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No.12668の一覧
[0] ゼロの死人占い師(ゼロの使い魔×DiabloⅡ)[歯科猫](2011/11/22 22:15)
[1] その1:プロローグ[歯科猫](2009/11/15 18:46)
[2] その2[歯科猫](2009/11/15 18:45)
[3] その3[歯科猫](2009/12/25 16:12)
[4] その4[歯科猫](2009/10/13 21:20)
[5] その5:最初のクエスト(前編)[歯科猫](2009/10/15 19:03)
[6] その6:最初のクエスト(後編)[歯科猫](2011/11/22 22:13)
[7] その7:ラン・フーケ・ラン[歯科猫](2009/10/18 16:13)
[8] その8:美しい、まぶしい[歯科猫](2009/10/19 14:51)
[9] その9:さよならシエスタ[歯科猫](2009/10/22 13:29)
[10] その10:ホラー映画のお約束[歯科猫](2009/10/31 01:54)
[11] その11:いい日旅立ち[歯科猫](2009/10/31 15:40)
[12] その12:胸いっぱいに夢を[歯科猫](2009/11/15 18:49)
[13] その13:明日へと橋をかけよう[歯科猫](2010/05/27 23:04)
[14] その14:戦いのうた[歯科猫](2010/03/30 14:38)
[15] その15:この景色の中をずっと[歯科猫](2009/11/09 18:05)
[16] その16:きっと半分はやさしさで[歯科猫](2009/11/15 18:50)
[17] その17:雨、あがる[歯科猫](2009/11/17 23:07)
[18] その18:炎の食材(前編)[歯科猫](2009/11/24 17:56)
[19] その19:炎の食材(後編)[歯科猫](2010/03/30 14:37)
[20] その20:ルイズ・イン・ナイトメア[歯科猫](2010/01/17 19:30)
[21] その21:冒険してみたい年頃[歯科猫](2010/05/14 16:47)
[22] その22:ハートに火をつけて(前編)[歯科猫](2010/07/12 19:54)
[23] その23:ハートに火をつけて(中編)[歯科猫](2010/08/05 01:54)
[24] その24:ハートに火をつけて(後編)[歯科猫](2010/07/17 20:41)
[25] その25:星空に、君と[歯科猫](2010/07/22 14:18)
[26] その26:ザ・フリーダム・トゥ・ゴー・ホーム[歯科猫](2010/08/05 16:10)
[27] その27:炎、あなたがここにいてほしい[歯科猫](2010/08/05 14:56)
[28] その28:君の笑顔に、花束を[歯科猫](2010/11/05 17:30)
[29] その29:ないしょのお話オンパレード[歯科猫](2010/11/05 17:28)
[30] その30:そんなところもチャーミング[歯科猫](2011/01/31 23:55)
[31] その31:忘れないからね[歯科猫](2011/02/02 20:30)
[32] その32:サマー・マッドネス[歯科猫](2011/04/22 18:49)
[33] その33:ルイズの人形遊戯[歯科猫](2011/05/21 19:37)
[34] その34:つぐみのこころ[歯科猫](2011/06/25 16:18)
[35] その35:青の時代[歯科猫](2011/07/28 14:47)
[36] その36:子犬のしっぽ的な何か[歯科猫](2011/11/24 17:52)
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[12668] その5:最初のクエスト(前編)
Name: 歯科猫◆93b518d2 ID:b582cd8c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/15 19:03
////5-1:【しかし地獄行く】

ある日の午後、黒板に『今日の授業は自習』とかかれた教室。その一角に、女生徒の集団ができていた。
なにやら話題の中心は一冊の本、女子たちは自習そっちのけでわーわーきゃーきゃーと盛り上がっている。
集団のなかにモンモランシーの姿を見つけたギーシュが、歩み寄り声をかけた。

「モンモランシー、いったい何をしているんだい?」
「占いよ占い、ロマリアの高名なメイジさまの書かれた動物占い、恋占い」

貴族の子女とはいえ年頃の女子。占いは大人気のようだ。
最近流行の動物占いは、よく当たると評判である。

「私は白鳥ね、困難をおそれず何事にも挑戦! だって」
「へえ、僕は何だろうね」
「あなたはカモノハシ、生涯の伴侶を見つけ大事にしなさいですって」
「おやモンモランシー、きっと君のことだよ!」
「ば、ば、馬鹿いわないの!」

モンモランシーが真っ赤な顔をした。回りの少女たちがキャーキャーはやし立てる。

「やあルイズ、面白い占いがあるよ、君もやってみないか?」

ひとり教室の隅のほうで読書に没頭している白髪の少女……ゼロのルイズに、ギーシュが声をかけた。
そのとたん騒いでいた女子生徒が、ピタリと静まった。空気が凍る―――グラモン! こいつ、なんてよけいなことを!!
ルイズは本から顔をあげてギーシュを見ると、興味なさげに一言。

「いらないわ、誘ってくれたのはありがたいけど、占いなら自分でできるもの」

そんな予想外の一言に、一同唖然とする。モンモランシーがおずおずルイズに話しかける。

「あ、あなた占いできるの?」
「まあね」
「……その、当たるの?」
「ぼちぼちかしら」

モンモランシーが話しかけているのを見て、その他の女子生徒たちもおそるおそるルイズに近づく。
普段ルイズを恐れて近づかない同級生たちも、恐怖半分、興味半分といった風に遠巻きに眺めだした。

