第二十三話 ぶっちゃけ、カードが本体統合作戦本部内にある自分の執務室でシドニー・シトレ元帥が、最高評議会で『帝国に対して大攻勢に出る作戦』が可決された報告を受け、頭を抱えていた時最高評議会のメンバーの一人である、交通情報委員長コーネリア・ウィンザー議員が自分に面会を求めているとの報告を受け、更に頭を抱えた。最初は適当に理由を付け、面会せずに済まそうと考えていたシトレ元帥だったが、その様な事を本当に行う訳には行かず、結局はウィンザー議員を自分の執務室へ案内するよう部下に指示を出した。そして、ウィンザー議員は彼の執務室へと案内されて来たのだが、ウィンザー議員だけで無く人的資源委員長のホアン・ルイ議員も一緒に執務室に入って来たのを見て彼は驚いた。だが、ウィンザー議員はシトレ元帥に驚く時間を与えずに、直ぐに口を開いた。「ペトルーシャ・イースト中将を即刻、作戦参謀から解任し、ハイネセンに呼び寄せて査問会に掛けるべきですわ。」「・・・だが、ウィンザー議員。彼は第11艦隊の司令官なのだ。その彼を前線から呼び戻しては仕舞っては、一体誰が第11艦隊の指揮をとれば良いのかね?」「そんなものは、代理の人物に任せれば良いですわ。」彼女が何を主張する為に自分の執務室に来たのかは、ある程度予想していたシトレ元帥だったが、自分の予想が当たった事について、素直に喜ぶ訳にはいかなかった。むしろ、予想が外れてくれる事を願っていたのだが結局は無駄だった。「代理の人物など、そう簡単には見つかりません。」「彼に任せれば良いではありませんか。」「彼?」「アンドリュー・フォーク准将ですわ。」「・・な「まあまあ、ウィンザー議員。今日の所はその辺で、イースト提督については現在の所、物的証拠などは無いのだし」・。」「それは、時間の問題ですわ。」「なら、査問会を開くのはそれからでも遅くは無いと思うのだがね。」ウィンザー議員の軍部内の人事に対する発言に、シトレ元帥は思わず声を荒げそうになったが、その瞬間にホアン・ルイ議員が強引に会話に割り込み、ウィンザー議員を宥めた。この時、シトレ元帥はホアン・ルイ議員が何故ウィンザー議員に一緒に付いて来たのかを理解し、彼に感謝した。宥められたウィンザー議員は足早に帰って行く。その背中を見ながらホアン・ルイ議員が「・・・どんなに探しても、証拠など出てこないと思うのだがね。」と、呟いたのがシトレ元帥の耳に微かに届いた。良い知らせと悪い知らせがある時、俺は悪い知らせから聞くタイプだ。今日、悪い知らせと良い知らせがあった。帝国領に進攻した艦隊からの連絡では無く、同盟の首都星ハイネセンからだ。無血で帝国領を占領した事で、同盟市民や政治家連中に帝国軍を甘く見る風潮が芽生えているらしい。(イゼルローン要塞無血占領が原因?)少し前には、アスターテやティアマトで痛い目に合った事はもう忘れたらしい。でも、軍の公式発表ではアスターテもティアマトも同盟勝利だから、一般市民が帝国軍を甘く見るのは分かるが政治家連中がこれではどうしようも無い。で、好戦的な市民や政治家連中が占領地を増やさずに帝国領入り口付近でたむろしている軍にもっと攻めろと騒ぎ立て、ある軍人が『帝国に対して大攻勢に出る作戦』とやらを発案し、最高評議会議長がこれに同調し、軍に大攻勢に出る様に最高評議会で新たなる作戦を可決した。どうやら、主戦論者の議員の誰かが現在進行中の作戦状況を攻戦的な一部マスコミにリークし、そのマスコミが市民を煽ったのが原因らしい。・・・・自称軍事アナリストやコメンテーターがテレビで『ピンポンダッシュ』作戦を批判している様子が目に浮かぶ。それで、先ほど最高評議会から可決した『帝国に対して大攻勢に出る作戦』に従い、帝国へ大攻勢に出ろとのお達しがあった。俺達軍人は政治家の決めた事には基本的に従わなくてはならない。今、俺の目の前に居るロボス元帥は何となく『帝国に対して大攻勢に出る作戦』に乗り気だが・・・。この『帝国に対して大攻勢に出る作戦』の決行が決まった事が悪い知らせだ。これは、後になって知った事だがこの時点で俺を作戦参謀代理から解任する案や、俺を首都星ハイネセンに呼び付け査問会を開く案などがあったらしい。これらの事は、シトレ元帥やグリーンヒル大将、一部の良心的な議員が精力的に動いてくれたお陰で現時点で実行される事はなかった。ロボス元帥も俺をハイネセンに送る事には反対だったらしく、一部の議員からの要求を突っぱねてくれた。お陰で俺は査問会に送られずにすんだ。そして、良い知らせの方はルフェーブル中将の第3艦隊が最高評議会の予算処置が降りたので後方支援として援軍に来てくれると云う事だ。「そういう訳だ。