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No.1262の一覧
[0] グローブ[UN](2005/04/07 15:24)
[1] 第二話~弾丸と少女~[un](2005/04/09 18:33)
[2] 第三話~もう一人の転校生~[un](2005/04/11 07:31)
[3] 第四話~壊れた少女~[un](2005/04/16 00:02)
[4] 第五話~人形としてではなく人として~[un](2005/04/16 00:03)
[5] 第六話~捕獲作戦~[un](2005/04/16 00:03)
[6] 第七話~回想~[un](2005/04/16 00:04)
[7] 第八話~告白そして別れ~[un](2005/04/16 00:05)
[8] 第九話~ヒトではない者~[un](2005/04/16 00:06)
[9] 第十話~実地試験~[un](2005/04/16 00:07)
[10] 第十一話~招かれざれし客~[un](2005/04/16 00:12)
[11] 第十二話~仲間~[un](2005/04/16 00:14)
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[1262] グローブ
Name: UN 次を表示する
Date: 2005/04/07 15:24
第一話~転校生~
2025年夏。今年の夏は異様なほど暑かった。学校の授業などもまともに受ける気すら失せる。こういう日にはよく冷えたジュースが恋しくなるものだ。

「ふぅー・・・」
自販機の前で一人の生徒が120円の缶コーヒーを一気に飲み干す。今はまだ昼休みだが他の生徒たちとサッカーだのバスケだのする気にはなれないので仕方なく中庭の自販機で缶コーヒーを飲んでいた。中庭にあるベンチの近くでセミがうるさく鳴いていた。

そのとき彼の視界の隅から長身の男が近づいてきたのに何となく気がついた。

「おい、白石。暇なら手伝って欲しいんだがちょっといいか?」

男子生徒の目の前にはこの学校の体育担当の高山善一がダンボールの箱を二つ抱えて立っていたが、太陽の光と重なって表情を確認できなかった。
白石と呼ばれた夏服姿の生徒は立ち上がると高山の背を少し上回るほどの身長の持ち主だ。

「あんたはいいな。そうやって持ち物を運んで金をもらっているんだ、俺にとってはうらやましいよ。」

体育担当だとは言っても、体育は週2回、月曜と木曜、と他の学科との合同の体育が毎週金曜日にある程度だ。

それ以外の日は基本的に資材運搬と生活指導ぐらいだ。他の教官よりもずっと楽な仕事だ。 
白石は高山の運搬作業の姿を見ると自分の境遇と比べてしまう。

「まあそう言われると俺もそう思う。ガキの頃は遊ぶことが仕事だなんてよく言うよ…
もういちどガキみたいに遊んで一日を過ごしてみたいもんだ…、ところが最近の若者ときたら、ろくに学校に行かずに遊び呆けやがってよ、いつまでも子供みたいに遊んでんだから俺らよりさらに楽だぜ・・・おっとすまん愚痴ってしまったな・・・で手伝うのか?」

彼の肩の荷を見てみるとかなり大きなダンボール箱が2つ抱えられていた。中身は特に気にならないが重そうには見えなかった。
しかしこのまま高山に猛暑の中でこんな作業をする姿を見てほうっておくほど残酷ではない。

「ああ…別にいいよ暇だし」
「助かるぜ白石…そっちのやつ持ってくれ」
言われたダンボールケースはずいぶん重かった。

白石と高山は重いダンボールを第2教棟の3階の会議室まで持っていくため急な階段を歩いていた。高山のダンボールの方が軽そうに見えたが黙っていることにした。
二人は数分ほどかかってようやく会議室にたどり着いた。

