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No.12812の一覧
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[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
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[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
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[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
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[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
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[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
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[12812] 動乱前夜 ~Part1~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:cdf81a3a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/16 17:46


 南ヘルミナ騒乱から1年ちょっと経ったある日、俺はエルト王国旗を高く掲げた馬車の一団を護衛する兵の一人として馬を駆っていた。
 と言っても並足以上の速度は出さないし、兵というよりは将――それも、やる事の無い――なのだが。
 多分に儀礼的な側面が強く、実務はオイゲンとアルバーエル将軍の部下に丸投げしている。

 前を俺とアルバーエル将軍が固め、後方はノア将軍と先日爵位を継いだキューベル公爵が固める。
 兵数こそ少ないが、メンバーがありえない。まぁ、馬車の中におられる方の素性はお察し下さいという事だ。


「オイゲンと言ったか、彼は中々一角の武将だな。セージの部下でなければ俺の部下として欲しいくらいなんだが……」

「ウチの大黒柱の一人なんですよ、勘弁して下さい」

「はっはっは、別に引き抜こうってわけじゃない。それに、俺が声を掛けたところで靡かんだろう。見れば分かる」


 ビルド王国王都マックラーへの道中、ルトの街を越えてからは治安の様子は少し変わる。
 いくらなんでも正規軍に喧嘩を売る馬鹿はいないだろうが、用心するに越した事はないという事でこうして警戒しているのだ。

 まぁ、俺もアルバーエル将軍も馬車に引っ込んでるよりは自分で馬を駆りたいという、そんな面も大きかったが。


「……しかし、結局陛下は行幸なされませんでしたか」

「まぁ、リオナティール姫の生誕日祝賀会だからな。歳の頃が近いエルネア様の方が適任とおっしゃられてはいたが……」


 それっきり、俺もアルバーエル将軍も口を閉ざす。
 陛下――つまりエルト王の健康問題が深刻なのだ。極秘情報というほど深刻なわけではないが、やはり口にするのは憚られる話題ではあった。



 しかし、王国の中枢に近い人間はそうも言っていられない事情がある。
 今の情勢下で国王不在は許されないのだ。万が一の場合には備えなければいけない。

 王子がいない現状では、エルネア様が婿を取るか、さもなくば女王として戴冠するかしかない。が、エルネア様の政治に対する適性は高いとは言えず、今の情勢下で他国の王族を婿に取ると属国化する危険がある。
 それはまずいので婿は国内から探す事になるが、血筋という点も考慮にいれつつ国内から婿を探すというのは、控え目に言っても難行と言うしかない。

 だからといってエルネア様を立てるには、弱冠14歳という年齢がネックになる。
 まぁ、政治や軍事に関してはムストや宰相殿、アルバーエル将軍といった補佐役はいるが……。
 やはり『王』の名を背負うのは伊達ではない。俺だって公爵位を僅か10歳で継いでいるが、それは王家の後見あってこそだ。
 そうでなければ今頃お家騒動の真っ最中に違いない。


「セージがもう10年早く生まれてくれていれば文句なしだったんだがな」

「勘弁して下さいよ。アルバーエル将軍なら他にも誰か候補になりそうな人くらい知っているでしょうに」

「…………。まぁ、奴ならばと思う奴はいるが……」

「なんか、気乗りしなさそうですね」

「少し、思う事があってな。ラルフウッドという男なんだが、こいつがいい男でな。血筋はそうでもないが、武勇知略はひいき目無しに見て大したものがある。あいつになら仕えてもいいんだが……」


 アルバーエル将軍らしくもなく、歯切れが悪い。深い深いため息に至っては、まだまだ若い将軍が一気に老け込んだようにすら見える。


「……ただ、家庭を持つには向いていない面もある。歳が少し離れているのは、まぁ仕方がないが……。エルネア様の事を思うと気が進まないのもまた事実だ」

「そうですか……」

「それに……。いや、何でもない」


 明らかに何かを言いかけて止めた将軍だったが、これ以上この話題を続ける勇気は俺には無かった。
 だって、どう見ても地雷だしな。それも、N2クラスの。
 好き好んでそんなデッカイ地雷踏みに行く事はないだろう。


