第二十九話 特攻ウォルフ オカマを掘られたと彼は怒った。彼は前を見ていなかったお前が悪いと言った。オカマを掘った人物は怒った。急に止まったお前が悪いと言った。どっちも悪いと、気付くのにあと何年? フレデリカ・ベルンカステラアルヴィース星系では後に『アムリッツァ前哨戦の悲劇』と呼ばれる戦いが行われようとしていた。ただし、『アムリッツァ前哨戦の悲劇』を戦いと定義するか、それとも事件あるいは事故と定義するかは後世の歴史家の間でも分かれている。ただし、多くの歴史家は、後者を選択する。イゼルローン要塞へ撤退中の同盟軍第9艦隊は、敵の追撃を受ける事無く順調に行程を消化していた。だが、旗艦『パラミデュース』で艦隊司令官アル・サレム中将の参謀が突如悲鳴に近い声をあげた。「あっ、あれは!!」「ん?ああっ。」参謀の声に反応し周囲を確認したアル・サレム中将も、それを確認し思わず息を呑んだ。そこには、後方より追撃して来た敵艦隊がいた。それも、アル・サレム中将の想定していた速度を遥かに超えた速度で追撃を掛けてくる艦隊だった。実際、後方より追撃して来たハズの敵艦隊は同盟軍第9艦隊に肉薄し、並走し、更に一部の敵は第9艦隊を追い抜いていた。「なんと、素早い。」「まるで、疾風だ。」アル・サレム中将とその参謀は、敵の艦隊運動を見た正直な感想を口から発した。その時、アル・サレム中将の脳裏に先日『変なスピーチ』を行った、ある人物が浮かんだ。『何、アル・サレム?敵の追撃を振り切れない? アル・サレム。それは無理矢理逃げようとするからだよ 逆に考えるんだ。『追い付かれちゃってもいいさ』と考えるんだ。』その人物だったらきっとそう言う筈だ、とアル・サレムは思った。少なくとも彼はそう思った。そして、彼は『それ』実行した。すなわち、「全艦急速減速!!」と命令を出し、第9艦隊の各艦はその命令を直ぐに実行した。一方、同盟軍第9艦隊を追撃している帝国軍の『ウォルフガング・ミッターマイヤー中将』率いる艦隊では充分に余裕を持って同盟軍を追撃をしていた。ミッターマイヤー艦隊の旗艦『ベイオウルフ』では司令官のミッターマイヤー中将が「いかんな。少し速度を落させろ。距離を持たんと攻撃も出来ん(笑)」と命令を出し、参謀達も口元に笑みを浮かべてミッターマイヤーの命令を肯定した。だが、その命令を実行するより早く『それ』は起こった。一言でその事態を表現するとしたら『大☆惨☆事』まさに、大惨事だった。一瞬にして、アルヴィース星系で追撃戦を演じていた同盟軍と帝国軍の将兵の約半数が冥界の門をくぐり、残りの半数の艦隊も戦闘に耐え得る状態では無かった。同盟軍第9艦隊司令官アル・サレム中将も重症を負い、艦隊の指揮を引き継いだ副司令官『ライオネル・モートン少将』が第9艦隊の残存兵力を纏め、すぐさま撤退を開始した。帝国軍ミッターマイヤー艦隊の損害と混乱も激しく、ミッターマイヤーは混乱を纏めるのに精一杯で撤退に移っている同盟軍を追撃する余裕は無かった。イゼルローン要塞では、永きに渡る眠りから覚めたロボス元帥が総参謀長であるクブルスリー大将が『総司令官代理の権限』で全軍撤退の命令を出した事を知り、激怒していた。しかし、今更再進攻を命じるわけにも行かず、心の中に鬱憤が溜まって行った。そんなロボス元帥の所に、同盟軍第9艦隊の惨状についての報告が入り、続いて各星系で同盟軍艦隊が帝国軍艦隊と遭遇しているとの報告が入った。どちらの情報も断片的な物であった為、ロボス元帥はその断片的な情報のみで現状を判断するしか無かった。断片的な情報とは、『第9艦隊は敵の攻撃を受け、一瞬の内に半数を失った。』、『同盟軍の各艦隊は同数、又はそれ以上の数の敵と遭遇している。』『最深部の第11艦隊が駐留していた星系には、約4倍の敵艦隊が進攻して来た。』であった。実際は、第9艦隊を一瞬で半数にした帝国軍のミッターマイヤー艦隊であったが、与えた以上の損害を被るっていた。また、帝国軍と遭遇した同盟軍の各艦隊は一進一退の攻防を繰り広げており、敵からの離脱を成功させた艦隊もいた。そして、第11艦隊は約4倍の敵の追撃を完全に振り切る事に成功していた。だが、そんな事を知らないロボス元帥は事態を深刻に受け止めある命令を全艦隊に下した。すなわち、兵力の再編成を行い帝国軍に最後の抵抗をする為に『全軍、アムリッツァ恒星系に集結せよ。』と猪艦隊を振り切り、無事に撤退に移る事が出来た第11艦隊(俺が率いている方)はウランフ提督の第10艦隊と無事に合流し、一緒に逃げている俺の所にイゼルローンの司令部より命令が届いた。『全軍、アムリッツァ恒星系に集結せよ。』正直、『通信の調子が悪い』とか適当な理由を付けてイゼルローンに逃げ込みたい。隣にウランフ提督の艦隊がいなければそうしたい所なのだが・・・。ウランフ提督の手前命令を無視する訳には行かず、俺の第11艦隊と第10艦隊は命令通りにアムリッツァ恒星系に向った。帝国軍ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の旗艦ブリュンヒルトでは先日の件についての詳細な報告がラインハルトの元に届けられた。「・・・なるほど、つまりヤツは艦隊を二つに分けていただけか。 ふっ・・ふはははははははっはは、何の事は無い。ただ、分けただけだ。何を恐れる必要がある。 ふははははははははははははははははは・・はっ!!・・ゲホッ!ゲホッ!」「閣下!!落ち着いて下さい。」詳しい情報が届けられた後も、オーベルシュタインは必死になってラインハルトをなだめる事になった。・・・・つづく。ついにやってしまった。ミッターマイヤーの追突はこの作品を書こうとした時、真っ先に思いついた事でした。この事だけで書きたい事の半分は書いた様な気持ちです。次回から少し『ペト無双』が入るかも知れません。ご了承下さい。蒼天航路を読んでいたら、急に恋姫のSSを書きたくなってきた今日この頃です。『二兎を追うもの、一兎も得ず』なので、とり合えず此方を完結させてからどうするか考えたいと思います。