「じゃ、じゃあやってみせてよ!」
「いいけど、一回10エキューよ」
「えっ、お金とるの? ……た、高いわね」
「普段はやらないから、今日だけ特別。だから高いのよ……で、やるの、やらないの?」
「え、ええと……」

たかが占い一度に10エキューとは、ぼったくりも良いところである。
躊躇するモンモランシーの前に、ギーシュが進み出た。

「誰もやらないのかい? ならばモノは試しだ、僕が占ってもらおう」
「オッケー、まいどあり」

ギーシュが気前よくエキュー金貨を10枚、差し出されたルイズの手のひらに載せた。
ルイズの持ちかけた宝石商売のおかげで、最近のギーシュの懐は多少潤っている。このくらいなら、どうということはない。

「じゃあ準備するから、少々お待ちになって」

ルイズはにっこり笑うと、ノートを一枚破って、ペンでなにやらサラサラと模様を書いていく。
その中心に受け取った金貨を一枚置き、ポケットからなにやら袋を取り出した。

「ひっ!!」
「な、なにそれ!?」
「ネズミの頭蓋骨よ……大丈夫、きれいに洗って消毒してあるから」

頭蓋骨を無造作に紙の上にころがし、ルイズは緑色の宝石のついた杖を振る。
綺麗な緑色の光があたりを照らし、見物人からおおお!と声があがる。
ボッと炎が舞い、紙の盤に火の粉が舞い降りて、しるしをつけていく。

「ど、どどどうだい?」
「うーん……あなた近いうちにちょっとした事件に巻き込まれるわ、原因は……『嫉妬』ね」
「ええっ!?」
「生命の危険はないみたいだけど、せいぜい日ごろの行いに気をつけなさい」
「そ、そうかい、注意しておこう……」
「それ以外の運気は上々よ、数日中に大もうけをするチャンスがいくつかあるから、逃さないように、以上」
「何だって!? それはすごいな。……わかったよルイズ、ありがとう」

ギーシュはその詳細な占いの結果に神妙な顔をしてうなづく。もし当たれば占いどころか『予言』級である。
生徒たちが興味津々といった風に集まってきて、ルイズたちを見つめている。
ギーシュがルイズから離れ、モンモランシーに近づく。

「モンモランシー、君もどうだい? 金貨は僕が出すよ」

やがて、意を決したモンモランシーがルイズの前に進み出てきた。

「わ、私もいいかしら? ミス・ヴァリエール」
「いいわよ、お金はちゃんと取るけど」

ルイズに金貨を支払い、モンモランシーもギーシュと同じ手順を踏んで占ってもらった。

「ふーん、あなた近いうちに人間関係で洒落にならない大失敗をやらかすわ」
「なんですって、大失敗ですって?」
「これを回避できるかは微妙ね、何事もあせらず慎重にやりなさい。必要なのは人を信じること」
「何よソレ! ちょっと! いい結果は出てないの?」
「残念ながら向こう一年ほど運気は下向きよ、でも努力次第で他人との絆をより強固なものにできるわ」
「そ、そうかしら?」
「ええ、それこそ一生ものの絆よ……えっと、今はこれ以上見えないわね、頑張って。以上」
「あ、ありがとう!」

モンモランシーは焦りの表情をしているが、ルイズの占った内容に多少思いあたるところがあるようで、
なんども自分の感情を確認するように、うんうんと頷きながら何かを考えている。

ルイズのよどみない口調、占いの結果の詳細さと雰囲気のエキゾチックさに好奇心を刺激されたせいか、
キュルケ、その他何人もの女生徒が自分も占ってもらおうと、進み出てきた。

「へぇ、ルイズすごいじゃない! あたしも占ってくれる?」
「わ、わわ、私もお願い!」
「私にもやって!」

ルイズはキュルケを含む4人ほどを占った。懐には60エキュー、上々の収穫である。
一回10エキューという金額があまりに高すぎるせいか、多くの生徒は遠巻きに見ているだけだったが。
ちなみに『近いうちに人生最大の恋愛をする』と告げられたキュルケは、目を白黒とさせていた。

「そろそろ授業の終わる時間ね、今日はあと一人で終わりにするわ」

5~6人の生徒が私が私が、と名乗り出るが、一歩進み出た青い髪の少女―――雪風のタバサ―――に、
キュルケどころかそこにいる全員が、大いにショックを受けた。

「……お願い」
「えっ、タバサ!?」
「お金、払う」
「いいわよ、占ってあげる。じゃあ今日はタバサが最後のお客さんね」

ギャラリーは騒然となる。あの比類なき読書主義者、雪風のタバサがこんなことに興味をもつとは。
ざわ……ざわ……これは面白い。どのような結果が出るのだろうか? 皆は固唾を呑んで二人に注目した。
ルイズは杖を振り、火の粉を模様のかかれた紙の上に降らせた。

