== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
笑顔を浮かべるヤオ子に、ヤマトは呆然とするしかなかった。
出来ることなら、自分も拒否したい。
しかし、彼はこの部屋の上忍達の中で一番の人格者だ(多分)。
拒否することが、いたいけな少女をどれだけ傷つけるかを考えると声が出ない。
「じゃあ、オレら任務あるから」
心無い上忍達は、二次災害を起こされる前に去っていく。
「任務については、明日、紹介する」
ホムラとコハルも退室しようと席を立つ。
そして、去り際にコハルからヤオ子に額当てが手渡される。
「しっかりな」
「ありがとう。
お婆ちゃん」
コハルはにこりと笑うとヤオ子の頭を撫で、ホムラと退室した。
第35話 ヤオ子とヤマトとその後サスケと
アカデミーの一室で、ヤオ子とヤマトだけが残される。
ヤマトは、未だに現実に戻って来ていない。
「あの~……」
ヤマトがハッとして我に返る。
「な、何だい?」
「これから、どうしますか?」
「そ、そうだね。
次の任務まで時間があるから、少し話そうか?
屋上で、どうかな?」
「いいですよ」
ヤマトは密閉された部屋の空気ではなく、外の新鮮な空気を吸って落ち着きたかった。
成り行きで、半ば強引に担当上忍にされてしまったとはいえ、部下を受け持つ責任を任されてしまった。
気持ちを切り替えなければならない。
ヤマトはヤオ子を伴って退室すると、アカデミーの屋上に向かった。
…
アカデミーの屋上に移動して大きく深呼吸をしたからと言って、直ぐに対応できるものでもない。
突然の編成で作られた奇妙な関係に、ヤマトはまだ頭の整理が出来ていない。
それでもお互いの情報は交換しておく必要があると、ヤマトは自己紹介から始める。
「ボクは、ヤマト。
正直に言えば、君の担当になるとは思っていなかった」
「ですよね。
あたしも吃驚しました」
「正直、何から話せばいいのか……。
とりあえず、自己紹介してくれるかな?
出来るだけ詳しく」
「報告書とか読んでないんですか?」
「受験生はかなりの数だったからね。
報告書の詳細には目を通していないんだ。
さっきも言ったが、ボクが担当になるとも思ってなかったから」
「分かりました。
八百屋のヤオ子、八歳です。
アカデミーには通っていません。
自来也さんの推薦で、今回受験しました」
「自来也……あの三忍の?」
「はい」
ヤマトは腕組みして考える。
「君の紹介から、いくつか疑問があるんだけど……。
質問していいかな?」
「いいですよ」
「まず、八百屋の子供なのかい?」
「そうです。
この前の騒動で自来也さんの口寄せで店が潰れました」
「…………」
初めての質問から、予想外だった。
「何と言っていいか……」
「安心してください。
お婆ちゃんに頼んで、建て直して貰えることになりました」
「それは良かった。
・
・
次に君の忍者としての技術だけど、何処で覚えたの?」
「サスケさん……。
うちはサスケさんに教えて貰いました」
「あの一族の……。
知識もかい?」
「はい。
必要そうな本は読まされました」
「それで筆記試験を解けたのか。
しかし、あの問題が解けるほどの知識を覚えさせるとは……。
サスケは教師の才能があるのかもな」
しかし、サスケの取った方法を他の子に試せば十人が十人発狂する。
もう少し言えば、サスケが目を通して『意味わかんねーよ』と途中で放り投げ出した本も、ヤオ子は読まされている。
「でも、忍術を教えたのがサスケだとして、
自来也様の推薦が貰えるのは、どういうことだろう?」
「木ノ葉崩しの時に、
あたしと砂の忍の戦いをイビキさんから聞いたらしいです」
「君、戦ったのかい!?」
「はい。
ちゃんと勝ちましたよ」
(道理で推薦するはずだ……)
ヤマトは得体の知れない目の前の少女が、何故、特別枠の下忍の試験を受けれたのか、ようやく分かった気がした。
はっきり言って、テストを受けるヤオ子を見ただけでは何も分からなかった。
「ボクの質問は以上だ」
「じゃあ、あたしからもいいですか?」
「構わないよ」
「あたし、アカデミーに通ってないから、忍者の常識がよく分かりません。
そこら辺を質問していいですか?」
「ああ」
「まず……。
呼ぶ時、ヤマトさんでいいんですか?
