「筋肉が足りねえ!
地獄で鍛えなおしてきな、なら、来世で会ってやる!」
台詞の吐き捨てた、その刹那、右手に握られているメイスが振り下ろされる。
こぶ状の矛先には、刺々しいスパイクが多数取り付けられている凶悪なものだ。
「Gugyopa!?!」
重く、硬い、一撃だった。
振り下ろされたゴブリンの頭は弾けとんだ。
肉を潰し、骨は砕かれた。
まるで熟したトマトのように。
血がはじけ飛ぶ。
「テメエみたいな、軟弱クソ脳みそ下半身野郎にやられるあたしじゃねえよ」
メイスの所有者である女性は、メイスを勢いよく振った。
あまりの速度に、メイスにこびりついていた血と肉片が吹き飛ぶ。
「ふん」
その女性は特徴が多すぎた。
身に着けているのは黒い法衣である。
これはオークが信仰をささげるグルームシュのものだった。
人間で信仰するものはいない。
だが、彼女は着用しているのである。
しかも、今、この法衣は、血と泥で汚れまくっているものだった。
さらには、この彼女自身もだ。
少しだけ灰色かかった肌の色をしている。
髪の毛の量が非常に多く、手入はされていない。
それはまるで野生のライオンの鬣を思い出させる。
さらに、彼女は八重歯というより、牙にちかい尖った歯を持っていた。
目は大きく、若干のツリ目で煌々と輝いている。
顔は整っているが、非常にキツイ印象を与える美人であった。
そして、その身体である。
背は180cmを超えていた。
また、首や肩周りが、尋常では無い位に、筋肉で盛り上がっている。
法衣の上からでも、鍛え上げられていることが見てとれる。
だが、一番は特徴は――
「ああ、楽しいねえ、グルームシュ!
ドンドン試練を与えやがれ、クソ野郎。
あたしの筋肉が大喜びだ!」
野生の獣のような笑みを浮かべる彼女の左手脇には、小さな子供が抱きかかえられていたのである。
子供は4,5歳ぐらいだろうか。
だが、その子供は動かない。
まるで人形のようであった。
「エイメン――!」
そして彼女は鬱蒼と茂る木々の間を駆け抜けていった。
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085 異様過ぎる何かとの遭遇
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「ん!?
みんな、ちょっとストップ――!」
突如、ソランジュは両手を広げる。
後に続いて歩いていた、ルイディナ、ファナはその言葉に従って足を止める。
それを見て、イルは満足げに頷いた。
黒猫のクロコはつまらなそうに、イルの肩の上で大きなあくびをしていた。
「どうしたの、ソラちゃん?」
深い蒼色をした外套に身を包んだ小さな少女ファナ。
彼女は両手に小さなロッドを力強く握り締めて、ソランジュに問おうとする。
「しっ――!」
が、ファナの言葉を遮るように、ソランジュは人差し指を一本口元に当てた。
「頼むわよん、ソラ」
ソラのジェスチャーに、ルイディナは静かに腰に下げていたレイピアを抜き放った。
「トレジャーハンターだからな、朝飯前ってんだ」
ソランジュは、ぐっ、っと親指をルイディナに向けた。
そして、そっと両手を耳に添えて、意識を集中させていった。
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・[ディテクトノイズ(聞き耳)]
物音を聞いたり、その性質を判断する能力。
扉の向こう側の会話の立ち聞き、パーティに忍び寄る足音を聞きとる事が可能。
この能力を使用するには、帽子(ヘルメット)を脱ぎ手1分間集中しなければならない。
その間、他のパーティメンバーも静かにしていなければならない。
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ソランジュが両目を開く。
そして真剣な眼差しで、メンバーの面々を見渡した。
「どっかの誰かが戦ってるな。
なんかすげえ雄叫びと悲鳴、ヒューマン系同士、か?
しかも、割と近い、な。
女っぽい声も聞こえる。
展開次第じゃこっち側にくるかもしれない。
ルー、どうする?」
ソランジュは、パーティリーダーであるルイディナの指示を仰ぐ。
「もっちろん行くわよ!
私達正義の味方、呼ばれていても呼ばれなくてもいざ参上。
衛兵に代わって~、おっ仕置きよ!」
ルイディナの真面目だか冗談だかよくわからない言動とポーズに、ソランジュは頷き――
「で、その心は?」
しれっ、と、言葉を続ける。
「大金持ちが困っているかもしれない、そしたら、お礼ががっぽがっぽ!」
ルイディナはレイピアを天に向けて掲げた。
「ルーちゃん……」
「そう言うと思った」
「はは」
「にゃー(呆れ)」
3人と1匹は、それぞれの反応を見せた。
「あ、あは。
と、とにかく、レッツラゴーよ!
手遅れなんてさせないんだからね」
怪しげな言動を発しつつ、ルイディナは走り出す。
そんな彼女に対して、メンバーは頷いた。
「ま、ルーは相変わらず、ごまかすのが下手だよな。
素直に助けるわよ、って命令すりゃいいのに」
「そこがルーちゃんの良いところだよ」
「んだよな。
ま、お金もちょびっとは本心から期待してるとは思うけど
よーし俺達もいっくぞ!」
ソランジュは腰のベルトから、ダガーを引き抜いた。
ファナは唾をごくりと飲み込んだ。
「いつもどおりだ!
俺がルーのフォロー、ファナは呪文準備頼む!」
「うん、わかってるよ!」
そして、ソランジュとファナも走り出す。
「じっちゃん、じっちゃんはいつものように見てくれよな!」
「が、がんばります!」
ソランジュ、ファナ。
2人はイルに言葉を残して、ルイディナの背を追いかけていった。
「ああ、わかったよ」
イルは目じりに皺をいっぱい作りながら、笑顔で、孫娘のような2人を追いかけていった。
○
「大丈夫、助けにきたわよ――って、ありゃりゃ!?」
「どうした、ルー?」
「ルーちゃん?」
ルイディナは足を止めて、ぽかーんと口を開けていた。
ルイディナに追いついたソランジュ達は、呆けているルイディナに声をかける
「たはは、おじゃま虫かしらねえ……?」
ルイディナは「つんつん」と、人差し指を前方に向けた。
そこには先程までの威勢がよかったルイディナはいなかった。
急変したルイディナが指差す方へと、ソランジュとファナが視線を向けると――
「あーはははは、どうしたどうしたぁ!
こんなんじゃ満足できねえ!
上腕二頭筋が弱ぇからだ!
もっと肉食って、来世に出直してきな。
エイメン――!!!」
そこにいたのは雄々しい女性だった。
女性が凶悪なメイスを横に薙ぎ――
「Gugyopaa!?!!?」
ゴブリンの脳漿が弾けとんだ。
「ハハハハ……ハァーッハッハッハ!!」
女性の攻撃は止まらない。
笑い、雄叫びを上げ、血を浴びながら、嵐のように攻撃を繰り出し続ける。
「おいおい……」
「あ、あぅ……」
酷い惨状に、ソランジュ達は声を失ってしまう。
「やれやれ、なんともまあ……」
ルイディナ達に追いついたイルも足を止めて、メイスを振るう女性に視線を向ける。
「グルームシュ?
法衣?
じゃ、ハーフオークの僧侶、か?
殴りプリだけど。
と、
……ん――!?」
女性の特徴を見て、イルは思いついた事を口にして思考しようとしたが――
「子供――!?」
イルは女性が抱えている子供の存在に気がついた。
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新キャラクター登場、そして本当にひさしぶりのおじいちゃんパーティです。
ガストンさんは本業の農業があるのでお休みです。
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時間が空いてしまったので、緊急更新!