DQD 23話
仲間になったスライムは小さく可愛らしいが、このまま連れてはいけない。
人に害を与える、又は与えられる存在には見えないがモンスターである事に変わりはない。
何もしないで街中には入れる事は出来ない。
ではどうすれば良いのかと言えば、そのために貰ったのが首輪のようなものだ。
正式名称を『従魔の輪』というが、これを身につけているモンスターは人の管理下にいる事を示し、街中に入れるようになるのだ。
もっとも連れて歩けるのは小型で比較的性質のおとなしいとされるモンスターに限られる。いくら『従魔の輪』を身につけていたからといって、ドラゴンなどはさすがに街中に入れることは出来ない。
これは元の世界で言えば街中にトラを連れて歩きまわるようなものだ。いくら大人しいといっても周りの人間の不安がなくなるわけではない。
普通のスライム程度の大きさなら問題はないし、このスライムに至っては更に小さいため問題ない。
『従魔の輪』をスライムに近づけると、見る見るうちに『従魔の輪』は小さくなっていく。そして小さなスライムに見合うだけの大きさになると、小さなとんがり帽子のようにスライムのとがった頭に被さった。
後は冒険者の仲間としての登録だ。
これが終われば小さなスライムはトールの仲間として扱われる事になる。
そのためにも一度ルラムーン草で作った粉、正式名称『リリルーラの粉』を使って、モンスター預かり所へ送らなければならない。そうすれば送った先で登録の手続きを進めておいてくれるとの事だ。
「少しだけ先に行っていてくれるか?」
トールの声にスライムは頷く様に身体全体を縦に揺らした。
トールは『大きな小袋』から『リリルーラの粉』を取り出すと、スライムに降りかけた。すると一瞬にしてスライムの姿がここから消え去った。
今頃はモンスター預かり所にいるだろう。
モンスターをスカウトした以上もうここには用はない。『リリルーラの粉』の効果は聞き及んでいるが、初めて使用なので実際にはどうなっているか不安になる。
仲間になった小さなスライムの事が気にかかるの事もあり、トールは迷宮を出る事に決めた。
****
「早くもスカウトに成功したようだね、ボーイ」
オーナー室を訪ねたトールをモリーは喜んで迎え入れた。
モンスター預かり所は、『魔物使い』であればその職に就いたときに場所を教えてもらえるが、そうでない者にはその場所は秘密とされ簡単には教えてもらえない。
これはスカウトリングを持つ者に対しても同じだ。これはモリーが開発した技術であり、決して『魔物使い』になったわけではないからだ。
一度モンスターをスカウトする事により初めてその場所を教えてもらえる。
今回初めてスカウトに成功したトールは、スカウトしたモンスターと会うためにモリーと共にモンスター預かり所に向かう必要があった。
モンスター預かり所の場所は、意外というか、やはりといってもいいのかもしれないが、この闘技場の更に地下に存在していた。カジノと作り同じで小奇麗な部屋で机と4脚のイスがあり、奥に鉄格子の扉があるのが特徴的だった。
このモンスター預かり所はモリーがその財力で無理やり新たに設置を認めさせたそうだ。
他の『魔物使い』も使えるが、場所が場所だけにモリー専用のモンスター預かり所だといってもいい。正確に言えばモリーと彼がスカウトリングを渡した者たちのモンスター預かり所だ。
モリーからスカウトリングと貰った者がスカウトしたモンスターはすべてここに送られてくる。
そこでモリーから紹介されたのは一人の老人とバニー姿の美女だった。
「ボーイ、こちらのご老人がここを管理してくださるモンスター爺さん、通称モンじいだ。本名はわたしも知らない。そしてこのレディーが助手のイナッツさんだ。モンじいの補佐やモンスターたちの世話をしてくれる」
「よろしくお願いします」
トールは頭を下げた。