ガイ先生は、先生付けなんですけど?」
「多分、先生をつけるのはアカデミーの名残なんだろうね。
フォーマンセルを小隊と呼ぶから隊長と呼ぶ時もあるね」
ヤオ子はキョロキョロと見回したあと、ヤマトに視線を向ける。
「今、二人しか居ませんね。
ヤマト隊長にヤオ子副隊長ですか……。
あたし、いきなり重役ですねぇ」
「えっと……新人にそんな重役を任せないから」
「そうですか?」
「うん。
突然決まった班構成だし、フォーマンセルにするために補強されるはずだ」
「なるほどです」
「あと、呼び方だけど、さん付けも仰々しいから先生にしようか」
「分かりました、ヤマト先生。
次なんですけど……。
忍者の雑用系任務って、何ですか?」
ヤマトには、ヤオ子の質問の意図が理解できなかった。
故に、質問を質問で返す。
「……何それ?」
「聞いてません?
里の力を戻すために今回の召集があったんです。
現在の下忍と中忍の方々の任務の質を上げるために、
簡単な任務をあたし達が処理するんです」
「そういう狙いだったのか。
ボクは忍者の総数を増やすのが目的だと思っていた」
ヤオ子は顎の下に指を当てて、首を傾げる。
「もしかして、あたしだけに言われたのかな?」
「今回召集された受験生の家族には伝わっているかもね」
「なるほど」
「それで雑務だったね。
下忍で誰でも出来ることなら……。
『子守り』『おつかい』『仕事の手伝い』なんかかな?」
ヤオ子が額を押さえている。
「どうしたの?」
「下忍関係ない……」
「はは……。
まあ、里への依頼は様々だから」
「木ノ葉は間違った方向に手を伸ばし過ぎてません?
アルバイトの紹介場じゃないんだから……」
「ボクも、時々思うよ」
「大体、おつかいなんて依頼されて受けないでくださいよ。
忍者関係ないじゃないですか?
おつかいで手裏剣術なんて活かされませんよ」
「反論出来ないな。
・
・
もしかしたら、忍界大戦後の貧困した里が受け持った仕事を
脈々と受け継いでいるのかもしれないよ」
「意味ありますか?」
ヤマトは腕を組む。
「う~ん……そうだな。
例えば、また忍界大戦が起きたとして、里が窮地に立たされ貧困したとする。
その時、依頼をくれるのは大戦前からも依頼を受けてくれた里か?
大戦後、いきなり出てきた里か?
もし、君が依頼をするなら、どっちだい?」
「そっか……。
信頼関係を維持して、万が一に備えているのか」
「うん。
ボクは、そう思うよ」
「そうですよね。
だったら、しっかり頑張らないと。
また、里の力が落ちたんだから」
「そういうことだね。
他には?」
「お給料の話」
「…………」
ヤマトが顔を顰める。
「いきなり現金の話か……」
「あたし、一人暮らししようと思って」
「何で?
八百屋は建て直して貰えるんだろう?
ご両親と一緒に住めばいいじゃないか?」
ヤオ子は右手の掌を返す。
「うち……貧乏なんです。
超がつくほど。
実際、あたしは学校にも行ってないし」
「嘘?」
「本当です。
だから、忍者で自活出来るなら、
食い扶持ち減らした方がいいんです」
「だったら、君のお給料を家に入れれば?」
「それは出来ません」
「何故?」
「プライドの問題です。
両親のプライドを守るためにしてはいけません。
きっと、惨めになります。
だから……」
そこで言葉を止めたヤオ子に、ヤマトはこの子なりの思いやりなんだろうと納得する。
「分かったよ。
ボクの方で手配しよう。
ただし、お給料の前借りは出来ないから、一ヵ月経ったらだよ」
「月給制?」
「他に質問は?」
ヤオ子は暫し考えるが、これ以上は特に浮かんで来なかった。
「……ないかな?
