== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
初のCランク任務は里を離れるため、それぞれの用意を考慮して三十分の間が空く。
そして、時間通りの待ち合わせ時簡に、ヤオ子とヤマトは門の前で落ち合う。
「忘れ物はないかい?」
「はい。
着替えにお泊りセットを用意しました。
額当ては、左腕に巻き付けてあります」
「額にしないのかい?」
「しません。
尊敬するシカマルさんと同じ位置にしときます」
「尊敬する忍が居たのか。
どんなところを尊敬しているの?」
「全力で最低限のことしかしないところです」
(……この子、やっぱり忍者に向いてないんじゃないのかな)
ヤマトは出発前から気が抜けた。
第40話 ヤオ子の初Cランク任務②
ヤマトは木の葉の忍が常時利用するリュックサックを背負い、ヤオ子は忍にしてはやや明るい色のリュックサックを背負って、目的の村まで歩いていく。
木ノ葉隠れの里からは木々が道を挟んで遠くまで延びており、暫くは分岐することなく真っ直ぐな道が続く。
目的の村の正確な場所が分からないヤオ子が、ヤマトに訊ねる。
「どのぐらいで着くんですか?」
「明日の朝には到着するよ」
「そうですか。
夜は、森で過ごしそうです。
野宿も久しぶりですね」
この前と変わらない雰囲気を漂わすヤオ子。
どこか他の子と比べると、のどかな感じがして忍者らしくない。
ヤマトは、前々から気になっていたことを質問する。
「ヤオ子。
君の忍術の腕前は、どれぐらいなんだい?」
「どうしたんですか? 突然?」
「君の実力っていうのが、この前の試験では分からなくて」
ヤオ子は歩きながら右手の掌を返す。
「大したことありませんよ。
前にも言ったと思いますが、修行して数ヶ月です」
「やっぱり、センスがいいのかな?
自来也様の推薦なんだよね?」
「どうなんですかね?
よく分かりません。
サスケさんの教え方がいいのかもしれないし」
(それも考えられるな)
ヤマトは質問を続ける。
「普段、どんなことをしてるの?」
「任務がない時は朝練に手裏剣術して、午前中にチャクラ吸着の木登り。
両手と両足で。
午後に使える忍術のおさらいをして、最後に体術の訓練をして終了です」
「中々、ハードだね……。
忍に必要な知識の方は?」
「寝る前に眠くなるまで本を読みます」
(……凄いな。
ほぼ一日の全てを修行に充てているのか。
きっと、このスパルタ的な修行のせいで飲み込みが早いんだ。
・
・
しかし、この修行を文句を言わさずにさせるとは……。
サスケは、どんな魔法を使ったんだ?)
答え:恐怖で縛り付けた。
「任務のある時は、どうしてるの?」
「朝練に手裏剣術と体術の修行をします。
それ以外は、任務中にですね。
なるべく多くの影分身を出してチャクラを使うように心掛けたり、
休み時間に筋トレ、もしくは木登りをしてます」
(この子……。
普通のアカデミーの子より、勤勉なんじゃ……)
「しかし、いくら夜に本を読むからって
アカデミーで習う知識は不足しているんじゃないか?」
ヤオ子は眉を歪めて腕を組む。
「う~ん……。
どうなのかなぁ……。
でも、アカデミーの教科書は理解したし、紹介されてる忍術は全部使えますよ?」
(そうだった。
本来、卒業試験は分身の術だったりするんだ。
・
・
この子、もう全部使えるのか。
しかし、何で、こんなに早く覚えられるんだ?)
答え:恐怖で縛り付けた。
「アカデミーの教科書以外の忍術は、何が使えるんだい?」
「影分身の術と豪火球の術と必殺技。
影分身は披露済みですね」
「豪火球も!?
何で、使えるの!?」
驚くヤマトに、不思議そうに首を傾げてヤオ子は答える。
「あたしのチャクラ性質が火だから使えます」
「違う!
そうじゃない!
豪火球は、中忍の技でしょ!?」
「……中忍?
嘘でしょ?」
「本当だよ」
「…………」
ヤオ子は眉をハの字にして項垂れた。
「知らないで覚えたの?」
ヤオ子は頷きながら答える。
「だって、サスケさんが誰でも出来る……みたいなことをメモに残してたんだもん」
「どんなメモ書きが残されていたんだ……」
ヤマトにとっては、またヤオ子に対する新たな謎が追加されただけだった。
そして、真相をしったヤオ子は拳を握っていた。
(あのドSヤロー……。
なんて無茶をさせやがるんだ。
おかしいと思ったんですよ。
変化の術は、簡単に出来たのに
中々、球にならないし、威力も上がらなかったから)
ヤオ子は拳を更に強く握りながら、震えながら歩く。
その横でヤマトは話を続ける。
「あと、もう一つ……。
聞き慣れない必殺技って……何?」
「ああ。
サスケさんを亡き者にするために、あたしが開発した術です」
「亡き者?
