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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] Garden 第7話
Name: デモア◆45e06a21 ID:64bf4932 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/21 18:36
『闇の書』、と呼ばれる魔導書がある。
さつき達の方の魔術とは違う、どちらかと言えばなのは達側の魔法の魔導書だ。
その書は又の名を旅する魔導書と呼ばれ、様々な世界の魔法をその身に記録することを目的とし、主が死ぬと次の主を求めて世界を超えて転移するという魔導書である。
その書は長い年月をかけ主を渡る毎に改変を加えられていった。
そして闇の書は今、長い長い旅路を得て、今はある少女の手の元に―――





◆◆◆◆◆







既に日は落ちて暗くなっている部屋を、八神はやては車椅子を漕いで進んでいた。
ここは彼女の自宅のリビングであり、一人であるが故か億劫なのか電気も付けずに部屋を横切ると、はやてはこちらも暗いままの廊下を進んだ。
彼女はそのまま寝室までたどり着くと、ため息を盛大に吐き出してベッドの上に身を落とす。

「はあーーー」

日は6月3日。その日は八神はやての誕生日の前日だった。後数時間もすれば彼女は9歳を迎えることになる。
しかし、家族も同居人も居ない彼女は家で祝ってくれる者など誰もいない。
はやての事情を知っている病院の担当の女先生からは、明日はどこかに食べに行こうかという誘いの電話が留守電に残されていたがはやては丁重に断るつもりでいた。
はやては枕に顔を埋めて腕で抱え込む。

「ぅーー」

実は、はやてには今年はかなり大きな期待があったのだ。
はやてはこの脚のせいで学校に通うことが出来ない。両親が居ればまだ話は違ったかも知れなかったが、一人暮らしの子供にそれは無理な話であった。
故にはやての義務教育は、今までもこれからもずっと通信教育によって行われている。
そしてこの年頃の子供が学校に行かないということはそれは、他者と繋がる機会がほぼ皆無であることを意味する。
無論、外出をしない訳ではないし図書館などははやてのお気に入りの場所だが、こんな小さな子供にそれで人との繋がりを作れるわけがない。
必然、友人が出来るはずもなく、そして家族も居ない。はやての誕生日を祝ってくれるような身近な存在は、誰も居なかった。
両親を亡くしてから数年、祝われることのなくなってしまった誕生日だったが、今年は例年とは違う要素があった。

奇跡的な――ずっと一人ぼっちの時を過ごしてきたはやてからすればそれは本当に奇跡的な、偶然の触れ合いから遂に出来た友達、月村すずか。
そして、半月程前にそのすずかから紹介される形で出会った、話にだけは聞いていた新しい少女達、アリサ・バニングスと高町なのは。

彼女達ならば、はやてが自分の誕生日と事情を打ち明ければ誕生日会の一つも開いてくれただろう。
だがすずか達が今年のはやての誕生日を祝ってくれることはない。なぜなら、彼女達ははやての誕生日を知らないのだから。

「ううー、わたしの莫迦莫迦莫迦ー」

もし脚を動かすことが出来ていたらバタバタさせて悔しがっていただろうか。
はやては怒ったような拗ねたような声で叫ぶ。こうして声に出していないと泣いてしまいそうだった。

切り出そうかと思ったことは、当然何度もあった。
しかしようやく、本当にようやくできた友達だ。
自分の誕生日の直前にそんなことを自分から切り出して、図々しい子とか思われたくなかった。
何度か会って、彼女達ならそんなこと気にもせずに笑顔で祝ってくれるだろうと思えたし、信頼していないわけでもないが、それでも怖かった。

それに、贅沢な話になってしまうが祝ってくれるとしたら、そこに同情や哀れみの感情を入れられるのは嫌だったのもある。
祝って欲しかったのを知られるのは別にいい。ただ、おめでとうという言葉だけは単純な気持ちで言って欲しかったのだ。

だからはやては待っていた。何かの拍子に自然に自分の誕生日を伝えることができる話題が出るのを。
しかし都合よくそんなのが話にのぼることもなく、日にちだけが過ぎてゆき、焦りと共に自分から切り出そうかと迷うも、結局そんな勇気も出ずに遂にこの日を迎えてしまった。