「……大きな運命の転機が……三つ、いえ四つ五つ六つ……どんな人生よ! ……なによこれ?」

文字盤を見つめるルイズの表情が、みるみるうちに驚愕に染まってゆく。

「どういうこと?」
「……な、なな何かの間違いかしらこれは……いえ、でも……あれ? これ言っていいのかな……」
「なに? 言って」
「あなた、近いうちに恋をするですって!!」

ルイズのその一言に、ギャラリーの空気が、一気に沸点を突破した。

「な、な何ですって!?」
「まさか! 嘘でしょう!?」
「ああああ相手はどんな人なの!?」
「信じられない! 信じられないわ!!」

そう、信じられない。だが『占いで出た結果』というのは女子の興味を大きく刺激し、話題を提供するものだ。
蜂の巣をつついたような大騒ぎのなか、冷静なのはタバサだけだった。

「……嘘」
「嘘じゃないわ、あなたの恋愛の機運が、一時期とても高まるの」
「わたしが、恋?」
「間違いないわ、恋愛の気の大波はすぐ収まるけど、その後も確実に、ずっと細々と続いていく……」
「……そう、わたしが、恋」
「ええ……私も信じられないけど……」

全く予想外の結果を出した占いに、呆けた表情のルイズ。タバサが続きを促す。

「他は?」
「え? あらそうね、ふむふむ……」

と、文字盤を見るルイズの表情が一気にこわばる。

「……え、えーと」
「教えてほしい」
「……ごめん、たぶんこれ、ここでは言えない」
「そう、それなら後で」
「ええ、後で教える……約束するわ! じゃ、これでおしまい! もうしないわよ!」

タバサの運命に、ルイズは何を見たのだろうか。タバサに謝るルイズは、震える手を周囲にばれないようにする。

パチパチパチ、ギャラリーから拍手があがった。
最後ので少し興がそがれたようで大人しくなったが、それでも皆充分に満足したようだった。
なにより大きなミステリーを残した、皆は新しい話題の出現に夢中である。

「続きが気になるなあ……あの雪風のタバサが」
「もしかして王子様の出現かしら? どんな人か見てみたいわ」
「タバサ、いい人が出来たら私にも紹介してね」

終業のベルが鳴り、ギャラリーが解散する。うち何人か、去り際にタバサに声をかけていく生徒もいた。
自分の行動の引き起こした状況に内心ですこし慌てつつも、こっくりと頷くタバサ。その顔はいつもの無表情で、何を考えているかは解らない。
道具を片付けるルイズに「私も私も、私も占って!」と食いさがる生徒もいるが、ルイズは頑として取り合わなかった。

「今日は特別よ、もうしないわ」
「ええ! そんなあ、15エキュー、いえ20エキュー払うから!」
「ごめんなさいね」
「残念だわ……」

ルイズの内心はお小遣いを稼いだ満足感と、多少の後悔。
他人の運命の流れを見てしまうことが、これほど重大なことだとは思わなかった。
やはり安易に見せるものでもない。ルイズはこの自戒を、しっかりと自分の心に刻み付けた。

「これから私は『屋敷』に戻るけど、あなたたちも来る? キュルケ、タバサ」
「あらいいの? お邪魔させてもらうわ」
「……行く」
「ルイズ、僕も行っていいかい? 今日もまた荷物が届いたんだ」
「それは楽しみね、いつでもいらして」

いつの間にかルイズとかなり親しくなっているギーシュを見て、モンモランシーがギリギリと歯がみする。
今日の授業はこれで終わり、これから少し時間を置いて夕食、風呂だ。
教室から出たルイズのもとに、学院長付きの秘書ロングビルがやってきて声をかけた。

「――少しよろしいですか? ミス・ヴァリエール」
「はい、ミス・ロングビル、どうされました?」
「実は――」

ロングビルが言うには、『せめて夕食は食堂で取るように』とのこと。
ルイズは苦笑した。そういえば最近はもっぱら食事はシエスタに運ばせ、屋敷でコルベールたちと取っている。
他の生徒たちがルイズを怖がっていることに遠慮して、という思惑もルイズにはあるのだが。

学院はメイジの育成と同時に貴族の精神を育てる施設である、というのは皆の共通の認識だ。
アルヴィーズの食堂での食事も、貴族としてのたしなみを身につけるための重要なファクターである。
それをさぼりつづけているルイズたちに、いい顔をしない人もいるにはいるかもしれない。

「解りました、そのように致しますわ」
「ええ、あなたたちもですよ、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ」
「はいミス・ロングビル」
「……」

―――とはいえ。

ルイズは歩きながら考える。これは学院長の差し金だろうか?
使い魔のモートソグニルを使って『屋敷』を調べに来る目的はおそらく『ルイズたちが何をやっているのか』であって、
『屋敷に何があるか』ではない。授業などでルイズが外出するとネズミが調べにこないことは、タマちゃんで確認済みである。

まさか、単なる素行不良を注意することが目的ではあるまい……
調べたいなら正面きってルイズに頼むか、それができないなら授業中に忍び込むかして、いくらでも調べればいいのに。
そもそも屋敷には教師であるコルベールも入り浸っているのだ、本当に問題なのであれば、誰より先に彼から話が来るであろう。
言い知れぬ不自然さを感じる。