「よろしくのう」
「よろしくお願いしますわ」
「おふたりとも、このボーイが新しくスカウトリングを授けた少年だよ。つい先ほどスカウトしたとの事なのでのでここに連れて来たんだ。こちらに送られてきているはずだが……」
「ああ、あのスライムのマスターかい。まあ随分と珍しいのをスカウトしたもんだ」
「ほう、それほどですか」
モンじいの言葉にモリーが驚きと喜びの混じった声を出す。
「まあ、まずは登録を終えるのが先じゃな。イナッツ、つれて来ておくれ」
「はい、分かりました」
イナッツは部屋の奥にある鉄格子の扉を開けるとその先へと消えていった。
そして少しして両手のひらの上に小さなスライムを乗せて戻ってきた。そして机の上にゆっくりと置いた。
「ほほう、確かにこれは珍しいですなあ」
モリーが感心したように言う。
「モンスターも人と同じで大きさには個体差があるが、ここまで小さいのはわしもさすがには始めて見るよ」
モンじいも伸びた顎鬚をいじりながら話す。
「とりあえずは登録じゃ。おぬし、トールとか言ったのう。このスライムのマスターになる事に異論はないか。モリーに譲るのならここから先はモリーに聞かなくてはいけないからな」
「……僕がなります」
少し悩んだ。可愛いらしいとは思うが、戦力として当てになるとはまったく思えなかった。ただ初めて自分で仲間にしたモンスターの面倒ぐらい自分でしたいと思った。
ペットを新しく飼う時の気分に似ているのかもしれない。ちゃんと世話できるのか少し心配になったのだ。
モリーはというと、一瞬少しだけ物欲しそう顔をしたがすぐに元に戻った。スカウトしたモンスターを自分の仲間にするかどうかは、スカウトした人に任せると初めに約束した事だからだ。
「ならば、このスライムの名前は何というのかね」
「名前……ですか」
ゲームでは仲間になったときにすでに名前があったため、そんな事はまったく考えていなかった。
「この子はおぬしによって新しい生を得たのも同然じゃ。ならばおぬしは親同然。親としてこの子に名をつけてやらねばならん。そうすることによって初めてこの子はこの世界で生きていけるようになる。名を得られるまではこの子は幻のような存在に過ぎん。見てみなさい。おぬしのほうを見つめてはいるが、生きているように感じるかい。まるで人形のようにも感じるはずじゃ」
そう言われてみていると、確かに躍動感が感じられない。生気を感じられないとはこのような状態を言うのだろう。
「……確かにそうですね」
「そうじゃろう。だからこそまずは名前じゃ。それがこの子がこの世界にいる証となる。さあ、なんと言う名前だい」
トールは腕を組んで考え込む。
スライムの定番といえばやはり『スラりん』だろう。犬にポチやハチ、猫にタマと同じように直ぐに思い浮かぶ名前だ。
ただ『スラりん』は、以前バトルロワイアルで同じ名前のスライムと会っている。さすがにそのスライムと同じ名前にする気は起きない。
「スラきち」
トールの頭に浮かんだのはこの名前だった。何か所以があるわけではない。何となく思い浮かんだだけだがそれでいいような気がした。
「スラきちか、良い名だねえ。ならおぬしはその名前を思いながらそのスライムに冒険者カードを触れさせておくれ」
モンじいの言う通りにトールは冒険者カードをスラきちに触れさすと、一瞬だけカードは光を放った。
「それじゃあ、次はこの紙の上にカードを置いておくれ。それで登録終了だよ」
言われたようにモンじいが机の上に広げた紙の上に冒険者カード置くと、カードと紙が一瞬光を放った。
「うむ。これでスラきちはお主の仲間じゃ。大事にするんじゃぞ」
その瞬間、スラきちの瞳にも生気が宿ったような気がした。
「ピーピィ(ヨロシク、マスター)」
スラきちの声が聞こえる。
「よろしく」
トールは答えた。
――― ステータス ―――
スラきち ?
