== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
マダラは激昂していた。
口には出さないが、チャクラが物語っている。
サスケが現れないのを疑問に思いながらも事を進めたが、結局、最後までサスケは姿を現さなかった。
決定的だったのが、ダンゾウを追う者が居なかったことだ。
怒りの矛先はダンゾウに向かい、ダンゾウはマダラの手によって葬られた。
そして、うちはシスイの写輪眼を奪うことも忘れるぐらいに、マダラはダンゾウの体を叩き潰した。
更に油を注いだのがアジトに帰ってからだった。
イタチの写輪眼を奪われていた。
マダラは、ここで初めてサスケの狙いに気付き、陥れていたつもりが嵌められていたことに気付いた。
「サスケの心は闇に落ちていたはずだ……!」
怒りがある一点を超えて逆に冷静になると、サスケと初めて会った時に居なかった少女の存在が思い浮かぶ。
「あの小娘か……!
いや、イタチの置き土産のせいか……!」
どちらにしても、マダラの計画は大きく崩れ、別のシナリオで『月の眼計画』を進めねばならなくなった。
第102話 ヤオ子とサスケの向かう先①
大蛇丸のアジトでは簡単な部屋割りを決めたあと、五影会談で戦闘をして疲弊したメンバーが深い眠りについていた。
その中でサスケとヤオ子だけは戦闘に参加しなかったため、チャクラを多大に残して余力を残していた。
サスケは割り当てられた部屋で、イタチの体を封印してある巻物とイタチの抜き取られた写輪眼を眺めていた。
心の中では少しの達成感と兄への罪悪感、これからのことが混ざり合っていた。
そのぼんやりとした気持ちが漂うサスケの部屋をヤオ子はノックした。
「返事がない?」
ヤオ子は、そっと扉を開けて中を覗くと、座ったサスケの後姿が見える。
「起きてますか?」
「…………」
ヤオ子は、そっとサスケに近づくといきなりセクハラをしようとした。
「フ~ジ~子ちゃん、ダ~イブっ♪」
が、サスケのグーが飛び掛かったヤオ子に炸裂した。
「起きてんじゃないですか!」
「寝てたら、何をするつもりだったんだ?」
「エロいこと♪」
再び、サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
そして、グイッとヤオ子の首に腕を回すと自分に引き寄せる。
「兄さん……。
コイツが助けてくれたんだ……」
ヤオ子の視線の先には、巻物とシリンダーがあった。
「イタチさんと……お話ししてたんですね」
ヤオ子は自分の取った行動を少し反省すると、正座をし直し、目を閉じて手を合わせた。
「ヤオ子……ありがとう」
素直にお礼を言われ、ヤオ子は少し頬を染めて微笑む。
そして、サスケとイタチの手助けが出来たことを喜んだ。
ヤオ子は首に当たるサスケの腕に自分の手を添えて質問する。
「これから、どうするんですか?」
「……一度、木ノ葉に戻ろうと思う」
「じゃあ! ナルトさん達に!?」
「しっかりと話さなければいけないと思う」
「あたしも、そう思います!」
サスケは嬉しそうに言葉を返すヤオ子に、また救われたような気分になる。
(こんなにどうしようもないオレに……。
まだ、そんな顔を向けてくれる……)
サスケの中で覚悟が決まる。
「木ノ葉で裁かれる……。
オレの罪が死に値するなら受け入れる……」
次に出たサスケの言葉に、ヤオ子は少し視線を落とすとサスケを見て呟く。
「その時は、あたしも生きてないかなぁ」
「何?」
「だって、サスケさんのために、命懸けでここまで来たのにサスケさんが居なくなるんでしょ?
あたしの努力は報われないじゃないですか?」
「お前って、あくまで自分主義なんだな……」
「そうですよ。
世界は、あたしを中心に回っているんです。
でも、それは皆が、そう。
自分が主人公なんです。
あたしの世界にはサスケさんが居なくちゃ、ダメ。
ちょっと先の未来では、あたしとサスケさんとナルトさんで中忍試験を受けることが確定しているんですから」
「中忍──忘れていた……。
スリーマンセルじゃないと受けれないんだったな」
「はい。
サスケさんの同期で中忍になっていないのは、サスケさんとナルトさんだけです。
カカシ班の中忍昇格率は、お二人のせいでダメダメです。
・
・
そして、余り者のあたしを加えれば、ちょうど三人。
いいでしょ?」
「いいかもしれないな……。
ただ、今更、中忍試験っていう気もするがな」
「いいじゃないですか。
あたしは、逆に楽しみですよ。
サスケさんもナルトさんも、力を付けてるでしょ。
どれだけのチートっぷりで受験生をボコボコにするか楽しみです」
「お前な……。
逆に組み合わせが悪ければ、お前とやり合うんだぞ?」
「え?
