== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
やはり、この班でも溜息が出る。
件の人物が待ち合わせの時刻、五分前になっても現れない。
奈良シカマルが担当上忍の猿飛アスマに不満を漏らす。
「アスマ。
本当に来るんだろうな?」
「そのはずなんだが……」
「あと三分しかないわよ」
「遅刻かな?」
班員の山中いの、秋道チョウジも最後のメンバーを気に掛け始めた。
第55話 ヤオ子とアスマ班のある一日
突然、班員の目がシカマルに集まった。
シカマルは怪訝そうに方眉を歪める。
「何だよ?」
シカマルの横にヤオ子が音もなく現れたのだった。
シカマルが班員の視線を正確に追って視線を移す。
「ん?」
「えへへ……」
「うわ!」
シカマルは驚き、ヤオ子にグーを炸裂させた。
「ちょっと! 何ですか!?
今のファーストコンタクトは!」
「うるせー!
音もなく現れるな!」
「時間通りに、音もなく現れちゃいけないなんてルールは聞いたことないですよ!」
シカマルが項垂れる。
「何だコイツは……。
うるせー上にめんどくせー」
「シカマルさんが殴ったから、
こんな状況になったんでしょう!」
「ちょっと、いいか……」
ヤオ子とシカマルがアスマに顔を向ける。
アスマはヤオ子を指差す。
「君が派遣された下忍か?」
「そうです」
ヤオ子の返答にシカマルが反論する。
「嘘つくな」
「嘘じゃないですよ」
「お前、前にあった時、下忍じゃなかっただろう?
何で、そいつが下忍なんだよ」
「特別召集の下忍です」
「特別……。
あの噂、本当だったのか?」
アスマがヤオ子を物珍しそうに眺めた。
その視線にヤオ子は首を傾げる。
「何で、知らないの?」
「興味がなかったし、嘘だと思ってたんだよ」
「…………」
嘘だと思っていた……。
その意味の分からない言葉に、ヤオ子がアスマに質問する。
「どういうこと?」
「オレも興味ないからなぁ……」
「何? このやる気のない師弟?」
「そもそも噂じゃ、召集した下忍は全員アカデミーに戻ったと聞いたが?」
「は?」
「『忍の仕事が任されないで実力が伸びない』って、
下忍の親から猛反発があったとか……」
「そんなの初耳ですよ?
それにあたしは残ってるし」
「あと、もう一つ。
変な下忍が一人残って、後処理をしていると……」
ヤオ子に視線が集まると、ヤオ子は咆哮した。
「100%、あたしじゃないですか!」
「お前、珍獣みたいな存在だな」
「…………」
ヤオ子はイライラを顔に浮かべながら押し黙り、代わりにいのが口を開く。
「シカマルは、この子の知り合いなの?」
「いいや。
以前、いきなり声を掛けられた」
「ボクも」
「チョウジも?」
ヤオ子はシカマルとチョウジの言葉に我に帰り、以前に会っていたことを思い出した。
「あの時は、お世話になりました。
無事に術の発動が出来ましたよ」
「そりゃ良かったな」
「何か、冷めてますね?」
「大きなお世話だ」
(本当に興味ないことには、とことん話を切りますね……)
ヤオ子は乾いた笑みを浮かべて鼻で笑うと、この話は一端切ることにした。
その代わり、別の獲物に目をつける。
「ところで……。
お姉さ~ん♪」
ヤオ子がいのの胸にダイブした。
「仲良くしてください♪
こっちも、ヒナタさんみたいに成長して来ましたね♪」
いののグーが、ヤオ子に炸裂した。
「ちょっと!
何なの、この子!」
「変態じゃないのか?」
「変態だと思う」
「変態だな」
「違います!
あたしは、スケベなだけです!」
いののグーが、ヤオ子に炸裂した。
「それらを総称して変態と言うのよ!」
「それらの『ら』には、一体、何が含まれるのか……」
アスマが苦笑いを浮かべてヤオ子に話し掛ける。
「任務の前に自己紹介してくれないか?」
「いいですよ。
八百屋のヤオ子です。
ピチピチです。
スリーサイズは──」
「「「「いらない!」」」」
「そうですか?
