わたしは走り出した。
目の前に明るい光が飛び込んでくる。
一瞬、目の前が真っ白になって――
ちょっとずつ、目が、光に慣れてくる。
「わあ……!」
そこは一面の草原。
どこまで続いているのか、全く、検討もつかないぐらい――!
さらさらと風が流れていき、わたしの髪の毛も後ろになびいていく。
森は嫌いじゃない。
けど、ここには森では感じられない風を感じられて――
思いっきり、大きく背伸びびと深呼吸をする。
「抜けたあ!」
植物が教えてくれた通りだった。
この世界に来て、3日目で[ドルーアダンの森]を抜けることができました。
○
昨日は結構ドキドキな体験をしました。
初めてモンスターに出会ったんです。
それはびっくりするぐらいに大きな蜘蛛!
2メートルぐらいはありました。
たしか[アラクニッド]って名前だったと思います。
でも、もっとびっくりしたのはわたし自身についてです。
[アラクニッド]を認知した瞬間、弓矢を身構えていました。
自分でいつ、矢筒から矢を取り出してロングボウにつがえたのか、
まったくわからなかったぐらい。
あっという間に臨戦態勢でした。
しかも全く矢が外れるなんて思わないんです。
[アラクニッド]までは10メートルほどもあるけど、確実に命中できる自信がありました。
そして、確実に[殺せる]であろうことも確信できていました。
そんなわたしだったけど。
[アラクニッド]は何もなかったように木の上に上っていってしまいました。
「うはー、初モンスターかあ」
心臓がドキドキしました。
わたしは[ノア]に対して、心の中で感謝しました。
[乃愛]だったら、きっと何もできなかったに違いないのだから。
○
と、そんなことがあったのだ。
でも、それ以降は平和そのものです。
[アラクニッド]に以外には、特別に、何かに遭遇したといこともなく。
薬草と木の実や果物を集めながら、[ウォウズの道]へ向かって北上しました。
そして、つい先ほど[森からの脱出]をクリアです!
「あは、なんだかパソコンの画面みたい」
電源を入れたパソコンって草原じゃない?
あれ、うちのだけなのかな?
なんだか、そんなことをふと思い出した。
そんな大草原をぐるりと360度見回してみる。
「あれ?」
遠くの方に一頭の馬がいるのが見えた。
焦げ茶色した身体の馬が、おいしそうに草を啄んでいる。
「わ、本物の馬?」
映画やテレビでは何回も見たことがあるけど、実際には全くない。
そうなれば、これはもう行くしかないでしょう!
わたしの足は自然と馬に向かって走り始めていた。
○
「こんなに大きいんだ!」
初めて近くで見た馬は大きくて、力強くて、とっても優しい目をしていた。
わたしはそんな馬の首筋をさすった。
「わ、あったかい」
当たり前だと思う。
馬は生きているのだから。
でも、この世界に来て、初めてそういったことを感じられて――
ブルルンといななく声。
はむはむと草を美味しそうに食べる。
しっぽで近寄ってきた虫を追い払う。
なんだか涙が出そうになった。
とっても嬉しかった。
「きゃ!」
何かを察してくれたのか、馬がわたしの顔に鼻面をすり寄せてきた。
ごろごろといった感じで甘えてくる。
そして「べろん」と効果音が聞こえそうなぐらいに、わたしのほっぺたを舐めてくれた。
「あは、くすぐったい……」
わたしは頭の中にあった[動物の知識]から知識をひっぱりだす。
そこから馬が喜んでもらえそうな、対応をしてあげることにしました。
○
すっかり馬はわたしに懐いてくれた。
今ではわたしの横で気持ち良さそうに寝ている。
そんな馬の体温を感じなから、私も馬にもたれかかっていた。
「でも、この子(馬)って手綱や鐙があるから野生じゃないんだよね」
[D&D]の世界では馬はかなり高額だった気がする。
ライディングホースで100gp(ゴールド)ぐらいしたはずだ。
1gpは、日本円感覚だったら1万円ぐらいだったような気がする。
例えるなら、自動車が無くなったような感じでしょうか?
