの姿よね……)

 「ヒナタさん。
  歌詞とかあります?」


 ヒナタは、周りを見回す。


 「用意されてないみたい。
  聞いてくるね」

 「待ってください」

 「何?」


 ヒナタが首を傾げる。


 「ヒナタさんはリーダーですよ?
  そんなのは、あたしに言ってください」

 ((ヤ、ヤオ子がまともなことを……))

 「でも……」

 「あたしは、ヒナタさんのそういう優しいところが大好きです。
  でも、ヒナタさんはリーダーです。
  嫌でも班員より上の立場だと認識しないといけません。
  だから、あたし達に命令してみませんか?」


 ヤオ子がいつもの緩んだ顔でヒナタに微笑むと、ヒナタは安堵した表情で頷く。


 「……そうだね。
  適材適所に仕事を振り分けないとね。
  ・
  ・
  ヤオちゃんは村長さんにお伺いを立てて歌の練習。
  その間に私達が実際の舞台で作戦を考えるから」

 「分かりました。
  じゃあ、行って来ます」


 ヤオ子が、更衣室としていた小屋を後にした。


 「…………」


 いつもより落ち着いているヤオ子に驚いて、三人は出遅れた。
 しかし、それも仕方がない。
 ヤオ子のDランクの任務中の姿など滅多に見ない。
 それに冷静な仕事姿を見せるような任務は、大抵がヤオ子一人になる。
 今や雑務に関しては、ヤオ子の仕事に合わす忍を逆に選ぶようになっていたのだ。


 「私達も行こう」

 「そうね」

 「珍しくヤオ子がまともだしね」


 ヒナタ達は湖の特設舞台に移動し、広さや敵の見える位置を確認する。
 そして、村人達を移動させる場所を念入りに検討し始めた。


 …


 ヤオ子の歌の指導をかつての巫女だったお婆さんが担当する。
 指導は、かなり本格的だった。


 「少し違うのォ。
  そこはこう!
  ・
  ・
  ……のぉ~~~お!」

 「……のぉ~~~お!」

 「そうじゃ。
  筋がいいのォ。
  一回で修正するとは」

 「まあ、あたしは木ノ葉では千の雑務をコピーした忍者……。
  雑務版コピー忍者と呼ばれることもありますから」

 「は?」

 「あはは……。
  気になさらず」

 「よく分からん娘じゃな。
  次は、振り付けをするぞ」

 「……え?
  歌うだけじゃないの?」

 「何を言うか!
  神に捧げるのは巫女による神聖な踊りもじゃ!」

 (綱手さん……。
  これ練習期間が必要でしたよ……)


 ヤオ子はギリギリまで歌と踊りの練習をさせられた。


 …


 時間は飛び、日が傾き始め、祭りも終盤に向かう頃……。
 村人達が湖の周りに集まり始めた。
 ヒナタ達は検討した作戦を村長に伝え、村人へ移動するプランを説明して貰った。
 そして、ヤオ子がヒナタ達の元へと戻って来た。


 「遅かったね」

 「ええ。
  結構、神聖な祭りみたいで、今まで歌だけでなく踊りの指導も……」

 「あんた、踊ってたの?」

 「はい」

 「私達も踊るの?」

 「いえ。
  ヒナタさん達は供え物を持って立っているだけです。
  立ち位置は、規則性……等間隔とか三角形とかにすれば、
  今回は目を瞑るってお婆ちゃんが言ってました」


 ヒナタが頷く。


 「うん、分かった。
  じゃあ、打ち合わせ通りにするね」

 「打ち合わせ?」

 「うん。
  舞台に逆三角形にして、ヤオちゃんに真ん中で歌って貰うの」

 「逆三角形?」

 「うん。
  私は白眼があるから、後方からでもヤオちゃんを通り越して村人達を見れる。
  そして、後方の岩壁も」

 「なるほど。
  サクラさんといのさんを前面に置くのは?」

 「万が一の時に村人の近くに置くの」

 「さすがですね」

 「合図も、私が後ろから出すから」

 「はい。
  お願いしますね」


 ヤオ子は、ヒナタが少し頼もしかった。


 「じゃあ、準備を始めようか」

 「はい」


 村人達の気配を感じ、サクラが呟く。


 「それにしても、いきなり本番か……」

 「ヤオ子、大丈夫?」

 「どうだろう?
  結構、踊りは複雑だったし……。
  玄人の目を誤魔化せるかな?」

 「複雑なんだ」

 「はい。
  ・
  ・
  いや、複雑というか流線美を出すのが難しいというか……。
  兎に角、それで時間が掛かりました」

 「…………」

 (拙いかもしれない……)

 (再現出来ないんじゃないの?)

