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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] Garden 第4話
Name: デモア◆45e06a21 ID:697ce29c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/15 02:22
もう夏に入ろうかという時期のそれなりに高い気温の中、なのは達は放課中の学校の教室で、いつもの3人で集まっていた。そんな中、一つの噂話が話に上がった。

「そう言えばすずか達は聞いた? あの事件のこと」

そう切り出したのはアリサ。それになのは達は軽く首を傾げる。

「事件?」

なのははそう聞き返すが、しかしすずかには何か思い当たる出来事があったようで、首を傾げた後もしかして、と言葉を続けた。

「あ、私知ってるかも。今日朝お姉ちゃんやノエルさんが少し慌しそうに何か調べてたよ」

「あ、それならなのはも。今日お兄ちゃん朝家に居なくて、何か調べに出てるって」

すずかの言葉になのはの方も思い出すことがあり、もしかして関係があるのかと口に出す。

「忍さんや恭也さんが調べてるのがそれかは分からないけれど、昨日の夜にまた変な事件があったらしいのよ」

そうして、アリサはその事件とやらの噂を語った。

「聞いた話になるんだけど、住宅街の道路や壁が酷く破壊されていたらしいわ。
 車の交通事故にしては痕が大きすぎるし、大きな血の痕もあるらしくて何かの事故があったんじゃないかって言われてるらしいの。
 でもね、道路を破壊した何かってのは見つからないし、事件の痕からしてかなり大きな怪我してる筈なのにその怪我人もどこにも見当たらないんだって」

「なんか……怖い……」

アリサとしては、ただの妙な、ちょっとばかりホラーチックな噂話程度のつもりだったのだろう。
恐らくその期待通りにすずかが両手を胸の前で握り締めて身を竦ませるのを見て、ふふんと満足げに鼻を鳴らしている。
だがしかし、一方のなのははその話を聞いて何かが引っかかった。難しい顔して少しばかり考え込む。
そして数瞬後、体に衝撃が走るような感覚と共にある予感に思い至った。
普通の世界で不可思議と言われる出来事、なら、"隠されている世界"について何かしら関わりがあるかも知れない。もしかしたら、さつきの関わる世界の情報に抵触できるかも知れない。
期待に思わず胸の内が震える。

話の流れに合わせて、興味を引かれたかのようになのはは切り出した。

「アリサちゃん、それってどこで起きた事件か知ってる?」










その日の放課後、なのは達三人組は噂の事件現場へと足を運んでいた。
その場所は帰宅路から外れてるどころか結構な遠出になるのだが、歩いていけない距離ではない。
質問の意を問い返されたなのはが見に行くつもりであるということを臭わせた結果、なら折角だから皆で行ってみようという話になったのだ。

「あ、あそこみたいね」

いつものように談笑しながら暫く歩き、漸く目的の場所が見えてきたようだ。人だかりとまではなっていないものの、ちらほらと人が集まっている。
事件当初からこれだけ経った今になってもまだ警察の捜査が続いているのだろうか、何やら立ち入り禁止のようなロープ的なものも見えた。
それを見たなのははアリサ達の意識がそちらに向いたのを見計らって、さりげなく両手を後ろ手に組むと、右手の人差し指と中指をピンと立てる。
操るのは魔力。自身のリンカーコアを通して手繰り寄せた魔力を、その指先で形にする。
生み出されたピンク色の光を放つサーチャーを、なのはは手早く上空へと退避させた。

「ん? どうしたのなのは?」

急に黙り、気持ち少し後ろへと下がってしまったなのはにアリサが問いかける。

「何でもないよ」

なのははそう返し、手は後ろに組んだまま上体を気持ち前かがみにして足早に歩いて歩調を合わせた。
と、そのに時なのははあるものに気付く。

(ん、何だろこれ)

目線が下に寄ったため目に止まった、その道のアスファルト上に点在する、黒いシミ。そこら辺にある汚れと同じように見えるが、同じようなものが結構大量に、規則性もなく付いているとなると少し目に止まる。
とは言ってもたかが道路のシミ、その時はただ目に付いただけで終わった。
そんなうちに彼女達はロープの前まで辿り着く。
流石に道路を完全に封鎖することはもうやってないらしく、何らかの痕があるような部分が立ち入り禁止にされているようだ。

