月に一度の嬉しい日。
一か月の労働の対価が支払われ、その期間の労力が報われる日。
その名はステキ、“KYURYO-BI”。
働いている最中から使い道を決め、その予定通りにする為に、日夜汗水流して頑張る毎日。
そう、人は給料の為に働くのだ。
だからこそ、その給料を手にする為に、人々は銀行に赴くのだ。
さて前置きは長くなったが、今の状況はと言うと……
「オイ!さっさとカネを詰め込めやぁっ!!」
「そうそう!はやくしないと、この支店長さんの頭に、風穴が空いちゃうぞぉぉ?」
もうお分かりだろう?
給料日なので銀行に引き出しに来たら……何故かそこには銀行強盗さん''''sの姿が。
しかも相手は魔導師――違法魔導師さんたちときたもんだ。
良く誤解されるが、ミッドチルダの人間が全て魔法を使える訳ではない。
ミッドチルダ=時空管理局だという、間違った図式がインプットされている為に引き起こされる、壮絶な誤解である。
だが管理世界でも文明があまり発達してない世界や、管理外だが管理局と交流のある世界では、こういった勘違いはむしろ当然のようにある。
しかし現実には、十人に二人~三人魔導師がいれば良い方で、更に高ランク(この場合はAランク以上とする)魔導師は、その中でも一握り。
だから高ランク魔導師には、キャリアコースなんちゅう理不尽丸出しの、超絶差別問題が発生するのだ。
つまり今目の前にいる銀行強盗さんたちは、その“選ばれた人間”側の方々。
さらに先ほどデモンストレーション代わりにぶっ放した魔法は、明らかにAランク以上。それも二人。
対するのは、今銀行の内部で人質となっている自分たち。
自分は一応魔導師だからノーカウントとすれば、魔導師なんて皆無だ。
まぁ、ノーカウント扱いした本人も、魔導戦闘なんて訓練校以来だ。
元々半人前だったのに、ブランクが空きすぎている。
よって戦力外通告ですよ、奥さん。
「(だから、この場で唯一戦力になりそうな人物は――)」
「……?」
小首を傾げて、「なぁに?」とでも言いたげな少女。
オッドアイの金髪天使――じゃなかった。
聖王の器と呼ばれた少女、“高町ヴィヴィオ”嬢です。
本日は、給料日ということで高そうなスウィーツを奢らされる予定の為、一緒にいますた。
「(確認したことはないけど、多分ヴィヴィオの経歴を見る限り、その潜在力は凄まじいだろう。そんでもってこんな犯人ズは、簡単に鎮圧出来るに違いない)」
でも……と話は続く。
そもそも聖王化?出来るヴィヴィオは、存在そのものがトップシークレットである。
無論情報統制には注意が払われているが、ここで変身したことが引き金で、ドクターみたいなMADに目を付けられないとも限らない。
ならばそのリスクは、少なければ少ないだけ良い。
それに何より、子どもとは大人に守られる存在なのだ。
なのにその守るべき存在に守られて、戦わせて――良い訳がない!
「(……と、白熱したところで、自分がやることはないだろうけど……)」
既に事件発生から一時間。
銀行襲撃時に犯人たちによってシャッターは降ろされたものの、その当時銀行の前に通行人は多数いた。
つまり目撃者たちが通報した可能性が高い。
「(そう仮定すると、そろそろ管理局が御登場タイムだ。なら後は、なるべく犯人を刺激しなければ……)」
事件の解決は遠くない。
……そう考えていた時期が自分にもありました。
――ガタ、ガタ、ガタ!
何やら入口周辺が、慌ただしくなってきた。
シャッターの向こう側から、ガヤガヤと大量の人の声が聞こえてくる。
どうやら時空管理局の御登場らしい。
安心半分。
恐怖半分。
展開次第では、錯乱した犯人の暴走もあり得る。だから手放しでは喜べない。
気が緩んだ時にこそ、窮地はやって来るもの。
そこを忘れてはいけない。
気を引き締めないと。
「(……大丈夫、だからね?)」
「(……うん)」
別に念話をしている訳ではない。
そもそもこんな場面でそんなことをしようものならば、犯人たちの怒りを買う可能性が高い。
だから念話なんて使ってない。
ただヴィヴィっ子の手を握り、相手の目を見るだけ。
それだけ。それだけでも、伝わることもあるのだ。
そしてそれは、この場において一番重要なこと。
『銀行強盗たちに告げる!!お前たちは完全に包囲されている!!諦めて、さっさと投降せよ!!』
始まったな?
