第十七話 ダブル・ブッキング 俺は基本的には規則正しい生活を志している。俺がだらしないと三姉妹に悪い影響が出てしまうからだ。毎朝、同じ時間に起き同じ時間に家を出発する。軍人で無くてもいや、社会人として遅刻は最低だと俺は思う。だが、今現在、俺は必死に走っている。今朝、いつも通りの時間に家を出たのだが大規模な交通渋滞に巻き込まれた。制御センターのコンピューターに間違ったデータを入力した為に起こった渋滞らしい。統合作戦本部に渋滞に巻き込まれた事を連絡した所「近くの市民公園にヘリを向かわせたので それに乗って来て欲しい」との事だった。だが、その市民公園に到着した時に俺が目撃したのは無慈悲にも俺の目の前から飛び立って行くヘリコプターであった。俺の必死な叫び声はヘリのローター音にかき消された。一人公園に取り残された俺に周りの人々の哀れみの視線が集中する。俺は何とかその場を取り繕う為に軍用ベレーを右手に持ち、それを盛大に振って如何にも見送りに来た人らしさを演出した。今現在、俺は必死に走っている。あの後、統合作戦本部に連絡した所俺を置いていったヘリにはシトレ元帥、ヤン・ウェンリー、アレックス・キャゼルヌ、そして、財務委員長のジョアン・レベロ議員が乗っているらしい。ヤンやキャゼルヌ位なら、ヘリを呼び戻しても良かったのだが流石に、元帥や財務委員長が乗っているヘリを呼び戻す訳には行かない。別のヘリが無いのかと問い合わせた所、近くの別の公園に向っているヘリがあるのでそっちに乗って来て欲しいとの事だった。なので、俺はその公園に向い必死に走っている所だ。風だ、俺は風になる。必死に走ったお陰で俺が公園に着いた時ヘリはまだ公園にいた。しかし、今にも飛び立ちそうな雰囲気だ。「そのヘリ、ちょっと待った!!」あのヘリに乗らなくては遅刻してしまう。なんとしても、乗らなくては。大声を張り上げ、全力で走りヘリに飛び乗る。やった。やったぞ。間に合った。無事に乗れた。俺は感動に打ち震える。しかし、そんな俺に声がかかった。どうやら、このヘリには先客がいた様だ。「やあ、おはよう。 久しぶりだね。ペトルーシャ・イースト提督。」「・・・・・・おはよう御座います。国防委員長閣下。」・・・・・・・乗らなきゃ良かった。「先日は酷い目に会ったそうだね。 キズの方はどうだい?」「はっ。国防委員長閣下のお陰を持ちまして 良好であります。」狭い機内で、あのヨブ・トリューニヒトと二人っきりになってしまった。例によって、俺も国防委員長の事は好きではない。だが、あまり表立ってそれを現しては拙い。ヨブ・トリューニヒトは裏で憂国騎士団と繋がっていると噂されている。俺一人がヨブ・トリューニヒトにマークされるなら問題ないのだがウチには三姉妹がいる。原作のヤンの様に家を襲撃されたら拙い。それに、先日のテルヌーゼンでの事もある。今思うとあれは拙かった。現在俺は反省中だ。「ははは、そんなに硬くなる事は無いよ。」「恐縮であります。」とにかく、今はコイツの機嫌を取らねばならない。最初の内は、他愛の無い世間話で済んでいたのだがやがて話題は、最近、軍部から提出された『大規模な帝国領出兵案』についての事に移っていった。流石に、軍事に関する話題については正直に話さないと拙いと思った俺は自分の心の内を正直に話す事にした。「では、君は今回の出兵には反対なんだね?」「はい、その通りです。小官は軍人ですので 『行け』、と言われれば何処にでも行きます。 しかし、現時点での大規模出兵については反対です。」「・・・現時点という事は時期が来れば賛成、という事で良いのかな? 出来れば、その時期とやらについて、もう少し詳しく話してくれないかな?」「例えば、現在の銀河帝国の皇帝は高齢です。 その皇帝が死んだ時、後継者を決める事で揉めるハズです。 下手をすれば内乱が起きる事もあります。 その時がチャンスだと考えます。」「・・ふむ、なるほど。」一応、有能で使える人物だという事もアピールして置く為ペラペラと喋る俺。この大規模な帝国領への出兵案。アンドリュー・フォーク准将が私的なルートを通じて最高評議会に提出した作戦だ。確か今日、最高評議会で作戦の是非を決定するハズだ。恐らく、可決されるだろうが・・・・。そうしている間に、ヘリが最高評議会ビルの屋上に到着した。「中々、有意義な時間を過ごせたよ。イースト提督。」俺は、足早に去っていくトリューニヒトを敬礼で見送る。姿が視えなくなると一気に体中の力が抜けイスに座り込む。本当に疲れた。一日中の仕事をした様な気になって来た。もう、家に帰りたい。そんな、俺の気持ちとは裏腹にヘリは統合作戦本部に向って飛び立った。ヘリの外を見ると同盟建国の父と云われている『アーレ・ハイネセン』の巨大な像が目の前に見えた。「・・・俺も泣きたいよ。」外を見ながらポツリと呟いた俺の独り言は誰の耳にも届かずに消えていった。つづく・・・・。恐らくアムリッツァ出兵は採択されてしまうと思います。どうしよう・・。