外伝 黒歴史編 第四話 年越しジャンプと息止め※この物語は『第一話 見切り発車』の約7年前の物語です。俺は今まで失敗を恐れる生き方をして来た。そして、この補給基地では色々と失敗してしまった。だが、終わり良ければ全て良し。結論を言うと、あの美人さんの連絡先を聞き出す事に成功した。彼女はイブリン・ドールトン少尉。士官学校を出たばかりで、行き成り弩辺境に飛ばされて色々と苦労しているらしい。そんなこんなで、少しは仲良くなったのだが俺は直ぐにハイネセンに向わなくてはならないので、ハイネセンへの便が出ている最寄の惑星まで送ってもらい、そこで別れる事になった。で、今俺は惑星マスジットの宇宙港待合室にいると云う訳だ。キャゼルヌの野郎め。『半年で帰れる』とか言っていたくせに半年以上経ってるぞ。まったく。ちなみに、今日は大晦日だ。そんでもって、元旦までの時間は一時間を切ってる状態だ。まあ、あの補給基地で一人で新年を迎えるよりは宇宙港待合室の方が遥かにマシだが・・・・。だが、帰還命令があと数日遅ければ・・・・艦内で賑やかに(主にドールトン少尉と)新年を迎えられたと思ってしまう俺は、間違っていないはずだ。そんな訳で、俺は生贄(話し相手)を求めてツマミと飲み物を持って宇宙港内を徘徊している所だ。すれ違う人々は皆幸せそうだ。親子連れにカップル、それからついさっき巨漢の軍人ともすれ違った。巨漢の軍人は二人づれだった様だが、もう一人は巨漢さんの陰に隠れて見えなかった。まあ、俺が私服じゃなくて軍服を着ていたら敬礼をしたのだが両手も塞がっている状態だし、色々と説明するのが面倒だったので無視した。べっ、別に巨漢さんが怖かった訳じゃないんだからね。おっ、獲物発見!!一人で寂しそうに座っている老紳士だ。幸せそうな親子連れをじっと見つめている。よし、同志だ。「お一人ですか?」「・・・見た所、卿も一人の様だが?」「ええ、生まれてこのかたずっと独身(ひとり)です。」「残念だが、私には二人ほど連れがいてな。今、アルコールとツマミを買いに行って貰っている所だよ。」「そうですか。アルコールはありませんが、ツマミならありますよ。お一つどうですか?」「そうだな、折角だから頂こうか。・・・それにしても、こんな日にアルコールも飲まずに、 一人寂しそうにしている老人に話しかけるとは卿は余程の物好きか、あるいは変わり者か・・・。」「多分、両方でしょう。・・・それから、アルコールは苦手なだけです。」「それは、人生の半分は損しているな。」「お陰様で残りの半分を楽しませて貰っています。」俺が話し掛けた老紳士は、中々面白い人だ。・・・後、この老紳士の訛りは帝国訛りかな?「失礼ですが、帝国出身の方ですか?」「ほう?どうしてそう思うのかね?」「いえ、話しているだけで気品が漂ってきます。」「くっふっふっふ!中々面白い御仁だ。そう云う卿は軍人かな?」「分かりますか?」本当に面白い人だ。最初は一言二言話して別れようと思ったのだが、シャトルの時間ギリギリまでこの老紳士と話込むのも悪くないな。「所で卿は『ジークマイスター提督の亡命事件』と『ミヒャールゼン提督の暗殺事件』を知っているかね?」「ジークマイスター提督ですか?確か・・・六十年程前に同盟に亡命してきた帝国軍人ですね。 ミヒャールゼン提督は、・・・帝国軍務省内の自分の執務室で暗殺された人物ですね?」(ちなみにミ『ヒェ』ールゼン提督は自分の艦の艦橋で暗殺された人物だ。)「ほう!!卿は中々物知りだな。」「・・・まあ、職業がら帝国の情報には其れなりに精通してますよ。」「では、ブルース・アッシュビー提督については知っているかね?」「ええ、勿論知ってます。第2次ティアマト会戦の英雄ですね。同盟人で知らない人は居ませんよ。」(ブルース・アッシュビーについて『みWikipedia』より抜粋 第2次ティアマト会戦における同盟側の宇宙艦隊司令長官。