(ちなみに学院長秘蔵『遠見の鏡』の存在はコルベールが教えてくれて、ルイズが対策をとっていた。
ミョズニトニルンの能力で知った『遠見の鏡』の制約、すなわち製作者が自分の住居を覗き見られることを嫌ってつけた機能、
『特定の印に反応してその部屋の覗き見がNGになる』というものを利用したのだ)

大事なもの、見られちゃまずいものは『ルイズの宝箱』に仕舞ってあるし、問題はない。
あの宝箱は屋敷から持ち出せないし、ディテクトマジックでも覗き見ることができない。
『司教の遺体』はすでに充分にオスマンが検分したはずだし……

「どうしたの? ルイズ」
「うーん、今の話で、ちょっとひっかかることがあるのよ……」

『幽霊屋敷』に戻ってきてから、ルイズは自分の考えを述べた。
キュルケとルイズが首をひねる。ややあってタバサが口をひらいた。

「第三者」
「え?」
「オスマンではない、おそらく別の人物が、あなたの所有するマジック・アイテムを狙っている」

二人はタバサの言葉に目を丸くした。

「あなたの宝箱と使い魔の詳細を知らない、授業の時間は仕事のある者……十中八九、ミス・ロングビル」
「タバサ! あなた、まさかミス・ロングビルが盗賊だっていうの?」
「わからない、でも怪しい……最近『土くれのフーケ』という盗賊の噂をきく」
「そういえばミス・ロングビルも土のメイジだったわよね」
「実力を偽っている可能性がある」
「…そうね、ありがとうタバサ、考えすぎだとしても用心するにこしたことはないわ」

ルイズはしばし考えたあと、最高のイタズラを思いついた子供の顔になって、二人に耳打ちした。
―――『土くれホイホイ』のワナをしかけておきましょう、と。

「あなた最高よルイズ! 面白いわ! もし『土くれのフーケ』を捕えたら勲章ものよ、あたしたち!」
「最善手」
「そうと決まれば早速実行よ!」

『神の頭脳』を筆頭とする悪ガキ三人組は、嬉々としてその悪巧みを実行に移した。



////5-2:【学院長秘書の憂鬱】

盗賊『土くれのフーケ』……ミス・ロングビルは舌打ちをした。
彼女は学院秘蔵の『氷の杖』を盗む計画をたて、学院に秘書としてもぐりこんでいるのだ。

少女ルイズが不思議なマジックアイテムを纏う死体を召喚したと聞いて、盗めば金になるかも…と思ったが、たかがガキと舐めてかかったせいで、下手を打って妙に警戒されてしまったようだ。
こちらを疑ってかかり、何かワナをしかけたようだが、何度も修羅場をくぐったプロの目はごまかせない。

ヘタなリスクは負うべきでない。ならばもともとの狙い、宝物庫の『氷の杖』一本に絞ってあっちはあきらめるべきだ。
壁の強力な『固定化』が厄介だが、それを破る算段もついている。昨日コルベールが作って実験しているのを見たアレを使えば……
『幽霊屋敷』からソレを盗むのは無理そうだが、コルベールの研究室からソレを盗むのはたやすいだろう。

もうすぐフリッグの舞踏会、仕掛けるならその前日あたりにしようか……
前々日は手ごわいギトーがクソ真面目に当直をやっているので、見つかれば逃げおおせるのは無理だろうし……
決行当日の宿直はサボりぎみシュヴルーズ、同じ土のメイジ。属性とランクが同じなら、踏んだ場数でこちらが勝る。

何度も実地検分とシミュレーションを重ね、盗賊は着々と計画を進行させていた。



////5-3:【夜に来る女】

食事と風呂を終え、タバサは自室に戻ってきた。二つの月の明かりが窓から差し込む。
水差しに冷却の魔法をかけてから、杖をたてかけ、コップに注ぎ、それを手にベッドに座る。
風呂上りの火照った体に冷えた水が美味しい。飲み干し、一息つく。

そういえばロングビルのせいで、ルイズから『占いの結果』を教えてもらうのを忘れていた。
明日でもいいか、と気をとりなおす。夜の『幽霊屋敷』はタバサにとっては、果てしなく恐ろしい場所だ。

ぶるっと身震いする……さあ気を取り直して読書をしよう。お気に入りの本を選び出す。

コツ コツ コツ―――

読書の意気込みをくじいたのは、窓からの訪問者。

「―――っ!!」

ビクビクビクッ!!

タバサの背筋が凍る……が、それは幽霊ではなく……一羽のフクロウだった。
無表情ながら冷たい視線をフクロウに向けると、タバサはその足につけられた手紙を受け取った。

読んだ後、手紙をこの季節は使わない暖炉にくべ、杖を振って燃やす。ため息をひとつ、荷物を準備する。
ルイズに貰ったヒーリング・ポーションとマナ・ポーションを、いつでも使えるようにベルトに仕舞う。
今までは無かったが、今回はこれがある。必ずわたしの『任務』の役にたつ。とはいえいつものことだ、楽な任務ではあるまい。