「なぁ、おまえは何か自分から話題を出そうとは思わないのか?俺は静かなのは仕事の次に嫌いなんだ。少しはフレンドリーに接したらどうだ?」

高山が会議室の長机にダンボールを置いて聞いた。

「別に、好きで黙っている訳じゃない。聞かれたことにはちゃんと答えるし困ったことは今までなかったしこれからも困らない」

白石は高山の向かいの長机にダンボールを置いて答えを返した。白石の顔立ちは年齢にあったすっきりした顔つきと、ブルーの瞳が印象的な青年であった。

「あのな白石、別に人間一人ってんじゃあないんだぞ。たまには自分の弱み見せたっていいんじゃないのか」
「自分の弱みなんか見せて何になるんだ?誰かに相談でもしろって?冗談じゃない・・・あんたもしってるだろ?あの日の事・・・」
「・・・・・・・・・・」

高山は嫌な思い出を振り返るように顔をうつむかせた。

会議室内に張り詰めた沈黙が流れた。

「とにかく俺は他人に頼るのは好きじゃない・・・頼られるのはまだマシだし、助けてやろうって気も出る。けどな、俺の事で周りがとやかく言う義理は無いんじゃないか?」

「・・・・・・・・・」
高山はひたすら沈黙をしていた。
そして静かに口を開いた。

「・・・・・お前・・・・ずいぶん変わっちまったな・・・あの日から」
「俺は帰る…じゃあな」

白石はさっさと会議室を出た。
今までにも高山に同じように聞かれたことがあったがいずれもさっきのように他人とのかかわりを否定する事しか出来ない自分に気がつくだけだ。

なぜか「ふぅー」と深いため息が出た。心が疲れていた。
友八も高山と同じ、あの日のことを思い出していた。

(べつに他人と話すことって嫌いな訳じゃないんだけどな…)

さっき通ってきた階段を一段一段踏みしめながら降りていった。


高山はまだ会議室にいた。
今日は火曜日なので体育の授業は無い。高山は会議室にあるいすに座りタバコを咥え火をつけていた。

学校内は本当は禁煙なのだが隠れて吸う教官や生徒が少数だがいる。
生活指導の先生はこういう時のためにいるはずなのだが、なんと高山には喫煙の跡も臭いも残さない秘策があった。本人の自慢の要素の一つらしい。

しばらくそうして窓の外を眺めていたが、退屈や静けさというものが嫌いな高山にとってこの状況は耐えられないものだった。

すぐさま立ち上がり長机に置いてあるダンボールの中身を確認することにした。実はこのダンボールは学校宛ではない。かといって高山のものでもない。ダンボールに伝票が貼り付けてあり、そこには名前が書かれていた。

「朝倉・・・」

友八が運んでいたもうひとつのダンボールの伝票も確認してみるとやはりこちらも名前が書かれていた。

「四条・・・?この二人ってどっかで聞いた名前だな・・・」
高山はふと今朝の職員会議でメモをしておいた紙をとりだした。

「ああ、そうだったのか。」

メモに書いてある名前と、伝票の名前が見事に一致した。
実はこのダンボールはある生徒の私物なのだ。
生徒の私物を盗み見るような趣味は無いのでダンボールの中を見るのをやめ会議室を出ることにした。


5限目のチャイムが校内に聞こえた。友八の次の授業は護身術応用だが正直友八はこの授業が好きではない。護身術の心得があるわけではないが、並の大人相手では負ける気はしない。
「起立、礼、着席」週番の女子が挨拶をした。

「それでは、テキスト32ページを開いて…」

妙に体格のいい50すぎの男性教官の指示とともに授業が始まる。
50分近くこの机と椅子に密着していなければならない。実際護身術の実習をするのは週に1、2度で、体育の授業と合わせて行われる。
それ以外は座学…地獄だ。

この学校は他の学校にはない珍しい学科を取り入れている。それは主に戦闘技術についてだ。
何のためにこの学科があるのかは謎だがいずれ必要になるのだろう。

「このように不審者に背後に回られたときにはすぐに振り向かずに状況を迅速に判断すること、あわてて騒ぐと不審者を逆上させてしまう可能性があるからして…」
 
この戦闘学の授業のほとんどの生徒は話を聞いてはいない。だから内容の半分も入っていない。ところがいさ実習となると男子は女子にいいところを見せようとして張り切りすぎ墓穴を掘ってしまうという面白い一面も見ることができる。それ以外は、はっきり言っておもしろくない。

