「おおっと、テレポーター」
ワードナの迷宮、地下十階を探索中に、宝箱の罠、テレポーターを作動させてしまった、コナタ達一行。
強制的に飛ばされ、いずこかの回廊に実体化する。
「ふー、石の中への実体化は免れた様だねー」
冷や汗を拭う、コナタ。
ナナコも、大きく息をついて居た。
「石の中?」
分かってない様子のツカサに、説明する。
「ワードナの迷宮、地下十階は、岩をくり抜いて作った回廊と玄室をワープゾーンでつないだ物だからね」
「つまり、この階でテレポーターの罠を動作させてしまった場合、石の中に飛ばされてしまう可能性もある訳や」
「げ、そうなったら……」
カガミは理解した様だった。
「多分、ヒイラギ姉の想像で合っとるで」
「もうおそい! 脱出不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ」
「っちゅう訳や」
「ええっ」
ツカサにも、事の重大さが理解できたようだった。
「しかし、ここはどこや? 何や、見覚えが無い気がするんやけど」
回廊を進んでいく一行。
そして、玄室の前の壁の標識には、
邪悪な魔術師ワードナの事務所。
営業時間は午前9時から午後3時。
今、ワードナは、在室中。
「はああああっ!?」
「思いっきり、ワードナの本拠地でした。ありがとうございました」
意図せずに、ワードナの元へと辿り着いてしまった一行。
「ま、まぁ、みんなマスターレベルを超えてて良かったね」
コナタが取りつくろう様に言う。
僧侶と魔術師が、七階の魔法すべてを覚えられるようになるのが、レベル13。
コナタ達は、レベル14に達していた。
「それじゃあツカサ、幻姿(マラー)で脱出してよ」
テレポート呪文の幻姿(マラー)は、魔術師の魔法の奥義。
最上位に位置する魔法だ。
しかし、
「私まだ、その呪文、覚えてないよ」
「なんですって!?」
驚愕の声を上げるカガミ。
「青ざめたね…… カンのいいカガミは悟った様だね」
コナタはカガミの内心を指摘して見せる。
「ここから脱出するにはテレポートするしかないのに、ツカサはその為の呪文を覚えていない。この状況を見て、恐ろしい結末になるのを気付いた様だね」
「逃れる事はできんッ! ウチらはチェスや将棋で言う詰み(チェック・メイト)にはまったんやッ!」
絶望の声を上げるナナコ。
「う…… ウチのせいや。ウチがテレポーターの罠を動作させてもうたんや!」
「も、もう私達が助かる方法は何も無いのッ? わ、私達はワードナ配下のヴァンパイアの食料になって滅びるだけなのッ!?」
カガミの言葉に、コナタは言う。
「ワードナの魔除けには、幻姿(マラー)の呪文が込められていたはず。それを奪う事ができれば脱出できるけど」
「それは! で、でも勝てると思うの? 今の私達の力で?」
カガミは、
「私は、メイス+2にプレートメイル+2。後は、シールド+1に、ロッドオブフレイム。僧侶の七階の呪文は全部覚えたわ」
一方、コナタはと言うと、
「私は、ロングソード+2に、プレートメイル+2、ヘルメット+1。後は、店売りのシールド+1と銅の小手だけだね。あ、あとロッド・オブ・フレイム」
ナナコは、
「ウチは、ショートソード+2。鎧は最高グレードのレザーアーマー+2。盾は、シールド+3イービルや。ロッド・オブ・フレイムに、体力を自動回復させるリング・オブ・ヒーリングも持っとるけど」
最後にツカサは、
「私は、静寂の空気(モンティノ)の杖にローブ。ロッド・オブ・フレイムに、致死の空気(マカニト)の護符だよ。あと、ロードの衣装、ガーブ・オブ・ロードを背負い袋の中に畳んで入れてるよ。持っているだけで体力が自動回復するから。呪文は、幻姿(マラー)以外は全部覚えてる」
こんな具合。
高い呪文無効化の能力を持ち、魔術師の最高位の呪文、核撃(ティルトウェイト)さえも使うと言うワードナには、よほどの奇跡でも起きない限り勝つのは無理という物。
しかし、
「いや! 策はあるよ!」
「え!?」
「何やて? イズミ」
「たったひとつだけ策はある!」
「たった一つだけ?」
カガミ達に向かって力強くうなずくコナタ。
「うん、とっておきのやつだよ!」
「とっておき?」
そして、コナタの意図に気付くツカサ。
「はっ、コナちゃん! ま…… まさか! そのとっておきって言うのは……!?」
「いい、レベルが続く限りとことんやるよ!」
「レベルが続く限りですって? どういう事よッ!」
言い募るカガミに、不敵に笑うコナタ。
「フフフフフフ」
ツカサの両肩を、グッと握りしめる。
「変化(ハマン)だよォォォーッ!」
「や、やっぱりそれーっ?」
変化(ハマン)とはッ!