当日になって結局こんなに悔しがるのなら何で勇気を出して一歩踏み出すことをしなかったのだと、はやては自分に憤った。

「んーーー」

暫くベッドの上でうつぶせで唸りじっとしていたはやてだったが、しばらくして静かになると、はぁ、と全身から力を抜いて仰向けに寝転がった。
後暫く起きていれば時計の針は0時を回る。もうこのまま寝てしまおうかとも考えたがそうすると何か負けた気がして腹が立ったはやては手近にある本を読むことに決めた。
別に誕生日になるのを待つわけではない。逃げるように寝るのが癪なだけで本を読んでいて眠くなったらそのまま寝よう。
気が付いていたら誕生日を迎えていたという可能性が一番高いが、それが一番お似合いで都合もいいかも知れない。そう考えたはやては枕元に置いてあった本に手を伸ばす。
足が動かないというのはやはり不便なもので、こういう時に一々車椅子に乗って本を仕舞うのも一手間なため常に数冊は枕元に本が鎮座しているようになっていた。
枕元のスタンドライトに光を灯して、はやては本の世界に入っていった。







本を読み始めてどれくらい経ったころだろうか。ふとはやては、外界からの刺激によって本の世界から引き戻された。
はやてを連れ戻した犯人は何らかの光だ。暗い部屋の中、視界の端で紫色の光を感じたはやてはまず一応の心当たりである時間を確認する。
視線をそのまま上げてこちらも枕元に置かれている時計を確認すると、時刻は丁度0時。ある種の納得を覚えつつも首をかしげる。
いくら誕生日だからと言ってこの時間に反応するようなギミックやライトを仕掛けた覚えははやてには無かった。
次いではやては首を紫色の光の発生源の方へと向ける。そして目を見張った。

「な、何……!?」

はたして、光の発生源は勉強机の上からであった。正確には、机の本棚にたてかけてあった本のうちの一冊が自ら発光していた。
それはなんという怪現象か。当然、本というものは基本的に発光するものではない。
はやては思わずそれを凝視し、何が起こっているのか見極めようとする。それは特徴的な本だったため、すぐにそれがどの本なのか分かった。
それははやてが物心ついた時から持っていた本だった。とはいえそれ自体は別に珍しいことでもない。元々この家にあった本などいくらでもある。
ただその本は他の本とは一線を画していた。それは、赤茶色の表紙をし並以上に分厚いハードカバーのその本は太い鎖で十字に巻かれていたのだ。
不思議なことにその鎖を解くための錠も鍵もどこにも見当たらないため、はやてには開くことができなかった本だ。

はやてが目を見開く先で、鎖で巻かれた本が宙に浮く。光は強さを増し、なんと部屋が揺れだした。地震だろうか。だがタイミングとしてはあまりにも、だ。
立て続けに起こるポルターガイスト染みた現象に、はやてから引き攣った声が漏れる。

更に本は一人でに開き、まるで強風に吹かれているかのように、本のページが勢いよく捲れていく。勿論、別段窓を開けているわけでもないはやての部屋に風など吹いていない。

≪Ich hebe das Siegel auf(封印を解除します)≫

捲られていくページと共に、本から機械音のような音声が発せられる。
そしてそのページが最後まで達すると、本の表紙がはやてに向かって両側から勢いよく閉じる。

≪Anfang(起動)≫

謎の本より発せられる、再びの機械音。
それと共にはやては自分の胸元に何ともいえない違和感を感じる。自分の部屋で、そして自分の体に何が起こっているのか、恐怖と不安と共に彼女は視線を下げて――

はやては思わず小さな悲鳴をあげた。
はやての胸元が、小さく、しかし強く光を発していた。勿論寝巻きの下はそのまま素肌で、そのように光るようなものは何も持っていない。
何よりその光は、はやての体内から発せられているように感じられた。その小さな光は更にはやての胸元から抜け出してはやてと本の間に対空する。
本当は、思いっきり悲鳴を上げて泣き喚いてしまいたかった。もう頭の中を真っ白にして叫んでしまいたかった。
しかしそうするともうまともな思考が出来なくなってしまう。本格的なパニックに陥って何も見えなくなってしまうというのは、この状況ではやてにとって何よりも恐ろしいことだった。
だからはやては必死に耐えた。ことここに至っても、まだ叫びだすのを耐えていた。

