== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
笑い声が収まり始めると、綱手が話を元に戻す。
「私が火影に戻ったら、直ぐにサスケの抹殺命令は取り消す。
分かったな?」
「オウ!」
サスケの代わりにナルトが返事を返す。
だが、まだ大きな問題が残っている。
そのことはカカシから、質問としてあがった。
「とは言え、一度出した抹殺命令の取り消しを各国が許しますかね?
特に雲隠れの雷影は許さないでしょう」
「そうだな」
ヤオ子は少し疑問に思い、質問する。
「八尾の捕獲って失敗だったんでしょ?
だったら、何で問題があるの?」
ヤマトが、ヤオ子の質問に答える。
「例え失敗に終わっても、他の里に手を出した事実は消えない。
・
・
それにサスケは、追っ手を殺している」
「そうなんですか……。
・
・
ああ! もう! 馬鹿が!」
サスケの額に青筋が浮かぶ。
しかし、堪える。
今回は、自分が悪い。
第104話 ヤオ子とサスケの向かう先③
ヤオ子は、綱手に質問をする。
「その雷影さんを何とかすれば、サスケさんの帰還は問題なしなんでしょ?」
綱手が溜息を吐く。
「簡単に言うが、雷影の説得は一筋縄ではいかんのだぞ」
ヤオ子は少し考えると、サスケに振り返る。
「サスケさん。
八尾さんの捕獲失敗の詳細を教えてください」
「今か?」
「今」
サスケは、他のメンバーを見る。
カカシから『別にいいんじゃないか』との声があがったので、仕方なくサスケは捕獲失敗の話をすることにした。
~十分後~
「なるほどね。
サスケさんもイタチさんとの戦いの後で完全な状態じゃないから死に掛けて、
唯一分断した攻撃で変化されて逃げられたと。
そして、追っ手を始末した。
・
・
当の八尾さんは、遊び歩いているのが五影会談で発覚……か。
・
・
綱手さん。
こうしましょう」
「は?」
ヤオ子はニヤリと唇の端を吊り上げる。
「まず、サスケさんの扱いです。
サスケさんを追い忍だったことにしましょう」
「何?」
「サスケさんは木ノ葉の追い忍で、便宜上、里抜け扱いにしていたとします。
そうすれば大蛇丸さんの暗殺も、イタチさんの暗殺も筋が通ります」
「お前、勝手に真実を……」
「多分、このまま話せば雷影さんは、暁に入ったことを指摘するはずです。
そうしたら、スパイとして入っていたことにします」
「お前、よく頭が回るな……」
「そうすると……。
『何故、八尾さんを襲うことを事前に教えなかったか?』
『何故、本当に実行したか?』
ということになります。
・
・
そこで今度は、暁の信用を得るためと八尾さんの実力を信じていたからとします。
いいですか?
サスケさんが死に掛けたのは、ワザとということにします。
八尾さんに手を出すための罪を先に清算するためにワザと攻撃を受けた。
暁への報告のリアリティを出すための演出だった……と。
・
・
そして、これは外交ですので下手に出なければいけません。
八尾さんには手も足も出ないのは分かっていた。
だから、唯一分断した行動で八尾さんが撤退したことで、
暁にもバレず雲隠れにも被害を出さずに任務を遂行できたとします」
「ほとんど嘘だな……」
「そして、サスケさんに誤算があったとします。
八尾さんが雲隠れの里に帰らずに遊びまわってしまったことです。
ここは強調してください。
向こうの唯一の弱点です。
・
・
本来、ここで暁を抜けて木ノ葉と雲隠れに連絡を入れるはずが、八尾さんが雲隠れに戻らなかったせいで、
暁を抜けれなくなってしまったとします。
そして、仕方なく五影会談の席までは暁の情報を探っていたが限界が近づき、今に至ります。
どうですか?」
綱手は、本当に頭痛が起きている。
「お前、詐欺師か何かじゃないのか?」
「えへへ……」
「だが、ダメだ」
「何で?
そんなに大きな穴はないと思うけど?」
「それではサスケの兄であるイタチが、本当に在らぬ罪を被ることになる」
綱手の言葉に、サスケが前に出る。
「それは構わない。
イタチの真実は、ここにある者の中だけにしてくれ。
イタチについて誤解していた、今までの嘘を通してくれ」
「何故だ?