レベル:1
種族:スライム
HP:2
MP:0
ちから:1
すばやさ:3
みのまもり:1
かしこさ:1
うん:3
こうげき魔力:1
かいふく魔力:1
こうげき力:1
しゅび力:1
言語スキル:0
スライムスキル:0(自動レベルアップ)
分かっていた事だがやはり弱い。戦闘の役にはたたないだろう。
だが仲間になるモンスターは自動レベルアップの特技を持っている。いずれは強くなるかもしれないので気長に待つしかないだろう。
使用した『従魔の輪』や『リリルーラの粉』は、このモンスター預かり所で買うことができる。両方とも500Gだ。念のために一つずつ購入しておいた。
後ここでは『魔法の筒』が売られている。『ダイの大冒険』の中ででてきたアイテムでモンスターを中に封じる事が出来る金属の筒だ。
筒一本でモンスター一体にしか効果はないが、『イルイル』でモンスターを筒の中に封じ込め『デルパ』で開放する事が出来る。入るモンスターの承諾がないと効果はないが、どれほど巨大なモンスターだろうと封じ込めてしまう。
街中に連れ込めないモンスターがいる場合、『魔物使い』はこの『魔法の筒』の中に仲間のモンスターを封じて街に入るのだ。
何度でも使用可能なため一流といえる『魔物使い』なら大抵5本はこの魔法管を持っていた。
一本当たり10000Gと高価だが、それでも街に入るたびに『リリルーラの粉』を使って仲間のモンスターを預かり場に送るよりは結果的に安くなる。
ただ今のトールには必要ない。手に乗るほど小さなスライムであるスラきちなら連れて歩く事も可能だからだ。
別れ際にモリーはある道具屋を紹介してくれた。モンスター専用の装備品などをオーダーメイドで作って貰える所だ。
人間の武具を装備できるモンスターならば何も問題ないが、中にはそうでないものもいる。スライムなどはその典型的なモンスターだ。
ゲームなら店で普通に売っているが、需要が少ないモンスター用の装備は特別に造ってもらうしかない。
トールはまずはその店に向かう事にした。
スラきちを迷宮に連れて行く以上、少しでも装備を整え守備力を上げておきたかったからだ。
店自体はカジノの近くにあった。
店で店主にスラきちを見せると、それはもう驚いていたが、直ぐに気を取り直してこちらの用件を聞いてきた。
トールが頼んだのは二つ。一つはスラきちの防具だ。
これは今までにもスライム専用で作ってきた防具があるため、それの大きさを変えて作ってもらえることになった。
もう一つははスラきちが入れるような袋だ。
腰巾着のような袋で街中や迷宮内で移動する時などにはその中に入ってもらうつもりだった。だからなるべく良い素材で居心地がよさそうな寝袋のようなもので、尚且つ頑丈な物を頼んだ。
珍しい頼みごとで力が入ったのか、店主は直ぐに作り始めてくれた。
スライムアーマー(特注品):守+25【1500G】
モンスター袋(特注品):【3000G】
そして二つは翌日までに作られた。
値は張るが良い物を作ってもらえたと思う。
ただスライムアーマーをつけたままでモンスター袋に入るのは居心地が悪いらしく、スラきちが嫌がるそぶりをしたため、結局はスライムアーマーをつけずにモンスター袋に入れて連れて歩く事にした。
もっともモンスター袋は『大きな小袋』と同じように丈夫なため、余程の事がない限りその中にいれば心配ないはずだ。
宿屋の方もスラきちなら何も問題はなかった。ビアンカなどは可愛らしいと喜んだぐらいだった。
****
6階からの迷宮探索の再開だ。
スラきちには腰のモンスター袋に入ってもらう。聞き分けよくこちらの言う事を聞いてくれた。
モンスターの本能でこの階のモンスターに自分ではどうしようもない事を分かったのかもしれない。小刻みに震えているのが分かった。
だからといって置いていくわけにはいかない。強くなるにはレベルアップしかないのだ。
登録した仲間のモンスターは、他の冒険者とパーティーを組んだ時と同じ効果を持つ。それ故に経験値の分配も出来る。ただ違うところは冒険者同士のパーティーは基本的に等分に経験値を振り分けるが、仲間になったモンスターへの経験値の振り分けはマスターになった者が決める事が出来る。つまり経験値の殆どを仲間のモンスターに振り分ける事も出来るし、また逆に経験値を全く渡さずにマスターだけが得る事も出来る。