次の瞬間、はやてから漏れ出た光が一際強い閃光を発した。
いきなり光が弾けたようなその閃光に、はやては思わず目を覆う。
幸いにして強い光はすぐに収まった気配を感じ、はやては何が起こっているのかと恐々と本が浮いていたところに視線を戻す。
いつの間にか部屋の揺れも収まっており、はやての目の前には変わらない様子で宙に浮いている本が一冊。特に変わった様子は見られなかった。

僅かな安堵と共に視線をふと外し……今度はあまりの驚愕と恐怖に悲鳴も出なかった。

なんとはやての眼前、ベッドの横に、突如として四つの人影が表れていたのだ。とても簡素な、体の動きを全く阻害しないであろう程に簡素な漆黒の布地を纏った四人組だ。
先ほどまでは確かに誰も居なかったし、そもそもこの家にははやて一人しか居ない。人が入ってきた物音らしきものもなかったはずだ。
見知らぬ人物が、それも集団でいきなり家の中に、それも自分の寝室に乗り込んでくるというだけでもかなりの恐怖だというのに、それが先程までの状況に続けて突如湧き出たように現れたとなれば尚更だ。
これが五体満足な人間だったとしたら暴れ、襲い掛かり、自衛のために動こうとすることで恐怖を誤魔化すこともできたがはやては脚が動かない。つまり……身動きがとれないも同然。
はやての喉から、悲鳴になり損なった息を呑む音が漏れ出た。
そして――

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら、闇の書の収集を行い、主を守る守護騎士にてございます」

「夜天の主の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター。――何なりと命令を」



「……ん」


≪ねえ、ちょっとちょっと≫

≪ヴィータちゃん、しっ≫

≪黙っていろ、主の前での無礼は許されん≫

≪無礼ってかさ、こいつ……気絶してるように見えるんだけど≫

≪!??≫

≪嘘!?≫










はやてが次に目を覚ましたのは、日が昇って明るい病室だった。
目が覚めて自分の部屋じゃなかったことには驚いたが、はやてはそこが通い慣れているいつもの病院であることに気付く。
記憶は朧げだが、こんな体だ、何かがあったのだろうとはやてはすぐに察した。何しろ彼女の脚はただ不自由なだけではない。
何らかの病らしく、脚の麻痺は今尚進行を続け、範囲を拡大し続けているのだ。更には原因も不明ときている。

「はやてちゃん、良かったわ何ともなくて」

と、はやては聞こえてきた聞き覚えのある声の方を向く。はやての担当をしている石田先生だ。
このタイミングでこんなところにいるということは起きるのを待っていてくれたのだろうか。

「えっと……、すんません」

思わず謝ってしまったはやての返事に石田先生がうふふ、と笑顔になると、はやてもそれに合わせてえへへ、と返した。
そして、石田先生は「で、」と前置きして真剣な表情になる。

「誰なの、あの人たちは?」

目が覚めて早々に真剣な顔で何事かを尋ねてくる石田先生に、はやては何のことかとその視線の先を追い――

「ん……? あっ!」

扉の付近で男性職員に囲まれているかの四人組の姿を見て、全て思い出した。





何とか乗り切ったと、はやては疲労と安堵でため息をついた。
ところ変わって今はやて達ははやての家に戻ってきている。はやて"達"というのは、例の4人組も一緒にという意味でだ。
石田先生の質問に、はやてが答えられる訳もなかった。はやて自身何がどうなって何が起こってこんな事態になっているのか今だに全く分かっていないのだから。

これが4人組が、まだ常識的な者達であればここまで気疲れはしなかっただろう。
何がいけなかったのか? 例えば石田先生曰く、

―― どういう人たちなの? 春先とはいえまだ寒いのに、はやてちゃんに上着もかけずに運び込んできて、
   変な恰好してるし、言ってることは訳わかんないし、どうも怪しいわ。

