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No.13837の一覧
[0] DQD ~ドラゴンクエストダンジョン~ (現実→オリジナルDQ世界)[ryu@ma](2010/10/02 23:31)
[1] DQD   1話[ryu@ma](2009/11/10 23:28)
[2] DQD   2話[ryu@ma](2009/11/10 23:42)
[3] DQD   3話[ryu@ma](2009/11/11 23:03)
[4] DQD   4話[ryu@ma](2009/11/12 22:35)
[5] DQD   5話[ryu@ma](2009/11/14 00:01)
[6] DQD   6話[ryu@ma](2009/11/14 22:32)
[7] DQD   7話[ryu@ma](2009/11/15 23:14)
[8] DQD   8話[ryu@ma](2010/01/03 22:37)
[9] DQD   9話[ryu@ma](2010/01/03 22:37)
[10] DQD   10話[ryu@ma](2010/01/03 22:38)
[11] DQD   11話[ryu@ma](2010/01/03 22:38)
[12] DQD   12話[ryu@ma](2010/10/07 22:18)
[13] DQD   13話[ryu@ma](2010/10/07 22:19)
[14] DQD   14話[ryu@ma](2010/10/07 22:21)
[15] DQD   15話[ryu@ma](2010/10/07 22:22)
[16] DQD   16話[ryu@ma](2010/10/07 22:24)
[17] DQD   17話[ryu@ma](2010/01/31 22:16)
[18] DQD   18話[ryu@ma](2010/01/31 22:08)
[19] DQD   19話[ryu@ma](2010/02/07 22:28)
[20] DQD   20話[ryu@ma](2010/02/14 21:42)
[21] DQD   21話[ryu@ma](2010/02/28 23:54)
[22] DQD   22話[ryu@ma](2010/03/28 23:23)
[23] DQD   23話[ryu@ma](2010/03/28 23:23)
[24] DQD   24話[ryu@ma](2010/03/28 23:24)
[25] DQD   25話[ryu@ma](2010/03/28 23:35)
[26] DQD   26話[ryu@ma](2010/05/10 23:13)
[27] DQD   27話[ryu@ma](2010/04/14 23:31)
[28] DQD   27.5話[ryu@ma](2010/05/10 22:56)
[29] DQD   28話[ryu@ma](2010/05/10 23:18)
[30] DQD   29話[ryu@ma](2010/05/28 22:28)
[31] DQD   30話[ryu@ma](2010/06/13 00:30)
[32] DQD   31話[ryu@ma](2010/07/06 22:16)
[33] DQD   32話[ryu@ma](2010/09/03 20:36)
[34] DQD   33話[ryu@ma](2010/10/02 23:14)
[35] DQD   34話[ryu@ma](2010/10/02 23:11)
[36] DQD   35話[ryu@ma](2010/10/02 23:21)
[37] DQD   35.5話[ryu@ma](2010/10/07 22:12)
[38] DQD   36話[ryu@ma](2010/11/21 00:45)
[39] DQD   37話[ryu@ma](2010/12/07 23:00)
[40] DQD   38話[ryu@ma](2010/12/30 22:26)
[41] DQD   39話[ryu@ma](2011/01/26 23:03)
[42] DQD   40話[ryu@ma](2011/02/09 22:18)
[43] DQD   41話[ryu@ma](2011/03/02 22:31)
[44] DQD   42話[ryu@ma](2011/05/15 22:07)
[45] DQD   43話[ryu@ma](2011/09/25 22:54)
[46] DQD   44話[ryu@ma](2011/12/30 21:36)
[47] DQD   45話[ryu@ma](2012/05/04 21:57)
[48] DQD   46話[ryu@ma](2012/05/04 21:50)
[49] DQD   47話[ryu@ma](2013/03/22 23:00)
[50] DQD   47.5話[ryu@ma](2013/03/22 22:57)
[51] DQD   48話[ryu@ma](2013/10/11 22:33)
[52] DQD   設定[ryu@ma](2010/10/07 22:13)
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[13837] DQD   17話
Name: ryu@ma◆6f6c290b ID:f1358df9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/31 22:16
DQD   17話

