トーチによる光だけが唯一。
ぼんやりとしたオレンジが柔らかげに周りを漂う。
陽光は一筋も見ることができない。
当然だろう、と、マリエッタは思う。
彼女の推測では、ここは石牢に違いないと思っているのだから。
「ニエヴェスさん……」
マリエッタは、そっと横に視線を向ける。
と、そこには、意識無く横たわっているニエヴェスがいた。
ニエヴェスはこんな石牢で寝ていて良い身体ではない。
彼女のお腹には新しい命が存在し、しかも、まさに生まれんとする時期なのだから。
マリエッタの見立てでは、臨月を越えて、正期産の時期であると見ている。
メイド服のマリエッタは、力強く、白いショートエプロンを握り締めた。
「(どうする、どうすればいい――!)」
ショートエプロンを握り締めた手は、あまりの力の入れように白くなる程だった。
「ホワイトスネイク……」
マリエッタは小さく呟く。
それは彼女が、この世で一番尊敬する者の名だ。
そして、その名を意識すると申し訳なくなって消え入りたい気にさせられる。
「(誘拐、されたのは間違いない。
あのビックバイがいない今、ホワイトスネイクには敵も多い。
認めなさい、マリエッタ。
まず、現状を理解すること大切なのは、散々、昔のサーペンスアルバスで叩き込まれた。
私とニエヴェスさんは誘拐された)」
意識して、マリエッタは大きく息を吐き捨てる。
「(なら、次はどうなる?
私達が生かされているということは、つまり、人質ということ。
人質。
となると、私達を材料にホワイトスネイクと何らかの交渉を?
お金? 地位? それともホワイトスネイクの――)」
この時点にまで思考を飛ばすと、マリエッタは自身の頭を石壁に叩き付けようかと真剣に思った。
「(今の私の存在がホワイトスネイクにご迷惑をかけていてる、だと……!?
そんなこと、そんなことは――)」
マリエッタの中に、キース・オルセンの姿が思い出される。
それは完璧なまでに頭に描くことできる。
当然である。
毎日やっていた行為なのだから。
「(認められるわけないではないか――!!!)」
いつもカチューシャで、完璧にまとめられているマリエッタの髪。
だが、今はそれも無く、長い髪はまとまりがない。
そんな髪を、マリエッタは掻き毟った。
「(死ねばいいのか、そうすれば人質の意味は無くなる。
私のような足手まといがいなければ、ホワイトスネイクが不利になることなどない。
必ず、勝利をもたらしてくれるでしょう。
ご迷惑をおかけすることも……
……いや、駄目だ。
死ぬのは良いが、誰か、私達の仲間がいる前である必要がある。
もう人質はいない、そのことを仲間が知らなければ意味がない。
死んだ後も、人質にされては、それこそホワイトスネイクに申し開きがたたない……)」
マリエッタは文字通り頭を抱えてしまった。
そんな時、だ。
「ん、ん……」
横にいたニエヴェスが寝返りを打つ。
今のところ、顔は普通だった。
苦しそうな様子も無い。
「あ――」
そしてマリエッタは我に返ることができた。
「(今、私は何を考えていた!?
死ぬ、だと。
まずなすべきことは、わかり切っている。
ニエヴェスさんを、どんなことをしてもアートゥロの元へ帰すこと。
死ぬのはそれからだ)」
楽になろうとした自身の浅ましい考えに、マリエッタは自己嫌悪する。
ニエヴェスが目をさまさないように、マリエッタは静かに大きなお腹に手を置いた。
「あ……」
それは暖かかった。
そして、「ピクピク」と動いてくる振動が手に伝わってきた。
「ふふ……」
マリエッタは微笑する。
笑うことができた。
まだ、笑うことができた。
「ニエヴェスさん。
任せてください。
どんなことをしても、私が守って見せます。
だから。
生まれたら、帰ることができたら、3番目に抱かせてください」
微笑と自嘲、悲哀と決意。
奇妙にブレンドされた顔で、マリエッタは優しく囁いた。
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068 想い交錯
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なんら特筆すべき点はない、どこにでもある宿の一室。
