== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
第四次忍界大戦が始まる……。
忍五大国を筆頭にうちはマダラの率いる敵との戦い……。
マダラが戦力不足で手を組んだのは、かつて大蛇丸の部下だった薬師カブト。
口寄せ・穢土転生で呼び出されるのは、かつての英雄クラスの忍達。
そして、もう一つの決定的な弱点。
薬師カブトが所持している各里の忍達の情報。
これにより、サスケが危惧していたことが現実になっていた。
第112話 ヤオ子とサスケの戦い・最後の戦い編
戦場は広大な荒野……。
先陣で指揮を執る五影のうち、火影である綱手だけは後方に配置されている。
戦場の全体が見渡せる小高い丘に敷かれた陣地……。
忍連合軍の要である医療忍者を多く抱える木ノ葉の重要性は高い。
次々に運ばれる犠牲者に、既に木ノ葉の陣地は溢れ返っている。
そして、戦場全てを見渡せる場所で綱手は、奥歯を噛み締めていた。
「雷影は、何をしている!」
各国の連携が取れていない。
各性質の軍隊が固まり、それをカブトの口寄せ・穢土転生で呼び出された過去の忍達にいいように弱点を突かれている。
「あれでは烏合の衆の集まりだ!
・
・
……サスケの言った通りになった。
最初は、連携が取れていたのに口寄せされた自国の忍が投入されたことで、自分の居る里の忍に戻された……」
そう。
最初は忍連合軍として連携が取れ、各国の主要な忍をマダラのところまで送り届けていた。
しかし、カブトの口寄せ・穢土転生によって呼び出された自国の英雄の出現で動きが変わった。
ある者は、自国の英雄を他国の忍に倒されるのを嫌い……。
ある者は、尊敬するが故に攻撃できない……。
過去の忍達が現れることにより、忍連合軍の忍から自里の忍に戻っていく。
「このままではナルト達に繋がる補給や増援がいつか途切れる……」
綱手がタスケに視線を向ける。
「本当はナルト達への道が確保できてから、呼び出すつもりだったが……」
「ここから呼び出すのか?
小隊一つ増えたところで変わらないと思うがな」
「戦況が変わることなど、期待はしていない。
今はナルト達への道が消える前にサスケを送り届けるのが優先だ」
「……分かった」
タスケがチャクラを練り込み、印を結ぶ。
「逆口寄せ!
サスケ!
ヤオ子!」
綱手とタスケの前で煙があがる。
そこにはちゃぶ台があった。
「「は?」」
煙が晴れると胡坐を掻いたサスケと正座したヤオ子が、ラーメンの入った器を抱えていた。
綱手の額に青筋が浮かぶ。
「私達が必死こいて戦ってるのにラーメンを食べているとは余裕だな……!」
サスケとヤオ子が顔を見合うと、お互いラーメンを一啜りした。
「「食うな!」」
サスケとヤオ子が仕方なく器を置く。
「何だ?」
「『何だ?』じゃない!
サスケ!
お前、性格変わり過ぎだぞ!」
「そうか?」
(ヤオ子の影響がこんなところに……)
ヤオ子は気にせず、サスケに話し掛ける。
「サスケさん。
三杯目だし止めときましょう。
何か直ぐに動かないといけないみたいですよ」
「そうだな。
腹八分目にしておくか……」
綱手が額を押さえる。
「……こんな性格の奴だったか?」
「戦況は?」
「ちゃぶ台に座ったまま聞くな。
まず、立て」
サスケとヤオ子が仕方なく立つと、イライラしながら綱手が話し掛ける。
「戦況は悪い……。
お前の言った通りになった」
サスケは戦場を見下ろす。
「やはり、こうなったな」
「途中までは上手く機能していたんだ。
しかし、穢土転生で呼び出された過去の忍のせいで自里の意識が高まり、連携が崩壊し掛けている」
サスケは綱手の話を聞きながら、戦場を分析している。
「臭いの元から絶つしかないな……」
「薬師カブトは、水影が相手をすることになっている」
「カブト……。
何故、アイツが穢土転生を使える?」
「大蛇丸の細胞を取り込んでいるからだ」
「大蛇丸?