 (早く盗賊が出て来てくれるのを願うしかないわね)


 祭りの最後の催しが始まろうとしていた。


 …


 湖の前の観客席を村人達が埋め、それをヒナタ達が舞台近くの小屋で出番を待つ。


 「じゃあ、そろそろ」

 「ですね」


 サクラといのは供え物の花束を……。
 ヒナタは供え物の食べ物を……。
 ヤオ子は踊りに使う神聖な枝をそれぞれ持っている。


 「皆、最後の確認をするね。
  ・
  ・
  白眼!」


 ヒナタが周囲の状況を白眼の広い視野で確認する。
 サクラが訊ねる。


 「どう?」

 「居る……。
  正面はなし。
  岩場を囲むように近づいて来てる」

 「じゃあ、ブービートラップの餌食ね」

 「うん。
  行動は、悲鳴が聞こえてからにしよう。
  それまでは、お祭りの儀式を続ける」


 全員が頷く。


 「ヤオちゃん。
  しっかりね」

 「はい。
  ・
  ・
  ところで。
  あたしは、全力で擬態しますか?」

 「…………」


 ヒナタ達が首を傾げる。


 「何かな? それは?」

 「あたし、依頼料によって、本気出すレベルを制限しているんです」

 「そ、そうなんだ。
  いつもは、どうやってるの?」

 「綱手さんかシズネさんの指示を貰います」

 「どうしよう……」


 横から、いのが質問する。


 「一番高いランクだと?」

 「別人だって言われますね」

 「一番低いのだと?」

 「空き缶が飛びます」

 「「「じゃあ、一番高いので」」」

 「分かりました」


 ヤオ子の返事に、全員が不安を抱かずにはいられなかった。


 …


 祭りの儀式が始まる。
 サクラといのが花束を持ち、舞台前面の両端に移動し深々と頭を下げる。
 村人の間から、儀式が始まったと歓声があがる。
 続いて、ヒナタが後方の真ん中に立ち、深々と頭を下げる。
 そして、問題児の登場。


 「…………」


 歓声が止む。
 醸し出す雰囲気に静寂が支配する。
 落ち着いた微笑み。
 背筋を伸ばして優雅に歩く姿に誰もが息を飲む。
 ヒナタ、サクラ、いのは思う。


 (((確かに別人だ……)))


 ヤオ子は雑務任務遂行中モードで見事に化けきっている。
 そして、村の楽士が奏でる音楽が響き渡ると優雅に舞い始めた。
 村人の数人は、感動で涙を流し始めた。
 しかし、少女達は知っている……。


 (あの舞いには、何の感情も込められていないのよね……)

 (あの笑顔も、営業スマイルなのよね……)

 (何だろう……。
  真実を知っているから悲しい……)


 ヤオ子の歌が響く。
 清流のような旋律。
 波紋のように広がる温かさ。
 どれもこれも擬態だ。
 少女達は、涙が出て来た。


 (村人全員が騙されてる……)

 (いつものアニソンを熱唱してる声と違う……)

 (これがプロの雑務処理の仕事ぶりなのかな……)


 ヤオ子に歌と踊りを教えたお婆さんが何かを叫んでいる。


 『おお……その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし……。
  失われた大地との絆を結び、
  ついに人々を清浄の地に導かん……』

 (ナウシカ?)


 ヤオ子は歌い踊りながら、お婆さんの言動を気に掛ける。


 『また、婆ちゃんのナウシカ好きが始まった』

 『ほっほっほっ!』


 その声にこけそうになるが、ヤオ子は気合いで堪える。
 ヒナタ達も眉を顰める。


 (何なんですか! この村は!
  村長は好戦的で、お婆ちゃんがナウシカ好き!
  ・
  ・
  盗賊さん……早く襲って)


 しかし、盗賊が中々現れない。
 ヤオ子の歌と踊りは、最後の方に差し掛かる。


 (来ないのかな?)


 ヒナタが供え物で顔を隠し、白眼を発動する。


 (盗賊に動きが……ない?
  ・
  ・
  トラップは?
  ・
  ・
  作動してない。
  トラップの前で止まってる。
  何で?)


 更に白眼は、盗賊にアップする。


 (……泣いてる。
  ……盗賊も騙されてる)


 ヤオ子が絡むと予想外のことが起きる。
 盗賊の動きが止まって、ブービートラップが発動しないでいた。


 (困ったな……。
  こんなに広範囲に居られると、こっちも攻められない)


 仮に岩場の何処かを攻めれば、別の岩場から村人が襲われる。


 (これはヤオちゃんが歌い終わるまで、戦闘はないかもしれない……)


 ヒナタは動きのない今のうちに、岩場の盗賊の人数の割り振りを確認する。


 (岩場を囲んでいるなら、逆に村の入り口に誘導した方が安全だ)


 白眼の意識を後方から全体へと移動し、ヒナタは作戦を練り直す。


 (盗賊に気付かれずに避難場所を変えるには……)


 地形、盗賊の位置、安全させるのに最適な場所……。
 それらを導き出すと、ヒナタは擬態中のヤオ子に声を落として話し掛ける。


 「ヤオちゃん。
  聞こえたら合図を返して」


 ヤオ子が踊りの予定を変更して回転を加える。
 村人に背を向けると印を組む。
 すると、何かが水に落ちる音がして、ヒナタの足元からノックが聞こえる。


 「影分身を水中に落としました。
  何かありました?」

 「……影分身。
  そんな使い方も出来るんだ」

 「ええ。
  少しなら出せる範囲をコントロール出来るんです」

 「そう、助かった……。
  これなら、皆に作戦の変更を伝えられる」

 「変更?」

 「盗賊はヤオちゃんの踊りに見惚れてるの。
  だから、村人を岩場から入り口付近に移動するように変える」

 「入り口?」

 「私達が入り口に移動すると盗賊は焦ると思うんだ」

 「でしょうね。
  目的が逃げるんですから」

 「そうすると注意力が散漫になって、
  追って来た盗賊がブービートラップに掛かると思うんだ」

 (そうか。
  誘導を攻撃に利用するんだ)

