いやー、それにしてもマックラーまで出向いての釈明&交渉は思った以上に上手くいったね。とりあえず何となく筋が通ってる的な事を勢いまかせに語ったらなんかあっさり通ったしさ。 途中ものすごく自業自得な所を突っ込まれて思わず熱くなっちゃった時はマズイかなー、とか思ったんだけど。 ものすごいジト目で見られてた気もするんだけど。 しかも、どちらかと言うと味方のムストタンが一番ジト目だった気がするんだけど。 ていうかさ、見た目幼女に詐欺師詐欺師言われるのには地味に凹むよ? 前世は詐欺師だろって、俺の前世は善良な小市民だっつーの! ちょっとオタク入ってたし同人誌は厳密には著作権法違反だった気もするけど、前科持ちとかありえないから。 まぁ、何気なく会話するうちにびっくりするほど死亡フラグ! な状態になったのは目を瞑りたいかな。借りは返すぜ、とかカッコ良く呟いて敵軍に突貫してあぼーんしてる俺の姿が目に浮かぶ……。 それ普通に死亡フラグだから。マジでヤバイから。 でも言っちゃった事は仕方がないので、毒食らわば皿まで。どうしても調達しづらい政務官をゲットしちゃったんだ☆ ……気分はまるで内臓を闇ブローカーに売り渡す多重債務者みたいな感じ。それに比べりゃもちろんマシなんだろうけど、死亡フラグを回避するために死亡フラグを立てているようでもう本当に胃が痛い……。 ムストタンに言った義理堅いっていうのは本当だけどさぁ。 ま、どうせヴィストの攻勢が激化すれば本格的に戦場に立つ事になるんだろうし、覚悟だけはしておくか。■ ……と、覚悟を決めたはいいものの、だ。 ビルド王国から帰還しても相変わらず忙しくて忙しくて……。 普通に政務で時間が潰れてしまってせっかくのファンタジー世界を楽しむ暇のカケラも無い。 浮かれてるわけでは無いんだが、飛ばされてしまったのなら飛ばされてしまったで前向きに楽しむくらいはしてみたいとも思うんだけどなぁ。 とりあえず早急に治安維持部隊の設立に動かなきゃならんという事で、手持ちの歩兵500のうち馬に乗れない400ほどをそのまま転用する。 ただし、その400のうち50は新たに立ち上げる新兵教育施設での教官役等に使うので、最大動員数は350という事になる。 もちろんこの数字でそのまま動かせるはずも無く、平時の実質動員数という事になると……、まぁ200前後という事になるかな? なにか有事が起こった際にはこれが馬車を利用してビルド王国南部国境地域やウチの領内に緊急展開されるのだが、これを多いと見るか少ないと見るか……。欲を言えば全て騎兵で編成したかったんだが、そこまでできる金も時間も無い。 さっさと立ち上げなきゃいけないってのもあるし、騎兵はできれば正規軍の方に優先配備したいしな。 とは言え、本当にヤバい時は正規軍の騎兵も供出しなきゃならんだろう。 まぁ、その頼みの綱の騎兵も今現在新兵の教育と編成作業の真っ最中で暫く動かせないんだけどな(´・ω・`) こいつらの軍装については色々考えたんだが、結局エルト王国軍のソレとは別に濃い青――というか藍色で統一した。もちろん元ネタは日本の警察の制服のイメージな訳だが、藍色の染色が一番安上がりだったからっていうのもある。 赤一色の赤備えとかも考えたんだけど、ヴィストの軍装と被るんだよなぁ……。 しかも赤の染料が一番高いし。そういう意味でもヴィスト軍マジパネェ。 名称の方は、ストレートに「警邏巡察隊」、略して警察隊だ。 残りの連中は「警察予備隊」として、名目上は警察隊の予備兵力として整備を始めているが……。どうみても常備軍です本当に(ry もし日本人がいたら一発でバレるよなぁ。 まぁ、いずれ組織規模が大きくなればバレる――というか流石にツッコミ入るだろうから、そん時は組織を切り離して自衛隊とでも名称変更をするか。 ちなみに、俺の中では機甲戦力と機械化歩兵による電撃戦が理想というか、ロマンだったりする。なもんで、今のところウチの軍では拠点防衛と地域巡察を任務とする奴ら以外は員数分の馬車と馬が配備されている。 実際には道路事情が悪いのと騎兵の脆弱さという問題があって理想の実現は困難と言わざるを得ないんだけどな。 しかもなお悪い事に、自軍より優勢な――それも、下手をすれば圧倒的に優勢な――敵軍を相手に国境線を守るという状況がほとんどであろう事を考えると、想定される基本戦術は篭城戦だったりする。もしくは、拠点防衛と敵後方に浸透侵入してのゲリラ戦の組み合わせとか。 