・
・
そうなると、あたしの再受験確定ですね……」
サスケは自然と笑みが零れた。
未来を考えるのは辛いことだけじゃないと思い始めていた。
「兎に角、明日、木ノ葉に向かう。
お前とタスケで木ノ葉まで行ってくれ。
また時空間忍術を使って、アジトを知られないようにする」
「木ノ葉の近くで、タスケさんとサスケさんを入れ替えるんですね?」
「ああ。
木ノ葉に入っちまえば、マダラも仕掛けて来ないだろう」
「そうですね。
今は、暁もメンバーが大分減っていますから」
「そういうことだ」
ヤオ子はサスケの腕を首から外すと両手でしっかり手を握る。
「きっと、皆が待っていますよ」
「だといいがな……」
「あたしが保障します。
・
・
勘ですけどね」
ヤオ子は、ゆっくりと立ち上がるとサスケに振り向く。
「イタチさんとの会話を邪魔して、すいませんでした」
「いや……兄さんにお前を紹介できてよかった」
ヤオ子は最後にもう一度微笑むと、サスケの部屋を後にした。
そして、部屋の前で胸を押さえる。
「お、おかしいなぁ……。
あそこまで密着されてたら、いつもは迫ってっいるのに……。
・
・
ううう……。
少し顔も熱い……」
自分の心の変化に気付かないフリをして、ヤオ子は部屋に戻った。
…
翌朝……。
ヤオ子はタスケと大蛇丸のアジトを出ると、木ノ葉に向けて走り出した。
余計な回り道をしないで一直線に木ノ葉に向かう。
「やっぱり、あたしにはマーキングされていないんですかね?」
「どうだろうな?
オレにマーキングされているかもしれないし」
「何にせよ。
木ノ葉まで逃げ切れば勝ちです。
マダラさんが現れても、一気に無視して木ノ葉に向かいます」
ヤオ子とタスケが警戒する理由も分かるが、マダラが現れないのには理由がある。
『今度は、戦場で会おう……』五影会談で、そう宣言した以上、おいそれと姿を見せることは出来ないからだ。
案の定、ヤオ子とタスケの移動中にマダラが現れることはなかった。
ヤオ子とタスケは火の国の問屋に寄ると、荷車と食料をこれでもかと買い込んだ。
そして、サスケをタスケの逆口寄せで呼び出す。
「交代だな」
タスケが二分された食料の片方の山に飛び乗ると、大蛇丸のアジトでタスケが口寄せされる。
タスケと一緒に食料もアジトに転送された。
サスケは時空間忍術を手足のように利用するヤオ子に感嘆の声をあげる。
「しかし、時空間忍術をこういう風に使うことをよく思いつくな」
「便利ですからね。
タスケさんがあたしと契約しなければ、考え付きませんでしたけどね。
・
・
さて、行きますか」
ヤオ子は荷車を引きながら、サスケに振り返る。
「抹殺命令が出ているんで、タスケさんに変化してください。
綱手さんを直に通せば、サスケさんと会話してくれるはずです。
ただ、綱手さんの意識が戻っていれば……ですがね。
・
・
意識が戻っていない時は、付き人のシズネさんを通します」
「分かった」
サスケはタスケに変化し、ヤオ子の引く荷車の上に飛び乗った。
…
久々の木ノ葉の里……。
『あん』の門の前では、見張りの忍がヤオ子に声を掛けた。
「久しぶりだな。
何処行ってたんだ?」
「食料調達です」
ヤオ子が、後ろの荷車を指差す。
「大量だな」
「はい。
今日の配給は、一品追加ですね」
「そいつはいい」
