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No.1353の一覧
[0] Breach of Promise ―ヤクソクヤブリ―[かんぱん](2006/02/15 21:01)
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[1353] Breach of Promise ―ヤクソクヤブリ―
Name: かんぱん
Date: 2006/02/15 21:01
人類の科学技術というモノは、時と共に目覚しく発展している。
剣や槍などの戦争の道具は、火薬によって高速で弾丸を吐き出す銃に変わり、長距離移動手段であった馬車は、化石燃料で動く鋼鉄の塊に進歩した。
技術の発展というモノは一つが上がれば、それに追随するように他の技術の底上げになっている事が多々ある。
故に、一般から忘れ去られた技術も後継者が居るなら発展を続けるのだろう。
力を行使する為の道具はモバイルに変わり、己をガードする使い魔に鋼鉄の巨人を有する、人から忘れ去られた技術体系、その名は魔法。
それを現代まで後継し続ける技術者達の名は魔法使い又は魔女と言い、世界中の普通とは違う所で暗躍し続けていた。





早朝の香港島セントラル地区。 1997年にイギリスから中華人民共和国に返還された都市のオフィス街で、身の丈4mは在る人型の影が、風水学的な慣習によって奇妙な形をしているビルからビルの間、百数mを飛び移るように移動していた。
青色の空を駆ける巨大な異形。
普通とは違う世界を確認できる者が居たならば、本来は鳥しか飛んでいない筈のビル群の間を超高速で疾走する機械的なフォルムの銀甲冑を目に映す事が出来ただろう。

「機体損傷率37%、全力起動は最大3分、これで海を渡れる?」

音も無く、衝撃すら無く、注射器型のビルの壁を蹴飛ばして推進力とした、陽光によってメタリックな輝きを放つ細身の巨人の中で、ソプラノの麗しい声の何者かがボソリと呟いた。
機体の損傷部位は解っているだけでも、左肩から胸部に達し、普通のモノなら起動を停止させていてもおかしくは無い。
ギリギリのところで生命線を紡いでいるのは、創った者の魂が宿っている所為か、単に運が良いだけか。

「子鬼20機に、大鬼3機、前方に存在する戦闘が予測される戦力は殲滅可能、問題は後方1000m……」

くだらない事を考えながらも銀甲冑の操縦者は、精神を集中して自らと敵対している者達の現在位置を探った。
これから広大な海を渡らなければならない身としては、無駄な戦闘は避けたいものだし、包囲網を形成している雑兵に等しい23体の化け物に、後方から猛スピードで接近して来ている敵機の位置を確認して置かないと、何やら落ち着かない気分になるのだ。

――高速伝達機関に「友軍」からの通信を確認。

銀甲冑の操縦者が色に直せば「赤」と表示される光点に意識を割いていると、その光点から念話(テレパス)の応用によって高速で情報のやり取りが出来る通信システムに、「味方」としての呼び掛けが在る事を確認する。
はっきり言えばストーカーからの電話みたいな物なので、銀甲冑の操縦者は通信を開く事無く、損傷している機体の速度を空中分解しない程度に速めた。

『止まれ「白銀の戦乙女(シルバー・ヴァルキリー)」、君の身柄は協会に委任されているよ。 暴走は作成者の品位に関わる問題と思わないかい?』

全開には程遠い速度のためか徐々に距離を詰められ、追われる立場の銀甲冑の操縦者が一番聞きたくない、欧州から派遣された追跡者の声が強制的に開かれた通信システムから聞こえる。

「私は作成者である「銀眼の魔女」の意思で動いている。 他の研究成果は協会に寄付したのだから、私くらいは放置しても良い?」
『そんな事を僕に聞かれてもね、まあ、そのまま動く事を止めないなら「紅蓮の太陽神(クリムゾン・アポロン)」の矢が君の身体を貫くよ』

単独で此方を追い込む事が出来る高い声の彼は、強力な魔法使いであり、千年以上の技術蓄積が施された真理の入れ物(ゴーレム)、今風に言えば機神の持主でもある。
彼が、己の機体に装備された固有武装で在る弓矢を使って貫くと言えば、その通りに銀甲冑を纏う「白銀の戦乙女」は完全に破壊されるのだろう。
だが――