ふたたび愛用の杖―自分の身長よりも長いそれ―を手にとると、口笛を吹いた。
その口笛に反応し、窓の外にタバサの使い魔のドラゴンがやってきた。

「きゅるきゅる、お姉さま、またイジワル姫からの呼び出しなのね!! 嫌になるのね!」
「仕方ない」
「シルフィはあのイジワル姫様が大嫌いなのね! お姉さまをいじめる奴は許さないのね!」

タバサの使い魔『シルフィード』は韻竜である。まだ竜としては幼いが、先住魔法を使いこなす。
韻竜は絶滅危惧種……というか絶滅したと思われている種族、ばれたら面倒なことになる。皆には――親友のキュルケにも――内緒だ。

「お姉さま、最近はルイズさまたちとばっかり遊んでいて、シルフィと遊んでくれないのね」
「……じゃあ、帰ったら遊ぶ」
「きゅいきゅい! 嬉しいのね! るーるるーるる~♪」

では出発しよう、と思ったとき、再びその意気込みはくじかれた。

コンコン

今度はドアに訪問者。タバサは眉をひそめ、ドアをあける。

「お邪魔するわ、タバサ」

そこに立っていたのは、白髪の少女……ゼロのルイズ。タバサは冷たい声をかける。

「何」
「占いの結果をあなたに言い忘れてたの、思い出したのよ……もしかして、出かけるところだった?」
「そう、早くして」
「ちょっと長くなるわ……でもすぐに伝えたいの。もしかしてお急ぎのご用事? 今時間とれる?」

タバサはやれやれ、と少しだけ肩をすくめる。

「無理、明日」
「あなた、明日には帰ってこれるつもり?」
「!!」
「言わせてもらうわ……これは、『帰ってこれなくなるかもしれない』、用事なんでしょう」
「……何が言いたい」

タバサの氷点下の目を、ルイズは底の見えない真っ暗な、何もかもを呑みこむような目でじっと見つめ返した。

「私も連れて行って」

この少女はいきなり何を言い出すのか。むろん、却下すべき提案だ。

「駄目」
「あなたが心配なの」
「心配ない」
「いいえタバサ、あなたを占ったとき『帰れなくなるかも』と『解った』のよ」

背筋に冷や汗が流れる。タバサはゼロのルイズが怖い。
ルイズに表情は無い、深く暗い瞳が、タバサを通りぬけてまるで背後の窓の向こうを見ているようだ。

「……占いは外れるもの」
「あれは厳密には占いじゃないのよ。……ああ何ていえばいいか」
「連れて行かない」

タバサはルイズに向けて杖を構える。
連れて行ったら危険に晒すかもしれない、戦い慣れしていないルイズは足手まといになるかもしれない。
『役にたつかもしれない』などとは考えてはいけない。なぜなら、命に責任が持てないから。

「だめよタバサ、私は退かないわ!」

呪文をとなえる。話し合いの余地など最初から無いのだ。

『エア・ハンマー』『魔獣の牙(Teeth)!!!』

ルイズが『イロのたいまつ』を振ると同時に床へと倒れこむ。空気の塊がルイズを襲う。
二条の細い光弾が飛び、一本がタバサの腕をつらぬき、一本が杖を弾き飛ばした。
伏せたルイズは風のスペルの直撃を受け、背後の壁まで床を滑り叩きつけられる……が、ルイズは杖を離さなかった。

「わ、私…の、勝ちよ、タバサ……お願い、連れて行って」

緑色に発光する杖を突きつけられ、タバサは体中から一気に力が抜けた。

―――信じられない!! トライアングルのわたしが、ゼロに負けた。
彼女の執念が勝った。
未知の魔法を使われたとはいえ、詠唱速度の差こそあれ、油断していたとはいえ、負けたことに変わりはない。

「判った」

コクリと頷いた。今はそれ以上、言葉はいらない。やはり最初から話し合いの余地などなかったのだ。

「ありがとう、タバサ」

タバサは目の前の少女、学院で二人目の友人、誇り高く、恐ろしく、どこか計り知れないところのある白髪のメイジ、
深遠の瞳のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに、じわりじわりと深く魅入られつつあった。


////5-4:【夜間飛行】

いちど『幽霊屋敷』に寄り、ポーションで傷を治してアイテムを補充、準備は万端。
二人を乗せたシルフィードは、一路南へ飛ぶ。目指すはガリア、リュティスはプチ・トロワ。

目的地までは遠い。タバサとルイズには珍しく、二人きりになる機会だ。いろいろな話をする。
ルイズはタバサに深い事情を尋ねようとしない。タバサはルイズの使った魔法について深くきかない。

「占いの結果、教えて」
「……重大な人生の転機がたくさん……平たく言えば『命の危機』がいくつもあるのよ」
「……そう」

予想していたことだ。

「びっくりしたわ、あなたの人生、相当な綱渡りよ! 大きな外的要因が加わらない限り、いつ死んでもおかしくない」
「『外的要因』……それが、あなた?」
「そうよ、私が自分の運命を見たときは変数だらけで、何か行動を起こせばたいてい毎回結果が変わっちゃうんだけれど」
「あなたも綱渡り?」
「似たようなものね、でもあなたと私が関わることは、互いにとって悪くないはずよ」
「そう」
「打算じゃなくて、なんとなく、なんだけどね……あなたのことが心配だっていうのは本当だし」
「……なんとなく」

