つつがなく街道の建設が始まって1ヶ月。当初やや懸念されていた人足の集まりも順調だし、特に大きなトラブルも起こっていない。 原作で出てきた要塞都市(予定)荒鷲の南にある濡綿の街に工事管理事務所もとっくの昔に立ちあがって、ウチの数少ないベテランの内の1人に引率された十数名の若手事務官が向こうの監査役に手とり足とり教えを受けながら書類地獄であえいでいるらしい。 出向組ざまぁwwwwwww ……と笑ってやりたいのだが、実のところこっちはこっちで問題が山積みだったりする。 というか、とにかく資金繰りが自転車操業すぎる。 当面は親父殿が無意味にしこたま溜め込んだ財宝を商人に“好意的な値段で”買い取ってもらって凌ぐとしても、それで何とかなるのは来年か再来年までだな。 つまりそれまでに安定的かつある程度まとまった収入源を考えなきゃいけないわけで……。 エルスセーナからの税収や領内の農産物の収穫率の向上なんかは、アテにはしているが確実ではないんだよなぁ。■ というわけで、領内南部にあるエルス湖の湖畔にやって参りました。 景色がいい湖で水質も悪くないし、ここから流れ出す河の下流にはノイル王国の王都がある。戦略上の要衝だ。 その湖畔にあるラクーの村の村長に話を聞く。「真珠の生産、でございますか……」「そうだ。この辺りの村で少量ながら獲れていると聞いたが?」「はぁ、確かにごくたまに獲れてはいますが……。どちらかと言えば、食用に獲って来るものの中にたまたま入っている事があるだけでございますよ。獲れた物は公爵様に献上していましたが……」「それが、人の手で生産できるとしたらどうだ?」「……できるのでございますか?」「ああ。多分に運の要素もあるが、不可能じゃない」 真珠というのは元々貝が体内の異物を体内から分泌する物質でコーティングして出来る物だ。だから、こっちで貝の中に異物を突っ込んでやって水に戻して放置しておけばいずれ出来あがる物だという寸法である。 ただし、真珠の“核”をぶち込む際に死んだり水に戻してから死んだりそもそも真珠が出来なかったりと、ものすごく運任せな所がある、らしい。自分でやってた訳じゃないのでその辺りは適当だ。 真珠は宝石なんかに比べれば多少値は下がるが質の良いものは普通に高級品だ。むしろ最高級品だと下手な宝石より高いし。バクチみたいな養殖でも儲けは出るかもしれない。 俺自身が専門家だったならもっとやりようはあるんだろうが、その辺りは村人の試行錯誤に任せるしかねーな。 問題は、貝そのものの数が乱獲で減ったりしないかどうかだが……。 ぶっちゃけた話、そこまで考えられん。運良く軌道に乗ったら考えよう。 ……次の世代に丸投げするかもしれないけど。「よし、ある程度のアイデアは書面に起こして後で届ける。資金も必要ならば融通するから、頑張って成果を出して欲しい。もし真珠の養殖に成功すれば、ある程度まとまった額の報奨金か税の免除のどちらかを適用してもいい」「ほ、本当ですか?!」「真珠が安定して生産できるのならば、それだけの価値はある。心して励むように」「ははっ!!」 さて、これがモノになるかならないかは微妙な所だから、期待しないで待つとしようか。 どうせ投下資金は公爵家の予算全体を考えれば大した金額じゃない。眉を顰めるくらいまでは許容範囲だし、眉を顰めるどころか仰向けにひっくりかえるような金額が動いている街道敷設工事に比べりゃどうって事は無いさ。 