== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
第七班(?)の任務を終えてから、ヤオ子は雑務中心のDランク任務をこなす日々が続いた。
もう……。
こなしてこなしてこなしまくる。
他の同期の子を置いてきぼりで、一人だけDランクのエンカウントを増やす。
そして、やっと休日を貰うことが出来た。
「いや……おかしいって。
今度、目安箱に週休二日にしてくれって投書しないと……。
もしくは、神龍に頼むか……」
ヤオ子はパワハラ上司に逆らえないOLのように任務をこなしていた。
そして、やっとのお休み。
「のんびりしてもいいんですけどね……」
ヤオ子は、あの女の子の顔が過ぎると更なる努力を求めて、朝早くから家を後にした。
第52話 ヤオ子とガイ班のある一日
本日は、待ち合わせをしている。
たまたま会ったガイが修行を見てくれると言ってくれたのだ。
ヤオ子は、ガイ班が修行している演習場に昨晩の任務で作った蒸かし前の中華まんとその他諸々を持って、待ち合わせ場所に向かうことにした。
そして、目的地に向かって歩く先で、お揃いの服装が見えてくる。
「ガイ先生~! リーさ~ん!
おはようございます!」
「おお、ヤオ子! おはよう!」
「おはようございます!
ヤオ子さん!」
「今日は、お世話になります」
ヤオ子の挨拶にガイとリーも挨拶を返し、そのまま会話へと移る。
ガイがヤオ子の背荷物を見て話し掛ける。
「随分と大荷物だな?」
「はい。
修行を見ていただくので、お昼をご馳走しようと思って」
「また野菜か?」
「いいえ。
昨夜の任務の貰い物です。
貰い物で、すいません」
「気にするな。
そんな言い方は、貰った人にも失礼だぞ」
「そうですね。
皆さんで美味しくいただきましょう」
ガイとリーと合流して、ヤオ子はガイ班が利用する修行場所へと向かうことになった。
そして、本日お世話になるガイ班には、リー以外のメンバーも居る。
修行場所に着くと、ヤオ子に気付いた日向ネジとテンテンがヤオ子を見て質問した。
「ガイ先生~。
この子、誰ですか?」
「ん? そうか。
二人は初めてだったな。
こっちは、八百屋のヤオ子だ。
リーが入院している時に世話になった」
「世話?」
「違いますよ。
入院中にリーさんに体術を少し教えていただいたんです。
それからガイ先生とリーさんに、時々修行を見て貰っているんです」
「へ~」
ネジが溜息交じりに話す。
「勝手に入れないで欲しいな」
「ううう……。
すいません……」
「ネジ。
小さい子にそんな言い方ないんじゃない?」
「事実を言ったまでだ」
「お二人のお邪魔にはならないようにしますんで……」
「……分かった」
ネジがその場を離れて行くと、ヤオ子は庇ってくれたテンテンを見る。
「あの~……」
「何?」
「実は、テンテンさんに折り入って相談したいことがあるんです」
「相談?
皆に話せば?」
テンテンの言葉にリーが反応する。
「そうです!
一人よりも、皆で話した方が解決は早いです!」
「リーの言う通りだ!」
(また、この二人は……。
何とか引き離さないと……)
ヤオ子が頬を染め、はにかんで呟やく。
「あの……女の子同士の大事なお話なんです」
ガイとリーが固まると、テンテンは気を利かす。
「そういうことなら、先生達は用なしね。
お昼前に少し話そうか?」
「お願いします」
その後、ガイ、リー、ヤオ子とネジ、テンテンで別れて修行をすることになった。
…
ガイが、ヤオ子とリーに指示を出す。
「では、ヤオ子のために基本の型から確認しよう」
「リーさん、すいません。
あたしのために……」
「構いません!
基本は大事です!」
「ああ……。
やっぱり、リーさんはいい人だ……。
綱手さんに爪の垢でも飲ませたいです……」
「「何故、火影様に……」」
「あはは……。
気になさらず。
・
・
では、始めましょう!」
ヤオ子の強引な勢いで修行が開始される。
そして、基本の確認が終了すると、ガイが感想を話す。
「二人とも基本をよく守っている。
オレは非常に満足だ」
「「ありがとうございます!」」
基本、声は大きく……。
遠くから見ていたネジとテンテンは、大したものだと感心する。
あのノリについていけて……と。
「ところで、ヤオ子」
「何ですか?」
「オレは、お前の修行を全然見てやれないわけだが……。
何か気になることや要望はないか?」
ヤオ子は顎の下に指を立てる。
「そうですね~……。
今、瞬身の術を練習していますが、上手く出来ません」
「瞬身の術?」
「やはり、格闘戦では、スピードがある方が有利だと思うんです」
「何故だ?」
「強い攻撃も当たらなければ意味がない。
当てるにしても避けるにしても、
スピードは重要な要素と考えます」
「ヤオ子! お前って奴は!