これで犯人たちはどう出る?
普通ならだいたいゴネる。そして膠着状態に突入、って感じだけど。
「(にしても……この女性指揮官の声、どっかで聞いたことがあるような……?)」
シャッターで分断されているからか、声がくぐもって聞こえる。
でも聞いたことがある。否、“聞きすぎている声”に聞こえる。
幻聴か。はたまた白昼夢か。そのどちらかであると、非常に助かるのだが……。
『おい銀行強盗ども!聞いてるいるのか!?聞いていないというのなら、無理やり聞かせるまでだ!!』
「お、おい!何だよ、あの局員は!?」
「知るかよ!それに関係ないさ。徹底無視でいれば、向こうだって手を出せないって」
シャッターを隔てたやり取り。
もしも相手が――交渉役の管理局員が自分の予想通りなら、この後は混乱に包まれるだろう。
そうでないことを、自分も祈るばかりだが。
『じゃあ、まずは長身の男!“ナガホソ・アキバ”から行こうか!!』
「バ、バカな!?どうして姿が分かるんだ!?向こうからじゃ、コッチは見えないはずなのに!?」
二人組の内、長身の男の方が慌て出す。
これは既に、状況終了の匂いがする。
『管理局の魔導師として働いていたが、訓練の厳しさに付いて行けずに脱走。その後ニートとなり、貯蓄が尽きる寸前になっての今回の犯行!ちなみに部屋のPCデスクの引き出しには、【大好き!巨乳のお姉さん!】という本が……』
「ぐはぁぁぁぁっ!?何故だ!?どうしてアレの在り処が!?」
「お、おい!しっかりしろ!!」
“貴方の心の隙間、広げてみせます”がモットーの、ある蒼髪巨乳女性の姿が脳裏を過る。
犯人――アキバーは吐血し、その場に膝を付く。
どうやらそのダメージは、かなり深いらしい。
『よぉし!それでは次、大柄の男!“デブリーノ・ヘンタイオー”!!』
「ひぃぃっ!?」
あ、ターゲットが二人目の男に移った。
しかし酷い名前である。
最近は変な名前を付ける親が増えたというが、これは無いんじゃないか?
『ナガホソと同じく、管理局ドロップアウト組で、任務で保護した幼女(五歳)、同じく少女(八歳)、以下数十件等に、猥褻なことをして逮捕・出所したばかり。士官学校でのニックネームは、“エンペラー・オブ・ヘンタイ”で……』
「ノォォォォ!!もう止めて!!ボクの古傷を抉るのは止めてぇぇぇぇ!!」
痛み(過去からの幻視痛)に、床をゴロゴロのた打ち回る犯人たち。
まだ外からの公開処刑は続き、彼らは新たな情報が届けられる度に怪我を増やしていく。
「(……今ならイケるか?)」
予定通り錯乱はしたが、これなら脱出出来るかもしれない。
もしも奪取するのならば、誰か一人が犯人たちの目を引きつけ&シャッターの開閉スイッチを押すことになる。
その役目は……局員の自分がするべきだろうな。
「(まったく。どうして非番の日に、それも小さなお姫様のエスコート中にこんな目に……)」
嘆いても始まらない。
覚悟を決めて、行動しなければ。
そう決意した途端――
『あぁ、そうそう!人質の中で、金髪オッドアイの女の子がいるだろう?その隣にいるさえない男は、十も歳が離れたその少女の婚約者でねぇ?今から自分好みに育ててる不心得ヤローで……』
ちょ!?何ちゅうことを言うんだ!?
しかもそれ、事実無根だろうに!?
「「死ねぇぇ!このリア充!!男の敵がぁぁぁぁ!!」」
「ちょっと待てぇぇ!?」
手を縛られている、人質集団。
当然自分もその一人。
ならそんな状態で襲いかかってくる犯人ズを、どうやって撃退する?
