== 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険 第4話 ==
どんな妙な一日があっても、夜が明ければ朝が来る。
来なくていいと思っても来てしまう。
ヤオ子は、朝早く目を覚ました。
「朝修行の時間だ……」
ゴキンッと手首の間接を外し、縛られた縄に隙間を作る。
ゆっくりと縄を外し、再び手首の関節を入れる。
「忍者には縄抜けの術っていうのもあるんですよ。
しかし、あの後、縄で縛られた挙げ句に床で寝かされるとは……。
まあ、側に人肌があったから平気出したけど」
もう一人の犠牲者は、今も悶えて眠っている。
「ああ……お姉さま!
お姉さまったら!
激しい!
激し過ぎますわ!
縄が……。
縄が~!」
「どんな夢を見てんですかね……。
縄に縛られて興奮しながら眠るなんて……」
ヤオ子は、208号室を出た。
…
朝修行のために寮の入り口に向かう。
ヤオ子の前にはインテリ眼鏡を掛けたスーツ姿の女性。
「おはようございます」
「おはよう。
早いのだな」
「はい。
朝の体力作りが日課なもんで。
・
・
そうだ。
少し質問してもいいですかね?」
「構わん」
「外で運動しても迷惑の掛からない場所を教えてください。
もう一つは、料理したいんで調理場を教えていただけないでしょうか?」
「一つ目は、近くの公園でいいか?
もう一つは、帰って来たら教えてやる」
「親切にどうも」
ヤオ子は、寮監の指差した公園へと向かった。
…
途中の道すがら……。
「全然違う世界みたいです。
このビルとかって高過ぎですよね……。
木の葉にも、これぐらいの大木は育っていましたけど、
人工物だと違和感ありますね」
ヤオ子は、公園に着くとプランを変更する。
「人目もあるし、公園での修行は止めよう。
街を探索しよう」
ヤオ子は、瞬身の術で姿を消した。
そして、次の瞬間、ビルの上を飛び回っていた。
…
一方、寮の208号室……。
「お姉さま!
今度は、私がお姉さまを
ぬれぬれのぐちょぐちょに!」
まだ、寝ていた。
…
一時間が過ぎた頃……。
ヤオ子は、寮に戻って来た。
学園都市を瞬身の術を使って飛び回り、チャクラ吸着でビルや壁に張り付き、寮の近くの地図を頭に入れて来た。
「今日の分で、街全体のどれぐらいなんですかね?
人口230万……。
瞬身の術を使って飛び回っても、全体を把握出来ない感じでしょうね。
黒子さんに頼んで地図を見せて貰いますか。
・
・
しかし、里の地図は極秘のもの。
この街の地図は、どうなんでしょうか?」
ヤオ子は、寮監の居る部屋に向かった。
…
寮監は、見た目と違い、意外といい人だった。
一汗掻いたヤオ子に自分の部屋のバスルームを貸してくれ、洗濯機で服を洗ってくれている間に代わりの服も貸してくれた。
少し大きめのシャツの袖をまくり、ジーンズの裾をまくり、ヤオ子は、調理場に向かった。
ちなみに下着は借りていない。
「支配者という感じではありませんでしたね?
黒子さんの誇張表現だったようです。
調理場の冷蔵庫の中身も使っていいということだし、
お弁当箱も寮を出て置いて行った人達の残り物も使っていいということだし、
黒子さんと美琴さんのお弁当を作って、お礼しないといけません」
ヤオ子は、恩を返すために料理を始めた。
ちなみに然る理由から、ヤオ子の雑務能力は無駄に高い。
料理、洗濯、家事、経理、配管工、大工仕事、薬草の調合、etc...。
出来ないことの方が少なかったりする。
トラウマとドSとその場の勢いは、ヤオ子という存在に何処かの万能執事のような何かを刻み付けている。
…
ヤオ子がお弁当箱を四つ持って、寮監の居るところに戻って来た。
「ご親切にありがとうございました。
お礼にお弁当を作りました。
朝食か昼食にどうぞ」
「気にしなくてもいいのだがな。
乾燥機の服は乾いている」
「重ね重ね。
申し訳ありません。
この服は、洗って返せばいいですかね?」
「白井から聞いている。
服の替えがないのだろう?
好きにしていいぞ」
「くれるの?
