== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
(ナルトさんと話してから気が楽になりました。
たった、あれだけで気分が変わるあたしの単細胞さにも呆れますが……。
でも……。
ナルトさんの言葉は、とても嬉しかったんです。
かと言って、頼ってばかりもいられないです。
新たに追加した目標のためにも頑張らないと……。
目的があるかないかでやる気も違いますしね。
・
・
しかし、ナルトさんが去って、早々に二人の居た第七班で任務とは……)
第49話 ヤオ子と第七班?①
約束の時間三分前……。
また、ヤオ子はギリギリに到着する。
そこには、短い髪が伸びて長髪になったサクラが居た。
「おはようございます」
「ギリギリに到着とは、いい度胸じゃない……」
「遅刻するより、いいでしょ?」
「まあ……。
遅刻するよりね……」
サクラの含みのある乾いた笑いに、ヤオ子は首を傾げる。
「ところで……。
あんた、何で、サスケ君と同じデザインの服を着てんのよ?」
「下はミニスカートですけど?」
「色!」
「サスケさんを意識してるんだもん」
「まさか……。
サスケ君のこと……好きなの?」
ヤオ子は両手をあげて溜息を吐く。
「ハッ!
あんなドSの何処がいいんですか?」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「サスケ君の悪口を言うな!」
(そういえば……。
この人は、サスケさんに色呆けしてましたね)
「あんた!
何で、サスケ君の格好をしているのよ?」
「…………」
ヤオ子は口を手で押さえ、意地悪そうな顔で笑う。
「知りたい?」
サクラに青筋が浮かぶ。
『別にいいわよ!』と言いたかったが……好奇心に負けた。
「……知りたい」
ヤオ子が口を開く。
「妻だからです」
「ええっ!?」
「嘘ですよ?」
サクラのグーがヤオ子に炸裂し、そのまま殴った手はヤオ子の胸ぐらを掴む。
「大人しくしゃべれ!
しゃーんなろー!」
(キレた……)
「必死ですね?」
「一生、愛の人生だ!」
「意味が分りません……。
まあ、いいです」
サクラがヤオ子を放すと、ヤオ子はポンポンとシャツを叩いて誇りを払う。
そして、更に咳払いを一つ。
「サスケさんってクールですよね?」
「うん!
そこがいい!」
(逝っちゃってますね……)
「それでいて美少年」
「そうそう!」
「そういう人の普段見たことのない姿を見たくありません?」
「…………」
サクラが固まって思考する。
「例えば?」
「通りがかりの人があたしを見て……。
『妹?』とか言われて照れる姿とか?」
サクラの髪がピーンと伸びる。
「『ち、違う!』とか言って強がる美少年!」
サクラの顔が緩む。
「そして、いそいそと小さい子の手を引いて、
早歩きで去って行くサスケさん……」
サクラの口がだらしなく開く。
「そういうシチュエーションに憧れて、この格好になりました」
サクラが現実に戻って来る。
「ヤオ子!
結果は!?」
「それが……」
「もったいぶらずに言いなさいよ!」
「サスケさんは、本戦以来、黒い服で……」
「そういえば……」
「その後も、入院していて……」
「そういえば……」
「そして、そのまま里を去りました」
「あんた!
期待持たせて、何やってんのよ!」
「そう言わないでくださいよ。
あたしだって、こうなるとは思わなかったんですから。
・
・
しかも、同じデザインで四着も作ちゃったんですから……」
「馬鹿じゃないの……」
サクラは、ヤオ子に思いっきりがっかりした。
…
ヤオ子とサクラのおしゃべりで十分過ぎる。
「担当の上忍さん、来ませんね?」
「時間通りに来た試しなんてないわよ」
「へ~」
「前は、サスケ君とナルトと一緒に待ってたんだけどな」
「…………」
サクラは地面に視線を落とす。
俯いた時に肩から崩れた髪にヤオ子が呟く。
「サクラさん。
また髪伸びましたね」
サクラが肩に掛かる髪を指で弄る。
「そうね」
「サクラさんの髪って綺麗ですよね」
「そう?」
「はい。
あたしの髪は少しパサパサしてます」
サクラがヤオ子のポニーテールを掴むと、手に触れる感触を確かめる。
「本当だ。
・
・
ん?