自分と仲間のモンスターをどのようにレベルアップさせていくかはマスターのさじ加減一つで決まるのだ。
トールは自分に2/3、スラきちに1/3の経験値を分配する事に決めている。戦いの主体は自分であると思っているが、スラきちもレベルアップをして強くなってもらいたいという思いからこうなった。
「大丈夫だよ」
腰のモンスター袋に手を当てながらトールは言った。その言葉が通じているかは分からないし、通じたからと言って簡単に恐怖を克服できるわけでもない。しかし放っておくわけにもいかず、ついつい口に出した。
トールはそのまま探索に向かうしかなかった。
新しく手に入れた武器や防具の威力は遺憾なく発揮された。
トールの一撃は容易くモンスターを一刀両断する。大怪我をする以前から一対一での戦闘なら勝てていたのだ。
剣の能力が大幅に上がり、防具により防御力も上がった今の状態では、よほどの油断をしない限り遅れは取らない。
そして大怪我から復帰した今のトールにはその油断がなかった。
索敵能力で探りながら迷宮を探索していく。
途中で迷いながらも宝箱を見つけたりしながらも進んでいくが、やはり鍵がないことがネックになる。
通路の途中で鍵のかかった扉があれば引き返して別の通路を行かなくてはいけない。そして後から地図を見てみれば、鍵さえあればあっという間に行ける距離を遠回りしている事が分かる。宝箱にも鍵がかかっていれば諦めなくてはならない。
やはり『鍵屋』を見つけなくてはならないが、今のところは見つかっていない。何とかしたいところだった。
6階以降の迷宮は格段に広いと改めて感じる。それ故探索時間もかかる。
1~5階のようにその階全てを探索しつくすというようなことは出来ない。そんな事をすれば探索途中で変化期が来てしまうだろう。そうなれば、また最初から探索のし直しだ。どれだけ時間があっても足りなくなってしまう。
そういうわけで、階段が見つかったら直ぐに降りる事にしている。余裕ではなく今の自分の強さと周りのモンスターの強さを測った結果でもある。手に入れた武器屋防具にはそう思えるだけの強さがあった。
最もその階段を降りたとしてもそれが正解とは限らない。降りた場所が袋小路のようになっている可能性もある。こればかりは運次第だろう。
10日ほどかけて6階、7階を突破して8階に降りた。以前死に掛けた場所だ。
装備も充実し、気力も充実し、油断もない。だが心に余裕もないような気がする。随分と緊張しているのが分かった。
「ピィーッピ(大丈夫?)」
スラきちにもその緊張が伝わったのだろうか。腰のモンスター袋から顔を出して心配そうに尋ねてくる。
「うん?平気だよ。ありがとう」
スラきちを見て少しだけ気が楽になった。戦力になるわけではないが仲間がいるという事を心強く感じた。それに伴い責任感もだ。
ここまでにスラきちもレベルが上がってきてはいるが、まだこの階層のモンスターと戦えるほどではない。戦えば一撃でやられるだろう。それはトールが死ねばスラきちも死ぬという事を意味している。
スラきちからの信頼を十分に感じる。それを裏切らないためにも軽挙は慎むべきだろう。
ただ余程の事がなければ、危険に陥らないと思っている。落ちついて冷静に物事を進めていけば、問題は何もないだろう。
事実、8階の探索は以前のようにモンスターハウスに入り込むような事もなく、何事もなく進み9階に降りる階段を見つけた。
6,7,8階の宝箱:やくそう(8個)、せいすい(3個)、まほうのせいすい(2個)、おもいでのすす(1個)
****
9階に出現するモンスターは『ホイミスライム』、『どくやずきん』、『マタンゴ』、『ブラウニー』に加え、新たに『どぐうせんし』と『まじゅつし』だ。
『どぐうせんし』はその名の通り土偶の形をした人形型のモンスターで、陶器製の様に見えるが金属製のように硬い。攻撃方法は直接攻撃のみだが補助魔法を使う。『スカラ』で己の守備力を挙げ、『ルカニ』で相手の守備力を下げると戦法をとる。一対一なら何の問題もないが、集団で来られると厄介な相手となりえる。