明日の待ち合わせ時間ぐらいです」
「朝八時にここで、どうかな?」
「分かりました」
「あと、忠告というかお願いかな?」
「?」
「忍者らしい格好をしよう」
ヤオ子の服装……。
Tシャツ、短パン、腰に道具入れ……ギリギリ。
素足にドタ靴……アウト。
「靴ですか……」
「うん。
あとホルスター」
「…………」
ヤオ子は腕組みして悩む。
「どうしたの?」
「うち貧乏なんで靴と言われても、直ぐには……」
(切実だ……)
「あとホルスターなんですけどね。
四つあります」
「何で、四個も……」
「敵さんから奪いました。
ちなみに、その時に起爆札も六枚」
(追い剥ぎみたいな子だな……)
「ただ、そのホルスター……。
大人用で合わないんですよね……」
「…………」
ヤマトは何も言えなかった。
「質屋で売って、装備を揃えますか」
「本当に何と言っていいんだか……」
「まあ、とりあえず何とかします」
ヤオ子が、さっき貰った手の中の額当てを見る。
「これも売っていいんですかね?」
「ダメ!
それは木ノ葉の忍者の証!」
「そうなんですか。
そう言えば賞状とか貰ってませんね」
(危ないな……。
一般人だったから何処かずれてる……)
ヤオ子は額当てをポケットに強引に突っ込んでいる。
それを見たヤマトは、アカデミーを出た子なら絶対にしないな……と思っていた。
「では、ヤマト先生。
明日から、お願いします」
「……うん、よろしく」
ヤオ子は手を振って去って行った。
そのヤオ子が屋上から見えなくなるのを確認して、ヤマトは溜息を吐く。
「はぁ……。
もの凄く不安だ……。
・
・
というか、ボクは暗部も掛け持ちしているのに……。
こんなことなら、試験の手伝いなんかするんじゃなかった……。
二束の草鞋で仕事なんて出来るのか?」
ヤマトはもう一度溜息を吐くと、早速、ご意見番の二人のところへ相談しに向かった。
…
十分後……。
ヤオ子は仮設住宅の自分の家に辿り着いていた。
家では、母親が出迎えてくれた。
「ただいま」
「おかえり。
どうだった?」
「うん。
受かった」
ヤオ子はポケットから額当てを見せる。
「よかった~」
「明日、任務を紹介して貰えるみたいです」
「そう」
母親との会話も早々に切り上げて、ヤオ子は家に上がり込むと自分のデイバッグを背負う。
中には、この前奪ったホルスターと起爆札が入ったままになっているからだ。
「いってきます」
「もう、何処か行くの?」
「靴を新調しろって言われました」
母親が玄関のヤオ子のドタ靴を見る。
「そうだった……。
忍者の装備は、お金が掛かるんだった……」
「とりあえず、この前奪ったの売れば何とかなると思うんで」
「その手があった!
さすが、私の娘よね」
「その反応は、どうなんですか?
まあ、いいです」
玄関で靴を履き直すと、ヤオ子は仮設住宅の家を出た。
…
家を出て通りに出ると、ヤオ子は目を閉じると集中する。
そして、ピクリと眉を動かし、何かを察知するとゆっくり目を開ける。
「サスケさん、み~っけ♪」
察知したのは、ヤオ子のトラウマセンサーに引っ掛かったサスケだった。
ただし、察知した場所はいつもの修練場と違う場所だった。
「あっちって、何がありましたっけ?」
分からないまま、ヤオ子は足を向ける。
人の多い通りから離れ、修行場によく使う森とも違う場所に向かっていた。
辺りは段々と岩場の多いところへと変わってくる。
「何だろう? ここ?」
そして、凄まじい掘削音がヤオ子の耳に届いた。
「これ……中忍試験で使ってた技じゃない?」
ヤオ子が音のする方に向かい、岩から顔を覗かせるとサスケが額に汗を流していた。
「おやおや……。
不機嫌が顔に表れています。
・
・
今更、撤退も出来ないでしょうね。
この距離ならバレてます」
ヤオ子がピョンと岩の上に飛び乗り、猫のような座り方で片手をあげる。
「こんにちは。
サスケさん」
ヤオ子を見るなり、サスケは舌打ちする。
「随分な挨拶ですね」
「何しに来た?