リーの次にいいところに気付くな!」
「次点ですか……」
リーが腕を組んで考えたあと、指を立てて提案する。
「少し見てみませんか?
ヤオ子さんの動きは、それほど悪いと思いませんので」
「そうだな。
やってみろ」
「はい。
・
・
行きますよ!」
ヤオ子はシュッと音を立てると横に移動する。
「どうですか?」
「何か、変だな?」
「はい」
「変?」
「もう一度、いいか?」
「はい」
ヤオ子はシュッと音を立てると横に移動する。
「目で普通に追えるな……」
「はい。
ガイ先生」
「そうなんですよ。
サスケさんやリーさんを見ているから、早い動きは、大体、分かるんです。
でも、自分では早く動けないんです」
ガイはヤオ子の動きを思い出し、腰に手を置く。
「少し分かった気がする……。
何故、チャクラを使わんのだ?」
「もったいないから」
「馬鹿ヤロー!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「普段の戦闘は、どうしているんだ!?」
「極力使わない!」
「馬鹿ヤロー!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「痛いな~」
「忍者がチャクラをケチって、どうする!?」
「あれって筋力の高速移動じゃないの?」
「違う!
普通に考えれば分かるだろう!」
「普通に考えるよりも節約が先に……」
「また、貧乏性が出たか……」
「あ、でも……。
命の危機が絡めば使いますよ。
サクラさんと戦った時は、使ってましたから」
「じゃあ、出来るのではないか?」
「ただし、チャクラ吸着で、踏み込みの摩擦力を増加しかしていませんけど」
「本当にダメな奴だな。
練習の時に使わないで、本番でどうやって使うんだ?」
「じゃあ、使おうかな?」
「思いの他、問題は早く解決しそうだな」
ガイの言う通りに問題解決は早そうだが、リーは別のことが気になった。
リーがヤオ子に質問する。
「ヤオ子さんは、そもそも何でチャクラを節約していたんですか?
貧乏性はなしで……」
「初めは、チャクラの総量ですね。
チャクラ吸着の木登りの後に忍術の修行をします。
その後に体術でもチャクラを使ったら……死ぬ」
「…………」
「本に書いてありました。
使っているのは身体エネルギーだから、無理して使い切れば当然死ぬと……。
だから、体術は教わった基礎しかしていませんでした」
ガイは腕組みをする。
「一応、理由はあったんだな。
しかし、チャクラの総量も増えて来たはずだ。
そろそろ体術にも応用していいんじゃないか?」
「そうですね」
「それが理由だったんですね」
「実は、あと一つ」
「まだ、あるのか?」
「ただ、こっちの方は理由が弱いんですよね。
実験的な意味も多いし」
「?」
ヤオ子の遠回しな言い方に、今一、ガイとリーはピンとこない。
ヤオ子が説明を含めて質問をする。
「ガイ先生とリーさんに質問ですが、
お二人は水上の戦闘で水面歩行をしますよね?」
「当然だ」
「同じく」
「しかも、体術の達人である以上、極自然に」
「そうだな」
ヤオ子は指を立てる。
「それを完全にコントロールしたいんです」
「どういうことだ?」
「つまり、平常時は微弱なチャクラすら流さない。
戦闘と認識した時にだけ流すんです」
「何で、そんなことを?
