== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子が大泣きした日……。
その日は、珍しくサスケがヤオ子の家まで付き添ってくれた。
現在の時間は既に夜であり、ヤオ子は全ての雑事を済ませて自分の家のベッドで天井を見ていた。
(あの時のサスケさんは、とても優しい目をしていました。
・
・
そう感じるのは、普段のドSな一面とのギャップのせいでしょうか?
ただ……あの目に悲しさや複雑な思いも込められていたような気がするんです。
・
・
その目は弟や妹を見ているようでした。
・
・
まさか……。
妹萌えの扉を開かせてしまったとか?
ありえませんね。
・
・
それにしても……。
そろそろ『萌え』と言うのは死語の類ですかね?)
ヤオ子は鼻で笑うと、やがて新術を完成させた疲れのせいで眠りについた。
第16話 ヤオ子とサスケと秘密基地
ヤオ子は、久しぶりにサスケの修行場に朝から顔を出している。
二人揃っているのも本当に久しぶりである。
「サスケさんの修行場か……。
何もかもが……皆、懐かしい……」
「何だ、それは?」
「知りません?
沖田十三?
偉大なるヤマトの艦長さんです」
ヤオ子は胸を張って答えるが、サスケには疑問符が浮かぶことだった。
「なあ……。
ちょっと、いいか?」
「何ですか?」
「ヤオ子の妙な元ネタって、何処から来るんだ?」
「気になりますか?」
「最初は無視してたんだが……。
頻繁に繰り返されると……気になる」
(カカシの覆面の下の素顔のように)
ヤオ子は顎に手を当て考える。
「う~ん……。
どうしましょうかね?
サスケさんには、いつもお世話になってますし」
「ただ答えるだけなのに、そんなに悩むことなのか?」
「ええ。
これは、あたしのプライバシーにも関わるので」
(何でだよ……)
「実は、この前の必殺技も関係しています」
「あれが?」
「はい。
発想を偉大な先生にご教授して貰いました」
「偉大な先生?」
「はい。
冨樫先生と富野先生です」
ヤオ子の会話に、サスケが腕組みして考える。
(先生って言うからには、
アカデミーに在籍している中忍か?
・
・
しかし……。
冨樫も富野も聞いたことのない名前だ。
そいつらがヤオ子に何か吹き込んでいるのか?)
ヤオ子は目を閉じて頷て頷くと、何かを決める。
「特別です。
木ノ葉では、サスケさんが初めてです。
あたしの秘密基地に案内しましょう」
「秘密基地?」
(そこに冨樫と富野が居るのか?
そうなるとガキか?)
サスケは疑問符を浮かべながら、謎のヤオ子の秘密基地に行くことにした。
…
三十分後……。
ヤオ子とサスケは、森の中にある例の古い巨木の前に立って居る。
「この木が、何なんだ?」
「よ~く見てください。
幹に僅かに切れ目があるでしょ?」
ヤオ子の指差す幹に、サスケが手を掛ける。
「確かに」
ヤオ子が木の穴の中に手を突っ込み、紐を引く。
すると幹に隙間が出来る。
「その隙間に手を掛けて上に持ち上げると、秘密の扉が開きます」
「凄い本格的なんだが……」
「苦労しましたよ。
秘密基地の製作期間は二週間です」
(意外とお手軽だな……)
「さあ、どうぞ」
ヤオ子に続き、サスケが闇に閉ざされた巨木に足を踏み入れる。
「暗いな……。
灯りはないのか?」
「今、カーテンを開けますね」
ヤオ子がカーテンを開けると、窓から太陽の光が巨木の中を照らし出す。
瞬間、サスケは絶句して暫く動けなくなった。
ヤオ子は、サスケをチョンチョンと突っつく。
「どうしました?」
サスケは、何も言わずにヤオ子にグーを叩き込んだ。
「いったいなーっ!
何すんですか!?」
「何だ!? この穢れた空間は!?」
そう、秘密基地の中はヤオ子のお宝で溢れている。
「ここが、あたしの秘密基地に決まっているでしょう!」
「ふざけるな!
何が秘密基地だ!
何なんだ! この壁に貼ってある切り抜きと不純な本の山は!」
サスケが指差す先には、壁のお姉さんの切抜きと大量のエロ本の山……。
「あたしの宝物にケチをつけないでください!」
「冨樫か!? 富野か!?
