DQD 34話
迷宮へ赴き、いつか『天空の塔』へと至ることこそが、ゴッドサイドでの最上の使命となる。それ故にこの街で冒険者は様々な便宜を図られている。
そんな街では有望な冒険者は当然噂になる。
1年近くで第三層までをクリアーしたトールは、否応なしに街で注目をされる事になる。
ランキングがあるわけでもないため、どの階まで到達したのかは他人には分かるはずもないのだが、クエスト関係があるため最低でも第三層に到達したことは分かる。
それに週にどれほど迷宮に赴くか、装備がどう変わっていったのかを見ていれば、トールがどれほどなのかは目の肥えた者なら自然と感じ取る事が出来るのだ。
そんなトールを周りが放っておくかといわれればそうではない。
多少のやっかみはある。
といっても暴力沙汰はない。そんなことになれば本人、相手、双方がとんでもないことになるのは明らかだ。
一端の冒険者相手に暴力で片をつけようとすれば、相手が気づかない内に一撃で意識を断つぐらいの事が出来ないといけない。そうしなければあっという間に回復して立ち向かってくるからだ。それではリスクがありすぎるだろう。
何とか煽て諂い騙し金を掠め取ろうとする者もいる。
哀れみや同情など人の良心や感情に訴えかけるやり方は幾らでも存在する。
例えば美女が自分の身の上にふりかかった不幸を涙ながらに語る、などだ。
元の世界の頃のトールなら一も二もなく助けただろう。だがこの世界に来て良くも悪くもトールは変わった。変わらざるをえなかった。
この世界に来たその日に死にそうな目にあい、なけなしの100Gを盗まれてた。
あの時ハッサンに助けられなければ、今頃自分はどうなっていたか考えることがある。あのまま殺されていたか、奴隷にでもされていたか、とにかく碌な事にはなっていないだろう。
あの事件の切っ掛けとなった男も見た目は大人しそうな男だった。だが現実にトールは騙されている。
人は見かけによらない。
良い教訓になったと思う。
もちろん会う人全てを疑うわけではないが、少なくとも知り合いでもないトールからお金を借りようとする者に、素直に耳を傾けるほどお人よしではなくなっていた。
だがこの世界に来て慎重になったとはいえ、あからさまに無視するほど非情になりきれないのも事実だった。かといって話が真実かを見抜く目などトールは持っていなかった。
ではどうするのか。
この世界での数少ない経験から、まずはその者が冒険者になろうとしたかどうかを調べた。
冒険者は危険だが金になる商売だ。他の場所ならともかく、この街にいて金銭関係で困っている者なら、まずは冒険者になろうとしなければおかしい。
成功すれば一攫千金も夢ではないし、そうでなくても食べていくだけなら十分出来る。
全くお金を持っていない者でも仮冒険者の制度があるため、なろうと試みる事は出来る。もしそれで冒険者になれなくてもそのまま教会付になり、一年は衣食住に困らなくなる。そして多少だが給金も出るため、その給金で一年後に冒険者の資格を得ることも可能になるのだ。
人に泣きつく前にするべきことをしているか、トールにとってそれが判断基準となっていた。それをしていない者とは話をする意味がないと思えた。
もちろん人には様々な理由があるため、全ての者に当てはまることではないが判断する一つにはなる。
違う世界から来た少年であるトールがなれたのだ。
この世界で生まれ、そして死ぬ気になってやるのなら、冒険者になる事を選択の一つとして選ぶことは十分にありえると思っていた。
少なくともトールはその選択をしたのだから。
トールがこのような対応をしているうちに、変なちょっかいをかけてくるものはいなくなっていった。
トールは別に嫌味を込めてこのような対応をしたわけではない。何かしらの対価、又は義務、理由などない無償での奉仕を、親しくもない者から過度に受けるのも気味が悪いだろうと思ったからだ。
それに冒険者としてのめどが立つのなら、余程の事がない限りお金に困る事もなくなるだろう。