例によって節約か?」
「いいえ。
幻術対策です」
「幻術だと?」
「まだ実験段階で試していないんですけど……。
幻術というのは、自分のチャクラを相手にコントロールされることで掛かります。
しかし、コントロールするチャクラさえなければ、理論上は幻術に掛かりません」
「なるほど」
「また、チャクラを抑えるだけでも意味はあると思います。
相手にコントロールするチャクラを与えないわけですから、
相手がよっぽどの達人でない限り、防げると思います」
「面白い考えですね」
「しかし、諸刃の剣だな」
「どうして?」
「戦闘中にチャクラを練るのは必然だろう。
少しもチャクラを流していないのは、行動が遅れる原因だ」
「そうか……」
ヤオ子は少し残念な顔をする。
「しかし、オレはそういう影の努力は嫌いじゃないぞ」
「ありがとうございます」
「それにヤオ子さんの努力は無駄ではないですよ。
幻術を解く時には、
一度、チャクラを可能な限り止めるはずですから」
「「そういえば……」」
ヤオ子とガイは、リーの一言に納得する。
「努力が無駄にならなくて良かったです。
そして、あたしの質問と説明は終わりです。
・
・
瞬身の術の講義をお願いします」
「うむ。
では、リーよ。
ヤオ子に瞬身の術の手本を見せてやれ」
「分かりました」
その後、リーの瞬身の術をお手本に練習が始まった。
暫くして、ヤオ子は瞬身の術の個人練習に入り、ガイとリーは別メニューの修行に移った。
…
午前中の修行もお昼に近づき始めると、ヤオ子は皆よりも早めに練習を切り上げる。
そして、テンテンのところへと向かう。
テンテンはヤオ子に気付くと、修行を中断してくれた。
「さっき言ってた、お話?」
「はい」
「どんなことかな?」
「実は……」
「ん?」
「女の子は、あまり関係ないんです」
テンテンが首を傾げる。
「教えて欲しいことがあるんです」
「私が教えられるの?」
「多分、この班で紅一点のテンテンさんにしか相談できません」
「何のこと?」
「ガイ先生……」
「?」
「ガイ先生とリーさんの制御方法を教えてください!」
テンテンは『あ~』と声を漏らすと額に手を置く。
「そのことね……。
なら、ネジも呼んだ方がいいわ……」
テンテンがネジを呼ぶと、ネジは面倒臭そうにやって来る。
「何だ? 一体?」
「この子の質問……。
ネジも答えてあげて」
「質問?」
「ガイ先生とリーの扱いだって」
「う……」
ネジが小さな呻き声を漏らした。
そして、溜息を吐いて話し掛ける。
「お前も被害者か?」
「被害者……。
ということは、テンテンさんだけじゃなく……ネジさんも?」
ネジが頷く。
「質問は詳しく話さなくても分かるわよ。
要するに
『どうやって、あのノリだけの会話をどうするか?』
『どうやって、あのノリだけの行動をどうするか?』
でしょ?」
「はい」
「オレ達も苦労している……」
妙な連帯感が生まれる。
「何か対策ってあるんですか?
あたしは、さっきみたいに飲まれるしかないんですけど」
「私達は、一人にならないことを心掛けているわね。
二対一だと必ず押し負けるから」
「一人の時は?」
「一人の時は、極力暴走するようなネタを振らない」
「…………」
「長年付き合ってきた二人でも、回避しか出来ないんですか?」
「それだけ濃いということだ……性格が」
「ヤオ子ちゃんは、どうしてるの?」
「年上なんで呼び捨てでいいですよ。
・
・
えっと……あたしは、まだ分析段階なので、
あえて、あのノリに乗っかって被害を減らしています」
「乗るのか……。
勇気ある選択だな」
「まだ、はしゃいでもギリギリセーフの年齢ですので」
「分析と言っていたが、興味あるな」
「はい。
同士のお二人には、お話しします。
・
・
あたしの見たところ、リーさんだけなら御せるんです」
「リーだけ?」
「はい。
リーさんは素直な性格で、結構紳士です」
「そうかも……」
「確かに……」
「リーさんだけなら、
あたしは強引に我が侭とか通せる気がします」
テンテンが考え込む。
「私も思い当たる節があるわ」
「オレもだ。
何だかんだで意見に乗ってくれることが多い」
「でもね。
ガイ先生が加わると一変するんです。
まず、意見が通らなくなります。
何故か?