じゃあ、そっちのダンディーなおじ様と未来のナイスバディの方……お願いします」
「…………」
いのが座った目でアスマに訊ねる。
「アスマ先生……。
自己紹介しなきゃいけませんか……」
「名前だけでいいんじゃないか?」
「山中いのです」
「猿飛アスマだ」
(何、このやる気のなさ……)
ヤオ子は溜息を吐く。
「暗そうな班ですね?」
「「それはない」」
シカマルとチョウジが声を揃えた。
二人には分かっていた。
テンションがピーキーに入れ替わるのがいのの特徴で、それを諌めようとしないのが自分達の先生なのだと……。
その諦められているアスマは、そろそろ締めに入ろうとしていた。
「さて、任務だが……。
余計なことで時間がなくなった。
あとは、シカマルに任せる」
「ハァ!?」
「今回は、お前が部隊長だ。
そして、これが任務の概要だ」
アスマは任務の巻物をシカマルに渡す。
「じゃあ、頑張れよ」
そして、瞬身の術で姿を消してしまった。
まとも(?)な上忍ばかり見てきたヤオ子には、それは信じられない光景だった。
「担当上忍が逃げた……。
・
・
でも……。
何で、シカマルさん?
一番しっかりしてそうなのはチョウジさんなのに」
「チョウジ?」
「ボク、あまりそういうこと、言われたことないけど?」
ヤオ子は腰に右手を当て、反対の掌を返す。
「だって……。
いのさんからはサクラさんっぽい暴走しそうな臭いがしますし……」
いのの額に青筋が浮かぶ。
「シカマルさんは、やる気なさそうだし……」
「否定はしねーよ」
「故にチョウジさんしか残りません」
「結局、余りものなのか……ボクは」
チョウジは素直に喜べず、シカマルはどうでもいい感じ。
残ったいのだけが、律儀に反応してヤオ子を思いっきり指差す。
「あんた!
どうしたら、そういう考えになるわけ!?
この中じゃ、私が一番まともでしょう!」
「そうなんですか?」
シカマルとチョウジは首を振った。
「あんた達!」
「この班、大丈夫なんですか?
一番、馬鹿そうですけど?」
いのがヤオ子の首根っ子を掴んで、ブンブンと縦に振る。
「言うに事かいて……!
サクラの班があるでしょう!」
「あそこ……。
今、ナルトさん居ないから、馬鹿パワーが低下しているんですよ」
「う!
そうだった……」
「カカシさんとサクラさんだけなら、かなり正常に機能しますよ」
シカマルがいのに軽く手を上げる。
「いの。
反論出来ねーよ」
「いやーっ!
絶対に認めたくない!
認めたくな~い!」
「あのさ……。
任務は?」
チョウジの言葉に全員が任務を思い出す。
この班……本当にダメかもしれないとヤオ子は思った。
そして、その何とも形容しがたい空気が漂う中で、シカマルが巻物を開いた。
「マジかよ……」
「どうしたの?」
「今更、農家の手伝いだ」
「え~!
面倒臭~い!」
いのの反応を見て、ヤオ子がチョウジに小声で話し掛ける。
「いのさんって、我が侭ですね」
「そうなんだ。
いつも苦労してる」
「シカマルさんも嫌そうですけど?」
「シカマルは、いつもやる気なさそうにしているよ」
(この班、本当に大丈夫なのかな?
つい最近まで相手にしていた、死に掛け担当の中忍といい勝負かもしれない……)
ヤオ子はアスマ班と任務をするのが危険な気がした。
…
巻物に書かれていた農家の手伝いをするため、ヤオ子達は木の葉の近くの大きな畑まで移動した。
だが、そこは見慣れた場所だった。
ヤオ子は目的地の農家を見る。
(いつものおじさんの家じゃないですか)
ここはヤオ子がよく手伝いをする農家の家だった。
今回は、それをヤオ子一人ではなく、班単位で行なうということなのだろう。
故に誰でも出来るという理由で、担当上忍が姿を消したとも言える。
(でも、逃げますかね?)
普通の上忍なら、絶対にしない。
ある上忍は遅刻しそうで、ある上忍は暑苦しく畑を素手で耕そうとか言い出しそうだが……。
任務開始のため、シカマルが代表して農家のおじさんと会話し、会話が終わるとヤオ子達の元へと戻ってくる。
「畑を耕すだけだ」
「それが面倒臭いのよ」
「ここの畑……。
結構、広いよ」
「まあ、四人でやれば何とかなるだろ?
ほら、道具は借りられっから……行くぞ」
下忍の時には意外と多い、忍者とは関係のない任務。
仕方なしに、シカマル達は納屋から鍬を持って来ると畑を耕し始めることになった。
そして、開始早々、いのがぼやき出す。
「毎回、思ってたけど。
木ノ葉も、この手の任務を引き受けるのやめて欲しいわよね」
「まあ、筋肉トレーニングと思えばいいんじゃないの?」
「そうは言ってもね……」
「オレは、こっちの方が楽でいいけどな」
「あんたは、隊長の仕事をしたくないだけでしょ?