同730年6月士官学校を首席卒業。 同期の卒業生の優等生グループがそのまま彼の幕僚となった為、この一群を「730年マフィア」と呼ぶ場合がある。 第2次ティアマト会戦の終盤に旗艦ハードラックの艦橋が被弾し死亡。35歳。死後、(生きていれば)36歳で元帥に昇進した。 彼の戦死した12月11日は戦勝記念日として休日となっている。 アルフレッド・ローザスによると、戦機を見るのが比類ないほど巧みであった。 後世から見ると、乏しい情報でよくもあれだけの戦術的判断を下したものだと評されている。 戦争では連戦連勝を重ねたが、それらはあくまでも戦術上の功績によるものであり、戦略的/政略的に意義のある功績は無く、 アッシュビーの活躍が帝国と同盟の関係に何らかの影響を及ぼしたとは言えないとされている。 また、イゼルローン回廊に要塞を建設する構想があり、基本計画案を国防委員会に提出したことがあったが、艦隊の強化案と引き換えに要塞構想を破棄した (その後、帝国軍によって同回廊にイゼルローン要塞が建設された)。そのためローザスは戦略家ではなく、戦術家と評している。 帝国との長年にわたる戦争の中で出現した軍人の中でも、とりわけ英雄として扱われており、数々の伝記や映画が製作されている。 コンピューター検索を実行したら、書籍で123件、テレビドラマと映画で12件が該当した。 かなり長身で均整の取れた外見を有しているとされている。 天才ではあったが非常に尊大で態度の悪い性格だったようで、勝つたびに挑発的な電文を発しては帝国軍からの憎悪を招いた (個人的な憎悪を招くことで帝国軍幹部を挑発、理性的な対応をないがしろにさせていたと評している歴史家も多い。) しかしその性格の悪さは味方にも向けられ、政府や軍上層部には評判が悪く、第2次ティアマト会戦直前においては730年マフィアの仲間たちでさえ我慢できなくなっていた。 女性関係が派手で、2度結婚し、2度離婚している。その他、愛人や情人は一個中隊の人数ではきかないとされる。)「その『アッシュビー提督の死因が謀殺だった』と云うのはどうだね?」「・・・・それは、ありませんね。」「ほう、何故そう思うのかね?」俺の謀殺説完全否定に対し、老紳士は面白そうに口元を引き上げつつ、身を乗り出してきた。「アッシュビー提督が謀殺されるとしたら、もっと後になってからだと思います。例えば、元帥に昇進した後に軍を引退し政界に進出した時・・とか。」「なるほど、もっともな意見だな。」「まあ、アッシュビー提督が政界進出した時は、謀殺するより730年マフィアの内から対立候補を出す、と言う方法を私はお勧めしますが。 彼は色々と嫌われていたみたいですから。」「卿もアッシュビー提督は嫌いかね?」「公人としては尊敬しますが、私人としてはちょっと。幼い頃から彼の悪口を聞かされて育ったもので・・・。」「ふっふっふ!卿は同盟人としては、珍しい環境で育ったらしい。アッシュビー提督の悪口は両親から聞かされたのかね?」「いえ、祖父母からです。二人とも士官学校で730年マフィアと同期だったもので・・・。」「!!すると、第2次ティアマト会戦に参加していたのかね?」「いえ、あの会戦には参加していませんでした。」「・・・そうか。」何だ?この老紳士、第2次ティアマト会戦に喰い付いてきたな。まあ、俺としては特に第2次ティアマト会戦について語る事は無いのでスルーして置く。「お陰で、歴史書には載らない悪行の数々を聞かされました。」「それは、中々興味深い。」「もっとも、何処まで本当かは知りませんが。まさに死人に口無しって奴です。」「なるほど、確かにその通りだ。」少し長話しすぎたな。もうシャトル出発の時間だ。「すみません。シャトルの時間なのでこの辺りで失礼させて頂きます。」「それは残念だ。是非アッシュビー提督の逸話を聞いてみたいと思っていたのだが。」