リーさんが、全てガイ先生の意見に靡くからです」
「「なるほど」」
「更にここで絶対的な不利が発生します」
「不利?」
「数の暴力です。
多数決で必ず向こうが、"2"になるんです。
これがさっき言っていた一人を避けるに繋がります」
「中々、やるな……」
「必死です。
見てください」
ヤオ子がレッグウォーマーを捲り上げる。
「さっき……。
重りを増やされました……」
「それか……」
「はい」
「私達は、リーが身代わりになってくれたから……」
「そうなんです。
リーさんは、まともなんです。
滅茶苦茶いい人なんです。
リーさんにガイ先生が加わるとおかしくなるんです。
・
・
リーさんはガイ先生を尊敬し過ぎて、壊れると思われます」
「「そうかもしれない……」」
「あたしは、リーさんの入院中にリーさんから体術を習ったんで、
リーさんの分析は、かなり出来ました。
問題はガイ先生です。
あの人を分析して理解しなければ、対策が立てられません」
テンテンがネジを見る。
「ネジ……。
私、何か心強い味方を得た気がするわ。
この子となら、長年苦労していた問題を解決できるかもしれない」
「テンテン。
過度な期待は禁物だ。
・
・
しかし、ガイ先生を何とかすれば、リーをこちら側に戻せるかもしれない」
ヤオ子はネジとテンテンに指を立てる。
「そこで、少しガイ先生を分析してみませんか?」
「分析?」
「あたしが思うには、ガイ先生はリーさんに偏った考えをするように見えます。
もしかしたら、剛拳贔屓なのでは?
ネジさんの柔拳やテンテンさんの暗器に嫉妬しているとか?」
「「それはない」」
「じゃあ、あの強引さと発想は何処から来るんでしょうか?」
「難しいな……」
「ねぇ。
その強引さの度合いを確かめてみたら?」
「何ですか? それ?」
「つまりガイ先生の我が侭度をチェックするのよ」
「面白いですね」
「我が侭度か……」
ヤオ子は腕を組む。
「その度合いによって対策も変わるかもしれませんね。
例えば、ガキ大将レベルなのか?
大人の不良レベルなのか?
とかですね。
近い対象と同じ様な対策を立てられるかもしれない……」
「でも、どのようにチェックするんだ?」
「一つ……考えがあります。
・
・
これを……」
ヤオ子が蒸かし前の中華まんの入った箱を開ける。
「まだ蒸かしていませんが、
これをお昼のメニューに出します」
「それで?」
「数を見てください。
六個あります。
つまり、一人分多いんです。
全員、一個ずつ食べたあと、我々は手を出しません」
「なるほど……。
その最後の一個をどのようにガイ先生が取るかを観察するのか?」
「はい」
「『これは、オレのだーっ!』とかって取ったらガキレベルね」
「十分有り得そうだな……」
「あたしは、これから昼食の準備に入ります。
いきなり、中華まんを出すのも変なんで、デザートの杏仁豆腐の前に出します」
「分かったわ」
「了解した」
「では、昼食が終わった後で、また作戦会議を……」
全員が頷くとヤオ子は昼食の用意に向かい、ネジとテンテンは修行を再開した。
…
お昼の時間まで一時間……。
ヤオ子が演習場の水道の近くで料理を始める。
折りたたみ式の簡易的な机を開き、簡易コンロを二台設置。
飯盒のお米を研いで、即席の枝で作った炊き込み用の棒に飯盒を設置して火をつける。
そして、机の上にまな板を置くと材料を刻み始める。
小刻みよく流れる包丁のリズムが辺りに響く。
「ふふふ……。
最近は、何故か中華料理屋でも働いています。
そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
・
・
この前は、和食料理店でした。
そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
・
・
更に前が老舗のお蕎麦屋さん。
そして、何故か綱手さんのお昼を作らされたり……。
・
・
綱手さんの食べたい気分で任務が変わります。
あのババア……。
それに同伴するシズネ女史にも腹が立つ、今日、この頃」
材料を切り終わり、コンロに火をつける。
ヤオ子がコンロの上で中華なべを振るって料理を始めると、辺りにはゴマ油の香ばしい匂いが立ち込めた。
「中華なべを自在に振れるって、どうなんでしょうね?
・
・
よっと!」
ヤオ子がお玉で調味料を加え、手首の返しで食材がなべを滑り、宙を舞う。
「綱手さんって自分の舌が納得するまで通わせるんだもんね……。
いくら仕事忙しいからって、
下忍に料理覚えさせてお昼に作らせんのって、どうなの?
・
・
ほっ!