いずれにしてもせっかく整備した高機動力が無意味すぐる……orz まぁ、行軍速度と行軍による疲労の蓄積が全然違うだろうから無意味では無いと信じてるけどね。 あと、敵軍後方に回り込んでの拠点襲撃とかなら最大限にこの高機動力を活かせるかもだし。そもそも相手を上回る数をそろえられない以上、篭城かさもなくば機動力を活かした機動防御しかやりようが無い。 ……その高機動力の代償として、ウチの軍は並の軍を上回る凄まじい金食い虫と化しているんだけどな! ははは……、警察隊への配備用と訓練用という事で諸々の初期費用をビルドにも負担して貰っていなかったらと考えるとぞっとするな。 この調子じゃあ、飛竜も使った陸空複合作戦なんて夢のまた夢か。 とにかく金が出ていくばかりで胃が痛くなってくるんだが、大量の馬を飼育する事によって堆肥の生産と販売が出来るようになりそうなのは嬉しい誤算だ。 中世ヨーロッパレベルの農業としてはチートみたいな収穫率を誇る米が作付けの主流だというのも非常にありがたいし(ウチの領地は奈宮皇国文化圏の影響もかなりあるのだ)、これなら何とかなりそうだという希望も見える。 ような気がする。 だが、文系オタクの半端で偏った知識じゃこれが限界……っ! 貧弱な見識……、底が見えている……。所詮素人の浅知恵、痩せた考え……! ……ざわざわしてても財布は膨らまないから何か考えないとなぁ。王国に低利で貸付を行ってもらうというアテだけはあるから状況はまだマシなんだが、とにかく収入を増やさないと話にならない。 一応、次の手としては奈宮皇国のヌワタ地方へと通じる街道の建設を考えてはいる。ケインズ万歳! まぁ、公共事業で経済を活性化させて、かつ道路整備による交通量と物流の拡大を促すってのはいいとしてだ。 それがウチの財政の好転という形で目に見えるまでの繋ぎも考えておかないとマズいんだよな……。 回転資金が足りんからって商人に金を借りるのは金利の圧迫が地味にキツイしなぁ。 かと言ってムストタンに借金を申し込むのは最後の手段だし。死亡フラグ的な意味で。 つーか、ケインズ万歳とは言ったがあまりにも手元の資金が少なすぎる。 そりゃあ、ある程度なら何とかなるんだけど、領内経済は発展しましたがヴィスト軍の侵攻と同時に切り取られてしまいましたー、ではお粗末過ぎるしな。 肝心要の死亡フラグの事もあるし、やはりある程度数の揃った手勢は必要。そしてかつ、数で対抗できないからには質で上回るしかない訳で。そうなると常備軍編成は絶対必要な訳で。 でも知ってるかい? 常備軍ってすんごい金がかかる財政のお荷物なんだぜ? もう何回も繰り返してる気がするが、大事な事だからまだ繰り返します。常備軍金掛かり過ぎ。 ……超☆頭痛いYO! そもそも、当面の手である街道整備ですらあまりに財政発動規模が大き過ぎてウチ単体ではどーにもならん。 具体的には、奈宮皇国に支援してもらわないと着工する気が起きません。 うーむ、獲らぬ狸の皮算用とはこの事か。そしてなんという他力本願。「そういう訳で、今からオイゲン連れて奈宮皇国まで行ってくるから留守は頼むぞ」「また留守居役でございますか……」「カーロン以外に俺の留守を任せられる奴がいない。俺もカーロンも出たら誰がウチの領内の面倒を見るんだ?」「それはまぁ、その通りでございますが……」「まぁ、出来る限り早く帰って来れるよう努力はするから納得しておけ」「……承知致しました。ですが、オイゲンの言う事をこのヴィンセント=カーロンの言葉と思い、決して無茶な事はされませぬようお願いしますぞ」「分かった分かった。俺だってそんな無茶はそうそうしないって」 基本的には臆病な子なんだぞ、俺。 どうしようもない時とか、むしろノリと勢いに任せて開き直る事も多いけどさ。 盗賊団騒ぎの時もそうだったしビルドに行った時もそうだったけど、今回だって内心ビビリまくりなんだぜ? 必要だから我慢してるけど。 とにもかくにも、奈宮皇国の支援は必要なんだ。国力を考えれば、ある程度の資金は出てくると期待して良いだろう。 もし仮に出てこなかった時は……、まぁ、その時はその時で考えよう。■ という訳で、今現在俺は奈宮皇国の王城まで来ております。 しかしアレだ、ムストタンの紹介状はマジですげぇのな。見た目ガキの俺を胡散臭そうに見てた衛兵の侍のおっさんの顔色が一発で変わったからな。 