 「初めからこうすればよかったですね」

 「それは結果だよ。
  盗賊が岩場から来るのは分からなかったんだから」

 「そうでした。
  ・
  ・
  では、あたしは舞台下からサクラさんといのさんに連絡をします。
  そして、猫にでも変化して村の方にも連絡します。
  最後に影分身を解けば本体にも情報が行きます」

 「待って。
  本体にも連絡。
  その後、小屋に戻って私達の荷物を持って移動して。
  十分な距離が確保できてから、装備を換えるから」

 「了解です。
  では、作戦開始の合図をお願いしますね」

 「うん。
  ヤオちゃんもしっかりね」


 影分身は舞台下の水面下を移動して、ヤオ子→いの→サクラの順番で連絡をする。
 その後、猫に変化して村長のところまで移動して作戦変更を伝える。
 この時、好戦的な村長が唇の端を吊り上げた。
 彼は、自分達も作戦の一端を担えることに歓喜したのだ。
 一抹の不安を抱えながら、影分身は小屋に辿り着くと変化を解いて荷物を纏めてヒナタの合図を待った。


 …


 ヤオ子の歌と踊りが終わり、最後に丁寧なお辞儀をする。
 その瞬間にヒナタが合図を出す。


 「作戦開始!」


 村人達が村の入り口に向けて走り出す。
 囮役のヒナタ達も遅れて走り出し、影分身は村人に紛れ込んだ。


 『バレてるぞ!』

 『巫女が逃げたぞ!』


 盗賊達が一斉に動き出す。
 瞬間、凄惨な悲鳴が響き渡る。


 「ヒナタ、作戦成功ね!」

 「うん!
  これで何割かは減ったし、動揺して動きも止まるはず!」


 影分身が荷物を持って引き返す。


 「靴と道具入れです!」


 荷物を置いて役目を果たすと影分身は煙になって消えた。
 ヤオ子を除くメンバーは、靴と道具入れを身につける。


 「あたしは、引き続き囮をします」


 ヒナタが頷くと指示を出す。


 「三方向で撃退するよ。
  ヤオちゃんは、私と中央。
  サクラさんが右。
  いのさんが左」

 「了解」

 「分かったわ」


 サクラといのが巫女の衣装を脱ぎ捨てる。


 「じゃあ、影分身を使うのはヤオちゃんだけど、私達も印を結ぶよ。
  私達が分身を出して囮を隠したって思わせるの」


 ヒナタも巫女の衣装を脱ぎ捨てると前に出る。


 「「「「影分身の術!」」」」


 ヤオ子の影分身に合わせてヒナタ達のカムフラージュの影分身のフリ。
 中央のヒナタの隣に一体。
 右側のサクラの後ろに二体。
 左側のいのの後ろに二体。
 ヤオ子の影分身が五体現れた。


 「散!」


 ヒナタの合図で三方から、盗賊撃退が始まった。


 …


 盗賊達は混乱している。
 巫女と思っていた四人のうち三人が忍者で、残りの一人も分身により本物を隠されてしまったからだ。


 『っ!
  兎に角、どれか一人が本物だ!』


 正体を曝して、ヤオ子と影分身を庇ったことで盗賊達は完全に誤解したようだ。
 村人よりも巫女の姿をしたヤオ子と影分身に視線が集中している。


 『今年の巫女は桁違いなんだ!
  失敗するな!』

 『『『『『オー!』』』』』

 「…………」

 (悲しい勘違いね……)

 (まさか巫女の正体が変態だとは思うまい……)

 (何で、この人達は女の子に……)

 (やり過ぎて、自分への危険度上げてない?)


 勘違いと狂気の中で戦いは続く。
 ヒナタの柔拳が流れるように盗賊達に当たり、一見、触れただけだがバタバタと盗賊が倒れていく。
 ヤオ子は思った。


 (ヒナタさんが通った後に道が出来たみたいです……)


 サクラの怪力が発動し、振り抜かれた拳が一人の盗賊に当たると弾丸のように吹っ飛んでいく。
 その盗賊は味方を巻き込んで岩壁にぶち当たると、糸が切れた人形のように首を折って気絶する。
 影分身のヤオ子は思った。


 (サクラさんが殴り飛ばした後に道が出来たみたいです……)


 いののクナイが華麗に振り抜かれる。
 低い姿勢で足の腱やクナイの後ろの突起部分で鳩尾を狙い撃ちにする。
 ヤオ子の影分身は思う。


 (いのさんが一番普通に見える……。
  クナイを用いた忍体術。
  そして、捕獲ということから命を奪わない。
  ・
  ・
  前の女子二人はやり過ぎの感を否めない……)