ところが白石 友八だけはとても秀才であり女子からの視線もそこいらの男子よりは多い。
そんな友八も高校2年生。6日後に迫った実地試験にも徐々に近いてきた。

(あっ、また先生の話を聞いてなかった。仕方ない…後で図書館でも寄っていこう)
授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

時計が5時を回っていた頃、友八は帰り道の図書館の学習室に座って今日の五限目の授業の復習をしていた。方法は主に暗記だ。

(…ていうか先生の言ってた内容と全然違うような気がするけど…まあいいか)

数十分ほどそうして暗記を続けていたがすぐに飽きてしまったので、五百ページほどある戦術学の参考書を閉じ元の棚に戻した。本棚のわずかな隙間から見覚えのある女子の姿が見えた気がした。

腕時計を見ると6時15分ほどだった。閉館時間まで後15分。友八は足早に図書室を出ようとした。

「ねぇ、もしかして友八くん?」

図書館のドアを出て歩き始めたところで突然後ろから声をかけられた。ふりかえると女の子が一人立っていた。友八はさっき本棚の隙間から見えていたのはこの子だとすぐ悟った。
確か戦術サポート科に所属している立川 奈津。小中学校とも同じ幼なじみだ。

「・・・・・」
何も言うことは無いのでとりあえず黙っておいた。

「友八くん…どうかしたの?っていうより友八くんがここに来ることって珍しいよね?」
「俺…急いでるんだけど…」
「そうなんだ……」

急に黙り込まれた。こんな沈黙は苦手だ。何か話題を出して欲しい。自分からは何も出せない。よって結果的にこの張りつめた沈黙。

「そっ、そうだ。ねぇ友八くんって今度、実地試験だよね?あたしもサポートの試験があるんだ。友八くん射撃うまいってほんと?友八くんは自信ある?」

(そんなに一気に聞くなよ…だいたいやる前からわかる分けないだろ)
内心で文句をつけた。

「射撃訓練はまじめに受けてるし、試験に関しては別にどうとも思っていないけどな…それに、試験だって実際やってみないとわからないし…」

「そ、そうよね…ごめんね変なこと聞いちゃって」

外が薄暗かったのでよくわからなかったが何となく顔を紅潮させているように見えた。 また二人を息が詰まりそうな沈黙が襲った。

「とりあえず、俺帰る…じゃ」
「う、うん。じゃあね、また明日」
 
奈津と図書館で別れ、家までの帰り道をいつもよりゆっくりしたペースで友八は歩いて帰った。
奈津とは子供の頃からよく遊んでいた。小中学校とも同じだったが、なぜか同じクラスには一度もなった事すらない。しかし二人は小さい頃はとても仲が良かった。しかし、高校に入ってからはなぜか奈津はいつもそわそわしているように見える。特に友八は気にかけていないが、奈津の方は友八に特別な感情を抱いているのだ。しかし友八はそう言う事には鈍感なので気が付く事は出来なかった。

その日の帰り道は少し寂しかったがその代わり車の音やライトの光
町を照らすネオンが友八のネガティブな部分を色鮮やかに飾った。

帰る途中にあるコンビニに寄って弁当を買いに行くことにした。ついでにこの店にあるクーラーで涼んでいこうと考えた。

「いらっしゃいませ」と女性店員の元気な挨拶が耳に届いた。
まず適当に手近にある雑誌に目を通し、2,3分してから弁当を買うことにした。
それとジュースの棚から緑茶を手に取った。それらをレジに持っていき会計をすませた。