アリーナと分かれた次の日の夜、以前会った酒場にトールは向かった。
用件はハッサンへ依頼達成の報告と報酬の受け取りをするためだ。
熱気と酒気と喧騒に満ちた酒場の雰囲気は、相変わらずトールには馴染まなかった。
酒場では以前の時と同じく、ハッサンは戦士風の男といた。
酒場に入ったトールをハッサンはいちはやく気づき、「こっちだ」と叫びながら手招きで呼んだ。
トールも直ぐにそれに気づいてハッサンの方へ歩いていく。そして軽く挨拶を交わしてからテーブルについた。
戦士風の男は気になったが、まずはハッサンとの話が先だった。

「呼び寄せて悪かったな」

「いいですよ」

「アリーナも感謝していた。勿論俺もだ。さて、とりあえずは依頼のことから終わらせておこう。はっきりと聞くが、アリーナは冒険者としてどうだった?」

「そうですね……何年も修行しているだけあって、強さだけで言えば十分だと思います。といっても僕自身まだ素人の域から脱しているとは言えないから説得力がないかもしれませんけどね。でも1階から5階までなら問題ないと思いますよ。ただ探索自体は、今回僕がいましたから実際はどうか分かりませんね。ただ僕から言えば一人よりパーティーを組んだ方が良いとは思いますね」

「要は探索技術さえあるなら大丈夫だってことか」

「そんな感じですね」

「そうか」

ハッサンはゆっくりと大きく息を吐いた。

「アリーナから聞いているかもしれんが、今回のは、うちの流派の試験と言うのもあるが、それ以上にアリーナが冒険者としてやっていけるだけの強さがあるかを知るためのものでな。色々迷惑をかけたてすまなかったな。助かったよ。じゃあこれが報酬だ」

そういってハッサンが取り出したのは頭防具の『おしゃれなバンダナ(守+7、回魔+5)』とアクセサリーの『竜のうろこ(守+5)』だった。
アクセサリーは身につけることで様々な効果を発揮するが、一つしか身につけることが出来ない。というのも複数身につけるとアクセサリーの持つ効果が打ち消しあってしまい、結果ただの装飾品を身につけているだけになってしまうからだ。
貰った物は二つとも非売品で手に入りにくいものだった。

「ありがとうございます」

「いいさ。正当な報酬だからな。それより時間があるなら飯も奢るがどうだ?」

「ご馳走になります」

トールに断る理由などなかった。



食事をしながらトールは戦士風の男の紹介を受けた。
名前はアモス。職は戦士らしい。
初めは見た時は何も思い浮かばなかったためゲームとは関係ない人物かと思っていたが、名前を聞いて思い浮かんだ事があった。
DQⅥで出てきた戦士で、モンスターに噛まれた後遺症でモンスターに変身する戦士の名前だったはずだ。
グラフィックが汎用の戦士と同じだったため、そして仲間にしなくてもストーリーが進んでいくためあまり印象になかったが、攻略本とかで描かれた人物画では目の前の男に似ているような気がした。

ハッサンとはパーティーを組んでいるらしい。
この迷宮にはあるアイテムを手に入れるために来たと言う事だ。
他にもパーティーを組んでいる者はいるのだが、今は用事があってこの街にはいないらしい。
また今度実際にいるときに紹介してくれるそうだ。



