== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
先日食べた麻婆豆腐の味が忘れられない。
ネジとテンテンが、ヤオ子の通っていた中華料理屋を訪れる。
「今日は、ヤオ子は休みみたいね」
「もしかして、綱手様の試練が終わったんじゃないか?」
店の厨房の中にヤオ子の姿は見えなかった。
そして、注文して数分……。
目的の麻婆豆腐が運ばれて来た。
…
~三十分後~
店をネジとテンテンが俯いて出て来る。
「こんなことがあっていいのか?」
「そうね」
「…………」
「「何で、手伝いのヤオ子の料理の方が美味いんだ!」」
行き場のない怒りが二人を襲った。
第53話 ヤオ子と紅班のある一日
この日、ヤオ子は上機嫌だった。
遂に週休二日が認められた。
きっと、他の子は、もう少し緩い扱いに違いないが……。
「これで普通のOLに格上げです。
微妙ですね……。
これ、待遇よくなったの?
その分、他の五日に振り分けられたなんてことないですよね?」
ヤオ子はテクテクと目的地に向かう。
「それにしても……。
今日の紅班って、誰が居るんだろう?
最近、任務の指令も、あたしだけ雑なんですよね。
『ヤオ子ちゃん。
お弁当を持って、そこ行ってね』って言われても……。
突っ込まないとシズネさん答えてくれないし……。
甘やかしたから、つけあがったのかな?」
ヤオ子が角を曲がり、大きな木の下に出る。
「ここだ」
そこには、既に担当の上忍の夕日紅と部下である犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタが居た。
…
待ち合わせ時間ギリギリ。
最早、神業の域に達し始めたヤオ子の能力。
「時間ピッタリね」
紅がヤオ子に声を掛けた。
「あはぁ~♪
紅さ~ん♪」
ヤオ子がダイブした。
瞬間、紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「綱手様の忠告通りね。
いきなり跳び付いて来るなんて……」
地面にへばり付いたヤオ子が立ち上がる。
「っ!
情報が漏れてたか……!」
「何で、悔しがるのよ……」
「あなたの乳を揉めなかったからですよ!」
紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。
肩で息をする紅にキバが話し掛ける。
「コイツ、使えるんですか?
ナルト以上に馬鹿なんだけど?」
「心配ない……。
何故なら、オレ達が失敗しなければいいからだ……」
「ヤオちゃん……。
久しぶり……」
ヤオ子が顔をあげる。
「あはぁ~♪
ヒナタさ~ん♪」
ヤオ子は、ヒナタの胸にダイブした。
「少し成長しましたね♪」
紅のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「私の教え子に何すんのよ!」
「健やかに育っているかの検査を……」
「あなたが病院で頭を検査して貰いなさい!」
「失礼ですね。
頭かっぽじてもエロいことしか出て来ませんよ」
紅は、がっくりと項垂れた。
「凄いキャラだな……」
「ああ……。
あんな紅先生は初めてだ……」
「…………」
キバ、シノ、ヒナタは呆れていた。
…
紅が咳払いをする。
「まず、自己紹介からします。
私は、この班を任される夕日紅よ。
こっちが犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタよ」
「あたしは、八百屋のヤオ子です。
よろしくです。
ヒナタさんとは、少し面識があります」
「お前のその性格で、
ヒナタと顔見知りって信じられないぜ」
「そうですか?」
紅が手を叩く。
「お話は、そこまで。
任務を始めるわよ」
「任務って、何ですか?」
「…………」
ヤオ子以外の周りが沈黙する。
キバが眉間に皺を寄せてヤオ子に聞き返す。
「何言ってんだ?
任務の内容を聞いたから、来たんだろ?」
「いいえ」
ヤオ子の反応に、紅が質問する。
「どういうこと?」
「シズネさんが『ここに行け』って」
「それだけ?」
「あと『紅班で任務だ』って」
「……何で?」
「あの人は、何も言わなければ、
何処までも手を抜くダメ人間です」
「…………」
(シズネさん……)
紅が額に手を置く。
「じゃあ、本当に聞いてないの?」
「聞いてません」
「下忍に経験積ませるからって、押し込みで一人引き受けたのに……。
こんな子が来るなんて……」
「それ、あたしのせいじゃないですよ?」
「それは、そうなんだけど……」
「で?
