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No.12812の一覧
[0] 中の人などいない!!【王賊×オリ主】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:42)
[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
[26] 【公爵家の人々】エルスセーナの休日5日目【悲喜交々】[ムーンウォーカー](2010/06/13 13:19)
[27] 【誰が何と言おうと】エルスセーナの休日6日目【この人達はモブな人】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:18)
[28] 【意外と】エルスセーナの休日7日目【仲の良い人達】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:17)
[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
[30] 合従連衡[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:35)
[31] 伏竜鳳雛 ~part1~[ムーンウォーカー](2010/08/29 12:19)
[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 始まりのクロニクル ~Part7~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:0c92d080 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/16 17:29




 敵の追撃を振り切り、数日前に渡った川をもう一度越えて橋を落としてこれで一段落と思ったのも束の間。



 朝起きて川の向こう岸を見たらなんかいっぱいヴィスト兵が並んでるんですけど……。
 え、もしかしてもう追いつかれましたか?
 こっちはもう満身創痍でいっぱいいっぱいな状態なんスけど?
 つーか敵陣に掲げられてる旗が違うんですけど?

 交差した斧槍と炎を吐く竜の旗。
 俺は全く知らなかったがどうやらその旗は有名な武将の物らしく、確認したカーロンやノア将軍の顔色がヤバイ事になっている。ビリーのおっさんに至っては放っておいたら時間稼ぎの殿に名乗り出て壮絶な討ち死にでもしそうな感じだ。



 ……ちなみにあの旗、ヴィスト三名将のひとり、ミリア=ダヴー左将軍の物だそうで。もうこれだけで死亡フラグが立ちそうな感じですよねー。
 聞くところによると、ヴィスト統一戦の時に500の兵で2000の敵を粉砕した事があるそうですよ?

 えーっと、それはつまり500で2000をフルボッコに出来る人が3000を率いて1500ちょっとの俺達と対陣している、という事で。
 ジョークにしては笑えないな、おい……。










■ ――8th Day










 こうなると頼みの綱はアルバーエル将軍の援軍だけという事で。雨が降ったりして川が増水してくれれば時間が稼げていいんだけど、そう都合良く雨が降ったりするはずもなく。
 今ばかりはうららかな春の日差しが憎らしい……。


「とにかく川を渡って来る敵の頭を抑えるしかないですね。第6、第7小隊が合流したから兵力差は多少はマシになりましたが……」

「正直に申しまして、焼石に水ですな。その上、上流か下流で渡河されて側面を突かれたらそれまでです。
 敵の兵力も大分減りましたが、しかしそれでもこちらの2倍は優に超えていますからなぁ」

「まぁ、正面の敵を抑えるのすら耐えられるかどうか、という戦力差ですからね……。
 ですが、ここより後方には防御拠点はありません。後退中に捕捉されたら全滅必至である以上、アルバーエル将軍の来援まで何とか持ちこたえるほかないです。
 側面に対する備えはノア将軍にお任せします。斥候を放って敵の動向を監視しつつ、予備兵力として備えて下さい」

「まぁ、それしかありませんな」

「正面の敵の渡河にはカーロンが当たれ。弓兵も全てここに配置する。獣人族は正面の補助戦力としてある程度独自の裁量で動いて下さい」

「了解です」

「承知しました」


 村は一応拠点化しているし、元々環濠集落であった分そこそこ堅い。がしかし、敵味方の有形無形の戦力差を考えた場合、今度こそ包囲されるのを阻止できない。
 ビルド近衛兵団の来援まで耐えればいいとは言ってもだ。最悪、騎兵の連中を馬から降ろして戦わせるようなハメになりかねないんだよな……。
 秋山支隊乙と言わざるを得ない。

 まぁ、それでも最後は村に篭るしかないんだけどな。
 川を渡って来る敵の頭を永遠に叩き続ける訳にもいかないからな……。
 敵の編成が極端に歩兵に偏っているのだけはプラス要素だけど、騎馬の突進力や弓兵の打撃力が無くても数の圧力だけで押し切られかねない。