ちなみにこれの他にも立ち上げつつあるプロジェクトはあって、領内で米や葡萄が生産されている事と水源地に近く水が綺麗な事を利用した酒造事業とか、工兵隊の連中を使ってジーの村近郊(防疫のために街からはかなり距離を離した)に建設させた養鶏場や養豚場の試験運営とか、そこに穀物飼料を供給するために輪作農法を導入する予定の大規模農地を公爵家主導で開拓してみたりとか、それらの生産物の流通のための河川船舶用の港湾施設の建設まで開始していたりとか。 もうね、アホかと、馬鹿かと。 とりあえずアイデアを出すだけ出して全部予算付けて人員充ててゴーサイン出してるんだが、死ぬほど忙しい。 マジで一月前の俺を殴りたい。自分で自分の仕事闇雲に増やしてどーするんだと。 ムストタンに送ってもらった優秀な人材――ライガーとタイオンという名前の優男とドワーフみたいなおっさんのコンビ――がいなけりゃ今頃過労死してたかもしれない。 ……まぁ、今のところは親父殿を見限って野に下っていた奴らも少しは戻って来ているし、一息つけそうなのだが。 ……つーか、ファンタジーなのはいいとしても、この世界は妙に技術レベルが怪しいんだよなぁ。 輪作農法が主流って訳でもないのに牛の酪農は微妙に行われているとか。 中世ヨーロッパ風の世界観なのに魔法が存在しているおかげで工業製品のレベルが妙だとか。 居酒屋があるとか、そもそも通貨の流通量マジパネェとか、文化レベルが訳ワカメとか、衛生概念が妙に発達しているとか。 あと、何故か女性モノ下着の技術力が現代クラスとか。 特に最後。エロゲーだしファンタジーだし、まぁそこら辺突っ込みだすとキリが無いんだけど。実際にその世界に飛ばされてみると頭が痛い。 一般市民ならまだしも、こうして統治者となってしまうとチートな知識がどこまで使えてどこまで使えないのか非常に分かりづらいんだよな。ストッキングとか、化学繊維無いと出来ないんじゃなかったっけ? まぁ、絹を使えば何とかなりそうなもんではあるが……。 何にしても領地経営的には新規事業はこの辺りで打ち止めかな。 魔法使いを初めとするスペシャリストを育成するための学園の設立準備もやってはいるんだが、ウチの工兵隊の訓練ついでに建てた箱物だけじゃどうしようもない。 錬兵所と違って、講師の確保がなぁ……。 官僚の育成をするコースは、ウチに仕えていた爺さま方の協力が得られるという事で比較的楽に解決できたんだが、職人に関しては元々の数の問題と職人達の意欲の問題とが立ちはだかっている。 まぁ、職人に関してはあまり大規模にやるつもりも無かったからいいんだけど。 問題は、魔法使いの方だ。 進展が有る無いどころの騒ぎではなく、現状でやろうと思ったらウチの魔法使い隊を解隊して講師にするくらいしかない。 一時はそれでもいいかとも思ったんだけど、彼らには騎馬隊の新兵教育に混じってもらって魔法使い隊の騎馬転向という一大実験を行ってもらっている真っ最中だ。 これはこれで俺の「マージナイト量産計画」の成否が懸かっているプロジェクトなので、動かせる人員が居ない。 ……魔法使いの大火力を騎馬の高機動力で運用するというのは戦場に革命を起こせると思ってるからなぁ。 ま、やっぱし魔法使い系の講師に関してはノイル王国からノウハウごと人員を引っ張ってくるしかないだろうな。 もちろん金に物を言わせてヘッドハンティングしてくるのはヤバイだろうから、ノイル王国に協力を求める必要があるけど。 となると、官僚と職人のコースだけでも立ち上げて実績作りしておかないと拙いか……? とりあえず学園単体での利益に関してはあまり神経質にならなくても良いというのだけは救いだな。いくらウチの財政がヤバいといっても元手は少なくはないし、そもそも学園経営が目的って訳じゃないからな。 んじゃ、とりあえず教師長は爺さま方に互選でやってもらうとして、だ。 学園長は……、ん? あれ? ……俺がやるしかない? 