こんなものを集めたのは!?」
「あたしに決まっているでしょう!」
「お前か!」
サスケはチャクラを両手に集中して吸着の能力を付加すると、壁の切抜きと大量のエロ本を余すことなく掻き集める。
「ちょっと!
何してんですか!?」
「ええ~い! どけェーっ!」
サスケが不純物を窓の外へ放り投げると、森の中に如何わしいヤオ子の宝物が舞った。
そして、サスケはチャクラを練り込み、印を結ぶ。
(火遁・豪火球の術!)
不純物が火球に飲み込まれ、空中で灰になっていく。
「ギャ~~~!
あたしの努力の結晶が~~~っ!」
空中には灰が舞い散り、絶叫するヤオ子の横で、サスケはハアハアと息を切らす。
「何をするんですか!
人が二年も掛けてコツコツと集めたものを!」
「お前は、今までの人生の1/4を
あんなもんに捧げたのか!?」
「そうですよ!
いけませんか!?」
「いいわけないだろう!」
「いいじゃないですか……人が何をしようと。
あたしは十八歳じゃないから、本屋に行っても買えないし。
貧乏だから、お金もないし。
木ノ葉中を拾い集めたんですよ!」
サスケは、額を押さえて項垂れる。
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……」
「そんなに怒んなくてもいいでしょ?
あたしは、興味津々なだけなんですから」
「もっと、子供らしい別のことに興味を持て」
「例えば?」
「……オレが女の趣味なんか知るか」
「代替案も提示できないくせに……」
ヤオ子の言葉に、サスケは、今日、すれ違った子供の遊びを何となく思い出す。
「……あやとりなんかが、いいんじゃないか?」
「とっくに極めちまいましたよ!」
ポケットから毛糸の輪っかを取り出すと、ヤオ子は凄まじい勢いで指を動かす。
そして、サスケにバッと突き出しナルトの顔を作って見せた。
「お前……人間か?」
「人間ですよ!
こんなもん毎日やってれば誰でも身につきます!
・
・
まあ、印を結ぶのに応用できたので、
あながち無駄な遊びではありませんでしたが」
(それで、あんなに印を結ぶのが早いのか)
「それより、どうしてくれるんですか!?
あたしの大事なエロ本燃やしちゃって……。
家を燃やされるより、ショックですよ!」
「二度と集めるな!」
「ううう……。
あんまりだ……」
サスケが腕組みをして壁に寄り掛かる。
「それで冨樫と富野は、いつ来るんだ?」
「……はい?
何を言ってるんですか?」
「教わったと言っただろう?」
「ああ。
それなら、あれです」
残りの漫画の山をヤオ子は指差す。
「……まさか」
「ええ。
冨樫先生はH×Hの作者で、富野先生はGガンダムの原作者です」
サスケは頭痛がする思いだった。
誰に教わって忍術を開発したかと思えば、ヤオ子はただ漫画の中からパクって来ただけだった。
とりあえず、サスケは件の本を手に取って見る。
「木ノ葉で見たこともないんだが……。
カバーの素材とか冊子の作りとかも……」
「さあ?
そこを追求されても困りますね」
「木ノ葉のゴミ捨て場は、
異次元にでも繋がってんのか……」
「平行世界かもしれませんよ?」
「本当に頭が痛くなって来た……」
サスケは、本気で頭痛を引き起こした。
それでも、手に取った本をパラパラと捲る。
「詰まるところ……。
ヤオ子は、この本を参考に技を開発したということなのか?」
「はい。
H×Hで技の発想を頂いて、Gガンダムで技の名前を」
(後半いらないんじゃないか……。
そして、パクったの全部じゃないかよ……。
まあ、ガキの発想なんてこんなもんか)
「最終的には『爆殺! ヤオ子フィンガー!』を
石破天驚拳の域まで持っていくつもりです」
「どんな技だよ……」
「貴様に話す舌を持たん!
戦う意味すら解せぬ輩に!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「馬鹿やってる暇はないぞ。
あの術を改良するんならな」
「……了解であります」
サスケが溜息混じりにH×Hの元ネタを確認する。
「これ……印自体は豪火球に少し変更を加えただけなのか?」
「そうです。
実は、チャクラもあまり使わず意外とお手軽なんですよ。
一瞬の爆発なんで、術自体を維持する時間はありませんからね」
「なるほどな……。
それで手を守る盾を作るわけか」
「ええ。
近距離で爆発しますから」
「そうだな……。
じゃあ、まず時限式をやめるか」
「でも……それだとチャクラの盾を作る時間がなくて。
チャクラの盾は結構な量を練り込みますから」
「豪火球の術と同じ発想でいいんじゃないか?
