第四十四話 再会と再開イゼルローン要塞は銀河帝国と自由惑星同盟の境界に位置する人口惑星である。その直径60km、内部は数千の階層に分かれ、二万隻の駐留艦隊を収容する軍事宇宙港や兵器工廠を含む、戦略基地としての機能を全て備えている。イゼルローンは民間人300万人を含む、500万人が居留する大都市でもある。酸素供給システムの一環である広大な植物プラント、完全な自給自足を可能にする水耕農場と食品工場。病院、学校、スポーツ施設、娯楽施設、商店飲食店などで大都市に在るべきもので無いものは無い。 ナレーションフェザーンか、久しぶりだ。と、言っても物心ついた頃以来だから全然覚えていない。「ペトルーシャ・イースト中将、お迎えにあがりました。」「・・・俺は、もう中将では無いし、提督でも無いよ、ドールトン大尉。」「知ってます、イースト大佐。」「ちなみに大佐でも無い、准将だ。」「冗談ですよ、イースト准将。この度、イースト准将の副官を再度勤めさせて頂きます。イブリン・ドールトン大尉です。よろしくお願いいたします。」「またよろしく頼む、ドールトン大尉。」「お互いに、左遷された身の上ですし仲良くやりましょう。(ニヤリ)」「・・・。」ドールトン大尉は以前俺の副官を勤めていた事もあり、それなりに面識があった。だが、何処をどう間違ったのか性格の歪んだ人間になってしまった。以前はあんなに可愛らしかったのに・・・。今は見る影も無い。「イースト准将?聞こえていますよ。(ニコリ)」「訂正します。ドールトン大尉は相変わらず、非の打ち所の無い美人です。」「有難う御座います。」実はイブリン・ドールトン大尉とはイゼルローン要塞を落とした直ぐ後に合っている。その時にドールトン大尉はイゼルローンで『チョットした問題』をおこし、謹慎及び左遷になった。その『チョットした問題』について語るには、ドールトン大尉のこれまでの経緯を説明しなければならない。俺の副官を勤めた後、彼女はたちの悪い男に騙されて軍内部での不正に協力させられた挙句、その相手の男は帝国に亡命してしまった。そして、彼女は一転エリート街道から転げ落ち、日陰道を歩いて来た。そんな彼女と俺が再会したのがイゼルローンだった。イゼルローン攻略時に大量に発生した捕虜に対する処遇や、イゼルローン要塞の管理などの作業に対する応援及び引継ぎ要員として彼女は要塞にやって来た。偶然再会した俺達は懐かしさに心震わせたが、それから毎晩のように彼女の自棄酒に付きあわされた。元々酒の弱い俺が先に酔い潰れていたのだが、そこで一つの問題が発生した。彼女が酔い潰れている俺の顔に、毎度毎度落書きをした事だ。俺は最初、気付かずに要塞内を歩き回り同盟軍兵士や帝国軍の捕虜達にそれを目撃された。額に『東』『第三の目』や『万華鏡○輪眼』の開眼、『クルクルほっぺ』『カイゼル髭』『ピエール髭』『猫髭』『猫鼻』『キカ○ダー』『眼帯』などなど彼女の暴挙は収まる所を知らなかった。やがて、俺も落書きを一々消すのが面倒くさくなりそのままの状態で過ごす様になった。その結果、イゼルローン要塞内部で『ある噂』になってしまった。ただ、この程度の問題ならどうと云う事は無かった。俺の奇行の一つとして、『はいはい、イーストイースト』と処理されて終わりの事態だった。問題だったのは彼女が再会してしまった事だ。俺では無く『もう一人の人物』と、つまり彼女に罪を擦り付け帝国に亡命した男とである。イブリン・ドールトン、彼女は非常に冷静で計画的な人物だ。本来ならば、あんな事を起さずに冷静かつ大胆にその男に復讐をしただろう。だが、連日の自棄酒の結果、アルコールが脳に回ったのか、あるいは俺が『今度、そいつにあったらぶん殴ってやれ。タマタマを蹴り潰してやれ!!』などとアドバイスしたのが悪かったのか。その男と再会した彼女は、公衆の面前でそれを実行してしまった。すなわち、 『右ストレート』 ↓ 『金的』(潰れたかどうかは知らない。) ↓ 『かかと落とし』この三連コンボを極めてしまった。以上が『チョットした問題』だ。だが、俺は見てしまった。倒れた男の後頭部をヒールの踵でグリグリと追撃していた笑顔の彼女を・・・。「始めましてイースト准将、弟から話は伺っております。小官はチュウザーイ・ブ・カーン少佐と申します。」「よろしく、カーン少佐。ペトルーシャ・イースト准将です。」・・・本当に居たよ。こうして、俺の駐在武官としての生活が始まった。駐在武官とは主に情報収集を目的とし動く。そしてこのフェザーンは、帝国と同盟の丁度中間点だ。つまりは、帝国と同盟両方の情報が集まる所だ。ついに、この時が来た。帝国の情報、俺が喉から手が出るほど欲しかった帝国の情報が手に入る。どれだけ、この時を待ったか。おっと、感慨にふけるのは後だ。早速、コンピューターで検索だ。正直、俺の将来に関わる事だ。「コンピューター、銀河帝国の軍人を検索してくれ。名前は『ヘイン・フォン・ブ○ン』だ。」