無理無理無理無理、これ以上仕事を増やすとかありえねーっての。 かと言ってライガーやタイオンに任せてもその分の仕事が俺に回ってくるだけだから却下だし、カーロンは軍の要でかつウチの要でもあるから同じく却下、オイゲンは騎兵の要だしそもそも文官じゃねーから却下。 他に押しつけられそうな相手は……、いないですよねー☆ やっぱり俺がやるしかないのか……orz ヴィストの進攻に間に合うのかイマイチ分からないし、俺の仕事を増やすだけだっていうならいっその事中止するか? ……いやいや、しかしそんな理由で中止するわけにはいかないだろう。最低でも、軍・政の官僚育成はやっておかないと後々痛い目を見そうだし、育成しときゃ後々俺が楽できる……よな? また仕事が増えるのは頂けないんだけどなぁ。せっかく少し楽になったと思ったのに。 あれだ。最近思うんだが、“バカ”が足りないんだよな。 いや、そこそこ真面目な話。一緒にバカやれそうな奴がいればストレス発散も出来るだろうに……。まぁ、馬鹿じゃないのにバカやれる奴が身近に欲しいとか、高望みし過ぎか……。「セージ様ぁーっ!」 ……で、だ。 カーロンが大声で俺を呼ぶなんて、嫌な予感しかしないんだが……。「セージ様、王都よりご使者の方が参られました!」「はぁ? それはまたいきなりな事だな……。王都で何かあったのか?」「何かあったかではございませんぞ! セージ様に対する召喚命令が宰相様の名前で出されております! 即座に王都へ参じよとの事ですが、一体何をなさったのですか?! ただ事ではありませんぞ!」「はあぁっ?!」■ とるものもとりあえず、カーロンとタイオンに後を任せて(むしろ押し付けて)オイゲン以下数名の騎兵を伴って王都エルストーナへと来たはいいものの。 この時の俺はマジで何故呼びだしを食らったのかさっぱり分からなかった。 いや、本当に。 少し考えれば感付きそうなものなんだが、一ヶ月も年末進行ばりの忙しさで働いていりゃあ記憶なんかすっ飛ぶってもんだな。 一葉姫との縁談、正式に奈宮皇国から申し入れがあったそうです。「本当に、お主はワシらを驚かせてばかりじゃの」「好きで驚かせてる訳じゃないんですけどねぇ……」 王城の会議室の大テーブルの向こうにムストが座り、その向かって右側に白髪の老紳士が、そのさらに隣にやたらガタイの良いおっさんがいる。 当然ながら、それぞれ宰相のエリック=ロイア伯爵と王国軍のアルバーエル=ウルザー将軍なのな。 ちなみに、ここにはいないが宰相殿の息子も重要人物で、ノア=ロイアという名前だ。アルバーエル将軍の副将をやっていて、王国軍ではアルバーエル将軍の跡を継ぐ存在と目されているとか。 これ、試験に出る豆知識な。 まぁ、それはともかく、この場の話題は深刻と言えば深刻なんだが……。 こうして紅茶を飲みながら喋ってると、アルバーエル将軍が頭の上がらない父親に孫娘を見せに来た親方にしか見えないな。妙に微笑ましいというか何というか。 親方、空から女の子が(ry しかしこの親父からあの娘が――って、血繋がってないんだったっけか。まぁ、今まで全部閑話みたいなもんだしどうでもいいか。「それで、リトリー公爵はどうされるおつもりか?」「どうするって……、そりゃあ王国の裁可に従いますよ。まぁ、断れるとは思えないんですけど」 あ、やば。ついうっかり本音が。 って宰相殿の視線がヤバいYO! フォローフォロー!!「仮に私が宰相殿の立場にあったとしても断れませんよ。国力の比較では勝負になりませんし、申し入れの内容その物も向こうの第三皇女の輿入れ――特に理不尽な内容というわけではありません。 