== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ガイの提案した修行方法は、その日のうちに封印された。
ヤオ子が涙目でギブアップしたためである。
そのヤオ子は両手を地面に手を着けて項垂れていた。
「あの日から泣かないと誓ったのに……。
ううう……。
あんまりだ……」
「まあ、そう言うな。
これで危ない修行だと分かったから、
大事なリーに怪我をさせることもなかったんだ」
ヤオ子がキレた。
「お前、そこに直れ!
ぶっ飛ばしてやりますよ!」
「ヤオ子さん!
気を付けてください!
ガイ先生は強いですよ!」
「リーさん!
あなたも大概なボケ体質ですね!
纏めてあの世に送ってやりましょうか!?」
リーとガイの師弟コンビに、ヤオ子のイライラは蓄積されていった。
第22話 ヤオ子の体術修行②
ヤオ子は怒りを静めると、溜息を吐く。
(分かったことがあります。
リーさん一人だと、問題はないんです。
・
・
ガイ先生です……。
ガイ先生というオプションパーツが
リーさんという制御回路に組み込まれると壊れるんです。
制御回路よりもオプションパーツの優先順位が高いから壊れるんです。
・
・
ガイ先生、リーさん、誰かで多数決をしてはいけません。
リーさんは、必ずガイ先生に靡くのでガイ先生の意見しか通らないんです。
肝に銘じました。
この失敗は、二度としません……)
ヤオ子は、リーとガイの制御方法の一つを胸に刻み込む。
そんな目に見えない努力をしているヤオ子を置いて、ガイがリーに話し掛ける。
「ところで……リーよ。
修行の方は、どうなのだ?」
「順調だと思います。
そのメモ帳にデータが蓄積されたのも、
ヤオ子さんの頑張りがあったからです」
「ほう」
ヤオ子は頭に手を当てる。
「えへへ……。
褒められると照れますね」
「では、オレと組み手をしてみるか?」
「ヤダ」
ヤオ子は疑いの目でガイを見ている。
この人は信用出来ない……と。
ガイは両手を腰に当て、溜息を吐く。
「まだ、さっきのことを気にしているのか?
心の狭い奴だな」
「気にしますよ!
打たれ強いあたしが泣きそうになったんですからね!
あたしは、女の子なんですよ!」
「だらしのない……」
「何言ってんですか!?」
「テンテンだったら、
そんな泣き言は言わんぞ」
「泣き言……?
馬鹿じゃないんですか!?
肉離れの一歩手前までいってんのに!」
「だから、テンテンはそんな泣き言を言わん」
「何処の変態マゾ女だ!」
「嘘じゃありません!
テンテンは、溜息を吐いた後にちゃんとやります!」
「諦め癖がついてんですよ!」
「そうだぞ。
新しい修行も真剣に取り組み、
怪我なんぞする前にちゃんと脱出する」
「警戒されてんですよ!
いい加減、気付け!
お前らのチームはガイ先生とリーさんが延々とボケて、
そのテンテンさんって人が突っ込み役だろ!?」
ガイは顎の下に手を当てる。
「う~ん……。
言われてみれば、そうかもしれんな」
「お前ら、テンテンさんを神として崇めろ!」
「そこは問題ない!
オレ達はチームだからな!」
「はい!
心で繋がっています!」
(ダメだ……。
繋がってんのはリーさんとガイ先生の頭ん中だけだ……。
なんか会ったことないテンテンさんに
凄く同情の念と仲間意識が芽生えた……)
ちなみにもう一人、日向ネジという被害者も居る。
「手加減はする。
安心して掛かって来い」
(その安心が、さっき根底から覆されたんですよ……)
ヤオ子は溜息を吐く。
きっと、この二人は分かってくれないと……。
そして、数日の間に学んだリーとの修行を頭でおさらいする。
「…………」
ヤオ子は頭の中の雑念を払うと、無言で構えを取る。
「うむ。
基本に忠実ないい構えだ。
本気で来なさい」
ヤオ子は頷くと、先に仕掛ける。
ガイの懐まで入り、突きを出す。
(いい突きです! ヤオ子さん!)
ガイは半身でヤオ子の突きを躱す。
だが、ヤオ子の攻撃は続く。
突きから裏拳へ。
反転して下段への蹴り。
それらを全て躱される。
(あれ?
変だな?
何で、当たらないの?)
ガイに向かうパンチも蹴りも全て躱される。
リーとの修行で基礎が出来たはずの体術が当たらないのは納得できない。
(基礎を覚えて、攻撃は最短距離を真っ直ぐに進んでるはず!
目標に向かう時間だけを考えれば、明らかに早くなってるはずなのに!)
