== 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険 第5話 ==
忍者の姿をしないのも久しぶり。
シャツにジーンズ。
ジーンズの下に重り入りのレッグウォーマー。
黒子に借りたベルト。
道具入れにホルスター。
靴だけは、木の葉使用。
見た目は、どっかのヤンキーのねーちゃん。
「額当ては、置いてこ」
学園都市は、学生の街。
授業を受ける学生が学校に行けば、街は意外と静かだ。
ヤオ子は、お弁当を片手に街に繰り出す。
「街に出れば、寮監さんに迷惑を掛けることはないです」
目的は、特にない。
強いて言うなら、街の調査。
時々、目につく地図を頼りに街を駆け回る。
「新しい出会いの予感……」
もとい、新しいトラブルの予感。
…
学園都市の監視カメラが妙なものを映し続けていた。
片方の手に弁当箱を持ち、片方をジーンズのポケットに突っ込む。
揺れるポニーテール。
その変な少女が一定の早さで走り続け、一定の時間で次の監視カメラに映る。
おかしいのは、障害物を気にせずに直進しているように見えること。
ヤオ子は、朝からの探索を引き続き続けている。
「恐ろしいほど正確な地図ですね。
一定の速度で走っている自信があるから、
時間と速度で距離が分かる。
・
・
ここにある地図は信用出来る。
能力者が居るという割には無警戒?
いや、ルールが違うんでしょうね。
だったら、ここのルールに従うべきでしょう」
ヤオ子は、一人納得すると、近くにあるはずの公園へと向かう。
「さすが」
正確な地図に記された公園のベンチに座る。
時間は、そろそろお昼時。
お弁当を食べるには丁度いい。
「…………」
しかし、目の前に行き倒れた人。
「子供が死体ごっこでもしているんでしょう。
シスターのコスプレなど。
色も黒じゃなくて白だし。
そんな間違いも子供らしいです」
「…………」
無言で視線を向けられた。
ヤオ子は、お弁当を仕舞う。
「場所を変えるか……」
「無視して行っちゃうつもりなのかな?
わたしは、助けてって視線を送ってるつもりなんだけど」
「無視して行っちゃうつもりです。
人間話せるうちは、まだ限界じゃありません。
頑張ってください」
「待つの!」
這いずって来て、足を掴まれた。
「何ですか?」
「助けて欲しいんだよ」
「立てない?」
「お腹が減って行き倒れてるの」
シスターの視線は、ヤオ子の片手にあるお弁当。
ヤオ子は、指を差す。
「見えますか?
あれは蛇口と言って、捻ると水が出るんです。
水を飲んで腹を膨らましてください」
「…………」
涙目で睨まれた。
「あたし、お金を持っていないんですよ。
居候の身で、お金を少し頂いていると。
今日は、お弁当を作る機会があったので、
お金を貰っていません。
ユー アンダースタン?」
「わたしがこのまま死んだら、
あなたのせいなんだよ!」
「じゃあ、あたしが必要不可欠の栄養を摂取出来なくて死んだら、
あなたのせいなんですよ?
おうちの人は?」
「とーまは、またお昼を作り忘れたんだよ!」
「誰?」
「かみじょうとーま!」
「過剰なトンマ?
はあ、そのトンマのせいで飢えていると?」
「そう!
だから、お腹一杯ご飯を食べさせてくれると嬉しいな♪」
満面の笑顔。
「その笑顔に騙された人も多そうですね。
しかし、その要求には応えられません。
あたしも栄養を摂取しないといけないので、
半分こならいいですよ」
「うん!」
シスターは、立ち上がるとベンチに腰掛けた。
(意外と元気じゃないですか……)
ヤオ子は、溜息を吐きながらシスターの隣に腰掛けた。
…
弁当箱の蓋を開ける。
半分はご飯、半分はおかず……という姿を確認する前に弁当箱が消えた。
「へ?」
「この卵焼きは絶品だよ!」
シスターが弁当箱を抱えていた。
「この一口ずつに区切ってるご飯も食べ易いかも!
この焼き魚もいい塩加減!
和洋折衷で大満足なんだよ!」
「あたしの分は?」
「ご飯が半分……かも?」
戻って来た弁当箱には、白いご飯が半分。
「これを半分こと言うんでしょうか……。
何をおかずに食べればいいんでしょうか……」
「少し足りない……」
ヤオ子は、溜息を吐く。
「残りも食べます?」
「いいの?」
「ええ、まあ……」
シスターは、残りのご飯を食べ始めた。
「何か『朝ご飯を食べてごめんなさい』って、気になって来ました……。
朝ご飯は、食べたんですか?」
「時間がなかったから、中途半端だったかも……」
「中途半端ですか?」
「とーまは、学校に行くから、
朝は時間がないんだよ」
「学生さんと二人暮らしですか?」
「スフィンクスも一緒だよ」
シスターは、猫をヤオ子に見せた。
「この猫に餌は?」
「え? あ~!」
「あたしの手持ちは、
もう、ありませんよ?」
「どうしよう……」
ヤオ子は、またまた溜息を吐く。
「ダメな飼い主に同情します。
うちは、近くですか?