「ありがとうございました」

自動ドアをくぐるとまた夏の夜特有の生暖かい外気が流れ込んできた。できればコンビニのクーラーの元でずっと過ごしていたいぐらいだった。
今年の夏は例年よりも暑い。もちろん夜だってその暑さは健在だ。
少し歩くだけでうっすら汗をかく。制服のシャツが肌に張り付いて不快感を感じさせた。

(帰ったらすぐにシャワーでも浴びるか・・・)

にぎやかな街中を通りすぎ、人気のあまりない住宅街をとぼとぼ歩いていた。すれ違うのは夕方の犬の散歩をするおばさんや、帰りがけの学生ぐらいだった。

友八の自宅もそろそろ近づいてきた。自宅近くの宮内公園を横切り警察署前にさしかかった。そのまま直進して四つ角を右折し少し奥に行ったマンションが友八の住まいだ。
階段を上り自宅の鍵を取り出し、鍵を開けた。一応郵便受けを確認してみたが特に何もなかった。

まず自分の部屋に向かいベッドに鞄を放り投げ、リビングのソファに腰を下ろしテレビをつけた。
ちなみにこのテレビは2003年か2004年ぐらいに地上デジタル放送とかなんとかで買いかえたテレビだ。値段は結構なものだったが、それなりに機能は果たしてくれている。今の時代には少し型が古いが。テレビの画面にニュースキャスターの男女二人組が神妙な面もちでスタジオにスタンバイしていた。


「こんばんは。7月3日の夕方のニュースをお伝えします。今日午後6時35分頃、新東京市品川区路上で謎の爆発事故が起こりました。付近に居合わせた住民数十名が死傷し、建物は損壊し品川区方面では交通規制が敷かれました。警察の調べによりますと、爆発の原因はわかっていませんが路上でけんかをしている男女の付近で爆発が起こったとの目撃情報があります。この事故により14人が死亡20人あまりが重軽傷を負い付近の住民はパニックに陥りました。なお、路上でけんかをしていた男女については依然わかっておりません。新たな情報が入り次第お伝えします。えー、次のニュースです…世界8カ国首脳会談でパラン氏が……」

(爆発事故…最近物騒だからな…)

とりあえず買った弁当を乱雑に開け、中にあったエビフライを口に運んだ。
友八は今このマンションに一人きりで生活をしている。友八の高校はアルバイトは厳禁なので収入源はない。しかし、父親から定期的に送られてくる仕送りで何とかなっている。
ここ数年は音信不通だが特にどうしているかは気にはならなかった。
手短かに夕食をすませ、風呂に入り、数時間実地試験のための勉強をし、その日はさっさとベッドに入った。

暑さのせいで寝付くのに時間がかかったが徐々に眠気が襲ってきた。

その日の夜、友八は不思議な夢を見た。友八は真っ暗な、というより色がまったく無い不思議な空間にいた。

目の前には女の子が立っていた。何かをつぶやいているようだが友八には聞き取れなかった。
口は動いているのだが声が耳に届いてこない。
しかし女の子の目はしっかりと友八を見ていた。

急に腕に痛みが走った。
自分の手が見る見る変貌していって自分の手ではなくなっていく。

「君は誰?」
女の子の口は動いてはいたがやはり声は友八の耳には届かなかった。
最後に女の子がすぅーを霧のように消えていった。

「ちょっと待ってくれ、君は誰なんだ?」

突然目が覚めた。
眠りについたのは10時ぐらいだったが時計を見ると午前3時だった。

(何だったんだ今の…)
額と首筋には冷や汗が流れていた。
同時刻。
熱帯夜の宮内公園はとても静かだった。外は暗く、夜の闇がさらに静けさを際だたせた。
その漆黒の闇の中ではどんなに目を凝らしてもこの公園内にいる存在を視覚でとらえることはできないだろう。

公園のブランコに座っている一人の少女がいた。
こんな時間に少女が一人で出歩くことはとても危険なのだが、その少女事態も不思議な雰囲気をかもし出していた。

少女の装いは、闇の中にぽつんと浮き出て見える白いブラウス、膝下ぐらいまでの黒いスカート、腰のあたりまで届きそうなほど長く蒼い髪、背はそれほど高くはない。
外見上何の違和感のない少女だった。