あの死体から細胞を取り込んだのか……。
・
・
オレは、どうすればいい?」
「先行してマダラと戦っているナルト達までの道が途切れる前に辿り着いてくれ」
サスケとヤオ子が目的地に目を凝らす。
「遠いな」
「そうですね」
サスケとヤオ子が綱手と会話をしていると、後ろから声がする。
『あの家紋……うちはだ』
『本当だ』
『アイツらのせいで!』
元凶は、うちはマダラ。
サスケの服の背にうちはの家紋があれば、誰もが気付く。
そして、謂れのない憎しみがサスケに向かう。
ヤオ子はカチンと来る。
うちはマダラとうちはサスケは別人だ。
しかし、木ノ葉の陣営だけであった憎しみは戦場に広がり、丘の上から見下ろしているサスケに突き刺さる。
不利な戦況が誰かのせいにしたくて、サスケへと憎しみが向かう。
『うちはが居なければ……』
『うちはなんて一族が居たから……』
いつもそうだった。
中忍試験では、見世物のような扱いを受け……。
今は憎しみの捌け口にされる……。
木ノ葉でも一族は隅に追いやられた……。
ヤオ子は知っているから怒る。
「お前らに言っておくことがある!」
ヤオ子は戦場で叫んだ。
…
綱手は、ヤオ子の怒る理由を少なからず知っている。
ヤオ子は、いつもサスケの味方だった。
酔って絡んだ時、少し本音を聞いた。
そして、皆で口を噤んだ事実も胸に抱えている。
ヤオ子は、サスケを指差した。
「あれは、あたしのもんだ!
誰も手を出すな!」
しかし、馬鹿は斜め上を行った。
「いいか!
マダラさんを倒して、今回のMVPは、あたしとサスケさんがいただく!
その時、女共はサスケさんに指一本触れるな!」
戦場で、どうしようもない空気が流れる。
綱手は笑いを堪えることしか出来ない。
誰が予想したか?
戦場での我が侭な発言を……。
『何だあれは!?』
『馬鹿が居る!?』
『ふざけるな!』
憎しみは一気に消えて、ヤオ子への罵詈雑言に変貌する。
「やるなら相手になりますよ!
表に出ろです!」
「お前が黙れ」
サスケがヤオ子を丘から蹴り落とした。
「へ?
・
・
なまぁぁぁ!?」
ズーン!と地面に人型が出来ると、戦場に又もや変な空気が流れた。
『蹴った……』
『蹴り落とした……』
『死んだんじゃ──』
地面から爆煙があがると、ヤオ子が姿を現す。
そして、サスケを指差す。
「殺す気か!
今、強大な戦力が一つ消えるところでしたよ!」
『ノーダメージだ……』
『無傷だ……』
綱手は不思議と笑みが浮かんだ。
確かに今、戦場で何かが変わった。
サスケが丘から飛び降りると、ヤオ子の隣に降り立つ。
「行くぞ……」
「ええ」
ヤオ子が戦闘体勢に入る。
練り上げられるチャクラは少量。
しかし、周りの空気が張り詰める。
つぎ込まれるのは集中力。
ヤオ子は、印を結ぶ。
「変化!」
サスケは、ヤオ子が変化した草薙の剣を握った。
…
丘の上で綱手が疑問符を浮かべる。
「何だ? あれは?」
「さあな。
馬鹿の考えることは分からん。
・
・
水月達も呼ぶぞ」
「あ、ああ」
タスケが、逆口寄せをする。
水月、香燐、重吾が現れる。
「さて。
行きますか」
「そうだな」
「お前ら、しっかりウチを守れよ」
スリーマンセルで戦うのは、打ち合わせ済み。
水月達は、直ぐに戦場へと出て行った。
「挨拶もなしかよ……」
「な、何なんだ?」
小隊・鷹は、自由な忍が多い。
…
サスケが戦場を斜めに走り出す。
ナルト達に向かう方向とは明らかに違う。
向かう先は間違った系統で対抗しようとしている部隊。
雷遁を使う敵に対して、土遁を得意としている部隊に一気に詰め寄る。
「ヤオ子!
風遁だ!」
草薙の剣に風の力が宿ると、一閃して風の刃が飛び出す。
弱点を突かれた過去の忍達が両断され、手助けした部隊の状況を確認するとヤオ子の変化した草薙の剣の柄にある『兵』と書かれた印に触れる。
そこには小瓶に入った兵糧丸が口寄せされていた。
その動作を五回ほど繰り返すと、サスケは手助けした部隊に投げる。
「それでチャクラを回復させろ!
五影の指揮に戻れ!
・
・
土遁だ!