任務って?」
紅は溜息を吐く。
「探索よ。
木ノ葉の医療部隊で使う薬草を探すの」
「へ~」
「うちの班員は全員感知タイプの忍だから、
探索の仕事を任されること多いの」
「ヒナタさんは、白眼を使えますもんね。
キバさんとシノさんは?」
「オレは鼻で匂いを嗅ぎ分けられる」
「オレは蟲を操り、広範囲に情報を取得できる……」
「凄いですね。
あたし、いらなくない?」
「そう。
だから、あなたには現地についたら、
私と一緒に薬草を探して貰います」
「なるほど。
つまり、あたしは本当のおまけで、
紅さんは仕方なくお守りを押し付けられたんですね」
「……自分を堂々と卑下するのね。
あなたって……」
「でも、そういうことでしょ?」
キバがヤオ子を指差し、シノに話し掛ける。
「変な奴だな?」
「ああ……」
「……………」
(ヤオちゃん……。
変なままだ……)
紅班は薬草の取れる山へと、変態を一人連れて出発することになった。
…
忍達は、木々を飛び移りながら移動する。
現地への移動中、ヤオ子がキバに話し掛ける。
「キバさん」
「あん? 何だよ?」
「その子、何なんですか?」
ヤオ子がキバの頭に乗る子犬を指差す。
「オレの相棒で赤丸ってんだ」
「へ~。
賢そうですね」
「分かるか?」
「はい。
・
・
赤丸さんか……」
「どうした?」
「いえね。
犬の方が人の名前みたいで、
キバさんの方が犬みたいな名前だなって」
「何ィ!?」
紅とヒナタがクスクスと笑っている。
「キバさんキバさん。
赤丸さんを抱かせてください」
「お前はダメだ」
(機嫌を損ねましたかね?)
ヤオ子が背中のリュックから、ビーフジャーキーを取り出す。
「キバさん。
ジャーキーあげます。
これで許してください」
「お前はアホか……」
「…………」
ヤオ子は赤丸へと視線を移す。
「赤丸さん。
ジャーキーあげます。
あたしに抱かれませんか?」
「言い方が卑猥だ……」
しかし、赤丸は物欲に負け、ヤオ子に跳び付いた。
「えへへ……。
キャッチです」
「赤丸……」
木々を飛び移って移動しながら、会話は続く。
「赤丸さんって温かいな。
・
・
ん?
いい毛並みをしてますね」
「そんなの分かるのか?」
「はい。
あたし、犬のトリマーも任務でしました」
「その任務いいな。
オレもやってみたいぜ」
「赤丸さん以外に浮気ですか?」
「違う!」
ヤオ子が赤丸を万歳で持ち上げる。
そして、股間に目を移す。
「本当だ♪
男の子じゃ、浮気出来ません♪」
紅とキバのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「この変態が!
二度と赤丸に触るな!」
「無理ですね」
「ハァ!?」
「赤丸さんは嫌でも私に寄って来ます」
「何でだよ!?」
ヤオ子が、先ほどのビーフジャーキーを取り出す。
「キバさん……。
犬の特性は、よくご存知ですね?
犬は食べる時『おいしかった』より、
『いい匂いだった』の方が強いんです。
・
・
このジャーキー……。
あたしが貰ったものの中で一番の特注です」
「な…に……」
「赤丸さんの視線を見てください」
赤丸は、ヤオ子の手にあるビーフジャーキーに釘付けになっている。
「赤丸! 耐えるんだ!」
赤丸は首を振った。
「はっはっはっ!