ヤオ子は見張りの忍に手を振ると『あん』の門を後にして、綱手の居た病室を目指す。
サスケがヤオ子に話し掛ける。
「随分と雑なチェックだな?」
「はは……。
仕方ないですよ。
この壊れようですもん。
警備システムが戻るのは、何ヶ月も先だと思います」
「……そのようだな」
すれ違う人々がヤオ子に声を掛ける様子を見ると、サスケは、またヤオ子に話し掛ける。
「お前、人気者なんだな」
「はい。
雑務を幅広くしていましたからね。
それに、この格好は目立ちますから」
ヤオ子の服のデザインは、サスケと一緒に服を新調した時のままだ。
サスケの着ていた服は、男の子が着るとそうでもないが、女の子が着ると白のミニスカートというのがやけに目立つ。
「変えないのか?」
「いえ……変えたんですけどね。
勝手に変えるなって、怒られて」
「何でだ?」
「信号で『青は進め』『黄色は注意』『赤は止まれ』ってあるでしょ?」
「ああ。
それが?」
「木ノ葉では『藍のTシャツに白のミニスカート』は変態に注意なんです」
サスケが寝転がっている荷車の食料に頭を打ちつけた。
「お前、何やってたんだ!」
「あははは……」
「オレの昔の服のイメージは変態を表してんのかよ……」
項垂れるサスケを乗せたまま、荷車は目的の場所へと到着した。
…
元・火影の居た場所ということで警備の忍が立っている。
ヤオ子は警備の忍に荷車を見せ、中に入る許可も一緒に得ると、綱手に会う間、荷車を見ていて貰うように話をつける。
そして、久々に訪れた中を見回しながら進む。
里の復興もまだまだ途中で、ここもあまり改善がなされていない。
それでも幾分かマシになった通路を忍猫のタスケに変化したサスケを抱いて奥に進み、綱手の居る部屋をノックする。
ヤオ子は、返事が返る前に扉を開けた。
「ちょっと──待って……って言う前に、何で開けるの!」
久々のシズネのお叱り。
ヤオ子は、それがとても懐かしく感じた。
「シズネさん。
ただいま」
「ヤオ子ちゃん!?」
「えへへ……。
・
・
本当に懐かしいですね。
ん?」
シズネ以外の先客のはたけカカシと、待ちに待っていた人物の姿がヤオ子の目に入った。
「綱手さん!」
ヤオ子はサスケを放り投げると、綱手の元に走る。
「元気になったの!?」
「まだまだだ……。
体力が回復していないから補給中だ……」
ヤオ子は綱手の周りを見る。
空になったどんぶりや茶碗が大量に転がっていた。
それを見て、ヤオ子は指を立てる。
「綱手さん。
食料調達して来たばっかりです」
「でかした!」
「久々に腕を振るいますか?」
「頼む!」
ヤオ子はチョキを出すと立ち上がる。
そして、サスケに視線を移すと『ちょっと待っててね』と声を掛ける。
サスケは手を振って『さっさと行け』と合図を返した。
シズネがヤオ子に駆け寄る。
「ヤオ子ちゃん。
いいタイミングでしたよ。
綱手様に食料庫の食料を空にされたばっかりで」
「ご飯食べれる気力が回復しただけでもよしです」
「あと、あの入金……何?」
「復興に必要でしょ?
それに、もう使ってんじゃないの?」
「その……前借りということで、直ぐに調達しないといけない物資を優先して……」
「返さなくてもいいですよ。
里が元に戻る役に立つなら」
「そうはいきません!」
「そう?