「しかし、お嬢さんは放りっぱなしでいいんですか?」

「アルイエットか……。最近は俺なんぞよりも部下の若いのの方が良いらしくてな」


 うぇぇ、こっちも地雷かよ。


「見聞を広めるにはちょうどいいかと思って連れて来たが、暇を見つけては部下と剣や弓の稽古をしてばかりいるようでな。娘は馬車の中で眠れるから良いが、付き合わされる部下が不憫でな……」

「な、中々勇ましいお嬢様ですね」

「武芸を磨くより先にすべき事があるだろうに……。まったく、誰に似たものやら」

「まぁ、俺みたいに剣も弓も全く出来ないよりはいいんじゃないですか?」

「それはそうかもしれんが、俺の後を継ぐつもりなら猪武者では困るのだがな。それに、ロンギュストも中々の男だが武芸は並以下だぞ」


 そういえば、キューベル公爵って内乱時に単騎駆けしてソッコーで捕まってたっけ。
 貴族の纏め役とか留守番とかで活躍したとかしないとか言われてたし、内政型の武将なのかな?
 今年で25になる若者らしいが……。もしかして、それでこれだけアルバーエル将軍に評価されてるんなら十分有能なのか。
 ……留守番公爵とか言ってスマンかった。


「そこまでおっしゃるなら、誰か家庭教師でも付けたらどうですか?」

「軍学の師か……。だが、適任の者がいないだろう。それに、俺の目が黒いうちは娘を戦場に立たせるつもりは無い」

「何故です? お嬢様はそれを望んでおられるのでは?」

「……理由があるのだ。誰にも言えぬ、理由が、な」


 またしても大きなため息をつくアルバーエル将軍に、俺はそれ以上言葉を継ぐ事が出来なかった。
 アルイエットがアルバーエル将軍の実の娘では無い事は知識としては知っていたが……。

 当事者の言葉は重いな。





















 祝賀会には、各国の重鎮や準国主級がずらりと顔を並べていた。
 奈宮皇国からは第三皇女の一葉様に、一葉様の傳役の風林殿。
 エルト王国からは王女エルネア様とエルト3公が揃い踏み。
 神楽家領国からも“梟主”神楽巖殿自らが来ている。
 一応ノイル王国からもルティモネ姫が来てはいる。が、実際に軍事行動に関して責任を持って話が出来る武官が随伴しているかどうかと言うと……。

 ガンド王国やロードレア公国からの参列者が爵位こそ高いが中央の国政に関して実権の無い人物である事や、争い事をよしとしないノイル王国からの参列者の少なさを見るまでもなく。
 これが祝賀会を隠れみのにしたヴィスト王国に対する南方諸国の対策会議である事は明らかであった。



 つまり、華やかな祝賀会の表舞台なんて俺には関係無いって事さ!

 いや、別に出たい訳じゃないからいいんだけどさ。
 だからってこんなむくつけきおっさんばかりの席というのも、それはそれで悲しい。


「お久しぶりですな、セージ殿」

「お久しぶりです、風林殿。巖様、お初にお目にかかる事、光栄に存じます。私、セージ=リトリーと申します」


 風林殿は部下に一葉姫の護衛を任せてこちらに顔を出している。まぁ、事実上の奈宮皇国皇帝の名代だ。本来なら第一皇子なり第二皇子なりが来るところなんだろうが、どちらも派遣できない程度には後継者争いは深刻らしい。
 つまり、引火物さえあれば即燃え上がりかねない状況である、と。そんな状況で名代を任される事といい、一葉姫の傳役を任されている事といい、風林殿は随分と皇帝陛下に信頼されているようだ。
 ま、こんな有能なおっさんなら俺が皇帝でも側近として扱き使いそうだけど。