冒険者が集まれば話すことは自然と迷宮での事になる。
一人で探索を続けるトールの事を聞けば呆れたりもするが、話していくうちに感心したりもする。
聞けば初期職業で盗賊と言うのは、割合的に少ないらしい。
更に転職する者もあまりいないらしい。
転職するにはある程度職スキルレベルを上げないといけないし、それは転職した後の職になっても変わらない。
職スキルレベルを上げる面倒さを考えると、とりあえずは戦闘に有効な職を選ぶ冒険者が多いのだ。
この迷宮はモンスターを倒す事が第一の目的となっているので、しかたないことなのかもしれない。
確かに盗賊は迷宮探索に有効な特技などを覚えるが、他の職業でもパーティーさえ組めてしまえば割と何とかなってしまうのだ。
ただパーティーにいれば確かに探索は楽になるためいたほうが良いが、自分から好んでなろうとは思わない。
盗賊とはそういう職だった。
これは商人や芸人にも言えることだった。

そういうわけで戦闘も得意とはいえない職だけに大抵の盗賊はそうそうにパーティーを組む事が多いため、たった一人で迷宮探索を続けるトールは珍しいとのことだった。
だが反対に言えば、戦闘さえ何とかなるなら盗賊は迷宮探索にもっとも向いている職だともいえた。
それを考えれば一人で迷宮探索を続けるトールにはもっとも適した職であるとは、ベテランともいえるハッサンとアモスも意見をそろえた。



さて、この世界に飲酒の年齢制限などない。当然食事時に飲酒をする事も少なくない。
冒険者が迷宮での疲れを癒すために飲酒をするのは良くあることだ。
それはハッサンやアモスもそうだ。

ではトールはどうかと言えば、染み付いた前の世界のモラルが飲酒を遠ざけていた。
今回も二人が酒を飲むのを見ながらも、トールは水を飲んでいた。本来はお茶でも欲しいところだが酒場にそんなものはなかったからだ。
この世界の食べ物関係は、前の世界と似ている所も多いため、いつか緑茶をみつけられたらなあ、とトールは思っている。

そんなトールにハッサンは酒を勧める。
生真面目なトールをからかうと言う意味合いもあったが、それ以上に切羽詰ったように感じるこの若い冒険者であるトールに息抜きを覚えさせた方が良いという考えもあった。
飲酒に興味があったこと、そしてこの世界は元の世界とは違うのだ、ということもありトールは少し悩んだ後酒を飲む事にした。

その後の事はあまり覚えていなかった。
酔いが回った頭で思考がグタグタになりがら何件も酒場をはしごしたことは覚えている。
そして気づいた時には、薄暗い部屋にいた。
ハッサンもアモスもおらず、代わりに目の前にいたのは美人で色っぽいバーニー姿のお姉さん。
どうして自分がここにいるのか良く分からなかったが、思考もあまり働かなかったため気にはしなかった。
ただその後トールの身に起こった事は、トールを正気に戻すのに十分だった。





パフパフ、パフパフ、パフパフ、パフパフ、パフパフ………。





この日、トールはほんの少しだけ大人になった。


****


DQ名物のパフパフが自分の身に起こるとは思っていなかったが、むっつりであり、良く言えば純情でもあるトールはそこに入り浸るような事はなかった。いや出来なかった。
今は気恥ずかしさの方が勝ったのだ。
ただその場所だけは、心の奥深くにしっかりと記憶した。



次の日にはもうトールは迷宮探索を再開した。
アリーナとの冒険は少なからずトールに刺激を与えていた。

6階以降の階層はそれまでよりも格段に広くなっている。探索するだけでも一苦労だが、それよりも更に問題も出てきた。
いままでは通路の途中や小部屋への出入口として扉がある事もあったが、行き来は自由だった。それが鍵のかかった扉が出てきたのだ。
鍵がかかっているならそれを開けるのに鍵が必要になってくるのだが、トールにはそんなものは持っていない。
トールは盗賊と言う職についているが、今の状態では何も出来ない。
それならば諦めて他の道を探すか、他の誰かが開けてくれるのを待つしかない。

