第十五話 人の噂も75日 例の主戦論者代議員候補への対策空港で待ち構えている代議員候補やその取り巻き、マスコミの前で「我々は軍人です。ですから、特定の代議員候補を応援する事はしません。」ときっぱり言って置けば大丈夫だ。多分。本音を言うと、これ以上いい案が浮かばなかった。後は、アドリブで何とかするしか無い。それはそうと、後ろの席ではウチの三姉妹はユリアン君と仲良く話してる。さっき初めて知ったのだが、ウチのアメークとユリアンは知り合いだったらしい。まあ、同い年だから知り合いでも不思議は無い。「で、何でお前がここに居るんだ。フック・カーン中尉、いや大尉。」「小官の実家がテルヌーゼンにあるので、里帰りですよ。」いつの間にか俺達一行に、俺の副官のフック・カーン大尉が紛れ込んでいた。まあ、どうでもいい事だ。その後、俺達は無事にテルヌーゼンの空港に到着した。一応、飛行機の中でヤン御一行に「空港でマスコミが待ち受けているかも?」って言って置いた。事前に知って置けば、覚悟も出来る。どっかの神父も『覚悟こそ幸福だ』って言っていたし。飛行機を降りて空港の中に行くとカメラを持ったマスコミ陣が大勢いた。「お見えになったわ。」「居た、あの方だ。」「予定通りだ。」ワラワラと寄って来る。まるで砂糖に群がるアリの様だ。仕方ない、手ぐらい振ってやるか。と、サービス精神で俺は手を振ったが「誰だ?あの手を振ってるヤツは。」「邪魔だ、アイツ。」「どっかで見た事ある顔だな。誰だっけ?」「きっと、ヤン提督の副官ですよ。」・・・嫌いだ。マスコミなんて大嫌いだ。俺は悪意の無い刃に胸を貫かれうな垂れていると「元気だして下さい。」アメークちゃんが声を掛けてくれた。よし、頑張ろう。ガッツを取り戻す俺。そこに、マスコミを掻き分け・・いや、押し退けの方が正しいか。マスコミを押し退けてやって来る人物がいた。あいつが、某代議員候補だな。よし、やるか。俺は近づいて来る某代議員候補の前に進み出ると先制の一撃を加えようとした。簡単だ。挨拶ついでに(我々は軍人です。ですから、特定の代議員候補を応援する事はしません。)と、マスコミの前で釘を刺して置けば問題ない。しかし、現実は違った。まさか、あんな事になるなんてこの時の俺には、想像も出来なかった。某代議員候補は近づいて行った俺に只一言「誰だね、君は?邪魔だ、退きたまえ。」と呟くと俺を押し退ける様に・・・・・いや、突き飛ばすようにと表現するのが正しいか。某代議員候補は俺を突き飛ばすとヤン提督の方に近づこうと移動を開始した。[ 俺の心の中 目的の人物(ヤン)まで後少しの所に 急に訳の判らない人物(俺)が割り込んで来た。 ついイラっとして突き飛ばして仕舞ったのは何となく判る。 だが、『判る事』と『許せる事』は 別の事だ。 奴の一言『誰だね、君は?』この一言は 先ほど、マスコミ陣によって付けられた俺の心の傷を抉り取った。 この時、俺の心の中は悲しみや惨めさでは無く 真っ赤な怒りの炎で染まった。 代議員候補、お前は俺の心を裏切った。 吐き気を催す邪悪、ゆるさねぇ、絶対。 有権者はいつも黙って政治家に殴られるのを待っていると思っているのなら 大間違いだ。 ] ↑この間、約0.2秒 某代議員候補に突き飛ばされた俺は大げさに声を上げると自分から吹っ飛んだ。「うわぁ!!」ちょっと、嘘くさい悲鳴だったか?その場にいた全員の視線が俺に集中する。ラップ大佐とフック・カーン大尉と三姉妹は俺の演技に気付いた様だ。ほんの一瞬だけ、唇を緩めると俺の演技に悪乗りして来た。「提督!!大丈夫ですか!!ペトルーシャ・イースト中将閣下!!」「負傷したのは俺だ、貴官では無い。 副官の任務に『上官に代わって悲鳴を上げる』と云うのは無かったハズだが・・・。ガクッ」俺は駆けつけて来た副官に格好良く返すと気を失ったふりをした。「ペトルーシャ・イースト提督、大丈夫ですか? フック・カーン大尉、貴官はヤン・ウェンリー提督を守れ。」「了解しました!!」 ラップ大佐もフック・カーン大尉も、そんなに大声で人の名前を呼ばないでくれ。呆然としている、某代議員候補とその取り巻き達。マスコミ陣も驚いているがカメラを持つ手は動き続けている。流石、プロフェッショナルだ。その点は素直に尊敬する。「あれはペトルーシャ・イースト提督だ。」「何、あの『第3次ティアマト会戦の英雄』か。」「本当だ。」「大変だ。トリアチ代議員候補がイースト提督に襲い掛かったぞ。」俺の正体に気付き、騒ぎ出すマスコミ陣、唖然とし必死にこの場を取り繕おうとする代議員候補。ただただ、呆けているヤン・ウェンリーとユリアン・ミンツ。そして「お父さん、死なないで!!」「パパァ!!」「ペドのお兄ちゃん!!」倒れた状態で気を失っている(フリ)の俺にすがり付いて泣いている三姉妹。凄いね、君達。将来、女優になれるよ。主演女優賞も夢じゃないね。って、『ペド』じゃなくて『ペト』だ。人を危険人物の様にいうな。ちょっと、ふざけ過ぎたかもしれないマジ、ヤバイ。現場は騒然としている。この雰囲気は 「実は嘘でした(笑)」なんて、言える状態ではない。結局俺は、そのまま気を失ったふりをし続け駆けつけた救急隊に運ばれる事になった。運ばれた病院で精密検査を受けた為に結構時間がかかってしまった。検査結果、後頭部を強打しコブを作った程度。「退院して問題無い」by医者だったのでホテルに向う事にした。検査に時間がかかりそうだったので三姉妹はラップに送って貰ってホテルに返した。病院のテレビや俺の携帯端末では「レイモンド・トリアチ代議員候補。ペトルーシャ・イースト提督を襲撃!?」「テルヌーゼン空港、白昼の惨劇!!あわや、ヤン・ウェンリー中将も被害者に!?」などと凄い事になっている。他にも、現場を見ていたと言う人がインタビューに答え「トリアチ代議員候補が、行き成りイースト提督に襲い掛かったんです。」「最初はヤン提督を標的にしていたみたいです。でも、イースト提督が庇う様に立ち塞がって。」「軍人に何か恨みでもあったんでしょうか?」皆、好き勝手に言ってる。本当にとんでもない事になってしまった。今なら言える。御免なさい。俺は心の中で名前も知らない代議員候補に謝った。でも、アスターテで父親が死んだ女の子を政治ショーの道具にしようとした奴だからバチが当たったんだな。と、心の中で言い訳をして自分の中にある罪悪感を消し去ろうとした。ちなみに、検査前に「何故あんな嘘泣きをしたのか?」と三姉妹に訊ねたら「提督の事を馬鹿にしていたので腹が立ったから」by三姉妹と答えてくれた。俺は泣きそうになりながら三姉妹の今は亡き両親に『皆、いい子に育ってます。』と、心の中で報告した。あ、訂正。カリンの両親はまだ生きてたな。少し、反省する俺。テルヌーゼンの夜はまだ長い。・・・・つづく次回も選挙編です。長くなって申し訳ありません。