そんなことより……。
どうして、ここが分かった?」
「あたし、サスケさんの場所は、
何となく分かるんです」
「ストーカーか!」
(もしかしたら、お母さんの血のせいかも……)
ヤオ子は岩の上で両足を投げ出して座り直す。
「機嫌悪いですね?」
「大きなお世話だ!」
サスケはナルトと我愛羅の戦いを見てから、一種のコンプレックスを持っている。
二人の戦いに比べて自分が酷く弱いと感じている。
この時はまだ、体内に尾獣を宿す人柱力という言葉を知らなかった。
その言葉は、里の中で大人達が隠していたからでもあるが……。
ヤオ子は岩を飛び降りると、サスケに近づく。
「どうしたんですか?」
「うるさい!」
サスケの振り払った手がヤオ子の額をかすめる。
すると、ヤオ子の額から血が流れ出た。
「あり?」
「あ!
・
・
すまない……」
(おやおや……。
このドSが素直に謝るとは……。
相当重症ですね)
ヤオ子が手頃な布で額を押さえると、血が布を染めていく。
暫く押さえると血は止まった。
「すまない……」
「大丈夫ですよ。
もう、血は止まりましたから」
ヤオ子は、傷口に唾をつける。
「少しお話ししませんか?」
「ああ……」
ヤオ子がサスケの側に腰を下ろすとサスケも腰を下ろした。
「随分……出たな」
「本当に平気ですって」
「布もこんなに……。
布……?
・
・
これ額当てじゃねーか!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「ちょっと!
今は頭ダメでしょ!?
傷が開いちゃうでしょ!?」
サスケはハッとして自分の額に手を当てる。
「オレのじゃない……。
盗んだのか!?」
「違いますよ!
あたしも忍者になったの!」
「……は?」
「何ですか?」
「どういうことだ?」
「どうもこうも……。
試験を受けさせられて合格したんです」
「意味が分からん……」
「説明しますか?」
サスケが頷くと、ヤオ子はこれまでの経緯を話した。
また、その過程でサスケは十三回グーを炸裂させている。
「ハア…ハア……。
何で、説明聞くだけでこんなに疲れるんだ……」
「ハア…ハア……。
何で、説明するだけでこんなにダメージが……」
二人は何故か疲れ果てる。
「まあ、そういった経緯であたしは下忍に……」
「お前、相手が上忍でもからかうんだな」
「当然です。
アンコさんの唇もゲットです」
じゅるりとヤオ子は唇を拭う。
(コイツを下忍にしちゃいけないんじゃないか?)
ヤオ子はサスケの反応を見ると、笑みを浮かべる。
「なんだよ?」
「少しいい顔になりましたね」
「!」
サスケは、してやられた気分になる。
「チッ!」
「何で、不機嫌だったんですか?」
再度の質問にサスケは溜息を吐き、正直に本音を語る。
「オレが弱いままで強くなれないからだ……」
「は?」
(この人、どこまで人間の道を踏み外したいんだろ?)
「オレは弱い……。
砂のアイツよりも……。
ナルトよりも……」
「よく分かりませんね?
何で、強くなりたいんですか?」
「…………」
サスケは視線を下に落として答えた。
「復讐したい奴が居る……。
そのためには強くならなければならない……」
「敵ですか?」
「仇だ……」
「仇……。
あたしのサスケさんに対する思いと同じですね」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「そんな浅い因縁じゃねー!」
「じゃあ、どれぐらいですか?