―――これが、友達……。
淡々とした口調ながら普段以上に饒舌なタバサと、相手がタバサであるせいか頬をそめながらも素直な言葉の出るルイズ。
互いに慣れないことをしている高揚感からか、これまでなかったほどに会話は続く。

「……あなたは……恋、したことある?」
「うーん……昔は憧れていた人がいるけど……許婚の、ワルド子爵っていう方よ、今は魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長をやってるわ」
「それは恋?」
「……よく考えたら、違うわね……許婚とは言っても、親同士のお酒の席で出た話よ、
恥ずかしさと、魔法を使えないのに優しくしてもらえる嬉しさで、私は舞い上がっていただけだったわ……」
「わたしはわからない」
「したことないの? ……へえ、そんなタバサが恋する相手って、一体どんな人かしら…まさか、ギトー先生とか?」
「ない、彼は妻子持ち」
「そっか、なら駄目ね、あなたはキュルケじゃないんだし……ところで、どんな人が好みなの?」
「……笑わないで」
「笑わないわよ」
「イーヴァルディの勇者」
「……………………で、伝説級ね……」

恋の話、話題は尽きない。

「いつも読んでる本、なに?」
「……ラズマの秘伝書よ、はるか東方の魔術氏族(メイジクラン)の宇宙観、あとは歴史とか伝説とかね」
「面白そうに読んでいる」
「何? タバサも興味を持ったの?」
「わたしは本が好き、読み終わったら貸して」
「……残念だけど、ラズマの古代語で書かれてるから、私以外には読めないと思うわ」
「教えて欲しい」
「それが、特殊な暗号文字なのよ、言葉だけ覚えてもきっと読めないわね」
「残念」
「じゃあ、いつか読み聞かせてあげる」
「お願い…約束」
「ええ、約束するわ」

趣味の話、一緒に生きて帰る約束。
タバサがキュルケと初めて会ったときの話、
ルイズが幼いころアンリエッタ姫と遊んだ話、
シエスタの話、ギーシュの話、モンモランシーの話、コルベールの話、ギトーの話。
話題は尽きない。

「きゅいきゅい」

大好きなお喋りに混ざれず、シルフィードが退屈そうに鳴いた。



////5-5:【森への偽造パスポート】

トリステインの少女、ルイズ・フランソワーズは密入国者である。
寄るところがあるから待っていて、とタバサに言われ、ルイズはひとりガリアの道沿い、森の中に放置されてしまった。

「さ、さすがに夜になると冷えるわね……」

ルイズは焚き木になりそうな枝を集めると『イロのたいまつ』を振って火を起こそうとする。

「むっ、えい、やっ! とう!」

焚き木が湿っているせいか、なかなか火がつかない。20回ほど試したところで、とうとうルイズはブチぎれた。

「くきぃーっ!! こん畜生!!! 『発火(ウル・カーノ)』!!」

ドカーン!!! 失敗魔法である。
立ち木が数本根元から吹き飛び、鳥が驚いて飛び出し、動物達が怯えの声をあげて逃げていった。

「あーあ、何やってるんだろう私……」

あまりの情けなさにがっくりと肩を落とし、ボロボロのルイズはへたりと座り込んだ。
服に土がつくのもかまわず、湿った地面にあお向けに寝転がる。夜空には雲がかかりつつある。
だんだん心細くなってきた。まさか私はタバサに置いてきぼりを食らったのでは? などと考え、かぶりを振る。
しだいに空の半分くらいを覆ってゆく部厚い雲。これは一雨来るかもしれない。

『ここで何をしている、少女よ』

突然かけられた深くくぐもった声に、ルイズは飛び起きた。全身の毛が逆立った。
視界に飛び込んできたのは、巨大な漆黒の甲冑だった。ルイズの身長よりもずっと大きい剣を背負っている。

『ガリアの民には見えぬな……少女よ、ここで何をしている?』

ルイズの目にうつるのは、禍々しい四本角のフルフェイスの兜。
騎士の表情は見えない。

―――強い、きっとこの人滅茶苦茶強い。人間の領分から抜け出した何者か。

変な動きを見せれば、たぶん一瞬で私は頭から真っ二つにされるのだろう。
まだ司教さまの遺体をかえしていないし、ろくに人生を楽しんでもいないうちから『ゼロのひらき』にはなりたくない。

「……わ、悪いけど! な、なな、何やってんのか自分でもわかんないのよ!!」

何か言わなければ、とテンパった頭で反射的に出した言葉は、そんな奇天烈なものだった。
―――それが、わたしを救ったのでしょうね、とのちにルイズは思い返す。

『ほう、解らぬとな』
「そうよ! わ、わわわ笑えばいいわ! 友達には置いていかれちゃうし、魔法はいつも失敗するし!」
『ははは、これは愉快』
「ちょ、ちょっと!! 何よ!本当に笑うことないじゃない!!!」

ハハハと笑った後、黒の騎士は甲冑を軋ませ、ルイズに頭を下げて謝罪した。立派な騎士の礼である。

『これは失敬、子女を笑うとは、騎士にあるまじき行為をしてしまったようだ。謝罪しよう。
ただ、我はそなたが魔法を得意とせぬことを笑ったのではない、誤解のなきよう。
笑ったのは、我の知り合いにそなたと似た強がりをする少女がおるゆえ……気分を害したことを許されよ、少女よ』
「ど、どうしてもって言うなら許してあげないでもないけど!」

