DQD 24話
トールは『ゴーレム』と戦う事を選択した。
以前なら強敵と見ればまず逃げることを考えたが、それでは駄目だと最近思っている。
これは慢心ではない。必要だと思ったからだ。
この世界で暮らしていくだけなら、安全な方法を選べば良い。今の貯えでも十分に暮らしていけるだろうし、迷宮で稼ぐことも出来る。
だが元の世界に帰ること、即ち神龍に会う事を目的とするなら、安全な道ばかりを選んで行く事が出来るだろうか。強敵と無理やりにでも戦わなければいけない時が来るかもしれない。
それを考えると、このシチュエーションは都合が良いように思えた。
実力はハッキリと分からないが、明らかに今までのモンスターより一段とびぬけて強い事は分かる。そのモンスター相手に何処まで食い下がる事が出来るか。それが知りたかった。
勿論無策ではない。勝つ算段があるから戦うのだ。
トールはゴーレムと睨み合う。トールがゴーレムを認識しているように、ゴーレムもトールの方を認識しているはずだ。
それは戦闘状態に入ったこと意味している。
だがゴーレムは動く様子を見せない。どうやらこちらから仕掛けない限り攻撃はしてもないようだ。
それならばより安全な戦い方が出来る。
「スラきち」
「ピィー(分カッテルヨ)『スクルト』」
スラきちはトールの意を汲みすぐさま呪文を唱えた。
「ピオリム」
トールも自ら呪文を唱える。補助呪文で防御力と素早さが増す。
それを一度だけではなく、数回重ねがけをして防御力と素早さを更に上げた。
まだゴーレムは動かない。
ならば更に自分に有利な状況を作る事にする。
精神を集中し『ためる』を行う。
己の身体の中に熱い力の塊が渦を巻いているのを感じる。それを計4回、自分の内に蓄えられるギリギリの限界点まで行う。
準備は完了した。ここまで来たら様子見などはしない。渾身の力での一撃を叩き込むだけだ。
剣を持ちトールは床を蹴り突っ込む。勿論『闘気法』で身体能力は向上させている。
「うおおおおおおおっ!」
気合入れて叫ぶ。それに応じるかのように剣は青い光を放つ。
ゴーレムも迎え撃つかのように動き始めるが、もう遅い。
「オーラブレード!」
咆哮。そして輝きが増し青い光を纏った剣が空を走る。
一閃!
斬!
光の刀身が伸びそれはゴーレムの頭部から股までを斬り裂いた。
正に一刀両断、必殺の一撃だった。
ゴーレムは消え去り、その後にはGと鍵が残された。
この結果にトールは少し呆然としてしまった。
確かに一撃で倒すつもりだったのは間違いないが、本当に一撃で倒す事が出来るとは思っていなかった。大ダメージを与えた事によって、自分に有利な状況を作るつもりだったのだ。
だが実際どうなったかと言えば、ゴーレムを一刀で倒すほどの一撃だ。
あの感じからすればオーバーキルだったに違いない。
『ためる』によるテンションアップとオーラブレードの併せ技。
分かりやすく数値で考えてみると、オーラブレードの特性は消費HP×2の攻撃力だ。あの時トールはもしもの時の事を考えて体力の半分ほどをオーラブレードに使った。つまりは約HP70×2=140がオーラブレードの威力でそれに攻撃力の106が加わる。つまり246の攻撃力がある。これに今度は『ためる』の効果が加わる。1回の『ためる』で約1.7倍の能力向上が見込める。それが2回目で3倍、3回目で5倍、4回目では7倍だ。それを考えると246×7=1722のダメージを与えた事になる。
一撃死も納得である。
ただ強敵と戦うであろうを予測して高まっていた緊張感が、この展開についていけず胸の中でモヤモヤを感じていた。
自身の最高の一撃が強敵を一撃で倒せるものだと言うのは勿論喜ぶべき事だ。