今は控えの間で多少待たされているところだが、どう考えても破格の対応と見て良いだろう。 王国からの正式な使者ならともかく、今の俺は格下の同盟国のそのまたさらに臣下の一貴族に過ぎない。エルト王国国内であれば3公爵の1人としてある程度の格があるが、奈宮皇国からすればただの田舎貴族だしなぁ。 それがムストタンの紹介状を持ち出したとたん、他の予定を可能な限り擦り合わせて即日謁見とか。普通にありえねーだろ。 ケータイ会社の窓口とかじゃねーんだからさ。 俺的には数日待たされても文句は言わないくらいのつもりで乗り込んだんだけど……。 しかしまぁ、すぐに会ってくれるというのなら文句は無い。控えの間に通された時点でお茶と茶菓子まで出てきたのにはもう驚きの感覚すら麻痺しそうだった。 つーか、お茶と茶菓子とか懐かし過ぎる。畳の感触ももうサイコー。 畳に胡座かいて茶しばいてると本当に落ち着く。 あー……、羊羹マジうめぇ。「セージ様は落ち着いておられますな……。流石です」「オイゲンはやはり畳には慣れんか? まぁ、俺の護衛っつーのもあるし無理に落ち着けとは言わないが」「セージ様がリラックスし過ぎなだけです。 普通なら、同盟国とは言え遥かに国力で勝る国の王宮に乗り込んでいるのにそこまで落ち着けるものではありませんよ」「まぁ、2度目ともなれば多少は慣れるからな。ビルドに乗り込んだ時に比べりゃ楽なものさ。なにせ、今回は俺に何か落ち度があったって訳じゃないしな」 より正確には、畳の絶大な魔力に身も心も溶かされてるだけだから。 畳×抹茶×茶菓子=超癒し効果。 マイナスイオンだとかアロマの香りだとか、そんなレベルじゃねーな。「しかしコレは良い。ウチの屋敷にも欲しいなぁ……」「では領地へ帰った後にでも増築なさいますか?」「それは実に魅力的な提案だけど、暫くはやめておこう。俺が贅沢をするよりも領内の立て直しにちゃんとした道筋をつける方が先だ。 まぁ、全部終わった時の楽しみにとっておくさ」「そうですか……」 領民の暮らしが上向かない内から贅沢をするのは反感を買いそうだしなぁ。 ただでさえ親父殿が無理無茶無謀な搾取をかましてくれてるんだし。 今は俺が急いでまとめた減税とか治安の良化のお陰もあって不穏な動きは無いが、これで領民感情逆撫でした挙句一揆でも起こされたりしたら洒落にならん。 治安や民忠をせこせこ上げてる真っ最中だし、元の状態を考えると楽観視なんてとてもとても……。せめて両方80くらいは欲しいよね、と双方60前後のステータスを見ながら呟いているようなもんだわ。 第一、畳の部屋なんて屋敷に作ろうものなら俺が怠けかねないからなぁ。 正直、楽隠居がしたいというのは変わっちゃいないんだが……、それが出来るのは全ての死亡フラグを粉砕し終えてからだ。ダルいし面倒だし頭も胃も痛いんだけど、やっぱ死ぬのは嫌だしな。 ま、これで領内が発展すればその分後で楽と贅沢が出来る、といいな。「リトリー殿、少しよろしいですかな?」「うん? あぁ、入って下さい」「では、失礼します」 慌てず騒がず立ち上がって服装を整えた俺の気配を察したのだろう。少し間を開けてから廊下側の襖を開けて入ってきたのは、紋付袴に身を包んだおっさんだった。 歳の頃は40手前くらいか。着物の上からでも分かる筋骨隆々の筋肉達磨なんだが、顔はどちらかというと男前。物腰は見るからに武官系だが、戦バカって訳でも無さそうだし……。 見た目だけでも既に敵に回したくない感じがする人だな。「お初にお目に掛かります。私は陛下の下で一軍を率いております風林と申します」「私のような若輩者にそのような丁寧な挨拶、痛み入ります。私はエルト王国に仕えますセージ=リトリーと申します。それと、こちらは私の部下のオイゲンです」 紹介され、無言で頭を下げるオイゲン。警戒心バリバリだが、別にそこまで警戒するような状況でも無いと思うんだがなぁ。 や、護衛としては優秀で結構な事なんだけど。「それで、風林殿は私に何かお話でも……?」「こう申しては失礼かもしれませぬが、家を継いだばかりの10歳の少年が僅かばかりの供のみを連れて王城まで乗り込んできたと聞いたものですから。 某としても貴殿がどのような人物か、興味がわきましてな」「まぁ、そうかもしれませんね。でも、それだけはないのでしょう?」 そう。 俺がほとんど単身ここに乗り込んできたという、それだけでは理由としては物足りない。 見てくれと話し方とだけの判断だが、このおっさんは本編で描写があってもおかしくないクラスの武将だぞ。