そうして他を探索しているうちに今度は宝箱を見つけるが、この宝箱にも鍵がかかっている。
どうやら6階辺りからは扉や宝箱を開ける手段が必要なものもでてきたようだった。
とりあえずそのための情報としてルイーダに尋ねてみると、鍵を開けるための手段は4つあるということだった。

一つ目は鍵を見つけると言うことだ。
鍵のかかっていない宝箱から時折、非常に稀にだが『魔法の鍵』という鍵が見つかることがあるらしい。だが、これは余程の幸運がなければ無理、要は運しだいとの事だ。

二つ目は『アバカム』という魔法を身につけることだ。
あらゆる鍵を開けることが出来る魔法だが、魔法を使えるもの全てが覚えれるわけではない。いやむしろ殆どの者が覚えられないという特殊な魔法だ。これもある意味運次第だ。

三つ目は『鍵開け』のスキルを覚えることだ。
職の盗賊スキルで覚える事が出来るが、これも全ての者が覚えられるわけではないが、魔法の『アバカム』よりは覚える確率は高いとの事だ。ただ盗賊スキルレベルが余程高くないと覚える事が出来ないものだ。

四つ目は街の『鍵屋』で鍵を買うことだ。
使い捨てで一度に10個までしか売ってくれず、しかもそれを使い切るまでは再度売ってくれない。使った鍵の個数をどのように知るのかまでは分からないが、そのようにしか売ってくれないらしい。
しかも売っている場所も問題だ。店舗が不定期に街中を移転するため正確な場所は分からない。そして例え場所が分かったとしても他人に教える事は禁止とされていた。
もし他人の教えるような事があれば二度と鍵は売ってもらえなくなる。それは悪事に使った場合もそれは同じだ。
どんな錠でも開ける鍵なんて物は危険である事に間違いはないからだ。

トールが今選べる手段は四つ目だけだろう。
職の盗賊として『鍵開け』のスキルが覚えれば良いのだが、少なくとも今のスキルレベルでは覚えられないだろう。
そうなれば、街中から『鍵屋』を探すしかないのだが、探すためのヒントも何もない。街中をぶらついて偶然見つけるのを期待するしかないだろう。

そうなると鍵を開けることについてはトールにできる事はない。
ただ街をぶらつく時はなるべく色んな場所に足を向けるだけだ。
とりあえずは迷宮探索を中心にするのは変わらず、鍵のかかった扉や宝箱に関しては無視をするしかない。
扉に関しては、日を改める事によって、他の冒険者が扉を開けてくれる場合もある。
ただ宝箱に関しては見なかったものとして諦めるしかないのは口惜しく思うのだった。


****


何日かたってようやく7階へ降りる階段室を見つけ、下に降りる事にした。
7階で出会ったモンスターは、6階にいたモンスターに加えて、『メーダ』と『どくやずきん』がいた。

『メーダ』は一つ目を甲冑のような外皮で包み込まれ多数の触手を持つような姿をしている。
フワフワと宙を浮きながら音もなく移動するため、接近されるまで気づきにくい。トールは盗賊の特技があるため接近されても気づけるが、他の職種では先制攻撃されることもあるだろう。
基本攻撃は体当たり攻撃だ。移動の時とは違いものすごいスピードで突っ込んでくるが、攻撃自体は直線的であるため落ちついて対応する事が出来れば避けることは出来る。
そして闇魔法の『ドルマ』を使ってくる。真っ黒な暗黒の球体を発射する魔法であり攻撃力自体はさほど高くはないが、薄暗い場所もある迷宮内では他の攻撃魔法よりも見えずらく、また音もないため避けにくいため気づいたら攻撃されていたと言う破目にもなりかねない。気をつける必要はある。

『どくやずきん』は毒矢を武器にする1メートルほどの人型のモンスターだ。
遠距離から毒矢を撃ち放ち攻撃してくる。攻撃力もなかなかありながら追加攻撃で毒を与えるという厄介さがある。
だが、近くによる事が出来れば怖い相手ではない。要は如何に攻撃をかいくぐり相手に迫るかが戦いのポイントになる。