A:無理っす。ボコボコにされますた。
「お、お兄さ~~ん!!」
「す、済まない、ヴィヴィっ子。お兄さんが死んだら、高町一尉とハラオウン執務官とで、魔神退治に行って欲しいと。そしてその首を、自分の墓前に……」
「お兄さん!?」
身体がボロボロ。
そして精神はズタズタに。
はやく外の交渉役――えぇい、もう局長と断定しよう!奴の暴挙をかわしつつ、ここを脱出する方法を考えないと!!
「(考えろ、考えるんだ!!犯人たちを吹っ飛ばす、良い手はないのか?今の自分はただの事務員。念話とサポート魔法位しか……)」
こんなことになるんなら、怪我が治った後にも攻撃魔法とかの練習をするべきだった。
魔法力が衰退した今の自分には、攻撃魔法は出来ない。
昔だったらもっと魔力量があったから、攻撃魔法とかも出来たのだが……。
「(……ん?昔だったら?自分はつい最近、昔に“戻る”方法を得たじゃないか!?)」
“聖王化”。
金髪・オッドアイ・ショタ化するが、魔力量増大などの恩恵もある、文字通りの“変身”手段。
手段はあった。ならばそれを、どう活かすか。それが次の課題である。
「(まずは変身出来ないことには、どうしようもない。だったら……)」
考えを纏める。
そして――実行に移す。
「おーい、そこのナガ・デブコンビ!」
「「変な略し方をするな!!」」
む。ユニット名が気に入らなかったらしい。
贅沢な奴らだ。
「まぁ、まぁ。少し落ち着きなって、アキバ・ヘンタイオーコンビ?」
「「悪化したぞ、オイ!?」」
これ以上挑発しても、逆効果だな。
とりあえず冷静さを大分奪っただけでも、良しとするか。
「それは済まない。ところで君たちがさっきボコボコにしてくれたせいで、腹具合が酷くてね?トイレに行きたいんだけど?」
「んなモン、ガマンしやがれ!!」
「そこを何とか!!頼む!!もう、限界なんだ!!」
身体を小刻みに震わせて、顔を渋面に。
苦しさをアッピールして、何とかトイレに行かなければ。
「アンタたちだって、これから何時間も立て籠もる予定の場所で、●●垂れ流しの男がいるなんて、耐えられないだろう?」
「うっ、それは……」
アキバオーが怯む。
これはイケるな。
「頼むよ!な?」
「……分かった。ただし!妙な真似をしたら、命の保証は出来ないぞ?」
「分かった。それで良い」
第一チェックポイント、クリア。
「ヴィヴィオ……大人しく待ってるんだよ?」
「う、うん……」
ヴィヴィっ子の、何とも言えなそうな顔。
それはそうかもしれない。
さっきまで、とても上品とは言えない会話を犯人ズとしていたんだ。反応に困るのだろう。
「オイ、さっさとしろよ?」
「あぁ……と言っても、結構溜まってるから、少し時間かかりそうだけど……」
銀行の奥にあるトイレ。
アキバに連れてこられた自分は、個室に籠ってこれからのことを考える。
「(さて、これで少しだけ一人の時間を作れた。後は変身するだけ、なんだが……)」
ここで問題になるのが、変身する為の“方法”だ。
ドクターの話では、“命の危機”というのが発動条件らしい。
しかしそんな身近に命の危機なんて転がってる訳もなし、あって欲しくない。
「(……取りあえず、限界まで息を止めてみるか?)」
ある意味、一番手近な手段だ。
準備なんか要らないし、思い立ったらすぐ出来る。
しかし――
「…………」
一分経過。
「……、……」
二分経過。
「……、……、……(まだか!?まだなのか!?)」
三分。もう無理だ。
「……ハァ!ハァッ!!」
結論。
息を止めるのは、無理ですた。
っと言うよりも、これでは変身した瞬間にそのまま死ぬ確率が高い。高過ぎる。
「(別の方法を考えよう。実際に変身出来たのは、レリックを呑まされた時。あれに匹敵する死の恐怖って言うと……)」
不良どもに絡まれた時か?
いや。あれは死に掛ける程ではなかったし、そもそも一人では再現不可能だ。
あとは――
「(何か無いのか?このままじゃ、ヴィヴィオ諸共死ぬかもしれないっていうのに!)」
そんなことになったら、高町一尉やハラオウン執務官に申し訳が無さ過ぎる。
ただでさえ、あの二人に(局長が)知り合ってからは苦労のかけっぱなしだと言うのに。
「(……ん?高町一尉?……………………閃いてしまった)」
あった。
最近死にそうな、とんでもない“殺気”をぶつけられた事態が。
「(……アレを再現するのか。そのあとで生きていれば良いが……)」
仕方がない。
覚悟を決めろ。
トリガーワードを紡げ!