やがてヤオ子は攻め疲れて息が切れると、両膝に手を着き頭をもたげる。
「おかしいです……。
体術習ったのにかすりもしない……」
「お終いか?」
ヤオ子は両膝にてを着いたまま、顔を上げる。
「作戦タイムはありですか?」
「なしだ」
「じゃあ、ギブアップ!」
「諦めの早い子だな」
ヤオ子は地団太を踏む。
「だって!
一発も当たらないんだもん!
こんなのつまんない!」
(子供だな……)
ガイは腰に手を当てリーに話し掛ける。
「リーよ。
フェイントの類は教えていないのか?
まだ、筋力の足りていないヤオ子君は、
スピードが完全ではないからオレには当たらんぞ」
「ガイ先生。
まだ、教えてから数日ですので基本だけです」
「それもそうか。
ただ、どれもいい動きだった」
「そうなんですか?」
「オレが簡単に躱せたのが証拠だ」
ヤオ子は首を傾げる。
「何で、躱されていい動きなんですか?」
ガイは腕を組んで頷く。
「うむ。
リーに体術を教えたのはオレだ。
つまり、リーの体術の癖は全て把握している。
故にヤオ子君の動きは全て予想出来る」
「……当たらないわけです」
「しかし、それを正しく予想出来たということは、
リーの教えをしっかりと体現していたということになる」
「なるほど。
さすがガイ先生です。
・
・
口癖が移った……」
ヤオ子は肩を落とす。
その前ではガイがリーに声を掛けていた。
「リーよ。
しっかり自分を見つめ直しているようだな」
「ありがとうございます! ガイ先生!」
「では、続きだ」
「へ?」
顔を向けたガイに、ヤオ子は顔を顰める。
「いくらやっても、
当たらないじゃないですか?」
「何を言っている。
今度は、受け側だ」
(それを回避したいんです。
手加減知らずだから……)
ヤオ子が嫌そうな顔をしていると、リーがガイに声を掛ける。
「ガイ先生。
お願いがあります」
「何だ?」
「ヤオ子さんは、組み手は初めてです。
ボクが相手を出来ないので型しか知りません」
「そうか。
では、防御も知識しかないのか」
「はい。
だから、慣れるまでは、
普通の人でも見えるスピードでお願いします」
「分かった」
(……何か変な言葉が入ってなかった?
普通の人でも見えるスピード?
何それ?
どういうこと?)
ガイが構えを取ると、疑問符を浮かべていたヤオ子も慌てて構える。
「問答無用ですか……」
攻め手受け手が替わり、体術の模擬戦が再開される。
ガイがヤオ子に攻撃を仕掛ける。
上段の突き……。
「はう!」
拳がぶつかった後に顔面を防御。
下段の足払い……。
「あいた!」
脛に当たった後にジャンプ。
腹への掌底突き……。
「げふ!」
もろに入った後にバックステップ。
「ヤオ子……」
「……はい?」
「この大馬鹿ヤロー!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「った~~~!
最後のが一番痛かった!」
「何だ! 今のは!」
「ガイ先生の真似……」
「ヤオ子さん……。
全然出来てませんよ」
「だって!
さっき、あたしの攻撃を予想できるって!」
ガイが呆れた顔で口を開く。
「君は、馬鹿か?」
「どうして?」
「オレが予想してるのは攻撃に移る前だ!
攻撃された後で防御して、どうする!?」
ヤオ子は両手の人差し指をチョンチョンとくっ付け、上目づかいになる。
「でも……。
予想するなら、しっかり見ないと……」
「見過ぎだ!
君は、相手が拳を振り上げた時、どうする!?」
「逃げます!」
「馬鹿ヤロー!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「手で防ごうとするだろう!」
「まあ……。
咄嗟のことなら」
「なら!
何で、防御がそれより遅れる!」
「…………」
ヤオ子が顎の下で指を立てながら、首を傾げる。
「そうですね?」
ガイがリーに振り返る。
「リーよ。
この子は、本物の馬鹿なのか?」
「ボクも始めはおかしいと思ったのですが、
どうもヤオ子さんは、頭で納得してからでないと
行動に移れないような癖があります」
「どういうことだ?」
「そうですね……。
最初に突きの型を教えたんですが、
納得いかないといつまでも同じことを繰り返します。
壊れた鳩時計のように……。
始めは足から腰までで、しばらく止まってました」
「……変な子だな」
(そして、リーよ……。
お前は、随分と粘り強いな)
リーがヤオ子に話し掛ける。
「今度は、何が納得いかないんですか?」
「え~と……ですね。
あたしは防御の型を、
今、頭で考えてから実行しています」
「はい」
「それを選択する情報を揃えているうちに
ガイ先生の攻撃が来る感じなんです。
それで、しっかり見て攻撃を予想するとああなります。
・
・
ガイ先生は予想してから動いているのに、
何で、遅れないんですかね?」
ガイがリーの話し方を参考に質問する。
「ヤオ子君。
君は、オレの攻撃を突きと判断するのを
何処で予想しているのかな?」
「え~と……。
腕が伸び切った時?」
「それじゃあ、遅い。
伸びた時は当たっている。
肩のどちらかが下がった時までに判断してみろ」
(……肩?
