第一話 見切り発車俺は不幸な人間なのか?それとも、幸運な人間なのか?この宇宙を探せば俺よりも不幸な人間など掃いて捨てるほど存在しているだから、自分は不幸ではない。しかし、その論法では「あたし、太っているけどお相撲さんよりはスマートよ」って言っている主婦と一緒ではないか?目の前で、第11艦隊司令官ウィレム・ホーランド中将が「俺の発案した芸術的艦隊運動が・・・・・」と得意げに語っているのを見ていると、自分の境遇を哲学的?に考えてしまう。俺はペトルーシャ・イースト少将現在の俺の立場はホーランド提督が指揮する第11艦隊の副指令官でまもなく開始される第3次ティアマト会戦の最終打合の為、ホーランド提督の旗艦での会議の最中だ。ホーランド提督が延々と、自分の発案した芸術的(非生産的な)艦隊運動の話を続けているのを聞き流しながら、特にする事も無いので自分自身の生い立ちを振り返ってみたりする。「ペトルーシャ・イースト」宇宙暦761年フェザーンの商人の子に生まれる。不思議な事に俺には前世の記憶があり、直ぐに、これって銀英伝の世界?転生もの?でもフェザーンなら軍隊に徴兵されなくてラッキーなんて思っていた。フェザーンなら安心、安全、そう考えていた時期が俺にもありました・・・・・orz。俺が3歳になったある日の事、家に初老のいかにも退役軍人って感じのジイさんがやって来て両親と何か話をすると俺の事を引き取ると言い、そのまま自由惑星同盟の首都星ハイネセンまで俺の事を連れて行きやがった。俺の両親とはすでに話しが付いていたらしく法的にも俺はこの爺の被保護者になってしまった。まるで、「約束通り一匹貰っていくぞ。」って感じで貰われて行く熊犬の気分を味わってしまった。この爺さんは優しそうな婆さんと二人で暮らしており、諸所の事情はその婆さんから聞くことになった。そこで、色々と新事実が発覚した。この爺さんと婆さんは、俺の母親の両親つまり、俺の祖母と祖父で、祖父は見た目通りの厳格な元軍人で自分の娘は軍人としか結婚させないと考えていたらしい。そこに、現れた俺の父親はフェザーンの商人であった為「絶対に結婚は許さん」って感じになってしまったらしい。許さん、許せ、の話し合いが延々とつづきその結果、妥協案として男の子が生まれたら軍人にするって事で決着したらしい。うん、どっかで聞いたことある話だな。そして、俺は爺さんに幼少の頃より軍人になる為の教育をミッシリ受け、問答無用で士官学校にぶち込まれた。入学した頃の俺は爺さんにスッカリ洗脳され真面目な軍人を目指す好青年になってしまい成績も学年で5本の指に入るほど優秀な生徒だった。しかし、同期に優秀だが反骨精神旺盛で毒舌家な奴がいた。事務処理能力が凄い奴で、組織工学の論文を発表して大企業の経営陣からスカウトが来たりしていた俺も、それなりに優秀だったが事務処理能力に関してはまったく敵わなかった。シルバーベルヒ工部尚書とクルックル(グルック?)次官ぐらいの差があったと思う。そいつの影響で少しづつ洗脳がとけ(地が出て来た)上級生や教官、上官などに嫌われる不真面目な軍人になってしまいあげく、その友人からは「ぼやきのペトルーシャ」などという渾名を頂戴してしまった。しかし、卒業時は士官学校を次席で卒業する事が出来た。そして、次席卒業を爺さん達に報告したら爺さんに「おめでとう」と言われたのには驚いた。「次席だと!!俺の孫なら主席を取れ!!」って感じで怒鳴られると思っていたので凄い拍子抜けだった。あとで婆さんがこっそりと話してくれたのだが爺さんが士官学校にいた時、同期にマフィアの一味がいたらしく爺さんは何とか十位以内に食い込んでいた状態だったそうだ。あと、爺さんはユースフ・トパロウルのファンだったらしく俺にトパロウルと同じ渾名がついたのも嬉しかったらしい。それからの俺はコツコツと武勲を重ねついに少将になった矢先に第3次ティアマト会戦においてウィレム・ホーランド中将閣下の指揮する第11艦隊の副司令官を拝命したという事だ。よりによって、第三次ティアマト会戦だ。しかも、ホーランドの第11艦隊だ。たしか、序盤戦はホーランドの艦隊が芸術的艦隊運動でアメーバ(単細胞生物)のように一定の陣形を取らずに暴れまくりそれなりの戦果をあげるが艦隊が行動の限界に達した瞬間にラインハルトの艦隊による主砲斉射三連を受け旗艦は消滅、ホーランド戦死、残存艦隊は敗走し帝国軍の追撃を受けるがビュコック提督及びウランフ提督の援護により逃げ切る事が出来た戦いだったはずだ。マジヤバイ。マジヤバイヨ。どれくらいヤバイかって言うとマジヤバイ。俺は無事に生きてハイネセンまで帰る為に我が司令官にはけして採用されない作戦(主に自分の安全)を考えるために思考の海に沈んで逝った。