== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
目的地に着き、カカシは報告へ行っている。
縛られていた賊も無事に連行された。
「一件落着ですね」
待機中の場所でサクラが、ヤオ子に話し掛ける。
「事後報告とかで、もう夕方ね」
「木ノ葉に戻る時は、日付けが変わってますね」
「帰れるの?」
「…………」
そこに要人の結果を聞いたカカシが戻って来た。
第51話 ヤオ子の秘密
カカシが少し離れた宿を指差し、ヤオ子とサクラに話し掛ける。
「今日は、あそこの宿に泊る」
「結構、立派な宿ですけど?」
「依頼主からのお礼も兼ねてる。
無事に守り通せたからな」
ヤオ子とサクラが、ホッと息を吐く。
「じゃあ、無事に着いたんですね」
「ああ」
「よかったですね」
「オレ達の作戦も役に立ったみたいだ」
安堵の空気が漂うと、ヤオ子がカカシとサクラに話し掛ける。
「今だから言いますけど……。
結構、演技臭かったですよね?」
「やっぱり?」
「即興で演じたにしては、いい出来だと思ったけど?」
「オレも途中、無理かと思った……。
だって、普通、あの状況なら黙って立ち去るだろ?
それをわざわざ森まで届く声で会話するんだから」
「冷静に言われるとそうですね」
「何でも、やってみるもんだな」
三人は一頻り話し終わると、宿へと向かった。
…
深夜……。
ヤオ子はサクラと同じ部屋で熟睡している。
一方のサクラは、部屋を出てテラスから月を眺めていた。
「眠れないのか?」
サクラが目を向けると隣の部屋のテラスから、カカシが声を掛けていた。
サクラがカカシの居るテラスに近づく。
「ちょっと、月が明るかったんで」
「ああ……。
満月だからな」
「カカシ先生……」
「うん?」
「ヤオ子って……。
どういう子なんですか?」
「どうしたの?」
「ヤオ子の使った忍術……。
アカデミーを出たばっかりの子が使うようなものじゃありません」
「サスケにでも習ったのかな?」
「サスケ君?
でも、期間は短いですよ?」
「だとしたら……。
血筋かもしれないな」
「血筋?」
「あの子……。
エリート忍者の血を引いているんだよ」
「エリート?
そうは見えないんですけど……。
血継限界でも受け継いでいるんですか?
ウチハ一族みたいに」
「いや」
「じゃあ……」
「エリートと言っても色んな例えがあるでしょ?
木ノ葉丸君を教えているエビス先生はエリート専門の家庭教師だし、
普通に血継限界を受け継いでないエリートも居るよ」
「そうか……。
でも、エリートの血筋って?
・
・
というか、何で、カカシ先生がヤオ子の素性を知っているんですか?」
「色々とトラブルを起こすからさ。
少し気になって調べてみたんだ。
そうしたら、色んなことが出てくるんだ……これが」
「色々?」
「そう。
・
・
血筋……。
都市伝説……。
恋愛……。
変態……」
「変なキーワードが入ってます……。
何? 『都市伝説』と『変態』って?」
「どこから話そうかな……。
掻い摘めないから、初めから話すか……」
「お願いします」
「ヤオ子の母親は……。
代々、優秀な忍者を輩出している家の出身なんだ。
天才と言われる忍者を何人も出している」
「天才……。
天才忍者……」
「違う。
『天才忍者』じゃない『天才』」
「何が違うの?」
「身体能力は、普通の忍者と同じ。
ここの出来が違うの」
カカシが頭を指す。
「どういうことですか?」
「頭の記憶力と応用力が抜群に上手いんだ。
あの子、サクラのやった中忍試験を解いたからな」
「本当ですか?」
「ああ。
母方の家系は、十歳ぐらから脳が普通の人間より活発になる。
そして、二十歳ぐらいまで活性化し続けるんだ」
「変な家系ですね?」
「まあ、突然変異みたいなものらしいが、詳しくは分からない。
伝わっている話だと、忍の生き方のせいという線が強いな。
例えば、忍術を理解して使えるのは早い方がいいだろう?
術を覚えてから、使いこなすには長い修行が必要だから。
つまり、忍として必要な知識を早期に詰め込むために進化した忍の家系なんだ」
「ふ~ん……」
「まあ、そういう家系だから、
暗号解読班や医療忍者など、知識を使う忍になるのが大半だ」
「ヤオ子って……違いますよね?」
「母親からして違うからな。
家系と外れて、普通の忍だったし……。
・
・
それに、ヤオ子に至っては十歳前だしなぁ……。
話しを聞く限りでは、あの家系はあの歳で勉強をしないはずなんだけど。
脳も子供から大人に切り替わってないはずだし……」
「死に関わる危機に遭遇して
眠っていた能力が目覚めたとか?」
「どうなんだろう?」
正解。
極貧状態で、時々、見せていた能力がサスケに家を焼かれそうになって開花し始めた。
「でも……。
ヤオ子の両親って……聞く限り馬鹿なんですけど?」
「まあ。
ヤオ子、本人も認めていることなんだけどね。
・
・
母親の血筋だけはエリートなんだわ」
「はあ……。
・
・
父親は?」
「大器晩成型だな。
コツコツ積み上げていくタイプだ。
少年時代の始めの成績は、ナルトのアカデミーといい勝負だ」
「ナルト?