二匹とも強いとは思うがどうにでもなる相手でもあった。



7階にも開ける事が出来ない扉があり、そこに行き当たったら別のルートに行きながら探索を続けていった。
その結果、割と早い段階で8階への階段を見つけることが出来た。

5階までならまだ探索していない場所があるなら、そこを探索することを優先していたが、6階からはあまりにも広くなりすぎたため行けるところ全てを探索していてはその間に変化期が来てしまい、迷宮の構造が変わってしまう事になる。
それを考えると少しでも早く下に降りるべきだとも思うが、迷宮の他のところを探索するのはレベル上げの意味もある。
だがヒュンケルとの修練で、少しだけだが自分の強さに自身が持ち始めているせいもあったのだろう。
トールはとりあえず下に向かう事にした。
もしやばいと思うならまたすぐに戻れば良いと思ったからだった。



8階のモンスターも相手に出来る強さのモンスターだった。
『がいこつ』、『ホイミスライム』、『メーダ』、『どくやずきん』、に加え『マタンゴ』と『ブラウニー』がこの階層にいた。

『マタンゴ』は『おばけきのこ』の色違いで能力が高くなっており、又同じように胞子による『毒攻撃』をしてきた。
そして何より口から『甘い息』を吐いて眠らせようとしてきた。何とか抵抗して眠らずに済んだが、一度眠ってしまえば、仲間がいない以上一方的に攻撃にさらされる事になる。この点は注意すべきだろう。

『ブラウニー』は『おおきづち』の色違いであり、全体的な能力が上昇している。ただ攻撃方法は『おおきづち』と変わりなく、そのため対応も同じようで構わなかった。



一対一なら負けない。
根拠なんてないが、この思いが根本にはあった。
ヒュンケルとの修練や恩人であったハッサンに認められたことなどがあり、トールの心の中に少しずつ慢心が芽生えていた。
実際に一対一なら負けないだけの腕前も確かにあった。
それゆえの油断、慢心、増長、だからきっとこれから起こった事は遅かれ早かれ何時か起こる必然の出来事だったのだろう。

それは通路途中にある扉を抜けて少し歩いた時だった。
前方から何かが歩いてくるような音が聞こえてきた。数は分からないが、あまり多くの音には聞こえなかった。
冒険者の靴音とは思えない、奇妙な音も聞こえている。となれば考えられるのは一つだろう。この音の先にいるのはモンスターだろう。
この時盗賊スキルの索敵能力を使っていれば、多分結果は変わっていたのだろう。
だがトールは使わなかった。ほんの少しのMPの消費を惜しんだのだ。
この階のモンスターになら負けない。そんな風に考えていた。



実際に現れたのは、『がいこつ』が4体。
『がいこつ』は多少手強く感じるが、トールの勝てない相手ではない。4体相手でもどうにかなる。
それは真実正しい。
三体を斬り裂き、残りの一体となってはトールの勝ちは揺ぎ無いものだった。
何も問題はない。そう感じていた。
突然背後に強烈な一撃を食らわなければ、だ。
トールに何が起こったのか分からなかった。
何とか残りの一体を倒し背後に目を向けると、そこには『メーダ』が3体いた。
何の音も立てず、まるで闇にまぎれるかのようにゆらゆらと迫ってきた。

その時にトールが感じたのは怒りだった。

(不意打ちなんかしやがって、この野郎)

理不尽な怒りだが、いきなりの魔法の一撃は、トールの頭に血をのぼらせた。
だからだろう。通路の前後から聞こえる音を無視してしまったのは。
冷静な時ならその音が何なのかをよく考えて判断したはずだ。
この時のトールはただ怒りをぶつけるために目の前の『メーダ』に斬りかかった。
結果『メーダ』を倒し終えた時には、前後からモンスターの集団に挟まれる形になっていた。