一品目あがり!」
ヤオ子は中華鍋を滑らせ、皿に青椒肉絲を盛り付ける。
「冷ますのも何だし……。
少し早いけど、皆を呼ぼうかな」
ヤオ子が印を結び、影分身二体を作り出すとガイ班に昼食の伝令をお願いする。
その間にヤオ子は、次の料理作りに入った。
…
ヤオ子が料理を開始して暫くすると、影分身に呼ばれたガイ達がやって来た。
「昼食、作ったんで食べてください」
簡易テーブルの上には青椒肉絲の他に、新たに料理した麻婆豆腐が置いてある。
そして、人数分の取り皿と箸も置かれていた。
「すまんな、ヤオ子」
「ご馳走になります」
ガイとリーが普段通りといった感じで席に着くと、テンテンが二人に話し掛ける。
「何か……慣れてるわね?」
「ヤオ子さんの料理は、入院中にいただきました」
「あの時は、すき焼きだったな」
「はい。
あと、焼き野菜です」
「何の話?」
「まあまあ、気にしないで。
ネジさんもテンテンさんも食べていってください。
・
・
ガイ先生、あれからレパートリーが増えたんですよ」
「そのようだな」
ガイがテーブルの上の料理に目を移す。
ネジとテンテンも席に座り、ガイ班全員が席に着いた。
「ご飯物は飯盒のご飯が炊けてから調理するんで、
それでもつつきながら、お話ししていてください」
「ヤオ子は、いいのか?」
「あと二、三品作ったら加わります」
ヤオ子は、もう一つのコンロに蒸し器を置いて、件の中華まんを蒸し始める。
(戦いの始まりです。
ガイ先生の本性を暴きます)
ヤオ子はクーラーボックスから家で下準備した餃子を取り出して、次のメニューの調理を開始した。
…
ガイ達がヤオ子の言葉に甘えて、先に料理を頂く。
「「「「いただきます」」」」
取り皿に麻婆豆腐取り分け、一口。
「うまい!」
「美味しいです!」
「本当……。
美味しい……」
「凄いな」
ガイがヤオ子に質問する。
「いつの間に料理を覚えたんだ?」
「任務で」
「どんな任務なんだ……」
すかさずネジから突っ込みが入ると、テンテンが質問する。
「何で、任務で料理店の味まで極めるわけ?」
「綱手さんが仕事で忙しくて出歩けないから、
時々、出張して作るんです」
「答えになってないんだけど……」
「つまり、綱手さんが納得する味になるまで、任務を続けさせられるんです」
「ああ……なるほど」
「テンテン……。
納得してるが、完全な職権乱用だぞ……」
ヤオ子が焼きあがった餃子を置く。
「そろそろご飯が炊けるんで炒飯作りますね。
他に何か食べたいものあります?
材料にも制限ありますけど……」
「私、卵スープ欲しい」
「いいですよ」
ヤオ子は影分身を一体出し、飯盒からご飯を取り出して貰うように指示を出す。
そして、自身は卵スープを作り始めた。
「ネジ。
この麻婆豆腐……絶妙ですね」
「ああ。
オレは、もう少し辛さが欲しかったが」
「すいません。
お店だと、辛さを選べるんですけど。
皆でつつくんで平均的な辛さにしてあります」
「なるほど。
・
・
今度、寄らせて貰おう」
「待ってますね」
ネジは、結構、気に入ったらしい。
そして、ガイ班は最近の任務の話や次の任務の話をしながら料理を摘まんでいた。
その後、卵スープが運ばれ、炒飯が出来上がるとヤオ子も輪に入った。
「ヤオ子は、いい奥さんになれるな」
「イヤですね~。
ガイ先生ったら!」
「でも、本当にどれも美味しいです!」
テンテンが卵スープを啜って、ヤオ子に話し掛ける。
「この味つけってさ。
名前忘れたけど、ちょっと値段の高い中華料理屋よね?」
「そこで調理師が足りなくて任務していました」
ネジが難しい顔で、ヤオ子に訊ねる。
「その任務……大丈夫なのか?
忍者が出来るものではないだろう」
「あたしは、そもそも木ノ葉は、
この手の任務を受けちゃいけない気がするんですよね」
「同感だ。
一体、今まで誰が受け持っていたんだ?」
「聞いた話だと、医療部隊は薬品の調合とかしているみたいなんで、
その中でも味覚が優れた人が受け持っていたとか」
「いいのか……」
「結局、料理が出来なくて怒られたみたいですけど」
「当然の成り行きね……」
「それを何で、ヤオ子さんが受け持つんですか?」
「尻拭いです」
「…………」
((((苦労してるな……))))
「私だったら、絶対に断るけどな」
「綱手さんの名言を教えて上げます。
『家畜に選択権はない!』です」
「迷言じゃないの?」
「しかし、こんなにご馳走になって悪いな……」
ガイが遠慮気味に、ヤオ子に話し掛ける。
「気にしないでください。
食費もそんなに掛かってませんから」
「何でだ?」
「任務で貰うんですよ。
野菜とかお肉とか」
「何でだ?」
「貰いません?」
ガイ達は、貰わないと首を振る。
「農家の手伝いとか……。
酪農の手伝いとか……。
精肉の手伝いとか……。
魚市場の手伝いとか……。
・
・
しません?」
ガイ達は、しないと首を振る。
「そうですか?