これはトールが通ってきた道だった。だからこれに関して特に含むところはなかった。
結局覚悟のない者は何かしら理由をつけてトールの前から去り、そのまま二度とトールの前に顔を見せることはなかった。
色々と注目され始めているトール相手にあからさまにちょっかいをかけづらくなってきたという事もあるのだろう。
このようにトールの周りは少し騒がしくなり、そして収まることになった。
****
四ヶ月という時が過ぎたが、ビアンカ達四人との関係に大きな変わりはない。
トールが相変わらず迷宮探索をしつづけているせいもあるが、四人も迷宮探索に力を入れていたせいだ。
四人とも第一層をクリアーし、何とか冒険者と言える段階に来ているが、自動レベルアップ持ちの冒険者としては、まだまだだ。そもそも第一層自体トールの力を借りての事であり、実力とは言い難い。
それならば最低でも第二層を自力でクリアーしてこそ、初めて胸を張って冒険者といえると言う思いがあった。
近くにトールがいる分、その思いは強くなる。
日々迷宮を潜り探索を続けるトールは、レベル、スキル共に上げていく。
何もせずにいればどんどん離されてしまうのは、深く考えなくても分かることだった。
そんなトールを見ていれば、四人も自然と探索に身を入れる事になり、一日おきには迷宮探索をするようになっていた。
とはいってもさすがにトールほど頻繁に迷宮に行く事はない。
一晩寝ることによる体力等の回復力の高さは、トールの特異さを物語っているものでもある。
四人もトールと同じ『ダンカン亭』に泊まっているが、次の日に疲れが残る場合もあり、その時は休むことにしている。
疲れが残ったまま迷宮に行くほど、彼女たちは自惚れてはいない。
ほんの少しのミスが死に繋がる事は、色々な人から言われてきたことだし、実際に無理をした結果、危険な目にもあった。碌に迷宮探索も出来ずに帰った事もあった。
一般の冒険者と比べても、彼女たちは十分すぎるほど努力している。ただ比べるトールが普通ではないだけだった。
トールにしてもそんな彼女たちを見ていれば協力したくなる。といっても一緒に冒険をするわけではない。トールが迷宮で手に入れた物で彼女たちが使えそうな物を渡すだけだ。そしてそれはあくまでトールが使う事がないだろう物を譲るでなくてはいけない。そうでないと遠慮してしまい受け取ってくれないからだ。
彼女たちもトールの気遣いを気づかないわけじゃないが、冒険者としてあまり頼りきるのも嫌だったのだ。
(プレゼント:とんがりぼうし(守+9、攻魔+6、回魔+4)2個、鉄のつるぎ(攻+27)1個、おどりこのふく(守+13)1個、鉄のよろい(守+18)1個)
彼女たちは少しでも早く一人前の冒険者を名乗れるように第二層のクリアーを目指していた。
****
マーニャとは夜にカジノであったり、仕事場である劇場の方であったりしている。関係は少し進んだといえるのだろうか。
踊りの後の楽屋にトールが訪ねると、マーニャは抱きついて頬にキスをして出迎えてくれる。踊った後の汗のにおいと女性特有の、いやこの場合はマーニャのにおいが合わせ混ざった匂いが鼻腔をくすぐる。はじめは照れなどで焦ったが、今は落ち着いてそれを受け入れている。
慣れたのか、慣れさせられたのかは分からないが、マーニャの狙い通りのような気もする。
初めて出会った時、マーニャよりも少し低かったトールの背は、今はもうマーニャより高くなっていた。
楽屋には同じ踊り子のスーザンやジェシカ、アンジェらもいるが温かい目でそれを見つめていた。マーニャと同じで皆色っぽく綺麗で、そしておおらかな性格の人たちだった。
そんな中で少し気になる人がいた。一目惚れとかの色恋関係ではない。何処かで見たことがあると思える人がいたのだ。
長い黒髪の美しい女性で遊牧民族の出身だといっていた。剣を使った剣舞を得意とし、独特の民族衣装を身に纏って踊る姿は素直に綺麗だといえた。
名はアイラ。
