第二十四話 「未来は僕らの手の中」byラインハルト イゼルローン要塞を出発した同盟軍の第11艦隊と第13艦隊は途中で敵襲を受ける事無く、無事に先行した艦隊が駐留している星系に到達した。ここで各艦隊は補給を終え次第、バラバラに帝国領へ進攻する事になる。俺はイゼルローンから運んできた物資を各艦隊に補給する為の事務処理に追われていた。事務処理について、ヤンは使い物にならないので必然的に俺がやる事になる。一応、ヤンの副官のグリーンヒル中尉が手伝いとして俺の作業を手伝ってくれている。一緒に作業をしていると分かるが、彼女は本当に優秀だ。そんなこんなで、作業中の俺の所に参謀のラップ大佐がやって来た。「閣下、間も無く第5艦隊の旗艦『リオ・グランデ』で作戦会議が行われる時間です。」「もう、そんな時間か?・・・グリーンヒル中尉とラップ大佐は先に向ってくれ。俺はキリの良い所まで終わらせてから向う。」俺の返事を聞いたラップ大佐とグリーンヒル中尉が、俺に敬礼をしてから退出する。本当は、作戦会議に遅れて行くのは、かなり不味いのだが今回は仕方ない。ロボス元帥とキャゼルヌから今回の補給については俺が一任された訳だし、どうせ作戦会議といっても、基本計画はすでに立案されてるしな。俺が行ってもやる事なんて無いさ。この時の俺は作戦会議を甘く見ていた。お陰で、あんな事になるとは・・・。第5艦隊旗艦『リオ・グランデ』内に『第11艦隊司令官以外の』各艦隊の司令官、及び参謀達が作戦会議を開く為に集まっていた。「まあ、作戦会議と言っても基本計画はハイネセンの阿呆によって既に立案され、最高評議会で可決されたのだ。ここで我々がどうこう言っても、せん無きことじゃて。 それより、現在の各艦隊内に漂っている『だらけた空気』を何とかする方法を考える事が先決じゃな。」「確かに最近は緊張感の欠片も無い。まるでピクニックにでも来ているつもりでいる。当初の『玄関開けたら、二分でサラバ』作戦通りなら問題は無いのだが・・。 このままの状態で帝国領に一気に進攻するなど、考えただけで恐ろしい事だ。何か、良い案が無いだろうか。」ビュコック提督とウランフ提督が、各艦隊の抱えている共通の問題を会議の議題として提出した。つまり、兵士達の士気である。一同、頭を抱えて悩んでいる所に第13艦隊司令官のヤン提督より画期的な解決策が提示された。「簡易出征式を行い、そこで第11艦隊司令官である作戦参謀『代理』殿に演説を行って貰うのは如何でしょう?」画期的な解決策とは、詰まる所この場にいない人物に責任を押付け様と云う事であった。そして、各艦隊司令官がヤンの案に賛成し、会議は不幸な作戦参謀『代理』の到着を待たずして終了した。その後、事務処理を終えて『リオ・グランデ』内の会議室に到着したペトルーシャを待ち構えていたのは誰もいない真っ暗な会議室だった。真っ暗な誰もいない会議室。今の俺には先日の作戦会議の時に、一人取り残されたロボス元帥の気持ちが理解できた。今なら言える『ゴメンナサイ』補給が済んだ後、再び出征式を行う事になった。(今回のは簡単な出征式らしい。)その式で、またまた作戦参謀『代理』として何か言えと言われた。どうやら、俺が遅れて会議に行ったのが原因か?(飼育係じゃあるまいし。)毎度毎度の事だったので、俺は心良く『別に言う事はねえ。』と断ったのだがビュコック提督とウランフ提督に両腕を抱えられて無理やり壇上に引きずられて行った。ちなみの、この様子は全艦に流されているらしい。おい、笑っている奴ら。全員顔を覚えておくからな。覚悟して置けよ。特に、ウランフ提督の艦隊の自称革命家。俺を指差して笑うな。「ビュコック提督、演説って一体どの様な事を言えばよろしいので?」「う~ん、全体的に弛んでいる士気を引き締めつつ、あまり好戦的にならない様な感じで頼む。やり方は貴官に一任するという事で。」結局は訓示だか演説だかよく分からない事を話さ無くてはならなくなった。なので、折角だから全員の気持ちを引き締める様な演説を行う事にした。「現在我々がいる場所は何処だ。・・・そう、敵の領内の真っ只中だ。故郷の学校の裏庭では無い。 我々には教師の目を盗んで昼寝を楽しんでいる余裕は無い。故に、今後は更に気を引き締めて作戦に望むよう切に願うものである。」 ざわ・・・ざわ・・・ 「・・・あのイースト提督がまともな事を言ってる。」 ざわ・・・ざわ・・・ 「今回の戦いは、そんなにヤバイのか?」 「あんなイースト提督は、イースト提督じゃない。」 ざわ・・・ざわ・・・ 「どうするよ?」 「どうするも何も、イースト提督の言う通りにしないと危険が・・。」 「あのイースト提督は、偽物じゃないのか?」 ざわ・・・ざわ・・・何?何なの、この反応。人が真面目に忠告したのに。結構良い事を言ったと思うのに・・・。俺、怒って良い?