第十六話 グラップラー・ペト 今日は色々な事があった。俺は頭の中の整理をつける為にホテルの少し手前で地上車を降り軽い散歩をしていた。決して三姉妹やヤン、ユリアン達と顔を会わせ難いからでは無い。だが、これがいけなかった。この散歩が原因でまたしても、トラブルに首を突っ込む事になってしまった。散歩をしている俺の耳に路地裏方から人の争うような声が聞こえて来た。で、興味本位で覗いて見たら六人の憂国騎士団とそいつ等に殴る蹴るの暴行を受けている男性が二人ほどいた。流石に無視は出来ないな。銃は・・・、ホテルの荷物の中だ。仕方ない、素手でやるか。「お前ら!!何をしている!!」取り合えず、俺は大声で威嚇してみた。「しまった、見られたぞ。」「相手は一人だ。」「かまわない、アイツもやっちまえ。」俺の方に近づいてくる憂国騎士団、あれぇ?何で?ヤンの時はすぐに逃げてなかったけ?などと考えていたら余計な事を考えていたら襲い掛かられた。いてぇな、この野郎。親父にはぶたれた事無いのに。(爺さんにはあります。)一応、防御しているので致命傷はもらってないが流石に六対一では分が悪い。仕方ない、あれを使うか。俺は脇と股を絞め、全身の間接を固定する様に構えた。これぞ、『三戦立ち(さんちんだち)』だ。達人にもなると、睾丸を腹部に移動して守る事も出来る究極の防御の構えだ。鉄壁、ゆえに無敵。三戦立ちを構え、顔には不敵な笑みを浮かべる俺に憂国騎士団の連中は戸惑う。「何だ?あのポーズは。」「あれは、『カルゥァーテ』だ!!」「何、あれが『カルゥァーテ』。始めて見た。」「知ってるぞ、『カルゥァーテ』の達人は 2メートル以内にいる敵を、一度に4人までは殺せるぞ。」「本当か!!」「嘘だろ!!」「いや、それだけではない。100人の敵と一度に戦えるらしい。」「100人!!」「馬鹿な、どうやって戦うのだ。」「よく分からないが、達人からすれば 4人も100人も同じらしい。」何言ってんだ、こいつ等?途端に、俺から距離を取り始める憂国騎士団。「退け、退け。」やがて、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。一体何なんだ?あいつ等。・・・・・まあ、考えても仕方ない。元々、頭のオカシイ奴らだ。一々気にしていても仕様が無い。そんな事より、倒れている二人を何とかする方が先だ。俺は憂国騎士団の連中に襲われて倒れている二人に近づく一人は辛うじて意識を保っていたが俺に「『反戦市民連合の本部』に連れてって欲しい」と告げるとすぐに気を失ってしまった。見捨てて行くのも後味が悪いし乗りかかった船だ。俺は丁度走って来た、無人タクシーを止めると気を失っている二人を無人タクシーに放り込み俺もそれに乗り込むと無人タクシーを『反戦市民連合の本部』へ発進させた。どうやら、襲われていた二人は反戦市民連合に所属しているらしい。この二人は、例のトリアチ代議員『候補』(今日の空港での人)の対立候補のゾンダーク代議員候補の関係者って事か。対立候補の関係者を憂国騎士団を使って襲わせるとはトリアチ代議員『候補』め、なんて酷い奴なんだ。それにしても、自動で目的地に向ってくれる無人タクシーは便利だな。 ※憂国騎士団について憂国騎士団とは、同盟政府内の主戦論者と繋がりのある国家主義者の集団である。反国家的及び反戦的な言動を暴力によって弾圧している全員、変なマスクを付けている。目的地の反戦市民連合の本部に到着した俺はそこで、意外な人物と再開した。一人はジェシカ・エドワーズ、いやジャン・ロベール・ラップと結婚したからジェシカ・ラップになるのか?もう一人の人物はヤン・ウェンリー提督だ。車から降りた俺は二人に声をかけた。「やあ、お二人さん。こんな所で密会か?旦那さんには黙っていてやろうか?」「イースト提督!!どうしたんです、その格好は!?」「イーストさん!?早く手当てをしないと。」俺の悪質な冗談にはまったく反応しないお二人さん。そりゃそうだろ。今の俺の姿を見れば、当然そうなる。服は所々やぶれて、顔の一部は腫れてるし、頭からしている出血が俺の顔をペインティングしてる。「ちょっと、サーカス団に襲撃されてね。」駆け寄ってきて、ハンカチで俺の血を拭おうとしているジェシカを制すると俺は二人に話し掛けた。「俺より重症の奴が二人ほど車の中にいる。 手当てはそっちの方を優先してくれ。」俺とヤンが気を失っている二人を担いで反戦市民連合の本部内に連れて行った。二人を移動し終わった俺はヤンに問いかけた。「で、お前さんは何でここにいるんだ?」「私も同じ様なものです。偶然、憂国騎士団に襲われていた運動員を助けてここまで連れて来のですが・・・。 もっとも、私は襲われずに済みましたが。」「憂国騎士団の連中も有名人の顔は覚えていたって事かな?」「誰の所為ですか、まったく。」「で、ジェシカさんは、何故ここに居るんだ?」