彼女は一族の中で代々踊り手を担ってきた家系に生まれており、この劇場に来たのは修行の一環との事だった。
トールの思い違いでないなら、DQⅦのアイラだと思えた。
マーニャの知り合いとして話す程度で深く関わったわけではない間柄だが間違ってはいないように思えた。
マーニャとは以前の同じようにカジノに行くのは変わらない。勝ったり負けたりを繰り返すが、結果的にあまり変わりはなかった。
景品に関しては、良い物があれば交換しても良いとは思っていたが、重鎧や槍などのトールが使用しない物ばかりだった。良い物である事は一目瞭然なのだが、さすがに使う当てもない物に交換する気にはなれなかった。
一時期だけだがパーティーを組んで迷宮の探索を行った事もあった。
マーニャ、ミネア、ミレーユは13階での迷宮探索を主としており、その時ちょうど13層を探索していたトールともパーティーを組んで探索したのだ。
基本的に三人とも本業は別(マーニャは踊り子、ミネア、ミレーユは占い師)で、冒険者は副業としてのものであり、あくまでこの街で様々な特典を受けるためにしているに過ぎなかった。
冒険者になった時には伝えられないが、冒険者の資格だけを取り迷宮探索をしない者は、その資格を取り上げられることがあるのだ。
それに第3層にまで行った冒険者には、教会から強制的な依頼が来ることもある。それは余程の理由がなくては断ることができず、通常は引き受ける以外にない。
そんな時に冒険者としての勘が鈍っていては目も当てられない事になる。それを防ぐ意味もあり、3人は時折迷宮に潜っていた。
ある時トールが13階を探索していることを知ったマーニャが、トールを迷宮探索のパーティーに組む事を誘ったのだ。もちろんこれは一時的なものである事を前提としていたが、トールにしても断る理由はなく、たまには誰かと一時パーティーを組むのも悪くないと思い承諾したのだった。
マーニャ おんな
レベル:22
職:芸人(踊り子)
・装備
頭:ねこみみバンド(守+10、攻魔+8、回魔+5)
身体上:バニースーツ(守+22)
身体下:青いスカート(守+12、攻魔+8)
手:あおのグローブ(守+5、器+40)
足:ぶとうのくつ(守+3、避+4%)
アクセサリー:命の指輪(守+6、自動回復)
武器:れっぷうのおうぎ(攻+40)
盾:キトンシールド(守+11)
HP:116
MP:142
こうげき力:60+15
しゅび力:117
芸人スキル:8(遊び、さそうおどり、ホイミ、みかわしきゃく、リレミト、みりょく+30、バギ、ふしぎなおどり、メダパニダンス、バギマ、こうげき魔力+30、マホトラおどり、かいふく魔力+30)
扇スキル:6(扇装備時攻撃力+5、花ふぶき、といきがえし、扇装備時攻撃力+10、波紋演舞、会心率UP)
盾スキル:4(ガードアタック、盾ガード率2%、大ぼうぎょ、盾ガード率2%)
おいろけスキル:4(自動レベルアップ、投げキッス、メラ、みとれる確率アップ、みりょく+30、ヒップアタック、メラミ)
ミネア おんな
レベル:21
職:僧侶
・装備
頭:ぎんのかみかざり(守+6、攻魔+8)
身体上:まほうのほうい(守+15、功魔+12、回魔+12)
身体下:ドレススカート(守+10、回魔+6)
手:あおのグローブ(守+5、器+40)
足:白のシューズ(守+1、避+3%、回魔+10)
アクセサリー:命の指輪(守+6、自動回復)
武器:ホーリーランス(攻+39)
盾:キトンシールド(守+11)
HP:120
MP:88+20
こうげき力:88+15
しゅび力:103
僧侶スキル:7(かみのおつげ、ホイミ、キアリー、かいふく魔力+20、ラリホー、スカラ、おはらい、ザメハ、バーハ、MP+20、ベホイミ、ゾンビガード、ザオラル、キアリク、かいふく魔力+50、ベホイム、聖なるまもり、フバーハ)
槍スキル:6(槍装備時攻撃力+5、しっぷうつき、けものづき、槍装備時攻撃力+10、会心率UP、一閃突き)