 で、こっちが神楽の梟雄、神楽巖か。
 梟雄とか国主ってイメージは持ちにくい外見だな。……いや、別に普通の意味じゃなくてな。

 なんか、点棒振り込んだら採血されちゃいそうな風貌なんだなこれが。流石に○巣様よりは若いが……。
 妙なプレッシャーまで感じるし、意味もなく怖えぇよ。


「貴殿があのリトリー公か。こんな華の無い席にわざわざ来る事もあるまいに」

「いえいえ、女性ばかりの席に交じっても気後れするばかりでして。それに、私もこちらにいないと後でアルバーエル殿に文句を言われそうですしね。何故だか分かりませんが」

「くくく……。なるほど、なるほどな。そういう事なら歓迎しよう」


 まぁ、同盟相手としては頼りにな――ればいいんだけど、イマイチ頼りにしていいものかどうか。
 当主は十分有能なんだが、獅子身中の虫としてチートメイドを飼ってるからなぁ。
 下家の鈴木も実は敵だったとか、いっそ哀れですらある。

 あー、しかし俺が事前情報として反乱の頭を密告したら……?



 ……いや、まずは情報の裏を取るところから始めなきゃいけない――普通はそうするし俺だってそうする――だろうから、それをチートメイドに察知されないはずがない。少なくともそう考える方が妥当だろう。
 となると、チートメイドの蜂起が前倒しになるだけかな。うへぇ、どちらにしても神楽が混乱して使い物にならなくなるのには変わりは無いのかよ。

 しかも、情報源が俺である事なんて直ぐバレるだろうし、そうなれば恨みを買いかねない。
 そうならない可能性ももちろんあるが、リスクが高すぎる。ベットするのが俺の命ってんじゃ、賭ける気にはならないな。

 おっさんには悪いけど。



 で。

 北部国境地域でヴィスト西方軍と直に対面するガンド王国はともかく(彼らはワノタイ公国やホークランド王国との折衝で多忙を極めているらしい)、ノイル王国から代表者が出てないってのはどういう事だコラ。
 あぁいや、一応将軍の一人は出席しているが……。あのおっさんには悪いが、他の国に比べたらいないも同然だぞ。格が違い過ぎる。

 まぁ、ビルド王国の代表者がルーティン伯ってのも大概なんだけどな。
 対外的には先の南部ヘルミナ騒乱で功績があったとなっちゃあいるが……。

 出席者の視線が綺麗にスルーしてる辺り、色々とバレバレだ。
 むしろ、彼を代表者として出さざるを得ないビルド王の苦悩が垣間見えるくらいだな。



 これが、絶対王制じゃない王制の脆さ、ってやつなのかねぇ。
 1人の愚王が全部ぶち壊しにするリスクが低い代わりに、こういう状況では雑多な貴族の意見の食い違いや利益構造が足を引っ張ると。

 だからこそ、1人のカリスマの高い王が率いる王国は強いんだよな。
 その向けられるベクトルが何であれ、国家のあらゆる資源が1つの方向へと振り向けられるんだから。

 まぁ、頭が1つしかないから状況の大きな変化や多方面作戦に弱いっていう弱点もあるけど。



 ……分かってても、それをやるのがまた一苦労なんだよなぁ。


「ま、このメンバーでだらだらと喋っていても仕方がありませんからな、単刀直入にいきましょう。各国はどれほどの軍を出せますか?」

「エルト王国からは、今の時点で約2万です。時を置けば数は増えますが……」

「リトリー家の徴兵と訓練が間に合ったとして、せいぜい1万増えるかどうかです」


 何に間に合うかは言うまでもない。
 しかも、仮に間に合ったとしても、敵の兵力も増強されてそうだしなぁ。


「神楽からは纏まった数が難しいですな。5千が目一杯というところです」

「ノイル王国も同程度かと」


 こちらも、予想通りか。

 ノイル王国は軍の規模が小さい上に外征能力を著しく欠き、同盟国への援軍ですら難易度は高い。
 5千程度を出すのでも国許じゃ相当な大事になっているだろう。

 神楽家領国に至ってはさらに厳しく、援軍に兵を割き過ぎるともう一度クーデターが起こりかねない。
 さらにさらに悪い事に、ヘルミナ王国が陥ちた事で直接侵攻を受ける可能性すらある。
 補給線の問題から大規模侵攻の可能性こそ低いが、既に国境では小競り合いが頻発しているらしい。
 正直な話、この場に巖殿が出て来ている事自体が驚きだったくらいだからな。この辺りは、天嶮に隔てられているガンド王国と幾ばくかの進撃ルートが取れない事もない神楽家領国との差だな。

