== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
復興した木ノ葉隠れの里。
そして、新しい火影。
また訪れる中忍試験。
各国の交流を深めるイベントは何度目だろうか。
そして、サスケとあの少女が木ノ葉隠れの里を出て、何年経ったのか……。
第116話 ヤオ子の八百屋
中忍試験本戦……。
かつて、戦っていた闘技場を見下ろし、若き火影は付き人の青年に話し掛ける。
「ねーちゃんは、どうしてんだ?」
「お姉ちゃんは、相変わらずです。
ルイーダの酒場をしていますよ」
「相変わらずか……」
青年の返す言葉に、ナルトは可笑しそうに笑っている。
「ホント。
お前が、ねーちゃんと正反対の性格で助かったってばよ。
デタラメの真逆──常識人で普通でよ」
「その普通っていうのは、褒め言葉なんですか?」
「褒め言葉だよ。
馬鹿なオレが、判断の基準にするのはヤクトだからよ。
ヤクトが難しいと思えば、上忍の任務。
普通だと思えば、中忍の任務。
簡単だと思えば、下忍の任務だ」
「ボクの存在って……」
綱手にシズネという付き人が居たように、ヤオ子の弟のヤクトは火影の付き人を務めている。
その項垂れるヤクトに、ナルトは話し掛ける。
「な~に、落ち込むなって。
頼りにしてるってことだってばよ。
・
・
それにそろそろだろ?」
「はい。
サスケさんとお姉ちゃんの息子の登場です」
ナルトと顔を上げたヤクトの視線が闘技場へと向かう。
中忍試験の本戦……そこにはサスケとヤオ子の子供が、本戦まで勝ち上がっていた。
…
木ノ葉の国境付近……。
ここには八百屋がある。
往来のあるここでは、旅人がお茶を飲んでお団子を口に運ぶこともある。
かと思えば、雲隠れの使いの忍がプロテインを買いに来る。
そして、人手が足りなければ、近くの村や町に応援を出したりもする。
しかし、何でも屋以外に、他とは大きく違うところがある。
働いている人間は、異形の者がほとんどであるということだ。
この八百屋には、大蛇丸の実験体だった者や忍の遺伝的血継限界で姿が変わってしまった者が多く働いている。
そして、今日も異形の者が八百屋を訪ねる……。
「すまない……。
ここに来れば、こんなオレでも忍として働けると聞いたんだが……」
そう、ここは忍を諦めきれない異形の者が集う場所。
店先でお客の相手をしていた者が、八百屋の奥に向かって大声で叫ぶ。
「女将さん!
また来ましたよ!」
「は~い」
奥から現れたのは、十代を思わせる少女だった。
長い茶色の髪をポニーテールに束ね、黒のトレーナーにロングスカート……そして、エプロンを着けている。
異形の者達を相手にするには相応しくない少女の姿に、異形の者は暫し言葉を失った。
少女は腰に手を当て、話し掛ける。
「状態的にはⅡですかね?
木ノ葉でちゃんと診療を受ければ、元の体に戻れると思いますよ」
「ほ、本当か!?」
「ええ。
綱手さんを始め、いい医療忍者が頑張っています」
「オ、オレは忍者に戻れるのか?」
信じられずに聞き返す異形の者に、女将さんと呼ばれた少女が微笑む。
「今でも忍者でしょ」
「!」
姿を変えてから一人として認めて貰えず、自分が何者かを問い続けていた。
だけど、少女は『今も』と疑わなかった。
異形の者が涙を流す。
「その言葉を…言って欲しかった……」
「まだ、どれぐらいで治るか分かりませんよ?
でも、頑張りましょうね。
・
・
少しお話を聞かせてくれますか?
木ノ葉に連絡をしないと」
異形の者は頷き、涙を拭う。
「女将さん……。
あなたの名前は?」
「ヤオ子です」
ヤオ子と異形の者は、ヤオ子の案内で八百屋の奥へと向かった。
…
何故、こんなところに八百屋が建てられたのか?
実は言いだしっぺは、ヤオ子だった。
ヤオ子自身が里を出て大蛇丸の実験体を直接目にしたこと……。
彼らが忍の誇りを大事にしていたのを知ったこと……。
これらが大きく関わってくる。
北アジトで会った多くの実験体は、姿は違えど、中身は普通の人と変わらない。
それは身をもって知り、ヤオ子は放っておけないと前々から思っていた。
そして、木の葉で
”自分達の里から里抜けした大蛇丸が原因になっている実験体をどうするか?”