一体、どういう関係なんだ?」
「愛故に憎しみ合う関係ですかね?」
「さっぱり、分からない……」
「そうですか? 残念です」
(あたしのサスケさんに対する愛憎が分からないとは)
結局分からないヤオ子とサスケの関係に、ヤマトは溜息を吐く。
「ところで。
どんな術なの?」
普段無視されるヤオ子の術……。
その純粋な興味を持って聞き返される言葉は、実に新鮮だった。
ヤオ子はヤマトに詰め寄った。
「知りたい!?
知りたいですか!?」
「あ、ああ……」
「えへへ……。
じゃあ、見せちゃいます。
ちょっと、危険なので離れてくださいね」
『あはぁ~♪』と、だらしない顔になるヤオ子。
ヤマトは術の危険性と一緒にヤオ子本人から発せられる危険性も含めて距離を取る。
そうとは知らず、ヤオ子は深呼吸をして必殺技発動の準備に入る。
(今日は木登りしてないから、全力でやってみようかな?
まだ、日数は経っていないけど。
あれから、どれぐらい成長したか……)
ヤオ子は左手を突き出しポーズを取った。
「あたしのこの手が真っ赤に燃える!」
(え? 何これ?)
術の披露のはずなのに、妙なポーズと前置きを始めたヤオ子にヤマトは目をしぱたいた。
ヤオ子は手を入れ替え右手を握り込み、自分の顔の前へ。
「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
(何で、印を結ばずにポーズ取ってんの?)
「猛れ! あたしの妄想力!」
(妄想力?)
チャクラを練り上げ、バッと両手を突き出し印を結ぶと、ヤオ子の右腕に爆発術とチャクラの盾が装填される。
「爆殺! ヤオ子フィンガーーーッ!」
突き出されるヤオ子の右手。
この時、右手にはチャクラの盾と必殺技の爆発術が装填されている。
……ただし、今回は全力全開だ。
「ほへ!?
な、何!? この威力!?」
チャクラの盾が形成されると同時に発動した必殺技は、予想を反した威力の大爆発を起こす。
ヤマトは半身になり、術を撃った本人は驚いて固まっている。
「何て、術だ……」
ヤオ子の術の威力に、ヤマトは呆れている。
「ヤマト先生……」
「凄い術だね……」
「そうじゃなくて……」
「ん?」
「威力が強過ぎて、肩が外れた……」
ヤマトは、こけた。
「何で!」
左手で右肩を押えながらヤオ子が話す。
「いや~……。
木登りしないでチャクラ余ってるから、全力でぶっ放したんですけど、
予想以上に威力が強くて、初めて義手の大砲ぶっ放したガッツみたいに……」
「ガッツって、誰?」
「ベルセルクの主人公」
(知らない……)
ヤマトは溜息を吐きながらヤオ子に近づいて、肩の状態を見る。
「痛いかい?」
「少しだけ。
治ります?」
「まあ、引っ張って捻じ込めば」
「お願いします」
「少し我慢して」
「はい」
ヤマトがヤオ子の右手を捻って上に持ち上げると、引っ張りながらゆっくりとヤオ子の肩を入れた。
入り直した右肩を廻して、ヤオ子は具合を確かめる。
「痛くないですね?」
「随分と柔軟な体をしてるな……」
「腕の関節は自由に外せるんですけどね。
多分、これでコツ掴んだんで肩も外せますね」
ヤオ子がコキコキと右肩の骨を鳴らすと間接を外してみせる。
「やっぱり。
・
・
えい!
ほら、元通り。
コツを掴みました」
「君……人間?」
「便利ですよ。
覚えると。
これ使って自来也さんの拘束を解いたんです」
「縄抜けの術で、時々使うよ……。
こんな状況で覚える技術じゃないけどね……」
(それにしても……。
拘束されたのか……。
一体、何をしたんだろう?)
ヤオ子は右手を見ながら、先ほどの衝撃を思い出す。
「しかし、あんなに威力が上がっていたとは……。
自分でも吃驚ですね」
ヤマトが腕を組む。
「術の威力に体の成長が追い着いてないんだ。
このままだと、あの威力で撃つ度に肩が外れることになる。
新たに改良をするか、肩の筋肉をつけるしかないな」
「改良か……。
今度は盾を押し出す感じにして、腕への衝撃を減らすしかありませんね。
・
・
そうなると、またチャクラの量が必要になります。
どんどん使い勝手が悪くなりますねぇ」
「使い勝手もそうだけど……。
あの訳の分からないセリフは?」
「決まってるじゃないですか。
必殺技ですよ?