「うわ、予想以上に凄いわねこれ。何したらこんなことになるのよ」

ロープで囲まれている中には、無残に破壊されたアスファルトと塀が見える。塀は一部が完全に崩れ去っており、アスファルトに至ってはクレーターのようなものまで出来ていた。
一部ブルーシートがかけられている場所があるが何だろうか。

「何か、爆発でもしたのかな……? でも、壊れてるとこ、2つある……」

破壊痕はモロに露出しており、それを隠すつもりで置いてある訳ではなさそうだ。

「見て思い出したけど、塀や道路が破壊されてて原因も不明って、似たようなこと前もあったわよね。ほら、動物病院の」

なのははサーチャーをアリサ達と周囲の人々の視界から隠すように移動させると、ブルーシートの隙間から中に潜り込ませた。

「あの時の方が被害の規模も範囲も大きかったと思うけど、こっちの方が大きな話になってるのは、こっちはそれに加えて……そう言えば――」

(?)

サーチャーからの視覚情報を受信しながら、なのはは疑問を持つ。別段変わったところはありそうになかった。
破壊痕はシートの中にまで続いていたが、それはシートの外側にも大きく露見している。しかし目立つものと言えばそれだけだ。
アスファルトには先程見たような黒いシミが、今まであったものよりもかなり大きく見られるのでもしかしたらと思わなくもないが、しかしたかがアスファルトのシミ――

「――血の痕っての見えないわね。あのシートの下かしら」

(!!?)

アリサの言葉に、なのははその可能性に行き着き、まさかと驚愕した。シミとして見ていたから何の感慨も浮かばなかったが、これが血の痕だとしたら……大きすぎる。
ここだけではない。今まで自分達が通って来ていた道にもそれはあったのだ。血生臭いことに関しての知識など殆ど無いなのはだが、それでも明らかに致死量なのは察することができる。

「アリサちゃん、多分あそこら辺にある黒いシミだと思う。血って赤いイメージあるけど、渇くと黒くなるから」

すずかのその言葉に、数瞬後その意を理解しさしものアリサも顔を青くする。シートの下に隠されたもの以外でも、それは十分に多い量だった。

「え、嘘、それじゃ、これ」

アリサはシートの下から伸びる黒いシミの痕を目で追い、自分が今まで歩いていた道にも目を向けた。
なのはも自身の推論が裏づけされたことで更なる恐怖を覚える。腹の底に冷たいものが広がっていくかのような感覚。

この時、3人の脳裏によぎったのは怪我人は未だに行方不明という情報。
アリサとすずかはそれに、そんな馬鹿なという思いや生理的な恐怖心、はたまた誘拐でもされたのかという推論等が生まれる。
だがなのはの内に生まれたのはそれだけではなかった。原因不明の破壊痕、消えた怪我人。思わずその現場に目が釘付けになる。
思い出す、日常から見れば異常であるこの破壊痕、しかしそれを一人で成し得る人物が居なかったか?
思い出す、明らかに致死量の出血、しかし彼女もあの時、自分達の砲撃に直撃して死んじゃうんじゃないかという怪我を負っていた。
思い出すまでもない。

「――さつき、ちゃん?」

思わず零れた彼女の名前。口に出して、更にその確信を深める。
以前サーチャーで調べ回った時は影も形も無かった筈、未熟だったのか探し方が悪かったのか、何時の間にか戻ってきていたのか。
彼女ではないにしても、彼女達――吸血鬼関係の事件であるには違いない、そうである筈だとなのはは確信した。



いきなり呟かれた誰かの名前に、アリサとすずかがなのはの方に視線を向けて首を傾げる。気付いたなのはは笑ってそれに何でもないと返した。

しかし、それで流すことが出来ない者がそこに居た。アリサだ。
実は動物病院のことを持ち出した当たりで、彼女もとある可能性に行き当たり内心穏やかではなかったのだ。

動物病院の事件、それはなのは達がフェレットのユーノと出合った日の夜、そのユーノを預けていた病院で起こったものだ。
今回は怪我人が居るらしいことを除けば、かなり類似している今回の事件。
なのはには今だ『諦めてない』誰かがいて、そして、こんな凄惨な事件現場を見てなのはから呟かれた、誰かの名前。

アリサの中で、例の推論が渦を巻く。――でもそれは、"そっち"の方は、もう終わったのではなかったのか。
あの時の、なのはの"しまった"とでもいうような顔が思い浮かぶ。――まさか、本当に?
もしそうなら、なのはは自分に『気付かれた』と思っているだろう。――これは、賭けだ。