これで赤丸さんは、あたしの虜です!」
「そんなもの!」
キバがヤオ子からビーフジャーキーを奪った。
「何するんですか!」
「今から赤丸と二人で食い尽くしてやる!」
「卑怯者~!」
「どっちがだ!」
そして、ビーフジャーキーは食べ尽くされた。
後ろから追い掛けるヒナタは、シノに話し掛ける。
「あの二人、意外と仲いいかもね」
「そうだろうか……?」
「何だかんだで、キバ君、楽しそうだよ」
「あの子も獣に近いのかもしれん……」
「はは……」
紅は賑やか過ぎる移動に溜息しか出なかった。
…
目的地の山に到着すると、ヤオ子と紅を除く三人は直ぐに薬草探索に移行した。
そして、残されたヤオ子に紅が不安の目を向ける。
紅は鞄から薬草辞典を取り出し、ヤオ子に見せる。
「この山に生えるここから……ここまでの薬草を探すから、
形状や特徴をよく覚えてくれる?」
ヤオ子は、薬草辞典に少し目を通すと紅に返す。
「覚えました」
「もう?
じゃあ、このAっていう薬草の特徴は?」
「葉っぱに特徴があって、先が三つに割れています。
匂いは百合に似ています。
・
・
そして、この季節なら水辺から少し離れたところに自生しています」
「正解ね。
後半の情報は、この薬草辞典に載ってないけど?」
「ちょっと……だけ、詳しいんです」
ヤオ子は笑って見せたが、紅は、それが少し悲しく見えた。
ヤオ子が質問する。
「紅さんは感知タイプの忍者さんなんですか?」
「いいえ、違うわ。
だから、知識を頼りに探す予定よ」
「そうですか。
・
・
では、あたしの影分身に散って貰ってもいいですか?」
「独自で探すの?」
「はい。
人海戦術なら、数が多い方がいいです」
「別に構わないわよ」
ヤオ子は地図とコンパスを取り出し、位置を確認して周囲の情報を頭に入れる。
(この条件で分布していそうな薬草を強く思い浮かべながら……)
影分身に与える薬草の情報を強く意識し、ヤオ子はチャクラを練り上げると印を結んで影分身を四体出す。
「よろしくです」
影分身は四方に散って行った。
「じゃあ、行くわよ」
ヤオ子は紅の後に続いた。
…
薬草を探し始めてから僅かな時間しか経っていない。
その変化を紅は少し信じられなかった。
さっきから、ずっと空気が張り詰めぱなしなのである。
張り詰めさせている原因はヤオ子に他ならない。
凄まじい集中力が空気をピリピリとさせていた。
(どうしたのかしら?
薬草を探し出したら、急に集中し出した。
さっきまでのふざけた言動が嘘みたい)
ヤオ子が指差す。
「あそこです」
岩陰の脇で揺れる僅かな葉の影……。
その死角には野草が固まって生えていた。
紅が全体を見て、薬草を確認する。
「間違いないわね」
「群生していますが貴重な薬草です。
雄株と雌株をちゃんと残して、
次の採取の時のために子孫を残して貰いましょう」
「そうね。
取り過ぎは、よくないわね」
(何処で得た知識なのかしら?)
ヤオ子と紅は慎重に件の薬草を採取する。
必要数の薬草が揃うと、ヤオ子は紅に訊ねる。
「紅さん。
他に何を取ろうとしていますか?」
「基本的に群生している薬草ね。
数少ない自生する薬草は、キバ達に任せているわ」
「分かりました。
EかGかNの薬草ですね。
そのうち、Eは、見つけたから、GかNか……」
ヤオ子は目を閉じ、薬草の知識を引き出すと口にする。
「確かGならコケの多いところ、
Nなら枯れ木の多いところを探せばいいはずです」
「コケか……。
じゃあ、水辺の方ね」
紅が頭に入っている地図を確認すると移動を始め、ヤオ子もそれに続いた。
…
Gの薬草も直ぐに見つかり、採取することが出来た。
予定よりも早い成果に、紅の提案でヤオ子と紅は少し休憩を入れることにした。
「素晴らしい知識ね」
「そうですか?