あまり、香りがしないわね?」
「香り?
サクラさんはフェロモンでも出てるんですか?」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「出るか!
っんなもん!
シャンプーとかリンスの香りがしないのよ!」
「サクラさんは、そんな高級な物を使っているんですか?」
「ハァ!? 高級!?」
「うちは、大人だけですからね。
シャンプーとリンスを使っていいのは」
「どんな家よ……」
「基本、石鹸ですね」
「石鹸!?」
「変ですか?」
「おかしいわよ!」
「ふ~ん」
「あんた、そろそろ髪質も気にした方がいいんじゃない?」
「そう言われましても……。
どんなのがいいんですか?」
「あんた、本当に女の子?」
「つい最近までTシャツに短パン、靴下なしで駆けずり回ってました」
「何処のガキ大将だ!」
「実は、スカート履くのこれが初めてなんですよ」
「どんな少女時代を過ごしてたのよ!」
「極貧?」
「訳分からない……」
サクラが額を押さえる。
そんなサクラを置いて、ヤオ子は思いついた。
「そうだ!
今、親元を離れてるから、お金あるんですよ!」
「何で、親元を離れるとお金が貯まるのよ?」
「今から洗剤買いに行きましょう!」
「ハァ!?」
「サクラさん!
アドバイスしてくださいよ!」
「カカシ先生は?」
「男なんて待たせるのがいい女の条件ですよ」
「あんたねぇ……。
・
・
でも、偶にはいいか……。
私の行き付けのお店でいいわね?」
「お願いします」
ヤオ子は、サクラの後についてその場を後にした。
…
ヤオ子達が去って十分後……。
カカシ参上。
「あれ?
誰も居ない……」
カカシは頭を掻いて辺りを見回した。
…
ヤオ子がサクラの後に続いて商品棚を見上げる。
「何これ?
こんなに種類あるの?」
「普通よ」
「普通……。
どこら辺が?
これって匂い嗅がせてくれるの?」
「無理でしょ……」
「サクラさんが使ってるのは?」
サクラは商品棚からシャンプーとリンスを一本ずつ取る。
「これとこれよ」
「へ~。
これで美しい髪が……」
「まあね」
「人気商品なんですか?」
「私は、自分の髪にあったので選んでるから」
「他に使ってる人は居ないんですか?」
「…………」
サクラは視線を斜め下に向けている。
「どうしたんですか?」
「犬が一匹……」
「は?」
「犬が使ってるわ……」
「…………」
何とも言えない空気が流れた。
…
カカシは待ち合わせの演習場で座り込んでいた。
手にはイチャイチャバイオレンス。
「どうしたのかな……。
サクラが約束の時間に居ないなんて」
ページを捲る。
「もう、二十分も待たされてるよ……」
そこにヤオ子とサクラが現れた。
「サスケ……の格好をした女の子?」
「お久しぶりです!
カカシさん!」
ヤオ子が元気よく手を振る。
(あの子か……)
「試験以来かな?」
「そうです」
「時間……過ぎてるよ」
「すいません。
家の時計が壊れてて」
「手に持ってるのは?」
「任務に必要な物です」
(さらっと嘘つくわね……この子)
ヤオ子の後ろで、サクラは呆れていた。
「まあ、いいか……」
(カカシ先生もいい加減ね……)
「ところで……。
何で、サクラと一緒なの?」
「サクラさんは人生という名の道に迷って──」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「私は、カカシ先生か!」
「は?
カカシさん?」
「サクラ……。
もういいから……。
恥の上塗りになる……」
ヤオ子が首を傾げると、カカシは咳払いをして気を引き締め直す。
「え~……。
今度の任務だけど──」
「はい!」
「また、君?」
カカシが嫌そうにヤオ子を見る。
ヤオ子は、また流れを無視して手を上げたのだった。
「小隊は、フォーマンセルでしょ?