盾スキル:4(ガードアタック、盾ガード率2%、大ぼうぎょ、盾ガード率2%)
神秘スキル:4(自動レベルアップ、ニフラム、バキ、まぶしい光、トラマナ、トヘロス、バギマ)
ミレーユ おんな
レベル:24
職:僧侶
・装備
頭:サークレット(守+9、攻魔+8、回魔+6)
身体上:まほうのほうい(守+15、功魔+12、回魔+12)
身体下:マジカルスカート(守+13、功魔+9、回魔+9)
手:あおのグローブ(守+5、器+40)
足:白のシューズ(守+1、避+3%、回魔+10)
アクセサリー:命の指輪(守+6、自動回復)
武器:てんばつの杖(攻+20)
盾:キトンシールド(守+11)
HP:154
MP:109+50+40
こうげき力:72
しゅび力:109
僧侶スキル:8(かみのおつげ、ホイミ、キアリー、かいふく魔力+20、ラリホー、スカラ、おはらい、ザメハ、バーハ、MP+20、ベホイミ、ゾンビガード、ザオラル、キアリク、かいふく魔力+50、ベホイム、聖なるまもり、フバーハ、MP+30、ベホマラー)
杖スキル:6(装備時MP+10、まふうじの杖、眠りの杖、悪魔払い、装備時MP+30、しゅくふくの杖)
盾スキル:5(ガードアタック、盾ガード率2%、大ぼうぎょ、盾ガード率2%、ビッグシールド)
神秘スキル:4(自動レベルアップ、ニフラム、ヒャド、まぶしい光、トラマナ、トヘロス、ヒャダイン)
レベル的にはこの時点でトールの方が高くなっており、3人を驚かせることにもなったが、それは同時にトールの頼もしさを知ることにもなった。
数回一緒に迷宮探索をした後、予定通りパーティーは別れてトールはまた迷宮探索を続けた。
****
この四ヶ月の間、仲間に関して考えることがあった。スラきちとドランに不満があるわけではない。二匹とも十分に役立っていてくれる。だがトールのフォローを十分にしているかといえば、少し心許ないのも事実だ。
今までの迷宮探索のペースから考えても、『天の塔』に至るのに順調にいっても2、3年はかかるだろうと踏んでいた。ならばパーティーに関しては、元の世界に戻れたらのことはひとまず考えない事にする。
トールの迷宮探索ペースについてこれるのかを考えればスカウトできるモンスターを本腰入れて探す方がいいだろうし、誰かとパーティーを組むのを真剣に考えるなら『天の塔』へ行くというモチベーションがあるかどうかについて考えるのがいいだろうと思えた。
そんな時、スカウトできたモンスターがいた。だが、仲間には出来なかった。いや、はっきり言おう。仲間にしたくなかったのだ。
起き上がったモンスターは『くさった死体』。そう、あの『くさった死体』だ。
生理的にあわなかった。
味方にすれば頼もしいであろう事は分かっていたが、それでもあの見た目だけは駄目だった。人(モンスター?)は見かけによらないというかもしれないが、見かけで決まる場合もあるのだ。
そういうわけで『くさった死体は』はモリーに引き渡す事にした。
モリーに頼まれた事をしているだけのはずなのに、前の二匹は仲間にしている手前、何だか悪い事をしているような気がしてしまった。だが、どう考えても一緒に行動は出来ないと思った。
「どうしても合わない者同士がいてもそれは双方が不幸になるだけだ。これから送るモンスター島には、仲間もいるし決して不幸な事ではない」
トールの事を気にしてくれたのか、モリーはそう言ってくれた。
謝礼金の事もあり、スカウトする者の中には、モンスターを渡す事を人身売買でもしている気になってしまう者もいるらしい。
モリーの言葉自体は納得出来るものであり、トールとしてはモリーに後のことを任せる事にした。
ただ今回のことで人に対して好き嫌いがあるように、モンスターに対しても好き嫌いはあり、ゲームのように強さだけを考えてパーティーを組む事ができないのはどうしようもない事だと思うのだった。
この出来事もあり、とりあえず今のパーティーで大きな問題はないため仲間のことは保留として、このままで進んでいく事にしたのだった。