「本当に申し訳ありません。これからどちらに向われるのですか?」「ハイネセン、と云う事になっているらしい。私に選択権は無いのでな。哀れな囚われの身の上だ。」「奇遇ですね、私もハイネセンです。」「そうか。では、続きは次の機会にとって置くとしよう。」「こちらが、私の連絡先と住所になります。私は居なくても祖父母が居ますのでアッシュビー提督の事も直接伺った方が面白いと思います。」俺は持っていたメモ帳に官舎と実家の住所を書き殴ると、それを破り老紳士に渡し自己紹介もろくにせずその場を走り去った。いや、失礼だとは思ったんだが時間が迫ってたので仕方ない。慌てて移動した所為か、シャトルに乗り込む時にチョットしたアクシデントがあり、少し体が痛む。アクシデントの詳細は秘密。決して『年変わった瞬間、俺惑星上に居なかったんだぜ!!』的は意味でシャトル乗り込み用タラップで大ジャンプを決行したからでは無い。惑星マスジットの宇宙港待合室に一人の老紳士が片手にアルコール様のツマミ、もう片方の手にメモ帳から破られた紙を持ち考え事をしていた。老紳士こと『クリストフ・フォン・ケーフェンヒュラー』は、先ほどまで自分の横に座り言葉を交わしていた青年の去って行く背中を眺めつつ自分が同盟軍の捕虜になったのは、あの青年と同じ位の歳だった事を思い出していた。(月日が経つのは速いものだな、もう43年か。)一人で物思いに耽っていたケーフェンヒュラーは、アルコールとツマミを頼んだ同行者2名が戻って来るのを確認するとメモ用紙を胸ポケットにしまい込み、彼等を出迎えた。「やれやれ、哀れな捕虜から立派な市民待遇にして頂いて、ありがたい自由の身になった筈が、かえって窮屈になってしまったわい。 ゆっくりと絞首刑に処されているような気分でどうにも落ち着かん。 だが、外にも中々面白い奴がいるものじゃな。」巨漢の同盟軍人より差し出されたビールを受け取りつつ、ケーフェンヒュラーが発した言葉を聴き何の事かと同行者両名は首を傾げる事になった。「まったく!!この大晦日に、いい大人が!!」実際の所、大晦日は数分前に過ぎ去り、現在の日時は元日が正しい。所々に、ビールやシャンパンを掛け合う人々の歓声が響き渡っていた。彼女が歩いている惑星マスジットの宇宙港待合室も同様であった。その事に気付いたからといって、彼女の機嫌が良くなる訳でも無い。むしろ、逆に彼女の機嫌は益々悪くなって行く。彼女、『アレシア・ボーフォート』はこのマスジットの宇宙港に常駐している医師の一人だ。只でさえ、大晦日から新年という時に勤務が入っている事により機嫌が悪いのだが先ほどの事で、更に彼女の機嫌は悪くなった。今から二十分ほど前、待機所に居た彼女の元に、急患発生の知らせが届いた。如何に大晦日勤務の事で機嫌が悪かろうが彼女はプロだ。医師である自分に誇りを持っている。すぐに常駐のナースと共に、ストレッチャーや医療器具を持って現場に駆けつけた。だが、そこから先が最悪だった。患者は二十代の青年。症状は全身打撲と擦り傷。原因、はしゃいでタラップから転げ落ちた。それを聴いた彼女は、一瞬帰ろうと思ってしまったがそこはプロ意識で何とか押さえ込み青年の診察を開始した。脳の簡易CTを取り、全身の骨をチェックした結果、軽度の打撲と擦り傷、骨や脳に異常無しとの事だった。その結果、彼女の青年に対する治療が少し乱暴になったのは致し方ない事である。青年の治療が終わり、ブツブツと文句を言いながら宇宙港待合室を歩いている彼女の耳に、若い男性の叫ぶ声が届いた瞬間、彼女は声の聞こえる方へ走り出していた。そして彼女の目に、床に倒れている初老の男性とツマミが床に散らばった光景が飛び込んで来た。「ストレッチャーを!!はやく!!」彼女は同行していたナースに指示を出しながら、倒れている男性へ駆け寄った。・・・・・・・つづく。