でも、いらないしな」
「……いや、あの大金がいらないって。
というか、あれって任務で貯めたお金?」
「はい。
あたし、頑張ってましたね~」
「何かドSで、ごめんなさい……」
申し訳なさそうに謝ったシズネに、ヤオ子は大笑いしている。
自分でドSと認めたのは、シズネが初めてだった。
「じゃあ、お料理するの手伝ってください。
薬膳料理を作るから、シズネさんの薬の知識が必要です。
綱手さんに必要なものを摂取して貰わないと」
「ええ。
手伝わせて貰います!」
「あ。
あと、今日の配給を一品追加するんで、大鍋を一つ追加で」
「復興隊長の鬼軍曹が戻って来ましたね」
「鬼軍曹って……。
まあ、復興の最中に暗部の人を何人か泣かすぐらいにこき使いましたけど……」
シズネに案内されてヤオ子が厨房に入ると活気付く。
影分身で人数を増やすと、更に活気付く。
ヤオ子の運んで来た荷車の食料は、その日のうちに三分の一が消えることになった。
…
シズネとヤオ子が厨房から戻ると、綱手が満足気にお茶を飲んでいた。
ヤオ子が頬掻きながら、カカシに質問する。
「あの……。
作った料理は?」
カカシの指し示す先を見る。
空の器が山盛りに積んである。
「もう、食べたの!?」
ヤオ子がシズネに振り返る。
「まあ……。
チャクラを回復させるためにこんな感じだったので、ヤオ子ちゃんが救いの神になりました。
トントンの危機も去りました」
「はい?」
シズネに大事そうに抱かれている豚は、安堵の息を吐いた。
ヤオ子は手に持っていたものを綱手に見せる。
「病み上がりでよくないと思っていたんですけど、飲めますか?」
ヤオ子の手には酒瓶。
「飲む♪」
綱手が酒瓶を受け取ると、酒瓶の銘柄に目を移す。
「また、新種か?」
「はあ……。
途中で寄った町の酒蔵の親方が、綱手さんに合わせた酒が遂に完成したと」
「あのコスモなんたらとかの最終形態か?」
「名前は、あたしが付けているんで、親方のネーミングセンスじゃないですけどね」
「だろうな。
カタカナの酒名って意味が分からんしな。
・
・
で、今度のは?」
「最終形態ということなので、綱手さんに因んだ名前にしました」
「ほう……」
「『銘酒・魔界の独裁者』です」
綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「どういう意味だ!」
「まんまです……」
「私の何処が独裁者なんだ!
しかも、魔界だと!?」
ヤオ子は、シズネを見る。
「一体、どんな治療をしたんですか?
本当に前より凶暴化してんじゃないですか?」
「してません!
綱手様は、大体こんなもんです!」
「シズネ……。
お前も殴られたいのか……」
「あヒィーッ!」
「綱手さん。
シズネさんは、裏では大体こんなもんです」
「本当か?」
「嘘です!」
このどうしようもない纏まらない感じ……カカシは少し懐かしさを感じる。
そして、ヤオ子の暴走は続く。
「綱手さん。
シズネさんって、結構、黒いんですよ」
「そうなのか?」
「はい。
もう、言いたい放題」
「嘘を言わないでください!
私は、ちゃんと綱手様を尊敬しています!」
「本当?」
「当然です!」
「じゃあ、綱手さんの長所を三つ答えろ。
三秒以内」
「え? え!?」
「よ~い……スタート!」
「え、え~と……。
医療忍術と……」
「ブ~。
時間切れで~す。
・
・
シズネさんの忠誠心なんて、こんなもんです」
「そんなの急に言われたら、答えられませんよ」
「綱手さんに対する愛が足りないんです」
シズネは歯を喰いしばると、ヤオ子を指差す。
「じゃあ、ヤオ子ちゃん答えて!
時間は三秒! スタート!」
「胸がでかい!
唇が魅力的!
総称して全てがエロい!」
綱手のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「何処が長所だ!」
「いや、愛に溢れてるじゃないですか?
綱手さんをここまでエロスの対照として、愛を持って見れるのはあたしぐらいですよ?」
「もういい……。
折角、回復して来たチャクラを突っ込みで消費する意味はない」
「賢明な判断です」
綱手が溜息を吐いたところで、カカシが手をあげる。
「あの~……。
話がないんなら、オレはこれで……」
ヤオ子がカカシに静止を掛ける。
「ストップ!」
「何?」
「大事な用があります」
「オレに?」
「ここに居る皆に」
綱手とシズネの顔が少し真剣になると、綱手が先に話し出した。
「シズネから聞いている。
お前、サスケの情報を収集するために里の外に出たらしいな」
「はい」
「その情報の報告だな?」
「はい」
綱手がシズネを見る。
「ヤマトとナルト達も呼べ」
「構いませんが……サクラもですか?