これが例えばエルネア様との縁組なんかであれば突っ返す言い分もあるんでしょうけど、これでは……。しかも、輿入れ先は国内の一貴族に過ぎませんし。 断れる理由が無いでしょうね」 良くあるパターンの1つである婚姻による併合を狙っている訳でも無い以上、断るのにはそれ相応の理由がいるだろう。 これで俺に許嫁でもいれば話は別なんだろうが、そんな存在がいる訳でもなく。 国内有数の貴族と隣国の王族との婚姻なんてあまり認めたくは無いだろうが、メリットデメリットの比較をした場合断れない。 国力比がなぁ……。 お話にならないというレベルに近い。どう見ても大国に隣接した小国って感じなので、多少の無茶は黙って耐えるほか無い。 普通は大国側の重臣の娘辺りが押し掛けて来て緩やかに属国化から併合へって感じなんだろうが……、この場合は逆だよな。 まぁ、これはこれで戦争ふっ掛ける前段階の謀略でよくある手か。国境地帯の有力貴族に調略掛けて寝返らせて侵攻の足掛かりにすると。 ……あれ? それってヤバくね? おぉぅ、そりゃ呼びだされもするか。普通に考えれば警戒するに決まってるな。 ある程度面識も理解も有るムストならともかく、他の人はねぇ……。「…………」「はっはっはっは! なるほど、確かにコレなら婿惚れもしようというものですな」「笑っておる場合か、アルバーエル将軍。どう考えても問題だらけの縁組じゃろうに。ロイア伯爵など苦虫を噛み潰したような顔をしておるではないか」「……まったく、私のような老骨にはこういう突拍子も無い事態は手に余るよ」「はぁ……」 それは嫁入りの話自体か、俺のチートっぷりに対してか……。果たしてどっちに対する評価なのやら。 まぁ、怖くて聞けやしないけど。 「しかし、奈宮の皇帝がリトリー公爵殿に惚れ込んでいるという噂は本当だったのだな。皇子と皇女の中でも最も可愛がっていると噂の一葉姫を輿入れしてくるくらいだから、噂通りどころか噂以上の惚れ込み具合だが……。 確か、紹介状を書いたのはムストだったか」「1月半程前の話になるかの。その時はよもやこんな話になるとは思っておらなんだが……」「そりゃそうでしょうよ。私だってこんな話になるなんてカケラも思ってなかったんですし。……正直に言って、断りたいですよ。 無理難題だとは思いますけど、どうにかなりませんかね?」「何故ですかな? こう言っては何だが、リトリー公爵にとっては悪い話では無いだろうに」「そりゃあまぁ、奈宮皇国の後ろ盾と格式は魅力的ですし、そもそも一葉姫も才色兼備の得がたい伴侶になるだろうとは思いますが……。いかんせん、今の奈宮皇国の権力中枢はきな臭過ぎますからね。 ただでさえバカ親父殿のせいで苦労しているっていうのに、奈宮のお家騒動に巻き込まれるとか本当に洒落になんないです。つーか、領内の立て直しと公爵軍の再建だけでもう既に手一杯なんですよ。これ以上案件を突きつけられたりしたら疲労で倒れかねません」 ちなみに、ウチの領内が特に問題なく立て直されたと仮定しても、親父殿が跡を継ぐ以前の財政規模から計算した場合の動員数は6千程度がいいところだ。王国からの支援があると仮定しても、人口規模から考えて1万に届くか届かないか程度が限界だとか。 試算させた政務官曰く、それ以上徴兵すると領内の労働力が足りなくなる可能性があるらしい。まぁ、警察隊まで根こそぎ動員すれば1万5千くらいにはなるが……。 いや、それをすると領内の治安が崩壊しかねん。最後の手段過ぎる。 で、奈宮皇国の動員数はというと、6桁は固い。 仮に内乱になって分裂したとして、第一皇子・第二皇子・第一皇女・中立派で単純に4分割しても各3~4万程度の動員数か……。どう考えても勝てん。 