「ご自由に、現状で貴方の攻撃を受けると、結界システムごと爆発四散し「遺産」の一つも残さず、全魔力を使い香港の地に機体を晒す事受け合い」
『それは参ったね。 うん、それなら四肢を砕いて近接戦で鹵獲させてもらうよ』

戦闘中にお喋りをすると言うのは、大体に置いて時間稼ぎのソレである。

「全力駆動【戦乙女の行進曲(ヴァルキリー・グランドウォークライ) 】始動まで3秒」

目視出来るほどの距離に近付いた海岸線と、浅瀬に立ち尽くしている無機物の化け物達。
2m程の大きさの単純なデザインの子鬼型と、10mの巨体を壁のように揺らしている大鬼型、レーダを見ると香港セントラル地区を取り囲むように点在しているが、包囲を一点突破するだけなら損傷している「白銀の戦乙女」でも可能か。

「超感覚知覚により固定粒子確認、力場形状は「翼」、人を超えた証を此処に示せ」

背中部分から光り輝く翼を発現させた銀甲冑は音の壁を引き裂く勢いで、乗用車が引切り無しに走行している大通りの真上で加速する。
本来、そのような事をすればソニックブームによって大惨事を引き起こしてしまうモノなのだが、一般人では確認する事が出来ない世界での出来事なので、其処から意味を見出そうとするモノが居なければ何も起こらない、近代魔法使い達が考案した結界システムは優秀なのだ。

――指向性エネルギー兵器の着弾を確認。

何の脈絡も無く、銀甲冑で覆われていた左腕が焼き切られた。

「ん、痛い、でも何とかなった【戦乙女の行進曲(ヴァルキリー・グランドウォークライ) 】始動」

一瞬だけ体勢が崩れそうになった「白銀の戦乙女」は、落下して行く左腕を曲芸のように全身を回転させてキャッチすると、そのまま猛烈な勢いで翼を身体に巻き付けて、雑兵が立ち尽くしている海の方向に突貫する。

「■■■!?」

刹那、金属が擦り切れるような音を口と思わしき機関から出した1体の大鬼は、正面から弾体を受けたのだろう、壁のような胴体に大穴が空けて海面に倒れ伏し、周りに居た子鬼達は衝撃波という名の行進曲を無理矢理聞かされて崩壊した。
無人機であるマヌケな木偶人形では、音速を軽く超えた一条の螺旋弾丸に対応できるはずも無く、戦乙女の行進曲の巻き込まれた者達が愚痴の変わりに破壊音を撒き散らして、母なるなる海へと帰って行く姿は物の哀れか。

「いやはや、何とも凄まじいね」

数十階建ての大型ビルの屋上に鎮座し、炎を纏った全長3mは在る弓を引いていた紅の機体の主である赤毛の男は、台湾の方向へと飛んで行った銀色の翼の残滓を目で追いながら、全展望型のスクリーンが拡がる狭いコックピットの中で身を捻り、機神に自らの意思を伝える操作結晶から両腕を引き抜く。
標的を逃してしまった事実を理解していないような気楽な態度であった。

『にい……通信………』
「ん? あぁ、ごめん、ごめん」

それでも通信システムを無理矢理開こうとしている何者かに気が付き、黒いパイロットスーツのような物で包まれた右手を使って、左手に付いている四角い腕時計のような物を弄る。

『……兄さん、通信をシャットダウンして戦闘に入らないでくださいの、タイミングが判らなくて、わたくしのコレクションちゃん達が壊れてしまったの!!』
「あー、だから謝ってるじゃん?」

包囲網を形成していた雑兵と、不測の事態を想定して香港島を包み込める結界システムを用意していた赤毛の男の相棒は怒髪天のご様子だった。

『……教会の使者として質問しますの、貴方は真面目に仕事をするきはあるですの? 故郷では貧しい兄弟が雛のように泣き叫んでいますの』
「まあ、その、良いじゃん、面白いんだし」
『面白い、ですの……』
「シーちゃんはそう思わないのかい?」

丁寧な口調だが不満タラタラの相棒、と言うより妹の声を通信越しに聞きながら、紅色の巨人の主は如何でも良さそうに肩を竦めて、先程の銀色の軌跡を思い出す。
とんでもない移動手段だが、弓矢の射程外へと離脱し目的地にも近付くのだから、見た目の機体の損傷率を考えれば最良とは言えないけど最悪の手でも無い、予想の右斜め上を行く行動ではあった。