・
・
ところで……。
あの子は?」
「居ないね……」
「いきなり、サボり!?」
その時、エンジンの音がする。
麦藁帽子を被り、首にタオルをかけて、ヤオ子はトラクターを運転しながら現れた。
すかさずいののグーが、ヤオ子に炸裂した。
「何で、トラクターを運転してるのよ!」
「だって、納屋の道具使っていいって」
「だからって、農家のおじさんに怒られるでしょう!」
「いいえ。
いつも、これを使ってますよ」
「うん?
あんた、ここで働いたことあるの?」
「もう、長いです」
「いや、だからって……。
これはないだろう……」
いのに続いて、シカマルも呆れる。
「運転は、結構、楽ですよ。
教えましょうか?」
「誰に教わったんだよ?」
「説明書を読みました」
「免許は?」
「あたしの腕は、既に免許皆伝です」
「…………」
シカマルは頭に手を当て、表情を緩ませる。
「まあ、いっか……。
作業も早く終わるし……」
「いいの!?
流して!?」
「いのは延々と鍬で耕すのと、
犯罪に少し目を閉じるのと……どっちがいいんだ?」
「…………」
この間、約二秒。
「何かヤオ子の乗っているものが鍬に見えてきたわ」
(((凄い変わり身の早さだ……)))
トラクターを導入したことで作業は早く終わることになった。
というより、途中からシカマル達は作業をしていない。
畑は、トラクターがほぼ全部耕した。
…
畑を耕す任務が終わり、ヤオ子を除く三人は畑の見える土手に腰を下ろしていた。
「オレら、今日、ほとんど何もしてねーな」
「そうだね」
「ヤオ子が居て助かったじゃない」
「そうだ。
つまり、アイツしか働いてねー」
「いや、だって……。
誰がトラクターを使うなんて思うわけ?」
「誰も想像できないね」
「でしょ?」
「どうする?
午後の時間、まるまる余っちまったぜ?」
「…………」
チョウジが口を開く。
「ボクは修行したいな」
「また!?
チョウジ……。
最近、どうしたの?」
「うん。
少し……強くなりたくてね」
サスケを追った一件以来、忍びに対する心構えが変わった。
それは特に直接関わった者に大きく影響を及ぼしていた。
シカマルがチョウジの言葉に微笑む。
「午後はコンビネーションの修行でもするか」
「それって……私も?」
「ああ。
オレが足を止めて、いのが心転身の術を掛ける。
そして、チョウジが止めだ」
「相手は?」
「丁度いいのが居るじゃねーか」
シカマルといのがニヤリと笑う。
「シカマル……。
そんな勝手に決めていいの?」
「加減すりゃいいんだよ」
「じゃあ、決まりね」
ヤオ子がトラクターを納屋に仕舞っている内に、勝手に午後のプランが決定した。
…
ヤオ子は少し不機嫌になっていた。
昼食のお弁当のおかずを、また差し入れした。
それは別にいい。
しかし、ほとんど食べ尽くされた。
チョウジの食べるペースを知っているシカマルといのは、しっかりと自分の分を確保。
それを知らないヤオ子だけが出遅れた。
そして、ようやく最後に確保したおかずも……。
「最後のひと口……。
これがしめくくりであり、味わうべき最も価値のあるおかずになるのだ……。
何人たりとも、この最後のひと口は渡さない……」
と、チョウジに食べられた。
故にほぼ炭水化物しか摂取していない。
「何で、自分で作ったお弁当のおかずを食べ尽くされなければならないんですか……。
・
・
アスマ班……おかしい」
シカマル達は気にしないで話を進める。
「そのかわりに、午後、修行を見てやるよ」
「別にいいですよ……」
「まあ、そう言うなって」
「はあ……」
ヤオ子は、自分が相手にさせられるために修行を付き合わされるとは思ってもいなかった。
(シカマル……。
考え方が少しアスマ先生に似てきたな……)
チョウジは、ここには居ない担当上忍の行動が頭に過ぎった。
…
ヤオ子は演習場で成り行きを待つ。
そして、ヤオ子に対してシカマル、いの、チョウジが向き合う。
「始めるぞ」
「何を?」
「模擬戦だ」
「あたしの味方は?」
「居ない」
「シカマルさんだけ?」
「いや、全員だ」
「あたしは夢でも見ているんですかね?
それとも新手のプレイですか?」
「じゃあ、始める」
ヤオ子を無視して、シカマルが印を結ぶ。
「問答無用ですか!?」
ヤオ子は急いで距離を取り、それを追ってシカマルの影が伸びる。
「知ってる!