技を繰り出す前のセリフは必要事項です!」
「いらないって……」
「え~!」
「あと、技名も長い……」
「カッコよければいい!」
「無意味だ……」
「まあ、ヤマト先生が使うわけじゃないし。
・
・
それより、どうですか?
褒めるところもあるでしょ?
いや、寧ろ、褒めてください!」
「…………」
「ああ…え、と。
凄い威力だった」
「でしょでしょ♪」
「その割には、チャクラを使う量が多い気がした」
「いや、褒めてください」
「印を結ぶスピードが人外のようだった」
「人外って……」
ヤオ子は項垂れた。
「何で、そんなに印を結ぶの早いの?」
「あたし、印を結ぶ時に印のいくつかは指を離さないんです」
「は?」
「ゆっくり、やりますね」
ヤオ子が印をゆっくり結ぶと、指が有り得ない角度まで曲がって次の印に移る。
「気持ち悪い……。
よく折れないな……」
「あたし、体は柔らかい方なんですよ」
ヤオ子は分の指を摘まむと、ペタリと手の甲までくっ付けた見せた。
「君、本当に人間!?」
「誰にでも出来ますよ。
ヤマト先生、指貸して。
・
・
えい!」
ヤオ子がヤマトの指をグイッと曲げる。
「イタッ!
無理!
曲がらない!」
「変ですね?」
「君が変なの!」
ヤオ子は首を傾げ、ヤマトは指を揉み解す。
そして、二人はゆっくりと歩き出して、目的の村へと向かい始めた。
「あたしの忍術の実力は、分かりました?」
「分かったような……。
分からないような……」
「ヤマト先生って、ダメ人間?
あたしが術まで披露したのに」
「君が人間離れしていることが分かったせいだよ」
「人間離れ?
それはサスケさんですよ!」
「何で、サスケなんだい?」
「あのドS!
一ヶ月で信じらんないぐらい強くなるんですよ!?
まるで死にかけてから、強くなるサイヤ人みたいに!」
「サイヤ人?」
「ヤマト先生は、何も知りませんね」
「ごめん。
ボクは子供達の流行なんて分からないから」
「しょうがないですねぇ。
兎に角!
人間でないというなら、サスケさん!
妖怪人間サスケです!」
「妖怪って……」
「だって!
変なんですよ!
あの中忍試験の電気の技!」
「雷ね……」
「自分の特性以外の性質変化なんて、
二週間で、どうこうなるんですか!?」
「う~ん。
それは……」
「しかも、あのドS!
その間に体術まで向上させたんですよ!
おかしいって!
あたしは血反吐吐いて体術をリーさんに教えて貰っているというのに!」
ヤオ子はギリギリと歯を噛み鳴らす。
「ヤオ子は、まだ体が成長してないだろう?」
(まあ……。
サスケも、まだ成長途中だけど)
「そうですよね……。
魅惑のエロボディには、ほど遠いですよね」
ヤマトが吹く。
「そんな回答は求めてない!」
「え?
そうですか?
教え子がエロい体になったら、
教師と教え子の禁断の領域を踏み外したいとか思いませんか?」
「思わない!」
「あたしは、結構、妄想しますけどね」
(最悪だ……。
誰か担当替わって……)
「でも、安心してください。
今のあたしは、年下の男性しか興味ありません。
何かあたしをときめかせる様なことがない限り、
ヤマト先生が捕食領域にエントリーすることはありません」
「君をときめかせないように、全神経を注ぐよ……」
「ヤマト先生は、シャイガイですね」
「頭が痛くなってきた……」
「まあ、軽く流してください。
こんなもの目的地に着くまでの他愛のない会話ですよ」
「ボクは、今、イビキさんが君にゲンコツを落とした意味が良く分かる。
ボクも非常にゲンコツを落としたい」
「これ以上、ドSを増やさないでくださいよ」
このような会話が件の村まで繰り返され、ヤマトは任務をこなす以上に精神的疲労を蓄積させるのであった。
…
早朝、村に着く……。
小さな村で決して裕福とは言えない。
畑が広がるところから、農村であることは判断出来る。
依頼人の村長の家も、他の家とそれほど大差がなかった。
ヤマトが村長宅の扉を叩くと、老人が顔を出す。
「おはようございます。
木ノ葉隠れの里から来ました」
「お待ちしておりました」
村長自ら出向くと、ヤマトとヤオ子を座敷に通す。
「さあ、中へどうぞ」
「お邪魔します」
「お邪魔します」
ヤマトとヤオ子は廊下を通り、座敷の奥に案内された。