サクラにはマダラとの会話の話を伝えないことになっていますが?」
「そうだったな……」
ヤオ子が話に割り込む。
「すいません。
マダラさんの話は、あたしも興味があります。
五影会談がどうなったのかも」
「お前にも伝えられない」
ヤオ子の目が座る。
「……じゃあ、あたしも教えない」
「何!?」
「言いたくないならいいです。
今や木ノ葉の情報規制はザルです。
自分で収拾しても何とかなりそうだし」
「無理だな。
マダラ自身から直接聞いた情報だ。
カカシ、ヤマト、ナルトしか知らないことだ」
「ふ~ん……例えば?」
綱手は、適当にあしらう。
「うちはイタチのこととかだ」
「本当は裏切ってないってヤツ?」
綱手達の顔色が変わる。
「お前、何処まで調べたんだ?」
「だから、あたしも混ぜてくれって言ってんですよ。
あたしだって、馬鹿じゃないんです。
今まで知らされていなかったことを予想すれば、何処までを語っていいかぐらいの見当はつきます」
綱手が額に手を置く。
「何てこった……。
ヤオ子の情報の方が重要性が高い可能性が出て来た。
・
・
サクラを呼ぶ前に規制を掛けておく必要があるな」
綱手がヤオ子を睨む。
「いいか。
うちはの皆殺しに上層部が関わっていることを下の者に知られるわけにはいかないんだ。
分かるか?」
「はい。
それはイタチさんの望むところではありませんからね」
「ん?
・
・
お前、イタチの真意を知っているのか?」
「まあ、想像の範疇ですけどね」
「どうなっているんだ?
カカシ。
お前の言っていた情報と少し違う気がするぞ?」
「そうですね……。
では、ヤオ子を含めて話が終わった後で
サクラを加えるということで、どうでしょうか?」
「そうだな。
ヤオ子。
それでいいか?」
「はい」
「では、シズネ。
ヤマトとナルトをここに」
「分かりました」
シズネが部屋を出ると、ヤオ子はサスケのところまで行ってサスケを抱く。
「いつ話しましょうかね?」
「全部終わってからでいい……」
「そうですね」
ヤオ子はサスケを抱いたまま戻る。
「ちょっと待て!
置いてけ!」
「ヤダ。
スキンシップが欲しい!」
サスケ……ヤオ子に抱かれて強制参加。
…
十数分後……。
ヤマトが駆け込んで来た。
そして、一直線にヤオ子のところに走ってくる。
「ヤオ子!」
「ヤ、ヤマト先生!?」
ヤマトはガシッとヤオ子の両肩を掴むと睨みつける。
「どうして嘘をついたんだ!
ボクを信じると言っただろう!」
「……ごめん…なさい」
「いいや! 許さない!」
ヤオ子は、申し訳なさそうに俯く。
だけど、言い訳はしない。
「……言い訳はしないのか?」
「悪いことだと、分かってやりました」
「……そんなに信じられなかったのか?」
ヤオ子は首を振る。
「信じられているから、許してくれないと思いました……。
だから、怒られるのを覚悟して出ました」
「頭が切れ過ぎるというのも……。
・
・
でも、罰は受けないといけないよ」
「はい」
「歯を喰いしばる!」
「はい!」
ヤオ子が歯を喰いしばると、ヤマトの平手打ちが一発。
「もう心配掛けるのはやめてくれ……。
もう少ししたら、ちゃんと許可を出すから……」
「ごめんなさい……。
でも、今回だけは止められなかったんです。
サスケさんは、あたしに忍者の道を示してくれた人です。
大切な人なんです」
ヤマトは溜息を吐く。
ヤオ子の行動はナルトやサクラの行動にも当て嵌まり、隊長としてカカシ班を受け持って体験している。
そして、ここで割り切る。
「叱るのは、ここまで。
後は、ここでの話が終わったら、
ゆっくりと話を聞かせてくれ」
「ヤマト先生……。
ごめんなさい……」
ヤマトが、ヤオ子の頭に手を置く。
「そうやって謝れる君だから、見捨てられないんだ。
大事なことをしっかり覚えなくちゃいけないよ」
「はい」
ヤオ子が無理して里を出たのを改めて知ると、サスケは申し訳なく思う。
そして、ヤオ子に対して向き合うヤマトの態度にイタチが守ろうとした里の大事さを感じる。
(カカシもオレに大事なことを伝えようとしていたんだ……)
サスケは、カカシをチラリと見ると俯いた。
一方、綱手、シズネ、カカシは、別のことを考えていた。
(ヤオ子が折れた……)
(ヤオ子ちゃんが素直に……)
(ヤマトは、どうやってヤオ子の制御を……)
木ノ葉では、ヤマトは問題児の制御のエキスパートになって来ていた。
問題児のナルトを厳しく叱りつけたこともあるし、九尾の制御もコントロールする。
そして、今、目の前で木ノ葉で一、二を争う問題児を叱りつけて反省まで持っていった。
綱手達の目に、ヤマトが神々しく見えた瞬間だった。
その視線にヤマトが気付く。
「あの? どうしました?」
「少し優秀な部下を持った感慨に浸っていた……」
「尊敬しています……」
「オレにもそのスキルを伝授してくれ……」
「どうしたんですか!?」
ヤオ子は、何となく理由が分かった。
「ヤマト先生の価値は、推し量れませんね……」
「何で、君が悟ってるの!?」
そして、その空気をタイミングよく破るようにナルトが現れた。
「一体、何の用だってばよ?