そうか……。
普通は、引いた方から攻撃が始まるから……)
ヤオ子は黙って構えを取った。
(何か掴んだか?)
ガイも構える。
ガイが右肩を下げ半身になり、右の拳を突き出す。
「…………」
ヤオ子は止まったまま避けずに、もろにおでこで受けた。
そして、ゆっくり右手を上げて人差し指を立てる。
「もう一回。
今度は、足でお願いします」
(何か……不気味だ)
今度は同じ型から、ガイは右の中断蹴りを仕掛ける。
ヤオ子は、またもろに受ける。
「もう一回」
(だ、大丈夫なのか?)
ガイは戸惑いながら左の拳を突き出す。
今度は、右に飛んで来る拳をヤオ子は左に躱した。
(そうです。
こっちの方向……。
これなら手でも足でも威力半減の上に、
万が一の時は右手で防御出来る。
・
・
予測ってこういうことか……)
ガイは続けて攻撃を仕掛ける。
それをヤオ子は、徐々に躱すか防御することを実行し始める。
「リーよ。
上達しているんだが……。
何だ? この幽鬼のような覇気のなさは?」
「情報収拾に集中していますね。
多分、しばらく反応が返って来ません」
「嫌な集中の仕方だな」
少しずつ情報を集めながら、ヤオ子の防御が上達していく。
ガイがフェイントを入れて右肩を下げて左の拳を突き出すと、それをヤオ子は躱して見せた。
「なんと!?」
(この時は、射程距離で判断……。
左の拳が届く距離なら左手の右足……。
左が動いたら右へ……。
右が動いたら左へ……)
ヤオ子の目に生気が戻って来る。
「なるほどです。
道理で、あたしの攻撃はガイ先生はおろか、
サスケさんにすら当たらないわけです。
あんなに大きく振りかぶって……。
・
・
鴨川会長……。
今なら分かります。
小さく鋭く早くですね!」
ヤオ子がガイの攻撃を受ける側から攻撃する側に変える。
「見えた! 見えたぞ! 水の一滴!
肘打ち! 裏拳! 正拳! うりゃぁぁぁ!」
「この大馬鹿ヤロー!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「素人が攻撃方法を叫ぶな!
丸分かりだ!」
(ヤオ子さん……。
途中まで良かったのに……)
頭を押さえて蹲りながら、ヤオ子は叫ぶ。
「った~~~!
でも! 戦いにおいては叫ぶものでしょ!」
「ヤオ子さん……間違っています」
「その通りだ!
技の名前を叫んでいいのは技を極めてからだ!」
「あ~……。
極めればいいんだ……」
「その通りだ! 見ろ!」
ガイが全力で右拳を突き出した。
風圧がヤオ子のおでこに掛かる髪を吹き上げると、ヤオ子は目を擦り瞬きをする。
「見えない上に風圧が来たんだけど……」
「極めるとはこういうことを言うんだ!」
ヤオ子がリーに振り返る。
「はい。
ボクも出来ます」
「ここにも人間を捨てた人達が……」
「これが出来るようになるまで技を叫ぶな!」
「え~!」
「甘ったれるな!」
ガイのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「ガイ先生……。
もう拳での会話はいらない……。
分かったから……」
「そうか。
聞き分けのいい子だ」
「女子供でも容赦ありませんね?」
「これは愛の鞭だからな」
「当然、テンテンさんも?」
「当然だ」
「……今、無性にテンテンさんに会って、
こいつらの完璧な制御方法を聞きだしたい」
項垂れるヤオ子に、ガイは声を掛ける。
「しかし、リーほどではないにしろ、
中々、見込みがあるぞ」
「はあ……。
ありがとうございます」
「この調子で精進するといい。
・
・
リーよ。
メモ帳は写しを貰って行く」
「お医者さんに見せるだけですから、
お貸ししても構いませんが?」
「そのメモ帳……。
リハビリのためのデータ収拾だけではない。
それを見れば自分の動きが頭に浮かぶはずだ」
ガイは、メモ帳の内容を写し終えるとリーとヤオ子に手を上げて歩き出した。。
(これが何かの役に立てばいいのだが……)
ガイはリーの怪我を完治させる方法を考えつつ、努力を諦めない弟子のことを思った。