全員が畳みの上に座ると、村長は二人にお茶を出してくれた。
早速、ヤマトは依頼の任務を始めるため、村長に自己紹介を始める。
「今回、担当することになったヤマトです。
こっちは、部下の八百屋のヤオ子です」
紹介されて、ヤオ子が軽く頭を下げる。
「早速ですが、状況を教えてください」
「分かりました。
その……既に困ったことがあります」
「何でしょう?」
「病人の数が増えてしまったのです」
「我々は、多めに解毒薬を持って来ました。
全部で十人分あります」
「足りない……。
病人の数は、二十三人も居るのです」
「そんなに……。
拙いな。
手持ちの薬じゃ足りないぞ」
その言葉を聞いて、ヤオ子が気になったことを質問する。
「質問していいですか?」
「いいですよ」
「増えた病人の方は、子供も居ますか?」
「全員、子供です」
「…………」
ヤオ子は少し思い当たるところがあった。
考え込んでいるヤオ子に、ヤマトが声を掛ける。
「どうしたの?」
「ヤマト先生、少しだけど薬を増やせるかも」
「どうやって?」
ヤオ子は薬草辞典を取り出すと、件の毒草のページを開く。
「この解毒薬の量って大人と子供で量が違うから、子供なら2/3の量でいいんです。
だから、五人分多く処方できます。
つまり、この時点で十五人は、処方できます」
「なるほど。
あと、サンプルで持って来たものを一つ使えば、
もう一人分確保できて、十六人分か」
「遅効性の特性から木ノ葉に戻っても、大丈夫では?」
「それは症状の進み具合次第だね。
・
・
病人の症状は?」
ヤマトの質問に、村長は首を振る。
「皆、結構重いです」
「となると、直ぐにでも残り七人分の薬が必要か……」
ヤマトは考え始める。
(木ノ葉に戻るか薬草を調達するかだな。
薬草辞典の分布を見ると、木ノ葉に戻るよりは近いけど……。
とりあえず、待機している医療部隊に連絡を取って、手持ちの解毒薬を譲って貰う。
その後、ボクの調査開始だな……。
・
・
そうなると、ヤオ子にも詳細を話さないといけないな……)
ヤマトは作戦を練り直すと、村長に話し掛ける。
「すいません。
少し、この子と話をさせて貰っていいですか?」
「ええ。
構いません」
「ヤオ子」
ヤマトが席を立ち、ヤオ子を呼ぶ。
そして、廊下の奥まで移動する。
「君に言ってないことがある」
「?」
「この任務は、ボク達の他にも別チームが動いている」
「他にも……?
もしかして、重要な任務だったんですか?」
「そうだ。
君にプレッシャーを掛けないために、ボクの判断で黙っていた」
「何となく分かって来ました。
薬売りに気付かせないために、
普通に看病だけさせたかったんですね?」
ヤマトが頷く。
「しかし、不足の事態が起きて医療部隊に接触する必要が出来た。
ボクは、これから医療部隊の持つ薬を貰ってくる。
その方が、木ノ葉に帰るより早いからね」
ヤオ子が頷く。
「君は、ボクが戻るまで看病をお願い出来るかな?」
「はい」
「あと、子供達と会話をして毒の混入の経緯を探ってくれ。
村長さんの話で、病人が子供だけっていうのが気になる」
ヤオ子は顎の下に指を立てる。
「そういえば……。
井戸なんかに毒を混入すれば、大人も子供も関係ないですもんね?」
「そうだ。
キーワードは、子供だ」
ヤオ子が頷くと、ヤマトも頷いて返す。
そして、村長の元に戻る。
「すいませんでした。
この子が看病の任務を続行し、ボクは解毒薬を確保します」
「そうですか。
お願いします」
村長が頭を下げる。
「じゃあ、ヤオ子。
後を頼むよ」
「はい」
ヤマトは村長に頭を下げると、部屋を後にした。
(一人、放置ですか。
信用されたもんです。
・
・
では、期待には応えないといけませんね)
ヤオ子が営業スマイルを浮かべる。
「あたしは、何処に行けばいいですか?」
「今、子供達は一箇所に居ます。
・
・
本当は自分達で世話をしてあげたいんですが、
私達も働かないと暮らせないので……」
「分かってますよ。
子供たちが嫌いなら依頼も出しませんから。
あたしは、凄い分身の術を使えるんで五人分働けます」
「頼もしいですな」
「えへへ……。
子供相手だから、お話も合います」
「では、お願いします。
これから畑仕事がありますので」
「任せてください」
ヤオ子は村長の案内する長屋へと向かった。