 ヤオ子と影分身は見ているだけで、やることがないといった状態だった。
 そんな中で先行しているヒナタからサクラへ指示が飛ぶ。


 「サクラさん!
  外に開き過ぎ!
  そこだと村の人に抜けちゃう!」

 「了解!」


 サクラが位置を修正し、戦線を指示された大きさに戻す。
 大多数を相手に少人数で戦線を維持するため、白眼を利用したヒナタの指示が何度か飛ぶ。
 サクラといのとヤオ子は気付き始めた。


 (((行動しやすい……)))


 白眼の視野は、ほぼ360°。
 敵の位置を把握して的確な指示が飛び、間違った情報がない。
 また、ヒナタが出す指示にもちゃんとした根拠があって、指示された側も理解できる。
 つまり、班員は安心して自分の敵と向かい合えるのである。


 (なるほどね。
  部隊長ヒナタか……。
  乱戦で戦うのに真価を発揮するのかもしれないわね)

 (敵の位置、味方の位置、全てを把握できる白眼。
  ヒナタが部隊長なら、指示が一回で済む。
  もし、ヒナタが班員なら、一度、部隊長に指示を仰がなければいけないけど、
  それは時間が掛かるし、緊急時は出来ない。
  ・
  ・
  ヒナタだけじゃない。
  部隊長に日向の人間を置く。
  これは結構、安心して戦える構成かもしれない)

 (ヒナタさんって、やる時はやるんですね。
  内気だから指示出せるのかと思っていたけど、切り替えるんですね。
  それに気のせいかサクラさんといのさんが、伸び伸び戦っている気がします)


 ヒナタが盗賊の一振りを躱すと髪の毛が数本舞う。
 それを気にせず柔拳を叩き込むと、再度、全体を把握する。


 (この人数なら……)


 ヒナタがヤオ子に指示を出す。


 「ヤオちゃん、参加して!
  この人数なら、後は殲滅戦!
  村の人まで抜かれない!」

 「了解です!」


 ヤオ子と影分身が巫女の服を脱ぎ捨てる。


 『こいつも忍者なのか!?』

 『じゃあ、今年の祭りは……』


 何故か村長が高らかに笑う。


 「はっはっはっ!
  愚か者共め!
  今年は、お前達が狩られる番じゃ!」

 ((((台無しだ……))))


 ヒナタ達は少しやる気を削がれたが、戦いを続ける。
 ヤオ子の参加で少しだけ攻める勢いが増す。
 そして、ヤオ子が参加したことで、いのの戦闘スタイルが変化する。


 「ヤオ子! 足止め!」

 「足止めって……。
  あたしだけ足袋で、若干、動きに難いんですけど……どの敵?」

 「出来るだけ一番強い奴!」

 「アバウトですね……。
  ・
  ・
  でも、期待には応えなきゃね!」


 ヤオ子の両手の指からチャクラ糸が伸びる。
 現在の限界5m。
 チャクラ糸がウネウネと拘束するための下準備の動きを始める。


 「今こそ! 貧乏少女が培ったあやとり技術を披露する時!」


 ヤオ子の指から伸びたチャクラ糸が盗賊の両手両足と近くの岩に絡みつく。
 そして、手を握り込む。


 「LES ART MARTIAUX!」


 チャクラ糸がピンと張り、盗賊を拘束した。


 「今です!」

 「何か不気味な術ね……。
  ・
  ・
  こっちも試したかった術で!
  心乱身の術!」


 いのが特殊な印を結び、術を拘束した盗賊に叩き込む。
 一瞬、盗賊は分からないという顔をする。


 「ヤオ子! 解放して!」

 「え?
  折角、捕らえたのに?」


 ヤオ子がチャクラ糸を切ると、解放された盗賊がいのの心乱身の術で同士討ちを始めた。


 「これで戦力が増えたわ」


 ヤオ子が盗賊を確認すると、盗賊は『体の自由が利かない』と叫びながら同士討ちを続けていた。


 「どうなってんの?
  幻術ですか?」

 「ちょっと、違うわね。
  心乱身の術は、秘伝忍術だからね」

 「確か心転進は精神エネルギーをぶつけるんですよね?
  心乱身の術は精神を保っていられるんですか?」

 「まあね」

 (どんな術なんだろう?
  相手のチャクラをコントロールして幻を見せたりするのが幻術。
  精神をぶつけて自在にコントロールするのがいのさんの秘伝忍術。
  幻術は、所詮、幻。
  いのさんの術は相手を操る。
  ・
  ・
  原理は似ていると思うんですよね。
  幻覚なら視覚関係の器官をチャクラでコントロール。
  いのさんの術なら、敵と認識する器官に精神エネルギーを流し込んでコントロール。
  ・
  ・
  送り込んでいるのがチャクラではなく、
  精神エネルギーというところがポイントなんですかね?
  自分の意志のエネルギーを送り込んでいるから操りやすい……。
  ・
  ・
  精神エネルギーを送り込むのは秘伝なんでしょうね。
  恐らく普通は、身体エネルギーを混ぜ合わせてチャクラにしてパワー不足を補って幻術としてしか利用できない。
  しかし、チャクラでは幻術止まりで相手を支配するところまでいかない。
  その出来ないことを出来るようにしたから秘伝忍術になる。
  ・
  ・
  まあ、予想だからここまでですね。
  あれ?)

