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No.1349の一覧
[0] ロストプロット[コインロッカー](2006/02/05 19:27)
[1] Re:ロストプロット[コインロッカー](2006/02/08 13:53)
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[1349] ロストプロット
Name: コインロッカー 次を表示する
Date: 2006/02/05 19:27
 緑、青、赤、三色のタイルが交互に並んで構成される床に置かれている家具らしい家具は、質素なキッチンテーブルと椅子、それに信楽焼の狸の三つだけ。
 あまり広いとはいえないその部屋の中で、識村陽太はキッチンテーブルの前に突っ立っていた。

「どうぞ、お掛けになってください」

 キッチンテーブルを間に挟んで陽太の向かいに佇む、派手な色彩のパーティードレスを身に纏った女が、椅子を示してそう言った。
 ふと感じる違和感。陽太は椅子に手をかけたまま動きを止め、その女の姿をよく眺め直した。そしてすぐに違和感の原因に気づく。その女には、首から上にあるべきものが無いのだ。髪も顔も、そして頭も。

「頭はロストしました」

 首無し女が陽太の視線に気づき、抑揚のない声でそう言う。口も無いのにどこから言葉を発しているのか、真面目にそんな疑問を抱いた自分に気づき、陽太は苦笑した。
 どうせこれは夢の中なのだ。その証拠に、首無し女の背後で部屋の半分が渦を巻くように湾曲し、蠢いている。現実にあり得る現象ではない。
 夢の中で真面目に考えても意味は無く、ただ流れに身を任せ、適当にふざけた応答を返すのがベストだと陽太は知っていた。妙な夢を見るのには、慣れていたから。

「何か? 不都合でも?」
「いえ、別に」

 夢の創造物を相手にまともな返答を返す滑稽さを自覚しつつ、陽太は椅子に腰掛ける。
 テーブル上の空間が歪み、美味しそうな肉料理の盛りつけられた皿が現れた。

「食べてください」
「何の料理です?」
「人肉です。貴方のお父様とお母様を切り刻みまして、中でも上質な部分を調理いたしました」

 温かいうちにどうぞと促す首無し女から皿へ、視線を移す。湯気を立てる分厚い肉は柔らかそうで、暗赤色のソースがかけられている。それは、お世辞抜きで美味しそうに見えた。
 現実でなら吐いたかもしれない。美味しそうな香りにかえって生理的嫌悪感をかき立てられたかもしれない。
 しかし、現在陽太がいる場所は夢の中であり、彼自身そのことを知っている。特に感情を揺さぶられることもなく、陽太はただ料理を眺めた。

「美味しそうですね」

 それは素直な感想だった。

「ありがとうございます」

 首無し女が頭を下げる、ような仕草を返す。

「でも、食欲がないんです」
「お粥を作らせましょうか?」
「コックさんに?」
「はい」

 陽太から最も遠い部屋の片隅の空間が歪み、コック帽を頭にかぶった男が現れる。首無し女と違って彼には首があったが、その代わりとでもいうように足が無かった。

「その人、足は?」
「ロストしました」

 抑揚の乏しい声でコックが答える。現実ではこんな不躾には訊けない。夢の中だからこそだ。

「……いえ、お粥はいりません。これとは別の肉料理を食べたいんですが、いいですか?」
「もちろんです。希望の肉はございますか?」

 テーブルに置かれた皿が、空気に溶け込むように消滅するのを特に疑問も持たずに眺め、陽太は言葉を紡ぐ。

「……僕の通う高校、五十鈴高校っていうんですけど」
「はい」
「クラスメートに宮下ってやつがいるんです。2-Dの宮下。そいつの足をサイコロステーキにしてほしいんです。できますか?」
「もちろんです。……焼き加減は?」

 焼き加減、と訊かれて少し詰まった。

「あーっと、あの、適当に」

 首無し女が、口元を押さえて笑うような仕草を――まあ、口はないわけだが――してみせ、代わりにコックが頷いた。

「かしこまりました。少しばかりお待ちを……」

 足のないコックが部屋から消え、再び部屋の中は陽太と首無し女の二人きりになる。
 お義理のように首無し女が訊いてきた。

「宮下「さん」ですか? それとも宮下「くん」ですか?」
「忘れました」

 これは嘘だ。宮下のフルネームは宮下遥香。女子。宮下「さん」である。
 何故宮下の名前を出したのか、陽太自身も疑問に思う。そして、何故足の肉なのか。どうしてサイコロステーキなのか。

「ハイッドゥ! ハイッドゥ! ハイッ、ドゥ、ドゥ!」

 よくわからない掛け声を上げながら腰を振ってフラフープを回す首無し女に目をやり、真面目に考えるだけ無駄だと知りつつ、陽太は思考を止めることができなかった。


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