―― あー……、えっと……、その……何と言いましょうか……えっ、ぁぁ、……

そりゃ怪しむ。何か言いかけただけでも褒めて欲しいものだとはやては思った。
特に彼らの格好、これが致命的だろう。
先程も記述したが、彼らが纏っているのはただのシャツだ。それも漆黒無地の。
半袖を通り越してタートルネックだ。春先とはいえまだ寒いのに当時の時刻で深夜で。
最早タイツと言って差し支えないほどにボディラインがハッキリ浮き出る超薄手だ。大人の女性二人はそのたわわな胸が完全に強調されているし、男性の方も鍛え抜かれたのであろう胸板が浮き出ている。春先とはいえまだ寒いのに当時の時刻で深夜で。
下は女性は短いスカートだ。とても短いスカートだ。男性は……ここだけは幸いにも(?)くるぶしまであるズボンだった。ただし両者ともシャツと同じであろう素材で、当然のごとく漆黒無地の。
彼らの身につけているもの、以上。
それ以外には靴下と髪留め以外その1枚づつしか付けていなかった。
正直言ってありえない。もしはやてが運ばれているところを誰かに見られていたら人攫いと間違われること請け合いだ。
しかも一番小さい子の顔や腕の一部や服が何やら赤っぽい……見ようによっては血に見えなくもない色で汚れているし。

それ以上に異常なのが、男性の頭だった。いや頭がおかしい可能性は今現在かなり高いが、そうではなく頭の上にあるものだった。
暗がりの中では寝癖かヘアースタイルか何かにしか見えなかったが、明るいところで見ると誤魔化しようもなくとても立派な犬耳がその頭上から突き出していた。
何なのだこの人達は。

そんな彼らが何故はやてと一緒に彼女の家に戻ってきたのかというと、庇ったのだ。はやてが彼らを。
何故そんなことをしたのか。寝室での異常で異様な事態ならともかく、あの場は石田先生を始めその他男性医師が何人も居る明るい場所で、安心できる場所だったということ。
彼らはどうやら自分を病院まで運んでくれたようで、自分に危害が加えられた様子も無かったこと。
これらの要素で一先ずの安心と冷静さを取り戻したはやては、事態を大きく、騒ぎにすることに対する恐怖心とそもそも何をどう言えばいいのか分からないという状況から戸惑っていた。
その時、聞こえてきたのだ。はやての頭の中に直接、『声』が。

―― ≪御命令を頂ければ御力になれますが、いかがいたしましょう≫

―― へ……? ふぇ……!?

―― ≪思念通話です。心で、ご命令を念じていただければ≫

相変わらず頭の中に直接響いてくる『声』だったが、自然とはやてにはそれが4人組の中のピンク色の髪をした女性のものだと分かる。
はやてはその時思わず「こ・・」と口に出しそうになったのをこらえ、そして決断したのだ。

とにかくこの場だけも何とか誤魔化して乗り切ろう、と。

その後のことは言うだけなら簡単だ。
はやてはその『声』に言われた通りに心で念じることで『話を合わせてくれ』とお願いをし、石田先生には彼らは自分の親戚だと説明したのだ。

―― 遠くの祖国から、あたしの誕生日をお祝いに来てくれたんですよ。
   そんで、ビックリさせようと仮装までしてくれてたのに、わたしがそれにビックリしすぎてもうたというか、その……そんな感じで。

信じてもらえるなどと全く思っていない言い方であった。更に悲惨だったのがその後で、進退窮まったはやてが4人組みに同意を求めたところ、大人の女性2人が反応してくれたのだが、

―― そうなんですよ。

―― その通りです。

棒読みだった。無表情だった。
はやては最早引きつった愛想笑いでその場を流すしかなかった。何の騒ぎにもならずに家に戻ってこれたのが奇跡のようだ。

「で、や」

はやては車椅子の上で一冊の本を膝の上に置き、彼らと対面した。
病院からわざわざ石田先生が送ってくれた車の中でも、石田先生がはやてを抱っこして家に入る間も、まるで護衛でもするかのようにはやての四方を固めていたその四人は今現在綺麗に整列してはやての前で片膝をついて頭を垂れている。
帰る時に物凄く不安そうだった石田先生の顔が印象に新しい。
一先ず全員の自己紹介までは終わっていた。

まずはピンク色の長髪をポニーテールで腰よりも下まで伸ばしている女性。名前はシグナム。病室ではやてに心の中で語りかけてきた本人であり、4人の中でリーダー的存在らしい。
外見年齢は大体20歳といったところ、そしてスタイルがハンパなくいい。決して細身という意味でなくスラッとした体型で、胸がとてもでかい。
まだ子供なため仕方ないが胸のないはやてからすれば後述するシャマルと合わせておお、と感心するものがあった。
平均的ではあるが細身の顔に、キリッとした目が特徴的だ。