上層部の奴等のしたことは許されないことだ!」
「分かっている……。
だから、知ってて押し通す」
「?」
「イタチの行動は、マダラがしゃべらなければ誰も知らない。
そして、イタチの行動もオレ達が知らなかったことにすれば、イタチの信念も決意も全て守り通せる。
これ以上、イタチを穢させない。
イタチの取った行動で回避した戦争だ。
オレ達が真実を知っていればいい。
蒸し返して、イタチが守り通した事実を壊さないでくれ。
・
・
頼む……」
「お前……」
綱手は、サスケの両肩を掴む。
「分かっているのか?
それがどれだけ辛いことなのか?」
「分かっている……。
今でも上層部の奴等は憎い……。
・
・
だが、オレ達が口を噤めば、イタチの思った通りだ。
木ノ葉は、あの日に戦争を回避した。
暁の動向もイタチによって、ある程度抑えられていた。
そして、オレはイタチのお陰でここに居る。
・
・
それが真実だ。
マダラの言ったことは聞かなかった」
「…………」
綱手はサスケの肩を放すと壁まで歩いて行き、怪力を発動して壁を殴りつける。
「私達大人は、何をしているんだ!
若い奴等にこんな重荷を背負わせて!
立場が逆だろうが!」
カカシ、ヤマト、シズネと大人の立場の者は少なからず綱手と同じ気持ちになる。
里を守るためにイタチを犠牲にしてしまった。
未来ある若者の上に木ノ葉隠れを築いてしまった。
サスケは目を閉じるとイタチを思う。
(まだ守れる……。
マダラの言葉を無視するだけで、イタチの誇りは守れるんだ……)
サスケがナルトに振り返る。
「さっき、ナルトが言ってた憎しみと戦うっていうのは、こういうことだろう?
・
・
オレも戦う……。
お前が火影になって変える手助けをする」
「サスケ……」
サスケは綱手に向き直る。
「ようやく、やりたいことが分かって来た。
イタチの意志を受け継ぐ方法が見えて来た。
・
・
オレが木ノ葉で自由に動けるために、
ヤオ子の方法でも何でもいいから、雷影を説得してくれ」
綱手は静かに頷く。
「分かった……。
だが、一言。
お前達兄弟に言わせてくれ。
・
・
すまなかった……」
綱手は深く頭を下げている。
一瞬呆気に取られた後で、サスケは少しだけ表情を緩ませる。
(この人が謝っても仕方がない……。
だが、里の代表として頭を下げている……。
・
・
兄さん……。
これで少しは報われただろうか……)
サスケは自分の中で整理をつけると、綱手に話し掛ける。
「頭を上げてくれ。
しっかりと受け取った……。
・
・
あんたが木ノ葉隠れの火影でよかった」
「サスケ……」
(コイツ……。
聞いていた印象が大分違う……。
・
・
ヤオ子は、本当にさっき話した通りの説得をしただけなのか?)
綱手がヤオ子を見ると、ヤオ子は首を傾げている。
(ナルトだけじゃない。
コイツにも、何かを変える力があるのかもしれない……)
ヤオ子は真剣に見ている綱手に対して、ウィンクした後に緩い笑みを浮かべる。
(ただし、ナルトもヤオ子もどうしようもない馬鹿だがな!
きっと、馬鹿には得体の知れない力が備わるに違いない!)
綱手は、セクハラ行為に移行しようとするヤオ子にグーを炸裂させる。
「ヤオ子!
さっきの話の内容で手紙を書く!
手伝え!」
「……はい」
綱手とヤオ子が相談に入り、シズネはクスリと笑うと部屋の扉に向けて歩き出す。
「巻物と筆と硯を取って来ます」
「頼む」
少しずつ、何かが動き出していた。
…
ヤオ子と綱手が手紙の文面を考えているところにサスケが顔を出す。
「悪いが一文追加してくれないか」
「何だ?」
「八尾を狩る際に殺してしまった追っ手のことだ。
彼には、何の非もない。
オレの我が侭で殺してしまった。
・
・
彼に対しての謝罪だけはしなければいけない」
「そうか……。
そうだな……。
・
・
だが、外交上、それは不利になることだ。
あまり強調して書けないぞ」
「構わない……。
その罪は、一生背負って生きていく」
「……分かった」
ヤオ子は腕組みをすると、綱手を見る。
「確かにサスケさんの罪なんですけど……。
少し釈然としませんね」
「どういうことだ?」
「だってね。
マダラさんがイタチさんのことを話さなければ、サスケさんが暁に入ることはなかったでしょ?」
「そうだな……」
「それに八尾さんが大人しく雲隠れの里に帰っていれば、追っ手なんか放たれませんでしたよね?」
「そうだな……」
「あたしは、一概にサスケさんだけを責めることは出来ません」
サスケがヤオ子の頭に手を置く。
「それでも、オレのしたことだ」
「……ねぇ。
サスケさんは、いつになったら自分を許すの?