****
人の人の繋がりとは不思議なものだ。それをトールは感じる。新しく知り合った者たちはその繋がりから縁を得た者たちだった。
四人の中ではソフィアとは同じ剣使いと言うことで、時々手合わせをしていた。
エルシオン学園で訓練していたためか基礎はしっかりしており、トールとしても他人との訓練はいろいろとためになることが多かった。
そんなある日、ソフィアが修練の場に見知らぬ二人を連れてきた。
「紹介しろってうるさくって……」
ソフィアは呟くと同時にため息をついていた。
そうして紹介した内の一人は彼女の兄であるソロだった。
DQⅣの男主人公であると思われる彼は、ソフィアと同じく天然パーマ気味でエメラルドの色の髪をしており、容姿も雰囲気もよく似ていた。さすが兄弟と言うほかない。
妹のことが心配で来たというのが、明らかに見て取れた。
そしてソロと一緒に来たもう一人なのだが、はじめ来たときはフードをかぶっていたため顔などは良く見えず、紹介の時にやっとフードをとったのだが、その姿はトールに衝撃を与えた。
小柄で、スレンダーで、金髪で、綺麗。まるで人形のようだが確かな存在感がある。だがそんなものより何より特徴的なのがその耳だ。先端が尖った長い耳をしていた。
エルフ、エルフである。ファンタジー世界の妖精の代表と言ってもいい。
少女はシンシアと名乗った。そうあのDQⅣで主人公の身代わりになって死んでしまうエルフの少女だった。
不躾ではあるが、ついついジロジロ見てしまったのはしょうがないことだろう。
だがシンシアに居心地の悪い思いをさせてしまったことは事実のようで、それに関しては直ぐに謝った。
まあ、慣れている事らしく許してくれたが、今後は気をつけることにする。
もっともソロには睨まれたが、これも自分が悪いのだ。甘んじて受けることにしたが、ソフィアとシンシア自身の取り成しもあり、それほど険悪な雰囲気にはならずにすんだ。
「ソロの機嫌が悪いのは、私のことだけじゃないわ。ソフィアに仲の良い男の子が出来て妬いているのよ」
微笑みながら言うシンシアに、ソロは憮然とした表情になるしかなかった。
まあ、冒険者で似たような技能を持っていることもあり、最終的には笑いながら話せるようにはなった。冒険者なんてものをやっていると、仲直り出来るものなら早めに仲直りしてしまおうという気持ちになる。
こうしてソロとシンシアの二人と知り合ったのだが、ゲームとこの世界が違うことは分かっているが、ソフィア、ソロ、シンシアの三人が仲良くしているところをみると、心の何処かがあったかくなるのを感じた。
****
「君も魔物使いなのかい?」
久しぶりに休日、街に出かけていたトールにそんな声をかけてきたのは、一人の青年だった。
頭の上にスラきちを乗せ、ドランを引き連れて歩いているトールに話しかけるものは少ない。
モンスターの中でも小型の部類に入る二匹は街中でも連れて歩けることが許可されているが、いくら安全と分かっていてもモンスターを連れている人間に、自分から話しかけようとはなかなか思わないものだ。
変なちょっかいがなくなったのは、二匹を引き連れているせいもあると思っている。そんなトールに態々話しかけてくるのだから、トールとしては驚きだった。
話しかけてきたのは黒髪に人懐っこそうな青年、年頃はトールと同じか少し上だろうか。人に警戒心を抱かせない雰囲気をもっていた。
だがそれは青年に関しての事であり、その青年から少し目をそらすと驚愕も覚える事になった。
青年の側にもトールと同じようにモンスターがいたのだ。
『従魔の輪』を身につけていることにより、危険の無いことは確かなのだろうが、何より問題なのはそこにいたモンスターの種類だ。
二匹おり、その一匹はスライムナイト、これは問題ない。問題なのはもう一匹だ。『キラーパンサー』、地獄の殺し屋とも言われる凶悪なモンスターだった。