 「…………」


 思考の途中で、ヤオ子はある事に気付き沈黙する。


 「どうしたのよ?」

 「あの……。
  その術に掛かった盗賊が味方の盗賊を殺す勢いで同士討ちを……。
  捕獲するんじゃ……」

 「…………」


 いのの視線が盗賊を追う。


 「しまった!」


 いのとヤオ子の影分身は、大慌てで暴走した盗賊を殴って気絶させた。


 「そ、その術はなしにしましょう……」

 「そ、そうね……」


 一部混乱はあったが、盗賊との戦いは順調に進んでいく。
 倒した数では、ヒナタが頭一つ抜きん出た感じだ。
 戦闘のスタイルを考えれば当然かもしれない。
 この班には全体攻撃出来るような術を持つ者が居ない。
 そして、戦闘スタイルでは、ヒナタが体術のスペシャリストで近接タイプ。
 サクラも近接タイプと言えるが、綱手直伝の怪力は一発が大きいが連続攻撃向きとは言えない。
 連続で使用すればチャクラが底を着く。
 そうなると戦い方は、基本忍体術が主になる。
 これは秘伝忍術を使わない、いのに対しても同様のことが言える。
 とはいえ、相手は盗賊で忍ではない。
 数は多くても三人で十分だった。


 「ふふふ……。
  つまり、あたしはおまけです」


 ヤオ子の見せ場はなかった。
 その分、今回はヒナタ達の戦い方が目に焼きついた。


 「あたしの基本動作とスタミナ面は問題なさそうな感じです。
  しっかりと向上しています。
  皆さんに余裕で着いて行けますから。
  ただ、その間に皆さんに置いてけぼりにされたことが明確になりました。
  ・
  ・
  個性です。
  ヒナタさんなら、白眼と柔拳。
  サクラさんなら、怪力と医療忍術。
  いのさんなら、秘伝忍術と医療忍術。
  個性が出れば、班の組み合わせの選択肢が増えます。
  ・
  ・
  あたしは、どうでしょうか?
  基本動作とスタミナ面の強化が主で個性と呼べる手段がありません。
  これは、今後の課題と言えるでしょう。
  あたしは、やっとスタートラインに立った段階です。
  ・
  ・
  でも……いえ、きっと。
  焦っちゃいけません。
  基礎が出来て初めて個性を伸ばすことが出来るはずです。
  正直、サスケさんと会ったばかりのサクラさんは、何かに特化した忍者ではなかったはずです。
  この二年半に自分の個性を身につけたんです。
  ・
  ・
  あたしは、何を伸ばすべきなのか……。
  ヒナタさんやいのさんのように一族秘伝というものがありません。
  サクラさんは、どうやって個性を磨いたんでしょう?
  これからは個性を磨かないと、 あたしは……あの人達に追いつけないし追い越せない」


 ヤオ子は盗賊達を倒し切って堂々としている少女達の背中を見て、少し悔しさが込み上げた。
 言葉にしたように理解もしている。
 生まれて来た時間も違うし、努力に充ててきた時間も違うのだ。


 「サスケさん……。
  ヤマト先生……。
  ・
  ・
  あたしは忍者として負けたくないと思い始めています。
  今更ですが、忍者を真剣に目指すというの厚かましいでしょうか?」


 ヤオ子にとっては、少し忍者としての意識が芽生えた任務だった。


 …


 村人達に歓声があがる。
 二年間、悩ませていた盗賊達が居なくなったためだ。
 盗賊達は、ヒナタ達の手で一人残らず縛られている。
 そして、怪我をした者はサクラといのの医療忍術で治療も終えている。
 全てが終わり、村長がヒナタの手を取る。


 「ありがとうございました」

 「いえ、問題がなくなってよかったです」

 「いい……戦いでしたァ」

 「は、はい?」

 「盗賊も問題でしたが……。
  あなたの戦いには血沸き肉踊るものがありました!」

 「そ、そうですか?」

 「はい!
  そして、あなた!」

 「わ、私!?」


 サクラがビクッとする。


 「いい……パンチでしたァ。
  人って、本当に飛ぶんですね」

 「あ、え、その……まあ」

 (あれはサクラにしか無理よ……)

 (もし、サクラさんがガイ先生から剛拳を覚えたら、どうなるんだろう?)