ただ言い様のないもどかしさの様なものが残ってしまったが、自分もスラきちも無事で勝てた事を今は喜ぶ事にした。
トールは、大きく息をつくと鍵を拾った。
そしてそのまま来た通路を引き返していく。ゴーレムが鍵を落としたのを見てある考えが浮かんだからだ。
大きな両開き扉のある広間まで戻ると、二つある鍵穴の左の鍵穴に先ほど拾った鍵を差し込んだ。ピッタリ入りそして回した。スムーズに回す事が出来たが何も起きない。片方の鍵穴しか使っていないのだからこれは当然の事だろう。
だが先ほどの鍵がこの扉の鍵である事に間違いはないはずだ。
それならば左側の通路の先で鍵が手に入ったのなら、右側の通路の先でも鍵が手に入ると思うのは当然の考えだろう。
トールは右側の通路を見たが、すぐにそちらに行こうとは思わなかった。
肉体的にはともかく精神的には大いに疲れた。頭が上手く働かない状態で強敵のモンスターと戦うのは避けるべきだ。
この日はこれで街に帰る事にした。
****
翌日は大きな両開き扉のある広間から右に延びる通路に入っていった。
扉の向こうに何があるかも定かではないのに、その先へ行く事にこだわる必要があるのかとも思ったが、何かがあるはずだと予想が付いているのに放っておけるのか、とも思ってしまった。
結果として好奇心が勝り今トールはこの通路を歩いていた。
そして左側の通路と同じように大きな広間へと辿りついた。
索敵能力で奥にモンスターが一匹いるのは分かっている。入って直ぐのこの場所からでも、広間の奥に二つの光点が爛々と輝いているのが見えた。
グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。
低く響く唸り声が聞こえる。
薄暗いためハッキリとした姿は分からないが、その輪郭から巨体である事は分かる。あの『ゴーレム』と同じぐらいの大きさだろう。
ただしあの『ゴーレム』よりもハッキリとした敵意を感じる。
こちらが何か行動を起こせば相手も直ぐに動くであろうと思われた。つまりは『ゴーレム』の時ほど準備万全では戦えないという事だ。
いや『ゴーレム』戦こそが例外なのだ。敵を前にして悠々と戦う準備が出来るなど本来あるはずがないのだ。
そしてその考えは正しかった。
トールが身構える前にモンスターがその巨体を揺らしながら突っ込んできた。
迫りくるは大きく開かれた口に巨大な牙。
トールは横に跳んでそれを避ける。
考え込んでいたため、一瞬反応が遅れたが何とかなった。
だがモンスターの攻撃はそれでは終わらない。顔をトールの方へ向けると大きく口を開いた。その奥に赤く光る塊が見えたと思った瞬間、強烈な光と熱気がトールを襲った。
トールは盾を身体の前に出し防ぎながら何とか後ろに跳んで距離をとった。
熱い、痛い。
HPという見えない鎧のおかげで直ぐに火傷するわけではないが、それでも痛みを感じるのは厄介な事だった。
そしてここに来てやっと敵モンスターの全貌を見る事が出来た。だがそれはトールに驚愕をもたらした。
目の前にいたモンスターは『ドラゴン』だった。
四足歩行のドラゴンで緑の鱗は鋼鉄のように照り光って見える。DQⅠ~Ⅲに出てきたタイプのドラゴンだ。
その四肢は大地を掴み、口からはみ出た大きな牙、その眼は炎のように爛々と輝いている。
ファンタジー世界の王道モンスターであるドラゴンにこんなに早く会う事になるとは思ってもいなかった。
会うとしてももっと地下の階だと思っていた。そのため驚きは人一倍であった。
だが『ドラゴン』の方はそんなトールの気持ちなどお構い無しだった。
グワァァァァァァァ!