・
・
あ。
ヤオ子だ」
「お久しぶりです」
「お前が呼び出したのか?」
「まあ、あたしのせいで呼び出されたということですね」
「もしかして!
お前とやった悪戯がバレたのか!?」
「あたしの口は堅いです。
バレるとすれば、木ノ葉丸さんのネットワークじゃないですか?」
「そうだな」
「何の話だ?」
「「何でもない」」
妙な疑問が残ったが、綱手が話を始める。
「では、あらためて。
ここに居る人間の情報を統一するために五影会談の結果と経過から話す。
いいな?」
ナルト以外が頷く。
「またかよ……」
「黙って聞け!
サスケのことも関わってくる!
それにお前達が聞いたマダラの話も関わる!」
「どういうことだってばよ」
「ヤオ子がサスケの抹殺命令に納得いかずに、里を出てサスケの情報を集めて来た。
その中にうちはイタチに関わるものもあるらしい。
その情報を理解するために全員の意識を合わせる必要があるのだ」
「分かった……ってばよ。
・
・
ヤオ子、本当なのか?」
ヤオ子はナルトに頷く。
「期待していてください。
有益な情報もゲットしています。
でも、順番に話さないと分かるものも分からなくなります。
綱手さんの話を聞いてください」
「そうだな……。
サスケのことを理解しようと思っているんだから、しっかり聞かなきゃだな」
「はい。
頭悪いんだから」
「そうだな。
・
・
って、一言多いってばよ!」
場には笑い声が漏れると、全員の気持ちが一つに向いた。
綱手の話が始まる。
「まず、五影会談の話だ。
最初は暁の動向の話から切り出し、五大国による忍連合軍の話があったらしい。
しかし、ダンゾウが進行役の鉄の国のミフネを右目に移植していたうちはシスイの写輪眼を使用して操ろうとしてバレた。
これで、木ノ葉の信用は一気に落ちた。
・
・
とは言え、その会合では暁に関わる水影の話や土影の話で何処の国も信用を落としていたので、
木の葉の信頼による被害は、それほど尋常なものではない」
ヤオ子が質問する。
「ダンゾウさんは?」
「殺された……」
「五影って、そんなに過激なの?」
「経過と共に話す。
ダンゾウが糾弾されるタイミングで、暁が乱入した。
植物のような奴だったらしい」
「あの棘々アロエヤローか!」
「ゼツさんですね」
綱手が複雑な表情でヤオ子を見る。
「お前……一体、何処まで情報を集めて来たんだ?」
「まあ、気になさらず。
今、話したら確実にぶん殴られるんで、後で纏めて殴られます」
「何で、情報収集して来た奴をぶん殴るんだ……。
まあ、いい。
・
・
その時、同時にサスケの仲間が暴れた。
……ただ、こっちは妙でな。
死人が出ていない。
それにサスケも姿を現さなかった」
ナルトが同意して話す。
「オレもそれは変だと思ってた。
マダラの話からすると、サスケはダンゾウを狙ってたはずなんだ。
だけど、姿を見せなかった」
(その時点で目的が違ってますからね)
綱手が頷いて続ける。
「だから、実際にはサスケの仲間は囮程度にしかならず、
マダラが第四次忍界大戦を宣戦布告する舞台を作る役にしかたっていない」
ヤマトがカカシに話し掛ける。
「やはり、何処かおかしいですよ。
マダラはわざわざナルトの前に現れてサスケのことを焚きつけたのに、会場にはサスケが現れないなんて」
「そうだな……。
まあ、結果的にはサクラの暴走が止められてよかったんだが……。
あの場にサスケが現れていれば、サクラはサスケに殺されていたかもしれない」