コイツらの苦手な敵を分断する!」
ヤオ子の変化した草薙の剣を突き刺すと、土遁・土流割が戦場の一部を分断する。
そして、サスケは立ち止まることなく、次の敵を求めて移動した。
…
綱手が戦場でのサスケの動きを理解する。
当初取れていた、弱点を突く連携に戻そうとしているのだ。
そのために戦場を分断し、敵の経路を絶つ。
綱手が僅かに唇の端を吊り上げる。
「そのためのヤオ子だったのか……。
サスケめ……。
こうなることを読んでいたな。
だから、ヤオ子に術を覚えさせたんだ」
サスケの狙いは、正にそこにある。
そして、ヤオ子に印を使わないで術を発動させた理由もそこだ。
変化すれば、印を結べない。
しかし、術は印を結ばなくても使える。
その際、印の補助がない分、形態変化を自分で制御しなければならないから、コントロールが難しくなる。
だから、サスケはヤオ子に印を使った術を体で覚えさせた後で、印を使わないで術を発動させる特訓をさせた。
そして、わざわざ遠回りして術を習得するこの行為は、忍に取って限りなく無駄だ。
サスケが謝ったのはこういう使い方をすれば、ヤオ子に意味のない修行をさせると理解していたからだ。
しかし、全ての系統を使えないサスケが、全ての系統を使うにはこの方法しかない。
ヤオ子を変化させないでとも考えたが、それは止めた。
ヤオ子を走らせない方が、ヤオ子のチャクラを温存できる。
これは、二人の意志が疎通しないと出来ない戦法だった。
そして、第二の理由。
ナルトと一緒に戦うまで、サスケ自身のチャクラを温存する。
ナルトに辿り着くまでは、ヤオ子のチャクラしか使わない。
当然、瞬身の術や写輪眼など必要最低限のチャクラは使用する。
更に第三の理由。
巻き返す。
戦場で一人でも多くの忍を生き残らせる。
今は、噛み合わせが悪く不利なだけ。
だが、もし……。
サスケの戦いを見て、当初の戦いを思い出させることが出来れば、再び大きな戦力となり、巻き返すことになる。
だから、一人でも多くの忍を助け、チャクラを回復させるための兵糧丸をバラ撒く。
これの効果が出るのは、再び各国の忍が自分の役目を理解し、五影の指揮に戻った時……。
サスケとヤオ子は、この戦場に居る各国の忍を信じて動いていた。
…
戦場で小さな波が大きな波紋に変わっていく。
次々に作られる壁や川……。
それが味方を誘導し、敵を翻弄する。
サスケの行動が、徐々に成果を上げ始める。
「少しは頭が冷えたか……。
ウスラトンカチども……」
ナルト達、先方隊の距離まで半分近くまで来て、サスケが息を吐き出す。
『サスケさん……』
「分かっている……。
医療忍者の数が減っている。
ここからは、少しやっかいになる。
・
・
単純な系統だけじゃない……。
秘伝忍術を会得した敵が増えている」
後ろを確認すると僅かずつだが連携が戻って来ていた。
それを確認すると、サスケは再び速度をあげて走り出す。
「今度は、余裕がない!
ど真ん中を突っ切る!」
術の性質が分からないため、術よりも剣技が増え始める。
そして、最初は剣技でも十分対抗できたが、徐々にそれだけでは倒せない敵が増える。
「ヤオ子……。
お前のチャクラ……ここで使い切るかもしれない」
『出し惜しみして無駄に使うよりは、遥かにいいです!』
「そうだな……。
・
・
雷遁の血継限界を解放しろ!」
『了解!
猛れ! あたしの妄想力!』
サスケの体に雷遁の鎧……。
刀身に千鳥……。
攻撃力とスピードを一気に上げて、力で敵を捻じ伏せる。
しかし、剣技で倒せる敵は一体ずつ。
進行速度は、格段に落ちる。
それでも見たこともない秘伝忍術をスピードで躱し、千鳥刀で一刀両断する。
そして、仲間の忍を見つけては、兵糧丸、増血丸、医療パックを口寄せして投げる。
「千鳥刀で切り裂けない!」
ある過去の忍を前にサスケの足が止まる。
塵芥で出来た過去の忍は、無表情で襲い掛かる。
千鳥刀がぶつかる瞬間に緑発光するチャクラに弾き返される。
「何だこれは!?」
『物理攻撃が効かないのかも!』
サスケが、切先を敵の忍に向ける。
「任せる!」
『火遁・豪火球の術!』
変化する草薙の剣の切っ先から、火球が放たれる。
しかし、また緑発光するチャクラに弾き返される。
「チィ!
効いてねー!」
『なら!
雷遁のエネルギーを全部千鳥刀に回します!
更に血継限界を使って、威力を二倍にまで引き上げます!』
サスケの体に回していた雷遁の鎧のエネルギーを刀身に回す。
更にヤオ子の血継限界で底上げすると、サスケが切先を向けて大地を蹴る。
「貫けェ!」
雷遁で切れ味を上げた切先と緑発光するチャクラがエネルギーのぶつかり合いで閃光を発する。
鬩ぎ合うエネルギーの勝敗を分けるのは、貫通するために押し出される力。
やがて、切先が僅かに緑発光するチャクラへ入る。
「入った!