という議題が上がった時に閃いた。
「全部、治せばいいじゃん!」
医療忍者を多く育成し、綱手という医療忍術のスペシャリストの居る木の葉で治療すればいいのだと。
そして、思い立ったら直ぐ実行。
ヤオ子は国境に彼らが身を寄せることが出来る駆け込み寺──ヤオ子の八百屋を作ったのである。
…
ヤオ子は、異形の者を奥に案内する。
店頭の八百屋を抜けると、行動生活のできる大きな旅館のような造りが店の奥へと続く。
店の奥は清掃も行き届き清潔感があり、何より生活の匂いがある。
そして、すれ違う者は、皆、明るくヤオ子と挨拶を交わす。
「ここは変わっているな……。
何処か温かい……」
「そうですね。
皆で自給自足しているからですかね?」
店を抜け、裏口の垣根を越えると、今度は広大な畑が広がった。
「やっぱり、これだけの人数ですとね……。
大名からの援助だけじゃ生活できなくて」
「それで自給自足の共同生活をしているのか?」
「はい。
楽しいですよ♪」
(楽しい?
こんな姿をしているのに?)
「皆で、新鮮な野菜を作って売るんです。
鍬なんかも自作します」
「誰が作るんだ?」
ヤオ子は自分を指差す。
「あたし」
「は?」
「こう見えても、雑用は得意なんです。
配管整備も出来るし、家だって建てれますよ」
(この人、忍者なのか?)
「ここら一帯は、あたしが造った街みたいなもんですね。
最近は、大名の援助を加えると黒字に転換して来ました」
「やり過ぎでしょう……」
ヤオ子は可笑しそうに笑っている。
「はい。
でも、皆も成果が出るの楽しいらしいですよ?」
異形の者は、周りを見る。
そして、何でここが温かいのかが分かった気がした。
この少女を中心に気持ちが一つになっているのだ。
「一つ質問してもいいか?」
「はい」
「忍の仕事は、出来るのか?」
「微妙ですね。
依頼主がOKを出せば連れて行くんですが、依頼件数が少ないのが現状です」
「そうか……」
「でも、修行はしてますよ」
「え?」
「サスケさんが鍛えています」
「サスケさん?」
「ここに来る時に心配だからって一緒に来てくれた、あたしの旦那さん」
「だ──あんた、幾つだ?」
「幾つに見えます?」
「十七、八?」
「えへへ……。
年齢は秘密です。
女の魅力を際立たせますからね。
・
・
でも、ヒント。
十二になる息子が居ますよ」
「へ~……」
異形の者が蹲る。
(おかしい……。
実年齢が計算できない……)
ちなみに、木ノ葉の実家の本店では、未だに母親がヤオ子と間違われる。
変態の遺伝子は、老化の法則さえ超越する。
畑を抜け、整地された屋根つき広場に、ヤオ子は異形の者を案内する。
そこには何十人という異形の者達とサスケが汗を流していた。
サスケの服装のイメージは、ヤオ子と違って、それ程変わっていない。
ただ、ヤオ子の指摘で紫の綱みたいな腰紐が白の帯に変わり、上はTシャツと少し楽な格好になっている。
「サスケさ~ん!」
「ヤオ子か……。
・
・
休憩にしていいか?」
サスケが相手をしていた異形の者達に声を掛けると、異形の者の一人から返事が返る。
「旦那さん……。
休憩時間はとっくに過ぎてますよ……。
いい加減、女将さんが来るまで修行を続けるクセを直してくださいよ……」
「……じゃあ、休憩だ」
サスケが修行の終わりを告げると、異形の者達はヘタリ込んだ。
休憩所を兼ねる入り口近くにサスケは向かい、ヤオ子に声を掛ける。
「どうした?」
「新しい人。
多分、二、三日で自分の里に帰っちゃうと思うけど」
「そうか。
・
・
変わったところだろう?」
「ああ。
正直、驚いている」
「前は、もっと大所帯だったんだ。
木ノ葉の医療部隊が大蛇丸の実験体の酵素を解明する度に、皆、自分の里に戻って行く。
ここに残っているのは、重度の改造を受けた者がほとんどだ」
「こんなところがあったなんてな……」
「まあ……。
街みたいにでかくしたのは、そいつだけどな。
打ち解けたアイツらと、どんどん開拓していった」
(本当なんだ……)
「明日にでも、木ノ葉に行ってみてくれ。
連絡は入れておく」
「すまない……」
サスケは休憩所にあったタオルで、汗を拭う。
「案内は、息子がする」
「息子さん?