確かめなければならないと思った。機会は今しかないと思った。
確かめて、どっちに転んでも何になる訳でもないだろう。どっちに転んだところで自分に出来ることなんて何もないだろう。
それでも、そんな理屈などではなくどうしようもなく確かめたかった。

その時アリサが振り絞った勇気は、いかほどのものであっただろうか。出所の分からない恐怖を押し込め、それを気取られないよう気を奮い立たせ、彼女はなのはに尋ねた。

「なのは、もしかしてあんたまだあんな危険なことしてるの?」

その答えがイエスでもノーでも、『あんな危険なこと』の存在を認めるような返答が来ればあれは現実だったということになる。逆にこの質問の意図をなのはが理解できなければ……。
問われたなのはは驚いた顔をする。
しかしそれも僅かな間、真面目なアリサの顔を見て、なのはも表情を引き締めて向き直った。

……その時点で、答えは決まったようなものだった。
諦めにも似た感情が、アリサの中に生まれる。――なら、あれは、あの夢は。

「……うん」

返って来たのは、その返答と首肯。――夢では、なかった。
自分の言っている『あんな危険なこと』をなのはが何か別のことと勘違いしているかも知れないとか、そんな無様な悪あがきはする気も起きなかった。

「………」

待っても、それ以上の言葉は出てこなくって。

「……そう」

アリサも、そう返すことしか出来なかった。





なのはとしても、あれが精一杯の返答だった。
謝るのは、何かが違うと思った。別にそこまで危険なわけじゃないよと、弁明するのも駄目な気がした。
ならば1から説明するのは、あまりに大回り過ぎて今このタイミングでは言い訳しているように感じられた。しかし要点だけ説明して誤解なく理解してもらえるほど常識的な話でもない。
取れた選択肢は、この時のなのはなりの誠意の表し方は、尋ねられた事柄に対しての返答を嘘偽りないように正直かつ簡潔に返すこと以外になかった。

全てを話すには、一旦仕切りなおした上での何かしらの切欠が必要だった。

(フェイトちゃんが来たら、一緒に……)

その考えが逃げであると、その時のなのはは気づいていなかった。







「あっ」

不意にすずかの声が上がる。なのはとアリサの間の会話が止まった後の空気を察して、何か話題を変えるものはないかと周囲を見回していた時、それが来たのだ。
すずかにとっては見慣れた、1台の車。なのは達のはるか後方で停車したそれから、2人の人影が降りてきた。
その人影がこちらに近づいてくる間に、向こうもこちらに気付く。

「お姉ちゃん」

「え、――あ、お兄ちゃんも」

その人影とは、忍と恭也の2人組であった。すずかの声に反応して視線を向けたなのはも、その姿を確認する。

「なのはじゃないか。それに、すずかちゃんとアリサちゃんまで」

「こんにちは2人共。もう、こんなところで何やってるのよ」

「こんにちは」「ご無沙汰してます」

「わ、私達は、噂になってた事件現場を見に、その……野次馬で」

呆れたような声を上げる忍に、すずかが説明する。言葉を選んだせいで若干弁明臭くなってしまっていた。

「お兄ちゃん達も学校からの帰り?」

「いや、俺らは一回忍の家に行って、そっから送ってきてもらったんだ」

と、そこでなのは達を見回していた恭也はアリサに視線を止めて、ん、と声を上げた。

「どうしたんだいアリサちゃん、難しい顔して」

普段ならば、恭也はその程度のことで一々踏み込んだりはしない。
しかし恭也も、詳しくは知らないまでもビデオレターの件でアリサ達に何かあったことは聞き及んでいた。それ故の反応だった。
だがそれに返されたアリサの反応は、素っ気無いものだった。

「いえ、何でもないです。あの、では私はこれで失礼します」

「えっ」「!」

アリサのいきなりの言葉に、すずかが声を上げる。なのはも慌てたようにアリサの方へ振り向き、しかしそこで止まってしまった。
彼女達のそんな様子を見て、恭也達はまた何か複雑なことになっているみたいだと把握する。