それ、知ってる!
影縛りの術です!」
「今は影真似ってんだよ!」
「っ!」
逃走を中止し、ヤオ子は反転してチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
「身代わり!」
影分身を出して身代わりに捕まえさせると、本体は影の届かないところまで距離を取る。
「躱されたか……」
シカマルは舌を打ち、ヤオ子は額の汗を拭った。
「あとの二人が動いてないのが救いでしたね。
・
・
っていうか……あの術、どうやって防ぐの?」
ヤオ子はホルスターの手裏剣に右手を掛ける。
「やっぱり、遠距離攻撃しかないですよね」
左手で腰の後ろの道具入れからワイヤーを取り出し、それを手裏剣に縛り付ける。
触れない敵を想定した戦い方、その1である。
「行きますよ!
ドS直伝の手裏剣術!」
ちなみに直伝ではなく、見よう見真似である。
ヤオ子が上空に手裏剣を投げる。
「何だ?」
三人の視線が手裏剣に移り、手裏剣が太陽の位置と重なるとヤオ子はワイヤーを引き絞る。
すると、手裏剣が太陽の中からシカマルを狙って急降下した。
「危ねェ!」
シカマルが飛び前転で手裏剣を避けた。
「逃げられたか……でも!」
ヤオ子は腰の道具入れからクナイを取り出し、クナイをいのの方向に飛ばした。
いのが回避するためにそこを飛び退くと、クナイは先ほど刺さったままの手裏剣に当たり、再び手裏剣がシカマルに向かった。
シカマルは自分のクナイでヤオ子の手裏剣を弾き返す。
「あのヤロウ……。
オレを狙ってやがる!
・
・
チョウジ! アイツを撹乱してくれ!」
「分かった!」
チョウジが印を結びながらヤオ子に接近する。
「今度はチョウジさん?」
ヤオ子が体術の構えを取る。
「部分倍加の術!」
チョウジの腕が大きくなり、ヤオ子に覆い被さろうとする。
体術で受けて、どうこうなるサイズの大きさではない。
ヤオ子は足にチャクラを集中させると、その場を瞬時に移動した。
「あれは体術で防げないですね。
・
・
何か、アスマ班って使う忍術が独特です」
ヤオ子がチラリといのを見る。
(さっきから動かないで気持ち悪いですね……)
そして、一瞬、目を放した隙にシカマルの影が再び伸びる。
「拙い!」
ヤオ子はピョンとチョウジの頭に乗っかって回避した。
「ここならあたしの影は、チョウジさんの頭の上です」
「甘いな」
シカマルの影がチョウジを伝って伸び、伸びた影がヤオ子を捕捉した。
しかし、ヤオ子は影真似の術に拘束されたと気付いていなかった。
「あれ?
動けない……」
「残念だったね」
チョウジがヤオ子を頭の上で捕まえて地面に下ろす。
その時になって、ようやくヤオ子の視界にチョウジの体を伝う影が目に入った。
「無理……。
この術、一対一でも躱し切れない」
項垂れるヤオ子を無視して、シカマルが全員に声を掛ける。
「次、行くぞ」
「ちょっと!
これ、何の修行なの!?」
「突発的な戦いがあった時の対応だ」
「本当?」
「ああ。
今度は、チョウジといのだ」
(そういえば、結局、いのさんは動きませんでしたね)
シカマルが嘘でヤオ子をあしらうと、皆から距離を置く。
(アイツ、思ったより素早いから、いい練習相手になるな……。
次は、どのパターンを試すか?)
シカマルが考え込んでいる間に、ヤオ子はチョウジの肉弾戦車に追われて逃走を図っていた。
そして、チャクラ吸着で木に駆け上がり肉弾戦車をやり過ごす。
「油断も隙もない……。
いや、あたしの我が侭が悉く潰されている……。
知らないうちに、次の修行が始まってるみたいだし……」
ヤオ子の退避している木に肉弾戦車がぶつかると、木がバキバキと音を立て倒れ始めた。
「この威力は洒落にならないんじゃ……」
ヤオ子が木を飛び移り、いのとチョウジの距離を確認する。
「また、いのさんが動いてない……。
あれ、何を狙ってんだろう?」
ヤオ子は木の後ろに回り込み、影分身の術を二回に分けて発動する。
一回目は、ただの影分身のみ。
二回目は、術を使用出来るようにチャクラをかなり分け与える。
そして、木から影分身だけを飛び出させて、いのとチョウジに向かわせる。
「「分身した!?」」
チャクラを持たない影分身がチョウジに迫り、印を結ばせないように両手を狙って攻撃を繰り出す。
もう一方のチャクラを温存した影分身が、印を結びながらいのに迫る。
(ラブ・ブレス!)