 両国とも、国力だけで言えばエルト王国と同程度の兵力は捻出可能なはずなんだけどな……。


「我が奈宮皇国からは5万ほどの供出が可能です。ですが……、情けない話ではありますが、国内の状況があまりよろしくありません。現実的には2万程度の派兵が精一杯、というのが現実的な話です」


 そうだろうとは思っちゃいたが……。やっぱり、お家騒動はのっぴきならない状況か。外敵と皇帝という2重の膠が剥がれたらどうなる事やら。

 万全なのはヴィスト王国ばかりなり、か。詰んでいるとまでは言わないまでも、局面は悪いな。
 今はまだオルトレア連合の方が国力的に上だけど、この調子じゃすぐに逆られるな。
 その事に関しては、参加者の中でも分かっている人間は分かっているのだろう。難しい顔ばかりが並んでいる。
 かく言う俺もその1人なんだがな。

 ……ヘルミナ南部での戦いが無駄だったとまでは言わないが、あの程度では原作に至る流れは止められないか……。


「今のところ、各国の援軍を糾合して5万というところですか。我がビルド王国の兵力10万余と合わせれば何とかなりそうですな」


 いや、何ともならんだろ。



 その兵数でそのまま決戦ならまだ何とかなるかもしれんが、実際にはマックラー、クングール、クルガの各方面に分散配置せざるを得なくて、それぞれ7万、4万、4万といったところだ。
 全軍を配置してそれなのだから、国内各地の警備や警戒に兵力を割けばさらに正面戦力は減る。というか、国内全部空っぽにして前線に張り付けようにも貴族達がそれを許容するはずがないし……。
 あとは言わずもがなだろう。

 敵の出てくる所を読んで博打を打つというのも有りっちゃ有りなんだが、中途半端な兵力が災いしてそれも難しいだろうな。
 人間、多少なりとも余裕があると乾坤一擲の博打には出辛い。それに自身の存亡がかかっているとあればなおさらだ。



 それに対してヴィスト王国には、ヘルミナに2万程度、本国とウィルマーに合わせて5万程度の備えを残してもまだ5万以上の動員力がある。
 しかも、出てくるのはヘルミナを一撃で粉砕した大陸最強との呼び声高い精兵5万だ。

 イニシアチヴが相手にあるんじゃ格好の各個撃破の的になりかねない。
 ……こっちにイニシアチヴがあってもどうかってレベルなのに。



 なら各個撃破されない程度の数で編成すればいいかというと、それも拙い。
 国土を丸ごと縦深陣にできるのなら本隊+別動隊の撹乱というのもあるが、その手に出るにはビルド王国の重要拠点は北に偏り過ぎている。
 北部中央のマックラーは交通の要衝だが防衛面では最悪の立地。
 北東部のクルガも以下同文。
 北西のクングールはガンド王国やヘルミナ王国との歴史関係上それなりに固いらしいが、その代わりに援軍がコドール大陸最弱クラスのノイル王国では条件的には大差ない。

 つまり、手抜けそうな場所が見当たらないのだ。

 少なく見積もっても5万ほどのヴィスト王国最精鋭軍集団相手に、2万くらいで篭城してそれなりに耐えられる隊があれば何とかなるかもしれないが……。
 さて、そんな精鋭部隊なんてあったかな?