「敵軍、渡河を開始しました!」

「少しくらいは躊躇してくれてもいいだろうに、あっさりとまぁ……」


 目の前の河は何の変哲も無い無名の河川――ただし、日本のチンケな1級河川なんぞ及びもしない大陸型河川――だが、渡河に適したポイントというのはそう多くないと聞いている。
 流れが速く水深も浅くはない事もあり、地元の獣人族でも川に入るのは成人した男性に限っているほどらしい。それでも毎年水難事故が起こるんだから、危険度は相当なものだろう。
 もちろん何ヶ所か流れが穏やかな所もあるらしいけど。

 その渡河に適したポイントが正面にあるのはどういう事だよと思わないでもないが、そういう場所を選んで橋を作ったらしいので仕方が無い。集落も、橋に合わせて出来たらしいし。
 まぁ、その渡河ポイントの限定のお陰で大兵力を一気に渡河されて揉み潰されるのだけは避けられそうなんだが……。


「疲労と矢の不足はもう覆せないか……」


 ここまで戦い続けのこっちの疲労はもうどうしようもないレベルに達している。
 昨夜はゆっくり兵を休める事が出来たが、それで疲労が全て癒せるはずもなく。ずっと寡兵で敵を抑えつづけていた分、むしろ昨日で張りつめていた気合いが抜けてしまった感すらある。
 ……仕方ないと言えば仕方ないが。

 第6、7小隊を前面に出す事でカーロンは何とか水際の防衛線を維持しているが、いつ崩壊してもおかしくない。
 今は足場の差と獣人族や弓兵の援護で川の水を敵兵の血で染め上げているが、次々と押し寄せる敵兵は確実にこちらの防衛線を蝕んでいる。
 敵前渡河なんて強引な策を取られていても、そこにつけ込めるだけの戦力がもう無いのだ。
 ……というよりは、圧倒的な戦力差が多少強引な作戦を可能としていると言うべきか。

 現状、戦場を渡河ポイントに限定しているから耐えれているだけで……。損害に耐えきれずに後退した瞬間、大量の敵兵に渡河されて蹂躙されるのは目に見えてるんだよなぁ。



 まぁ、制圧雷撃で防衛線をズタズタにされたビボース兄弟よりはマシ、と思っておくか。
 援軍の到着時間が読めない分こっちのが厳しい気もするけどな!


「弓兵第1小隊より伝令! 我、残弾尽く。指示を請うとの事です」

「矢を射ち尽くした小隊は急いで後方へ下げろ。そのまま撤退させて構わん」

「はっ」


 弾切れ、か。気にせずに射ち切れとは言ってあったものの、実際に弾切れとなると厳しいな……。
 ここまで小細工盛り沢山でごまかしてきたけど、そろそろ奇術のタネが切れたか。


「索敵中の斥候隊より伝令! 上流で敵勢が渡河中です! 数およそ1000!」

「……水際で抑え込むのには失敗したようですな」

「……ですねぇ。まぁ、それくらいは想定の範囲内っちゃあ範囲内ですけど、ね……。
 ノア将軍は斥候隊を全て帰還させて下さい。ここに残した500ほどで何とか正面の敵を押し返して、上流の敵がこちらに到着する前に村に篭ります」

「1000ほどであれば我々が何とか抑えられる数ですが」

「いつまでも抑えているのは無理でしょうし、そもそもこのままじゃ別働隊を抑えている間に正面が破られますよ。逆も然りです。こんな開けた場所で2正面作戦を展開するような余裕はありません。
 ……まぁ、元々水際で阻止するというのが無理気味だったんでしょう。当初の作戦に固執すると軽く死ねそうですしね」


 苦笑するしかない現状だが、前線が崩壊する前に収拾をつけて篭城するしかない。
 援軍が来なけりゃどうしようもないが……、ま、それは最初から分かってた事だしな。

 ノア将軍の隣から離れ、馬首を川岸で戦うカーロン達の方へと向ける。


「まさか、直接指揮するおつもりですか?」

「指揮官が直接戦場に出るのと出ないのとでは士気が違いますから。まぁ、分は弁えてるんで最前線にまでは出ませんよ」


 もう十分に最前線に立ってるだろっていうのは見ない方向で。
 実際問題、斥候隊の収容の指揮を行えるのがノア将軍と彼の副官しかいない以上、押し返す部隊の指揮は俺しか執れん。カーロンやビリーのおっさんは自分達の部隊の後退で手いっぱいになるだろうし。