「いいのかい? 俺が言うのもおかしいけど、一緒に送ってって貰えば……」

「いえいいです、ちょっと一人で考えたいこともあるので。では。
 じゃあなのはもすずかも、また明日ね」

続く恭也の提案も断ると、アリサはまるですずかとなのはの動揺を見なかったかのように話を続け、別れの言葉を投げかけて本当にそのまま来た道を歩いて戻ってしまった。

「あっアリサちゃん! ――お姉ちゃん、私も一人で帰るね。
 なのはちゃん、また明日!」

すずかが呼び止めるように声をかけるもアリサは手を振り返すだけで止まらない。
すずかは少しの間なのはを見つめるも、なのははそれに気付いておきながらすずかを見つめ返したりアリサの背中に視線を向けたり下を向いたりと特にリアクションを起こす様子は無い。
それを確認したすずかはそれだけ言ってアリサの後を追って行った。別になのはに呆れたとか怒ったとか、そういう訳ではなく、ただ単純に今はアリサの方が心配なのだ。
それを分かっているなのはは、しかし力なくすずかに手を振って別れの言葉を返した。

「うん、また明日。アリサちゃんにも、また明日って言っておいて」

既に駆け出していたすずかは一旦止まって振り返り、笑顔でそれに頷いた。任せといてとで言いたげで、なのはにはそれがとてつもなく頼もしく思えた。










道を戻りながら、アリサは携帯を取り出した。もし手が空いていれば鮫島に家まで送ってもらおうという心づもりである。
ならば何故恭也の誘いを蹴ったのか、それは先程も言った通り一人で考えを纏めたかったというのもあるが、それより何より……

――あ、私知ってるかも。今日朝お姉ちゃんやノエルさんが少し慌しそうに何か調べてたよ

――あ、それならなのはも。今日お兄ちゃん朝家に居なくて、何か調べに出てるって

今回の事件に、探し人の影を見たらしきなのは。そしてその事件の現場に一緒に現れた、何らかの調べ物をしていた2人。
もしかしたら、あそこに自分が居ると邪魔かも知れない。アリサは目頭に熱いものがこみ上げて来るのを感じた。
悔しかった、自分の無力さが。自分が無力なばっかりに、なのはには気を使われ、自分は自分に憤り、勝手に空回りしている。
何か、何か自分にも胸を張って役に立てると言えることがあればと思わずにはいられなかった。

(……。違う、そうじゃない……)

そうだ、今考えなきゃいけないことは、そんな自分勝手なことじゃなくて。

(私があの時会ったのは、フェイトって娘で間違いない筈。そうじゃないとあの時のなのはの反応も説明が付かない。
 なのはは『ただいま』『もう、どこにも行ったりしない』って、そう言った。それになのははもうフェイトって娘と友達。でも、なら……)

一つ一つ、確認していくように考えを纏めるアリサの耳に、背後からの足音が届いた。

「アリサちゃん」

すずかの声だ。

「どうしたのよすずか」

掛けられた声に、アリサは振り向く。すずかはその瞳が潤んでいたことに僅かに不意を突かれたようだが、そのままアリサの隣を歩き始めた。

「一緒に送ってもらえばよかったのに」

「いいの。今はアリサちゃんと一緒に帰りたいから」

まるで拗ねたように言うアリサの言葉に、すずかは笑顔で返す。それにアリサはため息をついたが、傍目には嬉しげなのは本人は気付いていない。

「ちょっと待ってね。今鮫島に連絡取るから」

言って、アリサは鮫島に電話を入れた。どうやら向こうの都合とは上手いこと噛み合ったようで(本当はどうかしらないが)、帰路の途中で拾ってくれるようだ。
アリサが携帯を仕舞っても、少しの間2人は無言で歩いていた。
口火を切ったのは、すずかだった。

「原因は、『あんな危険なこと』?」

「……うん」

この質問は、こんな返答が聞きたくてした訳ではないだろう。
その証拠に、すずかはアリサが返答を返してもそれ以上の言葉を返してこなかった。
彼女は、とっかかりを作ってくれたのだ。

(多分、今なのはが直面してる問題は、私が巻き込まれたのとはまた別なんだ。
 よく分からないけど、どっか別のとこに行っちゃったりしないような。
 それでも危ないことには変わりない、そうじゃなきゃ話してくれる筈だし、それに……)