 そもそもだ。今までの話は、各国の援軍が間に合った場合の話なわけで。ヴィスト軍の進軍速度を考えると、最悪ビルド軍が敗北してからこちらの援軍が到着する可能性すらある。
 そう考えると、ビルド軍がある程度耐えていてくれないと話にならないんだけど、なぁ……。



 イニシアチブを取られるのが苦しいという事は分かったが、かと言ってこちらからの逆侵攻も問題が多い。



 まず、各国の足並みがキチンと揃うかどうか。

 ノイル王国などはクングールまで進出するのでも国内で大分揉めているらしい。
 この上ヘルミナまで逆侵攻するとなると、援軍自体が破談になりかねないとか。

 神楽家領国も、自領の防衛体制に難を抱える以上無理は出来ない。
 巖殿も限定的な逆侵攻そのものは手として有りだと思うそうだが、それを部下が納得するかどうかは別という事で難色を示している。

 エルト王国内でも、先の援軍の時のように使い潰されては堪らないという声は少なからず存在する。
 ビルド王国が陥ちれば次はこっちだという意識があるから派兵そのものへの反対は少ないが、ヴィスト軍が対ビルド王国戦で疲弊しきったところを痛撃するべきだという過激な意見すら出る始末だ。

 風林殿は何も言わないが、奈宮皇国でも似たようなものだろう。
 微妙な関係のビルド王国より、眷属国の神楽家領国や四峰家領国の防衛を優先するべきだと発言する貴族がいたって何の不思議も無い。



 いずれも防衛だけを考えた際にも問題になる事だが、今は辛うじて抑えられている状態ではある。
 ただし、逆侵攻をするとなると一気に表面化するのは避けられない。
 一旦そうなったら、もう防衛体制を構築するどころの騒ぎじゃなくなる。薮を突いて蛇を出すわけにはいかないだろう。

 それに、仮に逆侵攻が成功したとしても戦後処理で半歩間違えば途端に協同体制が崩壊する危険性も高い。
 むしろ、俺がヴィスト軍指揮官ならそれを狙って戦線を下げてもいい。寄せ集めの脆さが直ぐに出るだろう。



 あと、兵站の問題もあるんだよなぁ……。
 なにせ、各種武装の規格統一すらしてない多国籍軍の兵站を維持しなきゃいけないんだ。しかも、それぞれの本国から遠く離れた地まで。
 筆舌に尽くしがたい苦労があるに決まってる。というか、無理だ!
 ありとあらゆる規格が食い違っている状態で現代戦を――しかも“あの”アメリカ相手に! ――戦う、という恐ろしい罰ゲームをしていた旧日本帝国陸海軍よりはマシかもしれないが……。いや、大差ないか。
 どうせ同盟組むのならNATO軍並には装備を揃えてくれよ……。
 まぁ、それをやられると前衛の過半が隊列組んだ集団戦たたきあいに特化したウチは困るっていうどうしようもない状況ではあるんだけどさ。



 とまぁ、まさにO☆TE☆A☆GE状態。

 この辺りの認識は大なり小なり似通ったものなので、ルーティン伯の言葉でシラけムードが漂いつつある。
 雑多な寄せ集め5万と自由に運用できる見通しすら立たない10万という机上の数字だけで何とかなった気になられてもなぁ、と。


「いかに精強のヴィスト軍と言えど、戦い続きで疲労も蓄積しているでしょう。先の南ヘルミナ騒乱で痛い目にあっているのがその証拠」


 おいおい、何のジョークだよそれは。

 あれは2線級の予備兵力とよちよち歩きの若手指揮官の組み合わせしばいただけじゃねーか。
 むしろ、その組み合わせであれだけ手強かったって事が発覚した時は愕然としたんだぞこっちは。

 まぁ、その若手指揮官ってのがセルバイアンだったのは普通に驚きだったがな。
 とはいえ、彼が優秀だからといって経験の無さが補えるでもなし。あんなもんっちゃあんなもんなのかもな。
 一応、2線級でも最優秀な部類に入る隊とぶつかったらしいが……。



 俺も経験無いだろってか?
 ビギナーズラックだよあんなもん! 2度も同じ事が出来るか!!