その咆哮は『おたけび』でもあった。トールは抵抗して己の中に浮かび上がる恐怖を打ち消した。
先手先手を取られている。
これはトールの本来の戦い方ではない。素早さを生かして先を取り、いかに相手に何もさせずに戦うかがトールの戦法だ。
驚きで行動が鈍ってしまったが、大した怪我をしていないのは幸いだった。
ならば戦いはこれからだ。
「スラきち」
「スクルト」
トールの意を汲み素早くスラきちは呪文を唱える。
「ピオリム」
トールもまた呪文を唱える。そしてまずはドラゴンから距離を取るために走った。
ドラゴンの速さは先ほどの動きで分かった。巨体に似合わぬ速さだったが、それでもトールの方が速い。
それに呪文の後押しもあるし、もしもの場合は『闘気法』もある。
迷宮の通路でであったなら、他のモンスターの事も考えなくてはいけないため無闇に背を見せて逃げる事など出来ないが、この広間ならそんなことを気にしなくても良い。
一気に『ドラゴン』との距離は広がる。その間に『スクルト』と『ピオリム』の重ねがけはしておく。
それが終わればいよいよ戦闘開始だ。
『ゴーレム』の時のように『ためる』は出来ない。そもそも『ためる』は集中力がいる作業だ。立ち止まらなくてはする事は出来ない。その間に攻撃などされれば無防備な状態に攻撃をくらうのと同じ事であるためとても危険だ。
使うにはそれをフォーローしてくれる仲間の存在が必要不可欠だが、今のトールの仲間はスラきちだけで、そのスラきちにフォーローを頼むのはさすがに無理というものだ。
だから今回は『ためる』を使わない。
トールはまず盾の装備を換える。
盾:ライトシールド(守+10)→ドラゴンシールド(守+25)
換えた分だけ盾が大きく重くなったが、それは『ピオリム』で素早くなっている分で帳消しだ。その分防御力はもアップしている。そして何よりこのドラゴンシールドの利点は炎や吹雪に対しての耐性を持っていることだ。
カジノで手に入れたときは、もしもの時を考えて保険のような感じで交換したのだが、そのもしもの時がこんなに早く来るとは思っていなかった。
トールは転進すると意を決してドラゴンシールドに身を隠しながら『ドラゴン』に突っ込んでいった。
『ドラゴン』はトールを迎え撃つかのように口から『はげしい炎』を吐くが、ドラゴンシールドは淡い光を放ちながら炎を遮った。完全に遮れるわけではないが、それでもその効果は絶大なものに感じた。
痛みが少ないと言うだけで戦う時には有利だからだ。
炎の激流を抜けトールは『ドラゴン』の側面に躍り出た。ここまでくれば攻撃あるのみだ。
そして相手が『ドラゴン』であるなら、するべき攻撃方法は決まっていた。
「ドラゴン斬り!」
ドラゴン種に対してより大きなダメージを与える事が出来るその技は、鋼鉄のような『ドラゴン』の鱗を引き裂いた。ただの『ドラゴン斬り』ではない。『オーラブレード』で攻撃力を増した『ドラゴン斬り』だ。
ガァァァァァァァァ!
痛みのためドラゴンは吼え、その丸太のような尾を振り回してトールを襲うが、それを素早く避ける。そしてその尾に斬りつける。勿論『ドラゴン斬り』プラス『オーラブレード』だ。
HPを使うはずの『オーラブレード』は本来連発できるような技ではないが、それを連発できるには訳がある。
スラきちの存在だ。腰のモンスター袋の中から『ホイミ』をかけ続けていてくれるのだ。
MPが切れた時のために袋の中には『まほうのせいすい』も一緒に入れてある。
そのため今のトールは自動回復をしているようなものだった。二回行動をしているといっても良かった。
トールは『ドラゴン』の側から離れずに戦う。やはり一番厄介な攻撃は『はげしい炎』などのブレス攻撃だと思っているからだ。
ドラゴンシールドで威力を弱める事はできるが、それでも視界いっぱいに広がる炎を見るのは心臓に悪いし、万が一を考えてしまう。
爪や牙での攻撃は確かに強力だが、まだ避ける事が出来る。だが広範囲のブレス攻撃は避ける事は出来ない
それならば出させないようにすれば良い。そのために『ドラゴン』から離れない。
近距離でのブレス攻撃は隙が大きいから、ブレスが使われそうな時には先手を取って攻撃を潰す事が出来るからだ。
トールは何度も『ドラゴン斬り』で斬りつける。
時折爪や体当たりをくらうが、盾で防いだり『スクルト』の恩恵で攻撃自体を耐える事が出来た。もっとも強力に見える牙での噛み付きだけは注意していた。
何度目かの攻防の後、決定的な一撃がついに『ドラゴン』の首筋を斬り裂いた。
グギャァァァァァァァ!