ひとつ、魔物をテレポートさせる!
ふたつ、魔力を回復させる!
みっつ、パーティーを治療する!
よっつ、魔物を黙らせる!
いつつ、パーティーを回復させる!
そしてその効果は、ランダムに現れる三つの内の一つから選ぶことができるが、使う度、術者のレベルを1下げてしまう魔術師の呪文だ。
「という訳で、行くよ、みんな!」
「分かったわ、覚悟を決めたから!」
ワードナの玄室の扉を蹴り開けて、中に突入するカガミ達。
中にはワードナと、配下のヴァンパイアロード、そして護衛のヴァンパイア二体が居た。
「ワードナに攻撃を集中するんや!」
「気の毒だが、私達のためだ! ワードナの魔除け、殺してでもうばいとる!」
ワードナを攻撃するナナコ、そしてコナタ。
「な、なにをする。きさまらー!」
そして、ツカサの呪文、変化(ハマン)が発動する。
「よし、ツカサ、アナザーディメンジョンだよ! ワードナ、お前はこの先、異次元の世界を永遠にさまよい続けるのだ…… ハーッハッハ!!」
丸っきり悪役の台詞だが、ツカサは首を振った。
「魔物をテレポートさせる効果は、現れなかったよ」
「なら、魔物を黙らせて!」
「うん!」
変化(ハマン)の効果で、沈黙させられるワードナ達。
呪文が唱えられなくなる!
そしてカガミの、僧侶の最強呪文が炸裂した。
「激怒(マリクト)!」
その呪文は、高い呪文無効化の能力を持つワードナに幸運にも効いた!
そして、
「核撃(ティルトウェイト)!」
ツカサの魔術師最強呪文が、ヴァンパイアロードを、ヴァンパイアを灰にする。
「ラスト!」
コナタの剣が、ワードナに止めを刺す!
こうして、戦闘は終わった。
「うう、レベルが一つ下がっちゃったよ」
落ち込むツカサだったが、禁呪である変化(ハマン)の力が無ければ、ワードナには勝てなかっただろうし、生きて地上に戻る事もできなかっただろう。
「あった、これがワードナの魔除けだね」
手に入れたワードナの魔除けを使って、地上に戻る一行。
入り口の警備の兵が、ワードナの魔除けが奪還されたことを知らせに走ると、一人の屈強なドワーフが現れて告げた。
「おめでとう。君達は大君主トレボーの試験に合格した。ワードナの魔除けを取り戻したことにより、トレボーは諸君らに50,000の金と経験値を与えた上に諸君を近衛兵の将校に任命しました。誇りを持って階級章を付けるように」
階級章を受け取るカガミ、そしてツカサ。
「やったわね、ツカサ。これで例の縁談も無かった事にできるわ」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
こうしてカガミ達は、奇跡の生還を果たすと同時に、思いがけず当初の目的だった、トレボー王の親衛隊への入隊を果たしたのだった。
だが、冒険はそれで終わりではない。
「ただし、諸君は更なる鍛錬を続けなくてはならない。トレボーは限りなくレベルの高い衛兵を必要としているのです。そしてそれは…… 新たなる冒険への準備でもあるのです」
「はい」
失われたレベルを上げる為に。
そして、まだ見ぬアイテムを手に入れる為に、一行は、ワードナの迷宮にチャレンジし続けるのだった。
「ほな行くでー」
「カガミ、ツカサも早く早く」
「待ちなさいってば」
「うう、私だけレベルが低い……」
ウィザードリィにはまる人たち 完