「(高町一尉の、変態め!その歳で小学校の制服を参考にしたジャケットなんて、何考えてるんだよ!?)」
――ゾクッ!!
来た!
来てしまった!!
でも怯むな!前に進むんだ!!
「(まったく、あの年増め!!あんなの、イメクラと同じだって言うのに!!)」
――ゾク、ゾクッ!!
「(……ヒッ!?し、しかも砲撃一辺倒だから、未だに良い相手が出来ないんだよ!!このままじゃ、お局様コース間違い無しだね!!)
――ゾク、ゾク、ゾクッ!!
頭の中の信号が、青から黄、そして赤に変わっていく。
見える。見えるぞ!
ピンク色の砲撃が、こちらに向かって飛んでくるのを!!
「……いっけぇぇぇぇ!」
――カッ!
その日。
ミッドチルダ中央銀行に、ピンク色の光が降り注いだ。
「済まん、ナガホソ・アキバよ。自分の身代りになってくれるなんて、何てアンタは良い人なんだ」
桃色の光が収まった時、銀行強盗の片割れである長身の男は、既に倒れ伏していた。
そのピンポイント過ぎる一撃は、最後の最後で狙い(自分)から逸れたようである。
「……って違うな。オートガードが作動したお陰で、アキバの居る方へ攻撃を逸らしてしまったのか」
どっちにしても、結果オーライである。
あとはヘンタイオーを逮捕すれば、この件は終了だ。
その後は、高町一尉に勝利の賛辞を送らなければ。でないと、本体が押し掛けてくるかもしれないし。
しかし自分は知らなかった。
さっきのピンク色の光が到着した瞬間、それを利用して変身したのが、自分だけでないことを。
「(さて、それでは二人目の獲物を……って、なんじゃありゃ!?)」
はやくナノハ神様へのお祈りをするべく、勢い込んでやってきたのは、先程までヴィヴィっ子と人質になっていたシャッター前。
しかしそのシャッターは既に開け放たれ、人質の面々は外へ飛び出して行く瞬間だった。
「……何だ?これは一体、どういうことだ?」
ナガホソと同じように、倒れ伏すヘンタイオー。
そして、恐らくその光景を作り上げた――金髪の女性。
白いオーバージャケット。紅い目とサイドテール。
「(……この、人、は……)」
間違いない。
この女性こそ、前に自分の窮地を救ってくれた、“正義の味方”。
「……貴女は」
「えっ?」
こちらを向く女性。
気が付いた。この時初めて気が付いた。
この人――この女性は、自分と同じく紅と緑のオッドアイだったことを。
「(ハラオウン執務官、じゃなかったのか……!?)」
少し似ているが、ハラオウン執務官は両方とも紅目だったし、きちんと顔を見たら別人だと分かった。
「(さて。それならそれで、改めて礼を言わなければダメだろうな?)」
感謝の言葉を言ったのが別人でした。
でももう言ったし、良いでしょう?なんて理屈、通用するはずがない。
「坊や!この奥に、黒髪のお兄さんが連れて行かれなかった!?」
「…………エ?」
坊や?
ホワイ坊や?
確かに童顔だと普段から言われているが、それにしたって……。
そう思って彼女を見上げると。
そう。“見上げている”んだよ。今の自分は。
「(……忘れてた。今の自分は、この女性と会った時とは、別の姿をしてるんだったよ!!)」
これでは礼を言えない。
言っても、本人だとは信じてもらえない!!
「えっと……見なかったと思うよ?」
嘘は吐いていない。
だって自分のことだし。
「そっか……じゃあ、探しに行かないと」
「あ、待って!!」
「何?」
「えっと……」
冗談じゃない!
今探しに行かれたら、ヤバいじゃないか!!
「あ、そうだ!ここに金髪の女の子、いませんでしたか!?」
そうだよ!
