== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
アカデミーのある一室……。
再試験を含めて、受験した子供達の結果をホムラとコハルは確認している。
この結果により、合否を決めるためだ。
「第一試験を突破出来ない者は論外だな」
「覚悟のない者に忍者は務まらん。
アカデミーでやり直しだ」
ここで最初の切り分けを行った。
「第二試験と第三試験は、総合して考慮しよう」
ホムラが受験生の報告書を束で掴み、パラパラと流し読みする。
その横でコハルも一緒に目を通した。
「相変わらず……カカシの判定は厳しい。
チームワークのコメントがどれも厳し過ぎる」
「また、上忍から鈴なんて取れるわけもない」
「一名、例外も居るが……」
「…………」
「アンコの試験も、朝まで持った子は居ないな……」
「一名、例外も居るが……」
「…………」
ホムラとコハルは、ある試験結果報告書の前で頭を悩ませていた。
第34話 ヤオ子の下忍試験・試験結果編
二日後……。
ヤオ子の試験に携わった上忍・特別上忍が呼び出される。
森乃イビキ、はたけカカシ、みたらしアンコ、ヤマトである。
「この報告書は、何だ?」
コハルが一枚の紙を机の上に置く。
…
<特例召集下忍試験報告書> 名前:八百屋のヤオ子
●第一試験 偽装・隠蔽術と覚悟について(担当:森乃イビキ)
偽装・隠蔽術能力:
詳細不明。
(本人が答えを解き明かしたため)
覚悟:
詳細不明。
(下忍にはなりたいが、中忍にはなりたくないと本人が言っているため)
備考:
試験問題を自力で解いたため、知識はあると思われる。
しかし、それ以外は全く分からない。
●第二試験 実技(担当:はたけカカシ)
忍術:
詳細不明。
(使用してない)
体術:
詳細不明。
(使用してない)
チームワーク(協調性):
詳細不明。
(使用したようなしていないような)
話術(特別に追加):
馬鹿みたいに卓越している。
備考:
よく分からないうちに試験が終わってしまった。
●第三試験 サバイバル(担当:みたらしアンコ)
移動距離:
四位 (1/3)
滞在時間:
一位 (十六時間)
サバイバル能力:
詳細不明。
(途中、強制終了のため)
備考:
無線機のトラブルなどが重なり、詳細不明。
滞在時間は、二位の候補者が七時間なので、タフさだけはあると思われる。
…
呼ばれた忍達は、全員渋い顔をしている。
ホムラが質問をする。
「ほとんどが『詳細不明』の理由は、何なのだ?」
イビキの答え:
「予想の斜め上を行くからです」
カカシの答え:
「嵌められた?」
アンコの答え:
「どうしようもないアホだからです」
ヤマトの答え:
「皆さんの言っていることが全てです」
ご意見番の二人は目頭を押さえている。
「それでは分からん……」
「「「「我々も、分かりません」」」」
「もうよい……。
第一試験から聞く。
・
・
イビキ。
偽装・隠蔽術能力が詳細不明なのは?」
「報告書の通りです。
よく分かりませんが、彼女は全ての問題を自力で解き明かしました。
故にカンニングをしていません」
「そういうことか……。
解けるような問題を出したのは落ち度だな」
「…………」
ホムラの言葉に、イビキは片手をあげる。
「試験問題を御覧になりますか?」
イビキがホムラに試験用紙を渡すと、ホムラは試験用紙に目を通した。
「……これを解いたのか?」
「解きました」
「……では、仕方ないか。
・
・
覚悟の方は?」
「……………」
「どうした?」
イビキは苦虫を潰したような顔をしている。
カカシとヤマトは、何となく分かる。
((言いたくないよな……))
イビキは溜息を吐くと決心して話し出す。
「彼女には、
『受験して失敗すると一生中忍試験を受験出来ない』という
プレッシャーを与えました」
「中忍試験の内容と同じではないか?」
「その……手違いで、つい」
カカシとヤマトは内容を知っているが、アンコも何となく感づいた。
(あの子、絶対ここでも何かしてる……)
ホムラが続きを促す。
「それで?」
「はい。
彼女は堂々と私を睨みつけ、意志を貫きました」
「大したものではないか。
他の受験生は、全員去ったのだろう?」
「ただ──」
「ただ?」
「──報告書にも書きましたが、
彼女は一生下忍で居るために受験したのです」
「?」
「つまり、ワザと十問目を間違えて、
上忍に守って貰える下忍であり続けることを狙って残ったのです」
事情を知らないホムラとコハルとアンコが項垂れる。
「何だ……その理由は」
「いや、考えられなくない。
あの子は、忍者になったら、
いつでも辞めれる権利をくれとせがむような子だ」
((((そんなことを言っていたのか……))))
気を取り直して、イビキが続ける。
「そういった経緯で、
彼女は第一試験を私の意図に反した形で突破しました」
「分かった……。
もうよい……」
「次だ。
第二試験……」
カカシが前に出る。
多分、この中で一番説明しにくく説明したくないであろう話。
早速、カカシは回避を謀ろうとする。
「掻い摘んでいいですか?」
「イビキと同じような感じか?」
「ええ、まあ……」
「だったら、認めよう」
「え~とですね……。
受験生が一人になったため、ヤマトとアンコに頼んで代役をお願いしました。
協調性も見たかったので」
「うむ」
「それで……ヤオ子の体術を見たかったのでワザと隙を作りました。
上忍が構えていたら、攻撃し難いと思って」
「なるほど」
「私は、本を読みながら攻撃するのを待ったのですが──」
(この後、何て説明すればいいんだ?)