 (綱手さん、そっくりになっちゃいましたよね……)


 ヤオ子といのの視線が合う。


 「あたし達には感動しないでしょうね」

 「多分ね。
  私らは、特化した体術の技術はないし」


 案の定、村長は延々とヒナタとサクラを褒めちぎっていた。


 「少し寂しいですね」

 「まあ、私の能力が求められれば、逆の立場になるんじゃない?」

 「そうですね」


 ヤオ子は自分にはないものに胸を張れるいのに視線を落とした。


 「どうしたの?
  少し元気ないじゃない?」

 「あたしは、まだ個性がないから」


 いのがヤオ子の様子を見て微笑む。


 「生意気ね。
  もう、そんなことを考えてるの?」

 「今日、皆さんを見て感じました」

 「ヤオ子は、性格は個性的だけどね。
  ・
  ・
  多分、これから切っ掛けと出会うわよ」

 「そうですか?」

 「うん。
  私は、一族の秘伝忍術を伸ばしたいと思ってる。
  任務をこなして自分の術の重要性も理解できたしね。
  理解したのが切っ掛けかもしれないわ」


 ヤオ子は羨ましそうに、いのを見る。


 「そういうのってカッコイイですね」

 「そう?」

 「はい」

 「早く見つかるといいわね。
  ヤオ子の個性」

 「はい。
  いのさん、ありがとう」


 いのとヤオ子は微笑み合った。


 …


 任務は無事に終わり、盗賊達は連行された。
 彼等の行き先は、火の国か木ノ葉か?
 何処で裁かれるのかは分からない……。

 そして、任務を終えて綱手への報告……。
 側ではシズネも控えている。
 切り出しは、綱手の労いの言葉からだった。


 「ご苦労だったな」


 綱手が依頼主の任務結果を読むと、偏った結果の感想を漏らす。


 「ヒナタとサクラが高評価だな?」

 「その……村長さんが好戦的というか」

 「簡単に言うとバトルマニアみたいな人でした」


 サクラの補足に、綱手は苦笑いを浮かべる。


 「何か問題はあったか?」

 「いえ、特には」

 「そうか。
  では、各自休暇を取れ」

 「「「「はい」」」」


 その後、ヒナタとヤオ子と別れると、サクラといのが綱手の居る部屋へとこっそり戻る。
 早速、綱手が質問する。


 「ヒナタは、どうだった?」

 「心配するようなことは、何もありません」

 「ええ。
  ・
  ・
  どちらかと言うと、ヒナタの部隊長としての資質を見せつけられました」

 「資質?」

 「日向家特有の白眼。
  そこから下された指示されたに、安心感がありました。
  また、今回は人数が多かったので村人への被害も心配しましたが、全てヒナタが指示してくれました」

 「そうか。
  ・
  ・
  どうやら、老婆心だったようだな」

 「安心しましたね」

 「何も問題がなくて何よりだ」



 綱手は安堵の息を吐いた。
 しかし、いのが手を上げる。


 「あの……。
  問題がなかったことが問題だった……というべきなのかな?
  ヤオ子が少し静か過ぎました」

 「そういえば……」


 サクラも思い返す。
 綱手が信じられないという感じで、いのに聞き返す。


 「ヤオ子が、何も問題を起こさなかったのか?」

 「ええ。
  それどころか真剣に将来を考え始めていたというか……」

 「…………」


 いのの言葉に誰もが言葉を失う。


 「いいことだな……」

 「ええ……」

 「そうですね……」

 「…………」


 ヤオ子の性格と行動が一致しない。
 綱手は、続きを促す。


 「将来の何を考えていたんだ?」

 「忍者としての個性を見つけたいと言っていました」

 「…………」


 再びの沈黙。


 「いいことだな……」

 「ええ……」

 「そうですね……」

 「…………」


 綱手が腕組みをする。


 「もしかしたら、ヒナタではなくてヤオ子の転機になったのかもしれないな。
  今回の任務で中忍と下忍の実力差を見せ付けられたのだろう」

 「でも、ヤオ子ちゃんの目指す忍って、どんなものでしょうか?」

 「サスケ君……じゃないですか?
  あの子、サスケ君と修行していた時期もあったみたいだし」

 「本当なの、サクラ?」

 「まあ、話を聞くとサスケ君の勘違いだった節もあるんだけど、
  火遁の術とかをサスケ君から教わったみたい」


 正確には強制的に覚えさせられた。


 「そういえば、ヤオ子も火遁を使えたわね」

 「ヤオ子の目指す忍の着目点も、一応あるんだな。
  ただ、普段があれだから、まだよく分からんな」


 シズネがヤオ子のフォローを入れる。


 「ヤオ子ちゃんが変なので忘れがちですが、ヤオ子ちゃんって勤勉だと思いますよ。
  ガイ班と結構、修行していますし」

 「そういえば、アスマ班にも時々……」

 「神出鬼没ね……」

 「統計を採るとどうなるんだ?
  ヤオ子は、どんな忍びを目指していそうなんだ?」

 「ガイ班だと体術。
  紅班だとシノの秘伝忍術を観察体験……ヒナタの柔拳かキバの擬獣忍法。
  アスマ班だとシノ同様に秘伝忍術を観察体験です。
  ・
  ・
  統計なんて取れませんね」