ある一定以上の体格のモンスターは街中で連れ歩くことは禁止されているのだから、この驚きも当然のことといえるだろう。『キラーパンサー』は明らかに規定の体格を超えていた。
青年はどうやらそのことに気がついていないようだった。ということはこの青年は冒険者ではない、又はなって日が浅いのだろう。そうでなければこのようなまねをするはずがない。
いつの間にか遠巻きでこちらを見ている者ばかりになり、トールと青年の周りから人はいなくなっていた。
「何で先に行くのよ、リュカ」
トールの驚愕を余所に、そんな中で青年に向かってかけられる声があった。駆け寄ってきたのは一人の紅茶色の髪をポニーテールにした少女だった。
「あっ、ドリス」
「ドリスじゃないでしょ。何で先に行ってるのよ。それにプックルはつれて歩いちゃ駄目だって言われてたでしょ」
「でも……」
「でも、じゃないわよ、もう」
少女はため息をつくと、懐から金色の筒を取り出した。
「大人しくしなさいよ、プックル」
そう言われた『キラーパンサー』は困ったように青年のほうを見た後頷いた。
「イルイル」
次の瞬間、『キラーパンサー』は金色の筒の中に吸い込まれた。
少女は安堵の息を吐くと、青年のほうをキッと睨みつけた。
「リュカ!」
「ごめん、ごめん、悪かったよ。だけど僕や母さん以外で『魔物使い』を見るのは初めてだったんだよ。気になるだろ」
そう青年の言葉にはじめて少女は、そこにトールがいる事に気づいたようだった。
「あっ、えーと、うちのバカが迷惑かけたようでどうもすいません」
少女がトールに頭を下げる。
「その言い方は……」
「うるさいわね。グランバニアとは違うんだから気を付けなさいって言われたでしょ。サンチョも心配してたわ」
「それは……ゴメン」
「もういいわよ。それより冒険者の方ですか?」
「あっそうだけど」
「わたしたちもこれから冒険者になる予定なんです。少し話をさせてもらってもいいですか。リュカも、あなたのモンスターのことが気になっているようですし……あっ、すいません。わたしはドリスといいますわ」
「僕はトール、そしてこのスライムはスラきちで、ドラゴンキッズはドランっていうんだ」
「ボクはリュケイロム・エル・ケル・グランバニア。リュカでいいよ」
リュカのバカ正直な自己紹介に少女は顔をしかめるが、しょうがないと言った風にため息をついた。そこでリュカも自分の発言に気づいたのか口を押さえるが、どうしようもなかった。
それでもフォローするかのように傍らにいたスライムナイトも名乗る。
「私はピエールと言います。主ともどもよろしくお願いします」
この場合、空気を読んでとりあえず聞かなかったことした。
これが彼らとの出会いだった。
その後彼らの屋敷へと招待を受けることになった。屋敷では従者であるサンチョの歓待や、リュカの率いるモンスターたち歓迎を受けた。
トールが同じ『魔物使い』ではなく、スカウトリングを使用してモンスターを仲間にしたことに、少しの落胆したようだが、それでも仲良くして欲しいと言われた。
「例え理由がどうあれ、その二匹は君を慕っている。それには間違いないよ。そんな人が悪い人のわけがないじゃないか」
とのことらしい。
そしてリュカが姓を名乗ったことにより王侯貴族であるには間違いは無かったが、改めてグランバニア国の王族であることが話された。
リュカとドリスの二人は従兄弟同士であり、許婚でもあるらしく、この街に来たのは王族の武者修行の一環との事だ。最低でも迷宮の第2層を自力でクリアーするまでは帰ってくるな、とのいいつけらしい。
トールはリュカを何処かで見たことがあると思っていたが、ここにきてそれがやっと分かった。『魔物使い』でグランバニアの王族、そしてリュカという名前、DQⅤの主人公だったのだ。
両親が健在で王族として育ったためか、精悍さはあまりないがその心根のやさしさは身体からにじみ出ているように感じられた。