 せめて矢が残っているか魔法使いがいれば……。


「まぁ、無い物ねだりをしても仕方がないか……。それではノア将軍、一時兵をお借りしますよ!」

「……無理はなされませんように」

「ははっ、無理ならもう十分にしていますよ。――全騎、俺に続けっ!」


 やや後方で予備兵力として待機していた騎兵500騎余を率い、最前線のすぐ後方の川岸まで移動する。



 既に弓兵隊が残弾ゼロで引き上げた影響は色濃く、さっきまで水際で押し留めていた戦線が土の乾いた所まで押されつつある。

 少数ながら熟練者で編制した獣人族投石部隊は懸命に援護射撃を行ってくれてはいるが、いかんせん数が少なすぎる。それに、統制射撃が行えないのも地味に痛い。
 そもそも個人技だからな、獣人族の投石は。
 投石紐も弾丸用の石も個人の私物で統一性が無く、個々の技量と判断で射撃を行っているだけだ。……元々狩猟用の技術なんだし、当然と言えば当然の事なんだが。

 それにまぁ、統制射撃が出来たとしても長所を殺しかねないし、いずれにしても数が少なすぎるのはどうしようもない。
 弓兵の補助戦力として編制した部隊が主戦力化しつつあるという時点で、投射戦力の枯渇っぷりは察せるだろう。

 それでもまだ乱戦になってないのは、ウチの連中が隊列だけは死ぬ気で維持しているからだ。
 戦線を支えるには余りにも貧弱な投射戦力の援護を最大限に有効活用し、隊列を維持し続けているカーロンの手腕は凄まじいの一言に尽きる。過ぎたるものと言われても文句が言えないくらいだ。

 だが、俺の幸運もそこまでが限度らしい。

 ビリー殿の方はそう上手くはいっていないようだ。
 もっとも、ビリー殿の手腕を責める訳にはいかないだろう。むしろ、相当上手くやってくれていると思う。
 問題は、獣人族の前衛の主流兵装が両手剣だという事で……。リーチが短い分、ウチの連中より接近されてしまうのがモロに出ているだけだ。
 獣人族の戦闘能力自体は高いのだが、獣人族達の前衛は左翼で乱戦一歩手前みたいな状況に陥りつつある。既に数の圧力に対抗出来なくなりつつあり、放っておけば乱戦に持ち込まれ、そのまま押し切られるだろう。



 つまり、なけなしの予備兵力である騎兵を注ぎ込むポイントはここしかない。


「カーロン、ビリー殿に伝令を出せ。一時こちらで前線を支えるから後方の村まで後退するように。
 ――全騎突撃! 敵を押し返せっ!」


 駆けて行く伝令を少しだけ見送り、左腰からショートソードを抜き放って振り降ろす。間髪入れずに退き鐘が鳴り、ウチの連中と獣人族が潮が引くようにして後退。
 こちらの意図をしっかり把握してくれている辺り、カーロンもビリー殿も本当に頼りになる。

 前線へと視線を戻せば、騎兵の突進をマトモに受けた敵前衛は控えめに表現しても混乱状態に陥っているらしく、川の流れとあいまって後続の部隊の前進を阻んでいる。
 一見すると敵前衛を殲滅できそうな状況だが、それをすると敵さんの混乱の原因をこっちで取り除いてやる事になるからな……。

 まぁ、せいぜい後続部隊の蓋になっていてもらおう。


「全騎後退! 追撃してくる者は適当にあしらえっ!」


 組織的な追撃なんてしようがない状況だからな、個人で突っ込んでくるアホはいるが、そんなんでどうにかなる事も無く。
 ……ああいや、あれは追撃じゃなくて時間稼ぎの決死隊か。こちらの再突撃を牽制しつつ、一端向こう岸まで退いて陣形を立て直すつもりなんだな。
 なら、アホ呼ばわりしちゃ流石にマズイな。まぁ、決死隊に加わるような豪傑生き残らせると面倒だから容赦無く囲んで討ち取ってるけど。