『エクス兄さん、ちゃんと事の重大さを認識してくださいですの!! 一代限りの天才「銀眼」が残した真理の入れ物が、悪い魔法使いの手に渡ったら大変ですのにッ!!』
「うん、そうか、次くらいは頑張るね、ムッフン」
『あぁぁ、役に立たねぇ馬鹿兄ですのぉー!! 次のチャンスはわたくしが「青の月女神(ブルー・アルテミス)」で出ますの!!!』

朝の香港に響き渡っているかも知れない妹の絶叫を聞きながら、魔法管理教会追跡者及び殲滅者であるエクス・シェリオスは、あの銀色の美しい機体の事を思い出す。
去年の夏に、奇病に侵されて死亡した「銀眼」の称号を持つ魔女の真理の詰め込まれた器であり、身寄りの無かった彼女が教会に寄付しなかった唯一の詳細不明。
2006年になって強制的に接収した教会の研究施設から姿を消し、中東で姿を確認されたと思ったら、東へ東へと移動する銀甲冑のゴーレムは何を考えているのか。

「ふむ、仕事なのに本当に面白いね」

内部破壊する気が切断してしまった銀甲冑の左腕の落下先、ビジネスマン風の人々が行き交う横断歩道を見ながら、魔法使いのエクス・シェリオスは笑う。
焔を纏った「紅蓮の太陽神(クリムゾン・アポロン)」にも、操縦席に座る主人の意思が伝わったのか、紅色の巨人は全身から天を衝くような炎を吹き上げた。

2006年4月13日の普通とは違う香港の一角で起こった出来事、普通とは違うので知り得る者は少ない。





とある少女の話をしよう。
その少女は可愛らしく、少しだけ人には見えないモノが見える才能が有ったが、それ以外は何処にでも居る普通の娘だった。
至って平凡で幸せな毎日。
そんな日常が続くと思っていたある日、彼女に不幸が起こる、優しい両親が死んで、遠い親戚に引き取られる事になった。
可哀想な少女、彼女の奇妙な人生は其処から始まる。





日本の何処にでも在りそうな地方都市である北上市。 海が近くにあり、山も電車に乗れば直ぐに行けると言う以外は何の特色は無く、其処に住む人間もきっと普通の者が多い。

――それならば自分は普通に分類される者だろうか?

朝の交差点。 目の前の信号が赤に変わる瞬間に彼は考える。

――普通と異常の境界は何処だろうか?

目の前を行き交う車の波は排気ガスを吐き出し、マフラーを改造して鋼鉄の塊と化した物が騒音を撒き散らしているが、哲学的な様で思春期の子供が考えそうなクダラナイ思考は音を塗り潰す。

――普通と異常の境界、それは車と鋼鉄の塊と同じ位のものだろうか?

少しだけ改造された車は最初に設定されている性能を覆し、無駄な空気振動を起こす。
それは普通ではない、見た目では少しだけ違うだけで馬鹿みたいな音が出せるのは異常だろう。

(それなら俺は異常なのか?)

この世に生を受けて16年と4ヶ月、改造された覚えは無いが、一人の時に信号が青だったためしがないのは異常と定義しても良いものか、早朝なので上手く考えをまとめる事が出来ない頭を捻る。
脳の中をぐるぐる回るのは信号の色、赤、青、黄、中々カラフルだ。
そして如何でも良い答えに行き着いた瞬間、青に変わろうとしている信号を見てから、男はアホな子みたいにぼんやりと口を開けた。

「青山 喜一、名前負けはしているか。 チッ、今までの人生で気がつかないとは」

ある種の現実逃避から戻ってきた青年と少年の中間期、つまりは青少年の青山喜一(あおやま きいち)は、ヤケクソ気味な舌打ちと共に高級そうな腕時計に目を向ける。
時間は既に朝の9時、完全な遅刻であった。
高校に入って4回目の遅行。 4月7日に入学式が在って、日曜日の休みを除いて4回目の遅刻である。