周りにいるモンスターたちが確実に10体以上。ゲームのように画面で出て来るモンスター数が決まっているわけではない。
しまった、と思った瞬間にはもう遅かった。
『どくやずきん』は毒矢を放ち、『がいこつ』は剣で斬りかかり、『ブラウニー』は鎚を叩きつけ、『マタンゴ』は『甘い息』を吐き、『メーダ』は『ドルマ』を放つ。
全てを避ける事は不可能。致命的なものだけは何とか避け、後は盾で防ごうとするが四方八方からの攻撃に全てに対して対応する事は出来ない。
当然幾つかの攻撃は食らう事になる。
また『甘い息』に対しては、何とか抵抗するがそれも何時まで持つか分からない。
しかもまだモンスターが集まってきているのが分かった。

傷ついても『ホイミ』や『薬草』を使う暇はなかったが、剣スキルが上がった事により『ミラクルソード』を覚えていたのは僥倖だった。
『ミラクルソード』は通常より大きなダメージで斬りつけ、相手に与えたダメージの半分を回復できる特技だ。
攻撃しながらも回復できるこの特技は、今の状況に最適だった。しかも追い詰められて集中力が増しているのか、特技も一連の流れの中でスムーズに出すことが出来た。
だが『ミラクルソード』を使うにはMPが必要であり、MPは無限ではない。
このままではどうにもならなくなるのは目に見えて明らかだった。

ここまでモンスターが集まる事は今まで一度もなかった。
何かの罠だったのだろうか。
不思議なダンジョンでいうところのモンスターハウスに入ってしまったようだった。
いや実際にそうなのかもしれない。
この迷宮ではモンスターを倒す事によって邪神の力を減らすことを目的としているため、罠などは存在しないと、かってに決め付けていたがそうではないのかもしれない。
とにもかくにもどうしようもないところまで追い詰められているのは事実だった。
何とかモンスターを一体一体倒していくが、確実に止めを刺さないとホイミスライムが回復させてしまう。

ここに来て今までの馬鹿な考えに気づく。
モンスター相手に一対一の強さなどあまり意味がないのだ。モンスター相手に一番注意する事はその数の多さだった。
某ジオンの中将が言った言葉、「戦いは数だよ、兄貴」は正に本当のことだった。
トールは今身を持って味わっていた。

この場から脱出するには『リレミト』か『おもいでのすず』を使わなくてはいけないが、今は無理だ。
二つとも使うにはある程度のスペースが必要になってくるからだ。
自身を中心にした半径1mほどの広さが必要なのだが、今周りにはモンスターに囲まれそのスペースがない。そして使う時間も与えてくれない。

全てのモンスターを倒すことなど不可能だろう。どうすればいいのか。
そんな考え事をしていたのがいけなかったのだろうか。『マタンゴ』の吐く『甘い息』を吸い込み、それに抵抗する事が出来なかった。
一瞬気が遠くなったと感じた次の瞬間、剣を持っていたはずの右手に激痛が走った。
眠気が一気に去り右手を見てみると、そこにはあるはずのものがなかった。床に剣を握った右手が転がっているが見えた。
右手は斬り落とされていたのだ。

叫びそうになるが歯を食いしばって耐える。何かが飛んでくるのを視界の端にとらえたからだ。
とっさに避けようとするがどうやっても無理だと分かり、盾で防ごうとしたがそれでも全ては無理。
頭だけは何とか守ったが、飛んで来た毒矢の幾つかがトールに突き刺さった。
普通ならもう倒れ戦えないだろう。
トールがまだ立っていられるのは、痛みをコントロールする術を身につけていたからだ。
痛覚を鈍くする。これもヒュンケルとの修練の際に身につけたものの一つだが、出来ればこれが役立つような状態にはなりたくなかった。