ナルトの成績って……」
「そう。
万年ドベだ」
サクラが腕を組んで考える。
「天才と落ち零れ……。
サスケ君とナルトみたい……」
「でも、この二人は夫婦になる」
「サスケ君とナルトは、夫婦になれないか……」
(でも、ファーストキスは……)
サクラが溜息を吐いた。
カカシは首を傾げて、話を続ける。
「両親の素性は、そんなところだ。
この正反対の二人がどういった経緯で夫婦になるかは、
木ノ葉に伝わる都市伝説をいくつか紐解くとわかる」
「その都市伝説っていうのが気になるんですよ」
「サクラは『里の狂姫』の伝説を知っているか?」
「有名な二つは知っています。
一つが愛に狂ったくノ一。
もう一つが男に狂ったくノ一。
・
・
あとは……世にも恐ろしい変態ストーリーで耳を塞ぎました」
「はは……。
・
・
実は、その『里の狂姫』が、ヤオ子の母親なんだ」
サクラが吹いた。
「嘘!?」
「本当……」
「何で、天才が変態になるの!?」
「サクラの知ってた二つの伝説。
その男も同一人物でヤオ子の父親だ」
サクラが吹いた。
「何で、被害者と加害者が夫婦になるの!?」
「そこが世の流れの恐ろしいところだ。
二人はアカデミーの同級生で、どっちも一人ぼっちだった」
「一人ぼっち……」
「ヤオ子の母親は、優秀過ぎて誰も声を掛けれなかった。
周りの子の態度が余計にヤオ子の母親をイラつかせてね。
遂に周りの人間を見下して生活する子になってしまった。
一方のヤオ子の父親は、万年ドベで誰にも相手にされない。
簡単に言うとイジメの対象で無視されたり、悪戯される対象」
「正反対ですね」
「ああ。
でも、基本的にヤオ子の父親は真面目なんだよ。
成績は悪くても、必死に修行をしていたからね。
ただ……」
「ただ?」
「非常に頭が悪い……」
サクラがこけた。
「何ですか……それ?」
「アカデミーの教科書の内容の十を読んで、二しか理解出来ていない」
「重症ですね……」
「そう」
「で、そんなヤオ子の父親の修行風景をヤオ子の母親が目撃する」
(この話……。
都市伝説の男と女の最初の出会いに似てる)
「都市伝説だと、それで女がストーカーになっちゃうんですよね?」
「実は、これでヤオ子の母親がストーカーになっちゃう」
「ハァ!?」
「初めて目撃した時、ヤオ子の母親に父親が声を掛けてる。
万年一人だったヤオ子の母親は、それだけで恋に落ちたらしい」
「それが……何で、ストーカーに?」
「それから、毎日、覗いてたらしい……」
「…………」
「それは、もう……。
朝、家を出てから帰宅するところから風呂に入るところまで」
「ストップ!
最後のお風呂って、何!?」
「それが原因で、都市伝説に変態的な話の尾ひれがついたんだ」
サクラが額を押さえる。
「そして、何年か経ってストーカー行為が治まって、
ヤオ子の母親は、やっと父親に話し掛けることが出来るようになる。
最初は、不安だったらしいよ。
自分で壁作って誰も寄せ付けなかったから」
「そうですよね……」
「でも、ヤオ子の父親は普通に話に答えた。
それこそ、何事もなく友達のように……」
「素敵な人ね……」
「ただ、後日談でヤオ子の父親は、
母親の状態に気付いてないだけだったことが分かった」
サクラがこけた。
「何それ!?」
「言っただろう?
父親の方は、馬鹿だって」
「そ、そうだけど……」
「それで、ますますヤオ子の母親は熱をあげ、父親にゾッコンとなるわけだ。
そして、その後が凄い。
アカデミーを卒業する時は、母親が一位の成績で父親が二位だ」
「何があったの?」
「ヤオ子の母親は、少し物の感じ方がおかしい」
「いや、もう随分おかしいですよ」
「男の独占欲って聞いたことない?」
「自分の彼女を独り占めにしたい……みたいな?」
「そう。
好きな女にネックレスあげて、
首輪つけた気になってるようなヤツ」
「嫌ですよね……」
「その心理が、まんまヤオ子の母親に当て嵌まる」
「…………」
「つまり、『自分の男を独占したい』が、
『自分の男と独占したい』に変わって、
男を自分好みのレベルまで引き上げたわけだ」
「凄まじい執念ですね……」
「それが都市伝説狂姫シリーズ『男に狂ったくノ一』だ」
「一体、何をしたんですか?」
「ヤオ子の父親の筋力やチャクラ量は、勤勉な修行のお陰で桁外れにあるんだ。
分かっていないのは、使い方……。
つまり、体の動かし方を理解していなかったんだ」
「なるほど」
「ヤオ子の母親は、そこで体の使い方を叩き込むわけだ」
「よく教え込ませましたね」
「キーワードは『馬鹿』だ。
ヤオ子の父親は、難しい表現は分からないが、
子供でも分かる表現は、馬鹿みたいに早く体得出来る」
「また、訳の分からない表現が……」
「サクラ。
『クナイを投げる時に頭のところで手を放す』
これが教科書に載っていたとして、分かるだろ?」
「はい。
リリースポイントの話ですよね?」
「そう。
しかし、ヤオ子の父親は分からない」
「は?」
「そういう表現をするとただ手を放すもんだから、
クナイがあらぬ方向に飛んでいく」
「…………」
「そこでヤオ子の母親は……。
『スピードが乗ってる時にパッと放して、グサッて的に当てる』
と言い換えた。
これだけで、ヤオ子の父親は理解できて格段に腕があがった」
「先生……。
余計わからない……」
「常人はな……。
しかし、『馬鹿』は、シンプルにすればするほど理解する。
ある日の暗号のテスト……。
誰も解けない暗号をヤオ子の父親だけが解き明かした」
「何で……」
「ヤオ子の母親と一緒に試験勉強をしてた時、
『パッとやって、ガッとして、バッとやればいいのよ』
勢いで言ったその言葉をヒントに解いたらしい……」
「何!?