冷蔵庫の材料を使っていいなら、何か作りますけど?」
「ホント!?」
「うちに入る許可と冷蔵庫の材料の使用許可を頂けるなら」
「もちろん!」
ヤオ子は、疑問を抱いて頬をチョコチョコと掻く。
「少しいいですか?」
「何?」
「その住人の方に
『知らない人を家に入れないように』
と言われてませんか?」
「言われてるけど?」
「あたしは?」
「…………」
シスターは、にこっと笑う。
「お弁当をくれた人!」
「この人、危ないですね……。
『お嬢さん、XXXあげるよ』って言ったら、
確実に付いて行くタイプですよ……」
「こっち!」
ヤオ子が、ちょっと目を離した隙にシスターは走って行く。
「過剰なトンマさんも大変ですね……」
ヤオ子は、シスターの後に付いて行った。
…
件のシスターの住処……。
マンションの一室だろうか?
その一室で、冷蔵庫の材料が料理に変わっていく。
包丁の小刻み良いリズムで適当な大きさに切られ、フライパンと鍋も同時に使用される。
煮込みハンバーグ、野菜炒め、茸の混ぜご飯、杏仁豆腐、etc...。
冷凍と冷蔵出来る料理を幾つか作りあげた。
そして、猫の餌と一緒に、料理がタッパやラップに包まれる。
ヤオ子は、使用した調理道具を洗い終えるとシスターに声を掛ける。
「え~と、シスターさん」
「わたしは、インデックスっていうんだよ」
「そうですか。
あたしは、ヤオ子と呼んでください。
・
・
で、インデックスさん。
電子レンジ料理を覚えてください」
「料理?」
「はい。
作った料理を小分けして、タッパに入れたりラップに包んで置きましたので、
器に移して、レンジに入れて扉を閉めます。
そして、『あたため』のボタンを押してください」
「それで食べれるの?」
「ええ。
計画的に同居している人と食べてください。
そして、こっちは猫の餌です」
ヤオ子が台所の床に餌を置くと、猫が餌を食べ始めた。
「では、インデックスさん。
あたしは、これで失礼します」
「ありがとう。
また、来てね!」
「はい」
(この地域には、二度と足を踏み入れません。
お腹減ったな……)
ヤオ子は、溜息を吐くと寮に戻ることにした。
…
学園都市の学舎の園の外の学生寮208号室……。
そこには、黒子が床に手を付く姿があった。
「どうしたんですか?」
「失敗しましたわ……」
「はい?」
「備え付けのレンジを使った瞬間に、
匂いに釣られて、お姉さま以外の学生が……。
どれがお姉さまの体液の染み込んだおかずか
分からなくなってしまいましたわ……」
「美琴さんは?」
「上機嫌で食べていたところまでは確認しましたが、
それ以降は、ワラワラと……!
私のお姉さまにーーーっ!」
(この人、一体……。
あたしの変態性が霞む人というのも珍しい……)
…
一方のシスターの一室……。
インデックスが同居人に話し掛けていた。
「とーま!
わたしね、今日、料理を覚えたんだよ!」
「料理?」
「ふふ~ん!」
「それは、ちゃんと食べられるものなのか?」
「とーまは、いっつもわたしを馬鹿にして!
許せないかも!
ぎゃふんと言わせてあげるんだから!」
「ぎゃふん……」
インデックスがヤオ子に教わった通りの電子レンジ料理を披露する。
同居人の上条当麻は、台所から響く「チン!」の音に溜息を漏らす。
「今日は、一体何のテレビを見たんだ……」
何が運ばれて来るかの不安が広がる中で、料理が運ばれて来た。
「普通だ……。
普通なのが余計に怖い……」
「とーま、食べよ♪」
「あ、ああ……」
今までの数々の失敗が頭を駆け巡る。
見た目には煮込みハンバーグ……。
それにゆっくりと箸を伸ばす。
「箸でも切れる柔らかさ……。
食欲を誘う匂い……。
ここまで、何も起きてない」
その一切れを口に運ぶ。
(旨い……。
今までにないぐらい旨い……)
「インデックス……。
これって……」
「美味しいでしょ。
じゃあ、もういいよね?
残りは、わたしの分だね」
「え? 待った!
俺の分じゃないのか!?」
「ん?」
「食べられた……。
一口だけでお預けなんて……。
一口も食べない方が、未練がなかった……。
・
・
不幸だ……」
上条当麻は、インデックスに気付かれる前に、料理の出所を発見して口に入れることが出来るのか?