ちなみに、あたしの目標はワンパンチです」
「十分、浅いじゃねーか!」
「『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を一発!」
「殺す気か!」
「深いでしょ?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「単純なんだよ!」
「痛い……。
じゃあ、サスケさんの因縁は?」
「この空気で話すのか……」
「ひょっとして冗談じゃない?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「当たり前だ!」
「え~!
じゃあ、本当に闇のように暗くて、
ドロドロと深い怨念が宿っているんですか?」
「そうだ……」
「茶化せないじゃないですか!?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「だから、茶化すの前提で話すな!」
「すいません……。
あたしは、てっきり自分に酔って
カッコつけてるだけだと思っていました」
「お前、最悪だな……」
「…………」
ヤオ子は頭を擦りながら、中忍試験での観客の言葉を思い出す。
それが何かしら関わっているような気がした。
「あの……。
もしかして、一族のことと関係してますか?」
「そうだ」
「…………」
サスケの肯定に、ヤオ子は俯く。
「どうした?」
「あたし、その話嫌いです」
「知っているのか?」
「詳しくは知りません。
でも、中忍試験で……。
皆、サスケさんを見世物みたいにして……」
「…………」
ヤオ子は体育座りの姿勢で眉を歪める。
「人の不幸を見世物にするなんて
いいことじゃないです」
「……そうだな。
でも、それだけウチハの名は特別なんだ。
だから、オレはいつも背負ってる」
ヤオ子はサスケの背中の団扇を思い出す。
確かにサスケはいつも背負い続けていた。
「平気なんですか?」
「平気だ。
いずれ一族は復興させる」
「復興?
復讐は?」
「復讐を果たして復興させる」
「そうですか……。
それで強くならないといけないんですね」
「…………」
サスケは、ヤオ子の隣で胸に秘めた思いを聞いてみる。
「ヤオ子……。
お前は……。
・
・
復讐をどう思う?」
「どう?」
ヤオ子は腕組みして考える。
しかし、中々纏まらなかった。
「皆、復讐を反対する……。
止めようとする……」
「サスケさんの場合……。
復讐を失敗したら死んじゃいそうだから、
皆、心配なんですよ」
「…………」
黙るサスケを見て、ヤオ子は自分の考えを少しずつ口に出した。
「あの……復讐する度合いもあると思うんです。
復讐しないと前に進めないとか……。
その先が辛いと分かっていてもやらないといけないとか……。
・
・
復讐する人は、復讐することが悪いことなんて知ってますよ。
それでもやらないと、その人の心の中には棘が残り続けるんです。
復讐を果たさないで一生を終えても胸で燻り続けて……。
復讐を果たしても胸で燻り続けて……」
ヤオ子の言葉を聞きながら、サスケはヤオ子を見る。
ヤオ子は語りながら泣いている。
「本当は悪いことをする人が居なければ、
誰も苦しまないんです……」
「ヤオ子……」
「あたしは、そういうのを何度も見続けてきました。
結局、最後はこんな悲しみだけが広がって、
何にもならないじゃないかって……」
「…………」
「全て漫画の中での出来事なんですけど……」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「何処までが本気なんだ!」
「本気ですよ!
ほら、涙!」
(コイツに聞くんじゃなかった……)
ヤオ子が涙を拭うと、口調が一変する。
「ぶっちゃけますとね。
あたしは復讐肯定派です」
「適当に聞くぞ?」
「ええ、いいです。
だってね。
やったらやり返すです。
・
・
『殺されたから殺して。
殺したから殺されて。
それで最後は平和になるのかよ!』
って意見も十分に分かります。
・
・
だからね。
線引きします」
「線引き?」
「仇が復讐する時まで変わってなければフルボッコです。
でも……。
改心して温かい家庭でも築いているなら半殺しです。
あたしは、こうします」
「…………」
ヤオ子の考えを聞いて、サスケの頬が緩む。
「ふ…はは……。
お前にかかると何でも笑い話だな」
「そうですか?」
「そうだ」
「まあ、そんな感じなんで。
あたしは、いつまでもサスケさんの味方です」
「味方か……」
「…………」
ヤオ子は空を見上げる。
「いつか……。
里を離れるかもしれませんね」
「ああ……」
「もし、そうなったら……。
あたしは、サスケさんを待っています。
サスケさんの戻る木ノ葉の里を守って」
「オレが戻る?」
「復興……させるんでしょ?」
「ああ……」
「そして、サスケさんが帰って来た時に……。
あたしが独身なら愛人になってあげます」
サスケは思いっきり吹いた。
「どうしたんですか?」
「お前な……」
「だって、子供作んないと、
一族復興出来ないじゃないですか?」
「それはそうだが……。
・
・
お前はいいのか? それで?」
「いや、あたしってこの性格でしょ?