オオオォォォ!」
サスケが剣を押し込むと両手持ちに変え、横に振り切る。
更に刀を返し、切り裂かれた箇所から斜め上に切り上げる。
「次!」
サスケは、更に先へと突き進む。
しかし、ヤオ子が警告を叫ぶ。
『サスケさん!
手間取ったから、後ろから来てる!』
「足止め、頼む!」
サスケがヤオ子の変化した草薙の剣を大地に突き刺しながら走ると、追って来た過去の忍達に時間差で円錐が突き刺さっていく。
『タイミング、バッチリです!』
「修行したからな!」
サスケとヤオ子は、敵を置き去りにして先に進んだ。
…
ナルト達のところまであと少し……。
ヤオ子の変化した草薙の剣の刀身には皹が入っていた。
サスケを覆っている雷遁の鎧も発動したりしなかったりと、チャクラ切れの様相を示している。
ヤオ子の限界が近い。
しかし、ナルト達の背中は見え始めている。
サクラの姿も見える。
そして、サクラに向かう敵の忍が見える。
最前線で戦う貴重な医療忍者。
絶対に傷つけるわけにはいかない。
「ヤオ子!
最後の敵だ!
・
・
力を出し切れ!」
『……はい!
血継限界! 火遁!』
刀身が真紅に変わり、高く飛んだサスケが力任せに敵の忍に刃を押し当てる。
高熱を宿した刀身は敵の忍を焼き切っていくと同時に、刀身の皹を広げていく。
そして、刀身は敵の忍を切り裂くと粉々に砕け散った。
…
サクラの前で敵の忍が倒れる。
そして、粉々に砕け散った草薙の剣の刀身が煙を上げて、元に戻っていく。
辺りには茶色い髪の毛が舞い、柄の部分のヤオ子の本体がゴロゴロと勢いよく転がった。
ヤオ子は全身から汗を噴出し、息を切らす。
「ヤオ子?」
サクラがヤオ子に駆け寄ると、ヤオ子はゆっくりと腕を上げる。
「た、確かに届けましたよ……」
ヤオ子の指差す先に、腰の本物の草薙の剣に手を掛けているサスケが居る。
サスケがサクラに声を掛ける。
「待たせたな……」
「うん……。
待ってた……。
第七班で戦える日を待ってた……」
サスケは言葉少なく。
直ぐにナルトの背中に目を移した。
「行ってくる……」
「うん……。
サスケ君…がんばって……」
サスケは兵糧丸を口に入れると走り出した。
一方のヤオ子は、遠ざかるサスケの背中を見て呟く。
「あのヤロー……」
「どうしたのよ?」
「あたしにお礼の一つもなしですよ……。
大事なトレードマークを紛失させといて」
サクラがヤオ子の後頭部を見ると、そこにはいつもあったポニーテールがなくなっていた。
「髪……」
「ええ。
生身の部分を刀身に変えるわけにはいきませんからね。
大事なポニーテールを刀身に変化させていたんですよ。
・
・
しかも、チャクラも全部、あたし持ち」
「うん……」
ヤオ子は顔をサクラに向け、訊ねる。
「……サクラさん。
何で、さっきから泣いてんの?」
「嬉しいから……。
ナルトとサスケ君が背中を合わせて戦う姿を見れたから」
ヤオ子も遠目からナルトとサスケが背中を合わせて戦うのが見える。
仙人モードの維持時間が切れると、サスケが須佐能乎の絶対防御で援護している。
「ムカつきますね。
申し合わせたみたいに息がピッタリで」
「何でよ?
いいことじゃない?」
「あそこに居るのが、あたしじゃないから嫉妬してます」
サクラはキョトンとした後で微笑む。
「だけど……。
あの二人の後姿をずっと見たかったんだ……」
ヤオ子はサクラの顔に微笑むと、兵糧丸を口に入れてガリガリと噛み砕く。
僅かに体力が回復してくるのを感じると、ヤオ子は立ち上がる。
「サクラさんは、あの二人をお願いしますね」
「ヤオ子は?」
「もう一つの約束を果たしに……。
ヤマト先生と一緒に戦うんだ~♪」
サクラは、また笑う。
こんな状況なのに、ヤオ子はいつもと変わらない。
「ええ。
いってらっしゃい」
ヤオ子はニッコリと微笑むと遠くに見つけたヤマトのところに走って行く。
そして、ヤマトに思いっきり抱きつくのが見える。
サクラは、思わず声を出して笑ってしまう。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「私も木ノ葉の忍なんだから!
ヤオ子に負けていられない!」
そして、数時間後……。
変な少女の介入した第四次忍界大戦は終わりを告げる。
この忍界大戦では親友同士の二人の少年が預けるべき背中を取り戻し、戦いに終わりを告げた。
そして、この忍界大戦で勝ち得た各国の絆が未来を築いていく。
このNARUTOのIFの世界では……。