勉強した甲斐があります」
「でも、少し張り詰め過ぎてない?」
「そう見えます?」
「ええ」
「…………」
ヤオ子は視線を落とす。
「頭でいくら理解しても難しいんですよね。
このことだけは……。
・
・
気負っちゃうんですよ」
「何かあったの?」
「ちょっとだけ。
でも、これはあたしで解決しなきゃいけないことだから」
「そう。
・
・
じゃあ、アドバイスをしてあげる」
ヤオ子は紅に視線を向ける。
「それは、辛いことだったの?」
「……はい」
「じゃあ、同じ任務で成功した時を想像してみて」
「成功……?」
それは”もしも”の話でしかない。
だけど、救えることが出来たなら、違った未来があったはず。
もう救うことは出来ないが、同じ境遇の誰かを救うことが出来たら……。
ヤオ子の中であの時の少女が微笑んだ気がした。
そう感じた時、ヤオ子の頬も少し緩んだ。
「そのために頑張るの。
自分を追い詰める方にだけ考えないで。
失敗したらとか……。
上手く出来なかったら……って。
・
・
緊張感を持たすのもいいけど、柔軟な思考に制限を掛けちゃうわよ」
「そうかもしれないです……」
「本来のあなたは、出発前の明るい子なんでしょう?」
「はい」
「変な行動は、やめて欲しいけどね」
紅がヤオ子に微笑む。
ヤオ子に安心感が広がり、ヤオ子は少し過去を振り返る。
もう一度、あの女の子と居れた未来を思い浮かべる。
(今度、出会う同じ条件の誰かとは笑っていたい……。
それは、きっと楽しいことに違いない……)
ヤオ子が、目を閉じて大きく深呼吸する。
「行きましょうか?
キバさん達よりも、多くの薬草を見つけないと」
「ええ。
でも、無理だと思うわよ?
彼等は、ある場所を探ることが出来る。
私達は、あるかもしれない場所を探すのだから」
「必ずありますよ。
あたし、仕事運はいい方なんです」
「そうなの?」
「はい」
「じゃあ、行きましょう」
ヤオ子と紅が、その場を後にする。
そして、今度は張り詰める空気の中に温かさも混じっていた。
…
昼食時……。
散っていた班員が集まり、それぞれが採取した薬草を見せ合う。
「ぐ…負けた……」
キバが呟く。
「紅先生とヤオちゃん凄い……」
「どんな手品を使ったのか……?」
ヤオ子がチョキを見せる。
「数は少ないですが、全種類コンプリートです。
あたしと紅先生のエロパワーに掛かれば、
キバさん達など、赤子の手を捻るようなものです!」
紅のグーが、ヤオ子に炸裂する。
「エロパワーは出てない!」
キバ達が苦笑いを浮かべた。
キバは、ヤオ子達が採取した薬草を摘まみ質問する。
「でもよ……。
一体、どうやって集めたんだ?」
「影分身で人数増やしました」
「なるほど……。
探索する数を増やしたのか……。
しかし、それでも全種コンプリートは難しい……」
「後は、生えていそうなとこも予想していますからね」
「ヤオちゃん。
予想出来るの?」
「出来ますよ。
草の情報があればいいんだから。
地図を見れば、季節柄の太陽の位置とかから、
日光の当たる範囲を予想して探せばいいんですよ」
「なるほど……。
じゃあ、午後はヤオ子に予想して貰った範囲を探索すれば、
オレ達のノルマ達成は早まるわけだな……」
「いい案だな、シノ。
・
・
いや~。
お前がただの変態じゃなくて良かったよ」
「キバさん……。
それ褒めているんですか?」
全員が笑いを浮かべる。
「さあ、お昼を取りましょう」
全員がリュックからお弁当を取り出す。
そんな中、ヤオ子は更に三段重ねの御重を取り出す。
「オイ……。
お前、何を持って来たんだ?」
「お弁当」
「今まで、どうやって入ってた!?
明らかにリュックの幅の方が小さいぞ!」
「女の子には秘密があるんですよ」
「そうなのか?」
キバがヒナタに聞くが、ヒナタは首を振る。
「少なくとも、私には出来ないよ」
「違うじゃねーかよ!」
「じゃあ、時空間忍術で繋がってたんですよ」
「『じゃあ』って、何だ!?」
「しつこいですね。
どうだっていいでしょ?