そこには3人の少女と、1人の老人、そして1匹の猫がいた。
1人の少女は、深い蒼色をした外套を身にまとった小さな少女だった。
今、彼女は目を瞑り、大粒の汗をかいている。
全ての意識は、目前に置かれている穴の開いた鉄バケツだった。
穴が開いているだけではなく、そのバケツはさび付いてもいる。
一言で、ボロボロといって差しさわりの無い物だった。
「はあ、はっ、はあ――」
時折、少女からは苦しげな呼吸が漏れる。
額からは、多くの玉のような汗があふれ出てくる。
だが、少女は目の前のバケツから視線を外す事はなかった。
「ファナぁ……」
そんな小さな少女ファナを、姉貴分であるルイディナはさすがに心配そうに見守る。
また、少年のような格好をした少女ソランジュも同様である。
「じっちゃん、ファナは大丈夫……
……な、なんだよな?」
ソランジュは不安げな目を、老人の方へ向けた。
やさしげな目と、モサモサの髭を蓄えた知的な老人はゆっくりとうなずいた。
そして、ゆっくりとした動作で、ソランジュの髪をなぜる。
「私がファナに危険なことさせるわけないよ。
ただ、1日ぐらいは眠ることにはなるかも知れない。
私も経験がある。
自分の力量と比較して、ハイレベルの呪文を使うと――」
髭もさもさの老人。
だが、ただの老人では無い。
人は彼を終演の鐘(ベル)と呼ぶ。
彼の名はイル・ベルリオーネ。
大が10個ぐらいつくであろう、伝説の魔術師である。
そんなイルがソランジュに言いかけた言葉を止める。
イルはファナに向かって――
「今だ」
老人とは思えないほどハッキリとした声で、指示の声をかける。
「はい!」
ファナは閉じていた両目を開く。
そして右手に握られていた小さなワンド(小杖)を振りあげる。
「え、えい!
な、直って、メ、メ……
メンディング……!」
途中、言葉を詰まらせながら、ファナはワンドを振り下ろした。
詠唱、そして動作が実行された。
「あ!?!?」
ルイディナは思わず声をあげてしまった。
ワンドが青い光を持ち始めたのだ。
「お、マ、マジで!?」
ソランジュも驚きの声をあげる。
なんと、ファナの目の前にあった穴の開いたバケツも発光が始まったのだ。
「まさかこんなに早くとはなあ」
好好爺的な微笑を浮かべながら、イルは何度も頷いた。
イルは理解できた。
ファナが魔法を使い、発動に至ったことを――
光が収まったワンドと鉄のバケツ。
バケツには今まであった穴は微塵も見当たらない。
そこにあったのは新品のような鉄バケツだった。
「す、すごいすごいすごいじゃない~!!!!」
「や、やったな! がんばったもんなあ、ファナ!!」
ルイディナはファナに飛びついた。
ソランジュもそれに続いた。
「わぷっ!
くるしいよ、ルーちゃん、ソラちゃん~」
二人もみくちゃにされる小さなファナ。
だが、言葉とは裏わらに、ファナは本当に満面の笑みを浮かべていた。
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・[メンディング【修理】] LV1スペル
壊れた品物や、破れたものを修理する呪文である。
壊れた指輪や、ちぎれた鎖をつなぎ直す、メダルや折れたダガーの修理なども可能となる。
また、割れてしまった陶器や、木製品のつなぎ合わせ、袋の底に空いた穴の修理もできる。
しかしマジックアイテムの修理は一切行えない。
修理できる品物の大きさは、使い手のレベルあたり30立方センチメートルとなる。
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「宴会よ~、エールよ、ワインよ、お肉よ、お魚よ~!」
ルイディナは大はしゃぎだった。
そんないつもと同じルイディナに、ソランジュはいつもと同じように苦笑する。
「おいおい。
今日の主役はファナなんだからなー」
と、諌める言葉をいいつつも、ソランジュも満面の笑みである。
にぎやかな二人。
そんな中、イルは中腰になってファナと視線を合わせた。
「よくがんばった。
ホントよくやったよ」
イルはファナの頭を撫でた。
ファナは気持ちよさそうに、その手触りを堪能していた。
「わたし、もっとがんばります!