実際にウチが武力衝突に巻き込まれる事は無いだろうが、もし巻き込まれれば一発でアウトだ。 最悪巻き込まれるかもしれない事を考えると、何か策を考えておかなきゃならんのだろうなぁ。 面倒な。「奈宮皇国が割れると、そう考えておるのか?」「お隣さんなんだからある程度情報は集めているのでしょう? 現帝が健在な内はいいでしょうが、もし亡くなりでもしたら……」「確かに、あの国の第一皇子と第二皇子は仲がすこぶる悪いからの。第一皇女の婿殿も野心を持っておるという噂じゃし……」「先のヴィスト王国の廃嫡騒動のような事が起きるかもしれませんな。あるいは、最悪内乱に発展するか」 あ、主人公君はもう暗殺されかかった後なのね。 って事は、今頃は八重をコマしてのし上がろうとしている最中になるのか? あー、いや、それはもう少し後の話だったっけか? ……まぁ、あんまし関係無いか、今んトコ。「まぁ、概ねムスト殿とアルバーエル将軍のおっしゃる通りです。そんな訳で、宰相殿には期待したいんですが」「ふむ……。しかし、あまり期待されても応えられそうには無いな。リトリー公爵の言う通り、断る理由がこれといって無い。 本音を言えば、こちらとしてもあまりよろしくない縁組ではあるのだが……。まぁ、婚約という形を落とし所にするのがせいぜいだな」「その辺りが妥当な所じゃろうな。なに、お主はさっさと隠居したがっておったのじゃから、それに一歩近付いたと思っておけばいいではないか」 いや、あんな子供相手にニャンニャンするとか犯罪にも程があるだろーが。リアルに初潮が来たかどうかっていう感じの年頃だぞ。 俺はロリでもペドでもねーっつーの。 あと、相手が相手なだけに隠居どころの騒ぎじゃなくなる可能性が高すぎる……。 子供作ったら作ったで問題大杉になる予感もするし。 奈宮皇国の王族の血を引いたエルト貴族とか、政争と謀略と戦争の匂いがぷんぷんするぜぇーっ!「しかし命拾いしたな、リトリー公爵。この話が最初にもたらされた時は先の奈宮皇帝との謁見からの一連の行動自体が反乱の予兆であるという突き上げが少なからずあったからな。一時は軍が動くという話すら出ておったが……」「うげ……」「まぁ、すぐにムスト殿がとりなしたおかげで大事には至らなかったがな」「ふっふっふ、また貸し1つじゃの」 うえぇ、ありえねー。 マジでありえねぇ。 実際に軍が差し向けられたりなんぞしたらさっさと逃げるしかないじゃねーか。しかも、受け入れ先は恐らく奈宮皇国……。 仮定の話に意味は無いが、もし仮にそうなったとしたら……。うわぁ、死亡フラグだらけじゃねーか。 うぅ、考えただけで胃が痛くなってくるな……。「それにしても、ここ最近えらく精力的に働いておるの。隠居したいと言っておったのではないか?」「その隠居が出来る環境を作るために日々努力しておるわけですよ。のんびりしてたら領地の再建はともかくヴィストの動きに対応できねーし……」「ヴィスト王国? 確かにあの国は不穏な動きを見せておるが……。間にはヘルミナ王国とビルド王国が挟まっておるぞ?」「……ヘルミナ王国はともかく、ビルド王国はあまりアテにしないほうがいいな。俺個人の感想だが、ビルドの兵は精強とは言いがたい上に数もそう多くない。何より、将に名の通った者がいない」「それに加えて、ウィルマー王国が事実上ヴィスト王国の属国となっておるのが痛いな。もしヘルミナ王国が敗れれば、ウィルマー王国が併合されるのは避けられまい。 となると、単独で対抗できるのは奈宮皇国だけになってしまうが……、これは少し真剣に考えなければなるまいな」 うーん、やっぱヘルミナ王国とビルド王国をアテにするのは楽観的過ぎるよなぁ。 