サスケさんの今まで生きた人生は、サスケさん以外の思惑や陰謀が絡み合っています。
そして、戦う理由はいつも誰かのためです」
「……そうだな。
でも、お前は自分がやった罪をそのままに出来るのか?」
ヤオ子は、頭を掻く。
「四割近くは放置してますね」
「聞くんじゃなかった……。
お前、ほとんど犯罪者じゃないか」
「失礼ですね!
あたしのストーカー行為は、自分からバラさない限り法に触れません!」
(一応、それが犯罪だとは気付いているんだな……)
綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「お前は、少しは罪を感じろ!」
サスケは溜息を吐いた後で苦笑いを浮かべる。
「マダラとの因縁が切れたら、しっかりと自分を始められる……」
サスケは綱手とヤオ子の元を去る。
その後ろでは、ナルト達が直ぐにサスケを捕まえていた。
「スン……」
ヤオ子は涙を堪えていた。
「どうしたんだ?」
「少し嬉しい……。
サスケさんと再会した時は、変わり果ててどうしようかと思いました……。
・
・
でも、ナルトさんもカカシさんも、サスケさんの帰る場所であってくれた……。
イタチさんの作ってくれた場所は間違いじゃなかった……。
それが嬉しいんです……」
「その変わり果てていたサスケを連れ戻して来たおまえの方が凄いと思うがな」
「そうですかね……。
今思うとイタチさんの手の中のような気がします」
「うちはイタチか……。
計り知れない人物だな」
「はい」
そこにシズネが戻って来た。
「さあ、手紙を書くぞ。
しっかりとチェックしてくれ」
「はい」
こうして雷影への手紙制作が行なわれた。
…
手紙は、連絡用の鷹の背中にある筒に入れて雲隠れの里に飛ばすことになる。
返事が来るのは、一、二日後だろう。
「それじゃ遅いです!」
「無理言うな」
ヤオ子と綱手が睨み合っている。
「あたしが行って来る」
「どうやってだ?
空でも飛ぶのか?」
「いいですね」
「は?」
ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
「口寄せの術!」
例によってタスケが現れる。
「ロン!
倍満!
・
・
あれ?」
牌を倒した格好で現われたタスケに、皆の視線が集まる。
「タスケさん。
のん気に麻雀ですか……」
「チッ。
ヤオ子かよ……」
「お仕事です」
「またか?
お前、扱き使い過ぎだ」
「いいから手伝って!」
「はいはい……」
ヤオ子はタスケを抱きかかえると、綱手の元に戻る。
「タスケさんを使って、手紙のやり取りをします」
「コイツ……忍猫だったのか?」
「ええ。
・
・
それでね。
連絡方法です」
「ああ……」
綱手以外のメンバーも耳を傾ける。
「まず、あたしの影分身をここに残します。
↓
次に綱手さんの手紙と巻物に変化したあたしを一緒に雲隠れの里に送ります。
↓
雷影さんが手紙を読みます。
返事を書きます。
あたしが預かります。
影分身を一体出して、直ぐに解除します。
↓
影分身の経験値が還元されて、こっちの影分身が準備OKを確認します。
↓
タスケさんが、あたしを逆口寄せ呼び出します。
綱手さんに手紙が届きます。
・
・
これなら、一日で何とかなります。
ちなみに、綱手さんから雷影返信する時は……。
手紙をあたしに渡します。
↓
逆口寄せを『解』します。
あたしは、雲隠れの里に戻って雷影さんに手紙を渡します。
・
・
まあ、後は繰り返しです」
「なるほど。
変わった使い方だが、一度、お前を送れば、後は簡単そうだな」
「はい。
あたしのチャクラが続く限り、手紙のやり取りが出来ます」
ちなみに、この説明でナルトだけが分からなかった。
ナルトは少し離れたところで、カカシとヤマトの説明を聞いている。
こうして、雷影との手紙の会談が始まることになった。