そういえば、女将さんも……」
「息子は、今、中忍試験を受けているんだ」
サスケは近くの椅子に腰を下ろすと、異形の者にも座ることを勧める。
異形の者は勧められるまま、椅子に腰を下ろす。
そして、サスケに扱かれていた異形の者達にお茶を入れ終えたヤオ子が、サスケ達のところにもお茶を持って来た。
異形の者がサスケに話し掛ける。
「中忍試験受かるといいな」
サスケは、ヤオ子から渡されたお茶を啜る。
「まあ、落ちないだろう」
「そうですね」
「アカデミーの成績がいいのか?」
「実技以外は、満点ですね」
「いや、実技は……」
「真ん中ですね」
「それで、何故、受かると?」
「今回は、本気で戦っていいって言ってあるからな」
「は?」
「サスケさんは、スパルタなんです」
「お前こそ、純真な息子を騙して」
(この二人は、実の息子に何を?)
異形の者に疑問が浮かんだ。
…
本戦の闘技場に、いかにも緊張しているのが分かる少年が姿を現す。
今日のために母に新調して貰った服の背中には、うちはの家紋がしっかりと入っていて、服装は、父とお揃い。
いつもと違う格好に少し照れながら、少年は会場を見回していた。
ナルトは、その少年の姿に声をあげた。
「はは……。
丸っきりサスケのガキの頃だってばよ!」
「はい。
ただ、光の加減で、時々茶色に見える髪がお姉ちゃんを思い出します」
ナルトは期待を込めて、ヤクトに訊ねる。
「アイツ、どうなんだ?」
「どう……というと?」
「強いのか?」
「……普通かと」
「普通?
・
・
何か信じられねーってばよ」
信頼を置くヤクトが本戦までの経過を見て言うのだから、間違いはないはずだった。
だが、ナルトには、どうも引っ掛かる。
ナルトは闘技場の少年に目を移した。
…
観客席では、ナルトの同期の仲間も同じことを言っていた。
シカマルが、先に切り出した。
「何か納得いかねーんだよな。
今までの試験もギリギリっつーか……」
「そんな感じだね」
チョウジが相槌を打つ。
そして、いのが話をぶった切る。
「そんなことより!
何で、サスケ君とヤオ子の子供が、もう中忍試験に出てるのよ!」
「お前、知らねーのか?
里出て、直ぐに子供産んだんだよ」
「おかしいでしょ!
サスケ君は、兎も角!
ヤオ子なんて、逆算すると未青年真っ只中じゃない!」
「一説によると……。
ヤオ子が夜這いを掛けたとか……」
「何で、女の子が夜這いを掛けるのよ!」
「知らねーよ!
めんどくせーな……」
同期の面々は苦笑いを浮かべている。
ヒナタが、キバに声を掛ける。
「キバ君。
試験官の手伝いをしてたんだよね?
どうだったの?」
「あ?
・
・
う~ん……。
シカマルの言う通りかな?
何か実力で切り抜けると言うよりは、ヤオ子みたいに発想で切り抜けたみたいな感じだった」
「そうなんだ……」
話を聞いていたシノの顔が険しくなる。
「性格は、ヤオ子に似ているのか……。
将来が心配だ……。
何故なら、ヤオ子は里で迷惑を掛け続けていたからだ……」
「シノ。
安心しろ。
性格は、サスケに似ているよ。
・
・
アカデミーに入学したての頃のな」
「そんな昔のサスケか……」
少し離れた席で、リーがネジに話し掛ける。
「話が聞こえて来ましたが、
どんな忍に成長したんでしょうか?」
「さあな。
だが、さっき白眼で観察した感じだと、経絡系がしっかり発達していた。
相当の修行を積んでいるはずだ」
ネジの意見を聞いて、テンテンが割り込む。
「本当に経絡系が発達してるの?
だったら、今までの試験は何なの?」
「分からない。
実力を隠していたのかもしれないな」
「ギリギリだったんでしょ?
隠してる場合じゃないじゃない」
「そうだが……」
そして、第七班の方々の意見。
カカシの否定意見。
「そんなはずがない。
あのドSのサスケが、息子に甘い教育をするわけがない」
ヤマトが、別の意見でフォローする。
「先輩。
もしかしたら、ヤオ子がもの凄い過保護に育てたのかもしれませんよ?」
サクラの反対意見。
「それはないです。
結局、ヤオ子はサスケ君になびくはずです」
サイが、サクラの意見に付け足す。
「サスケが弱点なのは、夫婦になってからも変わらないからね」
カカシが思い出し笑いをする。
「兎に角、これを見れば分かるさ」
闘技場では、二人の少年が向き合っていた。
…
対戦者の少年から、サスケとヤオ子の子供に向けて、強い言葉が浴びせられる。
彼は、常に木ノ葉のアカデミーで優位に立っていた存在だった。
「イタチ。
今日のために、そんな派手な服を着て来たのか?」
「少し恥ずかしいんだけどね。
大事な日だからって、母さんが作ってくれたんだ」
「手作りかよ?