今回の現場には、人の血が流れている。

「……止める、べきなのかな」

「……そんなに、危ないの?」

あの状況、あのタイミングでアリサが切り出した時点で、すずかにもあの現場が何か関係しているのだろうと察することは難しくない。

アリサはそれに、暫し黙る。直接の返答など出来るわけもなく、沈黙を肯定として話を続ける。

「大変なことなんだろうなってことは、分かってたつもりだった。
 でも、それでもまさかあんな……もし……」

もし、あの血痕の主がなのはだったら。あり得ない話ではないのだろう。

不安と、恐怖と、憤りと。そんな感情が入り混じって顔を歪めているアリサを見て、すずかは思案する。
恐らく、アリサはなのはの行っていることをかなり正確に掴んでいるのだろう。
その上でこのような言葉ばかり出てくるということは、本当にアリサには手の出しようがないのだろう。だから、自分の無力を嘆いている。
こないだ話したように、実際には関われなくともなのはを支えてあげる方向で行こうとか、そういう話ではないのだ。
見守るべきか、止めなきゃいけないのではないのか。そのレベルの葛藤になってしまった。

「……なのはちゃん、優しいから」

「………」

「だから、色んなことがほっとけないし、悩みも一人で抱えちゃうんだよね」

「……そんなこと、分かってる」

そこまで危険なことなら、問答無用で止めるように言えばいいのだ。
それで悩むということは、まぁ、これはすずかにも分かる。

「止めたとしても、止まってくれるとは思えないんだ」

「だって、なのはだし」

「頑固だもんねぇなのはちゃん」

なのはがいかに真剣にこの件に向かい合っているのかは知っている。
他の人間を危険に晒すならいざ知らず、自身が危険に身を置くことについて悩んだりしていないのが目に見えるようだ。
恐怖心を抱く姿が思い浮かばない、という訳ではない。ただ、彼女ならその恐怖心さえ乗り越えて自分の信じる結果のために突き進むような気がしてしまう。

「全く、人の気も知らないで。こっちの気持ちも少しは考えなさいっての」

「あの様子からしてある程度は察してると思うけどなぁ……」

「余計悪いわよ!」

二人して目を合わせてクスリと笑い、しかしまたアリサは難しい顔になって会話は途切れてしまった。
軽々しく『こうしたらどうだろう』などと言える話ではないのだ。
そんなアリサの視線の外で、柔らかい笑顔を浮かべていたすずかの表情が真剣なものに変わる。

本当は、内心穏やかではないのはすずかもなのだ。
勿論すずかも、あそこにあの2人で来るとなると事件について調べているのではないかということは当然察する。
いやむしろ、アリサよりもなのはよりも、一番それを確信したのはすずかだ。前者2人は疑惑だったが、すずかは完全に確信していた。
何と言ってもすずかは夜の一族の一員である。そして忍の彼氏である恭也が、その秘密を共有し契約を結んだ人物だと知っている。
その2人共が朝方調べものをしていて、2人揃って事件現場に来たのだ。何かあるのは確実だし、あの尋常ならざる事件の傷跡。
もしかしたら……と、勘ぐるなという方が無理であった。そしてもしそれが当たっていてしまったら、そしてもしそれに本当になのはが関わっているのだとしたら。

すずかの胸中に冷たいものが走り、こみ上げる感情に体が震える。
この恐怖は、なのはが危険に身を晒していることが確定することへの恐怖か、それとも……。
すずかは頭を振って"それ"を追い払う。

(これは、私も……ううん、私が。
 もしなのはちゃんが、本当に私達の関係のことで危険なことに巻き込まれてるとしたら……)

自分の都合なんかで、手をこまねいていることなんてできなかった。
しかしそれでも、やっぱり、体の小さな震えは止まらなかった。アリサもすずかの様子には気付いているだろうが、直前の会話の内容が内容だっただけに助かった。
やはり怖いのだ。自分が今まで目を背け続けていたことに目を向けるのは。
しかもそれに自分の大切な友達が関わっているかも知れないということは、つまりすずかの秘密がバレてしまう可能性も高いだろう。それを確認するのが。
すずかは小さな手をギュッと握る。
それでも、踏み込まないわけにはいかなかった。

2人並んでそのまま歩いていると、アリサが唐突に口を開いた。

「……ありがと」

「え?」

「ちょっと、楽になった」

確かに何も進展はしていない。解決策の1つも見つかっていない。
しかし何も進展はしていなくとも、心の内で溜め込んで渦巻いて悶々としている中で、口に出して放出できるというだけでアリサにとって救いになっていた。