我ながらナイスな切り返し。
ヴィヴィオは避難した後なのだろうか?それをまず確認しないと。
「エ!?エッと……!!」
「(どうしたんだろう?何か、不味いことでもあったのか!?)」
そんなことになっていたら、自分は明日の陽の目を拝めるか分からない。
全力全壊のSLBに、超高速ホームラン。
……骨も残りそうにないな。
――カタ!
「ん?何の音だ?」
後ろの方で何か音がした。
しかし後ろの方なんて、全員が避難した後では――犯人しかいないじゃないか!?
「危ない!!」
「エッ!?」
ドンっと、正義の味方のお姉さんを突き飛ばす。
気が付いたのは、幸運だった。
そして反応出来たのもまた、幸運の重なりだったのだろう。
「痛っ!!」
痛みと共に見たのは、ヘンタイオーが射撃魔法を行使した跡。
流石は元管理局魔導師。
良い一撃を、お持ちのようで……。
「キミ!大丈夫!?」
「へ、平気ですって……それよりも、アレを何とかしないと……」
正義の味方のお姉さんは、射撃魔法で撃たれた自分を抱き起こす。
嬉しいな。あの時のお返しを出来るなんて、ヘボい普段の自分では、出来なかっただろうに。
「……少しだけ、ジッとしててね?」
「は、はぁ……」
お姉さんは立ち上がる。
そして構える。
「いくよ……少々“以上の”星光を!!」
「「コレは……スターライトブレイカー!?」」
ヘンタイオーと自分が焦りだす。
それもそのはず。
スターライトブレイカーと言えば、現代の理不尽魔法のベストファイブにランクインする程の凶悪魔法だ。
しかも本家のデビュー戦と同じく、ヘンタイオーにはバインドが仕掛けられている。
「これが私の全力全開!!」
「「ひぃぃぃぃっ!?」」
矛先が向けられた訳でもないのに、自分まで恐怖する程の魔法。
それがこの終息――じゃなかった、収束魔法なのだ。
「スターライトォォ、ブレイ「まぁまぁ、ちょっと落ち着きたまえ♪」」
発射直前。
その射線に飛び込んできたのは、見たことがある蒼い髪。
「な、何するんですか!?」
「お嬢ちゃん、キミがそんなことをしなくても、既にこの男は気を失っているよ?なら死人に鞭打つような真似は、ダメだろう?」
「……へ?」
「本当だ。ヘンタイオーが失神している……」
現れた蒼髪――局長が言った事実を、我々はそれより遅れて認識した。
「それよりもだ。二人とも、怪我はないかい?」
「わ、私は別に……でもこの子が!」
「ほう、これは酷い。何があったんだい?」
「……私のことを庇って、犯人の射撃魔法を!!」
マイペース局長め。
自分の怪我なんて、見れば分かるだろうに!
態々確認して、正義の味方のお姉さんをイジメようってのか!?
「だ、大丈夫ですよ!!それより、お姉さんみたいに綺麗な人に、怪我でもさせたかと思うと……!!」
「……!?」
あれ?
フォローのつもりで言ったのに、なんか黙っちゃったぞ?
「どうだ、お嬢ちゃん?年上のお兄さんも良いかもしれないけど、年下も良いだろう?」
「エッと……(わ、私にはお兄さんがいるのに……!?)」
今度は顔が赤くなった。
正義の味方のお姉さんは、風邪でも引いてたのか?
「ホウ、ホウ。これは面白いことになってきたなぁ♪」
局長スマイル。
別名“悪巧み中の笑み”。
この時の局長は、絶対にロクでもないことを考えている。
「あの、局員さん?黒髪の男性と、金髪の少女はもう保護されましたか?(局長、話を合わせて下さいよ?)」
念話を同時に送り、事態の終息にかかる。
これ以上この場にいると、絶対に良くないことが起こりそうだからだ。
「あ?あぁ、その二人にね?もう保護されているから、キミたちも外へ出なさいな(分かったよ。これで貸し一だからね?)」
クッ!
局長に貸しを作るなんて、ヤバ過ぎる!!
……とはいえ、これ以外の方法なんてないしなぁ……。
「分かりました。それじゃあ、案内をお願いします(分かりましたよ。貸しで良いですから……)」
やれやれ。
ヴィヴィっ子と菓子を食べに行くはずが、局長に貸しを作ることになるとは……。
韻を踏んでるだけに、嫌なオチだこと。