断末魔とも言うべき咆哮を上げると、ズドンッと音を立てて『ドラゴン』は床に倒れこんだ。
そして鍵と幾らかのGに姿を変えて消えていった。
この戦いは一人では勝てなかっただろう。スラきちの援護があったからだ。
トールは腰のモンスター袋の中にいる小さな仲間に感謝した。
「ありがとう」
ボソリと呟いた一言はトールの本心からあふれ出た言葉だった。
そして精神的にも肉体的にも疲れこんだトールはその場で床に座り込んだのだった。
****
鍵を拾ったトールは二つ鍵の扉がある広間へ行った。
考えが正しいのなら、トールがモンスターを倒して得た二つの鍵は、この扉の二つの鍵と対応しているはずだ。
左の部屋で得た鍵を左の鍵穴に、右の部屋で得た鍵を右の鍵穴に入れる。二つともスムーズに入る。そして二つ同時に鍵を回した。
扉の周りが一瞬光ったかと思うと両開きの扉はゆっくりと手前に向かって開いていった。
鍵はその役目を終えたかのように消え去っている。
開いた先でトールが見たものは、階段だった。
つまりトールがモンスターと戦う決意をした事は間違いではなかったということだ。
トールが中に入ると、後ろで『バタンッ』と扉が閉まる音がした。
何かが起こるかと思い慌てて身構えるが、一向に何も起きない。
多分二匹のモンスターを倒した者以外がこの部屋に入れないようにするための仕掛けなのだろう。
目の前の階段さえ降りればそこは11階だ。つまり11階までは直通で来れるルートが出来るため、再びこの部屋に入る必要はなくなるということなのだろう。
一応の納得をすると、トールは階段を降りていった。
トールは11階に辿り着いた。
****
第3層である11階に降りたがいきなり探索はせず、次の変化期までは第2層で探索していない場所に行っていた。
宝箱:やくそう(3個)、せいすい(1個)、まほうのせいすい(1個)、上やくそう(2個)、まんげつそう(3個)、
そして数日後、前に第二層に降りた時と同じようにルイーダに呼ばれた。
「こんにちは、ルイーダさん」
「……いらっしゃい」
いつもと変わらぬ調子でトールは酒場に入るが、出迎えるルイーダの様子が変だった。細目でトールと見てため息をついたりしている。
「……何かあったんですか?」
カウンターについたトールはルイーダのあんまりな態度に尋ねずにはいられない。
「何かって、そりゃあ……まあいいわ。それは後よ。まずは冒険者酒場から冒険者への贈り物があるわ」
ルイーダは先ほどまでの表情とは変わり真面目なものになる。それを見てトールも疑問を棚上げしておく。とにもかくにもまずは冒険者の事を第一にしなくてはいけないとの思いがあるからだ。
「贈り物……ですか?」
「そうよ。11階へ、つまり第三層へ到達した冒険者への贈呈品よ」
そう言いながらルイーダは二つの三角錐の形をした石をトールの前に置いた。色は青と赤の宝石だ。
「これは二つで一組の物で『オクルーラの秘石』と言われているわ。使い方は簡単よ。赤い方の石をある場所に置いて、他の場所で青い石を持ってキーワードといえば、あっという間に赤い石のある場所に行けるっていう物よ。11階からは更に迷宮が広がるから、これまでのように潜っているとその間に変化期が来てしまうのよ。そうならないためにも、その秘石を使えば前日探索を終えた所から探索を再開する事が出来るというわけ。一度置けば生半可な事じゃあ取れないから、誰かが持っていくって言う心配はしなくてもいいと思うけど、置く場所には注意をしたほうが良いわ。ただの通路の置いたとして、次の日にその場所に行った時に周りがモンスターだらけっていうこともあるかもしれないからね。階段室のように絶対に変化しない場所やモンスターが入れない場所があるからそういう場所に設置すると良いわね。まあ大抵は階段室に置くって話しよ。そうすれば変化期が来てもその階層の初めからやり直さなくても良いしね。設置した石はこうしてもう一つの石を近づければとれるようになるわ」