ルイズは自分が密入国者であることも忘れ、恐ろしい騎士に対してビシッと人差し指をつきつけた。
もはやどう動いてもこれ以上状況は悪くなりはしない、ならば自分らしく行動するのだ。

「……初対面のレディに名乗らないのは失礼でなくて!?」
『では名乗ろう……我はラックダナン(Lachdanan)、ガリアの騎士』

ルイズは黒い騎士をじっと見据える。
はて、ラックダナン……? どこかで聞いた名前のような気もする。私はこの人を知っている?
ポツ……ポツ…と、降り出した雨がルイズの白い髪、その頬やマントを濡らしていった。

「サー・ラックダナンね、私はルイズ・フランソワーズよ……あなた、私をどうするつもり?」
『ふむ……待て、雨が降ってきたようだ』
「ど、どうしよう……私、雨具の用意を忘れてきたの」
『そなたの友人は戻って来るか?』
「多分ね……どこかで雨宿りしなきゃ……見つけてくれるかしら」
『ならば少女よ、そなたの友人が到着するまで、しばしここで雨宿りをしていくがよい』

ラックダナンと名乗る騎士は、背負っていた大きな盾をルイズの頭上に掲げ、強くなる雨から守るように立った。
どうやら盾から風の力が発生しているようで、雨粒は盾に守られたルイズを自然と避けるように落ちていく。

「あ、ありがとう! ……あなたは寒くないの?」
『かまわぬ、先ほどの無礼の謝罪と捉えよ……我が身は少々特殊な故、この程度どうということもない』

―――か、かっこいい! 騎士だわ!
ルイズは顔全体を真っ赤に染め、寒さも忘れ、頭から蒸気が出んばかりである。
強くなる雨粒が盾とラックダナンの甲冑を叩き、響く音をしだいに激しくさせていった。

そこで、ルイズはあることに気づく。おかしい。
そもそも騎士、というかメイジは魔法詠唱のため身軽でなければならないし、こんな甲冑も盾も剣も使うはずがない。
ひと目みてバケモノみたく強いのはすぐわかるけど、ここハルケギニアでは彼の姿はあまりに異質だ。

そしてこの音、雨に打たれる甲冑の、あまりに空虚に響く音。

―――この人、いえ……この甲冑……

中身が無い、からっぽだ!!

ルイズは手を伸ばし、頭上の盾に触れた。瞬間、伝わってくる情報は以下のとおり。

- - -
ストームシールド(Stormshield)
ユニークアイテム:モナーク
必要レベル73 必要筋力156
防御力: 519
ブロック成功率: 77%,
装備者のレベルに比例して+(3.75/Lv.) 防御力上昇
+25% ブロック成功率上昇
35% ブロックスピード上昇
ダメージ低減:35%
冷気耐性 +60%
稲妻耐性 +25%
+30 、筋力上昇
攻撃者に与える稲妻ダメージ: 10
破壊不能
- - -

間違いない、これはサンクチュアリの防具であった。反則級の強力な盾だが、ひとまずそれは思考の外に置く。

「ラックダナン、聞かせて、あなた何者なの?」
『我は許されざる罪を侵し、永劫の地獄を彷徨う呪われし亡霊……今はガリア王女の剣なり』

ルイズの額、《ミョズニトニルン》のルーンがちりちりと反応を起こしている。
記憶の高速検索が行われているのだ。
以前、<存在の偉大なる円環>に触れたとき、中で冒険者の目を通じて、トリストラムの地下迷宮を彷徨うラックダナンらしき人物を見たことがあったような気がする。

「あなたは……英雄の中の英雄、カンデュラスの誇り高きロイヤルガード……」

彼はカンデュラスの住民を救うため、魔の狂気に染まった自らの主君を殺すという罪を犯し、ディアブロの呪いに囚われて地獄に堕ちたのであった。
もはやほとんど覚えていない『存在の円環』の記憶のなかから、ルイズはかすれた記憶のかけらを、必死に掘り起こそうとする。

『いかにも、我を知る少女よ』
「ああ、ラックダナン卿!! まさか私が、あなたに会えるなんて! でもどうしてあなたがここ、ガリアに……いえ、ハルケギニアにいるの?」
『我は地下の迷宮を彷徨っているとき、召喚の儀によりこの地へと呼ばれた……
そのとき、我はかつてさいなまれし『狂気』の呪いより解き放たれたのだ……故に新たな主に忠義を尽くしている』

ルイズは気になっていたことを訊ねる。

「私は大天使ティラエルさまからの預かりものを、どうしてもサンクチュアリへと送り返さないといけないの。
……ラックダナン、もしあなたがサンクチュアリに繋がる道を知っていたら、教えて欲しいわ」

黒い騎士は少し考え込んでから、ルイズに答えを返した。

『残念だがルイズ・フランソワーズよ、我は知らぬ……それに、かつての故郷へと戻ろうとはもはや思わぬ』
「そうなの……」
『ひとつ未練が在るとすれば、我を永劫の呪いより解き放つであろう、『黄金の霊薬』……
かつての故郷にあったそれが、ハルケギニアには見つかる見込みもないこと、それだけだ』
「!!」

息を呑む。
ルイズには心当たりがある……『幽霊屋敷』に戻れば、目の前の騎士の生涯の探し物、当のそれが、
『ゴールデン・エリクサー』が宝箱の中に入っている!!