どうせ負けるのに」
「そうかもしれない……。
でも、今日は本気で戦う!」
「いつも本気だったじゃないか?」
審判が二人の会話を止め、二人に距離を取らすと手を上げる。
「始め!」
イタチの友達が腰の後ろからクナイを取り出し、構える。
「え?」
彼は、イタチの姿を見失っていた。
ほんの一瞬、クナイを持つために視線を外した瞬間に……。
…
ヤオ子がお茶を啜る。
「サスケさんをスパルタって言ってたのはね。
国境のここから木ノ葉まで、毎日走って通わせてるからなんですよ」
「は?」
「お前だって、かなりのスパルタだろう。
『アカデミーの子は、皆、着けてる』って、
両手両足に重り着けさせやがって。
アイツ、本当に信じて、毎日着けてるぞ」
「は?」
「「どう思う?」」
「あんたら、夫婦がおかしい……」
異形の者の口からは、正論が漏れた。
…
イタチの瞬身の術に、全然付いていけない。
イタチは体を止める動きと体を反転する動きを利用して、的確な手刀を相手の首の裏に入れた。
イタチの友達は気付く間もなく意識を失い、前のめりに倒れた。
「……あれ?
受け止められなかった?」
イタチは呆気なく倒れた友達に首を傾げた。
重りを外した自分の速さが、相手を遥かに凌駕していることを知らなかったのである。
審判は、直ぐにイタチの勝ちを宣告した。
…
僅か数秒で終わってしまった戦いに、シカマルが一筋の汗を流す。
「オイオイオイオイ……。
何だ? あの動きは?」
「不覚にも見えなかったよ……」
カカシは、シカマル達の反応を見た後で苦笑いを浮かべる。
「やっぱり、サスケとヤオ子の息子だよ。
あの体捌きは、サスケそっくりだ。
相当、サスケに鍛えられている」
「それにヤオ子の勤勉性が加わったら、どうなるんですか?」
ヤマトの質問に、カカシは腕を組む。
「あの調子だと、写輪眼ぐらいは使えそうだな」
「あの子……。
ヤオ子の血継限界を受け継いでいれば、全ての性質変化も使えるんですよね?」
(本当にサスケの兄であった、うちはイタチの再来かもしれんな……)
カカシは新たな世代に微笑んだ。
そして、この日、各国にイタチの名前は知れ渡った。
…
夕方……。
国境の八百屋の和室で、サスケとヤオ子は一緒にお茶を飲んでいた。
そこに元気のいい足音が近づく。
ヤオ子は、その正体に気が付くと笑顔で手を広げて、スタンバイOKの状態を作る。
そして、勢いよく障子が開くと、イタチは父親であるサスケに抱きついた。
「何故?」
イタチ……お父さん大好き。
ヤオ子は、体育座りでのの字を書いている。
「優勝したよ!」
サスケは、イタチの頭を撫でながら声を掛ける。
「……さすが、オレの息子だ」
(ただ、優勝という概念は中忍試験にはなかった気が……)
「母さんが言ったみたいに優勝カップがなかったのが、不思議なんだけどね」
(不思議じゃない……。
アイツ、どれだけの嘘を吹き込んでんだ?
・
・
そして、イタチ……。
お前は、そろそろ疑うということを覚えろ)
イタチは満面の笑みを浮かべ、釣られるようにサスケも笑顔を浮かべる。
サスケは、イタチの背中を叩く。
「母さんが拗ねてるぞ」
「うん!」
イタチは、続いてヤオ子に抱きついた。
「やっと、あたしにもスキンシップを……。
あん……。
イタチさんの意地悪……」
ヤオ子は、イタチを抱いた後で背中を向かせる。
「やっぱり、うちはの家紋が似合っていますね」
「そう?
少し恥ずかしかったよ」
「どうして?」
「父さんみたいに立派な忍じゃないから」
ヤオ子は指を立てる。
「サスケさんと一緒のレベルで中忍試験受けたら、おじさんになっちゃいますよ?」
「そっか」
ヤオ子は、サスケ、イタチと可笑しそうに笑い合った。
まだまだ波乱が起きそうだが、ヤオ子の八百屋では笑いが絶えることはないないだろう。
この八百屋には、ヤオ子が居るのだから。
…
サスケと間違って出合った変な少女の物語は、これで終わり。
少女は、最初から最後までサスケの味方であることを貫いた。
だけど、結局、最後は自分の気持ちを抑え切れずに約束を破ってしまった。
しかし、それはある意味、デタラメな少女らしいのかもしれない。
一言で言うと……。
本人曰く、この物語は……。
『八百屋のヤオ子さんが、サスケさんを健気に待ち続るはずの物語』だったらしい。