== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
サスケの目の移植……。
イタチの葬儀……。
木ノ葉で行なうことは少ない。
サスケはナルトが出発するまでの短い期間を猫(タスケ)の姿でナルトとサクラとサイと過ごす。
それはサスケが自分自身を取り戻すのに大切な時間であり、失っていた時間を埋めるナルトとサクラにも必要な時間だった。
一方のヤオ子は……。
「次の印に行くぞ」
「ちょっと待った!
さっきのが……。
・
・
OK!」
カカシとヤマトに付きっ切りで、印を暗記させられていた。
第110話 ヤオ子とサスケの戦い・修行開始編
本日の印の暗記も一時間を過ぎる。
ヤマトが術の名前だけが載った紙をヤオ子の前に置く。
「いいかい?
よ~い……スタート!」
ヤオ子の手がカリカリと鉛筆を動かす。
用紙には次々に印が書き込まれ、五分後に全て書き終る。
「採点をお願いします……」
回答用紙を差し出すと、ヤオ子は突っ伏した。
カカシとヤマトが丸ツケをする。
「一問間違えたね」
「ごめんなさい……」
「いや、このハイペースで覚えてるのが、おかしいんだからね」
カカシは回答用紙を、もう一度見る。
「すまん。
これは、オレの教え間違いだ。
ヤオ子の答えで合ってるよ」
「そう……。
じゃあ、暗記し直さなくていいですね」
ヤマトがカカシに質問する。
「今の会話、おかしくないですか?
何で、先輩の間違いをヤオ子が正しく用紙に書き込んでいるんですか?」
「まあ、これだけ印を暗記させられればね……。
少なからずパターンが出て来るんだよ。
しかし、異常な記憶力だな」
「……コツがあるんです」
突っ伏したまま、ヤオ子が答える。
「エロいものと関連付けして覚えると忘れない……」
「最悪の発想だ……」
「ねぇ……。
まだ覚えるの?」
「まあ、戦闘向きなのは、これぐらいかな?」
「後は?」
「今度の戦いでは威力不足な感じかな?
オレも取捨選択して教えているから」
「そうですか……。
じゃあ、これで終わりだ……。
・
・
知恵熱が出そう……」
カカシとヤマトは、ヤオ子を見て笑う。
「しかし、この術の傾向は何なんですかね?」
「ああ。
サスケのリクエストらしいが、
アイツは火遁と雷遁だけしか使えないから、他の系統まで条件を出す必要はないと思うんだがな」
カカシとヤマトが会話をする中、ヤオ子がフラリと立ち上がる。
「どうしたの?」
「出発は、午後ですよね。
ヤマト先生達にお弁当作る」
ヤオ子は仮説住宅に設置してある厨房へと姿を消した。
それを見たカカシが呟く。
「あの子、性格さえ何とかなれば、完璧なお嫁さんになれるよな」
「はは……。
誰もが思っていますね」
「容姿もいいし、努力家で忍としての技術も高い。
料理洗濯家事と、何でも出来る」
「ええ。
電化製品なんかも直せますし……。
寧ろ、出来ない業務の方が少ない……」
「一家に一人欲しいタイプだな」
「はい……。
だけど、セクハラされます」
「そうなんだよな……。
ヤオ子の家って、どうやって纏まってんだろ?」
「踏み込んじゃいけない……」
「ん?」
「あの家は、ヤオ子すら恐れる変態が居ます……」
「何かあったの?」
「ヤオ子が母親の変態行為を注意してた……」
「そ、それは凄いな……」
ヤオ子の家には魔物が住んでいる。
…
午後、ナルトが八尾と暁の目から隠れるために出発する。
サスケは猫の姿でナルトの肩まで駆け上がる。
「もっと強くなっておけよ。
九尾ぐらい自在に扱えるようにな」
「お前こそ!
しっかりとうちはの力を使いこなせってばよ!」
ナルトとサスケが笑い合う。
「「次は、戦場でな」」
サクラは男の子同士の会話を少し羨ましそうに見ながら、微笑んでいた。
「じゃあ、行って来るってばよ!」
ナルトが歩き出し、それを追ってヤマトとガイも歩き出す。
「へ~。
ガイ先生も付き添うんだ。
・
・
じゃあ、よっこいしょ!」
ヤオ子が巨大な風呂敷包みを持ってガイを追う。
「ガイ先生!」
「オウ! ヤオ子か!」
「餞別。
お弁当です」
ガイがヤオ子の背負う大風呂敷を見る。
「何だ? この量は?」
「雲隠れの人も居るんでしょ?
同じ釜の飯を食べれば友達じゃないですか」
「さすがヤオ子だ!