続いてシャマル。こちらは金髪を首のところで切ってある女性で、こちらも外見年齢は大体20歳ほどだろう。
4人の中では比較的おっとりとした感じをしているが、それでも引き締まった空気を身に纏っている。
そしてこちらもスタイルが物凄くいい。シグナムよりも若干背が低く、またあそこまでスラッとはしていないが平均的な体つきに、同じくらいの大きさの胸を持っている。

次はヴィータ。4人の中であからさまに子供な外見なのがこの娘だ。下手するとはやてよりも幼いのではなかろうか。
腰まで届く紅い髪は長くて太い三つ編みのツインテールにしており、体型は特に特筆することもない幼児体型。
だがその顔にはシグナム以上に鋭い瞳を貼り付けている、とても気の強そうな娘だ。

最後にザフィーラ。唯一の男性で、長くはない白髪の中から犬耳が生えている。
他4人は女性ということもあってか色白だったが、彼は褐色の肌をしており、筋骨隆々でかつ背がとっても高い。
病院でも他の男性の職員よりも頭半分は抜けていた。

四人を見回して、はやては口を開く。

「この子が闇の書ゆう名前なんは分かったけど、わたしはそれ以外なんも分かっとらん。
 できれば1から説明してくれへんやろか」

はやての膝の上にある本は、昨晩いきなり発光した後数々の怪現象を引き起こした原因と見られる例の本だった。
僅かな沈黙の後、頭を上げたのはシャマルだった。

「では、私が」

そう前置きをし、シャマルはまずはやてに、この世界に魔法は無いということと異世界の存在を知らないことを確認して、はやてはそれを肯定する。
そうして、シャマルは昨晩起こったことについてと、自分達の存在について話を始めた。
その話によってはやてが分かったことは、以下の通り。

魔法というものは実在する。
この世界以外にも世界は沢山あり、魔法が当たり前の世界もいくつもある。
闇の書はそういった世界の産物であり、所謂魔導書というものにあたる。
闇の書は魔導書の中でも特殊なもので、その機能は魔法の蒐集。今は白紙だが、他人の魔力を奪うことでその者の魔法を集め、記憶することでページが埋まってゆく。
闇の書は魔導書の中でもかなり強力なもので、666のページが埋まると過去蒐集した魔法も全て使用可能となり、何でも願いが叶うと言われるほどに強力な力を得ることができる。
何故そんなものをはやてが持っていたのかというと、それは闇の書のもう一つの特性である"前の主が死ぬと新たな主を求めて、資質のある者のところへ世界を超えてランダムに転移する"というもののためである。
つまりはやては闇の書に新たな主として選ばれたというのだ。
そしてこの4人は闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターと言うらしく、闇の書の一部と言っていい存在で闇の書の主の剣となり盾となり手足となって働く者達だという。
昨日の出来事は、はやての中で眠っていた魔導師としての資質か闇の書の方かのどちらかが覚醒したことによって起こったのだろうということだ。

「覚醒の時と眠っている間に、闇の書の『声』を聞きませんでしたか?」

そう尋ねるシャマルに、はやては戸棚をごそごそとまさぐりながら返事した。

「うーん、わたし魔法使いとちゃうから漠然とやったけど……あ、あった」

そう言ってはやては何かを取り出すと、それを手に今だ膝を付く四人のところへ戻る。

「分かったことが一つある。闇の書の主として、守護騎士みんなの衣食住、きっちり面倒見なあかんゆうことや。
 幸い住むとこあるし、料理は得意や。みんなのお洋服買うてくるから、サイズ測らせてや」

手に持った巻尺を両手に伸ばして、どこか嬉しそうにはやては言った。







全員のサイズを計り終え、はやてがさぁ買いに行くぞとなったところでまたしても問題が起こった。
なんと、ナチュラルに守護騎士の四人まで付いていこうとしたのだ。

「せやからあかんって、そんなかっこで外歩かせられへんよ」

はやての言葉に四人は顔を見合わせる。何故あかんなのか分かっていない。

「しかしお一人では危険です。
 主は『吸血鬼』と称される輩をご存知ですか」

「いや、吸血鬼って……もう朝も結構過ぎとるしお外明るいし。
 というよりそっちの世界にはそんなもんもおるんか」

「! ご存知でしたか」

「んー、多分シグナムの言うとるのとは別物やけどな。
 一応この世界にも吸血鬼はあるよ。人の血い吸って殺してまうようって。
 でもわたしらの世界ではお話ん中の存在やなぁ。それにこっちのは日の光の下にも出られんしな」