じゃあ、あれですよ。
旅行バッグに意外と物がギュウギュウに入る感じ」
「ああ……。
・
・
やっぱり、納得出来ねぇ……」
「キバ……。
その辺でやめるべきだ……。
何故なら、食事が始まらないからだ……」
「わーったよ!」
食事が開始され、ヤオ子は御重の一段目を開く。
「皆さんも、どうぞ」
「意外ね。
家庭的じゃない」
「紅さんまで……。
あたし、普通に女の子っぽいこともしますよ」
「煮物に…肉じゃがに…キンピラ……。
ヤオちゃんが作ったの?」
「はい。
お口に合えばいいんですけど」
「上手いのか?」
キバが先行して一口食べると、鼻を引くつかせ始めた。
「ヤオ子……。
二段目は、オレと赤丸が責任持って処理しよう」
「何があった……」
「きっと、予想以上に美味しかったんだよ」
「二段目には、何が入っているんだ……?」
「生姜焼きです」
「目当ては肉か……」
「予約済みだ!」
「皆で食べればいいじゃないですか」
「ヤオ子。
赤丸が腹を空かしている」
「二人で、どれだけ食べる気ですか……」
「オレのおかずと交換だ」
「…………」
ヤオ子のおにぎりの上に梅干が二個乗る。
キバは、二段目の御重を奪った。
「皆さん……。
どうしますか?」
「殴ろうかしら?」
「蟲責めだな……」
「柔拳使っちゃうかも」
「…………」
「冗談冗談……」
二段目の御重が戻るが、全員の視線が止まった。
「どうした?」
「半分ない……」
「は?」
御重の横で赤丸が満足そうに横になり、御重の中は半分空になっていた。
「赤丸さん! ずるい!」
「こうなったら、キバの分は無しね」
「何ィ!?」
「当然だな……」
「当然かな?」
「ヒナタまで!?」
その後、生姜焼きは均等に分けた。
満足したのは、赤丸だけだったようだ。
「ところで……。
最後の御重は?」
「いたらきです」
「何だ? そのチョイスは……」
「昔懐かしい『おぼっちゃまくん』から」
((((知らない……))))
「デザートか?」
「そんなもんです」
そして、全て完食して昼食は終わった。
「うまかった~!」
「ご馳走になった……。
礼を言おう……」
「「ご馳走様」」
「はい。
お粗末様」
ヤオ子が御重を謎多きリュックに片付ける。
「お前、また来いよ。
任務しなくていいから、弁当だけ持って」
「あたしは炊事係ですか……。
まあ、機会があれば赤丸さんのために」
ヤオ子が赤丸のお腹を擦ると、赤丸は気持ち良さそうにしている。
「赤丸さん。
キバさんに愛想尽かしたら、
いつでもうちに来てくださいね」
「物騒なことを言うな……」
そして、午後の任務が始まる。
…
午後、少し構成が変わる。
ヤオ子とシノが一緒に行動することになる。
シノは、午前中にノルマを達成しているので予備の薬草を確保する程度である。
そのため、少し別行動をしてもいいとお許しが出た。
「ヤオ子……。
お前の知識を借りたい……」
「いいですけど?」
「薬草の他に、この草を探している……」
シノの手書きの草の絵を、ヤオ子は見る。
「薬草じゃないですね。
確か……蟲のエサになるんじゃないでしたっけ?」
「その通りだ……。
午前中も探したが数が足りない……」
「なるほど」
「この草の生えていそうなところを予想出来ないか……?」
ヤオ子が地図を広げる。
「シノさんが午前中探索したのって、何処ですか?」
「ここだ……」
シノが地図を指差す。
「変ですね。
ここなら、問題なく生えているはずなのに」
「オレも、そう思っていた……」
「元々、あまり種が飛んでないのかも。
・
・
となると、風が吹いても届かないのかな?