『まじゅつし』は人型のモンスターで『まほうつかい』の強化版だ。顔を覆う奇妙なマスクは変わらないが身体を覆うローブの色が違い、手に持つ杖も大きくなっている。攻撃魔法『ギラ』と『ドルマ』を使い、補助魔法で魔法を封じる『マホトーン』を使う。基本的に遠距離からの魔法攻撃を行ってくるため如何に近づくかが問題になるだろう。
両者とも出会えばなるべく早く倒したい相手だが、どちらが先かといえば『まじゅつし』からだろう。『ギラ』の呪文は、モンスター袋の中のスラきちにも多少だがダメージを与えるかもしれない。もしもの事を考えると『まじゅつし』から先に仕留める事になる。
もっともトールの基本戦術は索敵能力を使っての先制攻撃のため、余程の集団でない限り相手に魔法を使わせずに倒した。
9階も特別問題なく探索は進んだ。
スラきちが呪文を覚えて、少しずつだが迷宮探索の役に立ち始めたのが特記するべき事だろう。
探索自体は階段の発見を第一としながらも、その途中で宝箱を見つけたりもした。
武器や防具の恩恵はこの階でも健在だ。
レベルは大怪我した時とそんなに変わっていないはずなのに、モンスターとの戦闘が格段に楽だ。
もし最上級の武器と防具があれば、素人が一流の冒険者相手に勝つ事もありえるかもしれないと思える。
もっとも油断していればと言う仮定が付くが、それでもこれは常に油断しないためにも覚えておくべき事だろうと思った。
9階の空箱:上やくそう(3個)、まんげつそう(2個)、まほうのせいすい(1個)
****
10階、第二層の最終階だ。
この前の変化期からおよそ30日が過ぎている。
思えばトラウマで迷宮に入れなかった分を取り戻すかのように、この1月ほどは迷宮探索を続けてきた。勿論5日に1日ぐらいの割合で休んでいるが、ハイペースだった事に間違いはないだろう。
変化期の周期は平均50日前後だが決まっているわけではない。30日を過ぎたのならもう何時変化期に入っても不思議ではない。
せっかく10階まで降りてきたのだから、何とかこの階をクリアーしたいと思う。そうしないとまた6階から探索し直さなくてはいけなくなる。
だが無理をした挙句に死んでしまっては意味がない。
トールは逸る気持ちを抑えながらも、冷静に迷宮探索を続けようと勤めた。
10階に出現するモンスターは『ホイミスライム』、『どぐうせんし』と『まじゅつし』に加えて『おおめだま』、『ひとくいサーベル』、『さそりアーマー』だ。
『おおめだま』は巨大な一つ目が特徴のモンスターで、その青い身体や手足はその巨大な一つ目を支えるためのものに見えるほど小さい。普段は直接攻撃しかしてこないが、その真価を発揮するのはHPが半分以下になった時だ。巨大な一つ目を真っ赤にして痛恨の一撃を放つ。この痛恨の一撃が目からレーザーのような閃光を発射する。発射する時は一瞬目が光るためそれを見逃さなければ避ける事は出来るが、見逃してしまえば避ける事は出来ないだろう。トールは『おおめだま』を大抵一撃で倒す事が出来るため、目を真っ赤にした状態の『おおめだま』には滅多に会う事はないが、それでも面倒と言う感想は持っている。とにかく倒す時は時間をかけずに一気に決めなければいけないモンスターだ。
『ひとくいサーベル』は剣に顔と手が生えており、空中を飛んでいるモンスターだ。直接攻撃として体当たりをしてくるし、その際の一撃が痛恨の一撃である事も多々ある。だがそれ以上に厄介なのが、『ひとくいサーベル』は集団で出て来るということだ。そして仲間も呼ぶ。一匹、一匹は決して強くないが、数という力で攻めてくる。対処法としては、仲間を呼ぶような暇を与えない事だろう。『ひとくいサーベル』は仲間を呼ぶ時、空中で止まらなければならない。飛び回ったままでは仲間を呼べないのだ。トールとしてはその空中で止まっている『ひとくいサーベル』から攻撃を仕掛けて、仲間を呼ばせないようするのだ。
『さそりアーマー』は身体が鎧の様になっているサソリ型のモンスターで、大凡集団で襲い掛かってくる。ハサミと尻尾で攻撃してくるが、注意するのは尻尾での攻撃だ。時折痛恨の一撃を出すし、サソリらしくその尻尾で毒攻撃をしてくる。身体が鎧のようであるためか守備力もある。嫌らしいモンスターだ。