卸したてみたいですけど?」
「ああ。
朝食の代わりだ」
寮監は、ヤオ子の持っているお弁当を一つ取る。
「いい人だ……。
この人、滅茶苦茶いい人だ……。
ありがとうございます」
ヤオ子は、頭を下げると乾燥機から洗濯物を出し、寮監の居る部屋を出た。
…
寮の208号室……。
ヤオ子が戻ると、黒子と美琴が学校に行く準備をしていた。
「お出掛けですか?」
「ええ、これから学校ですの」
「丁度よかったです。
これ、どうぞ」
「何ですの?」
「お弁当。
黒子さんと美琴さんの分」
「作ってくれましたの?」
「こんなことしか出来ませんから」
ヤオ子は、黒子の側に近づくと声を落とす。
「黒子さんは和食、美琴さんは洋食です」
「それで?」
「女の子同士、食べ比べてください」
「?」
「食べ比べで間接キスです」
「か、間接キス!?」
「美琴さんと体液交換」
「た、体液交換!?」
「このお弁当に黒子さんの欲望を詰め込んだつもりです」
「さすがですわ!
ヤオ子さん!」
ヤオ子は、唇の端を吊り上げる。
「健闘を祈ります」
「頑張ります!」
黒子は、ヤオ子からお弁当を受け取った。
そして、ヤオ子は、美琴に振り返る。
「美琴さんも、どうぞ」
「私にも作ってくれたの?」
「部屋を少なからず占拠してしまっていますし、
料理は得意なんですよ」
「媚薬とか入ってないでしょうね?」
「媚薬? そんな姑息な手を使う人が居るんですか?」
黒子は、無言で視線を斜め下の床に向けた。
「あたしは、媚薬なんて使いませんよ。
何が入っているか分からない危険なものを口に入れさせて、
その人が変な病気になったら、どうするんですか?」
(変な病気?
・
・
ハッ!
黒子は、あの時、飲み干して……!)
「一昔前、目薬に入る成分で眠り薬の役があるって、
飲み物に目薬を混入するのがあったじゃないですか」
「ああ、合ったわね。
そっちの国でもあったんだ?」
「はい。
実際には体に有害なんで、やってはいけません。
そして、媚薬なんて、もっと危ないと思いませんか?」
(……危ない?)
「一時の快楽を求めるだけのために、
子供が産めない体になってしまったら、取り返しが付きません」
(……子供が産めない?)
「うあぁぁぁ!」
「黒子!?」
「黒子さん?」
黒子がお弁当をベッドに置くと、美琴に凄い勢いで迫る。
「お姉さまぁぁぁ!
黒子は! 黒子はぁぁぁ!
あの時、全部飲み干してしまいましたぁぁぁ!」
「あ、あの時?」
「プール掃除の時ですわ!」
「あ、ああ……あれね」
(あの最悪なパソコン部品……)
「どうすればぁぁぁ!?
このままでは、お姉さまの子供を産む事がぁぁぁ!」
「落ち着け!」
美琴のグーが、黒子に炸裂した。
「女同士で子供を産める訳ないでしょう!」
「ここの街の機能を使えば、イケんじゃないですか?」
「その通りですわ!
黒子は、そういう能力者を探し出して、
お姉さまの子を宿しますの!」
「どんな能力者だ!」
美琴のグーが、黒子に炸裂した。
「兎に角、私の体はぁぁぁ!」
「朽ちた方がこの世のためなんじゃない……」
「冗談なんですけどね?
そんな副作用のあるものを正規品で売ってれば、
訴えられてニュースに流れてるはずですし」
「冗談?」
「美琴さんが振ったから、
少し表現を変えて注意を促しただけです。
まさか、黒子さんが媚薬を飲んでいるなんて……ねぇ?」
「冗談で言っていいことといけないことがありますの!
私は、お姉さまの子供を産めない体になったと思ったのですわよ!」
「話が戻ってます。
女同士で、人間の範疇を超えたことを望まないでください」
「お姉さま!
お姉さまも、何とか言ってくださいまし!」
「わたしは……。
一度だって、あんたとそういう関係を持つ気はないわよ!」
美琴のグーが、黒子に炸裂した。
「黒子さんって、想像妊娠とかしそうですよね?」
「本当よ……」
「その時に電話する美琴さんの姿が、
ありありと想像出来るんですけどね」
(『黒子ーっ!』
『お姉さま……。
じ、陣痛が……。』
『…………。』)
美琴は、がっくりと肩を落とした。
「お二人共、時間は大丈夫ですか?
朝食は、どうするんですか?」
「「あ」」
三人は、朝食を食べに向かう。
「ところで、お姉さま」
「何よ?」
「これだけ騒いで、
寮監が何も言わないというのも珍しいですわね?」
「そう言えば……」
「嵐の前の静けさでなければよいのですが……」
「怖いこと言わないでよ……」
話が中々進まない最初の説明の多い部分を含んだ朝だった。
そして、寮監は、ヤオ子のお弁当に舌鼓を打っている最中だった。