行き後れてる可能性が高いじゃないですか?」
「お前の保身かよ?」
「そうですよ」
サスケは軽く笑う。
「馬鹿らしい……。
お前に話すことじゃなかった」
「貴重なお話だと思うんですけど」
「…………」
サスケは少し気分が晴れた気がした。
「お前、オレに用があったんじゃないのか?」
「そうでした!
忍具が必要なんです!」
サスケがヤオ子の格好を改めて見る。
「そうだな。
全然、忍者に見えない」
「この前、パクッたホルスターとかを売って、新調しようと思うんです。
アドバイスしてくれませんか?」
「ああ、いいぜ……。
靴は、オレのお下がりで良ければ、やるぞ?」
「貰います。
これで靴代が浮きました。
服も新調しようかな?」
ヤオ子は、久々にサスケと過ごすことになった。
中忍試験の本戦前から会っていなかったので、実に3週間ぶり近くになるのだった。
…
質屋に向かう前、ヤオ子はサスケの家によることになった。
中に入るのも初めてになる。
玄関の下駄箱を開けて、サスケは中から自分の靴より一回り小さい靴を取り出す。
「合わせてみろ。
あと、もう一回り小さいのがある」
「ありがとうございます」
ヤオ子はお古の靴を履いて、トントンとつま先を叩く。
「丁度いいです。
履き込んでるから柔らかいし」
「そうか。
よかった」
ヤオ子はサスケの腕を指差す。
「サスケさん。
前にサスケさんが腕につけてたヤツもちょうだい」
「……図々しい奴だな」
「だって。
中忍試験以降、服新調したじゃないですか?」
「お前な……。
オレに毎日同じ服を着ろってか?」
「あたし、サスケさんのセンスは好きなんですよ」
「服のセンスだけか……。
じゃあ、買った店教えるから」
「そこで服も合わせようかな?」
続いて、サスケ行きつけの店へ向かうことになった。
…
ヤオ子とサスケは、まず換金のために質屋へと向かった。
店のカウンターで、ヤオ子が質屋の店主に声を掛ける。
「すいません。
これ買い取って貰えます?」
ヤオ子はデイバッグからホルスター×3と起爆札六枚を出す。
質屋の店主は物を手に取って確認すると、電卓を弾いて見せる。
「この値段……どうなんだろう?」
分からないヤオ子を見て、サスケが横から口を挟む。
「この値段ならオレが買い取るぞ?」
「お兄さん……。
お嬢ちゃんの連れだったのか。
忍者なら値段の妥当性が分かっちまうな」
店主が電卓を弾き直すと、サスケに見せる。
「少し安いが妥当な線だな。
どうするんだ? ヤオ子?」
「サスケさんにお任せです。
おじさん、この値段で買い取ってください」
「毎度あり」
二人は質屋を出ると歩き出す。
ヤオ子は手に入れた現金を仕舞いながら、サスケにお礼を言う。
「サスケさん。
どうもありがとう」
「ああ。
よかったな」
「とりあえず、ホルスターの一番綺麗なのとクナイと手裏剣は取ってあるんですが、
サイズが合わないんですよね」
「ホルスターは、お前の足より大きいな」
「サスケさんのよりも、大きいですからね」
「どうするんだ?」
「改造するしかないですね」
「改造?」
「忘れたんですか?