10階で新たに出てきたモンスターは、どれも痛恨の一撃と言う大ダメージを与える攻撃法を持っている。一撃でやられるほど弱くはないし、大振りで隙もある攻撃方法のため避けることも出来るが、それでも嫌な攻撃である事に変わりはなかった。
10階を探索して3日目、長めの通路を抜けた先の広間で奇妙な扉を見つけた。普通より大きな両開けの扉に鍵穴が二つ。明らかにその先に何かがありますと語っている。
問題は鍵だ。これが『鍵屋』で買える鍵が二つ必要だというならば、街での鍵屋探しに専念する必要も出てくるかもしれない。
少し考えるがとりあえずは扉の事はどうにもならないため今は放っておくしかない。
まずは他を探索してそれでもどうしようもない時は改めて鍵の事を考えるしかないだろう。
トールは探索を続ける事にした。
この広間は二つ鍵のある扉を前に背後に今通ってきた通路があり、左右にも通路が延びていた。
まずは左の通路に行く事にする。枝分かれのない通路が続き、やがて迷宮の中では不釣合いなほどの広間に入った。
索敵能力で奥にモンスターが一匹いるのが分かった。
トールはおかしな感じを受けた。
6階に降りてからは、モンスターが一匹でいることなど殆どなかった。最低でも二匹。
それなのにここにきて一匹しかいないとはどういうことだろうか。
用心するに越した事はないだろう。
トールはHPを確認する。満タンだ。まずは問題ないだろう。
トールはゆっくりと近づく事にする。この広間では不意打ちによる先制攻撃も出来ない。
薄暗い迷宮の中で次第にその姿がはっきりとしてきた。
3メートルはあろうかという人型の石人形。その威圧感は今まで会ったモンスターなど比べようもなかった。ルイーダが言っていた10階ごとのとてつもなく強いモンスターとはこいつの事なのだろう。
『ゴーレム』があらわれた。
どうしますか?
心の中でこんな選択肢が出たような気がした。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:19
職:盗賊
HP:135
MP:57
ちから:51
すばやさ:48+10(+10%)
みのまもり:23
きようさ:54+20+30(+10%)
みりょく:32
こうげき魔力:23
かいふく魔力:28+5
うん:36
こうげき力:106
しゅび力:85
言語スキル:3(会話2、読解、筆記)【熟練度:36】
盗賊スキル:4(索敵能力UP、常時すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト、ピオリム)【熟練度:68】
剣スキル:6(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード、はやぶさ斬り)【熟練度:21】
ゆうきスキル:3(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス)【熟練度:88】
特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)、スカウト
経験値:31422
所持金:13608G
Gコイン:33930
持ち物:やくそう(53個)、上やくそう(3個)、毒けし草(24個)、おもいでのすず(5個)、スライムゼリー(3個)、まんげつそう(4個)、せいすい(5個)、いのちのいし(5個)、まほうのせいすい(13個)、スカウトリング、モンスター袋、従魔の輪、リリルーラの粉
――― ステータス ―――
スラきち ?
レベル:12
種族:スライム
HP:15
MP:16
ちから:7
すばやさ:16
みのまもり:13
かしこさ:20
うん:21
こうげき魔力:5
かいふく魔力:5
こうげき力:7
しゅび力:13
言語スキル:0
スライムスキル:2(自動レベルアップ、ホイミ、スクルト)
――― あとがき ―――
中ボス登場、というところでしょうか。
スライムの名前はスラきちとしましたが、チロルとどちらにしようか悩みました。今もまだ悩んでいます。
それでは、また会いましょう