 敵さんとしては、ここで無理に敵前渡河しなくても別働隊が側面突けばいいだけだしなぁ。
 つーか、別働隊を動かすための陽動に近いな。
 それで渡河できるんならそれでもいいが、限界以上に無茶をしてまで渡河しなきゃならん事はない、と。


「こりゃあ、拙いかもな……」


 村に篭るまでは何とかなるだろうけど、今回は小細工は何一つ準備していない。
 野戦で正面から当たるよりはマシだけど……。だからといってこの展開で勝てる気も全くしない。
 なんか猛将だとかいう話を聞いてたんだけど、普通に堅実じゃねーかよ。まぁ、正面から粉砕しに来られていてもダメなんだけどさ。

 後は援軍が間に合うかどうかだけか。


「そろそろ到着してくれなきゃこっちがもちませんよ、アルバーエル将軍……」










■ ――9th Day










 どちらかと言えば攻勢に強い猛将として名が知られているミリアであったが、実際には慎重に事を進める事も多いというのは意外と知られていない事実であった。
 若いながらも傭兵として戦ってきた経験は豊富で、戦場を良く知っているからこその慎重さと言える。

 考え込む際の癖である腕組みをしたまま、ミリアは机の上の地図に目を落とした。


「村に篭ったかと思えば夜戦に打って出て、攻城戦に近い形に引きずり込んでから伏兵の騎兵に側面から強襲させる。後退の際の殿では半包囲に持ち込もうとしたのを察知して躱して……。昨日の別働隊もあっさり読んで捕捉、無理せず拠点化した村に引っ込む、か」

「緒戦で甚大な損害を出したのは私の未熟さ故の事です。申し訳ありません」

「あたしに謝っても仕方ないでしょう。それに、セルバイアンの指揮が拙かったと言うよりは、敵将を褒めるべきだわ。
 ……厄介な将が出て来たものね」


 セルバイアンも悪くはない指揮だったが、結果的に敵が一枚上回ったというだけの事だ。特に、セルバイアンの攻勢ルートを読み切って騎兵を伏せていた事は悪魔的とすら評価されるほどだった。
 総勢2000そこそこでしかないのにその内の半数近くを伏兵として伏せるなど、並の将に出来る事では無い。

 ――実際には開き直りと博打の結果としか言いようのない戦闘結果だったのだが、その事を知らないミリアはセージの事をやや過大評価していた。
 その事がミリアを必要以上に慎重にさせている結果として、未だに村に篭るリトリー勢への攻撃は見送られているのだ。



 もっとも、そのヴィスト軍の慎重な動きのために、またも戦場後方に伏せられているノア将軍以下の騎兵が動く隙も無かった。
 2度も同じ手に引っ掛かるとは思えないが、とセージは公言していたが、篭城に全く向いていない騎兵を最大限有効活用するにはこの手しかなかったのだ。

 阻止火力も無いのに騎兵の攻撃力と機動力の双方を殺すなどという選択肢は有り得なかった。
 兵力に劣るリトリー勢にとって、篭城する村落の外で戦闘のイニシアチヴを握れる可能性のある騎兵は最後の命綱に近い。


「しかし、もう既に敵の命運は尽きているでしょう。昨日の小競り合いでの敵の応対を見るに、矢の残弾が尽きているとしか思えません。
 集落内に立て篭もっている兵も1000を割っている事でしょうし……」

「それで、本格的に攻めかかったらまた騎兵に後背を突かれて無駄な損害を出すのね。
 エルト王国からの援軍が主体なのでしょうけど、良く訓練されているわ。かなり劣勢な状況だとは言え、兵が逃げ出していると思うのは楽観的過ぎるわね」