 「じゃあ、その中でヤオ子が憧れるのは?」

 「ガイ先生……かな?」

 「やっぱり、サスケ君じゃない?」

 「……分からんな」


 結局、ヤオ子がどんな忍者を目指しているのかは見当がつかなかった。
 ここで、綱手が話を終わらせる。


 「分からないものを考えても仕方ない。
  そして、ヤオ子にいい傾向が見れた。
  課題であったヒナタの気持ちの問題もなかった。
  話は、ここまでにする」

 「「「はい」」」

 「二人とも、ご苦労だった」


 サクラといのが部屋を出た。
 そして、シズネが綱手に話し掛ける。


 「皆、大人になっていくんですね」

 「ああ。
  私達が気を遣ったのが馬鹿らしいくらいに成長していた。
  力も心も……。
  ヒナタは、一人前の忍だった。
  ・
  ・
  そして、今度は、ヤオ子が続くのだろうな。
  だから、言動に変化が出たんだろう」

 「はい……」


 綱手とシズネは、里の中で起きている小さな成長を感じ取ると満足そうに微笑んだ。
 それは二人が木ノ葉に戻って来てからの成果の一つに違いなかった。


 …


 ※※※※※ 番外編 ~IF・あの人達がヒナタにデレデレだったら~ ※※※※※


 ガイ班……上忍のガイ、原作二部で上忍になるネジ、中忍のリーとテンテン。
 上忍二人に中忍二人の班構成は、かなりの戦力と見ていいだろう。
 また、機動力と体術に秀で、ネジの白眼で広範囲の索敵が行なえるガイ班に重大な任務が任せられることも多い。
 そして、その日もガイ班では大きな任務が終わったばかりだった。
 しかし、そこに日向ネジの姿は、既になかった。


 「テンテン。
  ネジは、何処に行ったんですか?」

 「さあ?
  任務が終わったら、直ぐに居なくなったわ」


 テンテンの答えを聞いて、リーが考える。


 「何かあったのでしょうか?」

 「さあ?
  ・
  ・
  ただ、あの目は見たことがあるわ……」

 「?」

 「リーの手術結果を聞きに行くって、
  全速力で里に戻って来たガイ先生と同じ目だった……」


 ネジは、何の用だったのか?


 …


 全力で移動していたネジが、待ち合わせをしていた人物を白眼で捉えると方向を変える。
 そして、件の人物の横に到着すると話し掛けた。


 「申し訳ありません。
  任務のため、遅くなりました」

 「うむ……」

 「様子は、どうですか?」

 「大丈夫だ。
  今からだ」


 ネジが胸を撫で下ろす。


 「ヒアシ様は、お仕事の方は大丈夫なのですか?」

 「今日のために全て断った」

 「…………」


 ネジは行動の極端さに押し黙った。


 「なんせ……。
  可愛いヒナタの初隊長任務だからな」

 「…………」


 ネジは、一瞬、固まった。
 しかし、日向ヒアシの言葉にネジも本音が漏れた。


 「私も……任務が終わったあと、
  全速力でヒナタ様の勇姿を見るべく馳せ参じた次第です」

 「そうか」


 日向の宗家と分家の和解をしてから、ネジと宗家当主のヒアシはかなり打ち解けていた。


 「しかし、ヒアシ様……。
  ヒアシ様は、ヒナタ様を見限ったのではないのですか?」


 ヒアシは目を閉じ、拳を握る。


 「何処に……。
  何処に自分の子供が嫌いな親が居るだろうか?」

 「ヒアシ様……?」

 「私だって……。
  私だって可愛いヒナタにあんなことはしたくなかった。
  しかし、優し過ぎるヒナタのために身を切ったのだ」

 「『獅子は、我が子を千尋の谷に突き落とす』と言いますが……。
  それを実践されたのですか?」

 「そんなものではない。
  私は、ヒナタにもハナビにも立派な忍になって欲しいと思っている。
  だが、ヒナタは優し過ぎる……。
  自分に自信がなさ過ぎる……。
  ・
  ・
  だから、私以外に褒められるところがない宗家ではなく、下忍として修行をさせたのだ。
  家族以外の者もヒナタを信頼してくれる……褒めてくれる……。
  師が……友が……。
  そんなところに身を置き、成長して欲しかったのだ」

 「ヒアシ様……」

 「私だって……。
  私だって、ヒナタやハナビに『パパ』と呼ばれたい時もある!」

 「ヒアシ様?」

 「宗家の当主だから、仕方なく厳しく躾けているだけなんだ!
  本当は、ヒナタもハナビも溺愛したい!」

 「ヒアシ様!?
  気を確かに!」


 ヒアシは森の中で興奮して叫んでいた。


 「す、すまん……。
  つい、本音が……」

 (実は親馬鹿だったのか……)


 ヒアシが隠れている茂みに手を掛け、身を乗り出す。


 「もう少し、近づきたいな。
  だが、これ以上はヒナタの白眼の領域に入ってしまう」

 「我々の方が白眼の使い手として勝っています。
  この距離ならヒナタ様に気付かれませんし、ちゃんとヒナタ様の任務を確認できます。
  安心してください」

 「そ、そうだな。
  親として、どっしりと構えて見守らねばな」

 「はい」

 (既に取り乱した後ですが……)


 ネジとヒアシのヒナタ初隊長任務を見守る会が始まった。


 …


 ネジとヒアシが、同時に声をあげる。


 「「あ!」」

 「ヒナタ様です!」

 「ふ……。
  流石、我が娘だ。
  何を着ても良く似合う」

 (本当は、こんな人だったのか……。
  最近になって打ち解けたから、全然、気付かなかったな……)