疑問が深まる中で綱手が続ける。
「そして、ダンゾウはマダラによって殺された。
更にその後の五影会談で、雷影をリーダーに正式に忍連合軍が作られることになる。
・
・
木ノ葉も、これから戦争の用意に入るだろう」
綱手の説明に、ヤオ子が腰に手を当てる。
「そういう流れだったんですね。
里の復興も終わってないのに……。
・
・
ところで。
ナルトさん達の話の内容は?」
「お前は、まだ話さない気なのか?」
「あたしの意識だけ皆さんと合ってないんだから、
ナルトさんとマダラさんの会話も聞かないと」
ヤマトが前に出る。
「ボクから話そう」
「お願いします」
「マダラはイタチの真実を語った後で、サスケの話をしたんだ。
サスケが、本物の復讐者だって」
「イタチさんの真実ですか。
では、皆さんは里の上層部がイタチさんにどんな任務を与えたかも知っているんですね?」
全員が無言で頷く。
「ヤマト先生。
マダラさんは、サスケさんをどんな風に?」
「サスケが選んだ道だと……。
サスケは、イタチを追い込んだ木ノ葉への復讐を選んだと……」
ヤオ子の唇の端が釣り上がる。
マダラは、完全に騙されている。
「そして、二人の六道仙人の子供の話になぞらえて、ナルトとサスケが戦う運命だと話していた」
「六道仙人か……。
御伽噺だと兄がうちはの子孫になって、弟が千手の子孫になるんでしたっけ?」
「ああ……。
そして、この続きが五影会談に姿を現したマダラの第四次忍界大戦の宣戦布告に繋がるんだ」
ヤオ子とサスケは、そういう流れがあったのかと心の中で思う。
ヤオ子がサスケを見ると、サスケは何も言わない。
全てヤオ子のタイミングで話していいと言っているようだった。
今度は、ヤオ子が話す番だった。
ヤオ子が全員を見る。
「あたしの番ですね。
まず、いくつか先に謝っときます。
・
・
シズネさん」
「はい」
「ごめんね。
外で危ないことして来ました」
「へ?
・
・
えーっ!?
私との約束破ったの!?」
「はい」
綱手は溜息を吐く。
「お前な……」
「そしてね。
五影会談で暴れたのに、一枚咬んでます」
「!」
綱手がヤオ子の首根っこを掴んだ。
「どういうことだ!」
「さっき、殴らないみたいなことを言ってませんでした?」
「さっき、殴られるみたいなことを言っていただろう!」
「やっぱりね。
殴られるんだ……。
全部話すんで、終わってから纏めて殴ってくれます?」
「……分かった」
綱手が手を放すと、ヤオ子は話を続ける。
「あたしはシズネさんの情報から、ナルトさん達が戦った天地橋の大蛇丸さんのアジトを回ったんです。
そこで物品リストを見つけて、大蛇丸さんの北アジトってとこを見つけたんです。
そこから北アジトに向かって、
サスケさんの大蛇丸さんのところに居た様子や実験体の人から手合わせした情報なんかを聞きました」
「大した行動力だよ……」
「ヤマト先生、ありがとう」
「褒めてないよ……」
ヤオ子はニコリと笑うと、指を立てる。
「そうするとね。
サスケさんは、その時点だとイタチさんに復讐したら、木ノ葉に帰って来てもおかしくないんです。
敵にとどめを刺さなかったり、無益な殺生をしていないんです。
・
・
では、何処でおかしくなったか?
イタチさんとの戦闘直後です。
この時、マダラさんに何かを吹き込まれたと推測しました」
ヤオ子の説明に、ナルトが声をあげる。
「ちょっと待った!