あたしは秘密基地を作れるほど器用なんですよ?」
(そういえば、そういう奴だったな)
「あとは、店に置いてある原品を記憶してサイズを合わせるだけです。
形も参考に出来るようなら、デザインを盗みます」
「お前、偽物とか作って販売できそうだな」
「あれは意外と足が着くんでやりません」
「足が着かなかったらやるんだな……」
そうこう話しているうちに、サスケの行きつけの店に辿り着く。
行きつけの店は質屋とあまり離れていない場所にあった。
…
初めて入る忍具専門店。
ヤオ子は興味津々で店内を見回す。
「忍具だらけです!」
「何を買うんだ?」
「自分の手で作れないものです!」
サスケはガクッと肩を落とす。
「お前、何が作れないんだ?」
「材料は、拾ったものですからねぇ……。
拾える材料と形状によります」
(コイツ、忍具いるのか?)
ヤオ子は売り物のホルスターを手に取り確認する。
「なるほど……。
砂のホルスターとは中身が違いますね。
いや、この持ち主が手を加えたのかも?
形状は、木ノ葉の方があたし好みですね」
(職人の目をしている……)
サスケはヤオ子を複雑な目で見ている。
ヤオ子は形状を覚えると商品を元に戻す。
「バッチリです。
あとは、家で改造します」
「今度、オレも改造して貰おうかな?」
「おにぎり一個で手を打ちますよ」
(安……)
その後、ヤオ子は色々と興味がわいて店内を駆けずり回っていた。
サスケは、それを見て一応歳相応の女の子の反応だなと思う。
「試着していいですか?」
「どうぞ」
ヤオ子が物色した服を持って試着室に入って行った。
そして、数分後に声がする。
「サスケさ~ん!
見てください!」
(何でだよ……)
サスケが面倒臭そうに試着室に近づくとカーテンが開く。
「じゃ~ん!
どうですか?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「オレじゃねーか!」
藍色のTシャツに白のミニスカート。
スカートの下にはスパッツ。
腕にはサスケがつけていた保護する道具をつけていた。
「変ですか?」
「それを変だと言ったら、オレを否定することになる……。
どういうテーマなんだ……」
「色々パクってあります」
「またパクリか……」
「メインはサスケさんです」
「だろうな……」
「ポイントは下半身です。
このミニスカートは、アンコさんをパクリました」
「あのナルトに近い女か……」
「スパッツはサクラさんです。
色は黒のため違いますが……」
「本当に全部パクったんだな……」
「どうですか?」
「直ぐにやめろ」
「店員さん! 会計!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「お前、聞いてんのか!」
「サスケさんが嫌がってる」
「分かってんじゃないか」
「だから、買う!
店員さん! 会計!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「お前、馬鹿か!」
「いいじゃないですか。
あたしは、道行く人がこの姿を見て『兄妹かしら?』と言う度に
怒り狂うサスケさんを見たいんです」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「何で、そういう発想しか出来ないんだ!」
「血……ですかね?」
「お前の親は変態か!」
「少なくとも、母親はストーカーでした」
サスケが吹く。
「どんな家系だ!」
「さあ?
過去までは、さすがのあたしにも修正することは出来ませんので」
「兎に角、脱げ!」
サスケの言葉に、ヤオ子がクネクネと悶える。
「え? 何ですか?
そのエロい要求は?
・
・
まさか、サスケさんがあたしに欲情するなんて……フフフフ♪」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「欲情するか!
お前と同じ服を着たくないんだ!」
「嫌です! 脱ぎません!
どうしてもと言うなら、サスケさん自ら脱がしてください!
あたしは、そのエロいシチュエーションで我慢します!」
ズズイッとヤオ子が前に出る。
「あたしを脱がしてください!
さあ! さあ! さあぁぁぁ!」
迫るヤオ子に、サスケが項垂れる。
「ダメだ……変態にはなれない」
「店員さん! 会計!」
サスケはヤオ子の説得を諦め、ヤオ子のところには店員がやって来る。
「いくらですか?」
「XX両です」
「その値段なら、予備に同じの三着追加してください」
「畏まりました」
「最悪だ……」
サスケにとって、最悪な思い出が追加された日だった。