少女は何かに気がつきブランコを降りた。そのまま夜の闇に消えてなくなってしまったようにどこかへ行ってしまった。少女は一人つぶやく。

「彼がそうなのね…」
7月4日午前7時すぎ。起床した友八はいつものようにトーストで手早く朝食をすませて身支度を整えた。

今日はコンビニでサンドイッチを昼食の時のために買っていくことにした。
制服のポケットに500円玉を確認し、火の元を確認して家を出た。
今日は早めに出て高山に5日後試験について聞こうと思っていた。
その頃には今朝見た夢など忘れかけていた。
いつもの四つ角を通り、先に昨日の夕方に行ったコンビニエンスストアに寄って行くことにした。

サンドイッチとアイスレモンティーを手に取りすぐさまレジのほうで会計を済ませ、今日はクーラーの誘惑に負ける事なく勇敢にも外の空間に飛び出した。そして学校へと足を進めた。

いつも通る四つ角を曲がり警察署前を通り過ぎ宮内公園あたりを歩いていたところで、昨日図書館で偶然出会った立川奈津を目前にとらえた。声をかけようかとも思ったが特に話題が無いのでやめておいた。
何となく彼女の後ろ姿をみていたがそのうち奈津がこちらに気がついて友八の元へ走ってきた。

「友八くんおはよう」
「…ああ」

唐突に挨拶されたので少し戸惑ってしまった。

「友八くん5日後の試験大丈夫?」
「…ああ」
「友八くん今日出るの早いね…何かあったの?」
「…別に」
「………」

また二人は気まずい雰囲気になった。
昔は、よく二人で宮内公園とかで遊んでいたが、中学生になってからはそれぞれの友人たちと遊ぶようになり次第に会う回数が少なくなってしまった。
同じ高校になってからはほとんど遊ぶことはなく、一日2,3度程度会って挨拶やこんなぎくしゃくした会話を繰り広げる結果になった。

今思えばこうして奈津と一緒に登校するのは久しぶりだった。たまにはこういうのもいい。
しかし、肝心の奈津の方はというと、ずっと下を向いたまま会話もしない。気分が悪いとか機嫌が悪いとかそういったものではないようだった。むしろ少し顔が赤くなっているように見えた。

「おい、奈津・・・顔赤いぞ、何かあったのか?」
突然声をかけられた奈津は先ほどの友八よりもずっと驚いて、何もない道で転びそうになった。

「大丈夫か?」
「うん、だいじょうぶ・・・」

奈津は自分の腕が掴まれているような感覚がした。
見てみると転びそうになった奈津の腕を友八がしっかりと掴んでくれていたのだった。

「あっあ、あ、ありがとう友八くん」
奈津はさっきよりも顔をさらに赤くして慌ててお礼を言った。

「ならいいんだけど・・・」

そのまま奈津は学校に着くまでずっと頬を赤く染め、特に会話らしい会話をすることなく学校にたどり着いた。

「じゃあな奈津。さっきみたいにこけないように気をつけろよ・・・」
「うん、ありがとうね友八くん。じゃあ」
二人は下駄箱で別れ、別々の教室に向かった。


「おっす友八!」
教室に入ると元気なクラスメイトの男子が挨拶をしてきた。顔を見てみたがほとんどしゃべったことすらない見知らぬ男子だった。

(なんか軽いやつだな…)

心の中で文句を言った。

まだ少し時間が早いせいか教室にはあまり人がいない。せいぜい出された宿題を電光石火の早業で仕上げている男子と、小説を読みふけっている女子がいるぐらいだ。
暇なのでたまには奈津とおしゃべりしてみるのもいいかもしれない。
確か奈津の所属している科は戦術サポート科だったはずだ。