「両親不在で保護者呼び出しになったらどうしよう……」

問題児のレッテルを貼られても得は無く、海外に転勤した両親の代わりに自分の保護者になる人間は、田舎で蜜柑栽培している祖父のみ、無駄に元気な年寄りを、空気の汚い地方都市に呼び出すような事になったら大変だ。
そう、色んな意味で。
どんなに運が悪くても時が経てば信号は青に変わるので、微妙に焦った様子で詰襟学生服の青山喜一は横断歩道に1歩だけ踏み込――。

「電波反応を探知。 やはり君だったか後輩、間抜け面の割には相変わらず興味深いよ」

片足が宙に浮いた状態の時、非常に人間の行動は御し易いらしく、感情の起伏が感じ取り難い物言いの何者かが遅刻小僧の肩を掴み、急ぎ足の登校の邪魔をする。

「ん、あっ!?」

いきなりの事体に驚き顔の喜一は反射的に後方に視線を向けると、先程まで歩行者用信号の柱しか無かった空間に、中背というより長身、茶髪というより金髪、清楚というより冷淡な顔の造りをしている変人が居た。

「おはよう、個性の無い顔をした後輩よ」
「遅刻仲間だと思う先輩、朝から何やってんですか……」
「我等の住む町の電波探索、これは人類に与えられた命題であり、私のライフワークだよ。 隣の家に住む君なら理解してくれていると思ったのだが、ふむ、この御木原レンの眼を欺くとは、ムフフッ、やるな後輩よ」

歩行者用の信号が点滅し始めているのに余裕の笑みを浮べる美女、と言うより変人である御木原レン(みきはら れん)の名を持つ生き物は、両手で玩具のトランシーバーの様な物を持って、朝っぱらから素敵過ぎる言葉を呆れ顔の小僧に吐き散らす。

「電波って、また危ない事を」
「何を言う、人間の持つ思念電波によって素粒子を自在に操る事が出来れば、ノーベル賞も片手間なんだぞ!?」
「いや、無表情で「ぞ!?」って言われても、って言うか電波を除けばまともっぽい事を言ってるのに、先輩は世界に広がる「勿体無い」の輪に対する反逆者ですか」
「なんだ、それは」
「知らなければ良いんです、合いの手を求めるほど落ちぶれてません」
「ん、あ、そうなのか?」

昨年に行われた日本の政治家とノーベル平和賞を受賞したケニア人の女性の会談で、彼女が一番気に入っている日本語として紹介された言葉を知らない、私立北上高等学校の変人で天才の「勿体無い美人アンケート一位」に君臨する御木原レンには同情を禁じえない。
しかし、それより優先すべき事が遅刻小僧な青山 喜一にはある。

「それじゃあ俺は一限目に一応出席したいんで、先輩も急いだ方が良いですよ?」
「私は学業等と言うお遊戯は、両親から独立した幼年期に卒業しているのだよ、と言う訳で遅刻しても問題は無いよ」
「いや、それならなんで学校に……」
「単純な好奇心だよ、後、信号が変わったぞ?」
「えっ、」

無駄に膨張したとしか思えない胸を張って、くだらない事を主張する御木原レンの視線の先、明らかに歩行者を蔑ろにしているとしか思えない信号が赤に変わり、数台の車が横断歩道を横切って行った。

「くっ、このままじゃ」
「ムッフフ、変人街道まっしぐら、だな?」
「うぅ、学校でよく喋る人が先輩だけなんて、孤独だ」
「気にするな、それはそれで快適だぞ?」

数ヶ月前に引っ越して来たお隣さんと言うよしみで、野生の猫並に謎の行動が多い御木原レン以外、まともな交流の無い学校の人間達の事を思い出し、青山喜一はこれからの学校生活に不安を覚える。
中学生からエスカレーター式で上がってきた内部生と、家から近いという理由で受験して入ってきた外部生の間には、それは広い広い溝があり、最初のイメージで後者は判断され易い。

「先輩みたいに達観出来る人間は少ないんです。 外部生の俺は不良のレッテルを貼られかねない恐怖で胃が……」
「……それなら、明日から私が起こしに行ってあげるよ? 朝の電波探索付きで」
「どっちにしても遅刻しそうだからお断りしときます」
「そう……」

微妙にいじけた様なオーラを出す御木原レンを軽く無視しつつ、丘の上に立つ私立北上高等学校の裏門をどのように突破するか思案する。
一人の時に100%の確率で赤信号に足止めされる男、青山喜一は今日もぼんやりと日々を過す。


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