はやては心配はいらないということをアピールするために言葉を選ぶ。

「皆大げさに心配しすぎやって。
 皆が今までどんなことをしていたのかは大体想像できるけど、この世界はそんな危険なことあらへんよ?」

先程のシャマルからの説明から、闇の書の機能の一つである魔力の蒐集、これは相手から"奪い取る"というニュアンスが含まれていた。
更に言うと、剣となり盾となり、主人を守るという戦闘能力も有するらしい4人もの従者。明らかに主人の身の回りの世話をするなどというのが目的の存在ではないだろう。
剣と魔法と忠義の騎士のバトルファンタジー、細部は違うかも知れないが、それは本の大好きな少女であるはやてにとって慣れ親しんだものであった。
だからはやても、彼女達が自分を心配する理由を分かるつもりでいた。

「ですが、万一ということもあります。主を守るのが我々守護騎士のつとめですので」

しかしそれとこれとは話が別である。真顔で食い下がるシグナムにはやては頭をかかえる。

だがシグナム達の方にもそれ以上に譲れない理由があった。鍵となるのは先程シグナムが口にした『吸血鬼』である。
実は、シグナム達は既に戦っているのだ。その吸血鬼と。正確にはヴィータが、だが。彼女の体に付いている赤い塗料は紛れもなく血であった。それもその吸血鬼の返り血だ。
昨晩、守護騎士達が気絶したはやてを病院へ運ぶ途中に『吸血鬼』を名乗る者に襲撃されているのである。
ちなみに守護騎士達は知る由もないがその吸血鬼の名前は弓塚さつきという。
そう、なんとあの時さつきの遭遇したヴォルケンリッターが行っていたことは人攫いではなかったのだった。

暫くの沈黙の後、ザフィーラが口を開いた。

「主よ、ではこの姿ならいかがか」

その声にはやてがザフィーラに目を向けると、彼の体が白く光を発する。
はやてが驚く間もなく、ザフィーラの姿は見る間に変わってゆき、そこに現れたのは青と白の見事な毛並を持つ一頭の大型犬だった。

「うわぁ! すごいやん!」

その姿にはやては大喜びだ。ザフィーラに近くに寄らせて頭を撫でたり大きな首周りを抱きしめて頬ずりしたりフサフサの毛並を堪能したりと嫌がる様子のないザフィーラに割とやりたい放題だった。
暫くそうしてザフィーラで遊んでいたはやてだったが一旦満足してザフィーラから離れるとうーんとうなり声を一つ。

「そのかっこなら付いて来てええけど、でもお店には入れへんで? お店の外で待っててもらわんと」

「それは困ります」

どうやら犬になっても喋ることが出来るらしい。
とはいえそう言われてもはやても困る。どうしたものかと四人を見回して……

「そや! ヴィータならわたしの服貸してあげれば一緒に行けるで!」

「……えっ」

その言葉に、どこか普段以上にむすっとした顔をしていたヴィータは目を丸くした。

「ああ、その前にその汚れ落とさんとあかんね。刺青やお化粧とちゃうよね?
 んじゃあお風呂で洗ってあげるから一緒においで」

「……えっ、えっ!?」

更に丸くした。









結局、ザフィーラは付いて来れなかった。タクシーを呼んだのである。
誰か1人でも付いていければ満足だったらしく、3人は納得して家に残っている。

「ありがとうございますー」

「はいはい、脚降ろすよー」

運転手のおじさんにお礼を言いながら、はやては車椅子に座らせてもらった。

「買い物の方は大丈夫かい?」

「はい、この子もおるんでー」

そうして後ろに付いている取っ手を握って車椅子の向きをデパートの入口への経路へさりげなく向けなおしながら聞いてきてくれる気のいいおじさんに、はやてはヴィータへと視線を向けながら返す。