奈津の教室は三階にあり友八の教室の真上だ。荷物を机の横にかけて、教室を出てすぐの階段を2段とばしで上り、奈津の教室の前にきた。のぞいてみると奈津は教室にたった一人きりだった。窓に腰掛け朝のうちの涼しい風を受けていた。

「そんなところにいたら落ちるぞ」
「わっ」と奈津は驚いた表情を見せた。

「友八くん・・・もうっ、後ろから急に声かけないでよ」
「じゃあそんなとこに座ってるなよ、危ないだろ」
奈津は窓枠から降り友八の正面に立った。

「朝の風って気持ちいいでしょ?」
「そうか?」
「あ、そういえば昨日ちょっとおもしろい噂を聞いたんだ」
「…それで?」
「それが、今日友八くんの学科に転校生が来るんだって。知ってた?」

(転校生?そんな話高山からは聞いてなかったな)

「それは初耳だな」
二人が会話をしていると徐々に生徒が登校して来始めた。
教室の壁にかけられている時計を見るとすでに8時前になっていた。

(もう少しくらいならいいか…)

「それで?」
「えっ、それでって言われても」
「そういえば奈津の方は試験大丈夫なのか?」
昨日の夕方も今日の朝も聞いた質問を逆に友八に返されてしまった。

「えっとー、うん。あたしはたぶん大丈夫だと思う。昨日だって図書館に行って予習してたぐらいだからね。それに、実地試験の方は基本的に負傷した人の治療やサポートぐらいだから何とかなると思う。友八くんは?」

「俺も大丈夫だと思う。こっちは奈津のやる内容とは違うし、下手すれば大けがもするけど、なんか失敗する気がしないんだ」
「へぇー」と言った奈津は内心ほっとしていた。今は昨日も今朝のようにぎくしゃくした会話や気まずい沈黙は流れることなく話せている。奈津は少し昔に戻ったような気がした。何でもかんでも喋り明かした子供の頃のように。

「俺はそろそろ教室に帰るよ。じゃあまた後でな」
「うん。じゃあね」
友八は教室を出て、さっき上った階段を今度はゆっくりとした足取りで降りた。
 
8時20分頃友八が教室に戻るとすでに生徒は満員御礼で、クラスメイトの会話の端々から聞こえるのは「転校生」「女の子」という情報だけだった。どうやら噂は本当のようだ。
ドアの開く音とともに担任の米倉先生が入ってきた。どうやらいよいよ転校生の発表らしい。
生徒、主に男子の注目が集まった。少数の女子は相手にしない。

「みなさんにお知らせがあります。すでに知っていると思いますが、今日、このクラスに新しいメンバーが加わります。どうぞ入ってきてください。」
教室の入り口に目線が集まった。やっぱり男子の…

入ってきたのは、白いブラウス、膝下ぐらいまでの黒いスカート、腰のあたりまで届きそうなほど長く蒼い髪、背はそれほど高くはない女の子だった。
友八の席は窓際の一番後ろの列だったので顔はよく確認できなかったが女生徒であることは分かる。転校生の女の子は黒板に名前を書き始めた。

「今日からこの戦闘学科2年T組になりました朝倉 春華です。分からないことだらけですけど早くこのクラスに慣れていけるようにがんばりますのでよろしくお願いします。
あと、ゲーム全般大好きなのでみんなと一緒にやりたいです。」
朝倉が自己紹介を終えるとクラス中が沸き立った。やっぱり男子の…

正直珍しい転校生だった。

この学科は、ほとんど男所帯なので、女子が転校してくる事は稀だ。
さらに珍しい?のは、ゲームがとても好きという友八と共通の趣味を持っている事だ。
誰が何をしようと関係はないのだが友八の感覚で言うとむしろ親近感が沸いてくるのだ。

小学校6年生ぐらいのころ、奈津と家でゲームをしてみたが友八ばかりが勝ってしまい、奈津はあまりゲームを好まなくなった。
そのころから女の子はゲームが嫌いなんだという勝手な認識が出来上がってしまった。