あれは口から出たところを起点としている。
それと同じ様に、手からチャクラを出すところを起点にする」
「だから……盾は?」
「連続で装填すればいい」
「ん?」
ヤオ子は首を傾げた。
「爆発って言っても、
チャクラが爆発するまで時間があるだろう?」
「コンマ何秒かですけど」
「爆発のチャクラと盾に回すチャクラを一回で出し切ればいい。
つまり──。
爆発の印により、チャクラ変換中
↓
チャクラの盾発動
↓
爆発
──を一連の動作でするんだ」
「利便性を考えるとそっちの方がいいですね。
・
・
ただ、練り込むチャクラ量が半端じゃないと思うんですけど……。
だって、二回に分けていたのを一回に纏めるわけですからね」
「そうだな。
最終的な判断はヤオ子に任す。
別の方法が良ければ、また考えよう」
チャクラ量で悩む一方で、ヤオ子の頭の中では必殺技起動のポースが駆け巡る。
(『あたしのこの手が真っ赤に燃える!
勝利を掴めと轟き叫ぶ!』
↓
印を結ぶ。
↓
『爆殺! ヤオ子フィンガー!』
を言うのに好きなだけ溜めを入れられる。
・
・
サスケさんの言う方がカッコイイ……)
結論は、直ぐに出た。
「サスケさんの案で行きます!」
「そうか」
不純な動機で、改良は決定した。
「あと……有効な使い方も考えてみた。
確かに起爆札よりも劣るが、
威力はこれからの修行次第で増すだろう」
「そうですね。
あの術、まだ実験段階で形にしただけですし」
「これからどれぐらい威力が上がるか分からないが、
起爆札ぐらいの威力になったとする。
起爆札は貴重な忍具で乱発できるようなもんじゃない。
ヤオ子の忍術を使えば、相手に誤認させることが出来るはずだ」
「例えば、もう起爆札を使い切った……みたいに?」
「そうだ。
逆に乱発することで相手に起爆札を沢山持っていると疑心暗鬼にさせることも可能なはずだ。
それにより、相手の動きにある程度制限を掛けられる。
・
・
こう考えると全くの無駄ではないだろう?」
「サスケさん……。
ありがとうございます。
何か、やっと努力が報われた気がします」
「ああ」
ヤオ子の笑顔を見て、サスケは少しホッとする。
「じゃあ、外に出て改良するか」
「はい!」
その日の午前中に、ヤオ子の忍術は次のステップに進化した。
…
成果が出たことで一息つく。
今、ヤオ子とサスケは、倒木を椅子に仲良くお昼を取っている。
「サスケさん。
何か随分急ぎで用事を済ませた気がするんですけど?」
「ああ。
明日から中忍試験が始まるんだ。
そうすると、暫くヤオ子に構っていられないからな」
「そうなんですか。
じゃあ、あたしは忙しい時期に迷惑掛けちゃいましたかね?」
「そんなことはない。
今日は軽めの修行にするつもりだった」
「なら、良かったです」
「お前、ちゃんと人を気遣うことも出来るんだな」
「失礼ですね。
あたしだって、毎回毎回暴走しているわけじゃないですよ」
(自覚はあったんだな)
「サスケさんこそ、
中忍試験で暴走しないでくださいよ」
「何で、オレが暴走するんだ……」
「ドSだから」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「このウスラトンカチが!」
「やっぱりドSじゃないですか。
・
・
ところで、何日ぐらい掛かるんですか?」
「試験官の気分にもよるから分からん」
ヤオ子は座った目で聞き返す。
「忍者ってアバウト過ぎません?」
「オレが知るか」
「次に合う時は、中忍かもしれませんね」
「そうだな」
「中忍試験で死んでるかもしれませんけど」
「…………」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「お前は、オレを殺したいのか!」
「冗談ですよ」
「洒落になってない……」
サスケは溜息を吐くと立ち上がる。
「まあ、そういうことだ。
じゃあ、またな」
サスケは、ヤオ子を置いて去って行った。
「中忍か……。
・
・
ん?
下忍から中忍になるのアカデミーに居る期間より短くない?
一体、忍者って、どういうシステムなんだろう?」
ヤオ子の頭の中には、どうでもいいことが駆け巡った。