マダラの話では、サスケはマダラの話を聞いて、自ら復讐を選んだって言ってたってばよ!」
「はい。
でも、おかしいですよね?」
「何が?」
「同時にイタチさんの話も聞いたでしょ?」
「ああ」
「イタチさんは、一言も木ノ葉の出来事を言っていないのに、サスケさんが木ノ葉に復讐心を持つのって。
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イタチさんが言わないのに、木ノ葉に復讐心を持たせられる人物って誰ですか?」
「マダラ……か?」
「そう。
サスケさんが復讐を止めれなかった原因は、マダラさんにあるんです。
イタチさんは、サスケさんに木ノ葉へ帰る道を残してくれていた。
自分の死と引き換えにして」
ナルトが更に声を大きくする。
「じゃ、じゃあ!
どうして、サスケは戻って来なかったんだってばよ!」
「あたしもそこが気になりました。
そこで本人に聞くことにしました」
「「「「「え?」」」」」
「サスケさんを見つけたあたしは──」
「待った!」
説明を続けようとしたヤオ子に、ヤマトが静止を掛ける。
「何で、ヤオ子がサスケを見つけられるんだ!?」
「だって、あたし……。
サスケさんの居るとこ、大体分かるもん」
「「「「「何!?」」」」」
「さっきから、何なんですか?」
「『何なんですか?』じゃないよ!
ボク達はサスケを見つけるために感知タイプの忍も加えて大捜索をしたんだよ!」
「そうなの?」
「それなのに君はサスケの居場所が分かるって、ボク達の苦労は、何だったんだ!?」
「全て徒労だったとしか……。
言ってくれれば協力したけど、一度もそんな依頼が来てないし」
ヤマト達がズーンと項垂れた。
「オレ達の苦労って……」
「そうだよな……。
こういうデタラメな捜索でこそ、ヤオ子の真価が出るんだよな……」
「盲点だった……」
「続き話していい?」
ヤマトは無言で手を振って続きを促した。
「それで。
サスケさんに直接会って、戦闘になって死に掛けた」
全員が吹いた。
「何やってんだ!?」
「無謀にもほどがあるだろう!?」
「ヤオ子!
やり過ぎだってばよ!」
綱手とシズネに至っては、体が動いてグーを炸裂させていた。
ヤオ子は片手で頭を擦りながら続ける。
「まあ、そんな感じで。
二度目の接触で会話したんです」
「よく会話できたな……」
「イタチさんをダシに嘘ついて、会話まで漕ぎつけました」
「何て、危ない駆け引きをしているんだ……」
「まあ、その甲斐あってサスケさんの誤解は解けました」
「そうか……」
「…………」
全員が固まる。
誤解が解けた?
「どういうことだってばよ!?」
「何で、誤解が解けたんだ!?
あれだけオレ達が説得しても聞く耳持たないサスケが!?」
「ナルトさんもカカシさんも酷い言いようですね……」
(全くだ……)
ヤオ子は指を立てる。
「さっき、言ったでしょ?
復讐の定義。
イタチさんだけなら復讐が終わる。
マダラさんと接触したから復讐が終わらない。
ここを粘り強く説得したんです。
・
・
この情報がないから、皆さん説得できないんです」
「待て!」
今度は、カカシから静止が掛かる。
「ヤオ子もイタチの情報を持っていないじゃないか?」
「はい。
そこは話のテクニックで、先にサスケさんにイタチの情報を話させました。
そこから、さっきの話を組み立てて説得したんです」
「その方法は、ヤオ子じゃなきゃ取れないよ……。
口下手なナルトやヤマトじゃ無理だし、そういうことに卓越しているオレでも無理だ……」
「まあ、その変は雑務で鍛え上げた臨機応変なお客様のクレーム対応の技術がありませんとね」
「ヤオ子以外、身についてねーってばよ……」
「以上が、サスケさんを説得するまでですね」
「その後は?」
「サスケさんにお付き合いしていました。
マダラさんに『五影会談でダンゾウを抹殺しないか』と誘われましてね。
マダラさんが五影会談に行っている間に、サスケさんとイタチさんの遺体を取り戻していました」
「それで、あの変な行動に繋がるのか……」
ナルトがヤオ子の前に出る。
「じゃあ! 今、サスケは!」
ヤオ子が忍猫のタスケに変化したサスケを地面に置く。
「ここです」
変化を解いて、サスケが姿を現した。