「・・・ジェシカは、ここの運動員なんです。 その、ジェームズ・ソーンダイク代議員候補の選挙活動を手伝っている様で・・・。」「なるほど、俺はてっきり二人で密会していた所 偶然、憂国騎士団に襲われていた運動員を保護したのかと思った。」「何を言ってるんですか!!まったく・・・・・。 その・・。」「何だ?何か言い難そうな事があるのか?」「・・・ジェシカの事なんですが・・・。」「つまり、参謀の奥さんが反戦運動してる事のついて 何か、思う所は無いのか?って事か?」「・・はい、そんな所です。」「特に無いな、様々な価値観の共存が民主共和制だからな。 それに、好戦的な人間は充分過ぎるほど居る。 だから、もう少し好戦的で無い奴が多くても俺はいいと思うけどな。」「そうですか。」ホッとした表情のヤン。えっと、ゾンダークじゃ無くて、ジェームズ・ソーンダイクか。俺は対立候補さんの名前を頭にインプットする。それはそうと、いつまでもこうしている訳にはいかない。俺は席を立ったその時一人の人物が俺に近づいてきた。「始めまして、ジェームズ・ソーンダイクです。 イースト中将、ウチ運動員を体を張って救ってくれたそうだね。 彼らに代わって礼を言おう。」「いえ、礼を言われるほどの事ではありません。 それより、憂国騎士団の事ですが、連中がここを襲撃するかも知れませんし ここを標的とした爆弾テロなんてのもあるかも知れません。充分にお気を付け下さい。」「判りました。気を付けるとしましょう。」どうやら、この人物がトリアチ代議員『候補』の対立候補のジェームズ・ソーンダイクさんらしい。礼儀正しい好人物だ。一応、憂国騎士団に気を付ける様に警告しておいた。俺とヤンはジェシカさんに別れを告げるとホテルに向う事にした。反戦市民連合の本部を出ると怪しい奴ら(憂国騎士団)と遭遇した。まさか、こいつ等ここを爆破しに来たのか?俺が行動を起すより先に「あいつは、さっきの達人だ!!」「何!?本当か?」「クソッ、反戦市民連合の奴ら達人を雇ったな。」「如何する?」「達人相手では敵わない。退却だ。」憂国騎士団の連中は逃げていった。「・・・何だったんだ?いったい。」ぽつりと呟くヤン提督。本当に何なんだ?あいつらは。・・・・今日はもう疲れた。帰って寝よう。しかし、そんな俺の思惑を打ち砕く出来事がこの後、二つもあった。一つはホテルの前で待ち構えていたマスコミである。マスコミに気付かれる前にヤン提督と分かれたのだが奴らはヤンには気付かないのに俺には気付きやがった。お陰で色々と質問攻めに会った。Q「その怪我は如何したんですか?」A「憂国騎士団に襲われました。」Q「その事とテルヌーゼン空港での事件の関連性はあるんですか?」A「分かりません。皆さんで調べてください。」Q「何故、襲われたのですか?」A「分かりません。」俺は歩きながら短く答え、ホテルの中に逃げ込んだ。しかし、逃げ込んだホテルの中も安全ではなかった。俺は自分の部屋に入るとそこで待ち構えていた三姉妹に捕まってしまった。『血まみれペト』になって帰ってきた俺を三姉妹はそれぞれのやり方で迎えた。アメークは無言で救急セットを持ってくると無言で無表情のまま、俺の手当てを開始した。・・・・これは、相当怒ってるな。カリンは俺に説教を始めた。「保護者の自覚が足りない」とか「自重して下さい」など延々と俺に説教をしている。ベルナデッドは泣きそうな顔で俺をジッと見つめ続けている。正直、これが一番堪える。俺には三姉妹にひたすら謝り続けるしか選択肢が残されていなかった。「所で、何でこの部屋にいるの?君達の部屋は隣でしょ?」「ヤン提督から連絡がありました。」おのれ、ヤン・ウェンリー。翌日のトップニュースは「ペトルーシャ・イースト提督、またも襲撃に遭う!!」「今度は憂国騎士団に襲撃される!!背後にはトリアチ代議員候補か!?」「何故、ペトルーシャ・イースト提督は命を狙われるのか?」全部、俺の襲撃に関する事だった。血まみれでホテルに帰ってきた俺が質問攻めに遭っているシーンが何度も(六時、七時、八時のニュース等)放送され続けている。ちなみに、このニュースのお陰で士官学校の記念式典には「出席しなくても良い」とありがたいお達しがあったのでサボる事にした。一人で記念式典に出かけて行くヤンを笑顔で見送った後ラップとジェシカさんがウチの三姉妹とユリアンを引き連れて市内観光をするらしいので一緒に行こうとしたのだが三姉妹の鋭い眼光に射抜かれた俺はホテルの部屋で惰眠をむさぼる事にしました。その後、しばらくの間憂国騎士団の内部では、反戦市民連合には達人がいる。命が惜しければ反戦市民連合には近づくな。と、囁かれる様になった。選挙の結果について元々、ジェームズ・ソーンダイク候補が優勢だったが一連の事件で更に優勢になり無事に当選を果たした。・・・・つづく次回からはアムリッツァ編に突入出来ればいいなと思っています。