 ヒナタの巫女の装束に、ヒアシの顔は緩みっぱなしだった。
 そして、ヤオ子が歌い舞い始める。


 「出来れば、あの役をヒナタにして欲しかったな……」

 「ええ……」


 ネジも宗家と和解してから、素直にヒナタを見守れるようになった。
 ヒナタ自身が、ネジを『兄さん』と変わらずに慕っていてくれるのが嬉しかった。
 そのせいかネジも贔屓目で見てしまう。
 さっきのヒアシの娘贔屓の意見に自然と同意していた。


 「ところで、今、舞っているのは誰だ?」

 「分かりませんね」


 ネジ、ヤオ子の擬態に気付かず。


 「恐らく村の娘でしょう」

 「そうか」

 「舞えばヒナタ様の方が可憐に決まっています」

 「そうだな」


 ネジの言葉もおかしくなって来た。
 そして、ヒナタ班の作戦が始まる。
 ネジとヒアシが固唾を呑んで見守る。


 「ヒナタ! 頑張れ!」
 「ヒナタ様! 頑張ってください!」


 ある森の一角で、男二人の応援が木霊する。
 近くに居れば、明らかに気付かれる大きさ。
 本当に日向家で良かった。

 そして、作戦は見事に成功する。
 村人達を一人残らず、安全な入り口付近に誘導した。


 「「よし!」」


 崖の上では、半数の盗賊がブービートラップに引っ掛かった。


 「やりますね」

 「うむ。
  誘導と罠の二重作戦だ。
  見事だな」


 ネジとヒアシの顔は緩みっぱなしだ。
 そして、その後もヒナタは的確な指示で隊員達を導き、村人のところまで通さない。


 「ふ……。
  圧倒的ではないか。
  我が娘の力は」

 「ええ。
  危なげなく見えます」


 しかし、次の瞬間、ネジとヒアシの顔が怒りに歪む。


 「見たか?」

 「はい」

 「あの賊……。
  可憐なヒナタの髪の毛を切りおった!」

 「許せない蛮行です!」

 「アイツらは柔拳でヒナタに触れて貰うだけでも、万死に価するというのに……!」

 「全くです!」


 文字通り柔拳で触れられ、万死に価する苦しみにもがく盗賊が転がっているが無視される。


 「どうしてくれようか?
  直接、命を摘み取るか?」

 「ここは我慢です!
  気持ちは分かりますが、ヒナタ様の晴れ舞台が潰れてしまいます!」

 「では、任務が終了して護送中に襲うか。
  不慮の事故なら誰も文句は言うまい」

 「助太刀します」


 そして、作戦も終盤に差し掛かり、ヤオ子が巫女の衣装を脱ぎ捨てて正体を曝した。


 「あの巫女……。
  ヤオ子だったのか」

 「知り合いか?」

 「ええ。
  下忍の者です」

 「さっきは、気が付かなかったな?」

 「髪と服が普段と違ったもので……。
  ・
  ・
  それにどんな服を着ても、品位が滲み出てしまうヒナタ様と比べるのは可哀相ですよ」

 「それもそうだな」


 ヒアシ納得。


 「後、数人ですね」

 「ああ。
  ・
  ・
  終わったな」


 作戦は無事終了し、盗賊達が次々に捕らえられて行く。


 「ネジ。
  さっきの盗賊だけは見逃すなよ」

 「分かっています」


 しかし、二人は世にも恐ろしいものを目撃することになる。
 ヤオ子が盗賊を縄打ちする前に、股間を踏み潰して気絶させてから縛り上げて行ったからだ。


 「……い、今のくノ一は、ああやって気絶させるのか?」

 「……少なくともテンテンはしません」


 そして、二人が目を付けていた盗賊も例外なく股間を潰された。


 「…………」


 二人の頬を冷たい汗が流れた。


 「……許してやるか」

 「……そうですね」

 「…………」


 ヤオ子の容赦ない行動は、日向の当主をも震え上がらせた。


 「ま、まあ、とりあえず……。
  ヒナタの(髪の毛の)仇を打った下忍の娘は、
  今度、家に招待して手厚くもてなそう……」

 「そうですか……」


 こうして、ヒナタ初隊長任務を見守る会は終了した。


 …


 ネジとヒアシは、のんびりと並んで木ノ葉へと向かって歩いている。


 「こうして任務を確認するのは久しぶりだったな」

 「ひょっとしてヒナタ様の初任務の時も?」

 「ああ」

 「…………」


 辺りには、穏やかな空気が流れている。
 その空気を作り出しているのは、ヒアシに他ならない。


 「ネジ。
  お前の初任務も確認したよ」

 「え?」

 「弟の……ヒザシの息子だからな。
  嫌われているのは知っていたが、
  お前のことを見守り続けることが約束のように思えていたから……」

 「……ありがとうございます」

 「尤も、お前は優秀過ぎて見守る甲斐がなかったよ」


 ヒアシの微笑みにネジも微笑む。
 二人は、空を見上げた。
 空を寄り添うように二羽の鳥が飛んでいた。
 まるで、今の宗家と分家のように……。


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