なにせ、俺如きが一目見て明らかにコイツは“違う”と思うくらいだ。 そんなのが、たったそれだけの理由で貴重な時間を割いてまでわざわざ会いに来るものかね?「ははは……。流石に公爵殿はムスト殿に紹介状を書かせるだけはありますな。 ムスト殿に紹介状を書かせるほどの童が王城に来ていると聞いて駆け付けた甲斐があったというものです」「ムストの紹介状、ですか……。彼女は我が国の内務大臣をやっているのですから、我が国の貴族であれば紹介状を得るのはそう難しくは無いでしょう」「まぁ、普通ならそう思うのでしょうが、しかし無能な者に紹介状を書くほどムスト殿の目は曇ってはいないだろうというのが某の見るところでしてな。ただエルト王国の貴族であるという理由だけではムスト殿の紹介状は得られぬでしょう。 だが、貴殿は僅か10歳でその紹介状を得る事が出来た……。これで興味を持つなという方が無理というものでしょう? 某も、ムスト殿に認められた大器を一目見てみたいと思いましてな」「なるほど……。それで、私は風林殿のお眼鏡に適いましたか? 実際に見てみて私の器が謁見に値しないと判断されれば、陛下へのお目通りを取り消されるおつもりだったのでしょう?」「はっはっは! いやお見事、そこまで見通されておりましたか。今代のリトリー公の俊英なる事は風に聞いておりましたが、聞きしに優るとはこの事ですな。これまでの無礼、平にご容赦下さい」「いえ、私も随分と生意気を言いましたので……、むしろ謝らなければいけないのは私の方ですよ」 いやー、よくよく考えてみればお前俺の事を試してただろ、なんて指摘するなんてありえねーよな。思わずついうっかりで指摘かましちまったけど、ここは敢えてスルーしておく一手だった。 おっさんは豪傑っぷりを披露して笑って水に流してくれてるけど……、目が笑ってねーよ。警戒心バリバリじゃねーか。 参ったなぁ……、そりゃあ隣国の――それも国境を接してる地域に優秀な領主がいるとなれば警戒する奴だっているよなぁ。 でも、このおっさんマジ有能だよ。いくら領地が隣接してるからって、格下の同盟国の一貴族――しかもまだ10歳のガキ――相手にこれだけ警戒できるんだもん。軍人の鏡だわ。 普通、コイツ優秀だしチェックしておくかー、くらいで終わりだろうが。それで警戒するような奴は度を越した臆病者か油断も隙も無い軍人くらいなもんだっての。「某が貴殿と同じ年頃の時はもっと生意気な悪ガキでした故、謝られる事はありませんぞ。それに、その程度の事で頭を下げさせたとあっては某にいいところがまったくありませぬからな」「そう言って頂けると助かります」「しかし、貴殿が奈宮皇国に仕えていないというのは誠に残念ですな。某も、貴殿のような息子がおれば楽隠居ができるのですが」「はぁ……」「あぁ、いや、つまらぬ愚痴を申しました。気にしないで下さい」 別に、俺の頭の出来が特別良いって訳じゃないんだけどな。ただ単に、別の世界で積み重ねられてきた歴史の知識を半端に覚えているってだけでさ。 10歳分くらい若返っているのと併せてチート乙ってな感じにはなっちゃいるが、もう10年もすればタダの人だぞ。元の頭の回転まで良くなっているわけでも無し。 ……まぁ、一応そこそこの大学には受かってるんだから絶望的に頭が悪いわけでもないか。 あぁ、いや、もしかして一応どころか普通に高等教育受けてる時点でこの時代の大多数の人間と比べたら普通にチートなのか? その辺りのトコはイマイチ良く分かってないんだが……。 いずれにしても、貴族くらいなら高等教育の1つも受けてるだろうし、それを考えれば大したアドバンテージにはならないだろうなぁ。「では、そろそろ頃合ですので陛下の元へご案内致しましょう」「かしこまりました」「陛下も貴殿の事は興味を持っておられたので、そう悪い事にはならないと思います。何を具申されるのかまでは聞きませぬが、我が国にとって益になる事であれば陛下もお聞き入れになる可能性は高いでしょう」「そうですね……、多少費用はかかりますが奈宮皇国にとってもエルト王国にとっても良い話だと思っていますので、そこら辺を誤解されないようにご説明したいと考えていますよ」「ふむ……、某も側で聞くのを楽しみにしておりますぞ。では、参りましょう。オイゲン殿はしばしこちらでお待ちを」「はっ!」「案内、よろしくお願いします」 さて、いっちょ本番といきますか!