そうなると同じ条件で少し風通しのいい……ここ」
ヤオ子が、別の位置を指差す。
「真逆だな……」
「はい。
その代わり、吹き込む風の条件も真逆ですから、
種が運ばれる可能性は高いかと……」
「行ってみよう……」
ヤオ子とシノが、皆に遅れて出発した。
…
目的地周辺……。
背の高さを越す草が鬱葱と茂り、辺りを見回しても見つけるのは困難な予感がする。
ヤオ子は腰に手を当て、溜息を吐く。
「ここからは、目が便りですね」
「任せて貰おう……」
シノが手を広げると服の隙間から、大量の蟲が湧き出て散っていく。
「彼等の連絡を待つ……」
「凄い……。
これは影分身の比じゃありませんね」
そして、直に一匹の蟲が戻ると、シノの指に止まった。
「見つけたようだ……。
やはり、相談して正解だったな……」
「いや~。
そんなことありませんよ」
シノの前を知らせに来た虫が飛び、ヤオ子はシノに続いて歩く。
そして、目的の草が山のように生えている場所へと辿り着いた。
「ここまでの量はいらんのだが……」
「じゃあ、必要な分だけ採りましょう。
あたしも手伝いますね」
「助かる……」
二人は蟲のエサとなる草を採り始めた。
…
紅班、二度目の集合……。
任務に必要な薬草は、十分。
シノの必要な蟲のエサの草は、十二分。
「何で、シノの私用の草の方が多いんだ?」
「それは、たまたまだ……。
何故なら、見つけた場所で採取した量がこれだけになるからだ……」
「そういうことです。
何故なら、あたし達は一箇所でしか作業をしていないからです」
「コイツら……。
嫌なコンビネーションを……」
紅とヒナタが呆然としている。
「遊ばれてますね……キバ君」
「あのシノと打ち解ける子も珍しいわね……」
からかうことは、まだ続く。
「あたしとシノさんのコンビネーションは、
赤丸さんとキバさん以上です」
「その通りだ……」
「あのガキ……。
さり気なく赤丸の方を先に呼んで順位付けを変えやがった」
「そして、蟲達もヤオ子に惚れ込んでいる……」
「「は?」」
シノの服の隙間から湧き出た蟲がヤオ子を覆い隠していく。
まるで蟲が人を形作っているようである。
「うげ~……。
お前、平気なのか?」
「最初は吃驚しましたけど、
こそばゆいのが癖になりそうですね」
「また変態的な返答を……」
ヤオ子がヒナタの方を向くと、強引に手を取った。
「甲子園でボクと握手!
・
・
なんちゃって♪」
ヒナタの腕をぞわぞわと蟲が這い上がると、ヒナタの顔から血の気が引いていく。
「キャーッ!」
ヒナタが倒れた。
「また倒れた……。
相変わらずシャイですね~」
「シャイと違うわよ!
また私の教え子に!」
蟲に覆われたヤオ子が胸を張る。
「叩けますか?
この蟲は、シノさんのですよ?」
「卑怯な!」
「あたしのフェロモンに蟲もメロメロです」
「あなた、体からフェロモンが出てるの!?」
「そうです」
「なんて、人間離れした奴なんだ……」
「そんなわけがない……」
シノが合図すると一匹の蟲がシノに戻る。
それに合わせて蟲がヤオ子から離れていく。
「あれ?」
「これは奇壊蟲の雌だ……。
雄は雌のほぼ無臭の臭いに惹かれる……」
「タネがあったんですか。
シノさんのギャグですね。
えへへ……」
「ふ……」
「シノのギャグだったのか……」
「あのシノが笑った……」
「…………」
ヒナタそっちのけで、紅とキバが呆然とする。
「どうしたんですか?」
「いや、シノのギャグなんて初めて聞いた」
「そもそもギャグかどうかも怪しいわ」
「ギャグですよ。
あたしの電波受信機にはピピッと来ました」
「お前、どんだけギャグの受信領域広いんだよ!」
「何か、今のは少し新しい突っ込みですね」
キバが、がっくりと項垂れる。
「紅先生……。
オレは、もう疲れました……」
「奇遇ね……。
私も疲れてるわ……」
「疲れちゃダメですよ。
誰がヒナタさんを介護するんですか?」
「「ああ! ヒナタ!」」
紅班……ぐだぐだのうちに任務終了。