置いた赤い秘石に手に持った青い秘石を近づけると、仄かに光るとカウンターから取る事が出来た。
「というわけだから、これは大切にしてね。ちなみにキーワードは『オクルーラ』よ」
ルイーダはトールに『オクルーラの秘石』を手渡した。
「もし失くしたり壊したりした場合には、次からは買ってもらう事になるから注意してね」
「高いんですか?」
「それなりにね。原価はそれほどでもないらしいんだけど、作るのに時間がかかるらしいわ。一応値段は言っておくと、一組で10000Gよ。まあ大半は寄付だと思ってくれて良いわ。後『オクルーラの秘石』は一組しか渡せないからね。いくら便利でも二組目を売ることは出来ないわ。後無制限に転移出来るわけでもないから。まあ、迷宮内ぐらいなら十分のはずよ。後、決まりでそれは迷宮内でのみの使用になっているから。それを破ると何らかの罰則があるらしいわ。分かったかしら?」
「ええっ、分かりました」
これらの決まりも悪用をさせないためのものだろう。ただで貰うものだからある程度の約束事も守るつもりだ。それに態々迷宮を繰りかえし探索しないですむ方が有意義に思えた。
「それじゃあ不機嫌な理由を教えてくれますか?」
冒険者酒場の主人としての話が終わったのなら、後は個人としての話だ。基本的にトールがルイーダの元を訪ねるのは何か用があるときだけだが、何か怒らせたりした覚えはなかった。
「不機嫌じゃないわ。呆れていたのよ」
「呆れていた?」
「そうよ。ニヶ月とちょっとで第二層を制覇するなんて早々ないわよ」
「そうなんですか」
トールにしてみればトラウマで休んでいた時期もあったため、遅れていると思っていた。
「そうなんですかじゃないわよ。普通はこの第二層で早くて半年、普通で一年、中にはここで諦める人も多いのよ。それをこんなに早くなんて、感心するより呆れてくるわよ。門の番兵の人がたまに飲みに来るけど、君があんまり頻繁に迷宮に潜るから心配だって言ってたわよ。それでその心配通り瀕死の状態で戻って来たって言うし。それで少しの間来なくなったと思ったら、前以上に頻繁に潜るようになったって言うし、心配して呆れもするわよ」
「でも一層の時もそうだったし……」
「一層はまだ狭いから、一気に探索する人も多いわ。でも二層からはその広さが違ってくるわ。肉体的にも精神的にも疲労がたまるし、週にニ、三日探索するぐらいよ」
「で、でもそれじゃあ、探索が終わらなくないですか」
「ええ、独力じゃあ終わらないわね。だから冒険者同士で協力するのよ。階段の場所とかを教えあってね」
「はーあ、そうですか」
そんな事は考えもしなかった。ゲームでの迷宮探索は基本自分ひとりで進めていくものだ。それが頭にあり、現実のこの世界でも自分で探索しなければいけないものだと思っていた。
だがよく考えれば、アリーナの時にはトール自身が迷宮を案内して協力している。
そう考えれば、冒険者同士の協力もありなのかもしれない。
「そうなのよ。ところでトール、あなた、冒険者でちゃんとした知り合いいる。パーティーを組むような仲間じゃなくても良いわ」
「……一応いますし、仲間ならこの前出来ましたよ」
「そうなの。それならいいわ」
「紹介します」
「ええ、一度連れて来てね」
「今紹介しますよ。僕の仲間のスラきちです」
トールはモンスター袋からカウンターの上にスラきちを置いた。
「ピィー(ヨロシク)」
さすがにこれはルイーダも驚いたようだった。一瞬目を見開いたかと思ったが、すぐに微笑んだ。
「あなたはわたしの想像の斜め上をいくわね。こんな可愛らしい仲間を紹介されるとは思わなかったわ。それにしてもモンスターを仲間にするなんてスカウトリングでも貰ったのかしら」
「知ってるんですか」
「冒険者酒場を経営しているのよ。それぐらいは知っているわよ。それで冒険者の仲間は?」