怒って良いよね。よし、言うぞ。言ってやる。・・・利根川さん、オラに少しだけ勇気を分けてくれ。「ファ○ク ユー、ぶち殺すぞ。ゴミめら・・。」 シーーーーーーーーン「今お前らがいる所は何処だ?此処はすでに地獄の釜の底(敵地の事)なのだ。 いくら語ったって状況は何も変わらない。今、言葉は不要だ。今、おまえらが成すべきことはただ勝つ事、勝つ事だ。 おまえらは負けてばかりいるから、勝つ事の本当の意味が分かっていない。『勝ったらいいな』ぐらいにしか考えてこなかった。 だから、今、クズとして此処にいる。『勝ったらいいな』じゃない。『勝たなきゃダメ』なんだ。 『リン・パオ』『ユースフ・トパロウル』『ブルース・アッシュビー』、彼らが脚光を浴び、誰もが賞賛を惜しまないのは言うまでも無く、ただ彼らが勝ったからなのだ。 勘違いするな。よく闘ったからじゃない。勝ったからだ!!彼らは勝ったゆえに今その全て、人格まで肯定されている。 もし彼らが負けていたらどうか?負け続けの人生だったらどうか? これも言うまでも無い。恐らく、『リン・パオ』は大飯喰らいの色情狂、『ユースフ・トパロウル』はボヤッキー、 『ブルース・アッシュビー』口先だけの生意気な電波野郎。誰も相手にさえしない。分かりきった事だ。 もう心に刻まなきゃいけない。勝つことが全てだと。 勝たなきゃゴミ。 勝たなければ! 勝たなければ!! 勝たなければ!!!! 」演説が始まった辺りでは、多くの者が唖然としていたのだが、演説が終了した後に一瞬の間を置いて、所々で『勝つぞコール』が起こり始めやがてそれは全体に感染して行った。「勝つぞ!」 「勝つぞ!!」 「勝つぞ!!!!」とりあえず、士気は上がったが・・・。いや、上げ過ぎか?このまま全員でオーディンまで突撃しそうな雰囲気だ。これは不味いと思った俺は少し士気を下げる為に、もう少し演説する事にした。「黙れ、ぶち殺すぞ。ゴミめら・・。」「勝・つ・・・?」「勝つだと?お前ら本当に勝てると思っているのか?だとしたら、救いようの無いゴミ共だ。 此処は敵地だ。敵に地の利がある。その他諸々の利が敵にある。そんな状態で勝てるハズが無い。 ならば如何するか?簡単だ。負けなければ良い。負けなければ良いのだ!! 古代中国の兵法書『孫子』にも書いてある。(様な気がする。)『戦争で勝つ為の努力は無いが、負けない為の努力はある』と 全ての戦争に敗因はあっても勝因は存在しないのだ。 ならば、我々もそうしよう。勝てないならば如何する? 負けない。 負けない! 負けない!! 鉄壁ゆえに無敵だ。鉄壁!鉄壁!無敵!!」「鉄壁!鉄壁!無敵!!、鉄壁!鉄壁!無敵!!」俺は勝てと演説を行っていたと思ったら、いつの間にか負けるなと演説していた。恐ろしいモノの片鱗は特に味あわなかった。それにしても、何なの?こいつ等。馬鹿なの?死ぬの?凄い乗せ易い連中だ。思わず、全員サクラ?と疑ってしまう。真剣に、こいつ等全員の将来が心配になって来た。悪い奴に騙されなければ良いが。(どの口が言う)それから、出征式が終わって直ぐに、各艦隊がそれぞれ担当する星系に向って進攻して行った。ちなみに、俺の第11艦隊の担当星系はかなり遠くの方だ。たぶん、一番危険だ。俺は、再び生きたまま同盟に帰ってこれる様に旗艦の中で、祈っていた。一方の帝国では、動かない同盟軍を誘き出す作戦を考えていたラインハルトの所に、参謀のオーベルシュタインからの報告が入る。「閣下、敵が動きました。同盟の各艦隊が帝国領へ進攻を開始しました。」「何、今頃だと?・・・くっ、しまった。此方が辺境部へ食料の配布を完了した途端に進攻を開始するとは・・・。 またしても此方の作戦を逆手に取られてしまった。おのれ、ペトルーシャ・イースト。」その結果、ラインハルトはペトルーシャへの警戒心を更に強める事になった。第13艦隊の旗艦『ヒューベリオン』では、ヤンとシェーンコップが例の演説を行った作戦参謀『代理』について話していた。「それにしても、作戦参謀『代理』殿の演説は、中々興味深い物でしたな。世が世ならヨブ・トリューニヒトの後継者・・、いや、対抗馬として充分やっていけるんじゃないですかね?」「貴官はイースト提督と面識はあるのかな?」「イゼルローン攻略戦の前に少し。その時も、少し変わっていると思ったのですが・・・。どうやら、かなり変わっている様ですな。」「確かに、変わっていると云う意見には賛成だね。」ヤンはシェーンコップが言っていた政治家になってヨブ・トリューニヒトとの舌戦を演じているペトルーシャ・イーストを想像し、それはそれで面白いと思った。・・・・・つづく。すみません。今回はかなりハッチャケました。思いついたネタをやってしまいたくなる私が悪いのです。何か話しが全然進んでない。次回は前哨戦に突入出来ればいいなと思います。