第3艦隊がイゼルローン要塞に到着次第、イースト中将の第11艦隊とヤン中将の第13艦隊は帝国領へ進攻して貰う。 イースト提督、貴官は作戦参謀代理であると供に第11艦隊の司令官なのだからな。」「了解しました。それで、前線からの物資の要求についてはいかが致しましょう。イゼルローン要塞の備蓄で充分賄える量ですので、第11艦隊と第13艦隊が 要塞を出撃した際に、護衛を行い一緒に前線へ輸送すれば安全だと思うのですが。」「その辺の所は、貴官に一任する。後方主任参謀のキャゼルヌ少将と話し合って決めたまえ。」「了解しました。」結局はこうなるのか?今回の進攻は威力偵察程度で済ます為に色々と努力してきた俺の苦労が、一瞬で駄目になった瞬間だった。こうなったら、前線で適当にやってすぐに撤退するしか無い。まったく、改造艦の名前を考える暇も無い。俺はブツブツと文句を言いながら、前線へ移送する補給物資の事を話し合うためにキャゼルヌの所に向った。そして、キャゼルヌの執務室には俺より不機嫌な執務室の主が待っていた。「まったく、政府のお偉方は何を考えている。あんな奴の言う事を真に受けて。」「何も考えていないんだろ?所で、あんな奴って誰だ?」「アンドリュー・フォークだ。」「フォーク?アイツ生きてたのか?」「何故、死んだと思うんだ?」「何となくだ。」「・・・今回の作戦変更はアンドリュー・フォークが原因らしい。」俺はテッキリ、アンドリュー・フォークが予備役になったと聞いた時、一緒に精神病院送りになったものだと思っていたがフォークは一時的に病院に入院したが、直ぐに退院し自宅療養(待機)となっただけだった。まあ、冷静に考えれば分かる事だった。統合作戦本部長暗殺未遂事件を引き起こしたわけでも無いし。だが、今はフォークの事より、これからの作戦の事についての打合せをした方が建設的だ。「早速本題で悪いんだが、補給物資の事だ。食料だけで5億トンだそうだ。」「それ位ならイゼルローン要塞の備蓄してある物資で何とかなるが、問題はこれからだな。」「・・・最低でも十倍は覚悟しておいた方がいいかもな。」「50億トンか・・・。途方も無い数字だな。何か良い手は無いものか。」「焼け石に水程度だが、フェザーン商人に頼むのはどうだ?『イゼルローン要塞から帝国領入り口付近で食料が不足しているから良く売れるぞ。』っと 情報を流すなり、要請するなりすればハイエナの様に寄って来るぞ。」「確かに焼け石に水程度だが、無いよりはマシだな。検討してみよう。」「そうか、頼む。それで、要求のあった補給物資は第11艦隊と第13艦隊で輸送艦を護衛して前線まで持って行こうと思う。」「ああ、それが良いだろう。出発はいつだ?」「第3艦隊がイゼルローン要塞に到着してからだ。色々引継ぎもあるしな。とりあえず、物資の積み込みだけはやって置きたい。 輸送艦や輸送コンテナを貰っていくけど大丈夫か?」「その辺は好きにしてくれ。・・・で、その手に持っているのは何だ?」「コレか?同盟軍チップスのおまけカードだ。」俺は手に持っていたカードをキャゼルヌに渡した。「・・・同盟軍第13艦隊司令官『ヤン・ウェンリー』中将。難攻不落のイゼルローン要塞を無血で占領した若き英雄である。」「ヤン・ウェンリーのカードは全種類持ってるから、欲しければどうぞ。」※同盟軍チップスとは、自由惑星同盟に貢献した同盟軍人のカードがおまけとして付いてくるお菓子だ。 ちなみに、俺は小さい時から集めている。俺はダブったヤンのカードをキャゼルヌに渡すと、執務室を後にした。前線に持って行く物資に関しては、後方主任参謀殿の許可が出たので好きにさせてもらうことにする。こうして、俺は要求物資より若干多目の物資を輸送艦やコンテナ、後は例の『輸送艦・快速』に詰め込んで第3艦隊がイゼルローン要塞に到着するのを待つ事になった。それから、改造艦の名前はシンプルに行く事に決めた。主砲を撃つのは『主砲艦』で輸送をするのは『輸送艦・快速』、分厚い装甲『装甲艦・厚』だ。シンプル・イズ・ベストって事で。・・・・・・・・・・本当の所は、俺が迷って中々決められずにいた為にアーロカート技術大佐達が暫定的に呼んでいた呼び名が定着してしまい、『今更新しい名前に変えると混乱が生じるのでは?』と、参謀のラップ君からのありがたい進言を頂いた為、心の広い俺は参謀の意見を取り入れた訳だ。その後、第3艦隊が到着し、第3艦隊司令官のルフェーブル中将との引継ぎと今後の作戦展開についての打合せを行い、それが無事に終了すると俺の指揮する第11艦隊と、ヤン中将の指揮する第13艦隊は輸送艦を護衛しながら帝国領に進軍して行った。・・・・つづく。