ルーちゃんや、ソラちゃん、みんなの役に立ちたいから。
も、もちろん、イルさんも……
……
あ、あれ??」
ファナは言葉の途中で、イルに向かって倒れるように飛び込んだ。
「ファナ……」
イルは、そんなファナを受け止める。
ファナの顔を覗き込むと、気持ちよさそうにファナは寝息をたてていた。
イルはそっと、小さなファナの背中を撫でてやった。
ちなみに、ベッドの上の黒猫。
猫の名前はクロコ。
クロコはすでに最初から気持ちよさそうに眠っている。
行幸といえる。
もし、クロコがこのシーンを見ていたら、(嫉妬で)大騒ぎしたことは間違いないのだから。
○
燦燦と輝く太陽。
澄み渡る潮風と青空。
遠くの水平線には真っ白な雲。
波は穏やか。
まさに海を糧として生活する人間にとっては、これ以上は無いと言える最上の日だった。
[商業都市レストレス]の港は活気に包まれていた。
多くの海の男達が大きな声を張り上げて、いろいろやり取りを行っている。
船から大量の魚を降ろしている。
皆、笑顔につつまれていた。
そんな中。
中型のジーベック系帆船の前。
2人の男女がいた。
男の方は正に海の男、と表現されるべき人物だった。
上半身は裸で赤銅色の筋肉に包まれており、黒い髭は生え放題。
髪なども手入れはされていない。
まさに海の男と言えるし、本人もそう呼ばれることを誇りに思っていた。
そして対面の女性。
こちらは表現などしようも無い。
金の髪は太陽の光に反射して、本当の黄金より光輝いていた。
肌は陶磁器のように真っ白でありながら、温かみも供えており、まるで上質のシルクを思わせる。
体躯も細身でありながら、女性らしさを完璧に備えたものである。
才能の無い詩人からは、まさに女神としか表現しようが無いほどの女性だった。
強いて言えば、腰に帯刀している剣だけが不釣合いだろうか。
いや、それさえも、この女性にとっては美の一部に昇華させていた。
「じゃ、お釣りは取っといて~」
そんな女性から、目の前の海の男に対して気楽な言葉が返答される。
そして女性は男性に、いくばくかのお金を手渡した。
海の男は、毛むくじゃらの手でそれを受け取る。
「おう、サンキューなって!
って、おい、1cp(銅貨)しかよけいにねえじゃねーかよ!」
受け取ったお金を見て、男は、言葉とは裏腹に豪快に笑う。
言葉尻や、声の大きさ、雰囲気から、小さい子供は泣いてしまうかもしれない迫力があった。
「あら? いらないの?」
だが、そんな男性の態度に女性も負けていない。
「それがどうしたの?」と言わんばかりである。
女性も美しい笑みをたたえながら、この男との言葉のやり取りを楽しんでいた。
「たく、タエは相変わらずだよなあ。
かなわねえよ。
当然……
……
……
貰っとくにきまってらあ!」
「そうよね~♪
でも、1cpしかとか言わないでよ。
ホントにそれで、私の全財産なんだから」
タエはお財布にしている小さな袋を逆さまにしてみせる。
すると、本当に何もない。
ゴマみたいなものが、パラパラ落ちるだけであった。
パラディン(聖騎士)であるタエは、必要以上の富を所有してはならない戒律があるからだ。
肩をすくめながら、男は1cpを親指で弾いた。
銅貨は回転しながら空中に飛んでいく。
それを、勢いよく、男は右手でキャッチした。
そんな男の姿を見て、タエと呼ばれた女性笑う。
タエが笑い、そして海の男もつられて笑った。
「ま、本当はこっちが金払わなきゃいけないぐらいだからな。
改めて、クルー全員の代表として礼をいわせてくれ、タエ。
ありがとよ。
あんときゃ、マジもんでオーバド・ハイ(自然の神)に祈ったぜ」
海の男が、タエに向かって頭を下げる。
この近海では荒くれもの船乗りとして有名なゲオルギーとしては珍しいことだった。
無理も無い。
今回、この[商業都市レストレス]への航海中、運の無いことに[ハーピー]の大群に襲われた。
[ハーピー]とはチャーム(魅了)の能力を持った、人間の肉を好む邪悪な鳥類モンスターである。
正直、全ての船員達は「ついてねえな」と、半ば死を覚悟した。
だが、そこを、船室から現れたタエがハーピーを一掃したのである。
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◇ハーピー(Harpy)
社会構成:群れ
食性 :肉食性
知能 :低い
性格 :カオティックイービル
生態
・身体は禿げ鷹だが、上半身と頭は人間の女性のものである。
顔立ちは若々しいが、手入のされていないぼさぼさの髪の毛と欠けた歯をもっている。
・ハーピーは悪臭が漂う。自分達の身体を清潔にするどんな方法も取ることは無い。
・ハーピーの魅惑的な歌は、聴いた人間をハーピーの前で棒立ちにさせてしまう。
攻撃されている間でも、この効果は、歌が流れている間持続する。
・ハーピーは底なしの食欲を持ち、拷問することに快楽を覚える。
そして楽しみのために、生き物を殺す。
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「んーん。
それはこっちの台詞。
快適な船旅だったわー」
だが、ヒラヒラと手を振って、タエは気にしたそぶりは見せなかった。
「タエ、またな~!」
「今度は飲み比べ、負けねえぞ!」
「お前はダメだ、またベロンベロンにされるぞ!」
「ちげえね!」
後方の帆船から、たくさんの船乗りが身を乗り出す。
みんな、タエに向かって手を振っていた。
笑顔で、楽しそうに騒いでいた。
「何、サボってんだ手前ら!