(あの子、どんなゲームが得意なんだろ)

「席は・・・白石君の隣でいいわね・・・あそこの席に座ってね」
「はい先生」

転校生、朝倉春歌は米倉先生の言うままに友八の方へと歩み寄ってきた。
彼女は近くで見るとさらにかわいく見えた。とても高校生とは思えないほど綺麗な笑顔だった。

「よろしくね、白石君」
朝倉が話し掛けてきたのに気づくのが少し遅れた。

「ああ、よろしく」
よいしょと少しわざとらしい声を出しながらも隣の席に座った。

「さてと」担任の米倉先生が今日の連絡事項を伝えようとしていた。
「本日放課後、5日後の実地試験の予行練習のため訓練所を解放します。銃器は4番から6番
スウォードハンドガンの使用を認めます。これは強制ではありませんので、希望者だけ参加してくれればOKです。言うまでもない事ですが、銃器に装填する弾はゴム弾、あるいはセンサーゴム弾だけとします。何か質問はありますか?」

はい先生」早速朝倉が挙手した。

「その予行練習のタクティカルレベルを教えていただけますか?」
「えーと、このプランを見てみると、レベルは3~5までになっています。それが何か?」
「いえ、なんでもないです。少し気になったもので。」
「そう。ほかに質問は?」
ほかの生徒はまったくの無反応だった。

理由は満場一致、ただ単に、「面倒くさい」だ。

「特にないのなら今日の連絡事項は以上です。1限目は10分後です。遅れないように。」

それだけ言い残し米倉先生は教室を出た。・・・と同時に男子生徒が一斉に朝倉に寄ってきた。
人垣の中から聞こえてくるのは、好きなゲームは何かとか、家はどことか彼氏はいるのかと四方八方から質問攻めの嵐だった。
しかし朝倉はいやな顔一つせず一人一人の質問に答えてあげた。

10分たっても質問の嵐は止まらなかった。せいぜい変わったのは、質問をするのは男子ではなく今度は女子に変わったぐらいだ。隣に座っていた友八の耳にはその話は筒抜けだった。いちいち聞く手間が省けてある意味楽だった。
1限目の開始を告げるチャイムがなった。

ようやく質問攻めから開放された朝倉は疲れたように軽くため息をついていた。

(転校生ってのも大変なんだな・・・)

と友八は少し同情した。
何気なく朝倉の方を向くと隣の朝倉と目が合った。
朝倉は何も言うことは無くにっこりと綺麗な笑顔を見せた。
友八は特に表情を変えることなく顔を背けた。
1限目は護身基礎だ。

ドアを開けて入ってきたのはがっしりとした体格の男性教官だった。
顔を見ても名前さえ思い出せない。というより一人一人の教官の名前なんて覚えるのが馬鹿らしくなる。

いちいち覚える必要など無いのだから。

「それでは授業を始める。規律、礼、着席!」
本来週番の仕事である始業の挨拶は代わりに男性教官がした。


やる気が出ないな、まったく・・・
1限目の授業からすでに友八のやる気は退行していた。

1限目の授業を含め、午前中の授業は全てが座学だ。退屈なことこの上ない。
それでもこんな勉強を1年間必死で続けてきたのだ。いまさら苦痛などあまり感じなくなった。むしろもっと多くの知識や技術を得たいぐらいだった。
それが今の友八にとって唯一の目標だった。

「ねぇ、君の名前ってなんて言うのかな?さっき先生に聞いたけどちょっと分からなかったから・・・」
藪から棒に転校生の朝倉春華が身を乗り出して聞いてきた。

「俺は白石 友八。いちいち覚えなくてもいい。まあ、とにかくよろしく」
「うん。こちらこそよろしくね」

二人は軽く挨拶を交わし、机のテキストと黒板の文字とのにらめっこを始めた。

この学校の授業風景はなんともつまらないものだ。
ただひたすら黒板の文字をノートに書き取り、教官の延々と続く講義を聞き続けなければならない。
護身術の授業とはいっても所詮はただの座学。
たまの実習でようやく実際に体験してみる事が出来るのだ。