ドリスとの許婚関係も王族として育っていればありえると思えた。こうして見ても暢気なリュカを年下だがしっかりしているドリスが引っ張っているような感じがしいてお似合いにも見えた。
****
トールは剣の修練として時折ヒュンケルのもとを訪れていた。
自分がどれほどの腕前になったのかを確認するためと、上には上がいる事を確認して慢心しないようにするためにだ。
そんなある日、ヒュンケルから一人の人物を紹介される事になった。
鋭い目つきに精悍な体つき、何より特徴的なのが先端の尖った耳と青銅色の肌、一瞬エルフとも思えるが、エルフであるシンシアとは感じる雰囲気が全く違っていた。
そして何より見たことがある容姿、多分であるがダイの大冒険のラーハルトだと思われた。実際ヒュンケルからの紹介でそれが正しいことが分かった。
ヒュンケルとラーハルトは同じパーティーで行動していたらしく、ヒュンケルが怪我で冒険者としての一線を退いてからは、ラーハルトも冒険者を辞め、恩人夫妻の元に身を寄せていたらしい。
会って直ぐにヒュンケルの弟子という事で、ラーハルトと手合わせすることになったのだが、トールにとっては自信を打ち砕かれることにしかならなかった。
槍使いと戦うこと自体はじめてだが、それよりもその速さが驚異的だった。『空裂斬』の修練と『盗賊』の技能により、気配をつかむ事に少しは慣れてきたため何とか急所を守ることだけは出来たが、それでも防戦一方で攻撃することも出来ず負けることになってしまった。
ヒュンケルも化け物じみていると思ったが、ラーハルトもそれと変わらなかった。
「さすがヒュンケルの弟子だな。ここまで防がれたのは久しぶりだ。続けて修練すればいい剣士になる」
終わった後ラーハルトからこう言われたので、何とか面目がたったが、まだまだと感じるのはしょうがない事だった。
その後今回来た理由を話したのだが、恩人の息子が冒険者を目指すらしく、ゴッドサイドに来る際の付き添いでここまで来たとのことだった。
そうして後日にラーハルトから紹介されたのが、ディーノと呼ばれた少年だった。
そうダイの大冒険の主人公であるダイの本当の名前を持った少年だった。容姿も確かに似ている。つまりラーハルトの恩人もバランの事なのだろう。
両親が共に無事でいるなら、確かにディーノの名前のまま育っていてもおかしくなかった。
ラーハルトからは現役の冒険者の先輩としてあれこれ指導して欲しいとのことだった。
ラーハルト自身は国に妻も残しており、仕事もあるため、ヒュンケルにディーノの事を任せるために来たらしい。
「バラン殿はどうしたんだ。俺が言うのもなんだが、彼は超がつくほどの一流の剣士だ。自分では教えないのか?」
「その事だが、親子としての感情が前に出て、師弟として厳しく出来ないらしい。それで誰かいないかということになって、お前かお前の師のアバン殿にということになってな。お前がこの街にいることは知っていたから、お前に頼もうと思ったんだ」
「ラーハルトからの態々の頼みだ。断る気はないが、俺は魔法はつかえないぞ。師の方が適任のような気もするが……」
「かまわない。剣に関してなら、アバン殿よりもお前が上だ。同等以上など剣王の一族のトップぐらいだろう。それに魔法についても専門家はいるだろう」
「エイミか」
「そうだ。そちらの方も期待してこちらに預けたいんだ」
「……厳しくやっていいんだな」
「ぜひそうしてくれ。基礎体力だけはつけさせたつもりだ。遠慮なく鍛えてやってくれてかまわない」
こんな会話の結果、ディーノはヒュンケルの家に預けられた。そしてこれからは剣の修練をヒュンケルから受けるらしく、トールの弟弟子といえる存在になるらしい。
少し話す事もあったのだが、純粋ですごくいい子だった。
同一存在ではないが、漫画の主人公が自分の弟弟子になるってどうだろう、と思わないでもないが、少し嬉しく感じる自分がいた。
ソロ、ソフィア、シンシア達幼馴染。リュカ、パパス、マーサの親子。ディーノ、バラン、ソアラの親子。本編では別れる事になった者達が、この世界では共に生きて幸せに暮らしている。