「まして各々方の援軍を得ればこちらは相手に倍する数が揃うのです! これならば勝てます!」


 ……何と言うか、幸せな結論だなぁ。
 しかしまぁ、少しは正論でも言っておかないといけないかね。


「……確かに戦略的には最初の1歩で致命的に出遅れる事は回避出来ました。しかし、兵数の優位に胡座をかいていては次に痛い目にあうのは我々かもしれませんよ」

「ははは、リトリー殿らしからぬ消極さですな。貴公は先だっての会戦では突出して散々にヴィスト軍を引き擦り回したではありませんか」

「あれは、どちらかというと戦略的には守勢に立ったが故の方策だったんですが……。
 それに、次は1線級の精鋭が相手ですよ。将も、少なくともヴィスト三名将のいずれかが出て来るでしょう。果たして同じようにいくかどうか」


 駄目だ。正論で返せば返す程鬱になる。
 実際に当たってみた身としては、ヴィスト三名将と精鋭の組み合わせがどれほどのものになるかと思うと……。


「三名将と言っても、ダヴー将軍は敗走せしめたではないですか」

「まぁ、そういう事になっていますか……」


 対外的には敗走させた事になってはいるが、実際はどうだったかなんて事は今更言うまでもない。
 そんなので大きな顔なんて出来る訳がない。


「その事だが、儂らの中で実際にヴィスト三名将と槍を合わせたのは貴公しかおらん。貴公の忌憚なき意見を聞きたい」

「そうですね……。自分で言うのもなんですが、あまり客観的とは言い難い意見になりますよ。彼女が戦闘に参加したのは最終盤の一時期だけですし、野戦というよりは攻城戦に近い戦いでしたから」

「それで構わん。伝聞だけでなく、実際に戦ってみた事のある人間の話が聞いてみたいのでな」

「それでは……。私が見た限りでは、猛将と言われている割には粘り強く冷静な指揮をしていたように思えました。
 敵前渡河の際の指揮、こちらの伏兵に対する事前の読みと冷静な対処、撤退の際の手際の良さ、どれも一流と言うに相応しいかと。少なくとも、彼女を評した猛将という言葉は猪突を意味してはいませんでした。
 それに、策を用いる事が特別苦手なようでもなかったです。実際、私があの時点で籠城を諦めて撤退を選んでいればここに居なかった可能性は高いですね。

 まぁ、文句なしに名将と言っていいでしょう。あの指揮ぶりが万の兵を任されても変わらないのであれば、希代の、と枕詞が付くはずです」

「なるほど、常勝将軍の名は伊達ではないという事か……」


 つーか、直視したくない現実だけど、あれと同レベルの武将があと3人もいるんだよな……。
 『不屈の宿将』ヘクトール=アライゼル、『鉄壁公』ジャン=スーシェ、『常勝将軍』ミリア=ダヴー、そして『英雄王』カーディル=ヴィストか……。

 笑っちまうだろ? これでまだ原作組がいるんだぜ……。 


「ともかく、今はヘルミナ方面での情報収集を密にして備えるしかないな」


 まぁ、それしかない。

 それしかないが……。実のある結論は何も出なかった事になるか。
 せめてマックラーから北に進出してラルンを狙う姿勢だけでも見せておけば、そこで全兵力同士がぶつかる決戦に持ち込めるかもしれなかったんだが。

 いや、その場合はヘルミナ軍の二の舞を違った形で演じる事になりそうだな。
 指揮系統がはっきりしない寄せ集めでヴィスト最精鋭の正面攻勢を受け止めるなんて難行、少なくとも俺はゴメンだ。
 そういうのは天才軍師様に任せる。俺は第2戦線辺りで睨み合いをするくらいで許してもらいたい。



 最低限、指揮系統が統一されていれば何とかと思わないでもないが……。
 しかしまぁ、こんな状況じゃ指揮権をそう易々と譲ったりなんかしないか。正直な話、俺も譲るかどうかで言われれば遠慮したい。
 自軍が敵正面に回されてすり潰されたりしたらどうするんだ、ってな話だからな……。よほどの信頼関係があれば別だろうけど、さ。
 少なくとも今のオルトレア連合には望むべくもない要素か……。



 とにかく、そんな事をボヤいていても何にもならない。
 軍の編成と訓練を間に合わせるべく全力を尽くすのみだ。

 ……ため息のタネだけは尽きないよなぁ、ホント。






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