・
・
ああ! そうでした!
あたしは、ガイ先生達の雑用任務をするための忍者でした。
だから、ガイ先生達の雑用は減ってんでした」
「例の特別に召集されたという……あれか?」
「はい」
「あの忍者の集まりって、そんなに幅広く展開してるの?」
「そうですね……。
あたしのDランク任務の数は、
そろそろ五百近くになりますからね」
ヤオ子以外が吹いた。
「どうしました?」
「「「「おかしい!」」」」
「皆が皆、そう言いますね。
まあ、それだけ木ノ葉は幅広く手掛けてたってことです」
ガイが思わず呟く。
「知らなかったな……」
「何で、ガイ先生が知らないんですか?」
「紹介場の任務なんて与えられる一方だからな」
「黒歴史なんじゃないの……」
「まあ、いいですけどね」
((((流すんだ……))))
ヤオ子が食べ終わった料理を下げ、件の中華まんを取るべく蒸し器の前へ。
ネジとテンテンにアイコンタクトを送ると、二人は黙って頷いた。
「これがデザート前の最後の料理です」
中華まん六個が置かれる。
「ほう。
おいしそうだ」
「そうですね」
ガイとリーが取るのを確認して、ヤオ子達も一つずつ取る。
そして、口に運ぶ。
「何これ!?」
「凄くおいしい!?」
「ふふふ……。
これには高級食材のフカヒレが入っています」
「道理で……」
「といっても、スープに入れるには形が悪いものを使用しています。
戻す前に砕けたものや粉になちゃったものです」
「なんだ……」
「味は同じなんですよ」
予想外の味に、皆、完食する。
そして、件の一個が残る。
(どう出る!?)
(さあ……。
ガイ先生……)
(全てを曝け出すがいい!)
ガイが残りの一個に手を掛けた。
「一個余ったな……」
(((動いた!)))
そして、四つに分けた。
「お前らで仲良く食べろ」
ガイはナイスガイポーズでティーンと歯を光らした。
(((何ーっ!?)))
(予想外だ……)
(まさか、そういった行動を取るとは……)
(これってガイ先生を試した、あたし達が悪者みたい……)
ヤオ子が、更に半分にする。
「あ、あたしは体積小さいから……。
ガイ先生と半分こ……」
((ヤオ子が罪悪感に負けた……))
その後、ネジとテンテンも同じ行動に出て、リーも続いた。
ガイは感動する。
「お前らって奴はーっ!
今日の中華まんは、特別な味がするぞ!」
そして、全員が食べ終える。
ヤオ子とネジとテンテンの胸には、複雑な気分が過ぎった。
…
ヤオ子はクーラーボックスからタッパを取り出す。
中の杏仁豆腐を綺麗に分け、緑の草を一輪添えて皆の前に置く。
「この草は、何ですか?」
「ハーブ園で任務した時に貰った種が自宅で結果を結びました。
絶対、食べてくださいね。
それ食べれば、匂い気になりませんから」
「そうなの?」
「女の子は気になるでしょ?」
「ええ」
杏仁豆腐を食べ終えて、ヤオ子の栽培したハーブを食べる。
口の中に爽やかな清涼感が広がる。
「どうですか?」
「うん。
気にならない」
「いいでしょ?
テンテンさんには、女同士のよしみで少しプレゼントします」
「ありがとう」
「ヤオ子のお陰でいい昼食だったな。
ご馳走様」
「「「ご馳走様」」」
「えへへ……。
お粗末さまです」
その後、ヤオ子は食器や調理道具を洗って片付けるとネジとテンテンの元へと向かう。
「分析の結果です」
「…………」
「失敗でしたね」
ズーンと三人に暗い影が落ちた。
「行動に悪気はないんだな……」
「ええ。
いいことだと思ってやってるのよ……」
「感覚がズレてるんですよね……」
「「「今まで通りか……」」」
ガイ攻略はならなかったが、友情と結束が芽生えた一日だった。