いいところに気が付いた!」
「でしょ。
この大事な役目は、ガイ先生じゃないと」
「うむ。
任せておけ!」
ガイのナイスガイポーズにヤオ子もナイスガイポーズで答え、ヤオ子から大風呂敷がガイに受け渡される。
ガイがナルトを追うと、ヤオ子はヤマトに声を掛ける。
「思った通り。
ガイ先生が持ってくれました」
「君ねぇ……。
大人を利用するような──やめておくよ」
「賢明です。
ヤマト先生が背負うことになりますからね」
ヤオ子は笑っている。
「じゃあ、気をつけてくださいね」
「ああ。
行って来るよ」
「ヤマト先生」
「ん?」
「あたし、頑張りますよ。
今度は、ヤマト先生の横で一緒に戦えるように」
「ああ。
期待しているよ。
君が、今、一番の成長株だからね」
「はい!」
こうしてナルト達は出発した。
そして、サスケとヤオ子も大蛇丸のアジトに戻ることになる。
こっちは、至って簡単だ。
タスケの逆口寄せで煙になって消えるだけだ。
しかし、タスケがまた現れる。
「ったく……。
ヤオ子のヤロー。
口寄せしたり、解したりと」
タスケは綱手を見る。
「ヤオ子からの伝言だ。
戦いが始まったら、
『逆口寄せで呼び出せ』ってさ。
あと、オレの面倒を頼む」
「逆──なるほどな。
・
・
それにしても……。
アイツは、また火影を顎で利用する気だったんだな」
シズネとサクラが苦笑いを浮かべると、綱手が溜息を吐く。
「途端に静かになったな」
「そうですね」
「シズネ。
サクラ」
シズネとサクラが綱手を見る。
「これから忙しくなる。
しっかり働いて貰うからな」
「「はい」」
綱手達は、里へと踵を返す。
その途中でサクラが振り返る。
「また第七班で戦える日が来たんだ……。
私も頑張らないと……」
「オレの面倒もな……」
いつの間にかタスケが、サクラの肩まで駆け上がっていた。
「お前、旨い飯作れるか?」
(何、この猫?)
タスケが溜息を吐く。
「ダメな奴の匂いがする……」
「失礼ね!」
それぞれの思惑を胸に、第四次忍界大戦に向けての修行が始まる。
…
大蛇丸のアジトに戻ると、サスケとヤオ子が絶句する。
「何だこれは?」
アジトの中が変わり果てている。
「荒らされてますね」
「ああ……」
サスケとヤオ子が拳を握る。
「「きったねー!」」
辺りには麻雀牌や食べ掛けの食べ物が散乱している。
ヤオ子が、あるものを摘まむ。
「女物の下着だ……」
「香燐……!」
「で、皆さんは?」
「知らん!」
サスケとヤオ子が、広いアジトの中を探索する。
「重吾さんも居ないのは変ですね?」
「ああ!
アイツだけは、唯一まともな奴だ!」
(怒ってますね。
・
・
それもそのはず……)
歩く通路もゴミだらけだ。
「何で、アイツら、数日の間でここまで汚すことが出来るんだ?」
「タスケさんも不精ですからねぇ……。
あたしは、いつも掃除してましたよ。
イカのスルメとかに食いついて、食べ飽きると……ポイ!」
「まあ、いい……。
猫は許す……」
「はは……」
サスケはズンズンと進んで行く。
ゴミは食料庫に続いていた。
サスケが勢いよく食料庫の扉を開く。
「お前……ら?」
「何々、どうしたの?」
ヤオ子が、サスケの後ろで食料庫を覗く。
水月が死に掛けている。
香燐が死に掛けている。
重吾が元に戻っている?
「食料がない……」
水月がサスケの元に張って来ると、サスケの足を掴む。
「じゅ、重吾が……」
「重吾が、どうした?」
「体を元に戻すと……。
暴飲暴食を……」
「は?」
「食べ物をくれ……」
サスケは溜息を吐く。
「つまり……。
重吾のせいで食糧危機か……」
「タスケさんは?」
「あの猫は、麻雀に勝って残りの食料を確保した……」
「それで麻雀してたんですか……」
「アジトから出ればいいだろう?」
「このアジトの結界……。
物理的に出れない……」
「タスケさんは、アジトの状況を何も言ってませんでしたけど?」
「あの裏切り者め……」
水月は力尽きた。
ヤオ子がサスケを見る。
「何かカッコよく別れたけど、いきなり、逆戻りですね」
「留守番一つ出来ないのか……」
「大変ですね♪
お父さん♪」
サスケは、がっくりと項垂れる。
ヤオ子は木ノ葉に向かうため、口寄せを行なおうとしていた。