なにせ、原作じゃカーディル王がずっとワシのターン! とかやってた訳だし。 ヘルミナ王国で止まれば、まぁいいんだけど。そこで止まらなければ後はドミノ倒しなんだよなぁ。 共産主義のドミノ倒しが起こるとか騒がれてたのよりずっと確実だわ。 つーか、エルト王国の兵もそんなに強いって描写無かったよね? いくらアルバーエル将軍が猛将だからって、将軍もウチの兵をずっと見てるんだぞ? その将軍にフツーに弱兵認定されるってビルド王国軍どんだけ弱いんだよと。しかもビルド王国に人無しとか言われちゃってるし。 前途多難すぐる……。 いっそのことハイマイル峠に要塞でも築いて某回廊の人工天体要塞バリに鉄壁にしようかね? どこぞの不敗の魔術師に無血占領されそーで怖いが。 しかも、そもそも今すぐに建造するのは不可能なんだけどな。外交・財政的な問題多過ぎで。 ま、図面だけでも引かせておけば無駄にはならないか。 原作のクールン要塞並とまではいかなくても、あそこに鉄壁の防衛拠点があれば大分楽が出来るし。 ……だがしかし、その予算をドコから持ってくるかだよなぁ。 ウチから出す? 無い無い。 ま、それは後になってから考えよう。今考えても頭痛くなるだけだし。「とりあえず他国との連合策は宰相殿の腕の見せ所として、ウチとしても何か備えとかなきゃいけないでしょうね」「それが、君に代替りしてからの急な軍拡の動きの真意か。王国軍を預かる身としては、あまり派手に私兵を集められると困るんだがなぁ……」「あれは軍じゃないですよ。新しく組織した治安維持組織の予備隊で、名前もずばり『警察予備隊』ですから。まぁ、万が一の事態が起こった際は将軍の指揮に従って従軍するのも吝かではありませんが」「はははっ、その場合の現場指揮官はリトリー公爵で、ある程度の独自性を持つつもりなのだろう? 独自に軍備を整えたいが王国軍の一部隊として擦り潰されてしまうのは嫌、か。そう思っていても実際にそれを条件として突きつけられる奴はそうは居ないぞ。 まぁ、今まで徴兵できなかった地域から徴兵して訓練までしてくれるって言うんだ、俺としては歓迎だな。有事の際はきっちり俺の指揮に従って貰えれば文句は無い。 ――で、お二人はどうです?」「ワシとしてはアルバーエル将軍がそう言うのであれば構わぬ。元より、軍の細かい所にまでは関わっておらぬからな。まぁ、後はロイア伯爵次第じゃな」「ムスト殿、面倒だからといって私やウルザー公爵に判断を押しつけないでくれ。ウルザー公爵も、いくらリトリー公爵が気に入ったからといってそう本音を易々と暴露されては困る。まったく、私にも立場というものがあるのだが……。 まぁ、リトリー公爵が我が国に害を為さぬというのであれば良い。それと、ムスト殿から以前にも言われていると思うが、本当に事前に連絡くらいしてくれないか。唐突にこういう話を聞かされるのは老骨には堪えるのでな」「了解です」 よし。黙認、ゲットだぜ(棒読み) しかしまー、こうなってみるとものの見事に“警察予備隊”そのまんまだな。 まぁ、アルバーエルのおっさんの言う通り、王国としてもウチの領地で徴兵できる兵力には魅力を感じるだろうし、俺が妙な動きを見せない限りは黙認して上手く使おうという話だな。なら、その黙認に見合うだけの成果を上げないとな。 ま、この辺りの腹芸は問題無く出来るみたいで安心した。 ……逆に言えば、こういう腹芸とかそーいうのが出来ない奴がトップにいたら――つまりロイア伯爵やアルバーエル将軍が期待外れだったら――俺は危うかった訳で。 タイトロープ人生いえーい(棒読み) ……ホントもう勘弁して下さい。 死亡フラグを全部叩き折る前に胃に穴が開くぞ、これ。