豪火球の術のエロバージョン。
ハート型の豪火がいのに向かう。
「この子、こんな術を!」
いのが瞬身の術で豪火球の術を躱す。
「逃がしませんよ!」
影分身のヤオ子が手裏剣を投げつけ、追撃に出るも、変わり身の術でダミーの木に突き刺さって回避された。
「また躱された!?
いい加減、自信失くしますよ!
どの忍者さんも強過ぎる!
あたしが対抗出来るのって、
油断した相手か、修行真面目にしてない山賊まがいの忍者だけなんですか!?」
チョウジがヤオ子の影分身を殴り倒すと、いのに加勢しに向かう。
残りのヤオ子の影分身に向け、チョウジの肉弾戦車で突っ込んだ。
「この!」
ヤオ子の影分身は印を結び、地面に片腕を突き出す。
「爆殺! ヤオ子フィンガー!」
地面が爆発の威力で盛り上がり、肉弾戦車が盛り上がった地面をジャンプ台にヤオ子の影分身を飛び越える。
「ここで──ああ! チャクラが切れた!」
ヤオ子の影分身は豪火球の術を発動することなく煙になって消えてしまった。
しかし、情報だけは、本体のヤオ子にちゃんと蓄積される。
(この世代……。
優秀な忍者さんの当たり年なんじゃないですか?
他の人達とも模擬戦をしましたが、まともに勝てません。
サクラさんと任務した時の大人はボコれたのに……。
・
・
さて、戦いに集中です。
いのさんとチョウジさんはスピードで撹乱できないでしょうか?
チョウジさんの攻撃は、威力が高い分だけ直線的な気がします。
だけど、力では太刀打ち出来ません。
いのさんは何か切り札があるみたいですが、
そのせいで動きにムラがあるように思えます)
ヤオ子本体が木の影から飛び出し、状況を確認する。
「チョウジさんが居ない?」
ヤオ子に向け、いのの手裏剣が飛ぶ。
一枚躱しても次々に飛んで来る。
「しつこい!
躱しているのに何枚も何枚も!」
そして、ここでガクリとヤオ子が止まった。
地面から足を拘束されていた。
「下に居た!?
いや、誘導された!?」
そして、いのが万を持してヤオ子に術を掛ける。
「心転身の術!」
いのとヤオ子の視線が合い、ヤオ子に心転身の術が掛かる。
その瞬間、ヤオ子の唇の端が吊りあがった。
いのが完全にヤオ子の体を支配したのである。
「これでお仕舞いね。
手こずらせてくれたわ」
「結構、素早かったしね」
「ええ。
それじゃあ」
ヤオ子の体を使ういのが、独特の印を結び術を解く。
「解!」
そして、ヤオ子がゆっくりと覚醒する。
「あれ?
あたし……」
「気分は、どう?」
「いのさん?
・
・
そうだ……。
いのさんの術を食らったあと……覚えてない」
「あんたの体、借りてたのよ」
「体?」
「そう。
心転身の術で、あんたの精神を支配したの」
「ええ!?」
「驚いた?」
「まさか……。
その隙にエロいこととかしてないでしょうね?」
「するか!」
いののグーがヤオ子に炸裂した時、シカマルがいの達に合流する。
「コイツ、意外と使えるな。
だから、コイツを使って、これだけのフォーメーションを試してみたい」
シカマルが巻物に書き込んだフォーメーションをいのとチョウジに見せる。
「分かった。
やってみよう」
「仕方ないわね。
付き合うわ」
「…………」
自分を無視した会話が進み、ようやくヤオ子は利用されているのが分かってきた。
「あたしの意思は?」
「ん? ああ。
今度は、お前、忍術は使うな。
瞬身の術だけにしてくれ」
「違う!
あたしの修行を見てくれんじゃないの!?」
「いつ、そんなこと言ったよ?」
「一番、最初!」
「ああ……。
あれ、嘘だ」
「嘘!?」
「どうせ、暇なんだろ?
お前も付き合えよ」
「ノリ悪いって言われんのも嫌なんで付き合いますけど……。
何か酷くないですか?」
「アスマ班は、大体、いつもこんな感じだ」
「…………」
(何か怖いよ……アスマ班。
嘘とやる気と化かし合いで構成されてる気がする……。
クリリンがギニュー特戦隊を見て言ったセリフが頭を過ぎりました……)
『コイツらのキャラがつかめない……』。
ヤオ子は訳の分からないまま修行に付き合う破目にあうのであった。