仕事しろ、仕事!」
ゲオルギーの一喝に、帆船に乗っていた男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
そして痰を吐いてから、あらためてゲオルギーはタエに向かい合った。
「海は女だ。
それも嫉妬深いな。
だから、基本、女は乗せねえところがいっぱいだ。
けど、そんなときゃいつでも俺達を呼んでくれや。
タエなら――」
ゲオルギーは1cpを弾いた。
「こいつで帰りも乗せてってやるからよ」
噛み煙草ですっかり真っ黄色に染まった歯を見せて、ゲオルギーは不敵な笑みを浮かべた。
そんな自信に満ち溢れた海の男に、タエは、ゲオルギーの心臓部を拳で触れた。
「言ったわね。
聞いたんだから。もうキャンセルは聞かないわよ」
サック一杯に詰まった黄金以上に価値があるであろう笑みを、タエはゲオルギーに向けた。
真正面から見つめられたゲオルギーは、思春期の少年のように頬を赤く染めてしまった。
「帰り、きっと乗らせてもらうわ。
でも、その時は、連れがあと3人いると思うけどね――!」
タエは澄み切った大空を見上げる。
ウミネコが舞い、潮騒の音が響く――
「サーペンスアルバスまであとちょっとか!
さっすがに長かったわね~」
タエは眩しそうに、黄金の髪の毛を掻き揚げた。
○
黒水晶のような艶やかな髪を、オオバコの茎を紐としてポニーテールにしている少女。
少女は百合の花のように白く可憐で、森や草原にいるであろう精霊を思わせる。
優しげな雰囲気を常に感じさせた。
まさか、この少女が黒聖処女(ノワール ラ・ピュセル)のノアであるとは、誰も信じられないだろう。
そんな少女、ノアは、今、女神エロールの大司教(パトリアーチ)法衣に身を包んでいた。
真摯に開かれた黒い瞳には決意が見て取れる。
「全てを貫く神槍、我が手に」
ノアが小さく囁くと、その小さな右手には槍が握られていた。
グングニルだ。
神の城に聳え立つ城壁をも突き破る槍である。
ノアは力をこめて、グングニルを握り締めた。
「おにいちゃん……」
ノアは兄の言葉を思い出す。
頼みの言葉、と言っていた。
「この街サーペンスアルバスと住人を守ってくれないか」と――
「おにいちゃんは大丈夫。
わたしなんかより、おにいちゃんのほうが強いんだから……
大丈夫だよ、ね……」
言葉に出して見たが、ノアは不安を拭いきれない。
今すぐにでも、本当は兄について行きたいと思っている。
「頼む――」
でも、それを思うたび、兄の言葉が再生される。
「おにいちゃん――」
ノアはグングニルを力強く握り締めた。
そして自室のドアに手を伸ばす。
「わたしは大丈夫だから――」
正直に言えば、まだノアは悩んでいた。
考えて悩むことをやめない。
そしてそんな時には、もう、やることは決まっている。
「わたし、おにいちゃんにもっと好きになってもらえるようにするから――」
[ウォウズの村]での経験をノアは思い出す。
好きな人に対しては、全力を尽くすと決めたのだから。
その想いはノアに勇気を与えてくれる。
ノアは扉を開けた。
その瞬間、ノアは[黒聖処女(ノワール ラ・ピュセル)]となる――
○
どのぐらいの時間が経過したのだろうか。
マリエッタには全くわからなかった。
たった少しの時間のような気もするし、恐ろしく長い時間閉じ込められている気もする。
そんな時だった。
足音が聞こえてきた。
マリエッタは身をこわばらせながら、音の方へと視線を向ける。
「いやあ、溜まって溜まって仕方ねえっと~」
30過ぎぐらいの男だった。
手には錆びた手槍を持っている。
一見すると、マリエッタには牢の門番だろうかと思えた。
「いやあ、役得役得~♪
これがなきゃ、あんなガイキチ女の下でやってられねえ~」
そして、その男はマリエッタ達を欲望丸出しの目で見つめてきた。
「……」
マリエッタは何も口にしなかった。
正直、こういった事が起こる可能性は高いだろうと考えていたからだ。
人質などは、生きていれば良いのだ。
「お、今度は気の強そうなベッピンさんだねえ。
しかも、うへー、もう1人はお腹パンパンじゃねえか。こりゃ、さすがに初めてだ。
やべ、こりゃあすっげえ楽しめそうじゃねえかよ~」