「……いないですね」
「わたしは君の立場を分かっているつもりだから、簡単に仲間を作れとはいえないわ。でも話や行動で思うんだけど、どうも君は一人で問題を解決しようって言う気持ちが強いように感じるわ。そう思うのも分かるつもりだし、今は成功しているから良いけど、やっぱりもう少し考えたほうが良いと思うわ」
「そうですね。そうします」
ルイーダが心配してくれる気持ちは嬉しかった。
だからそう返事をしたが、実際にどうなるかは今のトールには何とも言えなかった。
「来た時に不機嫌だったのは謝るわ。でもあまり無理はして欲しくなかったしね。じゃあ、これからも頑張ってね」
「はい」
そう言ってトールは頷いた。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:20
職:盗賊
HP:150
MP:60
ちから:54
すばやさ:51+10(+10%)
みのまもり:24
きようさ:56+20+30(+10%)
みりょく:33
こうげき魔力:25
かいふく魔力:30+5
うん:38
こうげき力:109
しゅび力:87
言語スキル:3(会話2、読解、筆記)【熟練度:38】
盗賊スキル:4(索敵能力UP、常時すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト、ピオリム)【熟練度:77】
剣スキル:6(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード、はやぶさ斬り)【熟練度:33】
ゆうきスキル:4(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス、べホイミ)【熟練度:3】
特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)、スカウト
経験値:35361
所持金:18779G
Gコイン:33880
持ち物:やくそう(55個)、上やくそう(5個)、毒けし草(24個)、おもいでのすず(5個)、スライムゼリー(3個)、まんげつそう(6個)、せいすい(6個)、いのちのいし(5個)、まほうのせいすい(8個)、スカウトリング、モンスター袋、従魔の輪、リリルーラの粉、オクルーラの秘石
――― ステータス ―――
スラきち ?
レベル:13
種族:スライム
HP:16
MP:18
ちから:8
すばやさ:19
みのまもり:14
かしこさ:23
うん:22
こうげき魔力:5
かいふく魔力:5
こうげき力:8
しゅび力:14
言語スキル:0
スライムスキル:2(自動レベルアップ、ホイミ、スクルト)
――― あとがき ―――
ゴーレム、瞬殺。
初めの予定ではもっと苦戦する予定でした。岩のゴーレムの防御力に苦戦し、倒せそうなところで『瞑想』を使われHPを回復されるなど、倒すまで一苦労するはずでした。
ですが相手に攻撃されるまで攻撃はしないという性質は初めからあった設定のため、それを基に考えていくとどうしても本文のようにしかなりえない。
慎重なトールが何の準備もせずにゴーレムに突っ込む何てことはありえない。補助呪文で万全準備をして、それでもなお相手が何もしてこないなら、『ためる』でテンションを上げる事もするだろう。そう考えていくと結果は本文の通りでした。
あまりにもあっけなかったため拍子抜けでしょうが、皆さんいかがだったでしょうか。
とりあえずここまでが2章『剣とトール』になります。
トールは一端の冒険者にはなりましたが、まだまだこの世界になれているわけではありません。先は長そうです。
ちなみに今回の中ボス二匹、気づいた人もいるかもしれませんが、DQⅠで中ボス扱いだったモンスターです。
DQD 23話で剣スキルの【熟練度】が間違っていました。52ではなく21でした。
それでは、また会いましょう