馬鹿って凄いの!?」
「もしかしたら、凄いのかもしれない……。
まあ、そんなこんなで二人の愛は深まるわけだ」
「…………」
「一つ……いいですか?」
「何?」
「ヤオ子の母親が馬鹿になる要素がないんですけど?」
「ああ、それね。
ヤオ子の母親の頭の中は、エリートの家系と比べて詰まっている内容が非常に違う。
確か……変態6:忍術3:常識1だったかな?」
「何処からの情報なんですか……」
「都市伝説の割合を分散するとそういう割合になる。
つまり、脳が活性化する十年間。
アカデミーと任務で忍の知識。
それ以外は、父親に狂っていたんだ」
サクラが手を出して静止を要求する。
「ちょっと待ってください……。
つまり、ヤオ子の忍の才能は本来から高かった。
母親の頭脳と父親の勤勉さを持ち合わせているから」
「そう。
忍者の親同士の掛け合わせだから、
経絡系も普通の家の子より発達が早いはずだ」
「ただし……。
母親の変態さと父親の馬鹿さ加減も同時に受け継いでいる」
「そう。
だから、あんな妙な奇声をあげたり、変態的なことを話す……と思われる。
しかも、生みの親が同じなら育ての親も同じだからな」
「何か、最悪の掛け算ですね……」
「まったくだ」
「最後です。
ヤオ子の両親が、今、忍をしていないのは?」
「九尾の戦いがあったのを知っているな?」
「はい。
四代目が命を懸けて封印したという……」
「その時、ヤオ子の母親を庇って父親は背中をやられた。
忍として生きていけない傷を背負った。
そして、二人は忍を辞めたんだ」
「お母さんの方も?」
「そうだ。
勘当されて家を出た。
そして、木ノ葉で八百屋を始めた。
・
・
その四年後……。
ヤオ子が生まれるわけだ」
「いい……話ですね」
「ああ……」
「…………」
「変態的なエピソードさえなければ……」
「そうなんだよな……。
しかも、母親の方は、都市伝説にまでなってんだから……」
「謎が解けたのにすっきりしないなんてこと、生まれて初めてです……」
「はは……。
オレもだ……」
カカシとサクラは、その後、サスケとナルトの話を少しすると眠りに着いた。
…
※※※※※ ヤオ子の遺伝的能力について ※※※※※
ヤオ子の両親の秘密を少し明かしました。
母親の家系……『記憶力』『応用力』『変態性』
父親の家系……『勤勉性』『馬鹿』
何故、このようにしたか?
実は、ヤオ子から生まれた設定です。
ヤオ子って、どんな子だろうと改めて考えるとSSのネタになるかと思いました。
つまり、このSSでは、ヤオ子から生まれたのが両親になります。
まず、ヤオ子には妙な対応力をつけてしまいました。
特別召集の試験のネタをやるために考えなしに……。
この時点で、記憶力のいい子+応用力があると後から判断しました。
次にご存知の欠点というか魅力。
暴走・エロ・奇声をあげるところ。
父親を『馬鹿』にすることは決めていました。
そのため、母親に『記憶力』『応用力』をつけることが決まります。
しかし、このままだと父親はどうしようもないし、母親は完璧人間になってしまう。
そこで父親に『勤勉性』を母親に『変態性』を付加。
多分、この組み合わせが、現在のヤオ子の掛け合わせた結果に繋がるかと思います。
それを纏めたのが今回のSSでした。
この話が出たから、何か変化があるのかというと……実は、何も変わりません。
ヤオ子は、今まで通りのヤオ子だし、おかしな子のままです。
そして、ヤオ子の母方の血の目覚めは微妙です。
一番強く目覚めるのが、サスケに恐怖で縛られた時。
次に誰かに任務を強制された時。
M性の危機感が引き金になっています。
自分で能力を自在に扱える時は、エロが絡んだ時だけ。
つまり、ヤオ子の忍の能力は、サスケによる恐怖支配が大きいことになります。