あと一人は?」
「呼んだ中忍は、昨日、コンビを組んだ下忍と一緒に試食した料理店の新商品を食べて食中毒になった」
「偶然ですね。
あたしも、昨日、試食したんですよ」
「…………」
カカシとサクラの視線がヤオ子に集まる。
「そんな妙な任務は重ならないと思うんだけど?」
「私も、そう思います……」
「もしかして……。
あたしも食べた?」
カカシとサクラが頷く。
「少し酸っぱいぐらいでしたけどね?」
「「腐ってる!」」
「賞味期限には気を付ける方なんですけど……。
実家では、二週間過ぎまでOKでしたから」
「おかしいよ……。
この子……」
「私も、そう思います……」
カカシとサクラが溜息を吐く。
「あらためて任務の説明をする……。
Dランクだから、安心していいから」
「Dランクで四人必要だったんですか?」
「そう」
ヤオ子が考え込むと、サクラが不思議そうに訊ねる。
「どうしたのよ?」
「いえね。
人数いるだけなら、あたし一人で頼むと思うんですよ。
でも、優秀な忍者をつけるということは、何か別の意図があるのかなって?」
「いい勘してるな。
今回の任務は、囮だ」
「「囮?」」
「要人を警護する部隊がCランク。
囮をする部隊がDランクだ」
ヤオ子がジト目でカカシを見る。
「嘘でしょ……」
「どうして?」
「囮なんて使っている時点で盗賊とか出るでしょ!
Cランクじゃないですか!」
「やっぱり、バレたか……」
「何ですか! それは!」
「君の先生がねぇ……。
Cランク以上、嫌がってるって」
「…………」
「そうしたら綱手様が勝手にランクを下げて、DランクOKだって」
「あのババア!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「師匠に何て口の利き方をするのよ!」
「だって~」
「言い訳するな!」
「酷い……」
(サクラ……。
段々、綱手様に似てくるな……)
全員、少し落ち着くことに努力する。
「カカシ先生。
話を戻しますけど、囮ということは変装するんですか?」
「いや、このままでいい」
「「?」」
「警護対象は八歳の女の子だ。
丁度、こちらには八歳の女の子が居るだろう」
「…………」
カカシとサクラの視線が、再びヤオ子に向かう。
「それって、あたしじゃないですか!?」
「そうだよ」
「命狙われてるんですよね?」
「そうだよ」
「嫌ですよ! そんなの!」
「我が侭、言わない」
「一体、どういう人選で、そうなったの!?
そんな危ないの、カカシさんがロリコンギャルに変化すればいいでしょ!」
サクラが想像する。
カカシが幼女に変化して女言葉を使う……。
サクラは口を押さえた。
「やらないよ?
やらないけど、その態度は傷つくな……」
「だって……」
「好き嫌いしない!
サクラさんは、我慢!
カカシさんは変態になってください!」
サクラが口を押さえる。
「ヤオ子だったっけ?
お前、黙ってて……。
急激にサクラに嫌われるから」
「じゃあ、あたしがやるの~!」
「そう」
「本当にどういう人選なんですか?」
「綱手様からの推薦だ」
「「?」」
ヤオ子とサクラが首を傾げている。
「『何か手裏剣刺さっても死ななそうだから』らしい」
「ちょっと!」
「『怪我すれば、サクラの医療忍術の練習台になるから』とも言ってたな」
「オイ!」
「『寧ろ、怪我しろ』とも……」
「ううう……。
あんまりだ……」
「師匠……」
ヤオ子が俯いて震える。
そして……。
「やってられるかーーーっ!」
爆発した。
「おかしい!
おかしい!
おかしい!
何で、いつも不遇な扱いなんですかッ!」
「普段の行いのせいなんじゃない?」
「サクラさん!?」
「お前、恨み買いそうだもんな……」
「カカシさん!?」
カカシが微笑む。
「安心しろ。
オレの部下は、誰も殺させやしないよ……」
サクラは、今のセリフを懐かしく思う。
しかし……。
「信用できるか!
カカシさんって『イチャイチャパラダイス』読んでるところと、
今日の待ち合わせで遅刻したとこしか見せてないじゃないですか!」
思い出粉砕……。
サクラがジト目でカカシを見る。
「あれ? そうだっけ?」
「そうですよ!
・
・
サクラさん!
この人、本当に頼りにして大丈夫なんですか!?」
「…………」
「いや、サクラ……。
即答してよ……」
「多分、大丈夫よ……」
「…………」
「激しく不安です……」
激しい不安を残して第七班(?)の任務が始まる。