奇妙な世界に来たと思っていたが、こうして心温まることに触れてトールは頬を綻ばせるのだった。
――― ステータス ―――
前回と変わらず
――― 仲間のステータス ―――
前回と変わらず
所持金、Gコイン:変わりなし
・持ち物『大きな小袋』
道具:やくそう(8個)、上やくそう(11個)、特やくそう(17個)、毒けし草(31個)、上毒けし草(5個)、特毒けし草10個、まんげつそう(2個)、きつけそう(11個)、おもいでのすず(5個)、せいすい(25個)、いのちのいし(6個)、まほうのせいすい(28個)、けんじゃのせいすい(2個)ばんのうくすり(3個)、ゆめみの花(5個)、いのりのゆびわ(3個)、ドラゴンシールド(守+25)1個、毒針(攻+1)、プラチナソード(攻+51)、かくれみのふく(守+20、避+5%)1個、ちからのルビー(攻+9)1個、まよけの聖印(守+6、即死無効)、命の指輪(守+6、自動回復)
大事な道具:モンスター袋、従魔の輪、リリルーラの粉、オクルーラの秘石、自動地図、鍵1個
・預かり所
素材:おかしなくすり(2個)、ようがんのかけら(1個)、きよめの水(5個)、まりょくのつち(4個)、こおりのけっしょう(2個)、いかづちのたま(1個)、よるのとばり(1個)、ひかりの石(3個)、鉄鉱石(6個)、プラチナ鉱石(2個)、ルビーのげんせき(4個)、こうもりのはね(13個)、まじゅうのかわ(23個)、スライムゼリー(22個)、へびのぬけがら(2個)、げんこつダケ(1個)、さとりそう(3個)、よごれたほうたい(17個)、聖者の灰(2個)、ヘパイトスの火種(1個)
装備品:
頭:バンダナ(守+1)1個、皮のぼうし(守+3、回魔+2)12個、ターバン(守+6、攻魔+3、回魔+3)5個、とんがりぼうし(守+9、攻魔+6、回魔+4)1個、きんのかみかざり(守+11、攻魔+12)1個
身体上:布のふく(守2)1個、絹のローブ(守+3、攻魔+3)7個、たびびとのふく(守+4)1個、レザーマント(守+8)1個、角つきスライムアーマー(攻+8、守+25)1個、やすらぎのローブ(守+9、攻魔+5、回魔+5)1個、くさりかたびら(守+11)1個、
身体下:あつでのズボン(守+3)、けいこぎズボン(守+5)、鉄のひざあて(守+9)
手:布のてぶくろ(守+1、器+5)、たびびとのてぶくろ(守+4、器+30)1個
足:皮のくつ(守+1、避+1%)1個、皮のブーツ(守+2)1個、エンジニアブーツ(守+6)
アクセサリー:竜のうろこ(守+5)5個、スライムピアス(守+4)、きんのゆびわ(守+2)3個、きんのブレスレット(守+3)3個、ちからのゆびわ(功+4)、金のロザリオ(守+2、回魔+7)2個、あくまのタトゥー(素+8)2個、ひらめきのジュエル(攻魔+2、回魔+2)2個、はやてのリング(素+20)3個、ピンクパール(守+3)1個、
武器:ひのきのぼう(攻+2)1個、銅の剣(攻+7)1個、まどうしのつえ(攻+7)1個、ブロンズナイフ(攻+10)1個、おおきづち(攻+10)1個、てつのツメ(攻+17)、鉄のつるぎ(攻+27)14個、はがねのつるぎ(攻+35)1個、
盾:シルバートレイ(守+6)2個
――― あとがき ―――
女性関係については、大きく変化はまだありません。
今のこの世界には魔王がいるわけでもないので、死んでいない人もいるため人間関係は変わっているところがあります。
トールは基本的に道具の類は売りません。預かり所に置く場所は十分にあるし、お金は十分にあるため、売ってお金を得る必要もないためです。まあ、トールがDQのゲームをする時にほとんど道具類を売らずにプレイしていたため、その名残のようなものです。
次回からはトールに新たな出来事があります
いただいた感想に返事は出来ませんが、指摘していただいた点は出来る範囲で直しているつもりです。
それでは、また会いましょう。