「どうした?」
「あ、はい!
え~……。
・
・
ヤオ子に、話術による揺さぶりを掛けられました」
「?」
(何とかしないと……。
何とかしないと……。
何とかしないと……)
アンコとヤマトには、カカシが慌てふためく理由が手に取るように分かる。
多分、そのまま話したらホムラとコハルはぶち切れる。
故に、二人の頭にはある仮設が立つ。
((絶対に嘘つくな……))
カカシの頭の中では、猛烈なスピードで偽りのストーリーが組み立てられる。
「ヤオ子は、私の呼んでいる本の内容と
ぴったり同じことを言い当てました」
「何?」
「この時点で考えられることがあります。
私自身がヤオ子の幻術に掛けられた可能性です。
しかし、私はヤオ子が印を結んだのを見ていません。
だから、現実か幻術かを早急に判断しなければいけませんでした」
(先輩……上手く十八禁の本を躱したな)
(うわ~。
もう、嘘だらけね。
その時は、カカシ絶叫してたし……)
「更にヤオ子は本のストーリーを微妙に変えて、
より現実か幻術かの境界をぼやけさせました」
「術も使わず凄いな……」
(本当に嘘だらけね……。
それにしても、カカシもよく舌が回るわね)
「聴覚からの幻術と判断し、
ヤオ子の幻術を止めようと両手で耳を塞いだ時にアンコとヤマトに鈴を取られました。
ちなみに、二人は試験前にヤオ子と打ち合わせ済みです」
「なるほどのぅ。
それで全て『詳細不明』か……」
「いや~。
二人が受験生でないことを失念してしまって」
(嘘だな……)
(嘘ね……)
「分かった。
そういうことなら仕方あるまい。
ヤオ子は頭脳戦で勝負する忍のようだな」
「そう思います」
カカシは息を吐いて安堵する。
「ところで……」
「な、何か!?」
「何故、ヤオ子は本の内容を知ることが出来たのだ?」
(ここに来て、まさかの質問!?)
「それは……。
・
・
私も気になって試験終了後に聞いたところ、
ヤオ子は本の内容を全て暗記していました」
「なるほど。
記憶力もいいのか……」
(乗り切った……)
カカシが二度目の安堵の息を吐く。
「何の本を暗記していたのだ?」
(えーっ!?)
(最後に最難関の質問が……)
(どうするんですか!? 先輩!?)
「…………」
そして、暫くしてカカシから出た言葉は……。
「……こ、孔子です」
(丸っきり正反対の本じゃない!)
(嘘が嘘を呼んで、とんでもないことに……)
「ヤオ子は大したものだな」
「まったくだ」
カカシの隣でアンコが小声で話す。
(どうするのよ!
そんな嘘、直ぐにバレるわよ!
ご意見番がヤオ子に聞いたら一発じゃない!?)
(そうだな……。
あの子、エロ小説しか読んでなさそうだし……。
・
・
勢いで取り返しのつかないことを……)
カカシは魂が抜けたようになっている。
ここで、コハルが何かを思い出す。
「しまった。
ヤオ子も呼んであったのだ。
つい、忘れていた」
(((何ーっ!?)))
「少し待っておれ」
コハルが席を立って姿を消す。
「終わった……。
嘘がバレる……」
「孔子なんて嘘をつくから!」
「だって……。
それが頭を過ぎったから……」
カカシは放心状態で、罰が下されるのを待つ気分だった。
その時間はあまりに短く、コハルがヤオ子を連れて現れた。
「すまんな。
忘れてしまって」
「大丈夫ですよ」
(あ~……。
ヤオ子の笑顔が悪魔の微笑みに見える……)
ヤオ子はカカシの様子に首を傾げる。
ホムラがヤオ子に話し掛ける。
「さっき、話題に上がっておってな。
好きな孔子の言葉を言ってくれないか?」
カカシの口から、魂が抜け出そうになる。
「突然ですね?」
「第二試験のカカシの話から、
ヤオ子の知識の深さが分かって名」
「そうですか?