男の悦に浸った笑み。
マリエッタは生理的に受け付けられる類のものではなかった。
だが、それを表情に出すことはしない。
何時ものように、淡々としたメイドの仮面をつけた。
「遅かったですね」
マリエッタは決意する。
自身で行える戦いを開戦しようと――
「待ちくたびれました」
冷静な声を発しつつ、マリエッタは立ち上がる。
そして、マリエッタは胸のリボンを自ら解いた。
「ほ~?」
さすがに下種は笑みを浮かべた男も、これには驚きの表情を浮かべる。
なんと、マリエッタは自身の服のボタンを外し始めたのだ。
「おいおい、お嬢ちゃん。
わかってるじゃねえか。
こっちゃ楽でいいやね、へへ、大歓迎か~♪」
ますます下種は笑みを男は浮かべた。
「無駄なことは嫌いな性分です。
私の力では、貴方に逆らっても組み伏せられるだけでしょうから」
「へえ、クールだねえ。
こんな冷静な美人さん初めてだ、こりゃあ楽しみすぎるぜ~」
マリエッタにはそういった経験は無い。
だが、知識として聞いてはいる。
男の欲望は、一度満たされれば満足することが往々にしてあると。
だから、最初に自分がその対象になれば、ニエヴェスの方には男の欲望の対象にならないかもしれない。
マリエッタはそう考える。
ただの時間稼ぎかもしれない。だが、マリエッタは出来る限りのことをやると決めたのだ。
「(ホワイトスネイク、ホワイトスネイク、ホワイトスネイク……!)」
マリエッタは心の中で、尊敬する男の名前を連呼する。
それはマリエッタを強くするための呪文だった。
「(貴方の名前、失礼にも拠り所にさせていただきます。
これだけはお許しください、ホワイトスネイク……)」
ボタンを外し終えたブラウスを、マリエッタは床に落とした。
「ご開帳~、っと!」
マリエッタの胸が露になる。
男はカエルのような口をして、ギラギラした目でマリエッタの上半身を凝視する。
「(ホワイトスネイク……)」
カエルのような男がマリエッタに手を伸ばす。
マリエッタは目を瞑って、黙って、事が終わるのを待つ――
「イエリチェ、貴方のエストックを。
私のエストックは、この下種には相応しくないわ」
凛とした声だった。
それはまるで鈴の音を思わせるような女性の声だ。
「な、なんだあ!?」
マリエッタの胸に手を伸ばそうとしていた男は、慌てて、声のする方へと向きなおす。
「――!?」
目を閉じていたマリエッタも瞳を開く。
すると、そこには5人の女性がいた。
全員とも、褐色の肌を持つ美麗な女性達だった。
その中でも、1人、圧倒的な存在感を持つ女性がいた。
女王の風格、といえばよいのだろうか。
もう目を離すことができない、それほどまでに美しく気品に満ちていたのである。
マリエッタも呆然と、その女性を見てしまう。
その女性は、後方にいたイエリチェと呼んだ女性から剣を受け取る。
それはエストック。先端になるにつれ狭まり先端は鋭く尖っている剣だった。
「へ!?」
事も無げに、その女性は男の心臓を一突きした。
力を入れた様子もない。
「私のエストックに触れられるのは、誇り高き強き殿方のみ。
貴方はダメね。
死んで、来世に強くて良い男で生まれ変わりなさい。
そうすれば、私のエストックに触れるチャンスはあるかもしれないわよ?」
「あ、ああ……」
男は苦しげな呼吸を吐きながら、地面の石畳へと倒れ付した。
「あ、貴方は――?」
事の成り行きに対して、マリエッタの理解が追いついてこない。
呆然としつつ、なんとか口に出した言葉に対して――
「私はラクリモーサ。
初めまして、になるわね。フフ」
女王の風格を持つ女性はラクリモーサと名乗った。
★
なんという女性率の高さ。
今、ちょっとビックリ。でも久しぶりに書いたキャラクターもいて楽しました!
○
場面の時系列は明確にはしません。
それは文章の書く上での技量不足を隠すため!
突然、○○が○○するかもしれません。
○
ガストンさんは自宅に帰って農業タイム。
○
今回の話は、R15ぐらいになってしまうのでしょうか?
まだXXX板への移動はしなくてもよいとは思っているのですが、ちょっとだけ不安(笑)
○
タイトルのネタ切れ半端無し。