「では、近くに伏兵が……?」

「すぐ近くではないでしょうけど、相手は騎兵よ。村に篭る敵を一瞬で揉み潰せるのなら話は簡単だけど、多分敵が突っかかってくる方が早いわね」

「では、後方に備えを置きつつ攻め掛かるというのはどうでしょう?」

「戦闘での損耗を多目に見積もっても700は超える騎兵の突撃を食いとめる隊を後方に残すとなると、退路の遮断が出来なくなるわね。
 時間稼ぎの殿を残して脱出されてしまうわよ」


 まぁ、この時点で獣人族の大部分は取り逃がしてしまっているから、今更彼らを全滅させてもさして意味は無いんだけど。



 敵の想像以上の手際の良さに、ミリアは内心そう結論付けて嘆息した。

 旧ヘルミナ王国領の平定という戦略的な目標はほぼ達成されているから、純粋な戦略的見地に立った場合、既にヴィスト軍の勝利は確定している。
 最終局面で少しばかりの戦術的敗北は喫したし、獣人族を取り逃がした事も痛いが、その程度の失点は許容範囲と言えよう。
 完全勝利とまではいかなかったが、ヴィスト軍の勝利もまた揺らがない事実である。

 傭兵上がりのミリアとしては、その分析に満足している。
 だが、武人としてのミリアは最後の最後で負けに等しい失敗をしたと臍を噛んでいた。

 側室であったとはいえ王の妃を害された上に族滅すべき相手には逃げられ、挙句の果てに、作戦上の齟齬がいくつかあったとはいえ、5000の兵が実働4000を割り込むまで討ち減らされてなお敵を追い詰めるのが精一杯という有り様なのだ。
 武人としては、これで勝ったとは到底言えない。


「しかし、このままでは敵の増援が間に合ってしまいます。
 エルト王国勢は脅威的な進軍速度で我々の行く手を阻みましたが、ビルド王国近衛兵団とてその間怠けている訳でもないでしょう。エルト王国勢ほどではないにしても順調に進軍しているのならば……、恐らくはこの辺りにいるかと」


 セルバイアンが指し示したのは、セージ達が篭る村落の南方、徒歩でおよそ1日の距離の地点だ。
 幾分速めに進軍速度を見積もっているが、ミリアの想定とほぼ一致している。


「……草の報告だと、重装歩兵が3000だったわね。ビルド王国の近衛が精強だという話は聞いた事が無いけど、さすがに村を囲んでいる状況で接敵するのは拙いわね」

「となると、選択肢は限られてきますね。――強攻するか、撤退するか、ですか」

「攻めるにしても退くにしても、決断は早い方が良いわね。あなたならどうするの、セルバイアン?」

「攻めます。このまま黙って引き下がるなど、考えられません」


 そう言って血がにじむほど拳を握りしめるセルバイアンは、まさしく武人であった。

 そして、そんなセルバイアンの様子に好感を抱く程度には、ミリアもまた武人であった。
 今でこそ傭兵からの成り上がりという見方をされているが、軍人家系の貴族の末娘として生を受けて以来「武」の誇りを忘れた事など無かったのだから。



 敵の増援が来る前に目の前の敵を叩き、追撃を封じてから撤退する。

 そう考えてこのまま撤退した方が良いのではという思いを振り払い、ミリアは腕組みを解いて白魚の指を地図へと走らせた。


「セルバイアンはアーク隊とベア隊を率いて村の正面から攻めなさい。
 コークとダンは私と一緒に敵騎兵の抑え。
 エディ隊には弓兵の残存部隊を付けるわ。合流が済み次第村の南方のこの地点――」


 ミリアの指が、村の南にある丘を指差す。


「ここに伏せて、待機。敵が離脱しようとした場合これを側面から討ちなさい」

「伏兵ですか……」

「別に引っ掛かるとも思わないけどね。でも、ここに兵を伏せているのが分かったとしてもそう簡単に撤退できない。
 本気で押し通られたら阻止するのは無理だけど、牽制と考えればそれで十分。
 エディ隊は損害がかなり厳しいけど――いけるわね?」

「はっ!」

「制限時間は日没まで。もしかしたらもっと短いかもしれないわ。その事だけは全員、覚えておくように。
 ――では、解散!」






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