う~ん……」
ヤオ子の口から何が飛び出して場を混沌とさせるのかと、カカシ達は気が気じゃない状態だった。
「『君子は周しみて比らず、小人は比りて周しまず』なんて、どうですか?」
「…………」
イビキは純粋に驚き、カカシとアンコとヤマトは石のように固まっている。
「意味も分かるか?」
「立派な人は広く親しみ、一部の人におもねることをしない。
しかし、つまらない人は、一部の人におもねって広く親しむことをしない」
「偉いな」
「えへへ……」
ヤオ子は照れている。
そして、カカシの目には涙が光る。
「助かった……。
何か分かんないけど助かった……」
「嘘が本当になった……」
「あの子、一体何なんだ……」
イビキを除く三人は激しく項垂れていた。
「では、第三試験についてだ」
アンコがビクッ!とする。
(私の時だけ、ハードルが上がった!?
何で、この子が最初から居るの!?)
アンコは、ご意見番をチラリと見る。
(冷静に……。
イビキの時と比べて、あの子の評価が上がってご意見番の気分は悪くないわ。
いいえ、寧ろいい……。
だったら、小手先の嘘など使わず真実を……。
素直に語らず包み隠して話そう)
アンコが頭の中でシミュレーションを繰り返す。
その様子を見てカカシは思った。
(アンコもか……)
シミュレーションが終わると、アンコは話し出す。
「第三試験は報告書の通りです。
特に報告する点はありません」
「サバイバル能力の詳細不明は?」
「監視役の忍の無線が故障したため、
詳細が分からないためです」
「そうか……。
では、移動距離と滞在時間だけで判断するしかないか」
「この順位なら問題ないだろう」
アンコはホッと胸を撫で下ろすが、視界の先のヤオ子を目に捉えると焦り出す。
ヤオ子の顔が不機嫌そのもので、今にも何かを言いそうになっている。
アンコはご意見番の死角をついて、ヤオ子にハンドシグナルを送る。
『お願い! 黙ってて!』
ヤオ子はハンドシグナルに気付いた。
一方のアンコは、あることに気付いた。
(この子……。
ハンドシグナル分かるのかしら?)
しかし、予想と反してハンドシグナルが返って来る。
『嫌です。
真実を語ります』
『何考えてるの!
あそこであったことを言えるわけないでしょう!?』
『分かってますよ。
ただし……。
それは、アンコさんの立場的にです』
(この子……。
私をこの場で嵌める気ね)
ヤオ子とアンコのやり取りを見て、カカシは溜息を吐く。
(何があったんだろう?)
ヤオ子とアンコのやり取りは続く。
『下手したら下忍になれないかもしれないわよ!』
『その時は、実家を継ぐだけです』
『……あとで奢るから』
(アンコの奴……。
買収する気か……)
『幾らまでですか?』
(ヤオ子、乗るんだ……)
『お団子三本!』
『チクリますか……』
『嘘!
食べ放題!
食べ放題でいいから!』
『いいでしょう。
余計なことを言わないと誓います。
ついでに援護射撃もしてあげます』
ハンドシグナルのやり取りが終わると、ご意見番が顔を上げる。
「この強制終了というのは?」
ご意見番の質問にヤオ子が答える。
「あたしの不始末のせいです」
「ヤオ子?」
「夕飯の食べ残しを置きっぱなしにしてしまって、
森の動物達が集まって来てしまったんです。
明方、気付いた時には大変なことになっていました。
あたしを庇った監視役の二名の方も血を流していて……(鼻血ですが)。
・
・
無理に続けようとしたあたしを止めるために、
アンコさんが強制終了をしてくれたんです」
(この子……。
さらっと嘘を……。
カカシ以上に完璧な嘘を……)
どんよりとするアンコに、ヤオ子は笑顔で頭を下げる。
「アンコさん。
ありがとうございました。
・
・
あの時、止めて貰わなければ……あたし──」
「え!?
あ、うん!
気にしないで!
怪我がなくて何よりだったわ!」
「ご苦労だったな、アンコ」
「あ、ありがとうございます!」
こうして嘘で固められた試験の結果報告が終了した。
…
ご意見番のホムラとコハルが結果を申し渡す。
「ヤオ子……合格だ。
明日から下忍だ」
「ありがとうございます」
「ついでに担当上忍も、この中から選ぶか?」
「「「「え?」」」」
呼ばれた全員が嫌な顔をすると、ここで進んでアンコが手を挙げる。
「私は、嫌です!」
「何!?」
続いてカカシも。
「オレも。
うちの班はナルトが居るから、
これ以上、トラブルメーカーはいらない」
「は?」
更にイビキ。
「私も遠慮します」
「…………」
上忍達による申請ではなく拒否の挙手。
ホムラとコハルとヤマトが固まる。
「では、ヤマトにお願いするか……」
「ええ!?」
(しまった! 出遅れた!)
「えへへ……。
これから、よろしくお願いしますね」
こうして、ヤオ子は見事(?)下忍になり、ヤマトが担当上忍になるのだった。