「そうかい。帰りもタクシー使うんだろう? 待っていようか?」

「ええんですか!? おんなの買い物は長いですよー。
 実際長くなる思いますし」

「はっは、タクシーの運転手なんて仕事は暇な時間が多くてねぇ、折角のお客様はきっちり確保しておかないと」

「ほんならお願いしますー。ありがとうございます」

そう言って、行くよヴィータ、とはやては車椅子を漕ぎだした。はい、と返事をしてその横にヴィータが付いた。
タクシーの中では運転手のおじさんが居たため特に話もなかったが、今なら気兼ねなく色々と話を切り出すことができる。

「ごめんなヴィータ。その服嫌やったか?」

はやては気付いていた。タクシーの中でヴィータが服の裾をつまんだり視線を落としたり腕を少し上げてみたりとソワソワしていたことに。
だからはやては心配したのだが。

「えっ!? いえ! そんな嫌だなんなんて!!」

「そなん? それならええんやけど」

なんか噛んでた。
とはいえその様子から本当に嫌がっている訳ではないみたいなのではやてはそのまま車椅子を進める。

「……あの」

「ん? なーにヴィータ」

「その椅子、後ろから押せるようになってるみたいですけど」

「うん、なっとるよ。
 あっ、押してみたい? でもちょっと取っ手が高いとこにあるからちと難しいんやないかな」

「見くびらないでください。

 ……押せって命令はしないんですか」

「そんななー、確かにわたしは皆の主や。なんやそういうことらしいしな。
 でもせやかといってあれやれこれやれ命令なんてせえへんよ」

「………」

黙ってしまったヴィータに、はやては失礼なことだったかなとふと心配になる。
話によると彼女等は闇の書の主に仕えるための存在だ。つまり自分が言ったことは彼女達そのものの否定となってしまったのではないかと。
でもやっぱりそういうのは嫌だ。だって折角の……

「楽しそうですね」

デパートの中に入り、エレベーターまでの通路を通る最中に、ヴィータが言った。

「あ、分かる?」

ヴィータに振り向いての笑顔でのはやての問いかけに、ヴィータははやての顔をちらりと見て、また前を向いて、

「はい」

頷いた。
それにはやてはさてどう言おうかと口元に人差し指をやって視線を上にやり、少しして、少し勇気を出して、決めた。

「わたしな、独りなんよ」

はやての声に、ヴィータの目が再びはやてを向く。

「家族がだーれもおらんでな、あのお家にはわたし以外住んどらん。
 だからな、わたし嬉しいんよ。こんな素敵な誕生日プレゼント貰えて。皆、ずっとわたしと一緒に居てくれるんやろ? ……家族みたいに」

これを言うのはちょっと怖かった。もしここで、自分達はそういうのとは違う、みたいなことを言われたらはやては少なからず落ち込む自信があった。
だがそれよりも、嬉しさと期待の方がはるかに上回っていた。

「せやからな、ヴィータも、もっと砕けた話し方してくれてええんやで?」

「………」

またもや沈黙してしまったヴィータに、はやてに失敗してしまったかなと不安がよぎる。
少しするとヴィータが車椅子の後ろに回って取っ手に手をかけた。すわ自分達はあくまであなたの道具だとでもいう意思表示かとはやては気落ちしかけるが、

「進む方向言ってってくれ。その……、はやて」

「!! うん! ありがとな!」







―― ヴィータ、これなんかどうや?

―― い、いえ、はやてのお好きな……好きなように選んでくれ

―― 駄ー目ーやー。わたしが着るもんやなくてヴィータの着る服なんやからヴィータが気に入らんと
   ほらほら、こっちもかわいい思うんやけど、どっちがええ?

―― え、えーっと、どっちも

―― どっちがええ?

―― ……その2つなら、こっちで

―― よし! ほらヴィータも自分で気に入った服選んで持って来ぃーや

―― え、いや、それで十分

―― そんなんわたしが許さへんでー。女の子なんやからお洋服も気ぃ使わんと

―― それじゃあ、選んでくる










あとがき

実はこういうことだったんです! 今明かされる驚愕の真実!

分かってる。こんだけの内容とかふざけんなってのは分かってる。
という訳で明日か明後日にもう1話出します。

服選ぶシーンとか僕の描写力が足らんくて無理だったもんでこういう切り方せんとあかんかったから仕方なかったんよ!


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