痛みは身体の異常状態を知らせるものであり、それによって危険状態を判断できる。
痛みを感じない身体で無理をしたせいで、いつの間にか動けなくなっていたでは洒落にならない。とは言っても今の状況では仕方ないのかもしれない。

トールの一瞬の眠りによって、何とか耐えていた流れが一気にモンスターの方へ傾いた。
武器はなく、矢は突き刺さり、毒まで回っている。
毒にはある程度耐性もついたのか、痛覚のコントロール及んでいるのか、当初のように倒れこんでしまうことはないがそれでもつらい事に変わりはない。
どうにもならないところまで追い詰められていた。
そしてここに来てどうするべきかやっと分かった。
トールのすべきこと、それは生きぬく事に他ならない。
ならば今は何としてもここから逃げ延びることだ。勝てる方法は見つからなかったが、逃げる方法なら思いついた。

トールにしてみれば、遅すぎたとも思う。今の段階ではもはや賭けに近い。
もう少し早く、出来るならモンスターに囲まれた時点で思いつかなければいけないことだった。
するべき事はシンプルだ。使うべきは『闘気法』。『闘気』を足に集中させて、一点突破で一気にモンスターの壁を貫く。
問題は突破の際の『闘気』による体力の消費、毒による体力の消費が今の体力で賄えるかどうかだ。
駄目なら自滅してしまう。
だが他に手がないのも事実だった。実行は早ければ早いほど良かった。

トールは覚悟を決めて『闘気法』を使う。
足に『闘気』を終息させると、まるでロケットのように一気にモンスターの間をすり抜けていく。
途中攻撃を受けるが無視して、ただ突き抜けることだけを考える。時間にして多分10秒もかかっていないだろう。
いつの間にかモンスターを突き抜けた。

震える左手で何とか『おもいでのすず』を取り出して使った。
今の状態では、集中を必要とする魔法である『リレミト』は使えないからだ。
トールの足元に魔法陣が描かれたかと思うと、下からの光の柱がトールを包み込んだ。



一瞬後、トールは満身創痍ながらも何とか地上の土を踏む事が出来たが、ホッとしたのかそのまま倒れるしかなかった。
そして意識が落ちる瞬間、自分に駆け寄ってくる人間の声を聞きながらトールは何とか助かったと安堵するのだった。




――― ステータス ―――

トール  おとこ
レベル:17
職:盗賊
HP:115
MP:50
ちから:45
すばやさ:41+10(+10%)
みのまもり:20
きようさ:50+20(+10%)
みりょく:30
こうげき魔力:21
かいふく魔力:26+5
うん:31
こうげき力:45
しゅび力:39

言語スキル:2(会話、読解、筆記)【熟練度:65】
盗賊スキル:3(索敵能力UP、常時すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト)【熟練度:87】
剣スキル:5(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード)【熟練度:48】
ゆうきスキル:3(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス)【熟練度:41】

特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)


経験値:19264

所持金:7768G

・装備品
頭:おしゃれなバンダナ(守+7、回魔+5)
身体上:レザーマント(守+8) → 破損により破棄
身体下:けいこぎズボン(守+5)
手:皮のてぶくろ(守+2、器+15) → 破損により破棄
足:皮のブーツ(守+2)
武器:鉄のつるぎ(攻+27) → 喪失
盾:皮の盾(守+3)  → 破損により破棄
アクセサリー:竜のうろこ(守+5)



持ち物:やくそう(39個)、毒けし草(21個)、おもいでのすず(4個)、スライムゼリー(1個)、まんげつそう(2個)、せいすい(2個)




――― あとがき ―――

倒したモンスターの数と経験値でレベルを判定していますが、一人だけだと思ったよりレベルの上がりが早いですね。
でもよく考えればDQⅢで勇者一人旅をすると、結構早くレベルが上がるし、本来は3人から5人でパーティーを組むのがこの世界では常識であるからこのぐらいでいいのかもしれない。


それでは、また会いましょう。



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