隣の朝倉の席の方から「あー」だの「うー」だののうめき声が聞こえる。
「どうした?」
気になりついつい小声で声をかけた。

「どうしたんだ?」
「ねぇ、難しくない?私全然わかんないんだけど・・・」
「適当に文字書いて静かにしてれば終わるさ。」
「うー・・・」
相変わらずうめき声は止まらなかった。

「そこっ、うるさいぞ!何か質問か?」
突然教官から注意が入った。

「あっ、何でもありません!」
「・・・・・・・」

朝倉はすぐさま謝ったが友八は無視した。
そのあとはいたって無事に授業は終了した。
そのあとの休み時間。

「あーびっくりした。あの先生ってすぐああやって怒るの?」
「知らない・・・だから静かにしてろって言ったのに」
「ごめん」

朝倉はしょぼんとした表情をした。

ふと彼女のノートを見てみると、ある程度は授業内容を書いてはいるが、重要なポイントは書かれていなかった。

「もしかして、ほんとに分からなかったのか?」
「うん、全然」
友八にしてみれば充分理解できる範囲内だったが、どうやらそうでもない人もいるらしい。
クラスの中には友人同士でノートの見せ合いなどがあちこちで見られた。

「まあ、いきなりは難しいかもな・・・俺のノート貸そうか?」
「えっいいの?どうもありがとう!」
友八はびっしりと内容がメモされたほぼ完璧なノートを朝倉に手渡した。
朝倉はその内容を手早く、かつ丁寧な字で写し始めた。

「綺麗な字だな・・・なんか習い事でもしてたのか?」
「うん。小さい頃ちょっとだけ習字を習ってたからかな」
「ふーん、どうりで・・・」

朝倉が写し終わったのはちょうど休み時間が終了した時だった。

「どうもありがとう白石くん。おかげで助かっちゃった」
「別に、このぐらいなら」
「さてと、気合入れなきゃね!」
小さい声で「ファイト!」という声が聞こえたのには思わず友八は少し吹き出しそうになった。

2限目、3限目と時間を重ねるごとに日差しはさらに強くなり、教室にいながら日光浴が出来てしまうのではないかというほどの直射日光と気温だった。
そのうえ友八の席は教室の最後列、おまけに窓際だ。直射日光が首筋に当たってジリジリと痛む。
しかも席替えは来学期までお預けだ。たまったものではない。

「・・・暑い・・・」
ついつい声に出して言った。
隣で朝倉がくすくすと笑っていた気がした。

授業が終わるとすぐさまカバンから冷却スプレーを取りだし、直射日光にやられた首筋をクールダウンしていた。
なぜか友八のすぐ横の窓にはカーテンがついていなかった。

絶対、善の奴にカーテンつけてもらおう。

と堅く心に誓った。
4限目開始の直後、あまりの暑さのため軽い日射病にかかったクラスメイトが保健室に運び込まれるというアクシデントが発生したため授業が10分ほど遅れた。

「大丈夫かなさっきの子・・・」
「すぐよくなるさ・・・ここじゃよくある事だ」
「そうなの?」
「ああ。前の基礎体術の実習中には3人ぐらい倒れたな、たしか・・・」
「・・・それほんと?」
「冗談だ」

二人の会話は小声のため、周りには聞こえなかった。
しかしやはり暑さから来る脱力感のため、数十分ほど経つと、冗談を言ったりおしゃべりをする気も起こらなかった。
結局そのまま会話をすることなく授業を終えた。

この日、この学校で日射病に倒れた生徒は8人にも及んだそうな・・・

(やっぱカーテンとか無いといつか死人がでるぞ・・・)
友八はぞっとするほどの危機感を覚えた。


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