彼女達の前方から、見慣れた車が現れたのが見えた。










事件現場で分かれたアリサとすずかが行ってしまうと、恭也はなのはに尋ねた。

「いいのか?」

「うん……」

なのはは沈んではいるもののはっきりとした声で答えた。
ショックではあったが、納得はしているのだ。
アリサは一人で考えたいことがあると言った。いきなりあんなことを暴露されれば、そりゃ気持ちを整理する必要もあるだろう。アリサがなのはに怒っている様子ではなかったのが救いだった。
アリサの動揺の原因であるなのはが付いて行くのはよろしくないということは、なのはも判断できた。

なのはは気持ちを切り替える。アリサのことよりも大切という訳では断じてないが、今どうにもならない事に気を向けているよりは優先すべきことが目の前にあった。
アリサの推察と同じことを、なのはも気付いていた。つまり、この2人はこの事件について何か調べているのではないかということである。

「お兄ちゃん達は、何をしに来たの?」

「ん、いや、ちょっとな。噂の事件現場が少し気になって」

返ってきたのは当たり障りのない応え。しかしこれで本当にこの現場が目的の遭遇だと確認できた。
と同時に疑問も沸き起こる。もし本当に彼らが事件を調査しているのなら、そもそも何故彼らはこの事件について探りを入れているのか。
なのはは自分の周りに『普通でない』ものの影があったかと思考を巡らす。

なのはの家は武術を営んでいる。なのはは詳しくは知らないが御神流という剣術で、しかし道場を開いて周囲に教えている訳ではなく、その鍛錬を行っているのはその家の者だけ。
運動神経の切れていたなのは以外の恭也と美由希が今は伝承者で、その動きは素人目のなのはから見たから人間離れしているように見えるのかも知れなくとも普通の人間相手にそんな動きが必要なのかというレベルで結構凄い。
今までなのはは『そういうもの』として大して気にしていなかった。しかしもしあれに"使いどころ"があるのならという見方をした時、あの動きは"非常識"にも思えてくる。

そしてもう1つ、そこから連動して思い起こされるのは、彼女の父、高町士郎のこと。
御神流を修めているのは当然士郎もで、そして彼は昔"お仕事"で大怪我を負っている。
忘れるわけもない、なのはが長らく一人ぼっちになってしまう切欠になったあの事件。高町家が喫茶店を開いたばかりの時分、もう一つの仕事で起こった事件。お仕事の内容はなのはは教えて貰えなかったが、ここまで考えるとどれか一つは非常識なことに片足ぐらいは突っ込んでいてもおかしくない気がする。

どちらにしても、確かめる価値はあると思った。

「ねぇお兄ちゃん、『吸血鬼』って知ってる?」

『そっち側』が関わっていると確信した事件。もし覚えがあるのであれば、このタイミングで何も知らない筈の自分が唐突にこの単語を出せば反応せざるを得ないだろう。
逆に当たり障りのない返答だったり問い詰められたりしなければ白となる。そう思ってのカマかけだ。

効果は覿面だった。

なのはの言葉に二人は驚いた顔をし、思わずと言った風に顔を見合わせる。
なのはもそれには驚きを隠せなかった。まさかこんな身近なところにそんな世界への手がかりがあったなんて。

しばし視線を交し合った2人は、お互いに真剣な表情になってなのはに向き直った。
そして忍が進み出ると、屈みこんで目線をなのはに合わし、両肩を掴んでなのはの顔を覗き込む。

「すずかから聞いたの?」

なのはは怖いくらい真面目な顔で目を合わせられながらの詰問に慄き、暫し何を言われたのか分からなかった。

「えっ……、すずか、ちゃん?」

復唱し、内容を理解するも今度は意図が理解できない。何故そこで彼女の名前が出てくるのか。もしかして彼女も何か知っている一人なのか。
そんな彼女の様子に、忍の肩から緊張が抜けていく。ほっとなのはから視線を外すと肩にかけていた手を離し、恭也のところへと戻って二人で内緒話を始めた。

そんな彼らの様子に思うところが無い訳ではないが、そのうちにとなのはも自分の心を落ち着かせる。
そして心の中でガッツポーズを取った。やっと、前進したと。そしてさつきのことを思い浮かべて……

(――あっ)