そう考えれば、もしかしたら飼い主の方が探しに来るかもしれない。
「となれば、初めて人に会えるかも!」
休憩がてら、少しここで待つことにしました。
もしも誰も来なかったら、それはそれで残念だけど仕方がない。
この馬を引き連れて[ウォウズの村]へ向かえばいいだけだ。
だが誰か来た時。
もしかするとこの子(馬)の主人が、盗賊だったりするかもしれない。
ここは日本では無い。
危険と隣り合わせのファンタジーの世界。
頭の中で「油断はしないで」と[ノア]がアドバイスをくれた。
○
「あ、やっぱり人だ!」
15分も経過したぐらいだろうか。
まだずっと遠くの方だが、男の人が息も絶え絶えに走ってくるのが見えた。
外から見える限りだと、腰にはハンドアックスをぶら下げている。
外見はチョッキにズボンと動きを重視した感じ。
なんだか木こりっぽい、がっちりした雰囲気を感じる。
「あの人、君のご主人様なのかな?」
わたしは仲良くなった馬のたて髪をなでる。
でも馬は夢の世界を冒険中なので、答えてはくれなかった。
「ダガーは、うん、問題ないか――」
腰の、ダガーがある箇所にそっと手を触れてみる。
遠くの方で、男性も、わたしと馬に気がついたようだった。
馬の様子を見て、走るのをやめたようだ。
男性が、こちらに向かって歩いてきた。
■■■
助かった。
森で仕留めた野うさぎを乗せようとしたら、突然、逃げちまいやがって。
ありゃ、蜂かなかでもいやがったか!?
たく、ホントにどうなるかと思ったぜ。
全財産はたいて手に入れたんだから、これで逃げられたら目も当てられねえ。
おやま、俺の気持ちも知らねえで、のんびりしやがってまー。
……
……ん!? 馬の横に……女、いや、子供がいる?
あ、手なんか振ってやがる。
あの女の子が押さえてくれていたのか?
「お嬢ちゃん、ありがとよー!」
俺は大きく手振り返して、ようやく一息ついた。
○
びっくりした。
胸がばくばく言ってやがる。
口の中につばがものすごく、不自然なぐらいにたまる。
ああ、そうさ、俺はめちゃくちゃ緊張しているんだよ!
「んぐ……!」
思いきりつばを飲み込んだ。
馬の横にいたのは、まだ、子供と大人の間ぐらいの娘さんだった。
年格好で言ったら、俺の子供って言われてもおかしくねえ。
でも、明らかに普通じゃねえんだよ!
少女の長い黒髪が風でなびいた時は、そりゃ、なんつかーびっくりしたさ!
周囲の空気が澄んでくるというか、あー、説明できねえ!
なんだか神聖なものを感じちまって、不可侵の気品つーか。
神さまとか、んなもん、何も信じちゃいねえ俺がだぜ!?
可愛らしくも、ただ触れちゃなんねえ、そんな風に感じる娘さんだった。
「とっても良い馬ですね、もう、逃がしちゃだめですよ」
落ち着いた、優しい声だった。
心に、何かが「ストン」とはまっていくような、あーあ、何言ってんだ俺は!?
「あ、ああ。た、助かったよ……
こいつがいねえと、仕事もままならなくてな……
ホントに助かったよ、娘さん……」
「よかったあ」
娘さんは嬉しそうに、俺に笑ってくれた。
緊張はしていたが、全然、悪い気はしない。
なんだか安心するような気持ちになった。
「わたし、ノアっていいます」
■■■
よかった、言葉が通じる!
人に会えたは良いけど、意思疎通が出来なかったらどうしようって思っていたから!
あと、良い人そうだったのもホッとした。
まあ、悪いことをしようとしている人が、手を振り替えしてくれるっていうのはあんまりないと思う。
馬の所有者は[ゲイル]さんと名乗られた。
[ウォウズの村]で狩りをして生活をされているとのことだった。
わたしは渡りに船とばかりに、[ウォウズの村]へ行きたいことを伝えた。
「あんたは俺の恩人だ。
それぐらいは当然だし、今日の晩飯ぐらいは俺に持たせてくれ」
ゲイルさんは、腰に、紐でくくりつけていた野ウサギを掲げてくれる。
おじさんって言ってもいいと思うぐらい大人の方なんだけど、とっても楽しそうに子供のように笑ってくれた。
☆
違うキャラクターからの視点による文章を入れてみました。
新鮮でちょっと楽しいです!