……でも今の手持ちは一つしかないし、それは貴重な預かり物だから、いつかは返さなければならないものだ。
ちいねえさまに使うには、この騎士に渡すには、複製しなければならない。

精製するためには高価で手に入りにくい材料を使わなければならないし、きっと一人分の精製につき一ヶ月以上はかかる。
まずは誰よりも、重い病気で苦しんでいるカトレア姉さまを優先して、精製したい。
それに、誰もが喉から手が出るほど欲しがるであろう強力な効果のため、みだりに情報を広めるのも良くない。

どうしよう、この誇り高き騎士にそれを伝えようか。……だが今の彼はガリアの騎士らしい。
今はどういった気まぐれか、密入国さえも見て見ぬ振りをしてくれているようだが、ひょっとするとこの騎士はいずれ恐るべき敵として、ルイズの前に立ちはだかるかもしれない。
私が殺されていないのは、いまのところ無力な少女だからだ。

―――実際のところ、このときのルイズは運が良かった。ガリアの暗部と友好的な接触を図れたことは、まさに僥倖であった。
正しくもルイズの予感のとおり、彼はのちにハルケギニアに血と肉と恐怖を撒き散らす呪われしガンダールヴとして歴史に残ることになる。

『……とはいえ決して滅ぶことのない我が身、我が主の生ある限り忠義を尽くせると思えば、僥倖とも言える』

この騎士の手本のような男がそんな運命をたどることを、今もルイズはうすぼんやりと、なんとなく気づいている。それはとてもとても悲しいことだ。
むなしい雨を弾く音が、黒き甲冑にうつろに響き、ルイズは思わず叫んだ。

「ラックダナン!! 私、持ってるの! あなたの求めるものを持ってるわ!」
『…………何と!?』

ルイズはラックダナンに事情を説明する。
胸に抱く貴族の誇りが、『この騎士に隠し事はしたくない』と叫んだのだ。
持ってはいるが手放すことはできない、精製しても最初に姉のために使いたい、と丁寧に説明する。
黙ってルイズの事情を聞きおえた騎士は、静かに言葉をつむいだ。

『異郷の地でそなたに会えたことを、神と大天使ティラエル、この地の始祖に感謝しよう、ルイズ・フランソワーズよ』
「ごめんなさい、すぐに渡すことができなくて」

おそらくここハルケギニアで、彼を殺戮の運命から救うことが出来る手段は、ルイズのもつ霊薬だけだろう。

『謝るには及ばぬ……いつまでも待とう……我が存在するに飽く時まで』
「ええ、名と杖と誇りにかけて、あなたのために霊薬を作るわ。
私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステインの貴族よ」
『了解した、急ぐことはない……我が宿命に飽くのは、当分先のことであろう』

いつの間にか雨が上がっていた。雲が晴れ、二つの月が輝き、星空が広がってゆく。

「……ラックダナン、私のラズマの秘術と霊薬のことは、どうかあなたの胸にしまっておいて欲しいの」
『名と剣と誇りにかけて、口外せぬと誓おう。今日と言う日を、我は生涯忘れぬ。
……なにか礼をせねばなるまい、サンクチュアリへの道についても、もし知ることがあれば、そなたに伝えよう』
「ありがとうございます、あなたに会えたことを光栄に思いますわ、誇り高きロイヤルガード、ラックダナン卿」

上空にシルフィードの姿が見えた。こちらへ向かって飛んでくる。かなり急いでいるようだ。

『どうやら、そなたの友人が戻って来たようだ』

ルイズの手に小さな石がいくつか、そっと握らされる。

『それはせめてもの手土産、役にたつだろう、受け取りたまえ……では、我はこれにて……また会おう、少女よ』

ルイズは頬を染めて、立ち去る黒い騎士の後姿を見守った。入れ違いに舞い降りる、青い風竜。

「ごめんなさい、雨のなかに置き去りにしてしまった」

タバサがシルフィードから降りてきて、ルイズに謝罪した。きゅいきゅい、と竜が鳴く。
一人旅に慣れていたタバサは、同行者への配慮に慣れていないのだ。

「いいのよいいのよ、とっても素敵な出会いがあったから……」
「今の、誰?」
「誇り高き騎士さまよ……幽霊だけど……ウフフフフ」
「!!」

幽霊と聞いたとたん、タバサが表情をこわばらせ、ブルブルと震える。
やっぱり連れて来なければよかった、などと後悔しても、もう遅い。

「ウフフフフありがとう騎士さま天使さま司教さまウフフフフ」

雪風のタバサは、己の友人、もはや完全にイッてしまった目で危なく笑う白髪の少女、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのことが、怖くて怖くて仕方なかった。


////【次回へ続く】


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ラックダナン(Lachdanan)
スーパーユニークキャラクター:ブラッドナイト

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