フラッシュバックするのは、最後の光景――座り込む少女と、俯かれる顔。
思い出すのは、先日の出来事――気付かされた、自分の心の弱さ。

少しの間話し合っていた恭也と忍が再度なのはの方へ視線を向けたため、なのはも意識をこちらに引き戻す。
すると今度は恭也がなのはに尋ねてきた。

「誰かに何か言われたのか? その、『吸血鬼』について」

どうやらなのはの質問への返答は後回しにされたか無視されたか忘れ去られたかしたらしい。

「え、えっと……うん……」

「どんな奴だったか教えてくれないか」

なのははどう答えるべきかと悩んだ。
恭也達がどの程度まで知っているのかなのはは知らない。
もし余計なことを言って関わるはずのなかったことに巻き込んでしまったら、それは自分のせいだという思いがなのはを躊躇わせた。
しかしこんな答えられなければおかしいような質問に黙っているわけにはいかない。

「茶髪の、ロングヘアーの女の子。私と同じくらいの年の……」

「それって、髪を頭の上の両側でツインテールにしてたりしなかった?」

「え、う、うん……」

その答えに、恭也と美由希が驚愕に再度顔を見合わせる。もっと細部も聞き出そうとして続けた言葉に、まさか肯定されるとは思っていなかったのだ。
なのはもその2人の反応と表情、間に流れた空気からしてその少女についても何かしらの心当たりがあると察して、心臓がドキリと飛び跳ねた。










なのはは自室のベッドにパジャマ姿で腰掛けていた。顔は俯いてその目は閉じられており、しかし寝ているのではなく真剣な顔で何かに集中している。
日は既に落ちており、外はもう暗い時間帯だ。

「んっ、」

と、なのはが僅かに呻きをあげて閉じていた目を開いた。と共に、夜の街に散っていた数個のサーチャーが消える。
数瞬、そのまま俯いたままだった彼女は、盛大なため息と共にコテンとベッドに横になった。

「はぁぁ~」

あの後、なのはは恭也と忍からの少しばかりの質問に答え、なのはの質問はその少女に聞かれたことをふと思い出して言ってみただけだという位置に落ち着いた。
恭也達の知っていることについて、なのははあれ以上は訊かなかった。今の自分がさつきに近づいても、半端な気持ちのまま接してしまうと思い知らされたばかりなのだ。
そこら辺の覚悟も決められないまま、これ以上踏み込んではいけないと思った。踏み出すのは、それからでも遅くはないだろう。手がかりがここにあるのならば、それは逃げることはしないのだから。
とは言え、そこら辺の気持ちを整理するにはまず今まで以上に『吸血鬼』についての知識を得なければならない筈なのだが、あの時のなのはには何故か、それすらも訊くことはできなかった。

そのくせ今の自分は一体何をやっているのかとなのはは自分に呆れる。何を自分は未練がましいことをやっているのだろう。
それに今回は見つからなかったものの、もし今の捜索で彼女が見つかっていれば自分はおそらく堪えきれずに飛んでいっていただろうということもなのはは予想できた。

だが彼女はやはり気になってしまったのだ。さつきの姿が。吸血鬼の関係で起こったと思われる事件、その凄惨たる現場を見て、本当に彼女が無事なのかとも。
さつきが今だ無事であっても、あのような事態になるようなことが起こっているのなら、これから先もさつきが無事である保障がないという怖れもある。
しかしそれならば、このようなことをしているのではなくさっさと恭也達に吸血鬼について尋ねるべきなのだ。
そもそも本当にあの事件に関わっている吸血鬼が弓塚さつきなのかも分かっていないのだし、それ以前にこんな不確実で時間もかかる方法なんかよりももっと確実だ。

「何をやってるんだろうなぁ、私」

なのはは手元にあった枕を手繰り寄せてきゅっと抱きしめる。
確かに、どうやって彼らを余計なことに巻き込むことのないようにしながらも吸血鬼について尋ねるかという問題もあるにはある。
だがしかし、そういう話ではなくそもそもなのは自身が彼らにその事について尋ねようという気持ちを、何故だか持てないのだった。

街中で吸血鬼について訊いて周る人物達が現れる、前日のことであった。










あとがき

さっちんって何だっけ(←
まさか本当にフラグだったとはこの作者にも(ry
おかしい、こんな筈じゃ……

本当はもっとささっと上げたかったのですがここら辺で少しでもミスるとその後は収拾つかずにバッドエンド一直線になってしまうので慎重にならざるを得ないんですごめんなさい。

なのはがヘタレモード入りましたはい。完全に大ダメージ受けちゃえばその不屈の精神で復活したのでしょうが迷いレベルでウジウジしてるのでこりゃ何かきっかけが無けりゃ無理ですね。


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