『該当者無し』「次、『エーリッヒ・フォン・タンネ○ベルク』」『該当者無し』「『エーリッヒ・ヴァレ○シュタイン』」『該当者無し』「・・・『フリーダ・フォン・ア○ベルト』」『該当者無し』・・・・・どうやら俺の将来は安泰の様だ。うーん、それはそうとして、何か忘れている気がするんだが何だっけ?「よお、ユリアン、如何した。」「ポプラン少佐、実はイースト准将から手紙を預かってまして。」「手紙?」「コチラです。」「どれどれ」『空戦隊の諸君へ、後で先日の賭けの取り分を徴収しに行きます。使い込まずに取って置いてね。』byイースト本当に何か忘れている気がする。ポプラン達との賭けの事はユリアンに手紙を持たせたし・・・。「イースト准将、大変です。」「何かな、ドールトン大尉?」「銀河帝国の皇帝が死にました。」「・・あ、そうだった。」「?」「いや、こっちの話。それより、皇帝ってフリードリヒ4世の事か?」「はい。」「そうか、わかった。」ヤバイ、クーデターの事スッカリ忘れてた。どうしよう。とりあえず、ハイネセンに通信を送って置くか。『銀河帝国の皇帝が死ぬ。これによって、帝国内での内戦が勃発する可能性極めて大である。 その内戦に、我が自由惑星同盟の干渉を防ぐ為、帝国よりの内部工作、同盟内部でのクーデター、暴動等を扇動する可能性あり。注意されたし。』これで良し?まあ、オーベルシュタインも皇帝に敬語使って無かったし大丈夫だよね。銀河帝国の首都星『オーディン』暗闇に支配され、取調室を思わせるその部屋には数人の人物がいた。帝国軍総参謀長パウル・フォン・オーベルシュタイン中将、宇宙艦隊司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥、宇宙艦隊副司令官ジークフリード・キルヒアイス上級大将そして、先ほどから一人で喋り続けている男、帝国軍の捕虜になっている同盟軍人アーサー・リンチ少将であった。「逃げたんじゃ無い、民間人を連れて行けば足手纏いになる。そう考えたから俺達だけで脱出したんだ。脱出して味方の増援を頼めば、エル・ファシルなど直ぐに取り戻せた。 それをヤン・ウェンリーの奴め、俺達が脱出したのを囮にしやがった。言わば、俺達を犠牲にして自分が生き延びただけの事だ。何がエル・ファシルの英雄だ。 あの落ちこぼれ中尉が今や大将閣下だと、クソ。それに引き換え、この俺は『卑怯者よ』『恥知らずよ』と収容所でさえ白眼視され、風の噂に聞けば女房も子供も籍まで抜いちまったと。 確かに俺の選択は間違っていたかもしれん。だが、ここまで貶められ、ここまで苦しめられねばならない事か?軍にはもっと残虐な事や卑劣な事をして来た奴がいっぱいいる。 そいつ等に比べて、俺は道義的に劣る事をして来たと言うのか。」「如何ですか?この男、今回の任務には適任かと。」男が一息ついた所を見計らって、オーベルシュタインがラインハルトに声をかけ、それを受けたラインハルトがリンチに話し掛けた。「リンチ、よく聞け。お前にある任務を与えてやるから、それを果たせ。成功したら帝国軍少将の位をくれてやる。」「少将、少将か、そいつは悪くない。で、何をすりゃいいんだ?」「お前の故国、自由惑星同盟に潜入して軍内部の不平分子を扇動し、クーデターを起させるのだ。」「はっはっはっ、無理だ。そんな事は不可能だ。あんた素面で言ってるのか?」「不可能では無い。ここに計画書がある、この通りやれば必ず成功する。」「しかし、もし失敗すれば俺は死ぬ。きっと殺される。」「その時は死ね。氏ねじゃなくて死ね。」「えっ?」「ラインハルト様?」「閣下?」「今のお前に生きる価値があると思っているのか?おまえは卑怯者だ、守るべき民間人も、指揮すべき兵士も捨てて逃亡した恥知らずだ。 どのように言い訳しようと誰もお前を支持しない。そんなになってもまだ命が惜しいか?」「・・・・そうだ。今更、汚名の晴らしようも無い。だとすれば、せめて徹底的に卑怯に恥知らずに生きてやるか。少将の件は間違い無いだろうな。」こうして、ラインハルトによるクーデター扇動作戦が決定した。「閣下、どの様にして工作員を同盟に紛れ込ませるお積りですか?」「知れた事、自由惑星同盟に捕虜交換を持ちかけ、その捕虜の中に紛れ込ませつつ、その捕虜達とは別のルートでも工作員を紛れ込ませる。」「なるほど、『イゼルローンは陽動で本隊はフェザーン行き』と言う訳ですね閣下。」「その通りだ、オーベルシュタイン。」「ん!?」「ロイエンタール提督、如何致しましたか?」「・・・いや、何でも無い。」・・・・つづく。 金銀「オーベルシュタインめ、俺の台詞を盗りやがって!!」豆 「いや、貴方のじゃ無いでしょう。」黒猪「それより、もう戻って来ないと思っていたぞ。」豆 「いや、色々とありまして。」黒猪「疎遠スパイラルか?」女預言者「私はあの事を知っているわよ?」豆 「すみませんでした!!許してください。」東方「そんな事より、時間が経つとネタはどんどん古くなるって、寿司屋の大将が言っていた。大丈夫か?」豆 「大丈夫だ、問題無い。」黒猪「消費期限が過ぎているぞ?」